特許第5765692号(P5765692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765692
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】湿度センサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20150730BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20150730BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   G01N27/04 C
   C08J5/18CFJ
   C08J5/22
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-528113(P2014-528113)
(86)(22)【出願日】2013年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2013070299
(87)【国際公開番号】WO2014021208
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-171062(P2012-171062)
(32)【優先日】2012年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集第61巻第1号(平成24年(2012年)5月15日)第1111頁(3M22)に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昌芳
(72)【発明者】
【氏名】パンディ ラケッシュ クマー
(72)【発明者】
【氏名】森山 悟士
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/049371(WO,A1)
【文献】 特開2009−265437(JP,A)
【文献】 国際公開第02/062896(WO,A1)
【文献】 高分子論文集, 2008, Vol.65, No.6, p.399-404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00〜 5/02
5/12〜 5/22
G01N27/00〜27/24
C08G79/00
H01B 1/06
H01M 8/02
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一面に離間して形成された2つの電極と、
前記一面で、前記2つの電極を覆うように形成されたフィルムと、を有し、
前記フィルムが、Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーのフィルムであることを特徴とする湿度センサー。
【請求項2】
前記有機/金属ハイブリッドポリマーが、下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の湿度センサー
【化1】
式(1)で、MはFeイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンであり、nは5以上1000以下の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高プロトン伝導性ポリマーフィルム、その製造方法及び湿度センサーに関するものである。
本願は、2012年8月1日に、日本に出願された特願2012−171062号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
高プロトン伝導性ポリマーフィルムは、プロトン伝導度の高いポリマーフィルムである。
プロトン伝導度の高い材料は、電流電圧特性が湿度に高感度に変動し、高湿度において伝導度が上がる材料である。
特許文献1は、銅イオンを含む配位高分子金属錯体に関するものである。これらの銅イオンを含む配位高分子金属錯体は、電流電圧特性が湿度に高感度に変動し、高湿度において伝導度が上がるので、これらの材料がプロトン伝導度の高い材料である。
高プロトン伝導性ポリマーフィルムは、例えば、燃料電池や湿度センサーのプロトン交換膜として用いられる(特許文献1〜3)。
【0003】
プロトン交換膜としては、ナフィオン(Nafion、登録商標)が知られている。ナフィオンは、スルホン化テトラフルオロエチレンコポリマーであり、ポリテトラフルオロエチレン骨格鎖の末端にグラフトされたスルホン酸基がマイナスチャージを有するので、それらの間をプラスチャージされたプロトン基が移動することが容易となり、プロトン伝導度が高くなる。非特許文献9では、ナフィオン膜中のプロトン伝導機構が検討されている。
【0004】
ナフィオンは1960年代に開発されてから、様々な他のポリマーとブレンドされ、安定性等の改良もなされている。例えば、ハイパーブランチポリマーを含むように改良されたナフィオンからなるプロトン交換膜では、伝導率8×10−2Scm−1のプロトン交換膜が開示されている(特許文献1)。また、伝導率(25℃)2×10−2Scm−1のプロトン交換膜、伝導率(25℃)2.7×10−2Scm−1のナフィオン112も開示されている(特許文献2)。
【0005】
非特許文献8、10、11には、ナフィオンの電流電圧特性が湿度に高感度に変動し、高湿度において伝導度が上がることから、ナフィオンがプロトン伝導度の高い材料であることが記載されている。
具体的には、ナフィオン112、115、117のプロトン伝導度(30℃、2端子法)は約0.038〜0.047Scm−1であることが開示されている(非特許文献8)。
