(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
移送手段によって液体を流通させる流通経路内に配設され、前記液体中の気体を脱気する脱気モジュールを有し、該脱気モジュールは、気体透過性を有する脱気膜を備え、該脱気膜の一方側に前記液体を満たすと共に前記脱気膜の他方側を減圧して前記液体の脱気を行う脱気システムにおいて、
前記脱気膜は複数の中空糸膜とし、前記一方側には、複数の前記中空糸膜が隣接配置され束状に集合した中空糸膜束部および該中空糸膜束部の外側に隣接配置され液体が溜められた液体溜まり部を有し、
前記移送手段は、停止と移送とを断続的に繰り返す断続移送を行い、
前記液体溜まり部は、前記断続移送における前記停止を利用して、前記中空糸膜束部への前記液体中の気体の拡散によって脱気可能な最大容積であること
を特徴とする脱気システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば特許文献1に開示されるインクジェット記録装置における脱気システムでは、脱気モジュールの内部空間の全てに中空糸膜を満たすことにより、デッドスペースを極力少なくするように構成されている。そのため、高価な中空糸膜の使用量が増加することによって装置コストが上昇してしまうという課題があった。
【0007】
そのような背景の下で、本願発明者は、鋭意研究の結果、液体が中空糸膜に接触することにより脱気される以外に、中空糸膜の配設された箇所に隣接した箇所においても、溶存気体が気体濃度の低い中空糸膜側へ自然拡散することにより溶存気体の濃度が低下することを突き止めた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、脱気モジュールにおいて中空糸膜が配設された箇所に隣接した箇所に中空糸膜を配設せず、単に液体を溜める液体溜まり部を形成し、この液体溜まり部を利用して液体の脱気をさせることにより中空糸膜を最小限にすることが可能な脱気システムおよびこれを備えたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
開示の脱気システムは、移送手段によって液体を流通させる流通経路内に配設され、前記液体中の気体を脱気する脱気モジュールを有し、該脱気モジュールは、気体透過性を有する脱気膜を備え、該脱気膜の一方側に前記液体を満たすと共に前記脱気膜の他方側を減圧して前記液体の脱気を行う脱気システムにおいて、前記脱気膜は複数の中空糸膜とし、前記一方側には、複数の前記中空糸膜が隣接配置され束状に集合した中空糸膜束部および該中空糸膜束部の外側に隣接配置され液体が溜められた液体溜まり部を有し、前記移送手段は、停止と移送とを断続的に不定期に繰り返す断続移送を行
い、前記液体溜まり部は、前記断続移送における前記停止を利用して、前記中空糸膜束部への前記液体中の気体の拡散によって脱気可能な最大容積であることを特徴とする。これによれば、移送手段が断続移送を行う際の停止を利用して、液体溜まり部の液体の脱気を行うことができるため、中空糸膜束部の体積を少なくすることができる。
【0011】
また、前記液体溜まり部は、前記断続移送における前記停止を利用して、前記中空糸膜束部への前記液体中の気体の拡散によって脱気可能な容積であることを特徴とする。これによれば、脱気されていない液体が移送されることを防止できる。
【0012】
なお、前記液体溜まり部は、前記断続移送における前記停止を利用して、前記中空糸膜束部への前記液体中の気体の拡散によって脱気可能な最大容積である
構成によれば、中空糸膜束部を最小化することが可能となる。
【0013】
また、前記一方側の容積と、前記移送手段一回分の移送量とを略同一にしたことを特徴とする。これによれば、移送手段によって断続的に移送される一回分の液体移送量が、脱気膜の一方側の容積と略同一なので、脱気モジュールを大型化することなく、確実に脱気された液体を移送させることができる。
【0014】
また、前記液体溜まり部
が前記中空糸膜束部の端部の面積で所定の長さ延設されている
構成によれば、液体溜まり部の内部において、中空糸膜束部の端部から離れている部分の液体に対して脱気が行われ難いという課題の解決が可能となる。
