特許第5765654号(P5765654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765654
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】焼結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/02 20060101AFI20150730BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20150730BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20150730BHJP
   B22F 5/08 20060101ALI20150730BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C22C33/02 A
   B22F3/24 B
   B22F3/02 L
   B22F5/08
   C22C38/00 304
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-193835(P2011-193835)
(22)【出願日】2011年9月6日
(65)【公開番号】特開2013-53358(P2013-53358A)
(43)【公開日】2013年3月21日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 嘉嗣
(72)【発明者】
【氏名】奥田 徹
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−246951(JP,A)
【文献】 特開2007−138226(JP,A)
【文献】 特開2004−143526(JP,A)
【文献】 特開2005−200698(JP,A)
【文献】 特開平09−087794(JP,A)
【文献】 特開2003−253406(JP,A)
【文献】 特開2001−295915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/02
C22C 38/00
B22F 3/00 − 3/26
B22F 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用金型内に、原料粉体を充填した後、当該原料粉体を加圧して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と
を含む焼結部品の製造方法であって、
前記原料粉体が、少なくともニッケル粉体とモリブデン粉体と鉄粉体との単純混合により得られた混合物であって、かつニッケル0.5〜3.5質量%、モリブデン0.3〜0.7質量%残部鉄および不可避不純物の混合物であり、
前記焼結工程における焼結温度が1200〜1350℃である
ことを特徴とする焼結部品の製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程の後、焼結体に熱処理を施す熱処理工程をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理が、浸炭焼入れである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理が、高周波焼入れである請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程において、金型の内面に潤滑剤を塗布した後、当該金型内に前記原料粉体を充填する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料粉体が、潤滑剤をさらに含有しており、前記混合物100質量部あたりの潤滑剤の量が0.2〜0.6質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
焼結部品が、サイレントチェーン用のスプロケットまたはローラーチェーン用のスプロケットである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスファー、エンジンとトランスミッションとの間の動力伝動、エンジンのカム軸駆動などの動力伝達機構には、サイレントチェーンやローラーチェーンなどのチェーンが捲回されるスプロケットが用いられている。スプロケットは、チェーンとの間で、歯形同士が噛み合い回転駆動することで動力を伝達するため、噛み合い部における面圧が高くなる。そのため、高強度のスプロケットが求められている。
