【実施例】
【0012】
図1〜
図19は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は電動車両としてのハイブリッド車両の駆動制御装置である。
駆動制御装置1は、トルクを出力する駆動源である内燃機関(図面上では「ENG」と記す)2の出力軸3と、複数のモータジェネレータ(電動機)としての第一のモータジェネレータ(図面上では「MG1」と記す)4及び第二のモータジェネレータ(図面上では「MG2」と記す)5と、駆動輪6に出力伝達機構7を介して接続される駆動軸(図面上では「OUT」と記す)8と、内燃機関2の出力軸3と第一のモータジェネレータ4と第二のモータジェネレータ5と駆動軸8とに夫々連結された動力伝達機構(差動歯車機構)9とを備えている。
内燃機関2の出力軸3の途中には、内燃機関2側で、ワンウェイクラッチ10が備えられている。このワンウェイクラッチ10は、内燃機関2が逆回転しないようにするものであり、また、EV(電気車両)走行時には第二のモータジェネレータ5のトルク反力を受けるものである。
第一のモータジェネレータ4は、第一のロータ11と第一のステータ12とからなる。第二のモータジェネレータ5は、第二のロータ13と第二のステータ14とからなる。
また、駆動制御装置1は、第一のモータジェネレータ4を作動制御する第一のインバータ15と、第二のモータジェネレータ5を作動制御する第二のインバータ16と、第一のインバータ15と第二のインバータ16とに連絡した制御手段(駆動制御部:ECU)17とを備えている。
第一のインバータ15は、第一のモータジェネレータ4の第一のステータ12に接続している。第二のインバータ16は、第二のモータジェネレータ5の第二のステータ14に接続している。
第一のインバータ15と第二のインバータ16の各電源端子は、バッテリ(駆動用高電圧バッテリ)18に接続している。このバッテリ18は、第一のモータジェネレータ4及び第二のモータジェネレータ5と電力のやり取りが可能なものである。
この駆動制御装置1においては、内燃機関2と第一のモータジェネレータ4・第二のモータジェネレータ5とからの出力を用いて、ハイブリッド車両を駆動制御する。
【0013】
動力伝達機構9は、いわゆる4軸式の動力入出力装置であり、内燃機関2の出力軸3と駆動軸8とを配置し、また、内燃機関2側の第一のモータジェネレータ4と駆動軸8側の第二のモータジェネレータ5とを配置し、内燃機関2の動力と第一のモータジェネレータ4の動力と第二のモータジェネレータ5の動力とを合成して駆動軸8に出力し、内燃機関2と第一のモータジェネレータ4と第二のモータジェネレータ5と駆動軸8との間で動力の授受を行う。
この動力伝達機構9の4つの回転要素は、
図12の共線図に示すように、第一のモータジェネレータ(MG1)4に連結された回転要素、内燃機関(ENG)2に連結された回転要素、駆動軸(OUT)8に連結された回転要素、第二のモータジェネレータ(MG2)5に連結された回転要素の順序で並ぶとともに、それらの要素間の相互のレバー比を同順にk1:1:k2として設ける。
ここで、
k1:内燃機関(ENG)−駆動軸(OUT)間を「1」とした場合の第一のモータジェネレータ(MG1)−内燃機関(ENG)間のレバー比
k2:内燃機関(ENG)−駆動軸(OUT)間を「1」とした場合の駆動軸(OUT)−第二のモータジェネレータ(MG2)間のレバー比
である。
【0014】
動力伝達機構9は、互いの2つの回転要素が連結された第一の遊星歯車機構19と第二の遊星歯車機構20とを並設して構成される。
第一の遊星歯車機構19は、第一のサンギア21と、この第一のサンギア21に噛み合った第一のピニオンギア22と、この第一のピニオンギア22に噛み合った第一のリングギア23と、第一のピニオンギア22に連結した第一のキャリア24と、第一のリングギア23に連結した出力ギア25とを備えている。
第二の遊星歯車機構20は、第二のサンギア26と、この第二のサンギア26に噛み合った第二のピニオンギア27と、この第二のピニオンギア27に噛み合った第二のリングギア28と、第二のピニオンギア27に連結した第二のキャリア29とを備えている。
