特許第5765721号(P5765721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5765721高い垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765721
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】高い垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/64 20060101AFI20150730BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20150730BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20150730BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20150730BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20150730BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20150730BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20150730BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20150730BHJP
   H01F 10/28 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   G11B5/64
   G11B5/738
   G11B5/851
   H01L43/08 Z
   H01L43/10
   H01L27/10 447
   H01F10/16
   H01F10/28
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-506289(P2014-506289)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2013058226
(87)【国際公開番号】WO2013141337
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2014年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-65085(P2012-65085)
(32)【優先日】2012年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、日本学術振興会、最先端研究開発支援プログラム委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 将光
(72)【発明者】
【氏名】ジャイバルダン シンハ
(72)【発明者】
【氏名】小塚 雅也
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】古林 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】三谷 誠司
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−023729(JP,A)
【文献】 特開2011−146089(JP,A)
【文献】 特開2010−118147(JP,A)
【文献】 特開2008−097685(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0155628(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/64
G11B 5/738
G11B 5/851
H01F 10/16
H01F 10/28
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 43/08
H01L 43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にシード層、磁性層、及び酸化物層が設けられる積層膜を含む構成を有する垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜であって、該シード層が少なくとも1種のTaの窒化物を含み、磁性層がCoFeB合金を含み、酸化物層がMgOを含むことを特徴とする、上記極薄垂直磁化膜。
【請求項2】
前記Taの窒化物の成分組成が、Ta:N=1:x(0<x<0.6)である、請求項に記載の極薄垂直磁化膜。
【請求項3】
前記磁性層の膜厚が0.3nm以上1.5nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の極薄垂直磁化膜。
【請求項4】
前記CoFeB合金の成分組成(CoFe1−x1−yが、0<x≦0.8でかつ、y≧0.7の関係を有することを特徴とする、請求項1に記載の極薄垂直磁化膜。
【請求項5】
垂直磁気異方性が0.1x10erg/cm以上でかつ、飽和磁化が200emu/cm以上の磁気特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の極薄垂直磁化膜。
【請求項6】
前記磁性層の界面に垂直磁気異方性を有することを特徴とする、請求項1に記載の極薄垂直磁化膜。
【請求項7】
請求項1に記載の極薄垂直磁化膜の製造方法であって、前記シード層をスパッタ法により成膜する時のArとNのガス流量体積比Q(Q=N流量/ガス(Ar+N)全流量、と定義)が、0<Q<0.05の関係を有することを特徴とする、極薄垂直磁化膜の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の極薄垂直磁化膜の製造方法であって、成膜後150oC以上350oC以下の温度範囲で熱処理を施すことを特徴とする極薄垂直磁化膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載の極薄垂直磁化膜で構成されることを特徴とする磁気デバイス。
【請求項10】
磁気記録メモリである、請求項に記載の磁気デバイス。
【請求項11】
磁気センサーである、請求項に記載の磁気デバイス。
【請求項12】
基板上にシード層、磁性層、及び酸化物層が設けられる積層膜を含む構成を有する垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜であって、該シード層が少なくとも1種のTaの窒化物を含み、磁性層がBを含むアモルファス遷移金属合金を含むことを特徴とする、上記極薄垂直磁化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体や磁気メモリに利用できる高い垂直磁気異方性を示す極薄の磁化膜の素子構造、その製造方法及び用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁化の向きを情報の記憶ビットとして用いる磁性材料は、高性能の不揮発性メモリへ応用できるとして期待が高まっている。とくに、スピントルクと呼ばれる現象を用いて、電気的に磁性体中の磁化を制御する技術が(スピン注入磁化反転)開発されつつある(非特許文献1、2)。スピントルクを用いると、巨大磁気抵抗素子やトンネル磁気抵抗素子、強磁性体細線の磁化状態を電流・電界で制御することができる。
【0003】
また最近では、極薄の磁性層を用いて、電流誘起実効磁場による磁化制御機構が報告されており、さらなる低電力の磁化制御手法の確立が期待されている(非特許文献3)。電流誘起実効磁場は、磁性層の両界面に異物質を用い、磁性層の厚さを薄くすることで発現する現象(ラシュバ効果など)や、磁性層に隣接する非磁性層におけるスピンホール効果によるものだと考えられている。
【0004】
磁性層にCoFeB系の遷移金属合金、磁性層と接する一方の層をMgOなどの酸化物層、もう一方をTaなどのシード層とするCoFeB系垂直磁化膜はトンネル磁気抵抗素子に用いられる構造であり(非特許文献4)、また電流誘起実効磁場が発生する系である(非特許文献5)。電流誘起実効磁場を用いれば、低電流で磁性層の磁化を制御することが可能となることがこれまでにわかっている。
【0005】
スピン注入磁化反転や電流誘起実効磁場を有効に利用するためには、磁性層の膜厚が薄ければ薄い方が良い。しかしながら、これまでの研究からCoFeBなどの磁性層の膜厚を1.5nm以下、特に1nm以下にすると、磁化と磁気異方性が減少してしまい、磁性層として利用できないことがわかっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Fukami et al., VLSI Tech. Symp., Dig. Tech. Papers, 230, (2009).
