(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765670
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/18 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
F16J15/18 C
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-538777(P2011-538777)
(86)(22)【出願日】2011年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2011050724
(87)【国際公開番号】WO2011108298
(87)【国際公開日】20110909
【審査請求日】2013年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-47352(P2010-47352)
(32)【優先日】2010年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】上瀧 直弘
【審査官】
莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−504237(JP,A)
【文献】
実開平04−056269(JP,U)
【文献】
実開平03−104564(JP,U)
【文献】
特開2005−054827(JP,A)
【文献】
特開2007−092791(JP,A)
【文献】
特開2006−342972(JP,A)
【文献】
特開2009−92112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸的に相対回転する内外二部材間に形成される環状の隙間を密封する密封装置であって、
一方の部材に周方向に沿って形成された断面矩形状のシール用環状溝の底面に接触させて設けられたバックリングと、
前記シール用環状溝の開口側に設けられ、前記バックリングにより押圧されて他方の部材に全周に亘って摺接して相対的に回転摺動するシールリングと、を有し、
前記バックリングの前記底面との接触面は円筒形状の面であり且つ前記シールリングとの接触面は軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面であり、
前記シールリングの前記バックリングとの接触面は円筒形状の面であり且つ前記他方の部材との接触面は軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面であり、
前記シールリングの凸曲面の曲率は、前記バックリングの凸曲面の曲率よりも小さいことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記バックリングは、ゴム製のDリングであり、
前記シールリングは、ポリエチレン又はポリアミドからなる樹脂製リングである、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記シールリングの端面は、前記シール用環状溝の底面に近づくほど前記シール用環状溝の側面との間隔が拡大するように傾斜したテーパ面を有している、請求項1又は2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や建設機械等、各種機械の回転部に設けられる密封装置に関し、特に、高い流体圧がかかり且つ低トルクで回転する回転部の密封性に優れた密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械等の分野においては、作業効率向上の観点から、油圧など流体圧で駆動される部分の動作速度の向上が求められる一方、機械効率向上の観点から、流体の漏れを防ぎつつ回転する回転部の低トルク化が求められている。
このような事情の下、高い流体圧がかかり且つ低トルクで回転する回転部の密封性を向上させた密封装置が各種提案されている。
その一例として、
図2(A)に示すように、互いに同軸的に相対回転する内外二部材11、12間に形成される環状の隙間Sを密封するべく、第1部材(外側の部材)11の軸孔11aの内面部に周方向に沿って形成されたシール用環状溝13に、Oリング(バックリング)14とその内側に嵌合したシールリング15とを装着するとともに、シールリング15の第2部材(内側の部材)12との摺動面の軸方向(流体圧Pがかかる方向)両側に傾斜面15a、15bを形成したものがある。この密封装置は、
図2(B)に示すように、流体圧Pが加えられたときに作動流体と接触する側(反圧力側)の傾斜面15aと第2部材12との間に流体が入り込むことによりシールリング15の第2部材12との接触面積が減少し、シールリング15と第2部材12との摩擦抵抗が小さくなることにより、高い密封性能と回転部の低トルク化を同時に実現する。(たとえば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−504237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来の密封装置は、バックリング14としてOリングを用いているため、バックリング14とシール用環状溝13の底面13aとの接触が不完全である。高い流体圧Pが作用したときには、作動流体と接触する側におけるバックリング14とシール用環状溝13の底面13aとの間の空間が拡大するため、両者の接触がより不完全になる。その結果、バックリング14の弾性復元力がシールリング15を第2部材12側に付勢する押圧力として有効に作用しなくなる場合があり、密封性能が不安定になるという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高い流体圧が作用しているときでも常に安定した高い密封性能を発揮しつつ回転部の低トルク化を実現し得る密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる密封装置は、互いに同軸的に相対回転する内外二部材間に形成される環状の隙間を密封する密封装置であって、
