【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような中和剤等の薬液を用いる方法、特許文献2に記載されているような燃焼させる方法、特許文献3に記載されているような触媒を用いた熱分解反応による方法により、アンモニアを分解することはできる。ところが、これらの方法では、薬品や外部エネルギ(燃料)を必要とし、さらには、触媒を定期的に交換する必要があり、ランニングコストが大きくなるという問題がある。
【0005】
また、装置が大掛かりとなり、既存の設備に付加的に設ける場合には、スペースを確保するのが困難である。また、リン酸型燃料電池を、化合物半導体製造の排気中のアンモニアの除去に用いる装置についても、電解質が液体であるため、空気側とアンモニア側との仕切りをコンパクトにできず、装置の小型化が難しいという問題があった。
【0006】
上記問題を解決するため、特許文献5に記載されているように、筒状の固体電解質層と、この固体電解質層を内外から挟むようにして積層形成された第1の電極層及び第2の電極層とを備えて構成される筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を採用することができる。上記筒状MEAの内側空間を、分解されるガスを含む気体が、軸方向に流動させられる。
【0007】
上記ガスを分解するには、ガスを含む気体の温度をできるだけ高めて、上記筒状MEAの第1の電極層(燃料極)に作用させるのが好ましい。高いガス分解性能を得るために、筒状MEAを高温に、たとえば、800℃以上に保持する必要がある。このため、加熱容器内に上記筒状MEAを収容し、上記筒状MEAの全体を加熱するように構成されている。
【0008】
従来の筒状MEAでは、筒状MEAの内側に形成した第1の電極層に分解に供せられるガスを接触させるため、長尺状の筒状MEAを構成し、この内側空間に上記ガスを流動させるように構成されている。また、上記筒状MEA内を流動させるガスを効率よく上記第1の電極層に作用させるため、上記筒状MEAの内径が小さく設定されている。
【0009】
ところが、上記ガスの流量を増加させると、上記筒状MEA内で流動するガスの圧力損失が大きくなる。しかも、筒状MEAの内側電極の表面積が限られているため、大量のガスを処理するのが困難になり、ガス分解効率が低下するという問題が生じる。
【0010】
また、流量を増加させると、ガスが上記筒状MEA内で滞在する時間も減少する。このため、上記ガスを充分に加熱してから上記筒状MEAに作用させることができないという問題も生じる。
【0011】
本願発明は、大量のガスを処理することができるとともに、上記ガスを充分に加熱してから電極に作用させて分解することができるガス分解装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、 筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の外周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の内周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を用いて構成されるガス分解装置であって、上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器を備え、上記加熱容器内に、分解に供せられる第1のガスを上記第1の電極層に作用させるように流動させるガス流路を設ける一方、上記筒状MEA内に第2のガスを流動させるように構成
されている。上記筒状MEAは、下端部を封止して設けられるとともに、上記加熱容器内に配置される封止部と、上記筒状MEAの内部空間に挿入されて、上記筒状MEAの内周面との間に筒状流路を形成するガス誘導パイプと、上記ガス誘導パイプに連通するガス導入部を有するとともに、上記ガス誘導パイプの外周部を囲み、側部にガス排出部を有する環状の排気空間を有する接続部材とを備える。上記構成の筒状MEAは、上端部に設けられた上記接続部材を介して上記ガス誘導パイプ内に導入された第2のガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第2の電極層に作用させ、上記接続部材を介して排出するように構成されている。
【0013】
本願発明に係るガス分解装置においては、筒状MEAが収容される加熱容器内に、分解に供せられるガスを流動させるガス流路を設けて、上記筒状MEAの外周部に形成された第1の電極層に作用させて分解する。
【0014】
上記加熱容器内の空間は、上記筒状MEA内の内側空間に比べて大きいため、大量のガスを流動させても圧力損失が大きくなることはない。特に、分解に供せられる第1のガスの量が、他のガスより多い場合、効率を高めることができる。たとえば、アンモニアガスを第1のガスとして分解する場合、第2のガスとして採用される空気より流量が多い。このため、第2のガスの流量を第1のガスの流量に比べて少なく設定することができる。
