特許第5765516号(P5765516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765516
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】黒色磁性酸化鉄粒子粉末
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/08 20060101AFI20150730BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20150730BHJP
   G03G 9/083 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C01G49/08 A
   C01G49/08 B
   H01F1/11 S
   H01F1/11 Q
   G03G9/08 301
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2010-83727(P2010-83727)
(22)【出願日】2010年3月31日
(65)【公開番号】特開2010-254562(P2010-254562A)
(43)【公開日】2010年11月11日
【審査請求日】2013年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2009-88150(P2009-88150)
(32)【優先日】2009年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩井 亮
(72)【発明者】
【氏名】神垣 守
(72)【発明者】
【氏名】志茂 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−344527(JP,A)
【文献】 特開2002−308629(JP,A)
【文献】 特開平09−241025(JP,A)
【文献】 特開2006−193364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G49/00−49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、Si換算でFeに対して0.3〜3.0原子%のケイ素を含有し、黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子形状が球状を基本として粒子表面に角張った突起を有しており、該粉末を錠剤成形したときの錠剤の交流電場における電気抵抗値が、特性周波数領域で2×10Ωcm以上のインピーダンスを生じることを特徴とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末。
【請求項2】
全Fe量に対してFe2+を17wt%以上含有する請求項1記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末。
【請求項3】
マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における特性周波数が50Hz以上かつ1500Hz以下の周波数帯に存在する請求項1又は2記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末。
【請求項4】
マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における特性周波数でのリアクタンス成分が3×10Ωcm以上である請求項1〜3のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末。
【請求項5】
マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における周波数−リアクタンス成分プロット(Bode線図)におけるバルクに起因するリアクタンス曲線のピークの半値全幅が周波数Hzの対数標記で3以下のピークを与える請求項1〜4のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末。
【請求項6】
平均粒子径が0.05〜0.50μmである請求項1〜5のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンスが高い黒色磁性酸化鉄粒子粉末を提供することを目的とする。特に、本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末をトナー粒子中に顔料として使用する場合には、交流電場内でのトナー粒子の挙動を制御するプロセスにおいて、黒色磁性酸化鉄粒子粉末のインピーダンスが高いことによってトナーの帯電性及び帯電維持性を良好にし、トナーの帯電性能を向上させることができ、その画像濃度維持性が高いトナーが得られる。
【背景技術】
【0002】
静電潜像現像法の一つとして、キャリアを使用せずに結着樹脂中にマグネタイト粒子粉末等の磁性粒子粉末を混合分散させた複合体粒子を現像剤として用いる所謂「一成分系磁性トナー」による現像法が広く知られ、汎用されている。
【0003】
近時、静電複写機器及び印刷機器利用のグローバルな展開に伴い、現像剤である磁性トナーの特性向上、即ち、高温多湿、低温低湿などのいかなる環境下においても安定した現像性能が得られる環境安定性に優れた磁性トナーが強く要求されている。
【0004】
磁性トナーは、主として磁性粒子と結着樹脂とからなり、磁性粒子はトナー粒子中に均一に分散されてなる。このトナーを使用するときの装置内部での電場環境はトナーメーカーやコピー機・プリンター・複合機など現像マシンメーカーによって各社様々である。黒色磁性粒子を現像材の顔料成分として用いるのは主として磁性一成分系であり、このカテゴリーの現像機内部で最も重要となるのは、約百ガウスから数千ガウスの現像スリーブ上に形成されたトナー薄層から、感光体表面に微細に形成された静電印字部へと移動するトナー粒子の挙動を制御してトナー粒子を静電潜像部位に忠実に移動せしめることにあり、これによってかぶり・濃度不足・画像欠陥・濃度ムラなどの現像不具合が無く、いわゆる細線再現性および階調性に優れた良好な画像を得ることができる。
【0005】
トナー粒子(またはトナー粒子塊)が現像スリーブ上から感光体表面へ移動する際、トナー粒子には、磁力(現像剤粒子中の顔料とスリーブ磁極の間に働く)と静電引力(摩擦帯電された現像剤粒子表面と感光体ドラム表面の静電潜像の間に働く)の二つの力が働いている。
【0006】
即ち、トナー粒子の挙動の制御とは、トナー粒子の摩擦帯電過程に始まり、スリーブ表面脱離過程を経てさらには感光体表面の静電潜像部への到達までの過程での、トナー粒子表面の静電気量(帯電量)とトナー粒子のもつ磁力とのバランスを保ちつつトナー粒子の挙動を制御することをさす。