【0015】
動力伝達機構9において、第一の遊星歯車機構19の第一のキャリア24は、内燃機関2の出力軸3に連結している。また、第二の遊星歯車機構20の第二のキャリア29は、第一の遊星歯車機構19の第一のリングギア23及び出力ギア25に連結している。
第一のサンギア21には、第一のモータ出力軸30を介して第一のモータジェネレータ4の第一のロータ11が接続する。第一のキャリア24・第二のサンギア26には、内燃機関2の出力軸3が接続する。第一のリングギア23・第二のキャリア29には、出力ギア25及び出力伝達機構7を介して駆動軸8が接続する。第二のリングギア28には、第二のモータ出力軸31を介して第二のモータジェネレータ5の第二のロータ13が接続する。
第二のモータジェネレータ5は、第二のモータ出力軸31と第二のリングギア28と第二のキャリア29と第一のリングギア23と出力ギア25と出力伝達機構7と駆動軸8とを介して駆動輪6に直接連結可能となり、単独出力のみで車両を走行させることができる性能を備えている。
つまり、動力伝達機構9においては、第一の遊星歯車機構19の第一のキャリア24と第二の遊星歯車機構20の第二のサンギア26とを結合して内燃機関2の出力軸3に接続し、第一の遊星歯車機構19の第一のリングギア23と第二の遊星歯車機構20の第二のキャリア29とを結合して駆動軸8に接続し、第一の遊星歯車機構19の第一のサンギア21に第一のモータジェネレータ4を接続し、第二の遊星歯車機構20の第二のリングギア28に第二のモータジェネレータ5を接続し、内燃機関2、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5、及び駆動軸8との間で動力の授受を行っている。
制御手段17には、アクセルペダルの踏み込み量をアクセル開度として検出するアクセル開度検出手段32と、車速を検出する車速検出手段33と、バッテリ18の充電状態(SOC)を検出するバッテリ充電状態検出手段34と、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段35とが連絡している。
また、制御手段17には、内燃機関2を制御するように、空気量調整機構36と、燃料供給機構37と、点火時期調整機構38とが連絡している。
【0016】
制御手段17は、
図1、
図2に示すように、目標駆動力設定手段17Aと、目標駆動パワー設定手段17Bと、目標充放電パワー設定手段17Cと、暫定目標エンジンパワー算出手段17Dと、暫定目標エンジン動作点設定手段17E、目標エンジン動作点設定手段17Fと、目標エンジンパワー設定手段17Gと、目標電力算出手段17Hと、モータトルク指令値演算手段17Iとを備える。
目標駆動力設定手段17Aは、アクセル開度検出手段32により検出されたアクセル開度と車速検出手段33により検出された車速とに基づいて目標駆動力を設定する。
目標駆動パワー設定手段17Bは、アクセル開度検出手段32により検出されたアクセル開度と車速検出手段33により検出された車速とに基づいて目標駆動パワーを設定する。
目標充放電パワー設定手段17Cは、少なくともバッテリ充電状態検出手段34により検出されたバッテリ18の充電状態(SOC)に基づいて目標充放電パワーを設定する。
暫定目標エンジンパワー算出手段17Dは、目標駆動パワー設定手段17Bにより設定された目標駆動パワーと目標充放電パワー設定手段17Cにより設定された目標充放電パワーとから暫定目標エンジンパワーを算出する。
また、この暫定目標エンジンパワー算出手段17Eは、目標駆動パワーがバッテリ18の電力に依るパワーアシストを受けている状態に相当する目標エンジンパワー最大値(制限値)を予め設定して備えるとともに、目標駆動パワー設定手段17Bと目標充放電パワー設定手段17Cとから算出した暫定目標エンジンパワーと目標エンジンパワー最大値とを比較してそのうち小さい方の値を暫定目標エンジンパワーとして更新する。これにより、エンジン動作点を目標値に合わせるよう制御しつつ、バッテリ18の充電状態(SOC)を所定範囲内とすることができるとともに、バッテリ18の電力を使ったパワーアシスト領域を設けることができる。また、運転者の要求に応じてパワーアシスト領域を利用し、バッテリ18の電力を使った駆動を行うことができる。更に、バッテリ18ヘの充放電がある場合の第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5の制御を行うことができる。
