(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765612
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】衝撃エネルギー吸収体の複合構造及び衝撃エネルギー吸収体
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20150730BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20150730BHJP
B60R 19/24 20060101ALI20150730BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 J
B60R19/24 N
B60R19/34
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-31127(P2011-31127)
(22)【出願日】2011年2月16日
(65)【公開番号】特開2012-167787(P2012-167787A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】山本 遼太
【審査官】
塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−121599(JP,A)
【文献】
特開2004−142607(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0098389(US,A1)
【文献】
特開2004−182136(JP,A)
【文献】
特開2010−111239(JP,A)
【文献】
特開2000−168839(JP,A)
【文献】
特開2005−083458(JP,A)
【文献】
特開2003−267260(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0124730(US,A1)
【文献】
特開2004−255394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00
F16F 7/12
B60R 19/24
B60R 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空金属体が互いに接着又は接合された柱状の第1の衝撃エネルギー吸収体と、
複数の空隙が内在する柱状の金属バルク体の外周面を金属筒状体で覆った第2の衝撃エネルギー吸収体と、を備え、
前記2つの衝撃エネルギー吸収体は、これら2つの衝撃エネルギー吸収体の軸方向がともに衝撃荷重の入力方向と略平行となるように並設されている
ことを特徴とする衝撃エネルギー吸収体の複合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃エネルギー吸収体の複合構造であって、
前記第1の衝撃エネルギー吸収体と前記第2の衝撃エネルギー吸収体とは、双方の外周面同士が部分的に接合され、全体として一体的な柱状体に形成される
ことを特徴とする衝撃エネルギー吸収体の複合構造。
【請求項3】
複数の中空金属体が互いに接着又は接合されることによって全体として中空の筒状に形成された中空金属集合体と、
前記中空金属集合体の外周面を覆う金属筒状体と、を備えた
ことを特徴とする衝撃エネルギー吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の衝突の際に、衝撃荷重を変形によって吸収する衝撃エネルギー吸収体の複合構造及び衝撃エネルギー吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、隣接する中空金属球を接着または接合することによって形成される中空金属球の集合体の側面を、複数のスリット部を有する金属薄板によって覆った衝撃エネルギー吸収体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−121599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の衝撃エネルギー吸収体では、複数のスリット部を有する金属薄板は、衝撃荷重が作用して圧潰する際の中空金属球の径方向への拡がり挙動を許容する。このため、ストロークに対して比較的プラトーな荷重が発生するプラトー領域のストロークを増大させることができ、衝撃エネルギーを、車体に損傷を与えない荷重以下のプラトー領域で吸収することができる。
