【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、「電源資源拡大のための研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Zhou Huayu et.al,The Relay Shared by Three Neighboring Cells with Distributed Antennas,2010 International Conference on Communications and Mobile Computing,2010年 4月14日,Vol.3,pp.383-386
【文献】
藤井 健介,外1名,複数基地局協調送信環境での適応的なリレー伝送法の一検討,2009年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会講演論文集1,2009年 9月,p.475,B-5-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に開示されている技術においては、送信局からの信号の電力を中継局で増幅させることが行われていない。中継局は、単に、周辺セルからの干渉を検出し、検出した干渉の情報を端末に通知しているのみである。
【0011】
また、中継局がそれぞれ異なる複数のセルの信号を受信し、それぞれのセルに存在している複数の端末にデータを伝送するといったような、セル間をまたいだ形でのマルチユーザMIMO伝送については検討されていない。
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、複数のセルのそれぞれのセル端におけるチャネル容量を増大させることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面の通信装置は、それぞれ異なるセルに存在し、MIMO伝送によりデータの伝送を行う複数の送信装置のそれぞれと自身との間の通信路の状態を推定する第1の推定手段と、
前記複数の送信装置から、各送信装置間での同期が確立された伝送タイミングに従って伝送されたデータを、前記複数の送信装置によって送信された電波を受信するアンテナを介して受信し、前記第1の推定手段により推定された通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、
受信したデータを前記複数の送信装置のそれぞれから伝送されたデータに分離する、前記複数の送信装置に共通の受信手段と、
分離されたデータのそれぞれを、前記複数の送信装置がデータの伝送を行っているそれぞれの前記セル内に存在する複数の受信装置に対してマルチユーザMIMO伝送により伝送する伝送手段とを備える。
【0014】
前記セルは隣接するセルであり、通信装置が、隣接するセルの境界付近に存在するようにすることができる。
【0015】
前記複数の受信装置のそれぞれと自身との間の通信路の状態を推定する第2の推定手段をさらに設けることができる。この場合、前記伝送手段には、前記第2の推定手段により推定された通信路の状態に基づいて決定した送信ウエイトを用いて、前記受信手段により受信されたデータを伝送させることができる。
前記受信手段には、前記複数の送信装置から、各送信装置間で送信データやチャネル状態情報を共有することなく伝送されたデータを受信させることができる。
【0016】
本発明の一側面の通信方法は、それぞれ異なるセルに存在し、MIMO伝送によりデータの伝送を行う複数の送信装置のそれぞれと自身との間の通信路の状態を推定し、
前記複数の送信装置から、各送信装置間での同期が確立された伝送タイミングに従って伝送されたデータを、前記複数の送信装置によって送信された電波を受信するアンテナを介して受信し、推定した通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、
前記複数の送信装置に共通の受信手段によって、受信したデータを前記複数の送信装置のそれぞれから伝送されたデータに分離し、分離されたデータのそれぞれを、前記複数の送信装置がデータの伝送を行っているそれぞれの前記セル内に存在する複数の受信装置に対してマルチユーザMIMO伝送により伝送するステップを含む。
【0017】
本発明の他の側面の通信システムは、複数の送信装置と、通信装置と、複数の受信装置とから構成される通信システムにおいて、前記複数の送信装置のそれぞれは、異なるセルに存在し、他の送信装置との間でデータの伝送タイミングの同期を確立する同期手段と、前記同期手段により同期が確立された伝送タイミングに従って、MIMO伝送によりデータを伝送する伝送手段とを備え、前記通信装置は、前記複数の送信装置のそれぞれと自身との間の通信路の状態を推定する推定手段と、