暫定目標エンジン動作点設定手段17Eは、暫定目標エンジンパワー算出手段17Dにより算出された暫定目標エンジンパワーとシステム全体効率の検索マップMとから暫定目標エンジン回転速度及び暫定目標エンジントルクを決める暫定目標エンジン動作点を設定する。
目標エンジン動作点設定手段17Fは、車速検出手段33により検出された車速に基づいて設定される目標エンジン回転速度の変化率制限値を予め設定するとともにこの変化率制限値と前回目標エンジン回転速度から目標エンジン回転速度制限値を算出し、かつこの目標エンジン回転速度制限値と前記暫定目標エンジン回転速度に基づいて目標エンジン回転速度及び目標エンジントルクを決める目標エンジン動作点を設定する。
目標エンジンパワー設定手段17Gは、目標エンジン回転速度算出手段17Fにより算出された目標エンジン回転速度と目標エンジントルク算出手段17Eにより算出された目標エンジントルクとから目標エンジンパワーを算出する。
目標電力算出手段17Hは、目標エンジン動作点設定手段17Fにより設定された目標エンジン動作点から算出する目標エンジンパワーと目標駆動パワー設定手段17Bにより設定された目標駆動パワーとの差から目標電力を算出する。
【0017】
モータトルク指令値演算手段17Iは、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のそれぞれのトルク指令値を設定するものであって、前記目標エンジン動作点から求められる目標エンジントルクを含むトルクバランス式と前記目標電力を含む電力バランス式とを用いて第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のそれぞれのトルク指令値を算出する。
また、このモータトルク指令値演算手段17Iは、目標エンジン動作点から求められる目標エンジン回転速度に実際のエンジン回転速度を収束させるように第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のトルク指令値にそれぞれのフィードバック補正量を設定する。これにより、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のトルク指令値をそれぞれ細かく補正することによって、速やかに、エンジン回転速度を目標値に収束させることができる。エンジン動作点を目標とする動作点に併せることができるので、適切な運転状態とすることができる。
更に、このモータトルク指令値演算手段17Iは、目標エンジン動作点から求められる目標エンジン回転速度と車速とから第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のそれぞれの回転速度を算出する。これら第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5の回転速度と目標電力と目標エンジントルクに基づいて第一のモータジェネレータ4のトルク指令値を算出する。一方、この第一のモータジェネレータ4のトルク指令値と目標エンジントルクに基づいて第二のモータジェネレータ5のトルク指令値を算出する。第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のトルク指令値を別に算出するので、個別にフィードバック補正することも可能になる。
【0018】
