【実施例】
【0023】
以下、本発明の好適な実施例を詳しく説明する。下記の実施例及び比較例はいずれも
図1の蒸着装置10を用いて行った。実施例1は、第1金属としてAu、第2金属としてInを用いてコアシェル構造のナノ粒子が分散したイオン液体を製造した例であり、比較例1は、第1金属としてIn、第2金属としてAuを用いてInナノ粒子とAuナノ粒子とが混合分散したイオン液体を製造した例である。実施例2は、第1金属としてAu、第2金属としてSnを用いてコアシェル構造のナノ粒子が分散したイオン液体を製造した例である。
【0024】
[実施例1]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm
3をスライドガラス上に広げ、Auをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。このイオン液体を「実施例1A」と称する。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Inをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間30分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体0.10cm
3を試験管に回収した。このイオン液体を「実施例1B」と称する。そして、回収したイオン液体を大気圧下、250℃で1時間、ホットスターラーで加熱した。このイオン液体を「実施例1C」と称する。
【0025】
図2は、実施例1B、実施例1Cの吸収スペクトルのグラフである。
図2には、比較のために実施例1A(Auのみ)、Inのみの吸収スペクトルも併せて示す。実施例1Bでは、300nm付近のIn由来とみられるピークが観察されたが、500nm付近のAu由来とみられるピークは観察されなかった。このことから、実施例1Bのイオン液体に分散しているナノ粒子は、蒸着したInあるいはその酸化物によってAu粒子が被覆され、Au粒子の未修飾表面が露出していないと考えられる。一方、実施例1Cでは、In由来とみられるピークもAu由来とみられるピークも観察された。このことから、実施例1Bのイオン液体に分散しているナノ粒子は、InだけでなくAuも表面に現れていると考えられ、加熱処理によって表面組成が変化したと考えられる。
【0026】
図3は、実施例1Aのイオン液体中の粒子のTEM像の写真(
図3(a))及び粒径のヒストグラム(
図3(b))である。
図3に示すように、実施例1Aには、平均粒径が2.8±0.5nmのAu粒子が分散していることが確認された。また、粒子の形状は球形で、大きな凝集体も観察されなかった。
【0027】
図4は、実施例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
図4のTEM像のコントラスト強度比から、コアシェル構造を持つナノ粒子が観察された。
図4のTEM像からこのナノ粒子の粒径、コア径、シェル厚を計測したところ、それぞれ5.5±0.8nm,2.8±0.4nm,1.4±0.3nmであった。コア径の値は、
図3に示したAu粒子の粒径と一致することから、コアシェル構造を持つナノ粒子はコア部分がAuであり、シェル部分がIn又はその酸化物であると考えられた。その確認のために、このナノ粒子のXPS及びHRTEM測定を行った。
【0028】
実施例1Bのイオン液体中に生成した粒子のXPSスペクトルを、
図5に示す。
図5のXPSスペクトルでは、Inの3d
5/2と3d
3/2のダブレットピークが観察された。これらピークを成分分離したところ、各々のピークが2成分のピークからなることがわかった。In 3d
5/2においては、446.8eVのIn
2O
3に帰属される大きなピークと444.1eVのIn金属に帰属される小さなピークとが存在することがわかった。In 3d
3/2においては、454.3eVのIn
2O
3の大きなピークと451.6eVのIn金属の小さなピークに分離できた。このことから、コアシェル粒子のシェルの大部分がIn
2O
3から形成されることが示唆される。この粒子のHRTEM像を
図6及び
図7に示す。
図6及び
図7のHRTEM像では、明確な格子像を持つ粒子が観察された。格子面間隔を計測したところ、コア部分の格子面間隔は0.24nmでAuの{111}面に一致し、シェル部分の格子面間隔は0.27nmで菱面体型In
2O
3の{110}面に一致した(JCPDSデータファイル:No.22−0336)。このことから、実施例1Bのイオン液体中に分散したナノ粒子は、コア部分がAu、シェル部分がIn
2O
3であることがわかった。
【0029】
図8は、実施例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真、
図9は、
図8の部分拡大写真である。実施例1Cつまり加熱処理後の粒子は、実施例1Bつまり加熱処理前の粒子とほとんど粒径が変わらず、凝集もほとんどみられなかった。これは、実施例1Bのナノ粒子がコアシェル構造を持つため、加熱処理中における粒子の成長や凝集が妨げられたと考えられる。
【0030】
図10は、実施例1B、実施例1Cの各粒子のXRDパターンのグラフである。
図10には、比較のためにAu、In、In
2O
3のXRDパターンも併せて示す。
