【文献】
宮内雅彦 他,2-フェニル-4,4'-ジアミノフェニルエーテルを用いたKAPTON構造を有する高耐熱新規付加型ポリイミド炭素繊維,第59回高分子討論会予稿集,2010年 9月 1日,59巻2号,p.3624-3625
【文献】
LIU,H. et al.,Synthesis and characterization of phenylethynyl-end-capped cooligoimides from fluorinated dianhydrid,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2003年,Vol.41, No.17,p.2630-2649
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記芳香族テトラカルボン酸類が、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類からなる請求項1に記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー。
請求項1から4のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、一般式(1)におけるn=0のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーとからなるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物。
280〜350℃における溶融粘度値が3Pa・sec以下である、請求項1から4のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー、または、請求項5もしくは6に記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物。
請求項1から7のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーまたはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物を含むワニス。
請求項1から7のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーもしくはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物、または請求項8記載のワニスを溶融状態で型内に送液し、加熱硬化させるレジントランスファー成形法により得られる硬化樹脂。
請求項1から7のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーもしくはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物、または請求項8記載のワニスを予め型内に配置した繊維に溶融状態で含浸し、加熱硬化させるレジントランスファー成形法により得られる繊維強化硬化樹脂。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低溶融粘度等の成形性に優れた、レジントランスファー成形に適した新規な末端変性イミドオリゴマー、その混合物、およびそれらのワニス、ならびに、これらの末端変性イミドオリゴマーなどのレジントランスファー成形により作製された耐熱性、弾性率、引張強度および伸び等の熱的、機械的特性の高い硬化樹脂、および繊維強化硬化樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類を含む芳香族ジアミン類を用い、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有する特定構造の末端変性イミドオリゴマーとすることにより、充分な高い溶融流動性が得られ、レジントランスファー成形が容易で、かつ、その硬化樹脂は高い耐熱性と充分な機械的強度が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
(1)4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、下記一般式(1)で表されるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーであって、n=0のオリゴマーを10モル%以上
50モル%以下含有する、レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表す。R
3は芳香族テトラカルボン酸類中の4個のカルボニル基に囲まれた芳香族系有機基を表し、nが2以上の場合は、同一であっても異なっていてもよい。nは、0≦n≦6の整数。)
尚、芳香族系有機基とは芳香環を有する有機基である。
上記一般式(1)で表され、上記一般式(1)においてn=0であるオリゴマーを10モル%以上
50モル%以下含有する本発明の末端変性イミドオリゴマーは、レジントランスファー成形材料として好適に使用できる。
【0013】
(2)前記芳香族テトラカルボン酸類が、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類からなり、下記一般式(2)で表されるオリゴマーである前記(1)に記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー。
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表す。nは、0≦n≦6の整数。)
【0016】
(3)前記芳香族テトラカルボン酸類が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類からなり、下記一般式(3)で表されるオリゴマーである前記(1)に記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー。
【0017】
【化3】
【0018】
(式中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表す。nは、0≦n≦6の整数。)
【0019】
(4)前記芳香族テトラカルボン酸類が、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類からなる前記(1)に記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー。
【0020】
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、一般式(1)におけるn=0のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーとからなるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物。
【0021】
(6)前記(1)記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、下記一般式(4)で表される、レオメーター測定により得られた最低溶融粘度が1Pa・sec以下である末端変性イミドオリゴマーとからなるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物。