【0015】
開示のインクジェット記録装置は、ノズルからインクを吐出することが可能なインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドにインクを供給するためのインクを収容したインク収容部材と、該インク収容部材からインクジェットヘッドにインクを供給するインク供給路と、該インク供給路に配設された請求項1〜4のいずれか一項に記載の脱気システムと、を有することを特徴とする。これによれば、インクジェットヘッドへのインク供給の停止の間に、脱気モジュールの液体溜まり部に溜まったインクの脱気を行うことができるため、脱気モジュールの中空糸膜束部の体積を少なくすることができる。
【0016】
また、前記インク供給路は、前記インクジェットヘッドと前記脱気システムにおける脱気モジュールとの間にダンパが配設され、該ダンパのインク不足状態からインクを補充するために必要なインク量は、前記脱気モジュールの容積および移送手段によって断続的に移送される一回分の移送量のインク容積と略同一であることを特徴とする。これによれば、脱気モジュールを大型化することなく、確実に脱気されたインクを移送させることができる。
【発明の効果】
【0017】
開示の脱気システムによれば、脱気モジュールに用いられる脱気膜を最小限にすることが可能となる。したがって、当該脱気システムおよびこれを用いた装置のコストを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。ここでは、本実施形態に係る脱気システムを備えた装置としてインクジェット記録装置の場合を例に挙げて説明を行う。
図1は、本実施形態に係る脱気システム1および当該脱気システム1を備えたインクジェット記録装置2の構成例を示す概略図である。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
本実施形態に係るインクジェット記録装置2は、
図1に示すように、印刷対象となる被記録媒体(メディアM)にインクを吐出してメディアM表面に画像を印刷するインクジェットヘッド26と、インクジェットヘッド26に供給するインク3を貯留するインク収容部材(ここではインクカートリッジ20)と、を備えており、インクジェットヘッド26とインクカートリッジ20とは、液体(ここではインク3)を流通させる流通経路(ここではインク供給路30)により連通されている。当該インク供給路30は弾性を有するチューブ状である。また、符号21は、インク供給路30の途中に設けられてインク3中の異物を除去するフィルタである。なお、インク収容部材はインクカートリッジに限定されるものではなく、インクタンク等の容器を用いてもよい(不図示)。
【0021】
インクジェットヘッド26は、一または複数の色のインク3を吐出するものである。そしてインクジェットヘッド26には、吐出するインク3の色毎に、複数の吐出ノズル(不図示)が形成されている。インクジェットヘッド26は、メディアMの上方において、吐出ノズルがメディアMの表面に対向するように配置されている。すなわち、インクジェット記録装置2は、メディアMとインクジェットヘッド26とを三次元空間において相対移動させながら、インクジェットヘッド26からインク3を吐出させて、メディアM上に記録を行うものである。
【0022】
インクカートリッジ20は、インクジェット記録装置2に対して脱着可能に装着されるカートリッジである。インクカートリッジ20は、インクジェットヘッド26から吐出するインク3を、色毎に独立して貯留する。このため、例えば、インクジェットヘッド26から一色のインクを吐出する場合は、一つのインクカートリッジ20がインクジェット記録装置2に装着され、インクジェットヘッド26から四色のインクを吐出する場合は、四つのインクカートリッジ20がインクジェット記録装置2に装着される。一例として、インクカートリッジ20は、インクジェットヘッド26よりも下方位置に配設される。
【0023】