前記複数の送信装置から、各送信装置間での同期が確立された伝送タイミングに従って伝送されたデータを、前記複数の送信装置によって送信された電波を受信するアンテナを介して受信し、前記推定手段により推定された通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、前記受信したデータを前記複数の送信装置のそれぞれから伝送されたデータに分離する、前記複数の送信装置に共通の受信手段と、前記
分離されたデータのそれぞれをを、前記複数の受信装置に対してマルチユーザMIMO伝送により伝送する伝送手段とを備え、前記複数の受信装置のそれぞれは、前記複数の送信装置がデータの伝送を管理するそれぞれの前記セル内に存在し、前記通信装置と自身との間の通信路の状態を推定する推定手段と、前記推定手段により推定された通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、前記通信装置から伝送されたデータを受信する受信手段とを備える。
【0018】
本発明の一側面においては、それぞれ異なるセルに存在し、MIMO伝送によりデータの伝送を行う複数の送信装置のそれぞれと自身との間の通信路の状態が推定され、
前記複数の送信装置から、各送信装置間での同期が確立された伝送タイミングに従って伝送されたデータが、前記複数の送信装置によって送信された電波を受信するアンテナを介して受信される。また、推定された通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、
前記複数の送信装置に共通の受信手段によって、前記受信されたデータが前記複数の送信装置のそれぞれから伝送されたデータに分離され、前記分離されたデータのそれぞれが、前記複数の送信装置がデータの伝送を行っているそれぞれの前記セル内に存在する複数の受信装置に対してマルチユーザMIMO伝送により伝送される。
【0019】
本発明の他の側面においては、複数の送信装置のそれぞれにおいて、他の送信装置との間でデータの伝送タイミングの同期が確立され、同期が確立された伝送タイミングに従って、MIMO伝送によりデータが伝送される。また、通信装置において、前記複数の送信装置のそれぞれと自身との間の通信路の状態が推定され、
前記複数の送信装置から、各送信装置間での同期が確立された伝送タイミングに従って伝送されたデータが、前記複数の送信装置によって送信された電波を受信するアンテナを介して受信され、前記複数の送信装置に共通の受信手段によって、推定された通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、前記受信されたデータが前記複数の送信装置のそれぞれから伝送されたデータに分離される。さらに、前記複数の受信装置のそれぞれにおいて、前記通信装置と自身との間の通信路の状態が推定され、推定された通信路の状態に基づいて決定した受信ウエイトを用いて、前記通信装置から伝送されたデータが受信される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数のセルのそれぞれのセル端におけるチャネル容量の増大とビット誤り率の低減を実現させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<通信システムの構成例>
図1は、本発明の一実施形態に係る通信システムの構成例を示す図である。
【0023】
図1の通信システムはセルラー方式の通信システムであり、送信局1−1,1−2、中継局2、および受信局3−1,3−2から構成される。送信局1−1と受信局3−1はセルC1内に存在し、送信局1−2と受信局3−2はセルC2内に存在する。セルC1とセルC2は隣接するセルであり、中継局2はセルC1とセルC2の境界付近に存在する。
【0024】
送信局1−1,1−2は、それぞれ、2GHz帯などの所定の周波数帯域の電波を使って、それぞれが存在するセル内の端末に対してデータを伝送する基地局である。送信局1−1はセルC1内の端末に対してデータを伝送し、送信局1−2はセルC2内の端末に対してデータを伝送する。点線矢印で示すように、送信局1−1,1−2によるデータ伝送は同期(シンボル同期)を確保して行われる。
【0025】
送信局1−1,1−2によるデータ伝送はMIMO伝送により行われる。送信側のアンテナ(送信アンテナ)の数をT本、受信側のアンテナ(受信アンテナ)の数をR本とするMIMO伝送をT×R MIMO伝送とすると、N本の送信アンテナを有する送信局1−1と、セルC1に存在し、N本の受信アンテナを有する受信局3−1との間では、矢印#1で示すようにN×N MIMO伝送が行われることになる。同様に、N本の送信アンテナを有する送信局1−2と、セルC2に存在し、N本の受信アンテナを有する受信局3−2の間では、矢印#2で示すようにN×N MIMO伝送が行われることになる。
図1においてはN=2である。
【0026】