【0022】
【化4】
【0023】
(式中、R
4は
2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類中の2個のアミノ基に囲まれた芳香族系有機基を表す。)
【0024】
(7)280〜350℃における溶融粘度値が3Pa・sec以下である、前記(1)から(4)のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー、または、前記(5)もしくは(6)に記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物。
【0030】
(
8)前記(1)から(7)のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーまたはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物を含むワニス。
【0031】
(
9)前記(1)から(7)のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーもしくはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物、または前記(
8)記載のワニスを溶融状態で金型内に送液し、加熱硬化させレジントランスファー成形法により得られる硬化樹脂。
【0032】
(
10)ガラス転移温度(Tg)が300℃以上である前記(
9)に記載の硬化樹脂。
【0033】
(
11)引張破断伸びが8%以上である、前記(
9)に記載の硬化樹脂。
【0034】
(
12)前記(1)から(7)のいずれかに記載のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーもしくはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物、または前記(
8)記載のワニスを予め型内に配置した繊維に溶融状態で含浸し、加熱硬化させるレジントランスファー成形法により得られる繊維強化硬化樹脂。
【0035】
(13)ガラス転移温度(Tg)が300℃以上である、前記(12)に記載の繊維強化硬化樹脂。
(14)4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、下記一般式(1)で表されるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーであって、n=0のオリゴマーを10モル%以上
50モル%以下含有する、レジントランスファー成形用材料。
【化5】
(式中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表す。R
3は芳香族テトラカルボン酸類中の4個のカルボニル基に囲まれた芳香族系有機基を表し、nが2以上の場合は、同一であっても異なっていてもよい。nは0≦n≦6の整数。)
【発明の効果】
【0036】
本発明により、低溶融粘度等の成形性に優れた新規なレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー、その混合物、およびそれらを含むワニス、ならびに耐熱性、引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸び等の機械的特性の高いそれらの硬化樹脂を得ることができる。また、レジントランスファー成形法を採用することで成形条件を緩和でき(成形方法を簡便にでき)、かつ非常に高い耐熱性および非常に高い強度を示す硬化樹脂を得ることができる。
また、本発明の末端変性イミドオリゴマーやその混合物、あるいは、それらを含むワニスをレジントランスファー成形により繊維に含浸して加熱硬化すれば、加熱硬化中にイミド化による水が発生しないため、繊維の層内部に大きな空孔を生じるおそれが無いか、その可能性が極めて低減される。そのため、信頼性に優れた繊維強化硬化樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
<レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー>
本発明は、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、下記一般式(1)で表されるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーであって、n=0のオリゴマーを10モル%以上含有することを特徴とする。
【0041】
(式中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表す。R
3は芳香族テトラカルボン酸類中の4個のカルボニル基に囲まれた芳香族系有機基を表し、nが2以上の場合は、同一であっても異なっていてもよい。nは、0≦n≦6の整数。)
【0042】
本発明において、前記一般式(1)に含まれる前記4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を構成し得る芳香族テトラカルボン酸類としては、特に限定はないが、一般式(1)中のR
3で示される芳香族テトラカルボン酸類中の4個のカルボニル基に囲まれた芳香族系有機基として、その炭素数が、6〜30である有機基であることが好ましく、炭素数6〜18の有機基であることがより好ましく、炭素数6〜12の有機基であることがさらに好ましい。また芳香族系有機基は、炭素数6〜30の炭素と水素からなる基であることが好ましく、炭素数6〜18の炭素と水素からなる基であることがより好ましく、炭素数6〜12の炭素と水素からなる基であることがさらに好ましい。
【0043】
具体的には、例えば、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン類、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸類などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。従って、例えば、前記の一般式(1)においてnが2以上のオリゴマーを含むものである場合、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、一般式(1)に含まれるR
3が、1種のみのものや、2種以上となるものとして構成され得る。
【0044】
前記芳香族テトラカルボン酸類の中でも、本発明の効果をより奏させる観点からは、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類及び/又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類を用いるのが好ましい。
【0045】
前記の1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が例示でき、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