一方の部材に周方向に沿って形成された断面矩形状のシール用環状溝の底面に接触させて設けられたバックリングと、
前記シール用環状溝の開口側に設けられ、前記バックリングにより押圧されて他方の部材に全周に亘って摺接して相対的に回転摺動するシールリングと、を有し、
前記バックリングの前記底面との接触面は円筒形状の面であり且つ前記シールリングとの接触面は軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面であり、
前記シールリングの前記バックリングとの接触面は円筒形状の面であり且つ前記他方の部材との接触面は軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面であることを特徴とするものである。
【0007】
互いに同軸的に相対回転する内外二部材の典型は、軸とハウジングである。シール用環状溝がハウジングに設けられている場合には、シールリングはバックリングの内周側に装着され、バックリングによる径方向内向きの押圧力を受けて軸(の外周面)に摺動する。逆に、シール用環状溝が軸に設けられている場合には、シールリングはバックリングの外周側に装着され、バックリングによる径方向外向きの押圧力を受けてハウジング(の内周面)に摺動する。
【0008】
上記のように構成された密封装置に作動流体圧が作用すると、バックリング及びシールリングが一方の部材に形成されたシール用環状溝の反圧力側すなわち作動流体と接触しない側の側面に押しつけられる。また、バックリングは作動流体圧により弾性圧縮を受けて、その弾性復元力でシールリングを他方の部材側に押圧する。
シールリングは、バックリングとの接触面が円筒形状の面であり且つ他方の部材との接触面が軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面になっているため、作動流体圧とバックリングによる押圧力とを受けて傾き、その反圧力側の端面をシール用環状溝の反圧力側の側面に面接触させるとともに、その内周面の反圧力側部分を他方の部材に面接触させた姿勢で安定する。そして、シールリングの内周面の作動流体が接触している部分に作動流体圧が作用することにより、その部分と他方の部材との間の空間が拡大し、シールリングと他方の部材との接触面積が小さくなる。その結果、シールリングの他方の部材と接触している部分にバックリングの押圧力が集中的に作用するため高い密封性能が確保され、シールリングと他方の部材との摩擦抵抗が小さくなるため回転部の低トルク化が実現される。
バックリングのシール用環状溝の底面との接触面が円筒形状の面であることにより、高い作動流体圧が作用しているときでもバックリングとシール用環状溝の底面との間に作動流体が入り込む余地はなく、バックリングのシール用環状溝の底面との接触面全体がシール用環状溝の底面に常に接触した状態に保たれる。すなわち、シール用環状溝の底面もバックリングの当該底面との接触面も共に円筒形状の面であるので、両面間に隙間が発生しない。したがって、バックリングの弾性復元力をシールリングを他方の部材側に付勢する押圧力として常に有効に作用させて、常に安定した密封性能を実現できる。
【0009】
本発明の密封装置において、前記バックリングは、ゴム製のDリングであり、
前記シールリングは、ポリエチレン又はポリアミドからなる樹脂製リングであることが望ましい。
バックリングとして、ゴム製のDリングを使用することにより、シールリングに対しゴム弾性による適度な押圧力を作用させつつ、シールリングを傾動させることができる。シールリングとして、ポリエチレン又はポリアミドからなる樹脂製リングを使用することにより、両リング間の摩擦によるゴム製のDリングの摩耗を極力少なくするとともに、高い流体圧に対するシールリングの耐久性及び他方の部材との摺動性を確保できる。
【0010】
本発明の密封装置において、前記シールリングの端面は、前記シール用環状溝の底面に近づくほど前記シール用環状溝の側面との間隔が拡大するように傾斜したテーパ面を有していることが望ましい。
この構成によれば、シールリングが作動流体圧とバックリングによる押圧力とを受けて傾いたときに、シールリングの反圧力側の端面がシール用環状溝の反圧力側の側面に良好に面接触するので、より安定した密封性能を実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封装置によれば、高い作動流体圧が作用しているときでも、バックリングの弾性復元力をシールリングを付勢する押圧力として常に有効に作用させて常に安定した密封性能を実現しつつ、シールリングによる摩擦抵抗を小さくして回転部の低トルク化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の密封装置の実施形態を例示する部分断面図であり、(A)は流体圧が作用していない時のバックリング及びシールリングの状態を、(B)は流体圧が作用している時のバックリング及びシールリングの状態をそれぞれ示している。
【
図2】従来の密封装置を例示する部分断面図であり、(A)は流体圧が作用していない時のバックリング及びシールリングの状態を、(B)は流体圧が作用している時のバックリング及びシールリングの状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
この実施形態の密封装置は、油圧工作機械などの回転部に適用されるものであり、
図1(A)に示すように、ハウジング(一方の部材)1とハウジング1の軸孔1aに挿通された円柱状の軸(他方の部材)2との間に形成される環状の隙間Sを両部材1、2の相対回転を許容しつつ密封するものである。