インピーダンス・スペクトロスコピーによるプロトン交換膜の伝導率の測定もされている(非特許文献10)。また、ナフィオン膜のインピーダンスの測定結果、ナフィオン膜の伝導率(室温、100%RH)は0.073Scm−1であることが開示されている(非特許文献11)。
【0006】
ナフィオンに匹敵するプロトン伝導率(100%RH)10−2Scm−1を有するものとして、配位高分子金属錯体が開示されている(特許文献3)。
【0007】
プロトン伝導度の高い材料として金属−有機骨格(Metal−organic frameworks:MOFs、別名:ポーラス配位ポリマー(Porous coordination polymers:PCPs))も報告されている(非特許文献1−7)。これらMOFs(PCPs)も、電流電圧特性が湿度に高感度に変動し、高湿度において電動度が上がることから、プロトン伝導度が高い材料である。
非特許文献1に記載のPCPsのプロトン伝導度(298K、95%RH)は2.3×10−9〜2.0×10−6Scm−1である(例えば、非特許文献1のTable.1を参照)。
【0008】
プロトン伝導度の高い材料としてセラミックス膜の報告もある。その電流電圧特性は湿度に高感度に変動し、高湿度において電動度が上がることから、セラミックスはプロトン伝導度が高い材料である。
BZY(BaZr0.80.23−δ)膜の伝導率(500℃)は0.11Scm−1である(非特許文献12)。
Ca−doped LaNbO膜の伝導率(800℃、wet atmospheres)は約10−3Scm−1である(非特許文献13)。
【0009】
また、ポリビニルアルコール(PVA)を添加したポリアニリンを用いた湿度センサーが開示されており(非特許文献14)、ポリアニリンのプロトン伝導度が湿度により大きく変化することにより、この材料の抵抗値を測定して、湿度センサーとして用いることができることを示されている。
【0010】
しかし、これらの材料は、燃料電池や湿度センサーのプロトン交換膜としてプロトン伝導度の点で十分なものではなく、成膜性も十分ではなかった。
更にまた、ナフィオンについては、それ自体が強酸性であるので、中性溶媒雰囲気で使用ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本国特開2004−31173号公報(A)
【特許文献2】日本国特開2010−155991号公報(A)
【特許文献3】日本国特開2004−31173号公報(A)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Akihito Shigematsu et al.,Wide control of proton conductivity in porous coordination polymers,J.Am.Chem.Soc., 2011,133,2034−2036
【非特許文献2】Masaaki Sadakiyo et al.,Promotion of low−humidity proton conduction by controlling hydrophilicity in layered metal−organic frameworks,J.Am.Chem.Soc., 2012,134,5472−5475
【非特許文献3】Teppei Yamada et al.,High proton conductivity of one−dimentional ferrous oxalate dehydrate,J.Am.Chem.Soc.,2009,131,3144−3145
【非特許文献4】Sareeya Bureekaew et al.,One−dimentional imidazole aggregate in aluminium porous coordination polymers with high proton conductivity, nature materials,vol.8,october 2009,831−836
【非特許文献5】Masaaki Sadakiyo et al.,Rational designs for highly proton−conductive metal−organic frameworks,J.Am.Chem.Soc.,2009,131,9906−9907
【非特許文献6】Hiroshi Kitagawa et al.,Highly proton−conductive copper coordination polymer, H2dtoaCu (H2dtoa=dithiooxamide anion),Inorganic chemistry communications 6(2003)346−348
【非特許文献7】Y.Nagao et al., Preparation and proton transport property of N,N’−diethydithiooxamidatocopper coordination polymer, Synthetic metals 154(2005)89−92
【非特許文献8】Chang Hyun Lee et al.,Importance of proton conductivity measurement in polymer electrolyte membrane for fuel cell application,Ind.Eng.Chem.Res.2005,44,7617−7626
【非特許文献9】Klaus schmidt−rohr et al.,Parallel cylindrical water nanochannels in Nafion fuel−cell membranes,nature materials,vol.7,January 2008,75−83
【非特許文献10】S.D.Mikhailenko et at.,Measurements of PEM conductivity by impedance spectroscopy,Solid State Ionics 179(2008)619−624