【非特許文献2】L.Thomas et al.,IEDM11−535,(2011).
【非特許文献3】I.M.Miron et al.,Nat.Mater.9,230(2010).
【非特許文献4】S.Ikeda et al.,Nat.Mater.9,721(2010).
【非特許文献5】T.Suzuki et al.,Appl.Phys.Lett.98,142505(2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、磁性層が1.5 nm以下の膜厚において大きな磁化と垂直磁気異方性を有する素子構造、その製造方法及び用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シード層/磁性層/酸化物層を基本構造とする極薄垂直磁化膜(磁性層の膜厚が1.5nm以下である垂直磁化膜)において、シード層に少なくとも1種のBCC金属の窒化物、磁性層にCoFeB、酸化物層にMgOを用いることで上記課題を解決しうることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記[1]から[13]のいずれかに関する。
[1]
基板上にシード層、磁性層、及び酸化物層が設けられる積層膜を含む構成を有する垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜であって、該シード層が少なくとも1種のBCC金属の窒化物を含み、磁性層がCoFeB合金を含み、酸化物層がMgOを含むことを特徴とする、上記極薄垂直磁化膜。
[2]
前記BCC金属の窒化物がTaの窒化物である、[1]に記載の極薄垂直磁化膜。
[3]
前記Taの窒化物の成分組成が、Ta:N=1:x(0<x<0.6)である、[2]に記載の極薄垂直磁化膜。
[4]
前記磁性層の膜厚が0.3nm以上1.5nm以下であることを特徴とする、[1]に記載の極薄垂直磁化膜。
[5]
前記CoFeB合金の成分組成(CoFe1−x1−yが、0<x≦0.8でかつ、y≧0.7の関係を有することを特徴とする、[1]に記載の極薄垂直磁化膜。
[6]
垂直磁気異方性が0.1x10erg/cm以上でかつ、飽和磁化が200emu/cm以上の磁気特性を有することを特徴とする、[1]に記載の極薄垂直磁化膜。
[7]
前記磁性層との界面に垂直磁気異方性を有することを特徴とする、請求項1に記載の極薄垂直磁化膜。
[8]
[1]に記載の極薄垂直磁化膜の製造方法であって、前記シード層をスパッタ法により成膜する時のArとNのガス流量体積比Q(Q=N流量/ガス(Ar+N)全流量、と定義)が、0<Q≦0.05の関係を有することを特徴とする、極薄垂直磁化膜の製造方法。
[9]
[8]に記載の極薄垂直磁化膜の製造方法であって、成膜後150oC以上350oC以下の温度範囲で熱処理を施すことを特徴とする極薄垂直磁化膜の製造方法。
[10]
[1]から[7]のいずれかに記載の極薄垂直磁化膜で構成されることを特徴とする磁気デバイス。
[11]
磁気記録メモリである、[10]に記載の磁気デバイス。
[12]
磁気センサーである、[10]に記載の磁気デバイス。
[13]
基板上にシード層、磁性層、及び酸化物層が設けられる積層膜を含む構成を有する垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜であって、該シード層が少なくとも1種のBCC金属の窒化物を含み、磁性層がBを含むアモルファス遷移金属合金を含むことを特徴とする、上記極薄垂直磁化膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、磁性層の膜厚が0.3nm以上、1.5nm以下の薄膜において、大きな磁化と垂直磁気異方性を有する素子構造を作製することができ、磁気記録メモリや磁気センサーなどの磁気デバイスに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の極薄垂直磁化膜の薄膜構造を示す模式図である。