【0007】
まず、そのための前提として、個々のトナー粒子が持つ表面電位(帯電量)と磁力が均一であることが望ましい。
【0008】
磁力の観点からは、個々のトナー粒子中に含有される磁性体の量が均一であることが重要である。同時に、トナー粒子中に均一に分散され、トナー粒子表面からは脱離しないことが望ましい。
【0009】
一方、帯電量の観点からは、トナー粒子が帯電しにくい高温高湿環境下においても、トナー粒子が摩擦帯電によって即座に所望の表面電位にまで均一に帯電し、これを維持できることが望まれる。
【0010】
トナー粒子表面には磁性体粒子が露出しており、その磁性体粒子はトナーの他の構成成分の中でも電気を流しやすい半導体の性質をもつので帯電した表面電位を大気中へ逃がす、いわゆるリークサイトとして働いている。
【0011】
従って、最も重要な課題は、高温高湿環境下において、均一な帯電量をトナー表面で維持することであり、表面に露出した磁性体が電荷のリークサイトとして働くことで帯電の均一性が得られにくい状態とならないような、電気抵抗値の高い磁性体が強く望まれている。
【0012】
上述の様に、トナー粒子が現像スリーブ上から感光体表面へ移動する際、トナー粒子には、磁力と静電引力の二つの力が働いている。
まず、現像剤粒子は磁力場が支配するスリーブ表面から極小粒子塊として上述の二つの力が働く空間へと脱離しなければならない。
【0013】
このとき脱離の推進力としてバイアス電圧が印加される。このバイアスは通常直流バイアスと交流バイアスが重畳されている。一般にこの電圧は、感光体ドラム表面の潜像以外の部分より低い電圧である。
【0014】
また、このバイアス電圧は、トナー粒子塊がスリーブから脱離し、感光体表面の静電潜像部へと移動する際の空間でのトナー粒子の挙動を制御するためにも用いられる。
その周波数の設定はマシンの設計によって様々であるが数10Hzから20kHz程度である。
【0015】
印加バイアスの周波数は、高すぎるとトナー粒子がその変動に追従できなくなるため、トナー粒子の動きとつりあった周波数となるように設計されている。
【0016】
この電場において、トナー表面の電荷がリークせず均一に帯電したままの状態を維持する為には、トナー粒子表面に露出した磁性体の電気抵抗値が高いことが望ましいが、そこでの議論は、直流抵抗値の観点のみでは不十分であり、交流バイアス空間における電気抵抗値、即ちインピーダンスによって議論されるべきである。
【0017】
これまでインピーダンスが高い酸化物の研究は数多くなされてきた。例えば誘電体に代表される酸化チタンやチタン酸化合物等。また、高インピーダンスの特徴をもつ酸化物磁性体に関しては電波吸収体・高周波用磁気コア・ソフトフェライトセラミックス分野における検討がなされている。
【0018】
マグネタイトは基本的に半導体材料であり、その電導過程はFe2+とFe3+との間でのホッピング電導であるといわれている。
【0019】
故に過去に発明者らは抵抗値を高くする目的から、マグネタイト粒子表面に誘電体材料成分を表面処理したり、Fe2+成分を他の元素に置換したり、マグネタイト粒子表面を酸化することによってFe2+をFe3+としたり、マグネタイト粒子の粒子内部または表面近傍をZnフィライトなどの構造に近づけるといった試みをしてきた。
【0020】
しかしながら、マグネタイト粒子への微粒子成分の表面処理では粒子の表面積が大きくなり、吸湿性が増すので望ましくない。また、Fe2+を減少させたり、他の金属元素と置換することはマグネタイト本来の特徴である高黒色度を維持できないことが知見された。さらには重金属元素をマグネタイト中に含有せしめることは環境配慮の観点から望ましくない。
【0021】
そこで本発明者らは鋭意検討の結果、黒色度が高く、安全な元素によって構成されたインピーダンスの高い黒色磁性材料を開発するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平9−241025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
トナー粒子のインピーダンスを高め、表面に露出した磁性体がトナー表面の電荷を逃がしてしまうことなく、均一な帯電性が得られることから静電潜像現像において高解像度の画質が得られる磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、現在最も要求されているところであるが、このような磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末は未だ提供されていない。
【0024】
即ち、前出特許文献1に記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、トナー表面からの磁性体の脱離を防止することを目的として設計された、粒子表面に粒状の突起物を有するものであるが、インピーダンスが低いものである。
【0025】
そこで、本発明は、黒色度の高い高インピーダンスの黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、トナーにしたときの高温高湿環境下での帯電性能が良好であって、均一な帯電性が得られることから静電潜像現像において高解像度の画質が得られ、なおかつ重金属元素を極力使用しない磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末並びに該黒色磁性酸化鉄粒子粉末を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0027】
即ち、本発明は、マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を錠剤成形したときの錠剤の交流電場における電気抵抗値が、特性周波数領域で2×10Ωcm以上のインピーダンスを生じることを特徴とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明1)。
【0028】
また、本発明は、全Fe量に対してFe2+を17wt%以上含有する本発明1記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末であるである(本発明2)。
【0029】
また、本発明は、マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における特性周波数が50Hz以上かつ1500Hz以下の周波数帯に存在する本発明1又は2記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明3)。
【0030】