【非特許文献11】J.J.Fontanella et al.,Electrical studies of acid form NAFION membranes,Solid State Ionics 66(1993)1−4
【非特許文献12】Daniele Pergolesi et al.,High proton conduction in grin−boundary−free yttrium−doped barium zirconate films grown by pulsed laser deposition,nature materials,vol.9,October 2010,846−852
【非特許文献13】Reidar Haugsrud et at.,Proton conduction in rare−earth ortho−nibates and ortho−tantalates,nature materials,vol.5,march 2006,193−196
【非特許文献14】Ming−Zhi Yang et al.,Fabrication and characterization of Polyaniline/PVA humidity microsensors,Sensors 2011 11 8143−8151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、プロトン伝導度(室温、95%RH)が3×10−2Scm−1以上であり、中性溶媒雰囲気で使用可能なプロトン伝導膜、その製造方法及び高感度な湿度センサーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、有機/金属ハイブリッドポリマーからなり、プロトン伝導度(室温、95%RH)が0.034×10−4Scm−1〜1.3×10−1Scm−1のプロトン伝導膜を作成することができた。この材料は、それ自体が強酸性であるナフィオンとは異なり、このプロトン伝導膜を中性溶媒雰囲気で使用できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
(1)Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーのフィルムであることを特徴とする高プロトン伝導性ポリマーフィルム。
【0016】
(2)前記有機/金属ハイブリッドポリマーが、下記一般式(1)で表されることを特徴とする(1)に記載の高プロトン伝導性ポリマーフィルム。
【0017】
【化1】
【0018】
式(1)で、MはFeイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンであり、nは5以上1000以下の整数である。
【0019】
(3)Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーを10〜1000mg/Lの濃度で溶媒に分散させて混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液をキャスト法、ディッピング法又はスピンコーティング法のいずれか一の湿式成膜法により基板上に成膜する工程と、を有することを特徴とする高プロトン伝導性ポリマーフィルムの製造方法。
【0020】
(4)前記溶媒が水又は有機溶媒及びこれらの混合物であり、前記有機溶媒が、アルコール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドの群から選択されるいずれかであることを特徴とする(3)に記載の高プロトン伝導性ポリマーフィルムの製造方法。
【0021】
(5)基板と、前記基板の一面に離間して形成された2つの電極と、前記一面で、前記2つの電極を覆うように形成されたフィルムと、を有し、前記フィルムが(1)又は(2)に記載の高プロトン伝導性ポリマーフィルムであることを特徴とする湿度センサー。
【発明の効果】
【0022】
本発明の高プロトン伝導性ポリマーフィルムは、Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーのフィルムである構成なので、プロトン伝導度(室温、95%RH)が3×10−2Scm−1以上であり、中性溶媒雰囲気で使用可能なプロトン伝導膜を提供することができる。
【0023】
本発明の高プロトン伝導性ポリマーフィルムの製造方法は、Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーを10〜1000mg/Lの濃度で溶媒に分散させて混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液をキャスト法、ディッピング法又はスピンコーティング法のいずれか一の湿式成膜法により基板上に成膜する工程と、を有する構成なので、プロトン伝導度(室温、95%RH)が3×10−2Scm−1以上であり、中性溶媒雰囲気で使用可能なプロトン伝導膜を容易に製造することができる。
【0024】
本発明の湿度センサーは、基板と、前記基板の一面に離間して形成された2つの電極と、前記一面で、前記2つの電極を覆うように形成されたフィルムと、を有し、前記フィルムが(1)又は(2)に記載の高プロトン伝導性ポリマーフィルムである構成なので、高感度な湿度センサーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の湿度センサーの一例を示す平面概略図である。
図1B図1Aの湿度センサーのA−A’での断面図である。
図2】高プロトン伝導性ポリマーフィルムの電極間領域の状態の一例を示す概略図である。
図3】本実施例で用いた電極付き基板と、それに成膜したポリマーフィルムを示す写真である。
図4A】Feポリマーフィルムのインピーダンスプロット(ナイキストプロット)である。