そして、インクカートリッジ20とインクジェットヘッド26とに連結されるインク供給路30に、バッファタンク24が設けられている。本実施形態においては、バッファタンク24は、インクジェットヘッド26と共にキャリッジ23に配設されている。なお、バッファタンク24およびインク供給路30は、インク3の色毎に独立して設けられている。
【0024】
当該バッファタンク24は、インクカートリッジ20からインク供給路30に供給されたインク3を貯留すると共に、貯留しているインク3をインクジェットヘッド26に送り出す中間タンクである。なお、バッファタンク24には液面センサー27が設けられて、貯留しているインク3のインク量情報が制御部28へと送信される。
【0025】
また、インクジェット記録装置2には、バッファタンク24とインクジェットヘッド26との間に、圧力ダンパ25が取り付けられている。すなわち、インクジェットヘッド26は、圧力ダンパ25を介して、バッファタンク24に連結されたインク供給路30と連結されている。圧力ダンパ25は、バッファタンク24からインク供給路30に強制的に送り出されたインク3が送り込まれると、このインク3の圧力変動を吸収すると共に所定範囲の圧力に調整して、インクジェットヘッド26に当該インク3を送り出すダンパである。すなわち、圧力ダンパ25は、圧力を調整するバネ(不図示)が内部に設けられており、インクジェットヘッド26に供給しているインク3が減って圧力ダンパ25が減圧されると、内部のバネでこの減圧を検出して、バッファタンク24内の圧力が所定範囲となるように、バッファタンク24から供給されるインクを圧力ダンパ25内に流入させる。そして、バッファタンク24からインク供給路30に強制的に送り出されたインク3は、一旦、圧力ダンパ25に送り込まれる。そして、圧力ダンパ25において、このインク3の圧力変動が吸収されると共に所定範囲の圧力に調整されて、インクジェットヘッド26にインク3が送り出される。
【0026】
インクジェット記録装置2は、CPUやメモリ等を主構成要素とする制御部28を備えている。そして、この制御部28が、インクジェット記録装置2の各種制御を行う。
【0027】
ここで、上記インクジェット記録装置2に組み込まれる場合を例に挙げて、本実施形態に係る脱気システム1について説明する。
【0028】
先ず、比較例として、特許文献1記載の脱気モジュールと同様の構造を有する脱気モジュール110(110A、110B)(
図3(a)、3(b)参照)を備えた脱気システムについて検討を行う。例えば、当該脱気モジュール110(110A、110B)をインクジェット記録装置2に組み込む場合には以下に記載する課題が生じ得る。なお、当該比較例に係る脱気システムは、
図1に示す本実施形態に係る脱気システム1と同じ位置に組み込まれ、同様に真空ポンプ19と共に配設されるものであり、別途の図示を省略する。
【0029】
ここで、液体中に溶存している気体の脱気を行う脱気モジュールに要求される性能は単位時間当たりの脱気処理できる液体の量すなわち流速で表され、例えば30[ml/min.]等のように表現する。この場合は脱気モジュール内部を30[ml/min.]以下の流速で液体を流せば所望の脱気が行われることを意味する。
【0030】
下記の性能を有するインクジェット記録装置2を例として説明を行う。
脱気対象となる液体(すなわちインク3)の流速として、
(1)記録時:0[ml/min.](白色部分)〜10[ml/min.](100%吐出部分)
(2)インクジェットヘッドを含むインク供給路の洗浄時:15[ml/min.]
(3)待機時:0[ml/min.]
上記の通り、インク3の流速は、インクジェット記録装置2の稼働時において一定ではない。
【0031】
さらには、インクカートリッジ20からインクジェットヘッド26に至るインク供給路30の中では途中にバッファタンク24があり、インク3はインクカートリッジ20〜移送手段(ここでは送液ポンプ22)〜脱気モジュール110(110A、110B)〜バッファタンク24〜インクジェットヘッド26と流れていくが、送液ポンプ22はバッファタンク24内部のインク3残量に応じて断続的に移送(送液)するので、脱気モジュール110(110A、110B)内部のインク3流量(流速)は上記例の10[ml/min.]よりも高速となってしまい、例えば100[ml/min.]にも達する。