【0005】
しかし、上記従来の衝撃エネルギー吸収体は、中空金属球の集合体の側面を複数のスリット部を有する金属薄板によって覆ったものであるため、所望の支持剛性を得ることができず、例えばバンパなどを衝撃エネルギー吸収体によって車体側に支持することが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、支持剛性を確保しつつ、衝撃荷重が加わった際のプラトー領域のストロークを増大させることが可能な衝撃エネルギー吸収体の複合構造及び衝撃エネルギー吸収体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明の衝撃エネルギー吸収体の複合構造は、第1の衝撃エネルギー吸収体と第2の衝撃エネルギー吸収体とを備える。第1の衝撃エネルギー吸収体は、複数の中空金属体が互いに接着又は接合された柱状のものである。第2の衝撃エネルギー吸収体は、複数の空隙が内在する柱状の金属バルク体の外周面を金属筒状体で覆ったものである。第1の衝撃エネルギー吸収体と第2の衝撃エネルギー吸収体とは、これら2つの衝撃エネルギー吸収体の軸方向がともに衝撃荷重の入力方向と略平行となるように並設されている。
【0008】
上記構成では、第1の衝撃エネルギー吸収体の軸方向と第2の衝撃エネルギー吸収体の軸方向とがともに衝撃荷重の入力方向と略平行に配置されているので、衝撃荷重は、これら2つの衝撃エネルギー吸収体に分散して各軸方向に沿って作用する。第2の衝撃エネルギー吸収体に衝撃荷重が作用すると、金属バルク体の空隙が荷重の作用方向(軸方向)に押し潰され、金属バルク体は、軸方向と交叉する外側(径方向)へ拡がろうとする。しかし、金属バルク体の外周面は金属筒状体によって覆われているため、金属バルク体の外側への拡がりは金属筒状体によって拘束される。この結果、第2の衝撃エネルギー吸収体においては、ストロークの増大に従って荷重が増加する傾向を示す。一方、第1の衝撃エネルギー吸収体に衝撃荷重が作用すると、中空金属体は、荷重の作用方向(軸方向)に押圧されて変形し、軸方向と交叉する外側(径方向)へ拡がろうとする。第1の衝撃エネルギー吸収体の外周面は金属筒状体等で覆われていないので、中空金属体の外側への拡がりは許容され、第1の衝撃エネルギー吸収体の最外周部分では、中空金属体が十分に潰れる前に中空金属体間の接着又は接合が剥がれて、中空金属体が第1の衝撃エネルギー吸収体から離脱する。この結果、第1の衝撃エネルギー吸収体においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する傾向を示す。分散した衝撃荷重が、第2の衝撃エネルギー吸収体と第1の衝撃エネルギー吸収体とに同時に作用すると、第2の衝撃エネルギー吸収体においては、ストロークの増大に従って荷重が増加し、第1の衝撃エネルギー吸収体においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する。従って、衝撃エネルギー吸収体の複合構造全体として、ストロークに対して比較的プラトーな荷重が発生するプラトー領域のストロークを増大させることができ、衝撃エネルギーを、車体に損傷を与えない荷重以下のプラトー領域で吸収することができる。
【0009】
また、第2の衝撃エネルギー吸収体の金属筒状体の強度は、第2の衝撃エネルギー吸収体への衝撃荷重の負荷による金属バルク体の圧潰を阻止しない範囲内で任意に設定可能であるので、金属筒状体を所望の強度に設定することによって、衝撃エネルギー吸収体の複合構造の支持剛性を確保することができる。
【0010】
また、上記衝撃エネルギー吸収体の複合構造は、第1の衝撃エネルギー吸収体と第2の衝撃エネルギー吸収体との双方の外周面同士が部分的に接合され、全体として一体的な柱状体に形成されてもよい。
【0011】
上記構成では、衝撃エネルギー吸収体の複合構造は、第1の衝撃エネルギー吸収体と第2の衝撃エネルギー吸収体とによって一体的な柱状体に形成されるので、衝撃エネルギー吸収体の複合構造を小型化することが可能であり、車体等への組付けスペースが削減される。また、衝撃エネルギー吸収体の複合構造の取り扱いが容易となるため、車体等への組付け作業性が改善される。
【0012】
また、本発明の
他の態様の衝撃エネルギー吸収体は、中空金属集合体と金属筒状体とを備える。中空金属集合体は、複数の中空金属体が互いに接着又は接合されることによって全体として
中空の筒状に形成される。金属筒状体は、中空金属集合体の外周面を覆う。
【0013】
