(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765635
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】Ku86とその自己抗体との複合体の免疫測定方法、それに用いるキット及びそれを用いた癌判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20150730BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/53 N
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-553822(P2011-553822)
(86)(22)【出願日】2011年2月7日
(86)【国際出願番号】JP2011052481
(87)【国際公開番号】WO2011099435
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2013年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2010-28387(P2010-28387)
(32)【優先日】2010年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100088926
【弁理士】
【氏名又は名称】長沼 暉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】小島 良
(72)【発明者】
【氏名】野田 健太
(72)【発明者】
【氏名】清宮 正徳
(72)【発明者】
【氏名】曽川 一幸
(72)【発明者】
【氏名】野村 文夫
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/090017(WO,A1)
【文献】
特許第5605375(JP,B2)
【文献】
Yaneva M, Arnett FC,Antibodies against Ku protein in sera frompatients with autoimmune diseases,Clin Exp Immunol,1989年 6月,76(3),366-372
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53−33/577
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中で形成されている、検体由来のKu86とその自己抗体との複合体の免疫測定方法。
【請求項2】
前記検体中で形成されているKu86とその自己抗体との複合体に、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を作用させ、得られる複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物を測定することによりその複合体を測定する、請求項1に記載の免疫測定方法。
【請求項3】
試薬抗体および結合可能物質のいずれかが標識成分で標識されており、免疫複合物中の標識成分を測定して免疫複合物を測定することにより複合体を測定する、請求項2に記載の免疫測定方法。
【請求項4】
前記検体中で形成されているKu86とその自己抗体との複合体に、水不溶性担体に結合しているKu86に対する試薬抗体を作用させ、次いで、標識成分で標識されたその自己抗体に対する結合可能物質を作用させ、複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物を生成させ、その免疫複合物に結合している標識成分を測定することによりその複合体を測定する、請求項3に記載の免疫測定方法。
【請求項5】
その自己抗体に対する結合可能物質が、抗IgG抗体である、請求項2から4のいずれかに記載の免疫測定方法。
【請求項6】
標識成分が酵素または放射性物質である、請求項3から5のいずれかに記載の免疫測定方法。
【請求項7】
癌判定用である、請求項1から6のいずれかに記載の免疫測定方法。
【請求項8】
癌が原発性肝細胞癌である、請求項7に記載の免疫測定方法。
【請求項9】
検体が血液由来検体である、請求項1から8のいずれかに記載の免疫測定方法。
【請求項10】
Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を含む、Ku86とその自己抗体との複合体の免疫測定用キット。
【請求項11】
検体由来のKu86とその自己抗体との複合体からなる、癌判定用マーカー。
【請求項12】
検体が血液由来である、請求項11に記載の癌判定用マーカー。
【請求項13】
癌が原発性肝細胞癌、大腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、肺癌および食道癌からなる群から選択される癌である、請求項12に記載の癌判定用マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ku86とその自己抗体との複合体を測定するための免疫測定方法及び免疫測定用キットに関するものである。Ku86とその自己抗体との複合体は、特に担癌患者の血中に高値に出現するものであり、したがって、本発明は、Ku86とその自己抗体との複合体を単に測定する方法を提供するだけでなく、癌の判定にも利用することができる。
【背景技術】
【0002】
Ku86は、二重鎖DNA切断に関与する蛋白質であり、Ku70と共に、Kuと呼ばれるヘテロ二量体を形成し、そのKuヘテロ二量体は、DNA依存性プロテインキナーゼ等と共同で、二重鎖DNA切断を修復することができるとされている(非特許文献1)
