(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例であるパンコーティング装置10(以下、コーティング装置10と略記する)の構成を示す右側面図、
図2はその正面図、
図3は平面図(上面図)である。
図1の装置は、いわゆる全面パンチングタイプの回転ドラムを使用したジャケットレスタイプのコーティング装置となっており、回転ドラム(コーティングパン、以下、ドラムと略記する)1内に錠剤等の被処理物を収容し、そこにコーティング液を噴霧することにより、被処理物のコーティング処理を行う構成となっている。
【0013】
図1〜4に示すように、コーティング装置10は、筐体2の中央部にドラム1を回転自在に設置した構成となっている。このドラム1は、ほぼ水平な回転軸線Oを中心に回転し、その内部には、ガムやチョコレート、錠剤等の被処理物3が投入される。一般に、回転軸線が水平に対して傾斜したドラム(傾斜パン)は、水平軸回りに回転するドラムよりも被処理物の収容量が大きく、処理量も多くなる。その反面、傾斜ドラムでは、ドラム内の被処理物に重力分級が生じるため、製品間におけるコーティングのバラツキが大きくなり、精密なコーティング処理には不向きである。また、ドラム内への被処理物の充填率は高くなるものの、収容した被処理物が層高となり、自重も大きくなるため、原料錠剤等に与えるダメージも大きくなる。その点、水平回転型のドラムは、これらの問題が少なく、高品質のコーティング処理には好適である。
【0014】
図4(a)は、ドラム1の側面図である。ドラム1は、円筒形の胴部4と、胴部4の両端に形成された円錐台状のコニカル部5とを備えている。胴部4はステンレス製の多孔板にて形成されており、胴部4の外周は多数個の通気孔6により通気可能な構成となっている。コニカル部5は孔のないステンレス製板材にて形成されており、その一端側には前面開口部7が形成されている。他端側はエンドプレート8にて閉鎖されており、回転軸9が取り付けられる。
【0015】
一方、ドラム1の内側には、被処理物の転動流を攪乱し、混合撹拌効率の促進を図るべくバッフル26が設置されている。
図4(b)はバッフル26の構成を示す説明図であり、バッフル26もまた多数の通気孔27を備えたステンレス製の多孔板にて形成されている。
図4(b)に示すように、バッフル26は、断面略三角形の山型に形成されており、胴部4に形成されたバッフル取付孔28に固定されている。バッフル取付孔28は、長方形の開口となっており、バッフル26は、その底縁部をバッフル取付孔28の周縁に溶接する形で取り付けられる。バッフル26はドラム1内に突出配置され、これにより、通気性のある立体バッフルがドラム1の内側に立設される。
【0016】
このように、バッフル26自体を立体通気構造とすると、被処理物の混合撹拌促進効果のみならず、処理気体の通気ロスを無くすことができる。すなわち、通気構造ではないバッフルの場合、ドラム内から処理気体を排気する際、バッフル部分が障壁となって通気が妨げられ、排気に脈動が生じる場合がある。その点、当該コーティング装置10では、バッフル26が通気構造となっているため、エアの流通を妨げることがなく、排気の脈動も抑えられる。従って、ジャケットレス構造による通気エアの脈動低減効果をさらに向上させることができ、スプレーパターンを乱すことなくコーティング処理を行うことが可能となる。また、バッフル26によりドラム1の放熱面積が拡大すると共に、後述するミスト冷却によって、バッフル26と胴部4が均一に冷却されるため、ドラム冷却効率も向上する。
【0017】
ドラム1の
図1において右側には、電動のドラム駆動モータを用いた図示しないドラム回転機構が配置されている。ドラム1の右端側(他端側)には、前述のように回転軸9が固定されており、この回転軸9には図示しないスプロケットが取り付けられている。スプロケットは、チェーンを介して筐体2内に設置されたモータ側のスプロケットと接続されている。モータを回転させると、その回転に伴ってドラム1がチェーン駆動され、回転軸線Oを中心に回転する。なお、ドラム1の
図1,4において左端側は、図示しないローラによって支持されている。
【0018】
筐体2内は、ドラム1を収容するドラム室29が設けられた二重構造となっており、ドラム室29の下部にはシンク30が設けられている。シンク30は、底部に図示しないドレーン口を備えた水密構造となっており、内部に水等の洗浄液を貯留できるようになっている。コーティング装置10を洗浄する際には、このシンク30内に洗浄液を溜め、そこでドラム1を回転させドラム内外を溜め洗いする。ドラム洗浄後は、前述のドレーン口より洗浄液を排出し、適宜、濯ぎや乾燥等の処理を行う。