また、本発明は、マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における特性周波数でのリアクタンス成分が3×10Ωcm以上である本発明1〜3のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明4)。
【0031】
また、本発明は、マグネタイトを主成分とする黒色磁性酸化鉄粒子粉末であって、該粉末を圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における周波数−リアクタンス成分プロット(Bode線図)におけるバルクに起因するリアクタンス曲線のピークの半値全幅が周波数Hzの対数標記で3以下のピークを与える本発明1〜4のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明5)。
【0032】
また、本発明は、平均粒子径が0.05〜0.50μmである本発明1〜5のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明6)。
【0033】
また、本発明は、Si換算でFeに対して0.3〜3.0原子%のケイ素を含有することを特徴とする本発明1〜6のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明7)。
【0034】
また、本発明は、粒子形状が球状を基本として粒子表面に角張った突起を有することを特徴とする本発明1〜7のいずれかに記載の黒色磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明8)。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、インピーダンスが高いことによってトナーの帯電性及び帯電維持性を良好にし、トナーの帯電性能を向上させることができ、その画像濃度維持性が高いトナーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子の形態を拡大して模型的にした概念説明図である。
図2】実施例1で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(×50000)である。
図3】実施例1で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末のNyquistプロット(Rs−X)である(○:実施例、×:比較例)。
図4】実施例1で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末のBode線図(周波数f−X)である(○:実施例、×:比較例)。
図5】実施例2で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(×50000)である。
図6】比較例1で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(×50000)である。
図7】比較例3で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(×50000)である。
図8】比較例5で得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(×50000)である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0038】
先ず、本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末について述べる。
【0039】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、組成的にはマグネタイト粒子((FeO)x・Fe、0<x≦1)からなる。
【0040】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、Fe2+含有量が黒色磁性酸化鉄粒子全重量に対して17重量%以上が好ましい。17重量%未満の場合には、赤味が増し黒色度に劣るものとなり黒色顔料として有用でない。25重量%を越える場合には、高黒色度で高磁化値のものとなるが、粒子表面が酸化されやすく環境不安定なものとなる。より好ましいFe2+含有量は17.5〜25重量%である。
【0041】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤状(ペレット状)に成形したときの錠剤の交流電場における電気抵抗値が、特性周波数領域で2×10Ωcm以上である。交流電場における電気抵抗値が2×10Ωcm未満の場合、電流が流れやすいことから電荷を逃がしやすく、高温高湿環境下での帯電性能が劣るものとなる。より好ましくは4×10Ωcm以上であり、更により好ましくは5×10〜7×10Ωcmである。7×10Ωcmを超える場合には帯電性能は向上するものの、現像機の種類によってはかぶりを生じやすくなり今回の課題とは別に低温低湿環境下での環境安定性が劣ることがある。
【0042】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における特性周波数が50Hz以上かつ1500Hz以下の周波数帯に存在することが好ましい。交流電場における特性周波数が前記範囲外の場合、誘電性が高すぎるかまたはインピーダンスが低すぎていずれもトナー用黒色顔料として好ましくない。より好ましくは100〜1300Hzであり、更により好ましくは120〜1000Hzである。
【0043】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、圧縮密度が2.3〜2.9g/cmの錠剤に成形したときの錠剤の交流電場における特性周波数でのリアクタンス成分が3×10Ωcm以上であることが好ましい。交流電場における特性周波数でのリアクタンス成分が3×10Ωcm未満の場合、ガウス平面におけるベクトルとしてのインピーダンスが結果的に低くなり好ましくない。またナイキストプロットの半円のつぶれが大きいことによるリアクタンス低下は異なる導電過程を複数含んでいることを意味する場合があり、特に強い凝集体間の空隙率が大きいことによる場合には磁性体の均一な分散にも大きな悪影響を与えるので好ましくない。より好ましくは4×10Ωcm以上であり、更により好ましくは4×10〜5×10Ωcmである。
【0044】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子形状は、球状を基本とし角張った突起を有する粒子であることが好ましい。粒子形状が球状である場合には、トナー粒子からの脱落を抑制することができないだけでなく、インピーダンスが低く、トナー粒子表面の電荷が保持できない。粒子表面の突起物が丸い突起物である場合には、トナー粒子表面からの脱離は抑制されるものの、インピーダンスが低く、トナー粒子表面の電荷が保持できないだけでなく、トナー表面に露出する磁性体表面の面積が大きくなり、帯電性能がさらに低下する。