中継局2は2N本の受信アンテナを有する通信装置である。中継局2は、セルC1とセルC2において行われる送信局−受信局間のMIMO伝送中にも、2N本の受信アンテナを使って、送信局1−1と送信局1−2の双方が送信する電波を受信し、送信局1−1が伝送するデータと送信局1−2が伝送するデータを取得する。同期を確保してデータ伝送を行う送信局1−1と送信局1−2を1つの局と考えると、送信局−中継局間では、矢印#11,#12で示すように2N×2N MIMO伝送が行われていることになる。
【0027】
また、中継局2は2N本の送信アンテナを有している。中継局2は、マルチユーザMIMO伝送によって、送信局1−1から伝送されてきたデータを受信局3−1に伝送し、送信局1−2から伝送されてきたデータを受信局3−2に伝送する。中継局−受信局間では、矢印#21,#22で示すように2N×(N,2)のマルチユーザMIMO伝送が行われていることになる。(N,2)は、N本の受信アンテナを有する受信局が2局あることを表す。中継局2においては、送信局1−1,1−2から伝送されてきたデータを表す信号の電力の増幅が適宜行われる。また、マルチユーザMIMO伝送により、送信局1−1からのデータは、中継局2により、受信局3−1のみで受信され、受信局3−2では受信されないように送信アンテナでの重みづけされる。一方、送信局1−2からのデータは、中継局2により、受信局3−2のみで受信され、受信局3−1では受信されないように送信アンテナで重みづけされる。結果として、中継局からの送信信号は、それぞれの受信局へのデータがお互いに影響受けないように伝送することが可能となる。
【0028】
受信局3−1,3−2は、それぞれ、携帯電話機やパーソナルコンピュータなどの端末であり、マルチユーザMIMO伝送によって中継局2から伝送されてきたデータを受信する。送信局1−1から伝送されたデータは、中継局2を介して受信局3−1により受信され、送信局1−2から伝送されたデータは、中継局2を介して受信局3−2により受信されることになる。
【0029】
このように、
図1の通信システムにおいては、マルチセル環境において、隣接する複数のセルの送信局からのデータが、MIMO伝送を用いて中継局に伝送され、マルチユーザMIMO伝送を用いて、中継局から、隣接するセル内に存在する受信局にそれぞれ伝送される。
【0030】
これにより、受信局3−1においてはセルC2からの干渉を低減させることができ、受信局3−2においてはセルC1からの干渉を低減させることができるといったように、隣接するセルからの干渉を、双方のセルにおいて低減させることができる。また、送信局からの信号が中継局において増幅されて再送されるため、受信局における受信信号の電力を上げることができる。特に、隣接セルからの干渉を受けやすく、かつ送信局からの信号の受信電力が弱まりやすいセル端におけるチャネル容量を増大させることが可能になる。
【0031】
例えば、送信局からの信号を中継局において単に増幅させて再送するとした場合、中継局が受ける隣接セルからの干渉成分も増幅してしまうことになるが、MIMO伝送によって送信局から伝送されてきたデータを分離した後に信号電力を増幅し、マルチユーザMIMO伝送によって受信局に伝送することにより、隣接セルからの干渉成分を中継局において除去することができ、上述したようにセル端におけるチャネル容量を増大させることが可能になる。
【0032】
<各装置の構成例>
図2は、送信局1−1の構成例を示すブロック図である。送信局1−1と送信局1−2には、適宜、
図1には示していない中央制御局4がインターネットなどのネットワークを介して接続される。伝送の対象となるデータ系列は符号化部11に入力される。
【0033】
符号化部11は、入力されたデータ系列を所定の符号化方式で符号化し、符号化して得られたデータをインターリーバ12に出力する。
【0034】
インターリーバ12は、符号化部11から供給されたデータのインターリーブを行い、インターリーブ後のデータをS/P(Serial/Parallel)変換部13に出力する。
【0035】
S/P変換部13は、インターリーバ12から供給されたシリアルのデータをパラレルのデータに変換し、各ブランチのデータを変調部14−1乃至14−Nにそれぞれ出力する。
【0036】
変調部14−1乃至14−Nは、S/P変換部13から供給されたデータをBPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの所定の変調方式で変調し、変調後のデータを重み付け部15に出力する。
【0037】
重み付け部15は、変調部14−1乃至14−Nから供給された各ブランチのデータに所定の送信ウエイトを乗算することによって重み付けを行い、重み付け後の各ブランチのデータを送信部16−1乃至16−Nに出力する。重み付け部15においては、例えば、E-SDM(Eigenbeam - Space Division Multiplexing)方式で伝送するための送信ウエイトを用いて重み付けが行われる。MIMO空間多重方式には、主に、送信アンテナ毎にデータを送信する空間分割多重(SDM(Space Division Multiplexing))方式と、送信ビーム毎にデータを送信する固有ビーム空間分割多重(E-SDM)方式がある。
