特許第5765818号(P5765818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5765818-金属板のかしめ接合方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765818
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】金属板のかしめ接合方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/03 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   B21D39/03 B
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-71854(P2012-71854)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-202627(P2013-202627A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅人
(72)【発明者】
【氏名】黒部 淳
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−172922(JP,A)
【文献】 特開2001−321856(JP,A)
【文献】 特開2013−202662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三叉型の固定アンビル外周に三分割で配置された可動ブレード上に、複数枚の金属板を重ねて載置し、上方から三叉型柱状パンチを前記金属板に局部的に押し込み、上面の金属板を塑性変形させるとともに、前記固定アンビルの外周に分割配置した前記可動ブレードをそれぞれ個別に外周方向に逃がすことにより下面の金属板を塑性変形させて、上下の金属板を機械的に接合する方法において、可動ブレードとして、コーナーRを0.78t以上かつ、パンチ頭平面部の内接円の半径以下とした可動ブレードを用いることを特徴とする金属板のかしめ接合方法。
ただし、上記tは、前記複数枚の金属板の板厚を全て足し合わせた厚みである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板のかしめ接合方法、特に高接合強度を有するとともに、強度の面内異方性のない金属板のかしめ接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね合わせた複数枚の金属板を固定・接合する方法としては、ボルトやリベットで代表される締結具を用いる方法が一般的である。しかし、締結具を用いる方法はコスト高となるばかりでなく、締結具の頭部が金属板の表面に突出するため、取り扱い上、あるいは外観的に美観を損なう場合がある。このため、スポット溶接等の溶接法やかしめ接合が採用されることがある。
スポット溶接法は、板厚が異なる材料や異種材料との接合が困難となる場合があったり、材料への熱影響が生じるために、めっき材では後補修が必要となったりすることがある。また、スポット溶接法は、接合の際、散りやヒュームを伴うため作業環境を悪化させるおそれがある。
【0003】
かしめ接合はプレス加工中に接合できるため、設備同調性および作業環境がよい。このため、かしめ接合は自動車、家電製品、住宅等の分野で多用されるようになっている。
しかしながら、かしめ接合法は、締結具を用いる方法やスポット溶接法に比べて、接合強度が低い問題がある。例えば、丸形のパンチやダイスを備えたかしめ装置を用いて接合すると、接合される部材の平面部分に沿った回転方向の力に弱いといった不都合を生じている。
【0004】
また、角形のパンチやダイスを備えたかしめ装置を用いて接合すると、かしめ部にせん断加工面が生じるため、接合部分のせん断強度に方向性を生じており、せん断面と直角方向のせん断強度は高いが、平行方向のせん断強度はあまり高くなく、また接合部分はせん断加工が行われるため、材料の切り口が存在し気密性や水密性が低下するといった不都合を生じている。
そこで、本発明者らは、三叉型パンチによるかしめ接合方法を特許文献1で提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−172922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案された方法は、三叉型の固定アンビル外周に三分割で配置された可動ブレード上に、複数枚の金属板を重ねて載置し、上方から三叉型柱状パンチを前記金属板に局部的に押し込み、上面の金属板を塑性変形させるとともに、前記固定アンビルの外周に分割配置した前記可動ブレードをそれぞれ個別に外周方向に逃がすことにより下面の金属板を塑性変形させて、上下の金属板を機械的に接合しようとするものである。
ところが、特許文献1で提案している三叉型パンチによるかしめ接合方法で伸びの低い材料をかしめ接合した場合、上板の略Y字の交差する側壁部にクラックが生じ、接合強度が低下した事例が散見された。