図4B】Feポリマーフィルムのインピーダンスプロット(ナイキストプロット)である。
図4C】Feポリマーフィルムのインピーダンスプロット(ナイキストプロット)である。
図4D】Feポリマーフィルムのインピーダンスプロット(ナイキストプロット)である。
図5】58%RH、室温条件下のFeポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図6A】Ruポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図6B】Ruポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図6C】Ruポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図7A】Znポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図7B】Znポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図7C】Znポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図8】Coポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図9】Niポリマーフィルムのナイキストプロットである。
図10】測定された漏れ電流の一例を示すグラフである。
図11】95%RHでのFeポリマーフィルムのI-V特性である。
図12】減圧下と大気中(28%RH)のFeポリマーフィルムのI-V特性である。
図13】95%RHの実験後、大気中(28%RH)のFeポリマーフィルムのI-V特性である。スイープは−3.0Vから3.0Vまで行き、再び−3.0Vに戻る。
図14】95%RHの実験後、大気中(28%RH)のFeポリマーフィルムのI-V特性である。スイープは−5.0Vから5.0Vまで行き、再び−5.0Vに戻る。
図15】Feポリマーフィルムのスイープ速度1s遅延(a)、5s遅延(b)、20s遅延(c)でのI-V特性である。
図16】95%RHの実験後、大気中(28%RH)のRuポリマーフィルムのI-V特性である。
図17A】RuポリマーフィルムのI-V特性を示すグラフである。
図17B】RuポリマーフィルムのI-V特性を示すグラフである。
図18】95%RHでのZnポリマーフィルムのI-V特性である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルム、その製造方法及び湿度センサーについて説明する。
【0027】
<高プロトン伝導性ポリマーフィルム>
まず、本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルムについて説明する。
本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルムは、Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンの超分子とからなる有機/金属ハイブリッドポリマーのフィルムである。
【0028】
前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、先に記載の一般式(1)で表される。
式(1)で、MはFeイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンであり、nは5以上1000以下の整数である。
例えば、前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、式(2)、(3)で表される。
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
<高プロトン伝導性ポリマーフィルムの製造方法>
次に、本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルムの製造方法について説明する。
本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルムの製造方法は、Feイオン、Coイオン、Ruイオン、Znイオン、Niイオンの群から選択されるいずれか1又は2以上の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンの超分子とからなる有機/金属ハイブリッドポリマーを10〜1000mg/Lの濃度で溶媒に分散させて混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液をキャスト法、ディッピング法又はスピンコーティング法のいずれか一の湿式成膜法により基板上に成膜する工程と、を有する。
【0032】
有機/金属ハイブリッドポリマーを10〜1000mg/Lの濃度で溶媒に分散させて混合溶液を調製することを要する。このような混合溶液を用いて、湿式成膜することにより、均質で、平坦な膜を形成できる。
【0033】
前記溶媒が水又は有機溶媒及びこれらの混合物であり、前記有機溶媒が、アルコール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドの群から選択されるいずれかであることが好ましい。
アルコールとしては、メタノール、エタノール等を挙げることができる。
【0034】
スピンコーティングする場合、低速回転工程と、高速回転工程と、を有するようにすることが好ましい。例えば、最初に120秒間400rpmで回転させ、次に160秒間500rpmで回転させる。これにより、均質で、平坦な膜を形成できる。
【0035】
<湿度センサー>
次に、本発明の実施形態である湿度センサーについて説明する。
図1Aおよび図1Bは、本発明の実施形態である湿度センサーの一例を示す概略図である。図1Aは平面図、図1BはA−A’線における断面図である。