特に、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類を用いた芳香族ポリイミドオリゴマーは、ピロメリットイミドの剛直かつ平面構造により、分子間相互作用が強く、高耐熱、高強度のフィルムおよび硬化樹脂が得られるとも考えられるが、ピロメリットイミドの強い相互作用によりイミドオリゴマーの溶融流動性がみられず不融かつ溶剤不溶性となりやすく、現在のところ、ガラス転移温度が270℃以上である硬化樹脂に成形可能で、かつ、高い溶剤溶解性を有する末端変性イミドオリゴマーの報告例はなかったものである。本発明は、このような状況の下、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類を含む芳香族ジアミン類を用い、特定の構成を有することで、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類を用いても、その特性を活かした所望の末端変性イミドオリゴマーを提供することを可能としたものである。
【0046】
前記芳香族テトラカルボン酸が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類からなる場合のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの具体例は、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、前記一般式(2)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーである。
【0047】
前記の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が例示でき、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
また、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類についても、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類と同様、本発明は、これまでに報告のなかった、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の優れた特性を活かした所望の末端変性イミドオリゴマーを提供することを可能としたものである。
【0048】
前記芳香族テトラカルボン酸が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類からなる場合のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの具体例は、前記一般式(3)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーである。
【0049】
前記のビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類としては、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物(s−ODPA)、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテルのエステルまたは塩などの酸誘導体が例示でき、容易に末端変性イミドオリゴマーを調製する観点からは、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物が好ましい。
【0050】
また、前記の3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類としては、例えば3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)など、
前記の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類としては、例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)など、
前記の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類としては、例えば2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)など、
前記の2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン類としては、例えば2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物など、
前記のビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類としては、例えばビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物など、
前記の1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸類としては、例えば1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物など、
が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0051】
本発明では、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)で表わされるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーにおいて、n=0のオリゴマーを10モル%以上含有する。これにより、高温での溶融流動性に優れ、レジントランスファー成形性が良好となる。また、当該n=0のオリゴマーの含量は、好ましくは20モル%以上であり、より好ましくは30モル%以上である。また、当該n=0のオリゴマーの含量は、10モル%以上含有するものであれば良いが、高靭性を維持する観点からは、50モル%以下であるのが好ましい。
【0052】
本発明の、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)で表される特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー中に含まれる、n=0のオリゴマーについて定量する手段としては、例えば、核磁気共鳴(NMR)法、赤外分光(IR)法などが挙げられるが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られたチャートにおいて各々のnのピークの面積比から算出される方法が最も容易で精度が高い。
【0053】
本発明においては、硬化後の樹脂の高い靭性および200℃以上での耐酸化性発現などの観点から、末端変性(エンドキャップ)用の不飽和酸無水物として4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を使用することが好ましい。これにより、レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーにおいて、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸に由来する付加重合可能な不飽和末端基を構成する。