【0003】
高強度のスプロケットを製造する方法としては、例えば、高温安定性を備えた潤滑剤と黒鉛粉と粉体冶金用鉄粉体とを混合した原料粉体を予め加熱し、予め加熱された金型内で前記粉体を圧縮して成形(以下、「温間成形」という)し、その後、高温で焼結する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の方法では、鉄粒子の周りにニッケル、モリブデンおよび銅それぞれの粒子が拡散接合された粉体が用いられている。かかる特許文献1に記載の方法では、ニッケル、モリブデンおよび銅によって強度および焼入れ性を向上させ、かつ温間成形によって密度を高くして耐摩耗性および疲労強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−295915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、希少金属であるニッケルが多く用いられているため、材料コストの増大を招くという欠点がある。また、前記粉体は、粒子同士の接合によって硬くなっているため、加圧しても高密度の成形体を得るのが難しいという欠点がある。
【0006】
一方、ニッケルを含まない原料粉体を用いた場合、得られる焼結体の強度が著しく低下する傾向がある。
そのため、ニッケル高含有量の焼結部品と同程度の強度を有し、かつ安価に製造することができる焼結部品の開発が新たに求められている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ニッケル高含有量の焼結部品と同程度の強度を有する焼結部品を安価に製造することができる焼結部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の焼結部品の製造方法(以下、単に「製造方法」という)は、成形用金型内に、原料粉体を充填した後、当該原料粉体を加圧して成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程とを含む焼結部品の製造方法であって、前記原料粉体が、少なくともニッケル粉体とモリブデン粉体と鉄粉体との単純混合により得られた混合物であって、かつニッケル0.5〜3.5質量%、モリブデン0.3〜0.7質量%残部鉄および不可避不純物の混合物であり、前記焼結工程における焼結温度が1200〜1350℃であることを特徴としている。
【0009】
本発明の製造方法では、単純混合により得られた前記混合物である原料粉体を加圧して成形し、1200〜1350℃の高温で焼結している。そのため、成形時に成形体を高密度化することができ、さらに、焼結時にニッケルやモリブデンを十分に拡散させて残留オーステナイトを低減し、かつ組織中におけるベーナイトの生成を抑制することができる。これにより、焼結部品の表面硬さや強度を向上させることができる。したがって、従来、強度を確保するために用いられている高価なニッケルの含有量が少ない原料粉体が用いられているにもかかわらず、従来用いられている高ニッケル含有量の原料粉体を用いた場合と同程度の高い強度の焼結部品を安価に製造することができる。
【0010】
本発明の製造方法では、前記焼結工程の後、焼結体に熱処理を施す熱処理工程をさらに含むことができる。
本発明の製造方法では、前記熱処理は、浸炭焼入れであってもよい。これにより、焼結部品の母材に炭素が導入されることから、焼結部品の表面硬さ、耐摩耗性、疲労強度などを向上させることができる。
また、本発明の製造方法では、前記熱処理が、高周波焼入れであってもよい。これにより、焼結部品の母材に含まれる炭素によって十分な耐摩耗性、疲労強度などを確保することができ、しかも、高周波焼入れによって焼結部品の表面硬さを部分的に向上させることができる。
【0011】
本発明の製造方法では、前記成形工程において、金型の内面に潤滑剤を塗布した後、当該金型内に前記原料粉体を充填してもよい。これにより、金型からの成形体の離型性を向上させることができる。
【0012】
本発明の製造方法では、前記原料粉体が、潤滑剤をさらに含有していてもよい。この場合、前記混合物100質量部あたりの潤滑剤の量が0.2〜0.6質量部であることが好ましい。これにより、金型に潤滑剤を塗布しなくても、金型からの成形体の離型性を向上させることができる。
【0013】
