【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
実施例で使用する配位子の略号の意味は、以下の通りである。
Ph
2pzH:3,5−ジフェニルピラゾール
Ph
2pz:単座でPt原子に配位している、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した1価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラト)
μ−Ph
2pz:Pt原子間、またはPt原子およびAu原子またはPt原子とAg原子を架橋している、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した1価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラト)
Ph
2pz−κC,κN:ピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でPt原子にキレート配位し、配位結合に関与していないN原子にC原子上にあった水素イオンが移動した、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した1価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラト)
Ph
2pz−κC,κ
2N,N’:ピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でPt原子にキレート配位し、さらにピラゾール環に存在するもう一つのN原子でAu原子またはAg原子に配位することにより3座配位子として作用している、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが二つ解離した2価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオン)
【0054】
実施例1:[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[PtCl(Ph
2pz)(Ph
2pzH)
2](89.0mg、0.10mmol)にKOH(16.8mg、0.30mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、さらにアセトニトリル(50mL)を加えて、アルゴン雰囲気下で24時間還流した。白色懸濁液は反応後、黄色懸濁液に変化した。反応溶液を濃縮後、黄色固体を自然濾過し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量50.0mg、収率79%)。再結晶は、ジクロロメタン/エタノールから行った。得られた[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]は、M
IIがPt
IIであり、L
1が、配位子(L−1a)(即ち、R
1:フェニル基、R
2〜R
6:水素原子)であり、L
2が、配位子(L−2a)(即ち、R
7およびR
9:フェニル基、R
8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(1)である。このシクロメタル化錯体は、UV光(365nm)の照射下、固体状態で黄緑色に発光した。
【0055】
【化10】
【0056】
(2)特性評価
溶解性:アセトニトリル、ジクロロメタンおよびクロロホルムに可溶
IR(KBr):3434 (m), 3375 (m), 3055 (w), 2922 (w), 2853 (w), 1602 (w), 1552 (w), 1473 (m), 1346 (w), 1269 (w), 1156 (w), 1112 (w), 1072 (w), 1028 (w), 995 (w), 912 (w), 791 (w), 728 (w), 618 (w), 577 (w)
FAB−MS(m/z):1266.4 [M]
+
【0057】
1H NMR:表1に記載(表1中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、shapeがピーク形状を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Assign.がピークの帰属を示す。なお、他の
1H NMRデータの各項目も同様である。)
【0058】
【表1】
【0059】
X線構造解析:[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]・CH
2Cl
2の結晶学的データを表2に記載する(表2中の各項目は、上から、組成式、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.71075Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,β)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、最終R値、R
1値、GOF値を示す。なお、他の結晶学的データの各項目も同様である。)
【0060】
【表2】
【0061】
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表2に示し、その分子構造のORTEP図を
図2に示す。[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]には二つのPt原子および四つの3,5−ジフェニルピラゾラトが含まれている。各Pt原子にはシクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトがC原子およびN原子でキレート配位しており、残りの二つの配位座を用いて、二つのPtの配位平面が重なるように二つの3,5−ジフェニルピラゾラトが架橋した構造をとっている。[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]にはC2対称とCs対称の二つの幾何異性体が考えられるが、このシクロメタル化錯体はC2対称を有している。[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]におけるPt・・・Pt距離は3.1398(3)Åである。シクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は1.982(3)Åおよび1.990(4)Å、架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は2.002(3)〜2.128(3)Åの範囲にある。またPt−C距離は2.016(4)Åおよび2.011(4)Åである。
【0062】
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図3に示す。
図3に示すように、[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]は、258nmと332nmに吸収極大を持つ幅広い吸収帯を示す。
【0063】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の固体状態の発光スペクトルを
図4に示す(測定温度:298K)。絶対PL量子収率測定装置により求めた[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.26であった。
【0064】
次に、80K、150K、220Kおよび298Kにおける[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の発光スペクトルを
図5に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の発光寿命を表3に示す。表3に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いる解析から算出した。表3に示すように、[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)
2(μ−Ph
2pz)
2]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0065】
【表3】
【0066】
実施例2:[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[PtCl(Ph