【0045】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末を構成する粒子は、投影図上で粒子表面上に凸状突起物を2〜30個、好ましくは4〜20個有するものである。粒子形状が、従来よく知られている球状、八面体、六面体若しくは多面体等の場合には、インピーダンスが低く、電荷が保持できないうえ、トナー粒子表面に露出した時に脱落し易い。前記突起物の数が2未満の場合は、トナー粒子表面からの脱落防止の効果が少ないものとなる。30個を越える場合には、トナー粒子表面において樹脂との接触部分は多くなるが、一つ一つの突起物が小さくなり、十分な脱落防止の効果が得られない。
【0046】
本発明における角張った突起物とは、以下の条件を満たすものである。即ち、黒色磁性酸化鉄粒子の投影図(透過型電子顕微鏡写真等)上において、
(1)突起物の両端がともに凹状であること。
(2)凸部分(突起部分)が角張っていること。
(3)突起物の両辺の延長線上の交点でなす角(a)、突起物の両端と突起物を成す辺との角(b)について、以下を満足すること。
i)a<90°
ii)90°<b<180°
【0047】
前記(1)及び(2)については、前記投影図(透過型電子顕微鏡写真等)上において目視により判定する。前記(3)については、前記投影図(透過型電子顕微鏡写真等)における黒色磁性酸化鉄粒子の粒子表面上にある突起物のそれぞれについて角度を計測して適合するか否かを判定する。
【0048】
なお、図1は、前記(1)〜(3)の条件を満たす黒色磁性酸化鉄粒子の形態を拡大して模型的に示した概念説明図であり、前記(1)における「両端がともに凹状」とは矢印Aで示した部分を指し、前記(2)における「凸部分が角張っている」とは矢印Bで示した部分を指し、前記(3)における「突起物の両辺の延長線上の交点でなす角(a)、突起物の両端と突起物を成す辺との角(b)」は、同図中のa、bである。
【0049】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、球状を基本とし粒子表面に角張った突起物を2〜30個有する黒色磁性酸化鉄粒子を、個数割合で60%以上、好ましくは70%以上含んでいる粒子粉末である。個数割合が60%未満の場合には、トナーとしたときにトナー粒子表面からの脱落防止の効果が少ないものとなる。なお、ここで角張った突起物とは、前記(1)乃至(3)の条件を満たすものをいう。
【0050】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、平均粒子径が0.05〜0.50μmが好ましい。平均粒子径が0.05μm未満の場合には、単位容積中の粒子が多くなり過ぎ、粒子間の接点数が増えるために、粉体層間の付着力が大きくなり、磁性トナーとする場合に、結着樹脂中への分散性が悪くなる。0.50μmを越える場合には、一個のトナー粒子中に含まれる黒色磁性酸化鉄粒子の個数が少なくなり、各トナー粒子について黒色磁性酸化鉄粒子の分布に偏りが生じ、その結果、トナーの帯電の均一性が損なわれる。黒色磁性酸化鉄粒子平均粒子径はより好ましくは0.10〜0.30μmである。
【0051】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、BET比表面積が3〜30m/gが好ましく、より好ましくは5〜20m/gである。BET比表面積が3m/g未満の場合、平均粒子径が0.50μmを超え、上記記載のように、トナー粒子とした場合にトナーの帯電の均一性が損なわれるとともに、着色力が小さくなり高解像度のトナーを得られない。BET比表面積が30m/gを超える場合、黒色磁性酸化鉄粒子の吸湿性が高くなり、結果として電気伝導度が高くなり、トナー粒子とした場合にトナーの帯電性能を悪化させる。
【0052】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、SiをFeに対し0.3〜3.0原子%、好ましくは0.6〜2.7原子%含有している。Siの含有量が0.3原子%未満の場合には、表面に含有するSiが少なくなるため流動性に劣るものとなる。3.0原子%を超える場合には、含有するケイ素の量が増加するため、吸湿性が高くなり、トナーとした場合、トナーの環境安定性に影響を及ぼす場合がある。また、黒色磁性酸化鉄粒子粉末とは別に単独で存在するSiが、均一な帯電を阻害し、帯電安定性を劣化させる場合がある。
【0053】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子表面に存在するSi含有量は、Feに対して0.05〜1.0原子%が好ましく、より好ましくは0.08〜0.80原子%である。0.05原子%未満の場合には、トナーとしたときに良好な流動性が得られない。1.0原子%を越える場合には、吸湿性が高くなり、トナーとした場合、トナーの環境安定性に影響を及ぼす場合がある。
【0054】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、Al、Ti、Mg、S、Na、P、Ca、Ba、Srから選ばれる1種又は2種以上の元素を、Feに対して0〜10.0原子%含有してもよい。前記元素を含有することで、耐熱性が向上する。
【0055】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、飽和磁化値が80〜92Am/kg(80〜92emu/g)が好ましく、より好ましくは82〜90Am/kg(82〜90emu/g)である。92Am/kg(92emu/g)の値はマグネタイトの理論値であり、これを越える場合はない。80Am/kg(80emu/g)未満の場合には、粒子中のFe2+量が減少するため赤色味を帯びてくるので磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末として好ましくない。
【0056】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、流動性の指数である圧縮度が50以下、好ましくは45以下であり、流動性の良好なものである。
【0057】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、帯電量が0〜−60μC/g、好ましくは−2〜−50μC/gである。
【0058】
次に、本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末の製造法について述べる。