【0038】
送信部16−1乃至16−Nは、重み付け部15から供給されたデータに対してD/A変換などの処理を施し、得られた各ブランチの信号を送信制御部19による制御に従ってRF(Radio Frequency)変換部17−1乃至17−Nにそれぞれ出力する。例えば、RF変換部17−1乃至17−Nに対する信号の出力タイミングが送信制御部19により制御される。
【0039】
RF変換部17−1乃至17−Nは、各ブランチの信号をRF信号に変換し、送信アンテナ18−1乃至18−Nから送信する。
【0040】
送信制御部19は、中央制御局4の同期部4Aと通信を行い、同期部4Aから送信される同期信号を受信する。送信制御部19は、送信局1−1から伝送されるデータと、送信局1−2から伝送されるデータの同期が確保されるように、送信部16−1乃至16−Nによるデータの出力タイミングを同期信号に基づいて制御する。これにより、例えば時間領域で見た場合、送信局1−1により伝送されたデータ(シンボル)と送信局1−2により伝送されたデータの開始タイミングが一致し、それぞれのデータを中継局2において復調することが可能になる。
【0041】
内蔵同期部20は、中継局2の内蔵同期部と通信を直接行うことによって同期信号を送受信し、送信局1−2との間でデータの同期を確保する。また、内蔵同期部20は、例えばGPS(Global Positioning System)からの信号を受信し、受信した信号に含まれる時刻情報に基づいて、送信局1−2との間でデータの同期を確保する。中央制御局4から送信されてきた同期信号に基づいてデータの同期が確保される場合、内蔵同期部20が設けられないようにすることも可能である。
【0042】
送信局1−2も、
図2に示す送信局1−1の構成と同様の構成を有している。送信局1−2の構成の説明については省略する。
【0043】
図3は、中継局2の構成例を示すブロック図である。
【0044】
IF(Intermediate Frequency)変換部32−1乃至32−2Nは、送信局1−1,1−2からの電波が受信されることに応じて受信アンテナ31−1乃至31−2Nから供給されたRF信号をIF信号に変換する。変換処理によって得られたIF信号に対しては、適宜、A/D変換などの処理が施され、得られたデータが重み付け部35に出力される。IF変換部32−1乃至32−2Nにより得られたデータは通信路推定部33にも供給される。
【0045】
通信路推定部33は、IF変換部32−1乃至32−2Nから供給されたデータに基づいてパイロット信号を検出し、送信局1−1と中継局2間、送信局1−2と中継局2間のそれぞれのチャネル状態を推定する。通信路推定部33は、送信局1−1と中継局2間のチャネル状態と、送信局1−2と中継局2間のチャネル状態を表す情報を演算部34に出力する。
【0046】
演算部34は、通信路推定部33により推定されたチャネル状態に基づいて、送信局1−1から伝送されたデータと送信局1−2から伝送されたデータを分離するための受信ウエイトの演算を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)やMMSE(Minimum Mean Square Error)などの信号分離法でデータの分離を行うための受信ウエイトが求められる。演算部34は、演算により求めた受信ウエイトを重み付け部35に出力する。
【0047】
重み付け部35は、IF変換部32−1乃至32−2Nから供給された各ブランチのデータに、演算部34により求められた受信ウエイトを乗算することによって重み付けを行い、重み付け後の各ブランチのデータを復調部36−1乃至36−2Nに出力する。
【0048】
復調部36−1乃至36−2Nは、重み付け部35から供給されたデータに対して、送信局1−1,1−2において用いられた変調方式に対応した方式の復調処理を施す。復調部36−1乃至36−2Nは、復調処理によって得られたデータを蓄積部37−1乃至37−2Nに出力し、蓄積させる。
【0049】
変調部38−1乃至38−2Nは、各ブランチのデータを蓄積部37−1乃至37−2Nから読み出し、送信局1−1,1−2において用いられている変調方式と同じ変調方式で変調し、変調後のデータを重み付け部39に出力する。
【0050】
重み付け部39は、変調部38−1乃至38−2Nから供給された各ブランチのデータに、演算部46により求められた送信ウエイトを乗算することによって重み付けを行い、重み付け後の各ブランチの信号を送信部40−1乃至40−2Nに出力する。
【0051】
送信部40−1乃至40−2Nは、重み付け部39から供給されたデータに対してD/A変換などの処理を施し、得られた信号をRF変換部41−1乃至41−2Nに出力する。
【0052】
RF変換部41−1乃至41−2Nは、各ブランチの信号をRF信号に変換し、送信アンテナ42−1乃至42−2Nから送信する。
【0053】