2pz)(Ph
2pzH)
2](269.9mg、0.31mmol)にKOH(19.1mg、0.34mmol)のメタノール溶液(5mL)、アセトニトリル(50mL)を加え、アルゴン雰囲気下で24時間還流した。白色懸濁液は反応後、黄色懸濁液に変化した。濃縮後、黄色固体を自然濾過し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量181.4mg、収率80%)。再結晶は、ジクロロメタン/ヘキサンから行った。得られた[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]は、M
IIがPt
IIであり、M
IおよびM’
IがH
+であり、L
3が、配位子(L−3a)(即ち、R
1:フェニル基、R
2〜R
6:水素原子)であり、L
2が、配位子(L−2a)(即ち、R
7およびR
9:フェニル基、R
8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(2)である。なお、一つのH
+が配位子(L−3a)と結合して、Ph
2pz−κC,κN(即ち、1価のアニオン性配位子(L−1a))を形成し、もう一つのH
+が配位子(L−2a)と結合して、Ph
2pzHを形成している。
【0067】
【化11】
【0068】
(2)特性評価
溶解性:ジクロロメタンおよびクロロホルムに可溶
IR(KBr):3376(m), 3058(m), 2360(w), 2342(w), 1646(w), 1602(w), 1473(m), 1405(w), 1272(w), 1221(w), 1072(w), 1003(w), 911(w), 807(w), 730(w), 668(w)
FAB−MS(m/z):1487.5 [M]
+
【0069】
1H NMR:表4に記載
【0070】
【表4】
【0071】
X線構造解析:[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]・CH
3CN・H
2Oの結晶学的データを表5に記載する。
【0072】
【表5】
【0073】
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表5に示し、その分子構造のORTEP図を
図6に示す。Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]には、二つのPt原子、一つのシクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラト、Pt原子間を架橋した二つの3,5−ジフェニルピラゾラト、単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾラト、および一つの3,5−ジフェニルピラゾールが含まれている。Pt1には一つの3,5−ジフェニルピラゾラトがシクロメタル化によりC原子およびN原子でキレート配位し、残りの配位座には架橋配位子として作用している二つの3,5−ジフェニルピラゾラトがそれぞれ配位している。一方、Pt2には架橋配位子として作用している二つの3,5−ジフェニルピラゾラトの他に、3,5−ジフェニルピラゾラトおよび3,5−ジフェニルピラゾールが一つずつ単座で配位している。
【0074】
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]におけるPt・・・Pt距離は3.2038(5)Åである。シクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−C距離およびPt−N距離は、それぞれ2.011(7)Åおよび1.996(6)Åである。また、架橋している3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は1.997(5)〜2.118(5)Åの範囲にある。単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾラトおよび3,5−ジフェニルピラゾールのPt−N距離は、それぞれ2.022Å(5)、および2.013(5)Åである。
【0075】
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図7に示す。
図7に示すように、[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]は、256nmに吸収極大を、330nm付近にショルダーを示す。
【0076】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の固体状態の発光スペクトルを
図4に示す(測定温度:298K)。この発光スペクトルで示されるように、軽微な振動構造が観測された。[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.01未満であり、正確に測定できなかった。
【0077】
次に、80K、150K、220Kおよび298Kにおける[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の発光スペクトルを
図5に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の発光寿命を表6に示す。表6に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いる解析から算出した。[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0078】
【表6】
【0079】
実施例3:[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)](37.2mg、0.025mmol)にAuCl(SC
4H
8)(10.3mg、0.032mmol)のメタノール溶液(10mL)、トリエチルアミン(10μL、0.063mmol)、ジクロロメタン(10mL)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌を行った。この茶褐色溶液を濃縮し、析出した茶色固体を集めた。固体を自然濾過し、水、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量16.8mg、収率40%)。再結晶はジクロロメタン/ヘキサンから行い、黄色の結晶を得た。得られた[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]は、M
IIがPt
IIであり、M
IがH
+であり、M’
IがAu
Iであり、L
3が、配位子(L−3a)(即ち、R
1:フェニル基、R
2〜R
6:水素原子)であり、L
2が、配位子(L−2a)(即ち、R
7およびR
9:フェニル基、R
8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(2)である。なお、H
+が配位子(L−2a)と結合して、Ph
2pzHを形成している。このシクロメタル化錯体は、UV光(365nm)の照射下、固体状態で黄緑色に発光した。
【0080】
【化12】
【0081】
(2)特性評価
溶解性:ジクロロメタン、クロロホルムおよびトルエンに可溶
IR(KBr):3375(m), 3059(m), 2986(w), 2934(w), 1799(w), 1603(w), 1569(w), 1509(w), 1474(s), 1430(m), 1344(w), 1271(w), 1179(w), 1114(w), 1072(w), 1031(w), 1004(w), 913(w), 876(w), 806(w), 729(w), 668(w)
FAB−MS(m/z):1683.5 [M]
+
【0082】
1H NMR:表7に記載
【0083】
【表7】
【0084】
X線構造解析:[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]・0.5CH
2Cl
2の結晶学的データを表8に記載する。
【0085】
【表8】
【0086】
[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表8に示し、その分子構造のORTEP図を
