(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765540
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/24 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
H02K1/24 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-61206(P2013-61206)
(22)【出願日】2013年3月24日
(65)【公開番号】特開2014-187815(P2014-187815A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2014年10月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511067123
【氏名又は名称】後藤 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100083611
【弁理士】
【氏名又は名称】菅原 弘志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲郎
【審査官】
槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−538597(JP,A)
【文献】
特開平08−256461(JP,A)
【文献】
特開平08−289516(JP,A)
【文献】
実開昭54−093708(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心の周りにコイルを巻回してなるロータを回転軸に取り付け、その外周部にステータを配したモータであって、上記ロータのコイルを巻回した部分よりも外側の鉄心部分に、コイル巻回部から発生してステータに向かう磁束を左右に迂回させる穴を設けたことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記鉄心に設けた穴が、回転軸に沿う方向に設けられ、ステータに向かう磁束が左右に迂回させられる通孔である請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記鉄心に設けた穴が、ステータに臨むロータの外周面に設けた単数もしくは複数の有底穴であり、ステータに向かう磁束が左右に迂回させられる穴である請求項1に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種装置の動力源として利用するに適した電動モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種機械設備や電気自動車等の原動機として使用されている電動モータには種々のものがあり、それぞれ用途に応じて使い分けられている。電動モータの一般的な構造は、例えば、モータケースの中心部に設けた回転軸にロータを取り付け、該ロータの外周部にステータをモータケースの内面に沿うように配置したものである。この種のモータでは、ロータの外周面が回転軸に直角な断面において山型の曲面に形成されており、モータケースの内面部に設けられたステータの内周面は、前記ロータの外周面に沿うような断面円形の凹状に形成されている。
【0003】
なお、各種電動モータのロータやステータには種々の改良がなされており、例えば下記特許文献に挙げたようなものが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のものは、モータフレームと該モータフレームの曲面部の内側に配設した曲面部を有する磁界マグネットで構成されたステータと、該ステータ内で回転自在なロータコアを備え、前記磁界マグネットの外周曲面の中央部をモータフレームの内周曲面の中央部分と接触させ、前記磁界マグネットの端部とモータフレームの端部との間に間隙を形成したものである。
【0005】
また、特許文献2に記載のものは、巻線が巻かれたアーマチャコアに半径方向外周付近から延びる突起を設けてバランスするものである。さらに、特許文献3に記載のものは、永久磁石ステータと、ロータシャフトと、該ロータシャフトに取付けられたロータとを含み、前記永久磁石に速度センサが固定されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−98799号公報
【0007】
【特許文献2】特開平7−177713号公報
【0008】
【特許文献3】特開2002−101617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、モータには種々の改良がなされているが、ロータ(電機子)やステータ(固定子)の形状を工夫してエネルギーロスを少なくする点に関してはあまり考慮されていない。そこで本発明は、ロータとステータの形状を改良することにより、モータの効率を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、請求項1に記載の本発明に係るモータは、鉄心の周りにコイルを巻回してなるロータを回転軸に取り付け
、その外周部にステータを配したモータであって、上記ロータのコイル巻回部よりも外側の鉄心に、コイル巻回部から発生してステータに向かう磁束を左右に迂回させる穴を設けたことを特徴としている。
【0011】
また、請求項2に記載のモータは、請求項1に記載のモータであって、穴として前記鉄心のステータに臨む外周部近辺に回転軸に沿う方向の通孔を形成したものである。さらに、請求項3に記載のモータは、ステータに臨むロータの外周面に単数または複数の有底穴を形成したものである。穴の断面形状は、円形に限らない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るモータは、ロータの鉄心に穴を設けたので、コイルへの通電によって鉄心中に発生する磁束が当該穴を迂回するように変化して外部に流出する。このため、ステータの磁界の影響を受けて生じる合成磁束が変化し、ロータの回転力が増大する。すなわち、磁束の急激な迂回による磁束方向の変化によって、角運動が増加するものと考えられ、、実際に実験した結果でも、明らかに回転力が向上した。
【0013】
上記穴は、請求項2に記載のように、ロータが取付けられた回転軸に沿うような通孔として形成するのが好ましいが、請求項3に記載のように、ロータのステータに臨む鉄心外周面に単数または複数の適当な深さの有底の凹部として形成してもよい。また、穴は空隙のままでもよいが、非磁性の樹脂(例えばシリコン)を充填しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】ロータとステータの形状を表す横断面図である。