【0059】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、第一鉄塩水溶液と該第一鉄塩水溶液中の第一鉄塩に対し0.80〜0.99当量のアルカリ水溶液とを反応させて得られた水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩反応水溶液を70〜100℃の温度範囲に加熱しながら酸素含有ガスを通気してマグネタイト種晶粒子を生成させる第一段反応と、該第一段反応終了後の残存Fe2+に対し1.00当量以上のアルカリ水溶液を添加し、70〜100℃の温度範囲に加熱しながら酸素含有ガスを通気して前記マグネタイト種晶粒子を成長反応させる第二段反応との二段階反応からなる黒色磁性酸化鉄粒子粉末の製造法において、前記第一段反応において水可溶性ケイ酸塩を添加し、前前記第一段反応中のpHを7.0〜8.5の範囲とし、且つ、前記第二段反応開始前に第一段反応のFeに対し1.0〜30.0原子%の第一鉄塩溶液を添加して得ることができる。
【0060】
本発明の第一段反応における第一鉄塩水溶液としては、硫酸第一鉄水溶液や、塩化第一鉄水溶液等がある。
【0061】
本発明におけるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸アルカリ水溶液及びアンモニア水等を使用することができる。
【0062】
前記第一段反応においてpH調整前に使用するアルカリ水溶液の量は、第一鉄塩水溶液中のFe2+に対して0.80〜0.99当量である。好ましくは0.90〜0.99当量の範囲である。0.80当量未満の場合には、生成物中にゲータイトが混入し、目的のマグネタイト粒子を単一相として得ることができない。0.99当量を越える場合には、粒度分布が大きくなり、均一な粒子径のものが得られない。
【0063】
本発明の第一段反応における反応温度は70〜100℃である。70℃未満である場合には、針状晶ゲータイト粒子が混在してくる。100℃を越える場合もマグネタイト粒子は生成するが、オートクレーブ等の装置を必要とするため工業的に容易ではない。
【0064】
本発明の第一段反応における酸化手段は酸素含有ガス(例えば、空気)を液中に通気することにより行う。
【0065】
本発明の第一段反応において使用される水可溶性ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等が使用できる。前記水可溶性ケイ酸塩の添加量は、Feに対してSi換算で0.3〜3.0原子%、好ましくは0.6〜3.0原子%である。0.3原子%未満の場合には、六面体粒子となり、トナー表面からの脱落防止の効果に劣るものとなる。一方、3.0原子%を越える場合には、針状ゲータイト粒子が混在してくる。また、含有するケイ素の量が増加するため、吸着水分量が増加し、トナーとした場合、トナーの環境安定性に影響を及ぼす場合がある。また、黒色磁性酸化鉄粒子粉末とは別に単独で析出するSiが、均一な帯電を阻害し、帯電安定性の劣るものとなる。
【0066】
前記第一段反応における水可溶性ケイ酸塩の添加時期は、第一段反応において、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩反応水溶液中に添加する。
【0067】
本発明の第一段反応においては、第一鉄Fe2+の酸化度(Fe3+/全Fe)が10%以上の範囲において、懸濁液のpHを7.0〜8.5の範囲に制御する。懸濁液のpHが前記範囲外の場合には、硫酸などの酸あるいは水酸化アルカリ水溶液などのアルカリにより懸濁液のpHを7.0〜8.5の範囲に調整する。懸濁液のpHが7.0未満の場合には、粒子表面に凹凸が少なくなり、球状に近いものとなって、トナー表面からの脱落防止の効果が十分なものでない。懸濁液のpHが8.5を越える場合には、粒子形状が六面体若しくは八面体となり、トナー表面からの脱落防止の効果が十分なものでない。
【0068】
第一段反応は、酸化反応が終了して酸化還元電位が上昇したときを終点とする。
【0069】
本発明の第二段反応において、反応開始前に第一段反応で用いた全Feに対し1.0〜30.0原子%、好ましくは5.0〜25.0原子%の第一鉄塩溶液を添加する。このときの第一鉄塩溶液の添加量が1.0原子%未満の場合、得られる黒色磁性酸化鉄粒子は角張った突起を有しないものとなる。30.0原子%を超える場合、当該黒色磁性酸化鉄粒子とは別に八面体形状の黒色磁性酸化鉄粒子ができ、トナー表面からの脱落防止の効果が十分なものでない。
【0070】
本発明の第二段反応において、使用するアルカリ水溶液の量は、第二段反応開始時において、第一鉄塩溶液を添加した後、存在するFe2+に対して1.00当量以上である。1.00当量未満では、残存するFe2+が全量沈殿しない。実用上、1.00当量以上の工業性を考慮した量が好ましい。
【0071】
本発明の第二段反応における反応温度は70〜100℃である。70℃未満である場合には、針状晶ゲータイト粒子が混在してくる。100℃を越える場合もマグネタイト粒子は生成するが、オートクレーブ等の装置を必要とするため工業的に容易ではない。
【0072】
本発明の第二段反応における反応温度は第一段反応と同様の条件から選択して行なうことができる。また、酸化手段も第一段反応と同様の条件から選択して行なうことができる。
【0073】
本発明の第一段反応、第二段反応において、Al、Ti、Mg、S、Na、P、Ca、Ba、Srから選ばれる1種又は2種以上の元素をFeに対して0〜10.0原子%を添加して行うことができる。
【0074】
尚、原料添加後と第一段反応との間、及び、第一段反応と第二段反応との間において、必要により所要の時間にわたって十分な攪拌を行ってもよい。
【0075】
次に、本発明における磁性トナーについて述べる。
【0076】
本発明における磁性トナーは、体積平均粒径が3〜20μm、好ましくは5〜15μmである。
【0077】
本発明における磁性トナーは、前記磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末及び結着樹脂とからなり、必要に応じて離型剤、着色剤、荷電制御剤、その他の添加剤等を含有してもよい。前記結着樹脂と前記磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末との割合は、前記結着樹脂100重量部に対して前記黒色磁性酸化鉄粒子粉末20〜150重量部、好ましくは30〜120重量部である。
【0078】
本発明における磁性トナーは、トナー表面からの黒色磁性酸化鉄粒子の脱落がほとんどないものである。
【0079】
本発明における磁性トナーは、流動性が良好なことにより高解像度の画質が得られるものである。
【0080】