したがって、最大流速に合わせるとすると、100[ml/min.]の処理能力を備えた脱気モジュールが必要となってしまう。
【0032】
このように、実際に必要な処理能力は流速15[ml/min.]でよいにも関わらず、100[ml/min.]の処理能力の脱気モジュールを使用したのでは脱気モジュールが大型とならざるを得ず、脱気膜(中空糸膜)11も多く必要となり、脱気システム(脱気モジュール)が高価なものとなってしまう。その結果、当該脱気システム(脱気モジュール)が組み込まれる装置(ここではインクジェット記録装置2)の装置コストも上昇してしまう。
【0033】
これに対して、本実施形態に係る脱気システム1は、以下に示す特徴的な構成を備えて、上記の課題の解決が可能となる。
【0034】
図2(a)、2(b)は、本実施形態に係る脱気システム1を構成する脱気モジュールを説明するための概略図である。
図2(a)において、10Aは脱気モジュール、11は気体透過性を有する脱気膜、13aはインク導入路、13bはインク導出路、15は脱気室、15aはケース(枠体)、15bは排気口である。また、同
図2(a)中の矢印Aはインク3の流れる向きを示し、矢印Bは脱気した気体の流れる向きを示す。
【0035】
脱気モジュール10Aは、脱気膜11の一方側(この場合、チューブ状に形成された膜の内側および当該内側に連通する側)に液体(ここではインク3)を満たすと共に当該脱気膜11の他方側(この場合、チューブ状に形成された膜の外側および当該外側に連通する側)を減圧することによって、液体(インク3)の脱気を行うことができる。
【0036】
脱気膜11は、インクを通過させず、気体のみを通過させる機能性材料からなる膜であり、ここでは内径100[μm]〜500[μm]でチューブ状に形成された膜が100[本]〜1000[本]束になった形状のもので構成している。
脱気膜11の材料としては、適切な内径や膜厚を有する中空糸膜、複合中空糸膜等が挙げられ、用途によって種々最適なものを選択することができる。例えば、ポリオレフィン系ポリマー、シリコンゴム系ポリマー、ウレタン系ポリマー、セルロース系ポリマー等のポリマー素材等を用いることが考えられる。
また、用いるインク3の材質、要求されるインク3中の溶存気体濃度等の条件により、膜の厚さや形状を決定するとよい。さらに、膜を単一で用いたり、多層構造にしたりする等の選択も可能である。多層構造にする場合、異種の素材の組み合わせを用いて構成してもよい。
【0037】
インク導入路13aおよびインク導出路13bは、脱気室15内の脱気膜11へのインク3の導入および脱気膜11からのインク3の導出を行うために設けられているものであり、ここではチューブ形状のもので構成している。インク導入路13aおよびインク導出路13bの材料としては、インク3中に溶解する成分を含まず、インク3との接触により変質、変形、破損しないものが好適である。例として、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。
【0038】
脱気室15は、脱気膜11と、インク導入路13aおよびインク導出路13bのそれぞれの一部とを取り囲むケース(枠体)15aで構成され、当該ケース15aの一部に排気口15bを備えている。
脱気膜11は接着剤16を用いてケース15aに接着されている。より詳しくは、脱気膜(中空糸膜)11の外周面とケース15aの内周面とが接着剤16によって接着されており、脱気膜(中空糸膜)11の端面(長手方向の端面)は開放された状態となっている。一例として、接着剤16にはエポキシ系樹脂が用いられる。
【0039】
ケース15aは、脱気室15の機能を満足するものであれば足り、管体や直方体等、用途に応じた好適な形状とすることができる。なお当該形状として、インクジェット記録装置2のインクジェットヘッド26により近いインク供給路30に実装可能な形状とすれば、当該インクジェットヘッド26の吐出ノズル(不図示)に近くなってインク3の吐出が安定するため、好適である。
【0040】