図10に示す。[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]には、二つのPt原子、一つのAu原子、シクロメタル化し、且つPt・・・Au間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオンを一つ、Pt・・・Pt間およびPt・・・Au間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトを合計三つ、単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾールを一つ含む。
【0087】
[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]におけるPt・・・Pt距離は3.2147(4)Å、Pt・・・Au距離は3.4290(5)Åおよび3.5305(5)Å、Au−N距離は1.992(7)Åおよび2.045(7)Åである。シクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオンのPt−C距離およびPt−N距離は、それぞれ2.016(7)Åおよび1.980(7)Åである。また、架橋している3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は2.002(6)〜2.145(6)Åの範囲にある。単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾールのPt−N距離は2.030(6)Åである。
【0088】
[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図11に示す。
図11に示すように、[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]は、260nmに吸収極大を、330nm付近にショルダーを示す。
【0089】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の固体状態の発光スペクトルを
図12に示す(測定温度:298K)。この発光スペクトルで示されるように、顕著な振動構造が確認された。また、絶対PL量子収率測定装置により求めた[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.03であった。
【0090】
次に、80K、150Kおよび298Kにおける[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の発光スペクトルを
図13に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の発光寿命を表9に示す。表9に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いる解析から算出した。表9に示すように、Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0091】
【表9】
【0092】
実施例4:[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)](74.3mg、0.05mmol)にAgBF
4(15mg、0.078mmol)のメタノール溶液(5mL)、トリエチルアミン(40μL、0.25mmol)を加え、さらにジクロロメタン(10mL)を加え、室温で遮光しながら3時間撹拌を行った。この黄色溶液を濃縮し、析出した白黄色固体を集めた。固体を自然濾過しメタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量40.8mg、収率51%)。得られた[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]は、M
IIがPt
IIであり、M
IがH
+であり、M’
IがAg
Iであり、L
3が、配位子(L−3a)(即ち、R
1:フェニル基、R
2〜R
6:水素原子)であり、L
2が、配位子(L−2a)(即ち、R
7およびR
9:フェニル基、R
8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(2)である。なお、H
+が配位子(L−2a)と結合して、Ph
2pzHを形成している。このシクロメタル化錯体は、UV光(365nm)の照射下、固体状態で青緑色に発光した。
【0093】
【化13】
【0094】
(2)特性評価
溶解性:ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリルおよびトルエンに可溶
IR(KBr):3372(w), 3059(m), 3033(w), 2965(w), 2931(w), 1943(w), 1877(w), 1801(w), 1749(w), 1569(m), 1472(s), 1405(w), 1337(w), 1300(w), 1280(w), 1223(w), 1156(w), 1110(w), 1072(w), 1029(w), 1004(w), 792(w), 755(m), 694(m)
FAB−MS(m/z):1595.5 [M]
+
【0095】
1H NMR:表10に記載
【0096】
【表10】
【0097】
X線構造解析:[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]・0.5CH
2Cl
2の結晶学的データを表11に記載する。
【0098】
【表11】
【0099】
[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表11に示し、その分子構造のORTEP図を
図14に示す。[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]・0.5CH
2Cl
2の結晶構造は、実施例3の[Pt
2Au(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]・0.5CH
2Cl
2の結晶構造と同形である。即ち、[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]には、二つのPt原子、一つのAg原子、シクロメタル化し、且つPt・・・Ag間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオンを一つ、Pt・・・Pt間およびPt・・・Ag間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトを合計三つ、単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾールを一つ含む。
【0100】
[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]におけるPt・・・Pt距離は3.2486(5)Å、Pt・・・Ag距離は3.3687(7)Åおよび3.5422(8)Å、Ag−N距離は2.118(7)Åおよび2.092(7)Åである。
【0101】
[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図15に示す。
図15に示すように、[Pt
2(Ph
2pz−κC,κN)(μ−Ph
2pz)
2(Ph
2pz)(Ph
2pzH)]は、255nmに吸収極大を示す。
【0102】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の固体状態の発光スペクトルを
図16に示す。この発光スペクトルで示されるように、顕著な振動構造が確認された。また、絶対PL量子収率測定装置により求めた[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.05であった。
【0103】
次に、80K、150K、220Kおよび298Kにおける[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の発光スペクトルを
図17に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の発光寿命を表12に示す。表12に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いる解析から算出した。表12に示すように、[Pt
2Ag(Ph
2pz−κC,κ
2N,N’)(μ−Ph
2pz)
3(Ph
2pzH)]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0104】
【表12】