他方、アガロース2次元電気泳動に2D−DIGE法(two-dimensional fluorescence difference gel electrophrosis)を適用した改良アガロース2次元電気泳動法(非特許文献2)により、原発性肝細胞癌の癌部および周辺の非癌部組織の蛋白発現量の比較をプロテオーム解析により行ない、Ku86という蛋白質が癌部に多く発現されることが明らかになっている(非特許文献3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.9, No.2, 832-837, 2002
【非特許文献2】Takeshi Tomonaga et al., Clin. Cancer Res. 2004;10:2007-2014
【非特許文献3】Masanori Seimiya et al., Hepatology 2008;48:519-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中に存在する、Ku86の発現レベルを測定して、それらの組織の癌部と非癌部の判別することができることを見出した。
本発明者らは、さらに血液検体中のKu86の存在について研究を続けたところ、驚くべきことに、血液検体中にKu86とその自己抗体との複合体が存在する場合があり、癌患者の場合、その複合体の量が多いことを見出した。したがって、本発明の目的は、癌判定に応用することのできる、Ku86とその自己抗体との複合体の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、検体中のKu86とその自己抗体との複合体を免疫測定することにより、該複合体を測定することができ、それによって癌判定が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
従って、本発明は、検体中のKu86とその自己抗体との複合体を免疫測定することを特徴とする、検体中のKu86とその自己抗体との複合体の免疫測定方法に関する。
更に、本発明は、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を含む、Ku86とその自己抗体との複合体の免疫測定用キットに関する。
更に、本発明は、Ku86とその自己抗体との複合体を測定することにより、癌であることを判定する、癌判定方法に関する。
更に、本発明は、Ku86とその自己抗体との複合体からなる、癌判定用マーカーに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、検体中、特に、血液由来検体中に存在するKu86とその自己抗体との複合体を簡単に測定でき、原発性肝細胞癌、大腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、肺癌および食道癌などの癌患者の判定に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】抗Ku86抗体を感作したELISAプレートを用いて健常人血清検体、C型肝炎患者血清検体、C型肝硬変患者血清検体、初発原発性肝細胞癌(以下、初発HCCということもある)患者血清検体および再発原発性肝細胞癌(以下、再発HCCということもある)患者血清検体においてKu86とその自己抗体との複合体を測定した結果である。なお、図中、横軸は疾患名を示し、縦軸は波長450nm光に対する吸光度を示している。また、アスタリスクは、健常人血清検体群、C型肝炎患者検体群またはC型肝硬変患者血清検体群との比較をした全ての場合に、Wilcoxonの2標本検定による有意差(p<0.0001)が存在する血清検体群を示している。
【
図2】抗Ku86抗体を感作したELISAプレートを用いて健常人血清検体、初発HCC患者血清検体、大腸癌患者血清検体、胃癌患者血清検体、膵臓癌患者血清検体、乳癌患者血清検体、肺癌患者血清検体および食道癌患者血清検体においてKu86とその自己抗体との複合体を測定した結果である。なお、図中、横軸は疾患名を示し、縦軸は波長450nm光に対する吸光度を示している。また、アスタリスクは、健常人血清検体群との比較をした場合に、Wilcoxonの2標本検定による有意差(p<0.0001)が存在する血清検体群を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のKu86とその自己抗体との複合体の免疫測定方法は、一般的な蛋白質とその抗体との免疫複合体の免疫測定方法で知られている公知の方法をそのまま、応用できる。
本発明の免疫測定方法においては、例えば、検体中のKu86とその自己抗体との複合体に、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を作用させ、得られる複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物を測定することによりその複合体を測定することができる。
【0009】
本発明において、検体とは、生体由来の試料が好適で、特に、血液由来検体が好適であり、血液検体としては、全血、血漿、血清を例示できる。
【0010】
本発明の免疫測定方法の測定対象は、Ku86とその自己抗体との複合体である。Ku86は、前記したとおり、二重鎖DNA切断に関与する蛋白質であり、その正式名は、ATP−dependent DNA helicase 2 subunit 2であり、別名としてXRCC5とも言われている。また、Ku86は、米国の国立生物工学情報センター(NCBI)の受け入れ番号(accession No)が gi−10863945である、732個のアミノ酸からなる82kDaの蛋白質である。
【0011】
本発明において、Ku86とその自己抗体との複合体とは、Ku86とKu86に対する自己抗体との免疫複合体を意味し、本明細書では単に複合体と記載することもある。