【0015】
しかも、上記加熱容器内の空間が大きいため、大量のガスを流動させても流速を小さく設定することが可能となり、加熱容器内での滞在時間を長く設定することが可能となる。このため、上記第1のガスを充分に加熱してから、上記第1の電極層に作用させて、ガス分解効率を高めることができる。
【0016】
さらに、上記第1の電極層を筒状MEAの外周部に設けることにより、上記第1のガスと接触する電極の接触面積を大きく設定することが可能となり、ガス分解効率をより高めることができる。
【0017】
上記筒状MEAの外周部に形成された第1の電極層に作用するように上記ガスを流動させることができれば、上記加熱容器内に設けられるガス流路の形態は特に限定されることはない。
【0018】
たとえば
、第1のガスを蛇行させながら上記第1の電極層に作用させるように、上記ガス流路を構成することができる。上記加熱容器内に第1のガスを蛇行させるガス流路を設けることにより、加熱容器内での流動距離及び滞在時間も長くなり、第1のガスと上記第1の電極層との接触時間が長くなるばかりでなく、第1のガスを充分に加熱してから上記第1の電極に作用させることができる。また、蛇行するガス流路を設定することにより、流動するガスを上記第1の電極に対して均一に作用させることも可能となり、ガス分解効率を高めることができる。
【0019】
上記ガス流路を構成する具体的構成は特に限定されることはない。たとえば、上記加熱容器内の対抗する壁面から交互に延出する板状部材を設けることにより、これら板状部材間に、上記第1のガスが蛇行して流動するガス流路を設けることができる。
【0020】
また、上記加熱容器内に複数の筒状MEAを収容するとともに、上記ガス流路を、上記複数の筒状MEAの外周部を通過するように形成
することができる。
【0021】
通常、一つの加熱容器内に、複数の筒状MEAを収容してガス分解装置が構成される。従来のガス分解装置では、上記各筒状MEAの内側に分解に供せられる第1のガスをそれぞれ導入してガスを分解していた。ところが、上記筒状MEAのガス分解能力が異なるため、各筒状MEAにおいてガスの可能処理量や処理程度が異なるという問題があった。また、上記複数の筒状MEAのうち一つでも故障すると、ガス分解装置全体を停止する必要があった。
【0022】
本願発明では、加熱容器内に形成される上記ガス流路を、上記複数の筒状MEAの外周部を通過するように形成しているため、各筒状MEAの処理能力に差があっても、流動するガスを均一に処理することが可能となる。また、筒状MEAの一部が故障しても、装置全体を停止させる必要はなく、処理流量等を低下させる等の対応も可能となる。
【0023】
上述したように、ガスの分解効率を高めるには、ガスの温度をできるだけ高めるのが好ましい。一方、従来のガス分解装置では、筒状MEA内に分解に供せられるガスを流動させるため、筒状MEAを介してガスを加熱する必要があり、加熱効率が良いとはいえなかった。
【0024】
本願発明では、上記第1のガスを加熱容器内で流動させるため、第1のガスの加熱効率を高めることが可能となる。さらに
、上記ガス流路に、上記第1のガスを加熱する加熱手段を設けることができる。上記加熱手段を設けることにより、加熱容器内を流動するガスを直接加熱することが可能となり、ガス分解効率をさらに高めることができる。
【0025】
上記加熱手段の構成は特に限定されることはない。たとえば、ガス流路内に直接加熱ヒータを設けることができる。また、上記ガス流路を構成する部材に加熱ヒータを設けることもできる。さらに、上記ガス流路内に、加熱ヒータによって加熱される多孔質体を設け、この多孔質体内で上記第1のガスを流動させて加熱するように構成することもできる。
【0027】
また
、上記筒状MEAを、下端部を封止して設けられるとともに、上記加熱容器内に配置される封止部と、上記筒状MEAの内部空間に挿入されて、上記筒状MEAの内周面との間に筒状流路を形成するガス誘導パイプを備え、上端部に設けられた上記接続部材を介して上記ガス誘導パイプ内に導入された第2のガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第2の電極層に作用させ、上記接続部材を介して排出するように構成
している。
【0028】
上記構成を採用することにより、第2のガスを出入りさせる接続部材を上端のみに設けることが可能となり、筒状MEAと上記接続部材とのシール構造も1か所に設ければ良い。したがって、配管接続の信頼性が高まる。また、部品点数や加工工程を低減させることができる。
【0029】