【0019】
筐体2の正面(
図1において左側、
図2参照)は3分割構造となっており、その中央にはチャンバドア11が配置されている。チャンバドア11は、900mm×1100mm×200mm程度の直方体状の箱形部材であり、ヒンジ12によって開閉自在に支持されている。チャンバドア11は、筐体2の前壁2a側の面が開放された箱形となっており、内部には給気チャンバ13が形成されている。給気チャンバ13は、ドラム1の前面開口部7の前段に配置され、給気チャンバ13の前面開口部7に対向する断面積は、前面開口部7(内径約500mm)のそれに対して約5倍(2倍以上が好ましく、筐体サイズを考慮すると8倍程度までが好ましい)となっている。チャンバドア11の正面側は曲面となっており、それに伴って給気チャンバ13の正面内壁13aも曲面となっている。これにより、意匠上特徴のある外観を創出すると共に、給気チャンバ13内の容積拡大が図られる。
【0020】
チャンバドア11の正面にはさらに、中央に監視窓14が設けられた点検扉15が取り付けられている。点検扉15の両側には、上下方向に延びるグリップバー16が取り付けられている。また、チャンバドア11の下部には、処理完了後の製品を取り出すための製品排出口17が取り付けられている。当該コーティング装置10では、点検扉15の両側に配したグリップバー16により、正面に従来のコーティング装置にないH型のデザインを構成し、意匠上のアクセントを形成している(
図2参照)。
【0021】
チャンバドア11は、筐体2に右開きにて取り付けられており、チャンバ前面のグリップバー16を持って装置正面側から開放できるようになっている。
図5はチャンバドア11を開いた状態を示す平面図、
図6はその状態での当該コーティング装置の正面図である。
図5に示すように、チャンバドア11を開くと、筐体前壁2aが露出し、そこにドラム1の端部に形成された前面開口部7が開口配置された状態となる。筐体前壁2aの前面開口部7の上方にはさらに、給気孔18が設けられている。コーティング装置10は内部給気構造を採用しており、給気孔18は、筐体2内に配された給気ダクト19を介して、筐体上面2bに設けられた給気口21と連通している。
図1に示すように、コーティング装置10では、筐体2内のドラムコニカル部5上方に形成された空きスペースに給気ダクト19が屈曲配置されており、装置の省スペース化と屈曲ダクトによるエアの流速低下が図られている。
【0022】
給気孔18の前面には、風向板22が取り付けられている。
図7(a)は風向板22の正面図、同(b)は断面図であり、
図7(b)の右側を風上側として、給気孔18に取り付けられる。
図7(a)に示すように、風向板22は、円筒状の枠体23(例えば、内径200mm)の内側に複数個のルーバ24(例えば、幅30mm)を溶接固定した構成となっている。ルーバ24は、枠体端面に対して例えば60°傾斜させて取り付けられており、給気口21から供給されたエア(乾燥空気)は、風向板22にて下方に整流された状態で給気孔18から排出される。
【0023】
コーティング装置10では、チャンバドア11を閉じると、ドラム1の前面開口部7が給気チャンバ13に対向・連通する。従って、給気口21に供給されたエアは、風向板22にて整流されつつ、給気チャンバ13内に流入し、そこから前面開口部7を介してドラム1内に供給される。すなわち、コーティング装置10は、給気ダクト19から大容積の給気チャンバ13を介してドラム1への給気を行う。このため、大風量通気を行ってもドラム内に供給されるエアの流速を十分に低下・安定させることができる。
【0024】
このように、給気ダクト19から供給されるエアに対し、給気チャンバ13は緩衝部(バッファ)として作用し、そこでエアの流速が低下すると共に、前面開口部7における流速も断面全体で均一化される。また、コーティング装置10では、給気チャンバ13の正面内壁13aが湾曲形状となっているため、給気ダクト19から供給されたエアは、給気孔18に対向する曲面状の正面内壁13aに当たって拡散されマイルドな気流となる。加えて、当該装置では、給気孔18に風向板22が取り付けられているため、給気チャンバ13に流入する段階でも流速が抑えられ、流れも整えられるので、給気チャンバ13による緩衝効果もより高められる。従って、コーティング装置10では、従来機に比して給気がマイルドとなり、かつ、均一な流速、流量で錠剤に供給され、排気される。
【0025】