IF変換部44−1乃至44−2Nは、例えば受信局3−1,3−2からの電波が受信されることに応じて受信アンテナ43−1乃至43−2Nから供給されたRF信号をIF信号に変換する。この例においては、受信局3−1,3−2も、N×N MIMO伝送によってアップリンク方向にデータを伝送する機能を有している。変換処理によって得られたIF信号に対しては、IF変換部32−1乃至32−2Nにより得られたIF信号と同様にA/D変換などの処理が適宜施され、得られたデータが通信路推定部45に出力される。
【0054】
通信路推定部45は、IF変換部44−1乃至44−2Nから供給されたデータに基づいてパイロット信号を検出し、中継局2と受信局3−1間、中継局2と受信局3−2間のそれぞれのチャネル状態を推定する。通信路推定部45は、中継局2と受信局3−1間のチャネル状態と、中継局2と受信局3−2間のチャネル状態を表す情報を演算部46に出力する。
【0055】
演算部46は、通信路推定部45により推定されたチャネル状態に基づいて、マルチユーザMIMO伝送によってデータを送信するための送信ウエイトの演算を行う。演算部46は、演算により求められた送信ウエイトを重み付け部39に出力する。
【0056】
例えば、演算部46は、中継局2と受信局3−1間および受信局3−2間のチャネル状態に基づいて、マルチユーザMIMO伝送により、送信局1−1からのデータが、受信局3−1のみで受信され、受信局3−2では受信されないように、受信局3−1に伝送するデータに乗算する重みを計算する。一方、演算部46は、送信局1−2からのデータが、受信局3−2のみで受信され、受信局3−1では受信されないように、受信局3−2に伝送するデータに乗算する重みを計算する。結果として、中継局からの送信信号は、それぞれの受信局へのデータがお互いに影響受けないように伝送することが可能となる。結果として所望信号のSNR(信号対雑音電力比)を増大させることが可能になる。
【0057】
図4は、受信局3−1の構成例を示すブロック図である。受信局3−2も、
図4に示す受信局3−1の構成と同様の構成を有している。
【0058】
IF変換部62−1乃至62−Nは、中継局2からの電波が受信されることに応じて受信アンテナ61−1乃至61−Nから供給されたRF信号をIF信号に変換する。変換処理によって得られたIF信号に対しては、適宜、A/D変換などの処理が施され、得られたデータが重み付け部65に出力される。IF変換部62−1乃至62−Nにより得られたデータは通信路推定部63にも供給される。
【0059】
通信路推定部63は、IF変換部62−1乃至62−Nから供給されたデータに基づいてパイロット信号を検出し、中継局2と受信局3−1間のチャネル状態を推定する。通信路推定部63は、中継局2と受信局3−1間のチャネル状態を表す情報を演算部64に出力する。
【0060】
演算部64は、通信路推定部63により推定されたチャネル状態に基づいて、マルチユーザMIMO伝送によって中継局2から伝送されたデータを受信するための受信ウエイトの演算を行う。演算部64は、演算により求めた受信ウエイトを重み付け部65に出力する。
【0061】
重み付け部65は、IF変換部62−1乃至62−Nから供給された各ブランチのデータに、演算部64により求められた受信ウエイトを乗算することによって重み付けを行い、重み付け後の各ブランチのデータを復調部66−1乃至66−Nに出力する。
【0062】
復調部66−1乃至66−Nは、重み付け部65から供給されたデータに対して、中継局2において用いられている変調方式に対応した方式の復調処理を施す。復調部66−1乃至66−Nは、復調処理によって得られたデータをP/S変換部67に出力する。
【0063】
P/S変換部67は、復調部66−1乃至66−Nから供給されたパラレルのデータをシリアルのデータに変換して合成し、合成後のデータをデインターリーバ68に出力する。
【0064】
デインターリーバ68は、P/S変換部67から供給されたデータのデインターリーブを行い、デインターリーブ後のデータを復号部69に出力する。
【0065】
復号部69は、デインターリーバ68から供給されたデータを、送信局1−1において用いられている符号化方式に対応した方式で復号し、得られたデータからなるデータ系列を出力する。
【0066】
<中継局2の動作>
ここで、
図5のフローチャートを参照して、中継局2の処理について説明する。
【0067】
ステップS1において、IF変換部32−1乃至32−2Nは、それぞれ、受信アンテナ31−1乃至31−2Nから供給されたRF信号をIF信号に変換し、A/D変換、FFTなどの処理を施すことによって、隣接する各セルの送信局である送信局1−1,1−2からのデータを受信する。
【0068】
ステップS2において、通信路推定部33は、IF変換部32−1乃至32−2Nにより受信されたデータからパイロット信号を検出し、検出したパイロット信号に基づいて、送信局1−1と中継局2間、送信局1−2と中継局2間のそれぞれのチャネル状態を推定する。
【0069】