図2】本発明の一実施例である極薄垂直磁化膜の磁化曲線である。
図3】本発明の極薄垂直磁化膜を用いたデバイス構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態において、図1に示すシード層/磁性層/酸化物層を基本構造として含む薄膜において、シード層に少なくとも1種のBCC金属の窒化物、磁性層にCoFeB、酸化物層にMgOを用いることが好ましい。BCC金属の窒化物としては、Taの窒化物例えばTaNが好ましい。Taの窒化物の成分組成は、体積組成比で、Ta:N=1:x(0<x<0.6)であることが好ましい。BCC金属窒化物成膜時の窒素ガス流量体積比を5%未満に抑え、成膜後に150C以上350C以下の熱処理を行うことが好ましい。これにより、磁性層厚が0.3nm以上1.5nm以下においても垂直磁気異方性が0.1x10erg/cm以上でかつ、飽和磁化が200emu/cm以上の磁気特性を有する垂直磁化膜を得ることが容易となる。
【0013】
前記の極薄垂直磁化膜の作製には、一般的は薄膜製膜技術、例えば、スパッタ法や蒸着法等を利用できる。このうち、スパッタ法が最も好ましい。極薄垂直磁化膜は基板上にシード層/磁性層/酸化物層の組み合わせが設けられる多層膜で構成される。極薄垂直磁化膜を構成する物質の組合せとして、多様な組み合わせがあるが、そのなかで好ましい組み合わせはTaN/CoFeB/MgOである。
【0014】
シード層には、少なくとも1種のBCC金属の窒化物(例えば、TaNやTiN、AlNやCrNなど)が利用でき、より好ましくはTaNである。大きな垂直磁気異方性を得るためには、酸化物層であるMgOと格子整合することが好ましく、BCC金属を利用するのが適当である。磁性層にはBを含むアモルファス遷移金属合金(たとえばCoFeBやFeB、NiFeBなど)が利用でき、より好ましくはCoFeBである。酸化物層にはMgOやAlなどが利用でき、より好ましくはMgOである。基板は半導体やガラス基板が好ましく、より好ましくはシリコン基板である。
【0015】
多層膜の構成は基板側からシード層/磁性層/酸化物層がこの順で設けられる積層膜を含む構成が好ましいが、基板側から酸化物層/磁性層/シード層がこの順で設けられる積層膜を含む構成でも同様の効果が得られる。なお、上記多層膜を用いてデバイスを作成するにあたっては、適宜他の機能を有する層を更に設けることができる。例えば、酸化物層の上に、トンネル磁気抵抗素子の参照層となる磁性層を設けてもよく、更にその上にキャップ層を設けてもよい。参照層としては、CoFeBを含んでいる層が好ましく、キャップ層としてはTaNからなる層が好ましい。そのようなデバイス構造の一例を図3に示す。
【0016】
磁性層の膜厚は1.5nm以下、0.3nm以上の範囲が好ましい。0.3nm以上の膜厚では、磁性層の磁化がゼロとなる現象を有効に抑制でき、1.5nm以下の膜厚では垂直磁気異方性を有効に実現することができるためである。シード層の膜厚は均一な膜を形成するために0.5nm以上でかつ、磁性記憶層への平坦性に悪影響を及ぼさない20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。酸化物層の膜厚は、均一な膜を形成するために0.5nm以上でかつ、スパッタ時の磁性層へのダメージを軽減するために10nm以下であることが好ましい。
【0017】
シード層がTaNで構成される場合、TaNの成分組成は、Ta:N=1:x(0<x<0.6)であることが好ましい。xを0より大きくすることで、磁性層の磁化の減少を防ぐことができ、xが0.6未満では垂直磁気異方性を有効に実現することができるためである。
【0018】