上記構成の衝撃エネルギー吸収体は、中空金属集合体の軸方向に沿って衝撃荷重が作用するように配置される。衝撃エネルギー吸収体に衝撃荷重が作用すると、中空金属体は、荷重の作用方向(軸方向)に押し潰されて、筒状に形成された中空金属体の軸方向と交叉する外側及び内側へ拡がろうとする。中空金属集合体の外周面は金属筒状体によって覆われているため、中空金属体の外側への拡がりは金属筒状体によって拘束される。この結果、中空金属集合体の特に外周部分においては、ストロークの増大に従って荷重が増加する。一方、衝撃エネルギー吸収体の内周面は金属筒状体等で覆われていないので、中空金属体の内側への拡がりは許容され、中空金属集合体の最内周部分では、中空金属体が十分に潰れる前に中空金属体間の接着又は接合が剥がれて、中空金属体が中空金属集合体から離脱する。この結果、中空金属集合体の特に内周部分においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する。従って、衝撃エネルギー吸収体全体として、ストロークに対して比較的プラトーな荷重が発生するプラトー領域のストロークを増大させることができ、衝撃エネルギーを、車体に損傷を与えない荷重以下のプラトー領域で吸収することができる。
【0014】
また、衝撃エネルギー吸収体の金属筒状体の強度は、衝撃エネルギー吸収体への衝撃荷重の負荷による中空金属集合体の圧潰を阻止しない範囲内で任意に設定可能であるので、金属筒状体を所望の強度に設定することによって、衝撃エネルギー吸収体の支持剛性を確保することができる。
【0015】
また、衝撃エネルギー吸収体は、中空金属集合体及び金属筒状体のみから形成されているので、部品点数が削減されて製造が容易となり、コストの上昇を招くことがない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、衝撃エネルギー吸収体の複合構造及び衝撃エネルギー吸収体の支持剛性を確保しつつ、衝撃荷重が加わった際のプラトー領域のストロークを増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係わる衝撃エネルギー吸収体の複合構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係わる衝撃エネルギー吸収体の複合構造を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係わる衝撃エネルギー吸収体を示す斜視図である。
【
図4】フロントバンパを
図1の衝撃エネルギー吸収体の複合構造によって車体側に支持した状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の衝撃エネルギー吸収体の複合構造1は、2個の第1衝撃エネルギー吸収体(第1の衝撃エネルギー吸収体)2と2個の第2衝撃エネルギー吸収体(第2の衝撃エネルギー吸収体)4とを備える。
【0019】
第1衝撃エネルギー吸収体2は、隣接する中空金属球(中空金属体)3を互いに接着又は接合することによって略円柱状に形成された複数の中空金属球3の集合体である。中空金属球3は、例えば、鉄製又は鉄をベースとした合金製であり、その直径は1〜10mm程度、肉厚は0.05〜0.2mm程度であり、隣接する中空金属球3同士は、樹脂接着剤や低融点接着剤や固相拡散接合等によって接着又は接合されている。なお、中空金属球3の材質や寸法は、第1衝撃エネルギー吸収体2に要求されるエネルギー吸収性能に応じて決定され、特に上記に限定されるものではない。
【0020】
第2衝撃エネルギー吸収体4は、金属バルク体5によって略円柱状に形成され、外周面を金属筒状体6で覆われる。本実施形態では、金属バルク体5は、上記中空金属球3の集合体によって形成されており、複数の空隙が内在している。金属筒状体6は、金属バルク体5に沿った薄肉の円筒形状であり、例えばステンレスなどの金属によって形成される。なお、金属筒状体6の材質や寸法は、第2衝撃エネルギー吸収体4への衝撃荷重の負荷による金属バルク体5の圧潰を阻止しない範囲において、所望の支持剛性が確保されるように設定される。
【0021】
これら4個の第1及び第2衝撃エネルギー吸収体2,4は、それぞれの軸方向の長さが略同一であり、軸方向と直交する平面上の略十字形の4つの端点に、それぞれの軸方向がともに衝撃荷重の入力方向7と略平行となるように交互に並設されている。従って、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1に衝撃荷重が入力すると、衝撃荷重は、4個の第1及び第2衝撃エネルギー吸収体2,4に分散して、それぞれの軸方向に沿って作用する。
【0022】