ステップS3において、演算部34は、送信局1−1と中継局2間、送信局1−2と中継局2間のそれぞれのチャネル状態に基づいて演算を行い、送信局1−1からのデータと送信局1−2からのデータを分離して受信するための受信ウエイトを決定する。
【0070】
ステップS4において、送信局1−1から送信されたデータと送信局1−2から送信されたデータの受信が開始される。すなわち、受信アンテナ31−1乃至31−2Nから供給されたRF信号がIF変換部32−1乃至32−2NにおいてIF信号に変換され、IF信号に対して、A/D変換、FFTなどの処理が施される。各処理が施されることによって得られた各ブランチのデータに対して、演算部34により求められた受信ウエイトを用いた重み付けが重み付け部35において行われる。重み付け後の各ブランチのデータに対して復調部36−1乃至36−2Nにおいて復調処理が施されることによって、送信局1−1から送信されたデータと送信局1−2から送信されたデータが受信され、蓄積部37−1乃至37−2Nに記憶される。
【0071】
ステップS5において、IF変換部44−1乃至44−2Nは、受信アンテナ43−1乃至43−2Nから供給されたRF信号をIF信号に変換し、A/D変換、FFTなどの処理を施すことによって、隣接する各セルの受信局である受信局3−1,3−2からの信号を受信する。IF変換部44−1乃至44−2Nは、受信した信号を通信路推定部45に出力する。
【0072】
ステップS6において、通信路推定部45は、IF変換部44−1乃至44−2Nにより受信されたデータからパイロット信号を検出し、検出したパイロット信号に基づいて、中継局2と受信局3−1間、中継局2と受信局3−2間のそれぞれのチャネル状態を推定する。
【0073】
ステップS7において、演算部46は、中継局2と受信局3−1間、中継局2と受信局3−2間のそれぞれのチャネル状態に基づいて演算を行い、送信局1−1からのデータと送信局1−2からのデータを送信するための送信ウエイトを決定する。
【0074】
ステップS8において、受信局3−1と受信局3−2に対するデータの送信が開始される。すなわち、蓄積部37−1乃至37−2Nに記憶された各ブランチのデータに対して、変調部38−1乃至38−2Nにおいて変調が施され、変調後のデータに対して、演算部46により求められた送信ウエイトを用いた重み付けが重み付け部39において行われる。重み付け後の各ブランチのデータに対して、適宜、IFFT、D/A変換などの処理が送信部40−1乃至40−2Nにおいて施される。各処理が施されることによって得られた信号が、RF変換部41−1乃至41−2NにおいてRF信号に変換され、送信アンテナ42−1乃至42−2Nから送信される。データの送信が終了した後、処理は終了される。
【0075】
以上の処理により、信号電力を中継局2において増幅させることができ、受信局3−1,3−2におけるチャネル容量を増大させることが可能になる。また、送信局1−1,1−2からのデータを中継局2において一度分離し、その後マルチユーザMIMO伝送を用いて伝送するによって、単に信号電力を増幅させて再送する場合と較べて、隣接セルからの干渉を抑えることが可能になる。
【0076】
さらに、これらのことを、送信局側、受信局側の構成を大きく変更することなく実現することが可能になる。すなわち、MIMO伝送に際して送信局1−1,1−2が行う処理のうち、既存の送信局が行う処理と異なるのはデータの同期を確保する処理が追加されている点だけであり、チャネル状態を共有するなどの他の処理を送信局1−1と送信局1−2に行わせる必要がない。これにより、
図1の通信システムを実現する際のコストを抑えることができる。
【0077】
<シミュレーション結果>
ここで、
図1の通信システムと同様のモデルを想定した計算機シミュレーションによる通信品質の評価について説明する。
【0078】
図6はシミュレーションモデルを示す図である。
図6の2つの六角形が隣接セルを表す。以下、左側のセルをセル1、右側のセルをセル2として説明する。それぞれの六角形の中心にある黒丸が基地局(送信局)、2つの六角形の間にある白丸が中継局を表す。端末(受信局)は、色を付して示す範囲内にランダムに配置される。
【0079】
半径Rの破線の円は、基地局と、従来の中継局(単に信号を増幅して再送する中継局)との距離を表し、色を付して示す範囲内であって、破線の円上の所定の位置に従来の中継局が配置される。以下、セル端に配置した中継局は、白丸の位置に配置された中継局(本発明の中継局)のことを意味し、セル内に配置した中継局は、色を付して示す範囲内であって、破線の円上の所定の位置に配置された従来の中継局のことを意味するものとする。
【0080】
図6の左側の六角形が例えば
図1のセルC1に相当し、右側の六角形がセルC2に相当する。左側の六角形の中心にある黒丸が送信局1−1に相当し、右側の六角形の中心にある黒丸が送信局1−2に相当する。左側の六角形と右側の六角形の間にある白丸が中継局2に相当する。受信局3−1の位置は、