図1Aおよび図1Bに示すように、湿度センサー1は、基板41と、基板41の一面に距離lで離間して形成された2つの電極31、32と、前記一面で、2つの電極31、32を覆うように形成されたフィルム11と、を有する。
フィルム11は、先に記載の高プロトン伝導性ポリマーフィルムである。
【0036】
電極31、32は配線34を介して電源36に接続されている。
電源36を操作することにより、フィルム11の電極31、32間の領域11cに電圧を印加することができる。
【0037】
図2は、Feポリマーからなるフィルムを用いた湿度センサーで、95%RHの雰囲気下、電圧を印加したときの、高プロトン伝導性ポリマーフィルムの電極間領域の状態の一例を示す概略図である。
電圧を印加すると、一方の電極の近傍にFe(III)とされた領域が発現する。これにより、プロトン伝導性が高められる。
【0038】
なお、本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルムは、固体高分子燃料電池に用いることもできる。
本発明の実施形態である固体高分子型燃料電池は、カソード電極と、前記カソード電極と対向するように配置したアノード電極と、該両電極に挟まれた電解質を有し、前記電解質が先に記載の高プロトン伝導性ポリマーフィルムである。
この固体高分子型燃料電池は、高プロトン伝導性ポリマーフィルムを電解質として用いているので、蓄電性の高い燃料電池として用いることができる。
【0039】
本発明の実施形態である高プロトン伝導性ポリマーフィルム、その製造方法及び湿度センサーは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
[伝導度測定用サンプル作製]
まず、8つの電極を一面上に設けた平面視矩形状の石英基板を用意した。
これらの電極のうち4つは一辺側の平面視矩形状の電源接続部に接続されており、他の4つは他辺側の平面視矩形状の電源接続部に接続されている。
電極はいずれも2つの平面視矩形状の基板中心マーク部の間で平面視線状とされ、一辺側の電源接続部から延伸された4本と、他辺側の電源接続部から延伸された4本が互いにかみ合うように配置され、かつ、かみ合う部分で互いに平行とされている。平行とされた部分の長さ(電極幅)は2.5mmである。また、電極間隔は10μm〜250μmの間でそれぞれ異なるものとされている。これにより、基板中心マーク部の間の電極を覆うようにフィルムを形成したとき、一辺側のいずれかの電源接続部と、他辺側のいずれかの電源接続部をそれぞれ電源に接続して、フィルムに電圧を印加することにより、異なる電極間隔でフィルムの電流電圧特性を測定できる。
【0041】
次に、Feポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)をエタノールに100mg/Lの濃度で分散して、混合溶液を調製した。
【0042】
次に、基板を、超音波で2分間アセトン洗浄してから、イソプロパノール洗浄して、基板の電極表面の残留水やごみを取り除いた後、窒素ガスでブローした。
その後すぐに、混合溶液を10ml、電極を覆うように基板の一面に、スピンコーティング法によりポリマーフィルムを成膜した。スピンコーティングは、最初に120秒間400rpmで回転させ、次に160秒間500rpmで回転させる条件とした。
【0043】
次に、成膜したポリマーフィルムのうち、基板中心マーク部の間のエリア以外の部分をすべて、エタノールで湿らせた綿で注意深く取り除いた。
以上により、実施例1の伝導度測定用サンプルを作製した。
図3は、本実施例で用いた電極付き基板と、それに成膜したポリマーフィルムを示す写真であって、全体写真(a)と、部分拡大写真(b)である。ポリマーフィルムは透明であるので、成膜部分を矢印で示している。
【0044】
(実施例2)
Ruポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)を用い、エタノールに250mg/Lの濃度で分散して、混合溶液を調製した他は実施例1と同様にして、実施例2の伝導度測定用サンプルを作製した。
【0045】
(実施例3)
Znポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)を用い、エタノールに250 mg/Lの濃度で分散して、混合溶液を調製した他は実施例1と同様にして、実施例3の伝導度測定用サンプルを作製した。
【0046】
(実施例4)
Coポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)を用い、エタノールに100mg/Lの濃度で分散して、混合溶液を調製した他は実施例1と同様にして、実施例4の伝導度測定用サンプルを作製した。
【0047】
(実施例5)
Niポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)を用い、エタノールに100mg/Lの濃度で分散して、混合溶液を調製した他は実施例1と同様にして、実施例5の伝導度測定用サンプルを作製した。
各伝導度測定用サンプルは、それぞれの測定を行うまで、また、条件を変更して各測定を行う間は、閉鎖系コンテナ(チャンバー)内で貯蔵した。
【0048】
[厚さ測定]
各ポリマーフィルムの厚さは、エリプソメーター(ellipsometer)により測定した。
まず、500mg/Lの濃度でキャストして、各ポリマーフィルムの膜厚が厚いリファレンス・サンプルを作成し、各ポリマーフィルムの光学定数(optical constants)を決定した。
次に、これらの光学定数の値を用い、一般的なオシレーターモデルでデータフィットして、各ポリマーフィルムの厚さを算出した。
Fe、Ru、Zn、Co、Niの各ポリマーフィルムの厚さは、それぞれ4.5nm、6.8nm、20.0nm、6.4nm、6.1nmと算出された。