ここで、従来のコーティング装置のように、ドラム開口部に給気ダクトを接続してエア供給を行うと、ドラム内に供給されるエアの流速が不均一となる。コーティング装置において給気に乱れが生じると、給気の偏在によりコーティング液のスプレーミストの流れに乱れが生じ、錠剤に均一にスプレーできないのみならず、錠剤に達する前にスプレーミストが乾燥し、この乾燥ミストがドラムに付着して汚れが生じてしまう。この場合、流速を十分に低下させ安定させるには、軸方向に長い直胴部をドラム開口部に設ける必要があり、ドラムの口元から製品層までの距離が長くなり、作業性が著しく悪くなると共に、装置自体も大型化する。
【0026】
その点、当該コーティング装置10では、気流の安定により、ドラム内にてスプレーパターンを乱すことなくコーティング処理を行うことができ、コーティングムラが減少し、製品品質の向上が図られる。また、コーティングダストの飛散も少なくなり、ドラム清掃工数の削減も図られる。さらに、気流安定化のための長い直胴部が不要なため、ドラムの口元(前面開口部7)から製品層までの距離も短くでき、作業性が改善されると共に、装置自体も小型化される。加えて、投影面積の大きいチャンバドア11を用いることにより、チャンバドア11自体の奥行を抑えることもでき、点検扉15を開けるとすぐ間近に前面開口部7が来るような設計が可能となり、点検作業も容易となる。
【0027】
また、筐体前壁2aには、
図5,6に示すように、コーティング液噴霧用のスプレーガン31がドラム1の前面開口部7からドラム内に挿入されている。スプレーガン31は、筐体2の正面に配されたマルチファンクションユニット32に取り付けられており、装置正面側からドラム内に出し入れ自在な構成となっている。マルチファンクションユニット32は、斜め45°方向に自在に移動可能な支持アーム35を備えており、支持アーム35には、スプレーガン31が装着された支持ホルダ33が取り付けられている。支持ホルダ33には、糖衣コーティング用スプレーガン31aとフィルムコーティング用スプレーガン31bが取り付けられており、1ユニットにて複数種類のコーティング処理に対応している。
【0028】
一般に、糖衣コーティング処理を行う場合、フィルムコーティングによるアンダーコートを行った上で、糖衣コーティングを行うことが多い。その際、従来のコーティング装置では、フィルムコーティングを行った後、スプレーガンを糖衣コーティング用に交換しており、部品交換の作業時間が必要となり、時間的なロスが生じるという問題がある。その点、コーティング装置10では、マルチファンクションユニット32に糖衣コーティング用のスプレーガン31aとフィルムコーティング用のスプレーガン31bが取り付けられているため、交換作業を行うことなくアンダーコーティングから糖衣コーティングを連続して実施することができる。このため、交換作業に要する工数を削減でき、作業時間の短縮や省力化が図られ、生産性が向上し効率の良いコーティング処理が可能となる。
【0029】
前述のように、スプレーガン31は支持ホルダ33に取り付けられており、支持ホルダ33は、ヒンジ34aにて支持アーム35と相対回転自在に接続されている。ヒンジ34aには図示しないロック機構が取り付けられており、ヒンジ34a部分は、図示しないピン等によって回転自在な状態と回転不可能な状態を任意に設定できるようになっている。支持アーム35はユニットカバー36に取り付けられており、ユニットカバー36の下端には、支持アーム35の下端部が接続口35cとして開口している。
【0030】
ユニットカバー36は、3分割された筐体正面の左側に位置している。ユニットカバー36を閉じると、マルチファンクションユニット32は筐体2の正面に配置される。マルチファンクションユニット32内にはスプレーガン用のホース類が収容されており、コーティング装置10では、従来の装置のように配管類が装置正面や側面などに露出することがなく、装置の外観をスッキリとした形にまとめることができる。なお、筐体正面の右側もフロントカバー25が取り付けられており、筐体2の正面は監視窓14を中央に配した3分割構成となる。
【0031】
支持ホルダ33や支持アーム35は中空状の金属パイプ(例えば、直径50mm)にて形成されており、その内部には、各スプレーガン31にコーティング液や噴霧エアを供給するためのホース(図示せず)が収容されている。スプレーガン1個に接続されるホースは最大5本(スプレーエア、パターンエア、シリンダーエア(ニードル弁)、液(行き)、液(戻り))となるため、スプレーガン3個の配管合計は最大15本となる。なお、同種のガンでは、共通配管を分岐することや、スプレーエアとパターンエアを共通にする、液の戻り配管を省くなどの仕様により、適宜配管本数を減らすことも可能である。