ケース15aの材料としては、用途に応じて適当な機械的強度を有するものが望ましい。例えば、脱気室15を5[kPa]に減圧した稼働状態において、脱気モジュール10(10A)の機能に影響するクラックや変形、破損等が発生しない強度を有することが望ましい。また、インクジェットヘッド26の走査等の動作による異常が発生しない強度が要求される。さらに、インク導入路13aおよびインク導出路13bと同様に、インク3中に溶解する成分を含まず、インク3との接触により変質、変形、破損しないことが要求される。これらの条件を満たす材料としては、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。ただし、インク3としてUV硬化性のインクを用いる場合、ケース15aはUV光が透過しない材料(遮光性を有する材料)で構成する。例えば、遮光性を有する着色ポリエチレン樹脂等が挙げられる。
【0041】
なお、インク3は、本実施形態においては、文字や画像を平面上に記録する色材を含むインクの他、有機EL材料、金属ナノ粒子の分散インク等の機能性液体(機能性インク)等を含んでいる。これらのインク3の粘度は、例えば1〜30[mPa・s]程度の範囲で適用可能である。また、脱気モジュール10(10A)の稼働時には、インクの温度が10〜45[℃]の範囲であり、また非稼働時には、−20〜60[℃]の範囲で異常発生がないことを前提としている。
【0042】
ここで、本実施形態に係る脱気モジュール10Aに特徴的な構成として、複数の細長いチューブ形状の脱気膜(中空糸膜)11が短手方向に隣接して配置されて束状に集合した中空糸膜束部11a、および当該中空糸膜束部11aの一方側(すなわち前述の脱気膜11の一方側)に連通し、且つ、当該中空糸膜束部11aの外側(本実施形態では、中空糸膜束部11aよりもインク導入路13a側およびインク導出路13b側)に隣接配置され液体が溜められる液体溜まり部17および18が設けられている(
図2(a)参照)。
液体溜まり部17および18は、溜まっている液体(ここではインク3)中の気体の中空糸膜束部11aへの拡散による脱気が行われる為に、好ましくは中空糸膜束部11aの端面を延長(端部の面積で延長)した形状の空間であり、延長の長さ、すなわち容積は求められる液体(インク3)の流量(流速)や液体(インク3)中の気体の拡散特性で最適化がなされる。
なお、変形例として、液体溜まり部は、中空糸膜束部11aの外側二箇所にそれぞれ設けるのではなく、中空糸膜束部11aの外側いずれか一箇所に設ける構成としてもよい(不図示)。
【0043】
次に、
図2(b)において、10Bは10Aと同様の機能を有する脱気モジュールである。
脱気膜11、インク導入路13a、インク導出路13b、脱気室15、ケース15aは
図2(a)の脱気モジュール10Aと同様の機能を有するが、位置関係が異なっている。また、同
図2(b)中の矢印Aはインク3の流れる向きを示し、矢印Bは脱気した気体の流れる向きを示す。
【0044】
脱気モジュール10Bは、脱気膜11の一方側(この場合、チューブ状に形成された膜の外側および当該外側に連通する側)に液体(ここではインク3)を満たすと共に当該脱気膜11の他方側(この場合、チューブ状に形成された膜の内側および当該内側に連通する側)を減圧することによって、液体(インク3)の脱気を行うことができる。
【0045】
脱気モジュール10Bは、インク導入路13aが脱気膜11とは接続されておらず、ケース15aのみに接続されている。このため、脱気室15内に導入されたインクの流路は、脱気膜11の外側であって、ケース15aの内側である。また、インク導出路13bも同様に、ケース15aの一部に接続されている。排気口15bはケース15aを貫通して、脱気膜11に接続されている。
【0046】
また、脱気膜11は接着剤16を用いてケース15aに接着されている。本実施形態においては、脱気膜(中空糸膜)11の排気口15b寄りの外周面とケース15aの内周面とが接着剤16によって接着されており、当該脱気膜(中空糸膜)11の排気口15b寄りの端面(長手方向の端面)は開放された状態となっている。一方、脱気膜(中空糸膜)11のインク導入路13a寄りの外周面は当該インク導入路13a寄りの端面(長手方向の端面)と共に接着剤16によってケース15aの内周面に接着されており、当該脱気膜(中空糸膜)11のインク導入路13a寄りの端面は開放されていない状態となっている。一例として、接着剤16にはエポキシ系樹脂が用いられる。