本発明において、自己抗体とは、自己の身体に存在する物質に対して自己の身体で産生される抗体であって、自己の身体に存在する物質がKu86であり、そのKu86に対する抗体をいう。
本発明において、Ku86に対する試薬抗体とは、試薬として用いるKu86と特異的に結合する抗体をいい、本明細書では単に試薬抗体と記載することもある。その試薬抗体は、その産生動物種としてヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等があり、それぞれに所定範囲の免疫グロブリンがある。その試薬抗体は、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよい。また、試薬抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びこれらの断片(抗原と結合能を有するもので例えば、H鎖、L鎖、Fab、F(ab’)
2等)のいずれでもよい。このような試薬抗体は、Ku86全長蛋白質またはその断片ペプチドを抗原として、上記した産生動物種に免疫して、その免疫動物から抗血清として得ることができ、また、免疫動物からの脾細胞とミエローマ細胞とを融合して、融合細胞から、Ku86に対する抗体を産生する融合細胞をスクリーニングして、得られるハイブリドーマからモノクローナル抗体として得ることもできる。また、Ku86に対する試薬抗体は、抗Ku86抗体として市販されており、それらの市販品を使用することもできる。
【0012】
本発明において、その自己抗体に対する結合可能物質とは、Ku86に対する自己抗体と結合可能な物質であれば特に限定しないが、本明細書では単に結合可能物質と記載することがある。この様な結合可能物質としては、抗IgG抗体、プロテインA、プロテインG、試薬としてのKu86抗原を用いることができ、そのうち、抗IgG抗体が好ましい。
試薬としてのKu86抗原を用いる場合、Ku86に対する自己抗体と抗原抗体反応しうる抗原であれば特に限定しないが、Ku86全長蛋白質、Ku86全長蛋白質の変異体であって該蛋白質と同様のKu86に対する自己抗体と抗原抗体反応しうる機能を有し且つ該アミノ酸配列と90%以上の相同性を有する蛋白質もしくはKu86全長蛋白質のアミノ酸配列において1個から数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列を有する蛋白質である変異体、Ku86の断片ペプチドであってKu86の自己抗体と抗原抗体反応しうるペプチドを例示できる。Ku86全長蛋白質は、Abnova社より入手可能であるが、全アミノ酸配列が既知であるので、Ku86全長蛋白質やその変異体は、遺伝子組換え技術によっても合成できる。本発明においてKu86の断片ペプチドを用いるときは、Ku86全長蛋白質を酵素分解等によって各種のペプチド断片に切断して作成してもよいし、市販の自動ペプチド合成装置を用いても容易に作成することができる。また、標的のKu86の断片ペプチドを遺伝子組み換え技術によっても作成することができる。
そのようにして得られたKu86全長蛋白質の変異体や断片ペプチドを、Ku86に対する自己抗体と反応させ抗原抗体反応をするものを選択して試薬としてのKu86抗原として用いることができる。本発明においては、上記した各ペプチド断片の全体のほか、その一部も使用できるし、それらの混合物も使用でき、これらも試薬としてのKu86抗原に包含される。
【0013】
本発明においては、検体中のKu86とその自己抗体との複合体に、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を作用させると、複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物が生成する。その免疫複合物を測定するには、Ku86に対する試薬抗体(試薬抗体)およびその自己抗体に対する結合可能物質(結合可能物質)のいずれかを標識成分で標識し、生成する免疫複合物中の標識成分を測定することによって、免疫複合物を測定するのが好ましい。
標識成分としては、酵素、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質等常用される標識成分を使用することができるが、酵素や放射性物質が好ましい。
標識するための酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素免疫分析法(EIA)に常用される酵素が適宜使用され、これらの酵素に適合しEIAで常用される発色基質が適宜使用される。発色基質としては、例えばHRPの場合は、3,3′,5,5′−テトラメチルベンジジン(TMBZ)、TMBZ・HCl、TMBZ・PS、ABTS、o−フェニレンジアミン、p−ヒドロキシフェニル酢酸等が使用され、アルカリフォスファターゼの場合は、p−ニトロフェニルフォスフェート、4−メチルウンベリフェリルフォスフェート等が使用され、β−ガラクトシダーゼの場合は、o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド、4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシド等が使用される。
標識するための放射性物質としては放射性ヨウ素原子等を、蛍光物質としてはFITCやローダミン等を、化学発光物質としてはルミノール等を例示することができる。
【0014】