【0032】
スプレーガン31に接続されるホースは、接続口35cから装置外部へと引き出される。すなわち、コーティング装置10では、液ホースやエアホースは隠蔽配管となっており、これらのホースが外部に露出しない構成となっている。このため、部品の汚染が少なくメンテナンス性の向上が図られると共に、コーティング液やエアがドラム内の温度の影響を受けにくくなり、コーティング品質の向上も図られる。
【0033】
ユニットカバー36は、ヒンジ34bにて筐体2に開閉自在に取り付けられている。
図8はマルチファンクションユニット32の動作を示す説明図、
図9はマルチファンクションユニット32を正面側から見た状態を示す説明図である。
図8に示すように、当該実施例では、マルチファンクションユニット32と支持ホルダ33は、ヒンジ34bにて接続された2節のリンク機構となっている。すなわち、コーティング装置10では、マルチファンクションユニット32の支持アーム35と支持ホルダ33を適宜屈曲させることにより、スプレーガン31をドラム1内に挿入・取り出し自在に設置している。
【0034】
この場合、支持ホルダ33と支持アーム35が屈曲せず、両者が直角のままスプレーガン31をドラム内外に移動させようとすると、前面開口部7の直径を大きくしなければならず、また、装置前面により多くの移動用面積を確保しなければならない。これに対し、コーティング装置10では、支持ホルダ33と支持アーム35との間の角度θが小さくなるように両者を折り畳むことにより、回転半径を抑えつつ、スプレーガン31をドラム内外に移動させることができ、装置のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0035】
また、マルチファンクションユニット32は、
図9に示すように、斜め45°方向(すなわち、錠剤流れ面に対してほぼ垂直方向)に上下動可能に配置されており、ドラム内におけるスプレーガンの位置を適宜変えられるようになっている。
図10は、マルチファンクションユニット32の上下動機構の構成を示す説明図である。
図10に示すように、支持アーム35は二重管構造となっており、ユニットカバー36内にて上管部35aと下管部35bが接続されている。上管部35aは、ユニットカバー36に固定されたアームガイド37に摺動自在に挿入されており、ブラケット38を介してエアシリンダ39と接続されている。下管部35bは、ブラケット40にてユニットカバー36に固定されている。
【0036】
エアシリンダ39を作動させると、上管部35aが軸方向に沿って移動し、マルチファンクションユニット32は、
図10に示した下方位置Lと上方位置Hの間を150mm程度移動する。なお、上管部35aの駆動装置としては、エアシリンダ39に代えて、同じ流体圧によるアクチュエータである油圧シリンダを用いることもできる。また、駆動装置として、電動のモータを用いることも可能である。
【0037】
ところで、コーティング装置10では、
図10のように、マルチファンクションユニット32が斜め45°に移動する構成としたが、これを上下左右方向に移動可能なマルチムーブ機構とし、スプレーガン31を上下(Y方向:垂直方向)左右(X方向:水平方向)の任意の位置に移動できるようにしても良い。
図11〜13はこのようなマルチムーブ機構を用いたマルチファンクションユニットの実施例であり、
図11は手動によるマルチムーブ機構41の正面図、
図12は
図11の側面図、
図13はモータ駆動によるマルチムーブ機構42の側面図である。なお。マルチムーブ機構41は、
図9に一点鎖線にて示したように、筐体正面右側に配置される仕様となっているが、左側に配置することも勿論可能である。また、
図11〜13のマルチファンクションユニットでは、支持ホルダ33は支持アーム35と固定されており、スプレーガン31は、両者を屈曲させることなく、ドラム1内に挿入され、ドラム1から取り出される。
【0038】
マルチムーブ機構41は、上下動機構41aと左右動機構41bとから構成され、
図11,12に示すように、支持アーム35の上管部35aは、ブラケット43にて上下動機構41a側の上下動ベース44に固定される。上下動ベース44には、シャフトホルダ45とガイドブロック46a,46b及びナットブロック47が取り付けられている。シャフトホルダ45にはガイドロッド48の一端側が固定されており、ガイドロッド48は、ガイドブロック46a,46bにて軸方向に移動自在に支持されている。ガイドロッド48の他端側は、左右動ベース49に取り付けられたシャフトホルダ51に固定されている。