【0047】
ここで、本実施形態に係る脱気モジュール10Bに特徴的な構成として、複数の細長いチューブ形状の脱気膜(中空糸膜)11が短手方向に隣接して配置されて束状に集合した中空糸膜束部11a、および当該中空糸膜束部11aの一方側(すなわち前述の脱気膜11の一方側)に連通し、且つ、当該中空糸膜束部11aの外側(本実施形態では、中空糸膜束部11aよりもインク導入路13a側およびインク導出路13b側)に隣接配置され液体が溜められる液体溜まり部17および18が設けられている(
図2(b)参照)。
液体溜まり部17は、溜まっている液体(ここではインク3)中の気体の中空糸膜束部11aへの拡散による脱気が行われる為に、好ましくは中空糸膜束部11aの断面を延長(端部の面積で延長)した形状の空間であり、延長の長さ、すなわち容積は求められる液体(インク3)の流量(流速)や液体(インク3)中の気体の拡散特性で最適化がなされる。また、液体溜まり部18も、溜まっている液体(インク3)中の気体の中空糸膜束部11aへの拡散による脱気が行われる為に、好ましくは中空糸膜束部11aの外周面を取巻く形状の空間であり、取巻く厚さ、すなわち容積は求められる液体(インク3)の流量(流速)や液体(インク3)中の気体の拡散特性で最適化がなされる。
なお、変形例として、液体溜まり部は、中空糸膜束部11aの外側二箇所にそれぞれ設けるのではなく、中空糸膜束部11aの外側いずれか一箇所に設ける構成としてもよい(不図示)。
【0048】
次に、脱気モジュール10Aおよび10Bの動作について説明をする。
脱気モジュール10Aおよび10Bは、本実施形態においては、
図2(a)、(b)に示すように、減圧を行うための真空ポンプ19と組み合わせて脱気システム1としてインクジェット記録装置2に組み込まれる。
【0049】
先ず、脱気モジュール10Aの動作として、インクジェット記録装置2を通流するインク3は、移送手段(送液ポンプ22)によって送られて、インクカートリッジ20等のインク供給手段から、インク導入路13aを介し、脱気室15内の脱気膜11内に流れ込む。より詳細には、脱気膜11は前述のようにチューブ状の膜の束であるため、脱気膜11の個々のチューブ内をインク3が流れることになる。このとき、脱気室15内の気体を、例えば真空ポンプ19等の減圧手段を用いて排気口15bから外部に排気させることにより、脱気室15内を5〜40[kPa]程度に減圧する。これにより、脱気膜11内を通過するインク3内に溶存する気体が脱気膜11を透過して脱気室15内に排出されインク3中の気体の溶存濃度が低減される。また同時に、上述の排気処理により、脱気15のケース15a内の気密性が確保される。脱気室15内に排出されたインク3中の溶存気体は、最終的には排気口15bの外側から、減圧手段19を経由して大気中に排気される。その後、溶存気体が除かれたインク3がインク導出路13bに到達し、さらにインクジェットヘッド26へと流れ込む。
【0050】
特に、本実施形態に係る脱気モジュール10(ここでは10A)は、液体溜まり部17、18を有することによって、以下の作用効果が奏される。
すなわち、液体溜まり部17、18の中の液体(ここではインク3)は中空糸膜部分(ここでは中空糸膜束部11a)の液体の様に直接脱気はされないものの、中空糸膜部分(中空糸膜束部11a)の液体が脱気されることにより、液体溜まり部17、18の中の液体中の溶存気体は自然拡散により中空糸膜部分(中空糸膜束部11a)の方向に移動し、脱気される。
【0051】
例えば、インクジェット記録装置2等のように、脱気モジュールの通液が停止と移送(送液)とを繰り返すシステムであれば、停止時間内に拡散による脱気が進むので、少ない脱気膜(ここでは中空糸膜)の量でも一度に送液可能な脱気済み液が増える。逆の表現をすれば、同じ脱気膜(中空糸膜)の量でも液体溜まり部17、18の容量だけ一度に送液可能な脱気済み液が増え、例えば中空糸の束の部分の直接脱気される液の容量と液体溜まり部17、18の容量の三者の容量が等しければ、一度に送液可能な脱気済み液は三倍となる。