また、上記構成を採用することにより、筒状MEA内を流れる第2のガスは、筒状MEAの筒長さの2倍の距離を流動させられることになる。このため、上記ガス誘導パイプ内で第2のガスの温度を上昇させた後に、上記筒状MEAに作用させることができる。したがって、ガス分解装置の効率を高めることが可能となる。
【0030】
上記筒状MEAの一端部を封止する構成は特に限定されることはない。たとえば、上記筒状MEAの一端部を、上記固体電解質層を一体延出させて形成された底部によって封止することができる。上記底部は、成形及び焼結工程において筒状MEAと一体形成されるため、第2のガスが漏れ出たり、第1のガスと混ざり合うことはなく、筒状MEAの一端部を確実に封止することができる。
【0031】
また、上記筒状MEAの一端部を、封止部材を用いて封止することもできる。この構成を採用することにより、両端が開口された従来の筒状MEAに適用することが可能となる。
【0032】
上記筒状MEAにおける第2のガスの出入り口は、導入される第2のガスと排出される第2のガスとが混合しないように、二重構造を備える接続部材が設けられる。上記接続部材は、上記ガス誘導パイプに連通するガス導入部を備えるとともに、上記ガス誘導パイプの外周部を囲み、側部にガス排出部を有する環状の排気空間を備えて構成することができる。上記接続部材を採用することにより、上記筒状MEAの一方の側から、第2のガスを導入するとともに、排出することができる。
【0033】
また、上記ガス誘導パイプを第2の電極層の集電体として利用することができる。すなわち、上記ガス誘導パイプを導電性材料から形成するとともに、上記第2の電極層に導通させられて、上記第2の電極層の集電体を構成することができる。
【0034】
上記ガス誘導パイプを第2の電極層の集電体として利用することにより、ガス分解効率を高めることができるばかりでなく、筒状MEA内のスペースを有効活用することができる。
【0035】
上記ガス誘導パイプを構成する材料は特に限定されることはないが、耐熱性を有するとともに、第2のガスによって腐食等が生じない材料で形成する必要がある。たとえば、ステンレス、ニッケル、インコネル(スペシャルメタル社の登録商標)等のニッケル合金等の材料を用いて形成することができる。
【0036】
上記第2の電極層と上記ガス誘導パイプとを導通させる手法は特に限定されることはない。たとえば、導電性を有する多孔質金属体を、上記筒状MEA内周面と上記ガス誘導パイプ外周面の間に形成される筒状流路内に挿入して、上記第1の電極層と上記ガス誘導パイプとを導通させることができる。また、上記多孔質金属体を設けることにより、上記第2の電極層の内周面と上記ガス誘導パイプの外周面との間の筒状流路を確保することができるとともに、上記ガス誘導パイプを筒状MEA内で位置決め保持することができる。
【0037】
上記第1の電極層及び上記第2の電極層を構成する材料も特に限定されることはない。たとえば、請求項6に記載した発明のように、上記第1の電極層及び/又は上記第2の電極層を、ニッケル(Ni)を主成分とする金属粒子連鎖体と、イオン導電性セラミックスとを含む焼成体とすることができる。金属粒子連鎖体は、金属粒子が連なってできた数珠状の細長い金属体をいう。Ni、Fe含有Ni、もしくはNi,Fe含有Niに微量Tiを含む金属とするのがよい。Niなどは表面酸化された状態では、その金属粒子連鎖体の表面が酸化されており、中身(表層の内側の部分)は酸化されずに金属の導電性を保持している。
【0038】
このため、たとえば固体電解質層内を移動するイオンが陰イオンの場合(陽イオンの場合もある)、次のような作用効果が生じる。
(A1)金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)に含有させた場合、第1の電極層(アノード)において、固体電解質層から移動してくる陰イオンと、第1の電極層(アノード)の外部から第1の電極層(アノード)へと導かれる気体中のガス分子との化学反応を、金属粒子連鎖体の酸化層によって促進させ(触媒作用)、かつ陰イオンを参加させて第1の電極層(アノード)での化学反応を促進させる(電荷による促進作用)。そして、その化学反応の結果、生じる電子の導電性を、金属粒子連鎖体の金属部分で確保することができる。この結果、第1の電極層(アノード)における電荷の授受を伴う電気化学反応を、全体的に促進することができる。金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)に含有させた場合、第1の電極層(アノード)において、陽イオンたとえばプロトンを発生させて固体電解質層中を第2の電極層(カソード)へと陽イオンを移動させ、上記の電荷による促進作用を、同様に得ることができる。
ただし、金属粒子連鎖体の酸化層については、使用前は焼成処理によって確実に形成されているが、使用中に還元反応によって酸化層がなくなることが多い。酸化層がなくなっても、上記の触媒作用は減ずることはあってもなくなることはない。とくにFeやTiを含有させたNiは、酸化層がなくても触媒作用は高い。