【0039】
ナットブロック47には、台形ネジを用いたネジロッド52が螺合している。ネジロッド52の一端側は、左右動機構41bの左右動ベース49に取り付けられたネジホルダ53に支持されている。また、ネジロッド52の他端側は、左右動ベース49に取り付けられたネジホルダ54に固定されている。ネジロッド52の一端側は、ギア55a,55bを介して、上下動用ツマミ56が接続されている。上下動用ツマミ56を回転させると、ギア55a,55bを介してネジロッド52が回転し、ナットブロック47が軸方向に移動する。これにより、ナットブロック47が固定された上下動ベース44が上下に移動し、上管部35aが上下方向に移動する。
【0040】
また、左右動ベース49には、シャフトホルダ57とガイドブロック58a,58b及びナットブロック59が取り付けられている。シャフトホルダ57にはガイドロッド60の一端側が固定されており、ガイドロッド60はガイドブロック58a,58bにて軸方向に移動自在に支持されている。ガイドロッド60の他端側は、ユニットベース61に取り付けられたシャフトホルダ62に固定されている。なお、ユニットベース61は、筐体2に固定されている。
【0041】
ナットブロック59には、台形ネジを用いたネジロッド63が螺合している。ネジロッド63の一端側は、左右動ベース49に取り付けられたネジホルダ64に固定されている。また、ネジロッド63の他端側は、ユニットベース61に取り付けられたネジホルダ65に固定されている。ネジロッド63の一端側は、上下動機構41aと同様にギア66a,66bを介して、左右動用ツマミ67接続されている。左右動用ツマミ67を回転させると、ギアを介してネジロッド63が回転し、ナットブロック59が軸方向に移動する。これにより、ナットブロック59が固定された左右動ベース49が左右に移動し、上管部35aが左右方向に移動する。つまり、上管部35aは、上下動用ツマミ56と左右動用ツマミ67を適宜動かすことにより、上下左右の任意の方向に移動させることができる。
【0042】
このように、マルチファンクションユニット32を水平方向及び垂直方向に自在に移動可能な構成とすることにより、スプレーガン位置の調整自由度が拡大し、スプレーガン31の設置位置を細かく設定することが可能となる。従って、スプレーガンを常に最適な位置に設定しつつコーティング処理を実施することが可能となり、スプレーガンが一方向にのみ移動可能なコーティング装置に比して、錠剤面とスプレーガン31との距離を一定に保つような制御も容易かつ正確に実行可能となる。これにより、装置を停止させることなく、コーティング処理を連続的に実施することが可能となり、コーティング処理効率が向上し、生産コストの低減が図られる。
【0043】
また、このような動作を電動にて行っても良く、マルチムーブ機構42では、上下動用ツマミ56と左右動用ツマミ67に代えて、上下動用モータ68と左右動用モータ69が設けられている。マルチムーブ機構42は、モータ68,69の配置の関係から、
図11,12のマルチムーブ機構41とは若干異なる構成となっているが、基本的な機構や動作はマルチムーブ機構41と同様であり、同様の部材・部品に同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0044】
筐体2にはまた、ドラム1に供給されたエアを排出するための排気ダクト71が接続されている。筐体2内には、ドラム1の胴部4と摺接するシールダクト72と、シールダクト72に接続され排気口73に向かう上部ダクト74が設置されている。排気ダクト71は排気口73に接続されており、チャンバドア11から供給されたエアは、ドラム1からシールダクト72に排出され、上部ダクト74と排気ダクト71を介して装置外へと排出される。
【0045】
一方、スプレーガン31にてドラム1内にコーティング液等をスプレーし、その際、排気を行わないと、ドラム内の湿度が100%となり、内部に霧が漂ったような状態となる。このとき、ドラム内の余分な湿度を、コーティング処理に影響を与えないように排気するため、筐体2には、排気系統とは別個に蒸散ミスト排気口75が設けられている。蒸散ミスト排気口75は筐体2の内部空間に対し開口しており、排気ダクト71に接続されている。
【0046】
また、蒸散ミスト排気を行うと、密閉空間である筐体2の内部空間が負圧となるため、排気した分を補うべく、蒸散ミスト吸気口76が設けられている。吸気口76には、筐体内部空間と筐体外部とをつなぐ図示しないダクトが取り付けられており、ダクト内にはダクトの開閉を制御するダンパが設置されている。蒸散ミスト排気時には、ダンパを開いて外部の空気を取り込む。これにより、排気系統よりも細い通気系統にてドラム1内を弱く吸引することができ、ドラム1内の蒸散ミストが装置外へと排出される。