また、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーを製造する際に使用する当該4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸の混合モル比は、酸類の合計モル量に対して5〜200モル%が好ましく、5〜150モル%がより好ましい。
【0054】
本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、280〜350℃における溶融粘度値が3Pa・sec以下であるのが好ましい。
【0055】
本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、後述する合成上の観点から、その合成時に使用する有機溶媒、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に室温で固形分10重量%以上溶解可能であることが好ましく、30重量%以上がより好ましい。
【0056】
本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、例えば、下記のようにして製造することができるが、以下に説明する製造方法に限定されるものではなく、他の方法によっても製造することができる。
【0057】
本発明の末端変性イミドオリゴマーは、例えば、前記の芳香族テトラカルボン酸類、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類、および4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸が、全成分の酸無水基(隣接するジカルボン酸基の場合は、カルボキシル基2モル当たり1モルの酸無水基とみなす)の全量に対しアミノ基の全量が2倍量以上になるように使用して、各成分を、溶媒中で、約100℃以下、特に80℃以下の反応温度で重合させて、「アミド−酸結合を有するオリゴマー」(アミド酸オリゴマー)を生成し、次いで、そのアミド酸オリゴマー(アミック酸オリゴマーともいう)を、約0〜140℃の低温でイミド化剤を添加する方法によるか、あるいは140〜275℃の高温に加熱する方法によるかして、脱水・環化させて得ることができる。
【0058】
前記溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン(GBL)、シクロヘキサノンなどの有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の選択に関しては可溶性ポリイミドについての公知技術を適用することができる。
【0059】
本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの好適例は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類を前述の溶媒中に均一に溶解後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物または1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物を、所定量溶液中に加えて、均一に溶解後、約5〜60℃の反応温度で1〜180分程度攪拌する。この反応溶液に、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を加えて均一に溶解後約5〜60℃の反応温度で1〜180分程度攪拌しながら反応させて、末端変性アミド酸オリゴマーを生成する。その後、その反応液を140〜275℃で5分〜24時間攪拌して前記のアミド酸オリゴマーをイミド化反応させて末端変性イミドオリゴマーを生成させ、必要により、反応液を室温付近まで冷却することにより本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーを得ることができる。前記の反応において、全反応工程または一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気または真空中で行うことが好適である。
このようにして生成したレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、反応液を水中等に注ぎ込んで、粉末状の生成物として単離すればよい。当該レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、常温(23℃)で固体、例えば、粉末状として使用され得る。
【0060】
以上のようにして得られるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは加水分解の恐れがほとんどないため、アミド酸オリゴマーに比べ粘度低下等を起こさずに長期間安定に保存することができる。
【0061】
<レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物>
本発明では、前記の、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、前記の一般式(1)におけるn=0の末端変性イミドオリゴマーとからなるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物としてもよい。これにより、高温流動性に優れ、レジントランスファー成形性の良好な末端変性イミドオリゴマー混合物となる。
このような混合物は、前記の、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、前記の一般式(1)におけるn=0の末端変性イミドオリゴマー(n=0のオリゴマーのみからなるものであり、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有さない)とを、公知の方法にて混合することで得ることができる。両者の混合比は、特に限定はなく、所望の物性が得られるように適宜選択すれば良いが、後述する成形後の硬化樹脂や繊維強化硬化樹脂の靭性の観点からは、前記の4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー(Aとする)と、一般式(1)におけるn=0の末端変性イミドオリゴマー(Bとする)との混合比(A/B)は、9/1〜4/6が好ましい。
【0062】
一般式(1)におけるn=0の末端変性イミドオリゴマーは、上述の本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの製造方法に準じて製造することができる。
【0063】
また、本発明では、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、下記一般式(1)で表されるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、下記一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマーとからなるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物としてもよい。これにより、高温流動性が優れ、レジントランスファー成形性が良好となる。
【0065】
(式中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表す。R