即ち、この実施例では、内燃機関2の出力、第一のモータジェネレータ4・第二のモータジェネレータ5の動力を合成して駆動輪6に接続される駆動軸8を駆動するハイブリッド車両において、電力によるパワーアシスト分を加算した駆動力の値を目標駆動力の最大値として予め設定しておき、アクセル開度と車速とをパラメータとする目標駆動力と車速とから目標駆動パワーを求め、充電状態(SOC)に基づいて目標充放電パワーを求めて目標駆動パワーに加算した値を暫定目標エンジンパワーとして求め、この暫定目標エンジンパワーから暫定目標エンジン動作点を求め、暫定目標エンジン動作点におけるエンジン回転速度に対応した値に変更して目標エンジン動作点とし、この目標エンジン動作点から目標エンジンパワーを計算し、目標駆動パワーと目標エンジンパワーとの差からバッテリ18からの入出力電力の目標値である目標電力を求め、目標エンジントルクを含むトルクバランス式と目標電力を含む電カバランス式とから第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5の制御指令値(トルク指令値)を演算する。
この実施例におけるエンジン動作点の変化は、
図8となる。エンジン動作点をAポイントからDポイントまで変更する場合、
図8に示すように、エンジン動作点は、Aポイント→Bポイント→Cポイント→Dポイントをトレースしながら変更される。従って、目標エンジン回転速度の変化率制限により、すなわち、単位時間当たりの変化量制限により、エンジン回転速度の急変が抑制できる。
【0019】
次に、アクセル開度と車速とから目標エンジン動作点(目標エンジン回転速度、目標エンジントルク)及び目標電力の演算を、
図2の制御ブロック図及び
図4、
図5のフローチャートに基づいて説明する。
図4に示すように、制御手段17のプログラムがスタートすると(ステップ101)、先ず、制御に用いる各種信号(アクセル開度、車速、充電状態(SOC))を取り込み(ステップ102)、
図9に示す目標駆動力検索マップから、アクセル開度と車速とに応じた目標駆動力を算出する(ステップ103)。この場合、アクセル開度が零(0)での高車速域は、エンジンブレーキ相当の減速方向の駆動力となるよう負の値に設定し、一方、車速が低い領域では、クリープ走行ができるよう正の値としている。
そして、目標駆動力と車速とを乗算して、目標駆動力で車両を駆動するのに必要な目標駆動パワーを設定する(ステップ104)。
さらに、バッテリ18の充電状態(SOC)を通常使用範囲内に制御するために、目標とする充放電パワーを、
図10に示す目標充放電量検索テーブルから算出する(ステップ105)。この場合、バッテリ18の充電状態(SOC)が低い場合には、充電パワーを大きくしてバッテリ18の過放電を防止するようにし、バッテリ18の充電状態(SOC)が高い場合は、放電パワーを大きくして過充電を防止するようにしている。便宜上、放電側を正の値、充電側を負の値として取り扱う。
目標駆動パワーと目標充放電パワーとから内燃機関2が出力すべき暫定目標エンジンパワーを計算する(ステップ106)。この内燃機関2が出力すべき暫定目標エンジンパワーは、ハイブリッド車両の駆動に必要なパワーにバッテリ18を充電するパワーを加算(放電の場合は減算)した値となる。ここでは、充電側を負の値として取り扱っているので、目標駆動パワーから目標充放電パワーを減算して、暫定目標エンジンパワーを算出する。
そして、暫定目標エンジンパワーが上限パワーを超えたかどうかを判断する(ステップ107)。
このステップ107がYESの場合には、暫定目標エンジンパワーの上限ガードを行うように、上限パワーを暫定目標エンジンパワーとする(ステップ108)。
前記ステップ107がNOの場合、又は、前記ステップ108の処理後は、
図11に示す目標エンジン動作点検索マップから、暫定目標エンジンパワーと車速に応じた暫定目標エンジン動作点(目標エンジン回転速度、目標エンジントルク)を算出する(ステップ109)。
【0020】
上記の目標エンジン動作点検索マップは、
図11に示すように、等パワーライン上で内燃機関2の効率に動力伝達機構9と第一のモータジェネレータ4と第二のモータジェネレータ5とにより構成される動力伝達系の効率を加味した全体の効率が良くなるポイントを各パワー毎に選定して結んだラインを目標動作点ラインとして設定する。そして、この目標動作点ラインは、各車速毎に設定する。この設定値は、実験的に求めてもよいし、内燃機関2、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5の効率から計算して求めてもよい。