【0047】
コーティング装置10にはさらに、筐体2内にドラム冷却用のスプレーノズル81が取り付けられている。スプレーノズル81からは、微細なミストを含んだ加湿空気などの冷却媒体がドラム1の外周に噴霧され、ドラム1はその気化熱によって冷却される。従来より、通気孔のないドラムを水スプレーによって冷却することは知られていたが、ジャケットレスタイプのコーティング装置で使用されている全面パンチングドラムのスプレー冷却は、ドラム内の被処理物が濡れてしまい品質上問題が生じるとされていた。これに対し、本装置では、非常に微細なミストを用い、また、スプレーの実施タイミングを考慮することにより、その常識を覆し、通気孔のあるドラム1のスプレー冷却を可能ならしめている。このため、従来不可能とされていた全面パンチングドラムの冷却が可能となり、ジャケットレスタイプの装置の性能向上を図ることが可能となった。
【0048】
前述のようなスプレーノズル81は、筐体内2に複数個設けられており、胴部4とコニカル部5の両方にスプレーが可能な位置に配置されている(胴部用:81a,コニカル部用81b)。スプレーノズル81とドラム1との間の距離は200mm〜250mm程度に設定されており、噴霧パターンの広がり(噴霧領域)はドラム外周面にてスプレーノズル81 1個当たり直径50mm〜400mmとすることが好ましく、ここでは直径300mm程度となっている。なお、スプレーノズル81は、ドラム1内へのミスト侵入を抑えるため、胴部4対しては接線方向からスプレーが当たる位置に取り付けることが好ましい。
【0049】
スプレーノズル81としては内部混合型の二流体ノズルを使用し、そこから冷却液の微細なミストをドラム1に対して噴霧する。ここでは、冷却液として水(常温で可)を使用しており、スプレーノズル81では、水と圧縮空気がノズル内で混合され、非常に微細な水滴である冷却ミスト(水霧)を含んだ冷却媒体が生成される。冷却ミストの平均粒子径は5μm以上〜100μm以下が好ましい。但し、50μmを超えるとミストの蒸発がやや緩慢となり、ドラム1内が湿潤し易くなるため50μm以下の方が好ましい。また、平均粒子径10μm以下、好ましくは5〜8μm程度のいわゆるドライフォグのような超微細ミストも使用可能である。この場合も、噴霧パターンの広がりは、スプレーノズル81 1個当たり直径50mm〜400mm程度、好ましくは300mm程度に設定するが、10μm超の場合よりも広い方が好ましい。
【0050】
つまり、コーティング装置10におけるドラム冷却方式としては、通常の二流体ノズルによる10μm超〜100μmの微細なミストによる噴霧や、10μm以下のドライフォグの噴霧など、種々の噴霧形態を適宜採用し得る。なお、通気孔のないコニカル部5と全周パンチングの胴部4とでミスト径を異ならせても良く、例えば、通気性のないコニカル部5には比較的大きい10μm超〜50μmのミスト、全面パンチング構造の胴部4には超微細な5〜8μmのミストを噴霧するようにしても良い。
【0051】
このような冷却ミストは、スプレーノズル81からドラム1の外側全体にまんべんなく噴霧される。これにより、ドラム1の胴部4とコニカル部5は、付着した冷却ミストの気化熱によって冷却される。その際、噴霧した冷却ミストは粒子径が非常に小さいため、ドラム1に付着後、素早く蒸発する。このため、冷却ミストを通気孔のあるドラム1に吹き掛けても、水分はドラム表面にて蒸発しその内部には侵入しにくく、ドライな環境でのドラム冷却が可能となる。
【0052】
次に、このようなコーティング装置を用いたコーティング処理について糖衣錠の製造を例にとって説明する。ここではまず、コーティング処理を施される被処理物3として、乳糖錠などの錠剤(例えば、直径8mm,200mg/T)をドラム1内に投入する。コーティング装置10では、チャンバドア11を開けた状態で前面開口部7から被処理物3を投入するが、その際、前面開口部7は作業者の直近に来るため非常に作業性が良い。なお、被処理物投入の際には、マルチファンクションユニット32はドラム1の外へ退去させた状態とする。所定量の被処理物3を投入した後、マルチファンクションユニット32を操作してスプレーガン31をドラム1内にセットする。その後、チャンバドア11を閉じ、ドラム駆動モータを作動させドラム1を回転させる。
【0053】