焼結部品としては、サイレントチェーン用のスプロケットまたはローラーチェーン用のスプロケットが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、ニッケル高含有量の焼結部品と同程度の強度を有する焼結部品を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る製造方法で得られる焼結部品の一例である焼結スプロケットを示す斜視図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の他の実施の形態に係る製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施の形態に係る製造方法を説明する。本実施の形態では、焼結部品として、サイレントチェーン用スプロケットを製造する際の処理手順を例に挙げて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る製造方法で得られる焼結部品の一例である焼結スプロケットを示す斜視図である。
図1に示される焼結スプロケット1は、サイレントチェーン用スプロケットである。焼結スプロケット1は、スプロケット本体11と、このスプロケット本体11の中心に内径孔14が形成されたボス部15とを有する。スプロケット本体11の外周面には、歯部12と歯溝部13とが形成されている。また、ボス部15は、スプロケット本体11の一端面から軸方向に突出するように設けられている。内径孔14の内面には、5つのリブ部16が定ピッチで形成されている。
【0018】
図2は、本発明の一実施の形態に係る製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
図2に示される製造方法では、まず、工程S1−1において、焼結スプロケット1を構成する鉄、ニッケル、モリブデンおよび炭素それぞれの粉体(鉄粉体、ニッケル粉体、モリブデン粉体および黒鉛粉)と、潤滑剤とを単純混合する。これにより、ニッケル0.5〜3.5質量%、モリブデン0.3〜0.7質量%、炭素0〜0.4質量%、残部鉄および不可避不純物と、潤滑剤とを含有し、かつニッケルとモリブデンと炭素と鉄と不可避不純物との混合物100質量部あたりの潤滑剤の量が0.2〜0.6質量部である原料粉体を調製する(原料粉体調製工程)。
本工程では、鉄粉体、ニッケル粉体、モリブデン粉体および黒鉛粉と、潤滑剤とを単純混合するため、鉄が合金化されず、鉄粉体をやわらかい状態で保つことができる。このように、原料粉体中において、鉄粉体がやわらかい状態で保たれているため、成形時に、原料粉体が圧縮されやすくなっている。
【0019】
前記混合物におけるニッケルの含有量の下限値は、焼結スプロケット1の靱性を向上させる観点から、0.5質量%以上、好ましくは1.5質量%以上である。また、前記混合物におけるニッケルの含有量の上限値は、本発明の目的を阻害しない範囲であればよく、ニッケルの含有量およびコストに見合った効果を得る観点から、通常、3.5質量%以下、好ましくは2.5質量%以下である。ニッケル粉体は、焼結工程において、得られる焼結体中にニッケルを均一に拡散させる観点から、平均粒子径2〜4μmの粒子であることが望ましい。かかるニッケルによって、焼結スプロケット1の密度および靱性を向上させることができる。
前記混合物におけるモリブデンの含有量は、組織におけるベーナイトの量を低減させ、かつ十分な焼入れ性を確保する観点から、0.3質量%以上、好ましくは0.4質量%以上であり、十分な靱性を確保し、かつ製造コストを低減する観点から、0.7質量%以下、好ましくは0.6質量%以下である。モリブデン粉体は、焼結工程において、得られる焼結体中にモリブデンを均一に拡散させる観点から、平均粒子径2〜4μmの粒子であることが望ましい。モリブデンによって、焼結スプロケット1の組織におけるベーナイトの量を低減させ、かつ焼入れ性を向上させ、焼結スプロケット1の表面硬さ、疲労強度および磨耗性を向上させることができる。
前記混合物における炭素の含有量の下限値は、焼結部品の用途などに応じて異なることから、焼結部品の用途などに応じて適宜設定することが望ましい。前記混合物における炭素の含有量の上限値は、十分な表面硬さを確保し、かつ十分な密度の焼結部品を得る観点から、0.4質量%以下、好ましくは0.3質量%以下である。黒鉛粉は、当該黒鉛粉の偏析を抑制し、かつ焼結工程において、得られる焼結体中に炭素を均一に拡散させる観点から、平均粒子径2〜30μmの粒子であることが望ましい。なお、本実施の形態に係る焼結スプロケット1の製造方法では、熱処理として浸炭焼入れを行なう際に、焼結スプロケット1の母材に炭素を導入することができるため、原料粉体中には炭素が含まれていなくてもよい。かかる炭素によって、焼結スプロケット1の表面硬さを向上させることができる。