【0049】
[伝導度測定]
ポリマーフィルムの伝導度は、ソラートロン1287(Solartron 1287:ポテンシオスタット(potentiostat)と周波数反応分析システム(1260 frequency response analyzer system)からなる)を用いて測定した。
「周波数範囲50Hz〜5MHz、振幅10mVのac又は1.0Vのdcバイアス」の条件で、インピーダンスプロット(ナイキストプロット)からポリマーフィルム抵抗値を算出した。求めた抵抗値から、以下の式を用いてポリマーのプロトン導電性を算出した。
ポリマーのプロトン導電性(σ)/Scm−1 =(1/R)×(l/A)
ここで、
R=ナイキストプロットから求めた抵抗値、
l=電極間距離、
A=ポリマー膜の断面積(ポリマーの膜厚から算出)である。
【0050】
[実施例1のFeポリマーフィルムの伝導度]
図4Aから図4Dは、Feポリマーフィルムのインピーダンスプロット(ナイキストプロット)である。95%RH条件下のプロットである。図4AはZreal×10が0〜4の範囲のプロットである。Raw(生データ)は、塗りつぶした四角で示しており、Fitting(フィッティングデータ)は、塗りつぶさない四角で示している。以下同様に、塗りつぶしたマークは生データを示し、塗りつぶさないマークはフィッティングデータを示す。
図4Bは、Zreal×10が0〜0.6の範囲のプロットである。
また、図4Cは0.1Vから2.0Vまで異なるdcバイアスを印加した時のZreal×10が0〜45の範囲のプロットである。dcバイアス0.1Vが四角、0.5Vが丸、1.0Vが三角、1.5Vがひし形、2.0Vが星型を示す(以下、同様)。
図4Dは、Zreal×10が0〜1.0の範囲のプロットである。
図5は、58%RH、室温条件下のFeポリマーフィルムのナイキストプロットである。
【0051】
[実施例2のRuポリマーフィルムの伝導度]
図6Aから図6Cは、Ruポリマーフィルムのナイキストプロットである。図6Aは95%RH条件下のナイキストプロットである。図6Bは、異なるdcバイアスでのナイキストプロットであり、図6Cは、Zreal×10が0〜0.15の範囲のプロットである。
【0052】
[実施例3のZnポリマーフィルムの伝導度]
図7Aから図7Cは、Znポリマーフィルムのナイキストプロットである。図7Aは95%RH条件下のZnポリマーフィルムのナイキストプロットである。図7Bは異なるdcバイアスでのZnポリマーフィルムのナイキストプロットであり、図7Cは、Zreal×10が0〜0.11の範囲のプロットである。
【0053】
[実施例4のCoポリマーフィルムの伝導度]
図8は、Coポリマーフィルムのナイキストプロットである。95%RH条件下のCoポリマーフィルムのナイキストプロットである。
【0054】
[実施例5のNiポリマーフィルムの伝導度]
図9は、Niポリマーフィルムのナイキストプロットである。95%RH条件下のNiポリマーフィルムのナイキストプロットである。
【0055】
[I-V特性測定]
ポリマーフィルムのI-V特性測定には、標準的な半導体特性評価システムであるKeithley 4200−SCSを用いた。
得られたI−Vデータからポリマーフィルムの平均漏れ電流(leakage current)を抽出した。
図10は、測定された漏れ電流の一例を示すグラフである。
【0056】
[実施例1のFeポリマーフィルムのI-V特性]
図11は、95%RHでのFeポリマーフィルムのI-V特性である。
図12は、減圧下と大気中(28%RH)のFeポリマーフィルムのI-V特性である。
【0057】
図13は、95%RHの実験後、大気中(28%RH)のFeポリマーフィルムのI-V特性である。スイープは−3.0Vから3.0Vまで行き、再び−3.0Vに戻る。
図14は、95%RHの実験後、大気中(28%RH)のFeポリマーフィルムのI-V特性である。スイープは−5.0Vから5.0Vまで行き、再び−5.0Vに戻る。
両方向で電流がプラスとなった。
【0058】
図15は、Feポリマーフィルムのスイープ速度1s遅延(a)、5s遅延(b)、20s遅延(c)でのI-V特性である。
すべての実験は95%RH中の実験後、大気中(28%RH)で実施した。
電流はスイープ速度の増加とともに増加した。
【0059】
[実施例2のRuポリマーフィルムのI-V特性]
図16は、95%RHの実験後、大気中(28%RH)のRuポリマーフィルムのI-V特性である。
電流変化がみられなかった。
【0060】
図17Aおよび図17Bは、RuポリマーフィルムのI-V特性を示すグラフである。図17Aは、減圧下と大気中(28%RH)のRuポリマーフィルムのI-V特性である。スイープ方向は−2.0Vから2.0Vである。図17Bは95%RH中のRuポリマーフィルムのI-V特性である。
【0061】
[実施例3のZnポリマーフィルムのI-V特性]
図18は、95%RHでのZnポリマーフィルムのI-V特性である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の高プロトン伝導性ポリマーフィルム、その製造方法及び湿度センサーは、プロトン伝導度(室温、95%RH)が3×10−2Scm−1以上で、中性溶媒雰囲気で使用可能なプロトン伝導膜に関するものであり、高感度な湿度センサーや固体高分子型燃料電池のプロトン交換膜として利用することができ、湿度センサー産業、燃料電池産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0063】
1 湿度センサー
11 高プロトン伝導性ポリマーフィルム
11c 高プロトン伝導性ポリマーフィルムの電極間領域
31、32 電極
34 配線
36 電源
41 基板
図1A
図1B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図2
図3