前記磁性トナーに使用する結着樹脂としては、スチレン、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステル等のビニル系単量体を重合又は共重合したビニル系重合体が使用できる。この結着樹脂を構成する単量体のスチレンとして、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−クロルスチレン等のスチレン及びその置換体があり、アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソブチル及びアクリル酸ヘキシルがあり、また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ヘキシル等の二重結合を有するモノカルボン酸及びその置換体等がある。前記共重合体には、スチレン系成分を50〜95重量%含むことが好ましい。
【0081】
前記共重合体の製造には、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の重合法が用いられる。また、結着樹脂にはこのような成分以外にも必要に応じてポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂等、公知の重合体あるいは共重合体を使用することができる。
【0082】
磁性トナーを作成するにあたって、結着樹脂100重量部に対して、本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、20〜150重量部、好ましくは30〜120重量部使用するのがよい。
【0083】
離型剤として、炭素数8以上のパラフィン、ポリオレフィン等が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、パラフィンワックス、パラフィンラテックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス等を使用することができる。これらのポリオレフィンの配合量は、一般に1〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0084】
着色剤としては、必要に応じて任意の適当な顔料や染料が使用できる。例えば、カーボンブラック、クロームイエロー、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、群青、キナクリドン、ベンジジンイエローなどが使用できる。
【0085】
荷電制御剤としては、フッ素系界面活性剤、アゾ系金属錯塩、サリチル酸クロム錯体、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸の金属錯塩、ニグロシン等のアジン系染料、四級アンモニウム塩、カーボンブラックなどが使用できる。
【0086】
また、他の添加剤として、研磨剤として、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、タングステンカーバイドなどが使用でき、帯電補助剤、導電性付与剤、ケーキング防止剤、流動性付与剤等の働きをする樹脂微粒子や無機微粒子を添加してもよい。
【0087】
本発明に係る磁性トナーを作成する方法としては、混合、混練、粉砕による公知の方法によって行うことができ、具体的には、前記磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末及び前記結着樹脂、必要に応じて着色剤、離型剤、荷電制御剤、その他の添加剤等をまず混合機により十分に混合した後、加熱混練機によって樹脂等を溶融、混練して相溶化させた中に黒色磁性酸化鉄粒子等を分散させ、冷却固化後、得られた樹脂混練物について粉砕及び分級を行って磁性トナーを得ることができる。
【0088】
前記混合機としては、ヘンシェルミキサー、ボールミルなどの混合機を使用することができる。前記加熱混練機としては、ロールミル、ニーダー、二軸スクリュ−型、エクストルーダー等の加熱混練機を使用することができる。前記粉砕はカッターミル、ジェットミル等の粉砕機によって行うことができ、前記分級も公知の方法により行うことができる。
【0089】
本発明における磁性トナーを得る他の方法として、懸濁重合法又は乳化重合法があり、懸濁重合法においては、重合性単量体及び磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末、着色剤、必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤を溶解又は分散させた単量体組成物を、懸濁安定剤を含む水相中に攪拌しながら添加して造粒し、重合させてトナー粒子を形成することができる。
【0090】
乳化重合法においては、単量体、磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末、着色剤、重合開始剤などを水中に分散させて重合を行う過程に乳化剤を添加することによって適度な粒度のトナー粒子を形成することができる。
【0091】
<作用>
従来、トナー粒子に含有され特に表面に露出する磁性体粒子が電荷をリークする課題を直流抵抗値のみの観点から改良されてきた。しかし本発明者らは実際にトナーが感光体上の潜像部分へ到達するまでの空間には高電圧と高周波数の交流電場が印加されており、直流抵抗成分だけではトナー粒子表面の電荷を維持し、この空間でのトナー粒子の挙動を厳密に制御するには不十分であると考え、黒色磁性体粒子の交流電場における抵抗値すなわちインピーダンスを高めることができないかという点について鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。
【0092】
本発明の方法によってインピーダンスが高くなる理由は定かではないが、Si成分が水溶液中でSiO結晶粒子として成長しやすいpH領域に厳密に制御しつつ水酸化鉄コロイドの酸化反応を行うことでマグネタイト核粒子の成長過程で粒界にSi成分が取り込まれ、SiOに近い結晶構造の微結晶粒子が形成されたためにさらに粒界が広げられた結果、マグネタイト中の電気伝導が妨げられインピーダンスが高くなったものと考えている。また二次反応で結晶性の高いマグネタイトによる粒子成長を行うことでマグネタイト粒子としての安定な強度も確保できたものと考えている。
【0093】
またもうひとつの効果として、トナー表面に露出した磁性粉の脱落による帯電不均一化の防止に対してはこれまで、前記磁性粒子の粒子表面と樹脂との結合についてより強固に結着させるために表面処理が行われてきた。しかし、本発明者らは粒子表面と樹脂との結着性という点について考えた場合には、接触面積をより多くすることがトナー表面からの脱落防止という点と、帯電性能を向上させるためには、トナー粒子表面に露出する磁性粒子表面の面積を小さくすることが有効ではないかと考え、磁性粒子の形状について凹凸のある形状のものであって、且つその突起物の形状が角張っているものが得られないかという点について鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。