本発明において標識成分を用いる場合、例えば、検体中のKu86とその自己抗体との複合体に、水不溶性担体に結合しているKu86に対する試薬抗体を作用させ、次いで、標識成分で標識されたその自己抗体に対する結合可能物質を作用させ、複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物を生成させ、その免疫複合物に結合している標識成分を測定することによりその複合体を測定することが好ましい。また、検体中のKu86とその自己抗体との複合体に、その自己抗体に対する結合可能物質が結合した水不溶性担体を作用させ、次いで、標識成分で標識されたKu86に対する試薬抗体を作用させ、複合体と結合可能物質と試薬抗体との免疫複合物を生成させ、その免疫複合物に結合している標識成分を測定することによりその複合体を測定することもできる。
【0015】
水不溶化担体の調製は、蛋白質を固相面に結合する既知の方法を用いて容易に行うことができる。例えば、固相化担体としては、通常、ビーズ、マイクロプレート、チューブ等が用いられる。これらの固相面にKu86に対する試薬抗体を結合する方法としては、物理吸着、化学結合等既知の固定化技術が適宜利用できる。
このようにして固相化したKu86に対する試薬抗体に、Ku86とその自己抗体との複合体とを含む検体とを接触させると、複合体中のKu86部分と試薬抗体とが結合する。さらに、その結合物に対し、標識成分で標識されたその自己抗体に対する結合可能物質(例えば標識抗IgG抗体)を作用させると複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物が生成する。その結果、生成する免疫複合物中の標識成分を測定することにより、検体中のKu86とその自己抗体との複合体を測定することができる。
上記と同様にして、固相化担体にKu86の自己抗体に対する結合可能物質を結合させて、固相化した結合可能物質に、Ku86とその自己抗体との複合体とを含む検体とを接触させて、複合体中の自己抗体部分と結合可能物質とを結合させ、さらに、その結合物に対し、標識成分で標識されたKu86に対する試薬抗体(例えば、抗Ku86抗体)を作用させて、複合体と結合可能物質と試薬抗体との免疫複合物を生成させて、同様にして、検体中のKu86とその自己抗体との複合体を測定することもできる。
【0016】
本発明の免疫測定方法の典型的な例を以下に示す。
プレートに抗Ku86抗体を加え、低温例えば4℃で静置して感作し、その後、PBS等の洗浄液で洗浄する。ついで、そのプレートをBSAでコーティングし、抗Ku86抗体ELISAプレートを作成する。希釈した検体を抗Ku86抗体ELISAプレートに加え、加温例えば37℃で静置し、次いでPBS等の洗浄液で洗浄をする。得られるプレートのウェルにHRP標識された抗ヒトIgG抗体を加え、加温例えば37℃で静置する。ついで、ウェルをPBS等の洗浄液で洗浄した後、TMBZを加え、例えば室温で静置した後、反応停止剤として1N硫酸を加える。吸光度はマイクロプレートリーダー(BioRad社製)を用いて、波長450nmにて吸光度を測定する。吸光度の値とあらかじめ作成しておいた検量線から、Ku86とその自己抗体との複合体の値を求める。
【0017】
本発明の測定方法は、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を含む、Ku86とその自己抗体との複合体の免疫測定用キットにより実施することができる。そのためのKu86に対する試薬抗体、その自己抗体に対する結合可能物質は、本発明の測定方法で説明したとおりである。すなわち、例えば、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質のいずれかを水不溶性担体に結合させた形態で、他のいずれかを標識成分で標識した形態で、キットの試薬成分とすることができる。その他の試薬成分として、界面活性剤、緩衝剤等の免疫測定法で常用されるものを適宜、加えてもよい。
【0018】
本発明においては、Ku86とその自己抗体との複合体を測定することにより、癌判定をすることができる。
また、一般にKu86とその自己抗体との複合体の量が多いと、原発性肝細胞癌(原発性肝細胞癌、原発性胆管細胞癌など)、転移性肝癌等の肝癌、膀胱癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、甲状腺癌、皮膚癌などの癌が疑われ、本発明の測定方法によりKu86に対する自己抗体を測定することは、患者の癌疾患の判別に有効である。本発明の測定方法の利用は、原発性肝細胞癌、大腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、肺癌および食道癌からなる群から選択される癌の判別に特に有効である。例えば、健常人と、初発原発性肝細胞癌患者、再発原発性肝細胞癌患者、大腸癌患者、胃癌患者、膵臓癌患者、乳癌患者、肺癌患者または食道癌患者との判別に有効である。また、本発明の測定方法を利用することにより、C型肝炎患者またはC型肝硬変等の肝臓疾患患者と、初発原発性肝細胞癌患者または再発原発性肝細胞癌患者等の原発性肝細胞癌患者との判別が可能である。
【0019】
以上の説明から明らかな通り、Ku86とその自己抗体との複合体は、癌判定用マーカーとなるものであり、例えば、原発性肝細胞癌(原発性肝細胞癌、原発性胆管細胞癌など)、転移性肝癌等の肝癌、膀胱癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、甲状腺癌、皮膚癌などの癌の判定用マーカーとして使用できるものである。また、Ku86とその自己抗体との複合体は、全血、血漿、血清などの血液由来検体を用いて癌を判定するマーカーとして好適なものである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。
実施例1
Ku86とその自己抗体との複合体の測定
健常人、C型肝炎患者、C型肝硬変患者、初発原発性肝細胞癌患者、再発原発性肝細胞癌患者、大腸癌患者、胃癌患者、膵臓癌患者、乳癌患者、肺癌患者および食道癌患者から採取した血清検体について、Ku86とその自己抗体との複合体の測定を、以下に具体的に説明するようにして行なった。
【0021】
1.