3は芳香族テトラカルボン酸類中の4個のカルボニル基に囲まれた芳香族系有機基を表し、nが2以上の場合は、同一であっても異なっていてもよい。nは0≦n≦6の整数。)
【0067】
(式中、R
4は芳香族ジアミン類中の2個のアミノ基に囲まれた芳香族系有機基を表す。)
【0068】
一般式(4)で表わされるイミドオリゴマーは、後述のレオメーター測定により、最低溶融粘度が1Pa・sec以下のものである。より好ましくは0.5Pa・sec以下であり、さらに好ましくは、0.3Pa・sec以下である。このような一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマーを用いて得られる混合物は、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの特性を活かしつつ、溶融流動性などの特性に優れたものとなる。
【0069】
一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーとしては、上記特性を有するものであれば特に限定はないが、例えば、以下の第一乃至第三の実施形態が例示できる。
【0070】
一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーの第一の実施形態としては、R
4で表わされる芳香族系有機基を構成し得る芳香族ジアミン類として、例えば、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス[4’−(4’’−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンなどを用いたものが挙げられる。
このような一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーを用いて得られる混合物は、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの特性(硬化樹脂や繊維強化樹脂などにした時の機械的特性など)を活かしつつ、溶融流動性などの特性が優れたものとなる。
【0071】
また、一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーの第二の実施形態としては、上述したような、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーが挙げられる。但し、その場合は、当該混合物に含まれる各レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーは、相互に異なる種のものの場合に実質的な意義を有する。もっとも、同種のものを用いて混合したものも本発明の範疇である。
このように、実質的に、上述したような、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーを複数種用いることで、各オリゴマーの特性を活かしたレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物を得ることができる。
【0072】
また、一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーの第三の実施形態としては、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)における前記の2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類を、他の芳香族ジアミン類にて置換したものが挙げられる。このような芳香族ジアミン類としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス[4’−(4’’−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
このような第三の実施形態の末端変性イミドオリゴマーを用いて得られる混合物は、本発明に係る、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有し、一般式(1)で表される特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーの特性(硬化樹脂や繊維強化樹脂などにした時の機械的特性など)を活かしつつ、高温流動性に優れ、レジントランスファー成形性が良好となる。
【0073】
本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物では、上記の一般式(4)で示される末端変性イミドオリゴマーとして、1種含有するものでも良いし、2種以上含有するものでもよい。
例えば、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、前記第一から三の実施形態のうち1種または2種以上の上記の一般式(4)で示される末端変性イミドオリゴマーとを用いたものが挙げられる。
より具体的には、上記の一般式(4)で示される末端変性イミドオリゴマーとして、第2の実施形態を用いる場合を例にすると、前記の一般式(2)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーおよび前記の一般式(3)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーを用いた混合物などが挙げられる。
【0074】
また、本発明に係るレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物では、一般式(1)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと、一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマーの混合量比は、溶融流動性、最終的に得られる硬化樹脂や繊維強化硬化樹脂の機械的性質をそこなわない範囲であれば、特に限定はない。
一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーとして前記の第一の実施形態を用いる場合は、4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有する一般式(1)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー100重量部に対して、一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーを1重量部以上が好ましく、より好ましくは5重量部以上であり、さらに好ましくは10重量部以上である。これにより、高い機械的特性を失うこと無く、高い成形性(溶融流動性)を付与できるという優れた効果を奏する。
また、一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーとして前記の第二の実施形態を用いる場合の混合比は、特に限定はなく、成形時の溶融流動性や、最終的に得られる硬化樹脂や繊維強化硬化樹脂の機械的特性を考慮して、適宜決定すれば良い。