磁性層の(CoFe1−x1−y合金の成分組成は、1>y≧0.7で、かつ、0<x≦0.8の関係を保つことが好ましい。Bが原子量比30%以下では磁化の減少が抑制され、Co/Feの比が4以下では垂直磁気異方性の減少が抑制される。
【0019】
シード層の製膜にあたってはArとNのガス雰囲気中での反応性スパッタが利用できる。反応性スパッタでは、ArとNのガス流量体積比Q(Q=N流量/ガス(Ar+N)全流量)が、シード層の成分組成比に対応する。なお、シード層の成分組成を制御することができれば、製造方法はアルゴンと窒素の混成ガス雰囲気中での反応性スパッタに限定する必要はなく、例えば窒化物ターゲットをスパッタする方法や、BCC金属をスパッタし、その後窒化する方法も利用できる。
【0020】
作製した多層膜は熱処理を行うのが好ましいが、多層膜作製直後に磁性層が垂直磁気異方性を示す場合には熱処理を行う必要はない。熱処理の温度範囲は100℃から500℃が好ましく、保持時間は酸化物層MgOが結晶化すれば特に限定はされないが、通常30分以上が好ましい。100℃以上、より好ましくは150℃以上の加熱でMgOが結晶化し、500℃以下、より好ましくは350℃の加熱であれば、多層膜内の原子の拡散を防ぐことができる。
なお、下記(1)から(7)もそれぞれ本発明の好ましい実施形態の一つである。
(1)
基板上にシード層、磁性層、酸化物層で構成される垂直磁気異方性を示す極薄垂直磁化膜であって、シード層がTaN、磁性層がCoFeB合金、酸化物層がMgOであることを特徴とする極薄垂直磁化膜。
(2)
上記(1)に記載の極薄垂直磁化膜であって、磁性層の膜厚が0.3nm以上1.5 nm以下であることを特徴とする極薄垂直磁化膜。
(3)
上記(1)に記載の磁性層のCoFeB合金の成分組成(CoFe1−x1−yが、0<x≦0.8でかつ、y≧0.7の関係を有することを特徴とする極薄垂直磁化膜。
(4)
上記(1)に記載の極薄垂直磁化膜であって、垂直磁気異方性が0.1x10erg/cm以上でかつ、飽和磁化が200emu/cm以上の磁気特性を有することを特徴とする極薄垂直磁化膜。
(5)
基板上にシード層、磁性層、酸化物層で構成される垂直磁気異方性を示す上記(1)に記載の極薄垂直磁化膜の製造方法であって、シード層TaNをスパッタ法により成膜する時のArとNのガス流量比(Qと定義)が、0<Q≦0.2の関係を有することを特徴とする極薄垂直磁化膜の製造方法。
(6)
上記(5)に記載の極薄垂直磁化膜の製造方法であって、成膜後150oC以上350oC以下の温度範囲で熱処理を施すことを特徴とする極薄垂直磁化膜の製造方法。
(7)
上記(1)から(4)のいずれかに記載の極薄垂直磁化膜で構成されることを特徴とする面内電流印加型の磁気記録メモリや磁気デバイス。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても以下の実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
マグネトロンスパッタ法を用いてシリコン基板上に薄膜を作製した。シリコン基板として、100nmの熱酸化膜がついているものを用いた。スパッタは5x10−7Pa以下の超高真空中にしてから行った。Ta、又はTaN、CoFeBの製膜にはDCスパッタ(10W)、MgOの製膜にはRFスパッタ(100W)を用いた。Arガス圧はTa製膜時が1.1Pa、CoFeB製膜時が0.4Pa、MgO製膜時が1.3 Paであった。TaNの製膜にあたっては全ガス圧を1.1Paで固定し、ArとNのガス流量体積比Q(Q=N流量/ガス(Ar+N)全流量)を調節してTaN(Q=0のときはTa)を成膜した。成膜したCoFeBの組成には、ターゲットの組成を用いた。シード層/磁性層/酸化物層を成膜した後、酸化物層を水分などから保護するために、1nmのTa層を保護層として成膜した。
【0022】