図4は、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1によってフロントバンパ31を車体側に支持する例である。2個の第1衝撃エネルギー吸収体2及び2個の第2衝撃エネルギー吸収体4の前端と後端とは、フロントバンパ31の後面と車体側のフロントサイドメンバ32の前面とにそれぞれ接合され、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1は、車両の前後方向に延びている。本例では、2個の第1衝撃エネルギー吸収体2が車幅方向(左右方向)に、2個の第2衝撃エネルギー吸収体4が上下方向にそれぞれ配置されて、フロントバンパ31を支持している。
【0023】
車両の衝突などにより、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1に衝撃荷重が負荷され、衝撃荷重が第1衝撃エネルギー吸収体2と第2衝撃エネルギー吸収体4とに分散して作用すると、第2衝撃エネルギー吸収体4においては、金属バルク体5の空隙が荷重の作用方向(軸方向)に押し潰され、金属バルク体5は、軸方向と交叉する外側(径方向)へ拡がろうとする。しかし、金属バルク体5の外周面は金属筒状体6によって覆われているため、金属バルク体の外側への拡大は金属筒状体6によって拘束される。この結果、右肩上がりに荷重が増加するスタックアップが早期に発生し、第2衝撃エネルギー吸収体4においては、ストロークに対して荷重が増加する傾向を示す。
【0024】
一方、第1衝撃エネルギー吸収体2においては、中空金属集合体を構成する中空金属球3が荷重の作用方向(軸方向)に押圧されて変形し、軸方向と交叉する外側(径方向)へ拡がろうとする。第1衝撃エネルギー吸収体2の外周面は金属筒状体等で覆われていないので、中空金属球3の外側への拡がりは許容され、第1衝撃エネルギー吸収体2の最外周部分では、中空金属球3が十分に潰れる前に中空金属球3の間の接着又は接合が剥がれて、第1衝撃エネルギー吸収体2から中空金属球3が離脱する。この結果、第1衝撃エネルギー吸収体2の中空金属体3の保有量が減少し、第1衝撃エネルギー吸収体2においては、ストロークに対して荷重が減少する傾向を示す。
【0025】
分散した衝撃荷重が、第2衝撃エネルギー吸収体4と第1衝撃エネルギー吸収体2との軸方向に沿って同時に作用すると、第2衝撃エネルギー吸収体4においては、ストロークの増大に従って荷重が増加し、第1衝撃エネルギー吸収体2においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する。従って、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1全体として、ストロークに対して比較的プラトーな荷重が発生するプラトー領域のストロークを増大させることができ、衝撃エネルギーを、車体に損傷を与えない荷重以下のプラトー領域で吸収することができる。
【0026】
また、金属筒状体6の強度は、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1への衝撃荷重の負荷による金属バルク体5の圧潰を阻止しない範囲内で任意に設定可能である。従って、金属筒状体6を所望の強度に設定することによって、衝撃エネルギー吸収体1の支持剛性を確保することができ、フロントバンパ31を衝撃エネルギー吸収体の複合構造1によって車体側に支持することができる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図2に示すように、本実施形態の衝撃エネルギー吸収体の複合構造11は、軸方向の長さが略同一の2個の第1衝撃エネルギー吸収体(第1の衝撃エネルギー吸収体)13と2個の第2衝撃エネルギー吸収体(第2の衝撃エネルギー吸収体)14とを備えている。第1衝撃エネルギー吸収体13は、隣接する中空金属球3を互いに接着又は接合した複数の中空金属球3の集合体によって柱状に形成され、軸方向と直交する断面形状は略四分円形状である。なお、中空金属球3及び中空金属球3の接着又は接合方法は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0028】
第2衝撃エネルギー吸収体14は、金属バルク体15によって柱状に形成され、軸方向と直交する断面形状は略四分円形状であり、外周面を金属筒状体16で覆われている。本実施形態では、金属バルク体15は、上記中空金属体3の集合体によって形成されており、複数の空隙が内在する。金属筒状体16は、金属バルク体15に沿った薄肉の筒形状であり、例えばステンレスなどの金属によって形成される。なお、金属筒状体16の材質や寸法は、第2衝撃エネルギー吸収体14の複合構造11への衝撃荷重の負荷による金属バルク体15の圧潰を阻止しない範囲において、所望の支持剛性が確保されるように設定される。