なお、目標動作点ラインは、車速が高くなるにつれて高回転側に移動する設定としている。これは、次の理由による。
車速によらず同一のエンジン動作点を目標エンジン動作点とした場合、
図12に示すように、車速が低い場合には、第一のモータジェネレータ4の回転速度は正となり、第一のモータジェネレータ4が発電機、第二のモータジェネレータ5が電動機となる(
図12のAの状態)。そして、車速が高くなるにつれて、第一のモータジェネレータ4の回転速度は零(0)に近づき(
図12のBの状態)、さらに、車速が高くなると、第一のモータジェネレータ4の回転速度は負となり、この状態になると、第一のモータジェネレータ4は電動機として作動し、第二のモータジェネレータ5は発電機として作動する(
図12のCの状態)。
車速が低い場合(
図12のAの状態及びBの状態)パワーの循環は起きないので、目標動作点は、
図11に示す車速=40km/hの目標動作点ラインのように、概ねエンジン効率の良いポイントに近いものとなる。
しかし、車速が高い場合(
図12Cの状態)になると、第一のモータジェネレータ4は電動機として作動し、第二のモータジェネレータ5は発電機として作動し、パワー循環が発生するため、動力伝達系の効率が低下する。
従って、
図13のポイントCに示すように、エンジン効率が良くても、動力伝達系の効率が低下するため、全体としての効率が低下してしまう。
そこで、高車速域でパワー循環が発生しないようにするには、
図14に示す共線図のポイントEで示すように、第一のモータジェネレータ4の回転速度を零(0)以上にすればよいが、そうすると、エンジン回転速度が高くなる方へエンジン動作点が移動するので、
図13のポイントEに示すように、動力伝達系の効率が良くなっても、エンジン効率が大きく低下するので、全体としての効率は低下してしまう。
従って、
図13に示すように、全体としてのエンジン効率が良いポイントは、両者の間のポイントDとなり、このポイントDを目標エンジン動作点とすれば最も効率のよい運転が可能となる。
上記のポイントC、ポイントD、ポイントEの3つの動作点を目標動作点検索マップ上に表したのが、
図15である。この
図15において、車速が高い場合に、全体効率が最良となるエンジン動作点は、エンジン効率が最良となる動作点よりも高回転側に移動することが明白である。
【0021】
次に、この目標エンジン動作点及び目標電力の演算を、
図5のフローチャートに移行して説明する。
図5に示すように、
図4の前記ステップ109の処理後で、暫定目標エンジン回転速度の変化率に制限を施し、目標エンジン回転速度を算出する(ステップ110)。
具体的には、この目標エンジン回転速度の算出においては、
図6のサブフローを用いる。
図6に示すように、プログラムがスタートすると(ステップ201)、前回(現在)の目標エンジン回転速度から所定の変化率に応じた分まで変化した場合の目標エンジン回転速度の変化率上限制限値及び目標エンジン回転速度の変化率下限制限値を算出するとともに(ステップ202)、暫定目標エンジン回転速度が前回(現在)の目標エンジン回転速度以上かどうかを判断する(ステップ203)。
このステップ203がYESの場合、暫定目標エンジン回転速度が目標エンジン回転速度の変化率上限制限値以上かどうかを判断する(ステップ204)。
前記ステップ203がNOの場合、暫定目標エンジン回転速度が目標エンジン回転速度の変化率上限制限値未満かどうかを判断する(ステップ205)。
前記ステップ204がYESの場合、目標エンジン回転速度の変化率上限制限値を目標エンジン回転速度とする(ステップ206)。
前記ステップ204がNOの場合、暫定目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度とする(ステップ207)。
前記ステップ205がYESの場合、目標エンジン回転速度の変化率下限制限値を目標エンジン回転速度とする(ステップ208)。