【0039】
(A2)金属粒子連鎖体を第2の電極層(カソード)に含有させた場合、第2の電極層(カソード)において、第2の電極層(カソード)の外部から第2の電極層(カソード)へと導かれる気体中のガス分子の化学反応を、金属粒子連鎖体の酸化層によって促進させ(触媒作用)、かつ外部回路からの電子の導電性を向上させるとともに、当該電子を参加させて第2の電極層(カソード)での化学反応を促進させる(電荷による促進作用)。そして、当該分子から効率よく陰イオンを生じて、固体電解質層へと送り出すことができる。(A1)と同様に、(A2)の場合、固体電解質層中を移動してきた陽イオンと、外部回路を流れてきた電子と、第2の気体との電気化学反応を促進することができる。このため、上記第1の電極層(アノード)に含ませる場合と同様に、第2の電極層(カソード)における電荷の授受を伴う電気化学反応を、全体的に促進することができる。どのような場合に、金属粒子連鎖体を第2の電極層(カソード)に含ませるかは、分解対象のガスによって変わる。
(A3)金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)及び第2の電極層(カソード)に含有させた場合は、上記(A1)および(A2)の効果を得ることができる。
【0040】
上記の電気化学反応は、イオンの固体電解質層を移動する速度または移動時間で律速される場合が多い。イオンの移動速度を大きくするために、上記のガス分解装置は、上記筒状MEAの全体を収容できる加熱機器たとえば加熱ヒータを備え、高温、たとえば600℃〜1000℃にするのが普通である。高温にすることで、イオン移動速度だけでなく、電極層での電荷授受をともなう化学反応も促進される。
【0041】
固体電解質層を移動するイオンが陰イオンの場合は、上述のように、第2の電極層(カソード)での化学反応によって発生し、供給される。第2の電極層(カソード)において導入された流体中の分子と電子とが反応して陰イオンが生成する。生成した陰イオンは、固体電解質層中を第1の電極層(アノード)へと移動する。第2の電極層(カソード)での反応に参加する電子は、第1の電極層(アノード)と第2の電極層(カソード)とを連絡する外部回路(蓄電器、電源、電力消費機器を含む)から入ってくる。固体電解質層を移動するイオンが陽イオンの場合は、第1の電極層(アノード)での電気化学反応によって発生して固体電解質層中を第2の電極層(カソード)へと移動する。電子は、第1の電極層(アノード)で発生して外部回路を第2の電極層(カソード)へと流れて第2の電極層(カソード)での電気化学反応に参加する。上記電気化学反応は、燃料電池としての発電反応であってもよいし、または電気分解反応であってもよい。
【0042】
固体電解質層を、酸素イオン導電性またはプロトン導電性を有する構成とすることができる。酸素イオン導電性の固体電解質を用いた場合、たとえば第2の電極層(カソード)で電子と酸素分子とを反応させて酸素イオンを生じさせ、これを固体電解質層内で移動させて第1の電極層(アノード)にて所定の電気化学反応を起こさせることができる。この場合、酸素イオンの固体電解質層中の移動速度はプロトンと比べて大きくないので、実用レベルの分解容量を得るには、温度を十分高める、及び/又は固体電解質層の厚みを十分薄くする、などの対策が必要である。
【0043】
一方、プロトン導電性の固体電解質は、バリウムジルコネート(BaZrO
3)などが知られている。プロトン導電性の固体電解質を用いると、たとえば第1の電極層(アノード)でアンモニアを分解してプロトン、窒素分子および電子が生じる。このプロトンを、固体電解質層を経て第2の電極層(カソード)へと移動させ、第2の電極層(カソード)において酸素と反応して水(H
2O)を生じさせる。プロトンは酸素イオンと比べて小さいので固体電解質層中の移動速度は大きく、加熱温度を低くして実用レベルの分解容量を得ることができる。
【0044】
また、
分解対象のガスを燃料とし、上述した本願発明に係るガス分解装置を備えて発電装置を構成することもできる。
【0045】
本願発明に係るガス分解方法は、筒状MEAの上端部に設けられた上記接続部材の上記ガス導入路を介して上記ガス誘導パイプ内に導入された第2のガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第2の電極層に作用させ、上記接続部材の上記排気空間及びガス排出部を介して排出する一方、分解に供せられるガスを、上記加熱容器内で蛇行させながら流動させて上記第1の電極層に作用させる
ことにより行われる。
【0046】
さらに、上記加熱容器内に複数の筒状MEAを収容するとともに、上記ガスを、上記複数の筒状MEAの外周部を通過させるように流動させるガス分解方法
を採用することもできる。