また、一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーとして前記の第三の実施形態を用いる場合の混合比は、一般式(1)で表わされる特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー100重量部に対して、一般式(4)で表わされる末端変性イミドオリゴマーを10重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。これにより高温流動性に優れ、レジントランスファー成形性の良好な末端変性イミドオリゴマー混合物となる。
【0075】
本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物は、280〜350℃における溶融粘度値が3Pa・sec以下であるのが好ましい。
【0076】
本発明において用いる一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマー(但し、第二の実施形態は除く)は、例えば、以下のようにして製造することができるが、当該例に限定されるものではない。
例えば、芳香族ジアミン類、および4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を、全成分の酸無水基(隣接するカルボキシル基2モル当たり1モルの酸無水基とみなす)の全量に対しアミノ基の全量が1/2倍量以下になるように使用して、各成分を、前述の溶媒中で、約100℃以下、特に80℃以下の反応温度で重合させて、「アミド−酸結合を有するオリゴマー」(アミド酸オリゴマー。アミック酸オリゴマーともいう。)を生成する。次いで、そのアミド酸オリゴマーを、約0〜140℃の低温でイミド化剤を添加する方法によるか、あるいは140〜275℃の高温に加熱する方法によるかして、脱水・環化させて得ることができる。必要により、例えば水やアルコールなどの貧溶媒中へ投入し、粉末化させることも出来る。前記イミド化剤としては、特に限定はなく、公知のものを用いればよい。
【0077】
4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有する一般式(1)で表される特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマーとの混合物を製造する方法としては、特に限定はなく、(i)前記の4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有する一般式(1)で表される特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーに、さらに一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマーを添加する方法、(ii)4価の芳香族テトラカルボン酸類の残基を有する一般式(1)で表される特定のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーと一般式(4)で表される末端変性イミドオリゴマーとの混合物となるように「アミド−酸結合を有するオリゴマー」の状態で混合する方法などが挙げられる。なかでも、生産性の観点からは、(i)の方法が好ましい。各オリゴマーを添加(混合)する際の態様としても、特に限定はなく、例えば、末端変性イミドオリゴマーの溶液状態で混合しても良いし、粉末の状態で混合してもよい。また、混合比としては、上述の所望の混合比のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物が得られるように、適宜選択すれば良い。
【0078】
<ワニス>
本発明では、上述のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーや、レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物を用いてワニスとしても良い。本発明においてワニスとは、いわゆる酒精ワニスや油ワニスを意味する。酒精ワニスは、例えば、前述の本発明の末端変性イミドオリゴマーや末端変性イミドオリゴマー混合物を溶剤に溶解したものであり、油ワニスは、例えば、前述の本発明の末端変性イミドオリゴマーや末端変性イミドオリゴマー混合物を乾性油とともに加熱融合し、乾燥剤を加え、溶剤で希釈したものである。
ワニスの形態としては特に限定はなく、容液状、ペースト状、ゲル状、ゾル状などが挙げられる。
【0079】
酒精ワニスにおいて用いることができる溶剤としては、特に限定はないが、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン(GBL)、シクロヘキサノンなどの有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の選択に関しては可溶性ポリイミドについての公知技術を適用することができる。
また、酒精ワニスにおけるレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーや、レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物の含有量は、特に限定はなく、使用用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0080】
油ワニスにおいて用いることができる溶剤としては、特に限定はなく、上記の酒精ワニスで用いるものと同様の溶剤を用いることができる。また、前記の乾性油や乾燥剤としては、油ワニスにおいて一般に使用されるものを使用することができる。また、油ワニスにおける各成分の組成は、特に限定はなく、使用用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0081】
本発明のワニスは、前述のように、本発明のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーが加水分解の恐れがほとんどないため、例えば、アミド酸オリゴマーに比べ、粘度低下等を起こさずに長期間安定に保存することができる。
【0082】
<硬化樹脂>
本発明に係る硬化樹脂は、前記のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー、レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物、またはワニスを溶融状態で型内に送液し、加熱硬化させるレジントランスファー成形法により得ることができる。
より具体的には、例えば、前記のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーもしくはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物の粉体やペースト状などのワニスを200〜300℃の温度で予め溶融させた状態で、金型などの型内に真空などの減圧条件下または加圧下で送液、充填し、280〜500℃で10分〜40時間程度加熱硬化させるレジントランスファー成形によって本発明に係る硬化樹脂を得ることができる。
当該硬化樹脂の形態としては特に限定はなく、レジントランスファー成形法により成形可能なものであれば、工業製品などにおいて必要とされる各種の形状(例えば、フィルム形状、板形状、など)に成形することができる。
【0083】
本発明に係る硬化樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、300℃以上であることが好ましい。尚、ガラス転移温度(Tg)の測定は後述の方法による。