前記ステップ205がNOの場合、暫定目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度とする(ステップ209)。
前記ステップ206、又は、前記ステップ207、又は、前記ステップ208、又は、前記ステップ209の処理後は、プログラムをエンドとする(ステップ210)。
【0022】
そして、
図5のフローチャートに戻って、前記目標エンジン回転速度における目標エンジントルクを、
図8の過渡状態における目標エンジン動作点検索マップから算出する(ステップ111)。
この実施例における目標エンジン動作点は、
図8に示すようになり、ポイントAからポイントDまでエンジン動作点を変更する場合、目標エンジン回転速度の変化率制限により、エンジン動作点は、ポイントAとポイントBとポイントCとポイントDとを順次にトレースしながら変更されることになる。なお、このエンジン動作点変更中のポイントBやポイントCは、最終目標値であるポイントDに比べてエンジン2から出力されるパワーは小さくなる。
次に、前記算出された目標エンジン動作点(目標エンジン回転速度と目標エンジントルク)から目標エンジンパワーを計算する(ステップ112)。
そして、目標駆動パワーから目標エンジンパワーを減算し、目標電力を算出する(ステップ113)。この目標駆動パワーの方が目標エンジンパワーよりも大きい場合に、目標電力は、バッテリ電力によるアシストパワーを意味する値となる。また、目標エンジンパワーの方が目標駆動パワーより大きい場合には、目標電力はバッテリヘの充電電力を意味する値となる。
ここで、目標エンジンパワーは、実際に出力可能な値であるため、ここで算出した目標電力でパワーアシストを行なえば、運転者の要求する駆動力を得ることができる。
そして、プログラムをリターンする(ステップ114)。
【0023】
次に、目標とする駆動力を出力しつつ、バッテリ18の充放電量を目標値とするための第一のモータジェネレータ4と第二のモータジェネレータ5の目標トルクの演算について、
図3の制御ブロック図及び
図7のフローチャートに基づいて説明する。
図7に示すように、制御手段17のプログラムがスタートすると(ステップ301)、先ず、車速から第一の遊星歯車機構19・第二の遊星歯車機構20の回転速度Noを算出し、そして、エンジン回転速度が目標エンジン回転速度Netとなった場合の第一のモータジェネレータ4の回転速度Nmglt及び第二のモータジェネレータ5の回転速度Nmg2tを算出する(ステップ302)。この回転速度Nmgltと回転速度Nmg2tとは、以下の(式1)、(式2)により算出される。この演算式は、第一の遊星歯車機構19・第二の遊星歯車機構20の回転速度の関係から求められる。
【0024】
Nmglt=(Net−No)*k1+Net ・・・(式1)
【0025】
Nmg2t=(No−Net)*k2+No ・・・(式2)
【0026】
ここで、上記の(式1)、(式2)においては、
図12に示すように、
k1:エンジン(ENG)−駆動軸(OUT)間を「1」とした場合の第一のモータジェネレータ(MG1)−エンジン(ENG)間のレバー比
k2:エンジン(ENG)−駆動軸(OUT)間を「1」とした場合の駆動軸(OUT)−第二のモータジェネレータ(MG2)間のレバー比
である。つまり、このk1、k2は、第一の遊星歯車機構19・第二の遊星歯車機構20のギア比により定まる値である。
そして、回転速度Nmg1t、回転速度Nmg2t、目標電力Pbatt、目標エンジントルクTetから第一のモータジェネレータ4の基本トルクTmgliを算出する(ステップ303)。この基本トルクTmgliは、以下の計算式(3)により算出される。
【0027】
Tmgli=(Pbatt*60/2π−Nmg2t*Tet/k2)/(Nmglt+Nmg2t*(1+k1)/k2) ・・・(式3)
【0028】