【
図3】上記と異なる実施形態を表す鉄心の断面図である。
【
図4】そのロータ外周面の展開図であり、(a)は単数の穴を設けたもの、(b)は複数の穴を設けたものを表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について具体的に説明する。このモータ1は、直流モータであり、
図1、
図2に示すように、断面円形のモータケース2の内部中心部に回転軸3が設けられている。モータケース2の一方の端部は開口部として形成され、そこにエンドキャップ4が取付けられている。回転軸3の両端部は、モータケース2の一方の端部に設けた軸受け5と、反対側のエンドキャップ4に設けた軸受け5によって回転自在に支承されている。
【0016】
前記モータケース2の内面側には、ステータ(固定子)7が固着されている。本実施態様ではステータ7は永久磁石であり、極性の異なるものがモータケース2の直径方向に対向するように2個設けられている。
【0017】
前記回転軸3にはロータ(電機子)10が取付けられている。このモータは3スロットのモータであり、ロータ10が3個のコア(鉄心)12で形成されている。ロータ10は複数の鉄板11を重ね合わせた積層式のコア12と該コアの胴部12aに巻回したコイル13からなり、コア12の外側端部は左右に拡径して傘状の頭部12bとなっている。コア12の基部は通常のモータと同様に回転軸3に固定されている。
【0018】
回転軸3の一方の端部付近には整流子15が取付けられている。また、エンドキャップ4には内側に突出する一対のブラケット16が設けられ、このブラケット16にそれぞれ支持したブラシ17が前記整流子15に接触している。ブラシ17には外部からの通電用リード線18が接続されている。
【0019】
つぎに、上記ロータ10とステータ7の形状について説明する。このロータ10の鉄心は、複数の鉄板を重ね合わせたものであり、前述したとおり3組のコア12を備えている。コア12は、基部が回転軸3に取付けられる胴部12aと、該同部の外側端部に一体に設けられた断面山型の頭部12bからなる。頭部12bは、
図2に示すように、回転軸3と直角な断面において回転軌跡に沿う凸な曲面としてあらわれる概略球面状となっている。一方、ステータ7の内面(ロータの頭部に臨む面)は、前記ロータのコア頭部12aの球面状曲面に沿うような凹状曲面として形成されている。
【0020】
コア12のコイル13は、従来のモータと同様に、傘状に開いた頭部12bの直下部から基部にかけて胴部12aの周りに巻回されている。コイルの太さや巻き数は従来のものと同様でよい。コイルのリード線は前記整流子15に接続されている。
【0021】
つぎに、
図1、
図2、
図5に表わされた第1の本実施態様では、コアに設けた穴として、コアの頭部12aに回転軸3に沿う方向の通孔20が形成されている。この通孔20の径は、鉄心の強度を損なわず、しかも磁束の流れを好ましく変化させることのできる大きさであり、モータの大きさによっても異なるが、通常は数mm乃至数十mmである。この穴(通孔)20は、頭部の左右中央部に穿孔されていて、コイル13が巻かれた胴部には達していない。積層式の鉄心の板面方向に貫通する穴であるから、鉄心が分離する恐れはない。
【0022】
また、
図3、
図4に表わされた第2の実施形態では、上記穴として、コア12の頭部外周面に複数の円形凹部(ディボット)21が形成されている。
図4は頭部12bの外周面を平面状に展開してあらわした図であり、当該外周面の左右中央部に円形の穴(凹部)21が形成されている。
図4(a)では穴21は1個であるが、
図4(b)では左右中央部に間隔をおいて2個が設けられている。この有底穴である凹部21の大きさ(直径、深さ等)と数は、モータ自体の大きさ等を考慮して適当なものとすればよい。通常は、凹部21の直径の大きさは数mm乃至数十mm、深さも数mm乃至数十mmである。また、穴20,21の断面形状は、加工上円形とするのが好ましいが、これに限らず、例えば四角形、六角形等、適当な形状とすることができる。
【0023】
このモータの使用に際しては、通常のモータと同様に、ブラシのリード線に通電してロータ10を回転軸3とともに回転させる。ロータ10は、磁力の極性NとNの反発力とNとSの吸引力によりコア12の頭部12bがステータ7の内面に沿って移動する。
【0024】
図1、
図2に示すモータは、ロータ(コア12)の鉄心に回転軸3に沿う通孔20が形成されているので、
図5に示すように、合成磁束Mがこの通孔20の位置で歪められ、ロータ10を回転方向に付勢する力(F)が通孔のない場合よりも大きくなると考えられる。このため、通孔20を設けていない通常のモータに比べて強い力が作用し、より強力な回転力が得られると考えられる。
【0025】
さらに、
図3、
図4の図示例のように、ロータ10のコア12の外周面に有底穴(ディボット)21を形成しておけば、上記磁束の変化が生じるほか、磁力がこのディボットの凹部内でスピンすると考えられ、その作用力が向上することが期待できる。
【0026】
図6は、本発明の効果を調べるために行った実験の内容を表すものである。市販の同じ規格の小型モータ2個を入手し、一方のモータAの3個の鉄心にそれぞれ図に示すような通孔20を形成し、他方のモータBは入手したままの状態で、
図6に示すように並べて配置し、両モータの回転軸に固定した糸40を下端部で結んで、この部分に重り30を吊り下げた。この状態で両モータを同時に回転させたところ、重り30が引き上げられながら、モータA側に2.5〜2.9mm引き寄せられた。左右のモータを入れ替えて同じ実験を3回繰り返したが、いずれもモータA側に重り30が寄せられた。
【0027】
穴として、
図3に示すディボット21を形成して上記と同様の実験を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。この結果から、ロータの鉄心に穴を形成したもののほうが回転力が強くなることが確認された。
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明に係るモータは、ロータの鉄心の形状を工夫することにより、回転力の効率を向上することが可能となった。このモータは、各種機械設備や電気自動車等に効果的に採用することができる。なお、以上の説明では、3スロットの直流モータを例にとって説明したが、他の構造のモータにおいても同様な効果を期待できることは明らかである。
【符号の説明】
【0029】
1 モータ
2 モータケース
3 回転軸
7 ステータ
10 ロータ
20 穴(通孔)
21 穴(有底凹部)