ドラム内の被処理物3に対しては、ドラム1を回転させつつ、スプレーガン31からコーティング液(糖衣液)の噴霧を行う。コーティング液には、被覆物質やバインダ、溶剤等が含まれ、スプレーガン31から所定の圧力にて噴霧される。
図14(a)は当該コーティング装置における糖衣処理工程を示す説明図、
図14(b)は(a)の各工程における給排気操作や蒸散ミスト操作、ミスト冷却操作の有無を示す一覧表である。
【0054】
従来のコーティング処理では、通常、「スプレー」→「ポーズ1」(第1ポーズ工程)→「乾燥」の3工程を繰り返し行うのが通常である。また、コーティング液やその他の諸条件により、「ポーズ1」と「乾燥」の工程の間に、「ポーズ2」(第2ポーズ工程)を入れ4工程とすることも通常行われている。この場合、「スプレー」は、給排気を行うことなくドラム1を回転させつつ(例えば8rpm程度、以下、数値例に関しては例示である旨の表示は省略する)コーティング液を噴霧する工程である。また、「ポーズ1」は、エア供給を行わずにドラム1を回転させ、錠剤上にコーティング液を展延させる練り工程、「ポーズ2」は、排気のみを行いつつドラム1を回転させ、乾燥工程前にドラム内の湿度を低下させる工程であり、これらのポーズ1,2工程ではコーティング液の噴霧は実施しない。さらに、「乾燥」は、コーティング液の噴霧を行うことなくドラム1に温風を供給し(70°C,12m
3/min)、錠剤上のコーティング液を乾燥固化させる工程である。
【0055】
一方、当該装置におけるコーティング処理では、
図14(a)に示すように、従来の処理工程における「スプレー」工程の前に、スプレーノズル81から冷却ミストを含んだ冷却媒体を噴霧してドラム1のミスト冷却を行う予冷工程が付加されている。また、「予冷」→「スプレー」→「ポーズ1」の3工程にかけて、スプレーノズル81による冷却ミスト噴霧が実施される。つまり、
図14(a),(b)に示すように、「スプレー」に先駆けて、給排気は行わずに冷却ミスト噴霧が実施される「予冷」が行われる(30秒)。なお、
図14(a)における「スプレー」,「ポーズ1」,「ポーズ2」,「乾燥」の各工程における処理内容は前述同様である。
【0056】
その後、冷却ミスト噴霧を継続しつつ、「スプレー」(2分間)と「ポーズ1」(第1ポーズ工程:3.5〜4分間)が実施される。なお、冷却ミスト噴霧は、処理状況に応じて「ポーズ1」の途中で適宜終了しても良い。スプレー工程(60°C,340〜900mL/回)では、糖衣液がスプレーガン31から錠剤に対し噴霧される。その際、スプレーガン31の位置は、錠剤面の位置に応じて、マルチファンクションユニット32によって最適な位置に調整される。前述のように、スプレーガン31は斜め45°方向に移動可能なため、錠剤流れ面に対するスプレー位置は一定に保たれ、錠剤のコーティング条件を一定あるいは所望の形態に調整することができる。特に、マルチムーブ機構41を採用した場合には、スプレーガン31の移動自由度が高く、種々のコーティング条件に柔軟に対応することが可能となる。
【0057】
「ポーズ1」の終了後、「ポーズ2」(第2ポーズ工程:0.5分間)と「乾燥」(4.5分間)の各工程が実施され、
図14(a)に示すように、「乾燥」後に「予冷」に戻る形でこのセットを複数回(20〜30回程度)繰り返す。その際、乾燥工程の後に直ちにスプレー工程を行うと、ドラム1が加熱された状態でスプレーが行われることになり、糖衣カス等が生成され易くコーティング環境としては好ましくない。この点、当該コーティング処理では、乾燥工程の後に「予冷」を行い、ドラム1をミスト冷却する。従って、スプレー工程時は、ドラム1は冷えた状態にあり、糖衣カス等の問題も生じにくい。また、ドラム1が短時間で冷却されるため、ドラム1が冷えるまで待つ時間も必要もなくなり、処理時間も短縮される。
【0058】
「予冷」→「スプレー」→「ポーズ1」の3工程では、ドラム1に冷却ミストが噴霧され続けるが、微細なミストによってドラム1内に侵入する水分はごく僅かである。また、「ポーズ1」工程の後には、必ず「乾燥」工程が実施される。このため工程中の錠剤の水分含水量は従来のコーティング処理と変わらず、発明者らの実験においても、乾燥工程中における錠剤の水分含有率や、最終的な錠剤の水分含有率を従来法と同水準に維持できた。さらに、乾燥空気(温風)が通気されない工程にてドラム1に冷却ミストを噴霧するため、短時間でドラム壁面を冷却でき冷却処理効率も高い。加えて、ミスト冷却の際には、胴部4と共にバッフル26もまた冷却ミストによって冷却される。このため、バッフル26による放熱面積増大効果をさらに高めることができ、ドラム1を効率良く冷却することが可能となる。
【0059】