【0052】
インクジェット記録装置の中でも看板やポスター等の大サイズのプリント用のものはインクの消費流量が多く、ベタ記録で連続にインクを吐出する場合はインク流速が10[ml/min.]あまりに達する。前述の比較例に示されるインクジェット記録装置2において、例えばバッファタンク24の容量が15[ml]の場合、バッファタンク24内部のインク3が記録(プリント)動作により減少して、液面センサー27が当該減少状態を検知し、送液ポンプ22を駆動して、例えばインク3を約10[ml]送液するものとする。つまり、インク3の消費流量に依存して1[min.]以上の時間間隔毎に10[ml]単位を送液することとなる。
【0053】
送液ポンプ22による駆動はインクジェットヘッド26の吐出圧力バランスの維持や送液ポンプ22の発熱等を考慮して、例えば100[ml/min.]の流速で10[ml]単位を送液するように、すなわち6[sec.]間駆動される。
【0054】
ここで、仮に脱気モジュール10(10A)が液体溜まり部17、18を有さないものとして、脱気膜11の内部(すなわち中空糸膜束部11aの部分)の液体容量が5[ml]であるとした場合、10[ml]単位の送液の当初の5[ml]は送液が停止している間に充分に脱気されているが、後に続く5[ml]は100[ml/min.]の流速で脱気モジュール10(10A)の内部を通過してしまい、全く脱気しない状態でバッファタンク24に送液されてしまうことになる。さらに、前述の「インクジェットヘッドを含むインク流路の洗浄時」には15[ml/min.]であるので、同様に脱気されないインク3で洗浄することとなってしまう。
【0055】
これに対し、本実施形態のように、例えば液体溜まり部17、18を有する構成とすれば、脱気膜11の内部(すなわち中空糸膜束部11aの部分)の液体容量が5[ml]のままであっても、液体溜まり部17、18のそれぞれが5[ml]ずつの容量とすれば15[ml]のインク3に対して、移送(送液)が停止している間に充分に脱気を行うことが可能となる。したがって、上記のように10[ml]単位の送液の際にも、脱気しない状態のインクが送液されてしまうことが解消される。さらに「インクジェットヘッドを含むインク流路の洗浄時」にもおいても、脱気済みの15[ml]が脱気モジュール10(10A)内部にあるので、脱気されたインクで洗浄を行うことが可能となる。
【0056】
以上の量的関係を一般的に表すと、
脱気モジュール内部の全インク容積:Vo
中空糸膜束部のインク容積:Vf
液体溜まり部の合計インク容積:Va
一回分の液体移送(送液)インク容積:V1
一回分の液体移送(送液)時間:t
液体停止時間の最短値:Tmin.
液体移送〜停止の最短周期:To (=t+Tmin.)
とすると、従来技術の脱気モジュールでは、
Vo =Vf
V1 >Vo
となり、V1のうちVoのインク容積はTo の時間に十分に脱気されてtの時間内に移送されるが、(V1−Vo)の差分のインク容積はt(V1−Vo)/V1の短時間で脱気モジュールを通過するので不十分な脱気で移送されることとなる。
一方、本発明の脱気モジュールでは、
Vo =Vf + Va
V1 ≦Vo
となり、V1のインク容積がTo の時間に十分に脱気され、tの時間で移送されることとなる。結果として不十分な脱気で移送されることはない。
なお、従来技術の脱気モジュールで本発明と同じ効果を得る為には、
Vo =Vf’
Vf’=Vf + Va
V1 ≦Vo
の関係、すなわち中空糸膜束部のインク容積:Vf’を大きなものにしないと達成できず、脱気モジュールが高価格となる。
【0057】
これらのことから、液体溜まり部17、18は、それらの合計容積(液体容量)を、インクジェット記録装置2においてインク3が断続移送される際の停止(移送停止状態)を利用して、中空糸膜束部11aによって脱気可能な容積に設定すればよい。
特に、液体溜まり部17、18は、それらの合計容積(液体容量)を、上記インク3が断続移送される際の停止(移送停止状態)を利用して、中空糸膜束部11aによって脱気可能な最大容積とすることが好適である。これによれば、最小量の脱気膜(中空糸膜)11で、必要な脱気を達成することができる。