熱処理は真空チャンバー内(1x10−4Pa以下)で行った。熱処理は所定の温度で1時間行った。
【0023】
磁化曲線は振動型磁化測定装置(VSM)を用いて測定した。膜面垂直方向(垂直磁化曲線)と水平方向(面内磁化曲線)の磁化成分を測定した。磁気異方性定数は垂直磁化曲線と面内磁化曲線が囲う面積から求めた(図2参照)。正の値は垂直磁気異方性を表し、負の値は面内磁気異方性を指す。
図2中、Hがヒステリシスを有することを明示するため、横軸を拡大した図を併せて示した。なお、本実施例は原理確認のための大面積のものであり、実際にデバイスとして使用する際には、素子を微細化するためヒステリシスの開き、及び角型はより明確なものとなる。
【0024】
図2にTaN/CoFeB/MgO/Ta多層膜の磁化曲線を示す。各層の膜厚はTaNが4nm、CoFeBが0.6nm、MgOが2nm、Taが1nmである。ここでTa層は保護層として設けられたものである。CoFeBの組成は(Co0.25Fe0.750.80.2である。TaN成膜時のスパッタチャンバー内の窒素ガス流量体積比Qは0.013とした。成膜後、300Cで1時間、真空チャンバー内で熱処理を行った。
【0025】
図2に示す磁化曲線から、磁性層CoFeBの膜厚が0.6nmでも垂直磁気異方性を示すことが見て取れる。磁化の大きさを表す飽和磁化は1030emu/cmで、磁気異方性定数は2.76x10erg/cmである。
【0026】
表1には、CoFeB層の磁気異方性定数と飽和磁化のシード層成膜時の窒素ガス流量比依存性を示す。膜構成はTaN/CoFeB/MgO/Taであり、各層の膜厚は、TaNが1nm、MgOが2nm、Taが1nmである。CoFeBの膜厚は0.6nmと1.2nmの2種類を比較し、組成は(Co0.25Fe0.750.80.2とした。成膜後、300Cで1時間熱処理を行った。TaN成膜時のスパッタチャンバー内のNガスとArガスの流量体積比Qを変えた5つの場合を比較する。
【表1】
【0027】
表1の結果から、シード層成膜に当たり、ガス雰囲気中に窒素を導入することで、CoFeBの膜厚が薄い場合(0.6nm)でも磁気異方性定数が正の値をとる(垂直磁気異方性をもつ)ことがわかる。また、飽和磁化もガス雰囲気中に窒素を導入しない場合(比較例)と比べて、よりバルクに近い値(参考:(Co25Fe758020:1490emu/cm、Co25Fe75:1870 emu/cm)を示す。一方、窒素ガス流量体積比Qを0.05超にすると、CoFeB層の磁気異方性が負になる。
【0028】
TaN中の窒素量はガス流量体積比に比例するが、装置の構成や仕様によって一定のガス流量でもTaN中の窒素量が変わることがあるため、垂直磁気異方性定数が0.1x10erg/cm以上でかつ、飽和磁化が200emu/cm以上の磁気特性を有する構造を作製するに必要なガス流量体積比Qは0<Q<0.05が望ましい。また、熱処理温度によって、判定基準を満たす窒素ガス流量体積比Qと磁性層の膜厚は変わる。例えば、熱処理温度が300度、Qが0.025の場合、磁性層の膜厚が1.2nmで判定基準を満たさない場合があるが、熱処理温度を大きくすると判定基準を満たす。
【0029】
透過型電子顕微鏡解析から、磁気異方性が最大となる窒素ガス流量体積比Qが0.013の時、シード層のTaNはアモルファス構造であることがわかっている。同様に、シード層がTaの場合もアモルファス構造であった。
【0030】
Rutherford Backscattering Spectroscopy法を用いて組成分析を行ったところ、窒素ガス流量比がQ=0.05でシード層TaNの体積組成はTa:N=1:0.6、Q=0.025でTa:N=1:0.55であった。これにより、大きな垂直磁気異方性を得るには、シード層TaNの体積組成比(Ta:N=1:x)が0<x<0.6の範囲内にあることが望ましい。
【0031】