なお、冷却ミストによってドラム1内に侵入する水分はごく僅かである旨述べたが、それでもミストを噴霧している以上、ドラム1内への水分侵入は完全にゼロとは言い切れない。また、「乾燥」では排気が行われるため、それに引かれて冷却ミストがドラム1内に侵入し易い。そこで、コーティング装置10では、安全を見て、冷却ミストが万が一ドラム1内に侵入しても、その影響ほとんど受けることがない工程で冷却ミスト噴霧を行うことにしている。すなわち、ドラム1内がこれから湿潤する「予冷」と、湿潤している「スプレー」及び「ポーズ1」にて冷却ミスト噴霧を行い、ドラム1内がウエットな環境でミスト冷却を行う。これにより、ドラム内への水分の侵入を問題とすることなく、冷却ミストによるドラム1の冷却を行うことができる。
【0060】
このように、コーティング装置10は、水平回転型の全面パンチングドラムを使用した装置でありながら、微細な冷却ミストによって、被処理物が接触するドラム1の外周が直接冷却される。このため、ドラム内面への糖衣液の固化・付着を抑えることができ、固化物の剥離、付着による不良品を減少させることが可能となる。従って、糖衣コーティング錠剤のボッチの発生を大幅に低減させることができ、発明者の実験ではボッチの発生をほとんど皆無に抑えることができた。また、水平回転型のドラムを使用しているため、原料錠剤の損傷が抑えられ、この点においても不良品発生率の低減が図られる。
【0061】
さらに、ドラム内面への糖衣カスの付着が抑えられるため、ドラム内部の清掃回数を減らすことができ、処理効率や作業工数の改善を図ることが可能となる。そしてこれにより、構造がシンプルでメンテナンスが容易なジャケットレスタイプのコーティング装置の普及促進も図られる。
【0062】
このような一連の工程を繰り返し、所定量のコーティング液を噴霧し終え、被処理物に所望のコーティング層が形成されたところでコーティング処理を終える。なお、コーティング処理中も、監視窓14から処理状況を適宜観察することが可能である。コーティング処理が終了したところで、チャンバドア11を開け、マルチファンクションユニット32をドラム1の外へ退去させて図示しない製品排出筒をドラム1内に組み込む。その後、再びチャンバドア11を閉じ、ドラム1を回転させつつ、製品排出口17を開いてコーティング処理済の製品を排出する。
【0063】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の各種数値はあくまでも一例であり、その値は適宜変更し得ることは言うまでもない。また、本発明における被処理物も前述の乳糖錠等の錠剤には限られず、菓子やガム等の食品や他の医薬品なども適用可能である。また、糖衣液も糖を水に溶解したシロップ以外に、それに各種薬効成分や風味、色素等を添加したものなど、種々の仕様の糖衣液が適用可能である。
【0064】
前述のコーティング装置10では、装置前面左側にコントロールパネル82を配した関係から、チャンバドア11を右開きとしているが、これを左開き構造とすることも勿論可能である。また、マルチファンクションユニット32を正面右側に配することも可能である。さらに、筐体2の正面を3分割し、その中央部をチャンバドア11とした構成を示したが、左右のユニットカバー36やフロントカバー25内をチャンバドア11内と連通させ、チャンバドア11を閉じたとき、筐体前面の全体が給気チャンバ13となるようにしても良い。これにより、給気チャンバ13の投影面積や内容積をさらに大きくすることが可能となる。
【0065】
加えて、コーティング装置10のマルチファンクションユニット32にさらに洗浄ノズルを組み込んでも良く、これにより、コーティングから洗浄までの工程を連続して行うことが可能となる。なお、
図5,6に示すように、コーティング装置10では、スプレーガン31を支持ホルダ33の一方向側(
図6において左斜め上方向)に配置しているが、スプレーガン31を他方向側(
図6においてスプレーガン31と対称的に右斜め下方向)にも配置可能である。その際、一方向側に糖衣コーティング用、他方側にフィルムコーティング用など、用途別にスプレーガン31の設置方向を変えても良い。
【0066】
また、マルチファンクションユニット32に振動手段を組み込み、処理中に支持ホルダ33上に載った被処理物を振り落とすリダクションシステムを採用することも可能である。さらに、処理中の被処理物がドラム1の前面開口部7からチャンバドア11内へ飛び出さないように、ネット等の飛散防止用部材を前面開口部7に取り付けても良い。その際、この飛散防止部材として整流板を使用し、給気の更なる安定化を図っても良い。