また、本発明に係る硬化樹脂は、引張破断伸びが、8%以上であることが好ましい。尚、引張破断伸びの測定は後述の方法による。
上記のような物性を有する硬化樹脂は、高い耐熱性が求められる分野の成形材料として使用することができる。
【0084】
<繊維強化硬化樹脂>
本発明に係る繊維強化硬化樹脂は、前記のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー、レジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物、またはワニスを、予め型内に配置(プリフォーム)した繊維に溶融状態で含浸し、加熱硬化させるレジントランスファー成形法により得られるものである。
予め繊維が配される型(成形型)としては、特に制限はなく、前記の末端変性イミドオリゴマーなどを溶融状態で送液可能なものを用いればよく、例えば、一般的な金属製の型(金型)の他、ポリイミドなどの耐熱性の高い合成樹脂を用いて作製された型などが挙げられる。また、合成樹脂を用いる場合は、例えばシート状の成形品を用いて繊維を密閉(溶融したオリゴマーなどの送液用配管部や必要により設けられる減圧用配管部などは除く)するようにした成形型を用いても良い。
【0085】
本発明に適用することができる繊維は、特に限定はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維,金属繊維,セラミック繊維等の無機繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ノボロイド繊維などの有機合成繊維を組み合わせて用いることができる。特に、優れた機械的強度を発現するためには、炭素繊維が望ましく、炭素の含有率が85〜100重量%の範囲にあり、少なくとも部分的にグラファイト構造を有する連続した繊維形状の材料で、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、汎用的かつ安価であり、高い強度を備えていることからPAN系、あるいはピッチ系の炭素繊維を用いることが好ましい。一般的に、前記炭素繊維には、サイジング処理が施されているが、そのまま用いても良く、必要に応じて有機溶剤等にて除去することが出来る。また、あらかじめ繊維束をエアーやローラーなどを用いて開繊し、該炭素繊維の単糸間に樹脂を含浸させるように施すことが好ましい。
【0086】
また、繊維強化複合材料を構成する繊維材料の形態は、UD、織り(平織り、朱子織など)、編み等による連続した繊維形状の構造体であり、特に限定されるものでなく、その目的に応じ適宜選択すれば良く、これらを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0087】
本発明の繊維強化硬化樹脂は、例えば以下のようにして得ることが出来る。
前記のレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマーもしくはレジントランスファー成形用末端変性イミドオリゴマー混合物の粉体やペースト状などのワニスを200〜280℃の温度で溶融させた状態で、あらかじめ金型などの型内に配置された強化繊維に加圧もしくは減圧条件下で送液、含浸し、280〜500℃で10分〜40時間程度加熱硬化させるレジントランスファー成形によって繊維強化硬化樹脂を得ることができる。
【0088】
また、上記のようにして得られた本発明の繊維強化硬化樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、300℃以上であることが好ましい。尚、ガラス転移温度(Tg)の測定は後述の方法による。
【実施例】
【0089】
以下に本発明を説明するためにいくつかの実施例を示すが、これによって本発明を限定するものではない。また、各特性の測定条件は、次のとおりとした。
<試験方法>
(1)5%重量減少温度測定:TAインスツルメンツ製SDT−2960型熱重量分析装置(TGA)を用い、窒素気流下、5℃/min.の昇温速度により測定した。
(2)硬化物のガラス転移温度測定:硬化樹脂については、TAインスツルメンツ製DSC−2010型示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素気流下、5℃/min.の昇温速度により測定した。繊維強化硬化樹脂については、TAインスツルメンツ製DMA−Q800型動的粘弾性(DMA)測定機(片持ち梁型測定)を用い、空気気流下、3℃/minの昇温速度、1Hzの周波数の条件で測定を行った。
(3)最低溶融粘度測定:TAインスツルメンツ製AR2000型レオメーターを用い、25mmパラレルプレートで4℃/min.の昇温速度により測定した。
(4)300℃での等温溶融粘度測定:TAインスツルメンツ製AR2000型レオメーターを用いて測定した。
(5)弾性率測定試験、破断強度測定試験、引張破断伸び測定試験:オリエンテック社製TENSILON/UTM−II−20を用い、室温にて、引張速度3mm/minで行った。試験片形状は、長さ20mm、幅3mm、厚さ80〜120μmのフィルムとした。
(6)GPC測定:Waters社製GPC分析装置を用い、移動相をクロロホルムに用いた。分子量の校正には、Aldrich社より市販されているポリスチレンスタンダードを用いた。
【0090】
(実施例1)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル4.4181g(16mmol)とN−メチル−2−ピロリドン20mLを加え、溶解後、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物1.7450g(8mmol)とN−メチル−2−ピロリドン3mLを入れ、窒素気流下、室温で2.5時間重合反応させアミド酸オリゴマーを生成した。この反応溶液に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸3.9717g(16mmol)を入れ、窒素気流下、室温で18時間反応させ末端変性し、続けて195℃で5時間攪拌しイミド結合させた。
冷却後、反応液を900mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を180℃で1日間減圧乾燥し、生成物を得た。得られた末端変性イミドオリゴマーは、下記一般式(2)において、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表すものである。平均としてn=1であった。
【0091】
【化10】
【0092】
(式中、nは0≦n≦6の整数。)
【0093】
上記で得られた末端変性イミドオリゴマー(未硬化物)は、NMP溶媒に室温で30%以上可溶であった。この末端変性イミドオリゴマーが30重量%溶解したNMP溶液(ワニス)は、1ヵ月後もゲル化がみられなかった。硬化前の粉末状の末端変性イミドオリゴマーの最低溶融粘度は0.8Pa・sec(325℃)であった。また、280℃での等温溶融粘度測定の結果、0〜60分間、3Pa.sec以下であった。GPC測定(移動相:クロロホルム)により検出したピークの面積強度比から算出した結果、n=0に相当する成分は、作製した末端変性イミドオリゴマー全体中において約30%を占めていた。