【0094】
本発明においては、二段階反応からなるマグネタイト粒子粉末の製造方法において、第一段反応中にFeに対しSi換算で0.3〜3.0原子%の水可溶性ケイ酸塩水溶液を添加し、且つ、前記第一段反応中のFe2+の酸化度(Fe3+/全Fe)が10%以上の範囲においてpHを7.0〜8.5の範囲とし、第二段反応において第一段反応のFeに対し1.0〜30.0原子%添加することによって、球状を基本とした角張った突起を有した黒色磁性酸化鉄粒子が得られるものである。得られる黒色磁性酸化鉄粒子粉末を用いてトナーを製造した場合には、トナー表面からの黒色磁性酸化鉄粒子の脱落がなく耐久性に優れ、トナー粒子表面に露出する磁性体表面の面積が小さくなり、トナーとしたときの流動性が良好であって、均一な帯電性が得られることから静電潜像現像において高解像度の画質が得られるものである。
【実施例】
【0095】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0096】
黒色磁性酸化鉄粒子粉末のインピーダンスは、「ケミカルインピーダンスアナライザー3532−80」(日置電機(株)製)を使用し、4Hz〜1MHzの測定周波数範囲におけるインピーダンス|Z|と位相角θを測定し、これらの値から交流抵抗値の実数部と虚数部をそれぞれ計算によって求めた。計算値からBode線図(周波数f−X)、Nyquistプロット(Rs−X)を作製し、Bode線図のピークから特性周波数及びその半値幅、特性周波数でのリアクタンスを算出し、Nyquistプロット(Rs−X)から前記リアクタンス時のインピーダンスを算出した。
【0097】
被測定サンプルは黒色磁性酸化鉄粒子粉末0.75gを上下から抑える金属性治具と硬質プラスチック製の外筒を備えた錠剤成形器を用い、6MPaの圧力で直径が13mmの円盤状の錠剤になるよう加圧成形した。このときの錠剤の圧縮密度は2.3〜2.9g/cmであった。加圧圧力をぬいた後に、錠剤を金属治具に密着させたままの状態で測定機に入力される電極プローブを金属治具に接続して周波数を変えて行った。従って厳密には錠剤には上部金属治具(電極)の約400gの重量がかかっている。
インピーダンスのゼロ点補正は粉体を導入する前に、電極を離した状態のオープン補正と金属治具に接続し短絡した状態でのショート補正によって行った。サンプル測定中の印加電圧は4Vとした。
上記の加圧成形時の圧力は6MPaよりも低すぎると圧縮密度が低すぎて錠剤の空隙率が高くなり再現性のよい測定値が得られない。加圧圧力が高すぎると錠剤と電極の接触部分にクラックが発生し周波数応答に不連続部分が生じるなど測定精度が得られない。
こうして得られたNyquistプロットは半円状であり、抵抗成分と容量成分の並列回路が等価回路として考えられた。さらに周波数が低い直流部分には半円状にゆがみがありもうひとつの半円の存在が示唆されたので一般則に従い高周波数側の半円がバルクのインピーダンスであり、低周波数側の半円が粒子同士の接触界面でのインピーダンスと考えた。従ってバルク特性周波数は高周波数側の半円についてBode線図から求めた。
【0098】
黒色磁性酸化鉄粒子粉末の平均粒子径は、電子顕微鏡写真から測定した数値の平均値で示した。また、比表面積はBET法により測定した値で示した。
磁気特性は、「振動試料型磁力計VSM−3S−15」(東英工業(株)製)を使用し、外部磁場796kA/m(10KOe)までかけて測定した。
【0099】
黒色磁性酸化鉄粒子粉末の粒子形状は、走査型電子顕微鏡(日立S−800)により観察した。また、黒色磁性酸化鉄粒子の粒子表面にある突起物について、前記条件を満たすものを凸状突起物として認定した。
【0100】
前記投影図において前記条件(1)乃至(3)を満足する凸状突起物が粒子表面に2〜30個の範囲にあるかどうかによって本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子であるか否かの判定を行った。
【0101】
黒色磁性酸化鉄粒子のSi量は、「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業(株)製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した値で示した。
【0102】
黒色磁性酸化鉄粒子の粒子表面のSi量については、下記の方法で測定した。
即ち、黒色磁性酸化鉄粒子粉末とイオン交換水とを混合した後、分散させて懸濁液としたものを水酸化アルカリ水溶液と混合して30分間以上攪拌した後、懸濁液を濾過、乾燥して得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末のSi量を測定し、前記アルカリによる処理前の全Si量との差をもって粒子表面のSi量とした。
【0103】
Fe2+含有量は、下記の化学分析法により求めた値で示した。即ち、不活性ガス雰囲気下において、黒色磁性酸化鉄粒子粉末0.5gに対しリン酸と硫酸とを2:1の割合で含む混合溶液25ccを添加し、上記黒色磁性酸化鉄粒子を溶解する。この溶解水溶液の希釈液に指示薬としてジフェニルアミンスルホン酸を数滴加えた後、重クロム酸カリウム水溶液を用いた酸化還元滴定を行った。上記希釈液が紫色を呈した時を終点とし、該終点に至るまでに使用した重クロム酸カリウム水溶液の量から計算して求めた。
【0104】
黒色磁性酸化鉄粒子粉末の帯電量は、「ブローオフ帯電量測定装置TB−200」(東芝ケミカル社製)を用い、キャリアはTFV−200/300(パウダーッテック社製)を用いて黒色磁性酸化鉄粒子粉末の濃度を5%とし、混合時間を30分として測定した。
【0105】
黒色磁性酸化鉄粒子粉末の圧縮度は、カサ密度(ρa)とタップ密度(ρt)とをそれぞれ測定し、これらの値を下記式に代入して算出した値に基づいて、下記3段階で評価した。
圧縮度=〔(ρt−ρa)/ρt〕×100
尚、圧縮度が小さくなるほど流動性がより優れたものとなる。
○:圧縮度が45未満
△:圧縮度が45以上〜65未満
×:圧縮度が65以上
【0106】
なお、カサ密度(ρa)は、JIS K 5101の顔料試験法により測定し、タップ密度(ρt)はカサ密度測定後の黒色磁性酸化鉄粒子粉末10gを20ccのメスシリンダー中にロートを用いて静かに充填させ、次いで、25mmの高さから自然落下させる操作を600回繰り返した後、充填している黒色磁性酸化鉄粒子粉末の量(cc)をメスシリンダーの目盛りから読み取り、この値を下記式に代入して算出した値で示した。
タップ密度(g/cc)=10(g)/容量(cc)
【0107】