図6の左側の六角形内部の色が付されている範囲内の位置に相当し、受信局3−2の位置は、
図6の右側の六角形内部の色が付されている範囲内の位置に相当する。
【0081】
シミュレーションに用いた各パラメータを
図7に示す。
図7に示すように、周波数帯域は2.0GHzであり、周波数帯域幅は5MHzであり、セル半径は1000mであり、中継局をセル内に配置したときの基地局−中継局間半径(
図6のR)は500mである。また、距離減衰(r[km])は128.1+37.6log10(r)dBであり、シャドウイング標準偏差は8dBであり、屋内透過減衰は20dBである。基地局のアンテナ数は2であり、セル内に配置した中継局のアンテナ数は2であり、セル端に配置した中継局のアンテナ数は4であり、端末のアンテナ数は2である。基地局の送信電力は43dBmであり、セル内に配置した中継局の送信電力は37dBmであり、セル端に配置した中継局の送信電力は40dBmであり、雑音電力密度は-169dBm/Hzである。
【0082】
このようなパラメータの設定に従って、MIMO直接伝送法、MIMO通常中継伝送法、MIMO TDMA中継伝送法、マルチユーザMIMO中継伝送法(本発明手法)の4つの伝送方法について評価を行う。
【0083】
ここで、MIMO直接伝送法は、N×N MIMO伝送を用いて基地局から端末にデータを直接伝送する方法である。中継局によってデータを中継させることは行われない。伝送方式はE-SDMとする。
【0084】
また、MIMO通常中継伝送法は、各セルにおいて、セル内に配置した中継局を介して送信局から端末にデータを伝送する方法である。各ノード間、すなわち、各セルの基地局−中継局間、中継局−端末間においてN×N MIMO伝送がそれぞれ行われる。基地局−端末間と中継局−端末間の伝送方式はE-SDMであり、基地局と中継局ではZFによりウエイト演算が行われるものとする。
【0085】
MIMO TDMA中継伝送法は、セル1の基地局とセル2の基地局との中心に2N本のアンテナを有する中継局を配置し、その中継局を介してデータを伝送する方法である。干渉なく中継を行うことができるようにするために、送信時間スロットを3つに分けて伝送が行われる。中継局によるデータの受信は、2N×2N MIMO伝送を用いて、双方のセルの基地局からのデータを同時に受信するようにして行われる。また、中継局によるデータの送信は2N×NのMIMO伝送を用いて、中継局からセル1の端末に対する伝送と、中継局からセル2の端末に対する伝送とで送信時間スロットを分けて行われる。時間スロットについては
図8を参照して後述する。基地局−端末間と中継局−端末間の伝送方式はE-SDMであり、ウエイト演算がZFにより行われるものとする。
【0086】
マルチユーザMIMO中継伝送法は、セル1の基地局とセル2の基地局との中心に2N本のアンテナを有する中継局を配置し、その中継局を介してデータを伝送する方法である。中継局によるデータの受信は、2N×2N MIMO伝送を用いて、双方のセルの基地局からのデータを同時に受信するようにして行われる。また、中継局によるデータの送信は、2N×(N,2)のマルチユーザMIMO伝送を用いて、空間分割多重によって行われる。基地局−端末間の伝送方式はE-SDMであり、ウエイト演算がZFにより行われるものとする。
【0087】
図8は、各方法によってデータを伝送する場合の送信時間スロットの使い方を示す図である。
図8の横軸は時間を表す。横軸の上側がセル1における伝送内容を表し、横軸の下側がセル2における伝送内容を表す。BS(Base Station)は基地局、RS(Relay Station)は中継局、MS(Mobile Station)は端末をそれぞれ表す。BS,RS,MSに付されている数字は、存在するセルを表す。
【0088】
MIMO直接伝送法によってデータを伝送する場合の送信時間スロットの使い方を1段目に示す。この場合、1スロット分の所定の時間全体を使って、セル1においてはBS1からMS1に対してデータの伝送が行われ、セル2においてはBS2からMS2に対してデータの伝送が行われる。
【0089】
MIMO通常中継伝送法によってデータを伝送する場合の送信時間スロットの使い方を2段目に示す。この場合、1スロット分の所定の時間全体を二分割し、1スロット目に、セル1においてはBS1からRS1とMS1に対してデータの伝送が行われ、セル2においてはBS2からRS2とMS2に対してデータの伝送が行われる。また、2スロット目に、セル1においてはRS1からMS1に対してデータの伝送が行われ、セル2においてはRS2からMS2に対してデータの伝送が行われる。
【0090】