この粉末状の末端変性イミドオリゴマーを300℃の温度で溶融させ、金型内に送液した後に、370℃で1時間加熱して得られたフィルム状の硬化樹脂(厚さ80μm)は、ガラス転移温度(Tg)が367℃(DSC)、TGAによる5%重量減少温度は528℃であった。また、このフィルム形状の硬化樹脂の引張試験による力学的性質は、弾性率が3.08GPa、破断強度が121MPa、引張破断伸びが12%であった。
【0094】
(比較例1)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3.203g(16mmol)とN−メチル−2−ピロリドン20mLを加え、溶解後、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物g(8mmol)とN−メチル−2−ピロリドン3mLを入れ、窒素気流下、室温で2.5時間重合反応させアミド酸オリゴマーを生成した。この反応溶液に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸3.9717g(16mmol)を入れ、窒素気流下、室温で18時間反応させ末端変性し、続けて195℃で5時間攪拌しイミド結合させた。イミド化反応中にイミドオリゴマーの析出が見られた。
冷却後、反応液を900mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。60mLのメタノールで30分洗浄し、濾別して得られた粉末を180℃で1日間減圧乾燥し、生成物を得た。得られた末端変性イミドオリゴマーは、下記一般式(5)で表され、平均としてn=1であった。
【0095】
【化11】
【0096】
(式中、nは0≦n≦6の整数。)
【0097】
上記で得られた粉末状の末端変性イミドオリゴマー(未硬化物)は、NMP溶媒に不溶であった。この粉末状の末端変性イミドオリゴマーは300℃以上においても溶融流動性を示さなかったため、良好な成形体(フィルム状硬化物)を得ることができなかった。
【0098】
(実施例2)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル4.4181g(16mmol)とN−メチル−2−ピロリドン20mLを加え、溶解後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物2.352g(8mmol)とN−メチル−2−ピロリドン3mLを入れ、窒素気流下、室温で2.5時間重合反応させアミド酸オリゴマーを生成した。この反応溶液に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸3.9717g(16mmol)を入れ、窒素気流下、室温で18時間反応させ末端変性し、続けて195℃で5時間攪拌しイミド結合させた。
冷却後、反応液を900mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を180℃で1日間減圧乾燥し、生成物を得た。得られた末端変性イミドオリゴマーは、下記一般式(3)において、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表すものであった。平均としてn=1であった。
【0099】
【化12】
【0100】
(式中、nは0≦n≦6の整数。)
【0101】
上記で得られた末端変性イミドオリゴマー(未硬化物)は、NMP溶媒に室温で30%以上可溶であった。この末端変性イミドオリゴマーが30重量%溶解したNMP溶液(ワニス)は、1ヵ月後もゲル化がみられなかった。硬化前の粉末状の末端変性イミドオリゴマーの最低溶融粘度は0.8Pa・sec(330℃)であった。また、280℃での等温溶融粘度測定の結果、0〜60分間、3Pa.sec以下であった。GPC測定(移動相:クロロホルム)により検出したピークの面積強度比から算出した結果、n=0に相当する成分は、作製した末端変性イミドオリゴマー全体中において約30%を占めていた。
この粉末状の末端変性イミドオリゴマーを300℃の温度で溶融させ、金型内に送液した後に、370℃で1時間加熱して得られたフィルム状の硬化樹脂(厚さ80μm)は、ガラス転移温度(Tg)が310℃(DSC)、TGAによる5%重量減少温度は520℃であった。
また、このフィルム形状の硬化樹脂の引張試験による引張破断伸びは11%であった。
【0102】
(製造例1)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.2090g(8mmol)とN−メチル−2−ピロリドン20mLを加え、溶解後、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸3.9717g(16mmol)を入れ、窒素気流下、室温で18時間反応させ末端変性し、続けて195℃で5時間攪拌しイミド結合させた。
冷却後、反応液を900mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を100℃で1日間減圧乾燥し、生成物を得た。得られた末端変性イミドオリゴマーは、前記一般式(1)において、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表され、n=0である。
上記で得られた末端変性イミドオリゴマーの未硬化物は、NMP溶媒に室温で30%以上可溶であった。この末端変性イミドオリゴマーが30重量%溶解したNMP溶液(ワニス)は、1ヵ月後もゲル化がみられなかった。硬化前の粉末状の末端変性イミドオリゴマーの最低溶融粘度は、0.1Pa・sec(313℃)であった。
【0103】
(実施例3)
実施例1で作製した末端変性イミドオリゴマー9gと製造例1で作製した末端変性イミドオリゴマー1gを均一混合させた。この末端変性イミドオリゴマー混合物の最低溶融粘度は0.1Pa・sec(314℃)であった。300℃での等温溶融粘度測定の結果、0〜60分間、10Pa・sec以下であった。
得られた末端変性イミドオリゴマー混合物を280℃で溶融した後に金型内に送液し、370℃で1時間加熱して得られたフィルム状の硬化樹脂(厚さ100μm)は、ガラス転移温度(Tg)が371℃(DSC)、TGAによる5%重量減少温度は515℃であった。また、このフィルム状の硬化樹脂の引張試験による力学的性質は、弾性率が3.28GPa、破断強度が111MPa、引張破断伸びが9%であった。
【0104】
(実施例4)
あらかじめアセトンにて繊維表面処理(サイジング)剤を除去した15cm角の炭素繊維平織材(東邦テナックス社製IM600−6K平織材、繊維目付:195g/m
2)を12枚積層(積層繊維)し、この積層繊維1の上面と下面に1枚ずつ25cm角のポリイミドフィルム2、3を重ねて、その間に溶融物導入管4と真空配管5を配し、積層繊維1の端部近傍で互いに接しているポリイミドフィルム2、3同士をシリコン系粘着剤で貼り付けて密閉した(
図1)。実施例1で作製した末端変性イミドオリゴマー100gを樹脂貯めで280℃で溶融させた後、溶融物導入管4から一部を真空下でポリイミドフィルムの型内に送液・充填して、各炭素繊維平織材に含浸させ、さらに370℃、1時間で硬化した。離型して得られた繊維強化硬化樹脂である板状の炭素繊維複合材料は、内部にボイド等が観測されず、また反りも観測されなかった。当該炭素繊維複合材料のガラス転移温度(Tg)は、実施例1の硬化樹脂と同様に350℃以上の高い値を示した。