【0014】
この密封装置は、Dリング(バックリング)3とシールリング4とを有する。両リング3、4は、軸孔1aの内面部に周方向に沿って形成された断面矩形状のシール用環状溝5内に装着される。
【0015】
Dリング3は、シール用環状溝5の底面5aに接触させて設けられる。Dリング3は、その外周面3aがシール用環状溝5の底面5aと同じく円筒形状の面であり且つその内周面3bが軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面である略D字形の断面形状を有するゴム製の密封部材である。
【0016】
シールリング4は、その外周面4aが円筒形状の面であり且つその内周面4bが軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面である、ポリエチレン又はポリアミドからなる樹脂製の密封部材である。シールリング4の内周面4bの軸方向の曲率は、Dリング3の内周面3bの軸方向の曲率よりも小さく選定されている。シールリング4は、バックリング3の内周面3bに全周に亘って密に嵌合させて設けられ、軸2の外周面全周に密に圧接しつつ相対的に回転摺動する。
【0017】
Dリング3の内径寸法とシールリング4の外径寸法はほぼ等しく、Dリング3とシールリング4は互いに密着した状態でシール用環状溝5内に装着される。Dリング3は装着時にシールリング4とシール用環状溝5の底面5aとの間に挟まれて径方向に圧縮される。このDリング3の弾性復元力がシールリング4を軸2側に付勢する押圧力として働く。また、シールリング4の両端面部には、シール用環状溝5の底面5aに近づくほど溝5の側面5bとの間隔が拡大するように傾斜したテーパ面4c、4dが形成されている。
【0018】
上記のように構成された密封装置において、
図1(B)に示すように、油圧Pが作用すると、Dリング3及びシールリング4がシール用環状溝5の反圧力側の側面5bに押しつけられる。また、Dリング3は油圧Pにより弾性圧縮を受けて、その弾性復元力でシールリング4を軸2側に押圧する。
【0019】
シールリング4は、その外周面4aが円筒形状の面であるのに対しその内周面4bが軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面になっているため、油圧PとDリング3による押圧力とを受けて傾き、その反圧力側のテーパ面4c全体をシール用環状溝5の反圧力側の側面5bに面接触させた姿勢で安定する。軸2と接するシールリング4の内周面4bが軸方向に一定の曲率を有する円環状の凸曲面になっており、その曲率がDリング3の内周面3bの軸方向の曲率よりも小さく選定されていることにより、油圧PとDリング3による押圧力とを受けてなされるシールリング4の安定姿勢への傾動が無段階にスムーズになされる。そして、シールリング4の内周面4bの作動油が接触する部分4b1に油圧Pが作用することにより、その部分4b1と軸2との間の空間が拡大し、シールリング4と軸2との接触面積が小さくなる。その結果、シールリング4の軸2と接触している部分4b2にDリング3の押圧力が集中的に作用するため高い密封性能が確保され、シールリング4と軸2との摩擦抵抗が小さくなるため回転部の低トルク化が実現される。
【0020】
そして、Dリング3の外周面3aが円筒形状の面であることにより、油圧Pが作用しているときでもDリング3とシール用環状溝5の底面5aとの間に作動油が入り込む余地はなく、Dリング3の外周面3a全体がシール用環状溝5の底面5aに常に接触した状態に保たれる。したがって、Dリング3の弾性復元力をシールリング4を軸2側に付勢する押圧力として常に有効に作用させて、常に安定した密封性能を実現できる。
【0021】
また、油圧Pが作用しているとき、Dリング3の反圧力側の端面3cがシール用環状溝5の反圧力側の側面5bに全周に亘って面接触するため、Dリング3とシール用環状溝5との摩擦力が増大する。これにより、シールリング4との周方向の摩擦力によってDリング3がハウジング1に対して回転摺動することを防止できる。
【0022】
また、シールリング4として、ポリエチレン又はポリアミドからなる樹脂製リングを使用していることにより、両リング3、4間の摩擦によるゴム製のDリング3の摩耗を極力少なくするとともに、高い流体圧に対するシールリング4の耐久性及び軸2との摺動性を確保できる。
【0023】
また、シールリング4の両端面がテーパ面4c、4dになっているので、軸方向のどちらの側から油圧Pが作用しても、上述した作用効果を奏することができる。よって、作動中に油圧Pの作用する向きが切り替わるような油圧機械の回転部に対しても、この密封装置を好適に用いることができる。
【0024】
なお、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではない。
たとえば、上記実施形態では、シールリング4の両端面部にテーパ面4c、4dが形成されているが、反圧力側の端面部のみにテーパ面を設けてもよい。
また、上記実施形態では、ハウジング(一方の部材)1の軸孔1aに設けられたシール用環状溝5にDリング3とシールリング4とを装着して、シールリング4を軸(他方の部材)2に接触させる構成を例示したが、本発明は、軸(一方の部材)2に設けられたシール用環状溝にDリングとシールリングとを装着して、シールリングをハウジング(他方の部材)1の軸孔1aに接触させる構成にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 ハウジング
1a 軸孔
2 軸
3 バックリング
3a 外周面(シール用環状溝の底面との接触面)
3b 内周面(シールリングとの接触面)
4 シールリング
4a 外周面(バックリングとの接触面)
4b 内周面(軸との接触面)
4c、4d テーパ面
5 シール用環状溝
5a 底面
S 隙間