鉄は、焼結スプロケット1のベースとなる。前記混合物において、鉄は、上述のニッケル、モリブデン、炭素および潤滑剤の残部である。鉄粉体は、目的の部品形状に対応する金型に原料粉末を隙間なく充填する観点から、平均粒子径30〜250μmの粒子であることが望ましい。
前記混合物は、不可避不純物を含有していてもよい。
潤滑剤としては、例えば、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸ビスアミドなどのアミド系化合物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸鉛などのステアリン酸金属塩に代表される高級脂肪酸塩;炭化水素系ワックスなどが挙げられる。これらのなかでは、焼結工程において、焼結炉の内壁の汚染を防止する観点から、アミド系化合物が好ましい。原料粉体において、前記混合物100質量部あたりの潤滑剤の量は、金型の焼きつきを抑制し、かつ金型から成形体を良好な状態で離型させる観点から、0.2質量部以上であり、十分な密度の焼結スプロケット1を得る観点から、0.6質量部以下である。潤滑剤は、焼結工程で潤滑剤が蒸発することによって生じる穴を小さくして十分な密度の焼結プロットを得る観点から、粒子径200μm以下の粒子を98質量%以上含有する粉体であることが望ましい。かかる潤滑剤によって、金型からの成形体の離型を良好に行なうことができる。
【0020】
なお、本明細書において、ニッケル粉体およびモリブデン粉体の粒子の平均粒子径は、フィッシャーサブシーブサイザー法によって得られた平均粒子径を意味する。また、本明細書において、黒鉛粉の粒子の平均粒子径は、顕微鏡法によって長径と短径とを測定し、かかる長径と短径との平均値を算出することによって得られた平均粒子径を意味する。さらに、鉄粉体の粒子の平均粒子径は、JIS Z2510にしたがい、乾式篩分による粒度試験方法により、当該鉄粉体の粒子を篩分し、積算重量百分率の50%の粒度を求めることによって得られた平均粒子径を意味する。
【0021】
つぎに、工程S1−2において、原料粉体を焼結スプロケット1に対応する形状に成形するための金型内に、原料粉体を充填する(充填工程)。
前記金型は、焼結スプロケット1の形状に応じたキャビティーを有する金型である。
【0022】
その後、工程1−3において、金型内に充填された原料粉体を加圧して成形体を得る(成形工程)。
本工程において、原料粉体を加圧する際の圧力は、焼結スプロケット1の製造に用いられる搬送ラインによって成形体を搬送するのに十分な強度を確保し、かつ金型の破損を防止する観点から、原料粉体に3〜10t/cm2の面圧がかかるように設定することが好ましい。かかる面圧は、原料粉体における鉄、ニッケル、モリブデン、炭素および潤滑剤の含有量などに応じて適宜選択することができる。
かかる工程では、原料粉体中に潤滑剤が含まれているため、金型のキャビティーの内面に潤滑剤を塗布しなくてもよく、良好な状態で成形体を金型から離型することができる。また、上述したように、原料粉体が圧縮されやすくなっているため、成形時に、原料粉体や金型を加熱する温間成形を行なわなくてもよく、成形体を効果的に高密度化することができる。
【0023】
つぎに、工程1−4において、成形体を1200〜1350℃の焼結温度で焼結する(高温焼結工程)。
本工程では、成形体を1200〜1350℃という高温で焼結するため、原料として銅などの比較的低融点の金属を用いて液相焼結を行なう必要がない。したがって、原料コストを低減することができる。
【0024】
焼結温度は、焼結時において、拡散速度が小さいニッケルを成形体中に十分に拡散させる観点から、1200℃以上、好ましくは1250℃以上であり、焼結炉の耐熱温度を考慮すると、1350℃以下であり、好ましくは1300℃以下である。これにより、焼結時の成形体中にニッケルが十分に拡散されるため、残留オーステナイトの生成を抑制することができる。
【0025】
成形体の焼結は、金属などの酸化を抑制する観点から、非酸化性雰囲気で行なうことが望ましい。非酸化性雰囲気としては、例えば、窒素ガス、ブタン変性ガス、窒素と水素との混合ガスなどの非酸化性ガスを含む雰囲気などが挙げられる。
【0026】
つぎに、工程S1−5において、焼結体を浸炭雰囲気下で加熱(焼入れ)し、その後、急冷する(浸炭焼入れ工程)。
【0027】