【0058】
また、本実施形態においては、脱気膜11の一方側(この場合、チューブ状に形成された膜の内側および当該内側に連通する側)の容積と、液体移送手段(ここでは送液ポンプ22)による一回分の移送量とが略同一となるように構成している。これによれば、送液ポンプ22によって断続的に移送される一回分の液体(インク3)移送量が、脱気膜11の一方側の容積と略同一なので、脱気モジュールを大型化することなく、確実に脱気された液体(インク3)を移送させることができる。
【0059】
以上のように、インクジェットヘッド26へ脱気されたインク3を移送(送液)することが可能となるため、インクジェットヘッド26からインク3を吐出する際には、気体の溶存濃度が低いインク3となって被記録媒体(メディアM)に吐出される。したがって、インク3中に混入する気泡に起因した吐出不良が発生することもなく、被記録媒体に記録される画質の精度を向上させることができる。
【0060】
次に、脱気モジュール10Bの動作について説明する。脱気モジュール10Aと同様に、インクジェット記録装置2を流れるインク3が、インクジェットヘッド26のキャリッジ23内に到達し、インクカートリッジ20等のインクを供給する手段からインク導入路13aを介し、脱気室15内のケース15aの内側であって、脱気膜11の外側の部分に流れ込む。このとき、脱気膜11内の気体を、真空ポンプ19等の減圧手段を用いて排気口15bから外部に排気させることにより、脱気膜11内を5〜40[kPa]程度に減圧する。これにより、脱気膜11の外側を通過するインク3内に溶存する気体が、脱気膜11を透過して排気口15b方向に排出され、インク3中の気体の溶存濃度が低減される。脱気膜11内に排出されたインク3中の溶存気体は、最終的には排気口15bの外側から、減圧手段19を経由して大気中に排気される。その後、溶存気体が除かれたインク3がインク導出路13bに到達し、さらにインクジェットヘッド26へと流れ込む。
【0061】
本実施形態に係る脱気モジュール10(ここでは10B)が、液体溜まり部17、18を有することによって奏される作用効果は、脱気モジュール10Aの場合と同様であるため繰り返しの説明を省略する。
【0062】
なお、脱気モジュール10Bの場合には、脱気膜11の一方側(この場合、チューブ状に形成された膜の外側および当該外側に連通する側)の容積と、液体移送手段(ここでは送液ポンプ22)による一回分の移送量とが略同一となるように構成すればよい。
【0063】
以上説明した通り、開示の実施形態によれば、従来と同じ脱気膜(中空糸膜)の構成(形状・大きさ・量)であっても、中空糸膜(中空糸膜束部)の前後に液体溜まり部を設けることで、当該液体溜まり部内の液体(例えばインク)も自然拡散による脱気を行うことができるため、移送(送液)時に従来よりも多量の脱気済み液体を送液することが可能となる。
【0064】
すなわち、同じ脱気液量の送液能力であっても中空糸膜が少なくて済むため、脱気システム(脱気モジュール)、ひいては組み込み装置(例えばインクジェット記録装置)のコストを低減することができる。
【0065】
さらに、中空糸膜を少なくできることによって、脱気モジュールでの送液の圧力損失が少なくなるため、移送手段(送液ポンプ)が小さなもので足り、装置コストを低減することができる。
【0066】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、脱気システムが組み込まれる装置の例として、インクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、その他の装置に対しても適用が可能である。
【0067】
例えば、適用が考えられる分野としては、(1)画像、パターン、文字を平面や曲面上に記録するインクジェット記録装置のインクの脱気、(2)カラーフィルタ向け着色液や、液晶ディスプレイの配向膜形成液を吐出する装置の液の脱気、(3)導電パターン、TFT、有機EL、太陽電池等の材料を溶液化した液を吐出する装置の液の脱気、(4)その他、脱気モジュール内部の送液が停止と送液を断続的に制御される液体脱気システム、等である。