図10から、実施例1B、実施例1Cのどちらの粒子も、Auの{111}面に由来するピークが観察されたが、InやIn
2O
3に由来するピークははっきりと観察されなかった。これは、各ナノ粒子のシェルの厚さが2nm以下と薄いため、測定上はピークとして現れなかったものと考えられる。
【0031】
[比較例1]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm
3をスライドガラス上に広げ、Inをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間30分とした。このときのイオン液体を「比較例1A」と称する。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Auをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体0.10cm
3を試験管に回収した。このときのイオン液体を「比較例1B」と称する。そして、回収したイオン液体を大気圧下、250℃で1時間、ホットスターラーで加熱した。このときのイオン液体を「比較例1C」と称する。
【0032】
図11は、比較例1B、比較例1Cの吸収スペクトルのグラフである。
図11には、実施例1Bの吸収スペクトルも併せて示す。比較例1Bでは、300nm付近のIn由来とみられる大きなピークが観察されたが、500nm付近のAu由来とみられるピークは観察されなかった。一方、比較例1Cでは、500nm付近にAu由来のピークが現れ、300nm付近のIn由来とみられるピークは減少した。
【0033】
図12は、比較例1Bのイオン液体中の粒子のTEM像の写真、
図13は、比較例1Cのイオン液体中の粒子のTEM像の写真である。
図12に示す加熱処理前の比較例1BのTEM像では、直径14±3.7nmの大きな粒子と、直径2.3±0.46nmの小さな粒子とが確認された。大きな粒子は、Inのみをスパッタした場合のIn粒子の粒径とほぼ一致した。また、小さな粒子は、Auのみをスパッタした場合のAu粒子の粒径とほぼ一致した。このことから、比較例1Bのイオン液体には、In粒子とAu粒子とが個々に生成し、混在していると考えられる。また、
図13に示す加熱処理後の比較例1CのTEM像では、中空粒子やコントラストの強い粒子など、複数の種類の粒子が観察された。これは、加熱処理によりIn粒子は中空化し、Au粒子は成長して粒径が増大したものと考えられる。以上のことから、最初にIn、次にAuという順番でスパッタすると、コアシェル構造を持つナノ粒子が得られず、In粒子とAu粒子とが個別に生成すると考えられる。その原因は、おそらくターゲット材をInからAuに切り替える際、イオン液体中のIn粒子が空気中の酸素と接触し、粒子表面が酸化してIn
2O
3となり、このIn
2O
3の存在がIn粒子の周りにAuのシェルが生成するのを阻止したと考えられる。これに対して、実施例1では、ターゲット材をAuからInに切り替える際、イオン液体中のAu粒子が空気中の酸素と接触したが、Auは非常に酸化されにくいため、粒子表面が酸化されず、その結果Au粒子の周りにInのシェルが生成したと考えられる。
【0034】
[実施例2]
120℃で3時間減圧加熱を行ったイオン液体(EMI−BF4)0.60cm
3をスライドガラス上に広げ、Auをターゲット材としてイオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流10mA、スパッタ時間5分とした。次に、スライドガラス上のイオン液体はそのままとし、Snをターゲット材として、イオン液体に向かってスパッタ蒸着を行った。具体的には、チャンバー内はアルゴンガスで置換し、圧力2.0Pa、スパッタ電流20mA、スパッタ時間20分とした。その後、スライドガラス上のイオン液体を試験管に回収した。
【0035】
図14は、実施例2で回収したイオン液体中の粒子のTEM像の写真、
図15は、
図14の部分拡大写真である。これらの写真におけるコントラスト強度比から、Au粒子のまわりにSnO
xシェルが形成され、コアシェル構造を持つナノ粒子が生成したことが示唆される。このナノ粒子は、粒径が実施例1B,1Cと比べると非常に小さく、約4nm程度であった。また、シェルの厚みが非常に薄いことが確認できた。このことから、ターゲット材の金属種を変えると、粒子生成・成長の挙動が変化して粒径やシェルの厚さに影響が現れると考えられる。
【0036】
以上の実施例1,2では、Auをコア、InO
xをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子やAuをコア、SnO
xをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子が得られた。一方、比較例1では、Inをコア、Auをシェルとするコアシェル構造のナノ粒子は得られなかった。このことから、他の金属の組み合わせであっても、比較例1のように最初のナノ粒子が酸化されてしまうような場合を除けば、同様にしてコアシェル構造のナノ粒子が得られることが期待される。また、イオン液体はその構造に依存した特性を持つため、イオン液体種によって粒子の構造が制御できると考えられる。また、スパッタ条件によって粒子の粒径や金属濃度を変化させることも可能と考えられる。