本工程において、浸炭雰囲気のカーボンポテンシャルは、原料粉体の組成などによって異なるため、原料粉体の組成などに応じて適宜設定することが望ましい。通常、浸炭雰囲気のカーボンポテンシャルは、十分な表面硬さを確保する観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上であり、セメンタイトの析出を抑制する観点から、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下である。
焼入れ温度は、原料粉体の組成などによって異なるため、原料粉体の組成などに応じて適宜設定することが望ましい。通常、焼入れ温度は、オーステナイト変態を十分に行なう観点から、好ましくは800℃以上であり、焼入れ時における歪みの発生を低減する観点から、好ましくは911℃以下である。
また、加熱時間は、焼結体の大きさなどによって異なるため、焼結体の大きさなどに応じて適宜設定することが望ましい。通常、加熱時間は、焼結体を均一な温度に加熱し、かつ焼結体中において、炭素を十分に拡散させる観点から、好ましくは0.5〜5時間である。
急冷は、例えば、油浴中に、焼入れ後の焼結体を浸漬させて冷却する油冷により行なうことができる。この場合、油浴の温度は、通常、50〜200℃であればよい。
【0028】
その後、工程S1−6において、浸炭焼入れ後の焼結体に対して、焼もどし処理を施す(焼もどし工程)。
焼もどしを行なう際の温度は、焼結プロットの用途や求められる硬さなどによって異なるため、焼結プロットの用途や求められる硬さなどに応じて適宜設定することが望ましい。通常、焼もどしを行なう際の温度は、歪み応力を除去し、かつ組織を安定化させる観点から、好ましくは130℃以上であり、所定の硬さを確保する観点から、好ましくは250℃以下である。
焼きもどしを行なう時間は、焼結体の大きさなどによって異なるため、焼結体の大きさなどに応じて適宜設定することが望ましい。通常、焼きもどしを行なう時間は、焼結体を均一な温度に加熱する観点から、0.5〜3時間であればよい。
【0029】
このようにして得られる熱処理体は、密度7.0〜7.4g/m3、引張強さ1000〜1100Mpa、回転曲げ疲労強度330〜430Mpa、および面圧疲労強度1.2〜1.3Gpaであり、ニッケル高含有量の原料粉体から得られる焼結体と同等の物性を有する。
なお、引張強さ、回転曲げ疲労強度は、それぞれ、JIS Z2550およびJIS Z2274にしたがって求めた値である。面圧疲労強度は、二円筒式試験によって求めた値である。
【0030】
図3は、本発明の他の実施の形態に係る製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3に示される製造方法は、図2に示される製造方法に用いられる原料粉体において、炭素含有量が0.6〜1.0質量%である原料粉体を用いる点、および熱処理として、浸炭焼入れの代わりに、高周波焼入れを行なう点で、図2に示される製造方法と異なっている。これらの点を除き、本実施の形態に係る製造方法における工程S2−1〜工程S2−4および工程S2−6は、図2に示される製造方法における工程S1−1〜工程S1−4および工程S1−6と同様の操作を行なうことにより実施することができる。
【0031】
本実施の形態に係る製造方法では、前記混合物における炭素の含有量は、十分な焼入れ性を確保して十分な表面硬さを確保するとともに、セメンタイトの析出を抑制し、かつ十分な密度の焼結部品を得る観点から、好ましくは0.6〜1.0質量%以下である。
【0032】
高周波焼入れ工程(工程S2−5)では、誘導加熱コイルを用いて、図1に示される焼結スプロケット1の歯部3および歯溝部4に対応する焼結体の部分の表面を加熱し、急冷する。
本工程では、加熱温度は、前記浸炭焼入れにおける焼入れ温度と同様であればよい。これにより、焼結部品の歯部3および歯溝部4の表面硬さを向上させることができる。本工程で得られる焼結体における前記歯部3および歯溝部4に対応する部分の表面硬さは、通常、ロックウェルA硬さ68〜85である。
高周波焼入れを行なう際の加熱保持時間は、表面を所定温度にすることができる程度であればよい。
急冷は、例えば、油を、焼入れ後の焼結体に噴霧することによって行なうことができる。この場合、油の温度は、通常、50〜100℃であればよい。
【0033】
なお、本発明においては、成形工程(工程S1−5またはS2−5)において、原料粉体や金型を加熱する温間成形を行なってもよい。
さらに、本発明においては、成形工程(工程S1−5またはS2−5)において、金型の内面に潤滑剤を塗布してもよい。この場合、原料粉体中に潤滑剤が含まれている必要がない。
【0034】