この(式3)は、以下に示す第一の遊星歯車機構19・第二の遊星歯車機構20に入力されるトルクのバランスを表し(以下の「(式4)」で示す)、及び第一のモータジェネレータ4と第二のモータジェネレータ5で発電又は消費される電力とバッテリ18ヘの入出力電力(Pbatt)とが等しいことを表す(以下の「(式5)」で示す)からなる連立方程式を解くことにより導き出せる。
【0029】
Tet+(1+k1)*Tmg1=k2*Tmg2 ・・・(式4)
【0030】
つまり、トルクバランス式では、上記の(式4)に示すように、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のそれぞれの目標トルクと目標エンジントルクとを、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5と内燃機関2とを機械的に作動連結する動力伝達機構9のギヤ比に基づくレバー比に基づいてバランスしている。
【0031】
Nmg1*Tmg1*2π/60+Nmg2*Tmg2*2π/60=Pbatt ・・・(式5)
【0032】
次いで、基本トルクTmgliと目標エンジントルクとから第二のモータジェネレータ5の基本トルクTmg2iを、以下の(式6)により算出する(ステップ304)。
【0033】
Tmg2i=(Tet+(1+k1)*Tmg1i)/k2 ・・・(式6)
【0034】
この(式6)は、上記の式(4)から導き出したものである。
次に、エンジン回転速度を目標に近づけるために、エンジン回転速度の目標値との偏差に予め設定した所定のフィードバックゲインを乗算し、第一のモータジェネレータ4のフィードバック補正トルクTmglfb及び第二のモータジェネレータ5のフィードバック補正トルクTmg2fbを算出する(ステップ305)。
第一のモータジェネレータ4のフィードバック補正トルクTmglfbは、
Tmglfb=−ΔTe/(1+K1)
で算出される。
ここで、ΔTeは、トルクバランス式に基づき、エンジントルクの目標トルクに対する変化量である。
第二のモータジェネレータ5のフィードバック補正トルクTmg2fbは、
Tmg2fb=(K1/(1+K2))*Tmglfb
で算出される。
この第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5のトルク指令値にそれぞれ設定するフィードバック補正量は、第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5と駆動軸8と内燃機関2とにそれぞれ連結された4つの回転要素を有する動力伝達機構9のギヤ比ないしレバー比に基づいて関連付けて設定される。
そして、各フィードバック補正トルクTmglfb、Tmg2fbを各基本トルクTmgli、Tmg2iに加算して、第一のモータジェネレータ4のトルク指令値Tmg1及び第二のモータジェネレータ5のトルク指令値Tmg2を算出する(ステップ306)。
第一のモータジェネレータ4のトルク指令値Tmg1は、
Tmg1=Tmg1i+Tmglfb
で算出される。
第二のモータジェネレータ5のトルク指令値Tmg2は、
Tmg2=Tmg2i+Tmg2fb
で算出される。
そして、この算出されたトルク指令値Tmg1、Tmg2により第一のモータジェネレータ4、第二のモータジェネレータ5を駆動制御することにより、目標とする駆動力を出力しつつ、バッテリ18ヘの充放電を目標値とすることができる。
その後、プログラムをリターンする(ステップ307)。
【0035】
図16〜
図19には、代表的な動作状態での共線図を示す。
ここで、k1、k2は、下記のように定義される。
k1=ZR1/ZSl
k2=ZS2/ZR2
ここで、
ZS1:第一のサンギアの歯数
ZR1:第一のリングギアの歯数
ZS2:第二のサンギアの歯数
ZR2:第二のリングギアの歯数
である。
各動作状態については、
図16〜
図19の共線図を用いて説明する。
なお、この
図16〜
図19の共線図において、回転速度は、内燃機関2の回転方向を正方向とし、各軸に入出力されるトルクは内燃機関2のトルクと同じ向きのトルクが入力される方向を正として定義する。従って、駆動軸トルクが正の場合は、車両を後方へ駆動しようとするトルクが出力されている状態(前進時であれば減速、後進時であれば駆動)であり、一方、駆動軸トルクが負の場合は、車両を前方へ駆動しようとするトルクが出力されている状態(前進時であれば駆動、後進時であれば減速)である。