MIMO TDMA中継伝送法によってデータを伝送する場合の送信時間スロットの使い方を3段目に示す。この場合、1スロット分の所定の時間全体を三分割し、1スロット目に、セル1においてはBS1からRSとMS1に対してデータの伝送が行われ、セル2においてはBS2からRSとMS2に対してデータの伝送が行われる。また、2スロット目に、セル1において、RSからMS1に対してデータの伝送が行われ、3スロット目に、セル2において、RSからMS2に対してデータの伝送が行われる。一方のセルにおいて行われる中継局−端末間の伝送が、他方のセルにおいて行われる中継局−端末間の伝送に干渉を与えてしまうことを防ぐことができるが、伝送に時間がかかってしまう。
【0091】
マルチユーザMIMO中継伝送法によってデータを伝送する場合の送信時間スロットの使い方を4段目に示す。この場合、1スロット分の所定の時間全体を二分割し、1スロット目に、セル1においてはBS1からRSとMS1に対してデータの伝送が行われ、セル2においてはBS2からRSとMS2に対してデータの伝送が行われる。また、2スロット目に、マルチユーザMIMO伝送によって、セル1においてはRSからMS1に対してデータの伝送が行われ、セル2においてはRSからMS2に対してデータの伝送が行われる。
【0092】
図9は、各方法でのデータ伝送をシミュレーションした場合のCDF(Cumulative Distribution Function)特性を示す図である。
図9の縦軸はCDFを表し、横軸はチャネル容量を表す。実線の曲線で示されるように、マルチユーザMIMO中継伝送法によれば、0〜4bit/Hz付近の、伝送容量の低い領域においてチャネル容量の増加率が高く、最も良い伝送特性を得ることができる。
【0093】
図10は、CDF5%時のデータ伝送をシミュレーションした場合のチャネル容量を示す図である。CDF5%時のチャネル容量は、IMT-advancedなどの規格においてセル端のチャネル容量として定義されている。
図10に示すように、CDF5%時のチャネル容量についても、マルチユーザMIMO中継伝送法によれば最も良い伝送特性を得ることができる。例えば、CDF5%時のマルチユーザMIMO中継伝送法のチャネル容量は、MIMO TDMA中継伝送法のチャネル容量の5倍近くになる。
【0094】
<変形例>
以上においては、基地局から端末方向のダウンリンクのデータ伝送について説明したが、端末から基地局方向のアップリンクのデータ伝送にも、上述したマルチユーザMIMO中継伝送法を用いることが可能である。
【0095】
この場合、
図1の送信局1−1,1−2には、
図2の構成の他に、
図4の構成が含まれる。また、受信局3−1,3−2には、
図4の構成の他に、
図2の構成が含まれる。アップリンクのデータ伝送においては、送信局1−1,1−2は受信局として機能し、受信局3−1,3−2は送信局として機能することになる。なお、送信アンテナと受信アンテナは共有することが可能である。受信局3−1と受信局3−2の間では、データの伝送タイミングの同期が確保される。
【0096】
図11は、マルチユーザMIMO中継伝送法によってアップリンクのデータ伝送を行う場合の通信システムの例を示す図である。
【0097】
セルC1に存在し、N本の送信アンテナを有する受信局3−1と、N本の受信アンテナを有する送信局1−1との間では、矢印#1で示すようにN×N MIMO伝送が行われる。同様に、セルC2に存在し、N本の送信アンテナを有する受信局3−2と、N本の受信アンテナを有する送信局1−2の間では、矢印#2で示すようにN×N MIMO伝送が行われる。
【0098】
中継局2は、2N本の受信アンテナを使って、受信局3−1と受信局3−2の双方の受信局が送信する電波を受信し、受信局3−1が伝送するデータと受信局3−2が伝送するデータを取得する。同期を確保してデータ伝送を行う受信局3−1と受信局3−2を1つの局と考えると、受信局−中継局間では、矢印#21,#22で示すように2N×2N MIMO伝送が行われていることになる。
【0099】
また、中継局2は、矢印#11,#12で示すように2N×(N,2)のマルチユーザMIMO伝送によって、受信局3−1から伝送されてきたデータを送信局1−1に送信し、受信局3−2から伝送されてきたデータを送信局1−2に送信する。
【0100】
送信局1−1,1−2は、それぞれ、マルチユーザMIMO伝送によって中継局2から伝送されてきたデータを受信する。受信局3−1から伝送されたデータは、中継局2を中継して送信局1−1により受信され、受信局3−2から伝送されたデータは、中継局2を中継して送信局1−2により受信される。
【0101】
以上のように、マルチユーザMIMO中継伝送法は、アップリンク、ダウンリンクの双方のデータ伝送に適用することが可能である。マルチユーザMIMO中継伝送法を用いることによって、アップリンクのデータ伝送も効率的に行うことが可能になる。
【0102】
また、以上においては、隣接するセルの数が2である場合について説明したが、3以上のセルの送信局からの信号を中継局において受信し、中継局から、それぞれのセル内に存在する受信局に対してマルチユーザMIMOによって信号を伝送するようにしてもよい。
【0103】
本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。