【0029】
第1衝撃エネルギー吸収体13及び第2衝撃エネルギー吸収体14の外周面は、それぞれ1つの円弧面と、円弧面を結び略直角に屈曲する2つの平面とを有している(
図2参照)。衝撃エネルギー吸収体の複合構造11は、2個の第1衝撃ネルギー吸収体13と2個の第2衝撃エネルギー吸収体14とを軸方向に平行に交互に組み合わせることによって、軸方向に直交する断面形状が略円形状の一体的な柱状体12に形成される。4個の第1及び第2衝撃ネルギー吸収体13,14の外周面のうち、隣接する平面は、互いに接合されており、4つの円弧面は、柱状体12の略円形の外周面を形成している。
【0030】
衝撃エネルギー吸収体の複合構造11は、柱状体12の軸方向に沿って衝撃荷重が作用するように配置される。車両の衝突などにより、衝撃エネルギー吸収体の複合構造11に衝撃荷重が負荷され、衝撃荷重が第1衝撃エネルギー吸収体13と第2衝撃エネルギー吸収体14とに分散して作用すると、第2衝撃エネルギー吸収体14においては、金属バルク体15の空隙が荷重の作用方向(軸方向)に押し潰され、金属バルク体15は、軸方向と交叉する外側(径方向)へ拡がろうとする。しかし、金属バルク体15の外周面は金属筒状体16によって覆われているため、金属バルク体15の外側への拡大は金属筒状体16によって拘束される。この結果、右肩上がりに荷重が増加するスタックアップが早期に発生し、第2衝撃エネルギー吸収体14においては、ストロークに対して荷重が増加する傾向を示す。
【0031】
一方、第1衝撃エネルギー吸収体2においては、中空金属集合体を構成する中空金属球3が荷重の作用方向(軸方向)に押圧されて変形し、軸方向と交叉する外側(径方向)へ拡がろうとする。第1衝撃エネルギー吸収体13は金属筒状体等で覆われていないので、第1衝撃エネルギー吸収体13の外周面のうち、第2衝撃エネルギー吸収体14の外周面と接合されていない円弧面においては、中空金属体3の外側への拡がりは許容される。従って、第1衝撃エネルギー吸収体13の円弧面の最外周部分では、中空金属体3が十分に潰れる前に中空金属体3の間の接着又は接合が剥がれて、中空金属体3が第1衝撃エネルギー吸収体12から離脱する。この結果、第1衝撃エネルギー吸収体13の中空金属体3の保有量が減少し、第1衝撃エネルギー吸収体13においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する傾向を示す。
【0032】
分散した衝撃荷重が、第2衝撃エネルギー吸収体14と第1衝撃エネルギー吸収13とに同時に作用すると、第2衝撃エネルギー吸収体14においては、ストロークの増大に従って荷重が増加し、第1衝撃エネルギー吸収体13においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する。従って、衝撃エネルギー吸収体の複合構造全体11として、ストロークに対して比較的プラトーな荷重が発生するプラトー領域のストロークを増大させることができ、衝撃エネルギーを、車体に損傷を与えない荷重以下のプラトー領域で吸収することができる。
【0033】
また、第2衝撃エネルギー吸収体14の金属筒状体16の強度は、第2衝撃エネルギー吸収体14への衝撃荷重の負荷による金属バルク体15の圧潰を阻止しない範囲内で任意に設定可能である。従って、金属筒状体16を所望の強度に設定することによって、衝撃エネルギー吸収体の複合構造11の支持剛性を確保することができる。
【0034】
また、衝撃エネルギー吸収体の複合構造11は、第1衝撃エネルギー吸収体13と第2衝撃エネルギー吸収体14とによって一体的な柱状体12に形成されるので、衝撃エネルギー吸収体の複合構造11の小型化が可能となり、車体等への組付けスペースが削減される。また、衝撃エネルギー吸収体の複合構造11の取り扱いが容易となるため、車体等への組付け作業性が改善される。
【0035】