表2にCoFeB層の磁気異方性定数と飽和磁化の熱処理温度依存性を示す。膜構成はシード層/CoFeB/MgO/Taである。熱処理は成膜後、指定の温度で1時間行った。各層の膜厚はシード層が1nm、CoFeBは0.6nm、MgOが2nm、Taが1nmである。CoFeBの組成は(Co0.25Fe0.750.80.2である。TaN成膜時のスパッタチャンバー内の窒素ガス流量体積比Qは0.013と0.025の2種類を示した。また、比較例として、シード層がTaの場合を一緒に示した。
【表2】
【0032】
表2の結果から、CoFeBの下部層にTaNを用いることにより、Taを用いた場合と比較して、熱耐性が向上していることが見て取れる。成膜時の窒素ガス流量体積比Qが0.013のTaNをシード層に用いた場合、磁気異方性定数が熱処理温度275Cで最も大きな値(1.66x10erg/cm)を示し、また飽和磁化も熱処理前と比較して増加した。
【0033】
表3にCoFeB層の磁気異方性定数と飽和磁化のCoFeB層膜厚依存性を示す。膜構成はTaN/CoFeB/MgO/Taであり、成膜後、300Cで1時間熱処理を行った。CoFeBの組成は(Co0.25Fe0.750.80.2である。各層の膜厚はTaNが4nm、MgOが2nm、Taが1nmである。TaN成膜時のスパッタチャンバー内の窒素ガス流量体積比Qは0.007、0.013、0.025と0.10の4種類を示した。全ガス圧は1.1 Paとした。また比較例として、Taをシード層に用いたTa/CoFeB/MgO/Taの飽和磁化、磁気異方性定数のCoFeB層膜厚依存性の結果も示した。熱処理は同様に300Cで1時間、CoFeBの組成も(Co0.25Fe0.750.80.2であり、各層の膜厚はシード層Taが1nm、MgOが2nm、Ta(キャップ層)が1nmである。
なお、熱処理なしの場合には、酸化物層MgOが結晶化しなかったために磁気異方性定数が負となったものと思われる。
【表3】
【0034】
表3の結果から、シード層にTaNを用いることにより、Taを用いた場合と比較して、CoFeB層の膜厚が小さい領域でも0.1x10emu/cm以上の正の磁気異方性定数と、200emu/cmを超える飽和磁化を示す素子構造を作製できることがみてとれる。成膜時の窒素ガス流量体積比Qが小さいものの方が大きな磁気異方性定数が得られる。熱処理温度によって、判定基準を満たす窒素ガス流量体積比Qと磁性層の膜厚は変わる。例えば、熱処理温度が300度、Qが0.025の場合、磁性層の膜厚が0.5nm、1.2−1.5nmで判定基準を満たさない場合があるが、熱処理温度を大きくすると判定基準を満たす。
【表4】
【0035】
表4にシード層成膜時の窒素ガス流量体積比Qを変えたときのシード層/CoFeB/MgO/Ta積層構造における界面磁気異方性を示す。シード層TaN(Q>0)の膜厚は4nm、比較例として示したシード層Ta(Q:0)の膜厚は1nmである。成膜後、300Cで1時間熱処理を行った。CoFeBの組成は(Co0.25Fe0.750.80.2である。
【0036】
表4の結果から、シード層成膜時の窒素ガス流量体積比Qが0.007の場合に界面磁気異方性が最大値をとることがわかる。シード層にTaN(Q=0.007)を用いることで、CoFeB層の界面垂直磁気異方性が増大していることを示唆している。シード層にTaNを用いた場合、磁性層の膜厚が1.5nm以下(0.3nm以上)であっても大きな垂直磁気異方性を示すのは、磁性層の界面垂直磁気異方性が増加するためである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、極薄垂直磁化膜を用いて作製する磁気センサーや磁気記録メモリなどの磁気デバイスに用いることが予想され、高い産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3