方法
(1)
抗Ku86抗体ELISAプレートの作成
ELISAプレート(Nunc社製,Maxisorp)に抗Ku86抗体として抗XRCC5抗体(Abnova社製,5μg/ml,100μL/well)を1晩4℃静置して感作し、その後、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄を行った。ついで、1.5%BSA、10%サッカロースを含むPBS(200μL/well)で1晩コーティングし、抗Ku86抗体ELISAプレートを作成した。
【0022】
(2)
Ku86とその自己抗体との複合体の測定
検出抗体としてHRP標識された抗ヒトIgG抗体(Zymed社製)を、0.05% Tween20を含むPBSにて4000倍に希釈したものを用いた。サンプル血清はPBSにて100倍に希釈した。その希釈したサンプルを抗Ku86抗体ELISAプレートに100μL/wellずつ加え、1時間37℃で静置し、その後、0.05% Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄を行った。得られるプレートのウェルに希釈したHRP標識された抗ヒトIgG抗体を100μL/wellずつ加え、30分間37℃で静置した。ついで、0.05%Tween20を含むPBS(200μL/well)で3回洗浄した後、TMBZを100μL/wellずつ加え、10分間室温で静置の後、反応停止剤として100μL/wellの1N硫酸を加えた。吸光度はマイクロプレートリーダー(BioRad社製)を用いて、波長450nmにて測定を行った。
なお、検体は健常人48例、C型肝炎患者19例、C型肝硬変患者18例、初発原発性肝細胞癌患者検体32症例、再発原発性肝細胞癌患者27例、大腸癌患者検体16例、胃癌患者16例、膵臓癌患者16例、乳癌患者16例、肺癌患者16例、食道癌患者16例を用いた。
【0023】
2.
結果
Ku86とその自己抗体との複合体を測定した結果を用いた結果を、
図1および
図2に示す。有意差検定はKaleidaGraph4.0を用い、Wilcoxonの2標本検定にて統計処理した。
図1に示すように、健常人群、C型肝炎群およびC型肝硬変群と比較し、初発原発性肝細胞癌患者検体群および再発原発性肝細胞癌患者検体群のKu86とその自己抗体との複合体量は、明らかな有意差を認めた。したがって、血中のKu86とその自己抗体との複合体の免疫測定は、肝臓疾患の中でも、原発性肝細胞癌の判別に特に有効であることが示された。
図2に示すように、健常人群と比較し、種々の癌患者検体群、すなわち、初発原発性肝細胞癌患者検体群、大腸癌患者検体群、胃癌患者検体群、膵臓癌患者検体群、乳癌患者検体群、肺癌患者検体群および食道癌患者検体群のKu86とその自己抗体との複合体量は、明らかな有意差を認めた。したがって、血中のKu86とその自己抗体との複合体の免疫測定は、種々の癌において、健常者と癌患者との判別に有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上に詳細に説明したように、血液由来検体などの検体中のKu86とその自己抗体との複合体に、Ku86に対する試薬抗体およびその自己抗体に対する結合可能物質を作用させ、得られる複合体と試薬抗体と結合可能物質との免疫複合物を測定することによりその複合体を測定することができ、それによって、原発性肝細胞癌、大腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、肺癌および食道癌などの癌判定が可能である。