次に、本発明の第3の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図3に示すように、本実施形態の衝撃エネルギー吸収体21は、中空金属集合体22と、金属筒状体23とを備える。中空金属集合体22は、隣接する中空金属球3を互いに接着又は接合することによって、略円筒状に形成された複数の中空金属球3の集合体であり、外周面を金属筒状体23で覆われる。なお、中空金属球3及び中空金属球3の接着又は接合方法は、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様であるので、説明を省略する。金属筒状体23は、中空金属集合体22に沿った薄肉の円筒形状であり、例えばステンレスなどの金属で形成される。なお、金属筒状体23の材質や寸法は、衝撃エネルギー吸収体21への衝撃荷重の負荷による中空金属集合体22の圧潰を阻止しない範囲において、所望の支持剛性が確保されるように設定される。
【0036】
衝撃エネルギー吸収体21は、中空金属集合体22の軸方向に沿って衝撃荷重が作用するように配置される。車両の衝突などにより、衝撃エネルギー吸収体21に衝撃荷重が作用すると、中空金属集合体22は、中空金属球3が荷重の作用方向(軸方向)に押し潰されて、筒状に形成された中空金属集合体22の軸方向と交叉する外側及び内側へ拡がろうとする。中空金属集合体22の外周面は金属筒状体23によって覆われているため、中空金属体の外側への拡がりは金属筒状体23によって拘束される。その結果、中空金属集合体22の特に外周部分においては、ストロークに対して荷重が増加する。
【0037】
一方、中空金属集合体22の内周面は金属筒状体等で覆われていないので、中空金属集合体の内側への拡がりは許容され、中空金属体22の最内周部分では、中空金属球3が十分に潰れる前に中空金属球3の間の接着又は接合が離れ、中空金属集合体22から離脱する。この結果、中空金属集合体22の特に内周部分においては、ストロークの増大に従って荷重が減少する。従って、衝撃エネルギー吸収体21全体として、ストロークに対して比較的プラトーな荷重が発生するプラトー領域のストロークを増大させることができ、衝撃エネルギーを、車体に損傷を与えない荷重以下のプラトー領域で吸収することができる。
【0038】
また、金属筒状体23の強度は、衝撃エネルギー吸収体21への衝撃荷重の負荷による中空金属集合体22の圧潰を阻止しない範囲内で任意に設定可能である。従って、金属筒状体23を所望の強度に設定することによって、衝撃エネルギー吸収体21の支持剛性を確保することができる。
【0039】
また、衝撃エネルギー吸収体21は、中空金属集合体22及び金属筒状体23のみから形成されているので、部品点数が削減されて製造が容易となり、コストの上昇を招くことがない。
【0040】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0041】
例えば、衝撃エネルギー吸収体の複合構造1において、第1衝撃エネルギー吸収体2及び第2衝撃エネルギー吸収体4を円柱形状としたが、例えば角柱形状など他の形状であってもよく、またそれら異なる形状の組み合わせであってもよい。また、金属筒状体6は、金属バルク体5の形状に沿って金属バルク体5を覆う形状であればよい。また、第1衝撃エネルギー吸収体2及び第2衝撃エネルギー吸収体4の数をそれぞれ2個としたが、それぞれ1個以上であればよい。
【0042】
また、衝撃エネルギー吸収体の複合構造11を円柱形状としたが、例えば角柱形状など他の形状であってもよい。また、第1衝撃エネルギー吸収体13及び第2衝撃エネルギー吸収体14の断面形状を四分円形状としたが、例えば三角形状など他の形状であってもよい。また、第1衝撃エネルギー吸収体13及び第2衝撃エネルギー吸収体14の数をそれぞれ2個としたが、それぞれ1個以上であればよい。
【0043】
また、衝撃エネルギー吸収体21の中空金属集合体22を円柱形状としたが、例えば角柱形状など他の形状であってもよく、金属筒状体23も中空金属集合体22の形状に沿って中空金属集合体22を覆う形状であればよい。
【0044】
また、金属バルク体5,15は、中空金属球3の集合体に限定されるものではなく、例えば発泡アルミなどであってもよい。また、金属バルク体5,15に代えて、接着又は接合されない独立の複数の中空金属球等を金属筒状体6,16の筒内に充填してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 衝撃エネルギー吸収体の複合構造
2 第1衝撃エネルギー吸収体(第1の衝撃エネルギー吸収体)
3 中空金属球
4 第2衝撃エネルギー吸収体(第2の衝撃エネルギー吸収体)
5 金属バルク体
6 金属筒状体
7 衝撃荷重の入力方向
11 衝撃エネルギー吸収体の複合構造
12 柱状体
13 第1衝撃エネルギー吸収体(第1の衝撃エネルギー吸収体)
14 第2衝撃エネルギー吸収体(第2の衝撃エネルギー吸収体)
15 金属バルク体
16 金属筒状体
21 衝撃エネルギー吸収体
22 中空金属集合体
23 金属筒状体