第一のモータジェネレータ4及び第二のモータジェネレータ5による発電や力行(動力を車輪(駆動輪)に伝えて加速、又は上り勾配で均衡速度を保つこと)を行う場合に、第一のインバータ15・第二のインバータ16や第一のモータジェネレータ4・第二のモータジェネレータ5での発熱による損失が発生するため、電気エネルギと機械的エネルギとの間で変換を行う場合の効率は、100%ではないが、説明を簡単にするため、損失が無いと仮定して説明する。
【0036】
現実として損失を考慮する場合には、損失により失われるエネルギの分だけ余分に発電するように制御すればよい。
(1)、LOWギア比状態(
図16参照)
内燃機関2により走行し、第二のモータジェネレータ5の回転速度が零(0)の状態である。この時の共線図を、
図16に示す。第二のモータジェネレータ5の回転速度は、零(0)であるため、電力は消費しない。従って、バッテリ18への充放電が無い場合には、第一のモータジェネレータ4で発電を行う必要はないため、第一のモータジェネレータ4のトルク指令値Tmg1は、零(0)となる。また、エンジン回転速度と駆動軸回転速度との比は、(1+k2)/k2となる。
(2)、中間ギア比状態(
図17参照)
内燃機関2により走行し、第一のモータジェネレータ4及び第二のモータジェネレータ5の回転速度が正の状態である。この時の共線図を、
図17に示す。この場合、バッテリ18への充放電が無い場合、第一のモータジェネレータ4が回生となり、この回生電力を用いて第二のモータジェネレータ5を力行させる。
(3)、HIGHギア比状態 (
図18参照)
内燃機関2により走行し、第一のモータジェネレータ4の回転速度が零(0)の状態である。この時の共線図を、
図18に示す。第一のモータジェネレータ4の回転速度は零(0)であるため回生はしない。従って、バッテリ18への充放電が無い場合には、第二のモータジェネレータ5での力行や回生は行わず、第二のモータジェネレータ5のトルク指令値Tmg2は、零(0)となる。また、エンジン回転速度と駆動軸回転速度との比は、k1/(1+k1)となる。
(4)、動力循環が発生している状態(
図19参照)
図18のHIGHギア比状態よりさらに車速が高い状態では、第一のモータジェネレータ4が逆回転する状態となる。この状態では、第一のモータジェネレータ4は力行となり、電力を消費する。従って、バッテリ18への充放電がない場合には、第二のモータジェネレータ5が回生となり発電を行う。
【0037】
この結果、この発明において、駆動制御装置1は、
算出された目標エンジン回転速度が前回に算出された目標エンジン回転速度以上の場合で、算出された目標エンジン回転速度が目標エンジン回転速度の変化率の上限値以上のときは、当該目標エンジン回転速度の変化率の上限値を目標エンジン回転速度とする目標エンジン動作点を設定し、算出された目標エンジン回転速度が前回に算出された目標エンジン回転速度未満の場合で、算出された目標エンジン回転速度と目標エンジン回転速度の変化率の下限値未満のときは、当該目標エンジン回転速度の変化率の下限値を目標エンジン回転速度とする目標エンジン動作点を設定し、目標駆動パワーから前記設定された目標エンジン動作点に基づいて求められる目標エンジンパワーを減算して算出される目標電力に基づいて複数のモータジェネレータ4、5のそれぞれのトルク指令値を算出する。
これにより、エンジン動作点が変更中である過渡状態において、目標エンジン回転速度の変化率の制限値に基づいて目標エンジン回転速度を制限可能に構成するので、エンジン回転速度の大きな変化による煩わしさを回避できるとともに、エンジン回転速度によって変動する目標エンジンパワーによる影響を、目標駆動パワーのうち目標電力にかかるパワーによって吸収するように複数のモータジェネレータ4、5のトルク指令値を算出するので、内燃機関2の効率を良い状態にして燃費性能を確保できる。