以上のように、本発明の製造方法によれば、高強度の焼結部品を安価に製造することができる。したがって、本発明の製造方法は、高い強度が要求されるサイレントチェーン用スプロケットおよびローラーチェーン用のスプロケットの製造に好適である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〜2および比較例1〜2〕
ニッケル粉体、モリブデン粉体、銅粉体、炭素粉体および鉄粉体を表1に示される組成となるように単純混合し、ついで、得られた混合物と潤滑剤とを、表1に示される組成となるように単純混合し、原料粉体を得た。つぎに、得られた原料粉体を、サイレントチェーン用のスプロケットを成形するための金型内に充填した。
【0037】
【表1】
【0038】
その後、金型内に充填された原料粉体を面圧が5.5t/cm2で加圧し、前記スプロケットに対応する成形体を得た。得られた成形体の密度は、7.1g/cm3(実施例1)、7.1g/cm3(実施例2)、7.0g/cm3(比較例1)および7.0g/cm3(比較例2)であった。
【0039】
つぎに、得られた成形体を、焼結温度1300℃で20分間(実施例1)、1250℃で10分間(実施例2)、1250℃で10分間(比較例1)または1300℃で20分間(比較例2)焼結させた。得られた焼結体を、カーボンポテンシャル1.2の浸炭雰囲気中において900℃で1.75時間加熱した。その後、歪みの低減および炭素含有量の調整のために、前記焼結体を、カーボンポテンシャル0.85の浸炭雰囲気中において900℃で0.5時間加熱した後、850℃で0.5時間加熱した。つぎに、焼結体を130℃に油冷し、160℃で2時間加熱した。これにより、スプロケットを得た。
【0040】
得られたスプロケットの密度は、7.20g/cm3(実施例1)、7.15g/cm3(実施例2)、7.10g/cm3(比較例1)および7.05g/cm3(比較例2)であった。
【0041】
〔比較例3〕
ニッケル粉体、モリブデン粉体、銅粉体、炭素粉体および鉄粉体を実施例1および2と同じ組成となるように単純混合し、ついで、得られた混合物と潤滑剤とを、実施例1および2と同じ組成となるように単純混合し、原料粉体を得た。つぎに、得られた原料粉体を、サイレントチェーン用のスプロケットを成形するための金型内に充填した。
【0042】
その後、金型内に充填された原料粉体を面圧が5.5t/cm2で加圧し、前記スプロケットに対応する成形体を得た。得られた成形体の密度は、7.1g/cm3であった。つぎに、得られた成形体を、焼結温度1130℃で15分間焼結させた。得られた焼結体を、カーボンポテンシャル1.2の浸炭雰囲気中において900℃で1.75時間加熱した。その後、歪みの低減および炭素含有量の調整のために、前記焼結体を、カーボンポテンシャル0.85の浸炭雰囲気中において900℃で0.5時間加熱した後、850℃で0.5時間加熱した。つぎに、焼結体を130℃に油冷し、160℃で2時間加熱した。これにより、スプロケットを得た。得られたスプロケットの密度は、7.10g/cm3であった。
【0043】
〔試験例1〕
実施例1〜2および比較例1〜3で得られたスプロケットの引張強さ、回転曲げ疲労強度および面圧疲労強度を測定した。
【0044】
引張強さは、JIS Z2550にしたがって測定した。回転曲げ疲労強度は、JIS Z2274にしたがって測定した。面圧疲労強度は、二円筒式試験によって測定した。これらの結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示された結果から、実施例1および2で得られたスプロケットは、比較例1および2で得られたスプロケットの製造に用いられた原料粉体と比べて、ニッケルの含有量が少なく、安価な原料粉体を用いて得られたものであるにもかかわらず、比較例1および2で得られたスプロケットとほぼ同等の引張強さ、回転曲げ疲労強度および面圧疲労強度を有することがわかる。
【0047】
また、表2に示された結果から、実施例1で得られたスプロケットは、比較例3で得られたスプロケットの引張強さ、回転曲げ疲労強度および面圧疲労強度よりも大きい引張強さ、回転曲げ疲労強度および面圧疲労強度を有することがわかる。
【0048】
以上の結果から、ニッケルの含有量が少なく、安価な原料粉体を加圧して得られた成形体を高温焼結(1200〜1350℃)することにより、ニッケル高含有量の焼結部品と同程度の強度を得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
1 焼結スプロケット
11 スプロケット本体
12 歯部
13 歯溝部
14 内径孔
15 ボス部
16 リブ部
図1
図2
図3