帯電量の立ち上がりは、「ブローオフ帯電量測定装置TB−200」(東芝ケミカル社製)を用い、キャリアはTFV−200/300(パウダーッテック社製)を用いて樹脂混練物の濃度を5%とし、混合時間を30分として測定値が安定するまでの時間を測定し、下記3段階で評価した。
○:10秒で安定した。
△:20秒で安定した。
×:30秒で安定した。
【0108】
黒色磁性酸化鉄粒子粉末のトナー粒子表面からの脱落性についての評価は、以下の手法にて行なった。即ち、黒色磁性酸化鉄粒子粉末とスチレンアクリル樹脂とを混練して得られる樹脂混練物を粉砕して樹脂混練物粒子粉末を作成し、該樹脂混練物粒子粉末をペイントシェーカーで60分間振盪させて生じる黒色磁性酸化鉄粒子粉末の微粉の量を電子顕微鏡により観察して、従来の球状マグネタイト粒子(比較例3)粉末(粒子形状:球状、平均粒子径0.21μm、BET比表面積8.9m/g、Si含有量1.1原子%、飽和磁化値84.7Am/kg)を用いた場合と比較し、下記3段階で評価した。
○:黒色磁性酸化鉄粒子粉末の微粉が殆んど無い。
△:従来の球状マグネタイト粒子粉末よりは少ない。
×:従来の球状マグネタイト粒子粉末と同程度以上。
【0109】
実施例1
Fe2+ 1.6mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液25.0lを、あらかじめ反応器中に準備された3.1Nの水酸化ナトリウム水溶液24.5lに加え(Fe2+に対し0.95当量に該当する。)、pH6.7、温度90℃において水酸化第一鉄塩コロイドを含む第一鉄塩懸濁液の生成を行った後、毎分80lの空気を通気して第一段反応を開始し、同時にケイ素成分として3号水ガラス(SiO 28.8wt%)123.4g(Feに対しSi換算で1.7原子%に該当する。)を水で希釈して0.3lとしたものを添加した。上記水ガラス溶液の添加後、攪拌しながら酸化反応を続け、第一段反応を終了させマグネタイト核晶粒子を含む第一鉄懸濁液を得た。このとき、酸化反応開始後、Fe2+の酸化度が10%を越えて以降のpHは7.0〜8.5の範囲内であった。
【0110】
第一段反応終了後の上記マグネタイト核晶粒子を含む第一鉄塩懸濁液に9Nの水酸化ナトリウム水溶液1.6l、Fe2+ 1.6mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液3.4lを添加して懸濁液のpHを9.5に調整した後、温度90℃において毎分100lの空気を30分間通気して第二段反応を行ってマグネタイト粒子を生成させた。生成粒子は、常法により、水洗、濾別、乾燥、粉砕した。
【0111】
得られたマグネタイト粒子は図2に示す透過型電子顕微鏡写真(×50000)から明らかな通り、その粒子形状は、球状を基本とし角張った突起を有していた。また、粒度が均斉なものであり、平均粒子径が0.21μm、BET比表面積の値が9.2m/gであった。
【0112】
粒子表面の突起物について凸状突起物についての前記検査方法(1)乃至(3)について検査を行った結果、角張った突起を有していることを確認した。
【0113】
また、このマグネタイト粒子粉末は、蛍光X線分析の結果、Feに対しSiを1.7原子%含有したものであり、粒子表面のSi量は0.13原子%であった。また、酸化還元滴定の結果、Fe2+量は18.8重量%であり、十分な黒色度を有するものであった。磁気特性は、飽和磁化値が87.3Am/kg(87.3emu/g)であった。圧縮度の測定結果から流動性に優れるものであった。帯電量は、−10.0μC/gであった。
【0114】
インピーダンス測定の結果を図3(Nyquistプロット)および図4(Bode線図)に示す。
【0115】
前記得られたマグネタイト粒子粉末とスチレンアクリル樹脂とを混練して得られる樹脂混練物の粉砕物である樹脂混練物粒子粉末を作成し、黒色磁性酸化鉄粒子粉末の脱落性について前記評価方法によって評価を行った結果、十分な脱落防止効果を有するものであった。
【0116】
実施例2〜10、比較例1〜5
第一段反応における第一鉄塩水溶液の種類、濃度並びに使用量、水酸化アルカリ水溶液の種類並びに濃度、第一段反応中の調整pH、第二段反応における水酸化アルカリ水溶液の種類並びに第二段反応における硫酸第一鉄溶液の種類、濃度、並びに使用量、第二段反応における反応温度を種々変化させた以外は前記実施例1と同様にして黒色磁性酸化鉄粒子粉末を得た。このときの製造条件を表1に、得られた黒色磁性酸化鉄粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
比較例1で得られたマグネタイト粒子粉末は図3に示す電子顕微鏡写真(×50000)から明らかな通り、球状を有しているものであり、実施例1のマグネタイト粒子粉末に比べて樹脂混練物粒子表面からの脱落防止効果が十分ではなく、図3図4に示すとおりインピーダンスが低いものであった。
【0120】
使用例
スチレン−n−ブチルアクリレート共重合体 100重量部
(共重合比=85:15、Mw=25万、Tg=62℃)
黒色磁性酸化鉄粒子粉末(実施例1) 80重量部
正荷電制御剤 1.5重量部
低分子量エチレン−プロピレン共重合体 2重量部
上記混合物を140℃に設定された2本ロールミルで約15分間熱混練し、冷却後、粗粉砕、微粉砕した。さらにこれを分級により微粉、粗粉をカットし、体積平均径10.4μmの磁性トナーを得た。
【0121】
得られた磁性トナーからなる一成分系現像剤を調整し、画像について画像濃度、カブリについて、また、ペイントシェーカーによる振動試験による耐久性試験により、磁性トナーからの黒色磁性酸化鉄粒子の微粉の発生を調べたところ、従来の球状の黒色磁性酸化鉄粒子粉末を使用した磁性トナーからなる一成分現像剤を使用した場合に比べて高解像度の画質であって、しかも、微粉の発生がほとんどみられない耐久性の良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係る黒色磁性酸化鉄粒子粉末は、インピーダンスが高く、粒子形状が球状を基本とする角張った突起を有しているので、トナー粒子表面の電荷を維持し易く、トナー粒子からの脱落がなく、また、トナーとしたときに露出する磁性体表面の面積が小さくトナーの帯電を阻害し難くなることによってトナーの帯電性能を向上させることができ、高温高湿環境下においても画像濃度が高く、Siを粒子表面に多く含有することから、トナーにしたときの流動性が良好であって、均一な帯電性が得られることから静電潜像現像において高解像度の画質が得られる磁性トナー用黒色磁性酸化鉄粒子粉末として最適である。
【符号の説明】
【0123】
(a)突起物の両辺の延長線上の交点でなす角
(b)突起物の両端と突起物を成す辺との角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8