【0007】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、三叉型パンチを用いたかしめ接合方法であっても、略Y字の交差する側壁部にて生じやすいクラックの発生を抑え、接合強度の高い金属板のかしめ接合方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属板のかしめ接合方法は、その目的を達成するため、三叉型の固定アンビル外周に三分割で配置された可動ブレード上に、複数枚の金属板を重ねて載置し、上方から三叉型柱状パンチを前記金属板に局部的に押し込み、上面の金属板を塑性変形させるとともに、前記固定アンビルの外周に分割配置した前記可動ブレードをそれぞれ個別に外周方向に逃がすことにより下面の金属板を塑性変形させて、上下の金属板を機械的に接合する方法において、可動ブレードとして、コーナーRを0.78t以上かつ、パンチ頭平面部の内接円の半径以下とした可動ブレードを用いることを特徴とする。
ただし、上記tは、前記複数枚の金属板の板厚を全て足し合わせた厚みである。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によると、三叉型柱状パンチと三方向に移動する可動ブレードを使用するかしめ接合法において、用いる可動ブレードのコーナーRを0.78t以上にすることにより略Y字の交差する側壁部付近のかしめ後の周方向への線長増加を抑制し、割れ危険部の歪を低減させることができ、また用いる可動ブレードのコーナーRをパンチ頭平面部の内接円の半径以下に設定することによりコーナーRの拡大に伴うインターロック部の減少によるせん断接合強度の低下を防止することができる。
したがって、本発明により、略Y字の交差する側壁部にて生じやすいクラックの発生を抑え、高く安定した接合強度を有するかしめ接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】かしめ接合方法を説明する概念図
図2】三叉型パンチによるかしめ接合方法に用いるパンチ、アンビル及び可動ブレードの形状を説明する図。
図3】可動ブレードのコーナーRを説明する図。
図4】三叉型柱状パンチのパンチ頭平面部の内接円半径を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、一般的なかしめ接合法を示す。二枚の金属板1,2をブレード6上に重ねて載置した後、ストリッパ4により金属板1,2をブレード6と挟み込んで固定・セットした後、円柱型パンチ3でセットした金属板1,2を押圧して材料をアンビル5より半径方向外側に張出すように塑性変形させて金属板1,2を接合するものである。
一般的に、接合部の寸法が同一になるようにかしめ接合を行った場合と、スポット溶接をおこなった場合の接合強度を比較すると、かしめ接合の接合強度はスポット溶接の2〜3割程度となっている。また接合される部材の平面部分に沿った回転方向の力に弱いといった問題点も有している。
【0012】
このようにかしめ接合法は、簡便な方法であるが接合強度が比較的低いために、使用頻度が伸びない一因にもなっている。そして、四叉型のパンチと四方向に移動する可動ブレードを用いてかしめ接合部を略十字形とする方法でも、接合強度の面内異方性は十分に解消できない。
前記したように、三叉型のパンチと三方向に移動する可動ブレードを用いてかしめ接合部を略Y字形とすることが特許文献1で提案されているが、略Y字の交差する側壁部にてクラックが生じやすく、接合強度が低下することがある。
【0013】
本発明者らは、接合強度の面内異方性に優れる三叉型のパンチと三方向に移動する可動ブレードを用いたかしめ接合法において、略Y字の交差する側壁部でのクラック発生を抑制して接合強度を高めるべく鋭意検討した。
クラックの発生が、伸び易い金属板を素材とした場合よりも伸び難い金属板を素材とした場合に特に上板側の略Y字交差部側壁に起こり易いことを考えると、当該部位への材料の流入が起き難くなっていると想定できる。
三叉型かしめでは、三叉型のパンチを押し込みはじめると、可動ブレードのR形状に下板がなじみ、パンチをさらに押し込んでいくにつれ、上板の側壁部は板厚が減少していく。そのため、三叉型のパンチの略Y字交差部のコーナーRに材料が充満することがない。よって、略Y字の交差する側壁部位の材料流入を起こり易くするには可動ブレードのコーナーRを変化させることが有効であると考えられる。
そこで、略Y字交差部側壁への材料の流入を行い易くするために、可動ブレードのコーナーRを大きくすることとした。
【0014】
以下に本発明の詳細を説明する。
まず、図2に示すような、三叉型柱状パンチ、三叉型の固定アンビル及びその外周に三分割で配置された可動ブレードを備えたかしめ接合装置において、可動ブレードのコーナーRを従来よりも大きくしたものである。
図3に示す可動ブレードコーナーRの好ましい大きさについては、詳細は後記の実施例に譲るが、接合する金属板の厚さをtとしたとき0.78t以上で割れの発生を抑制することができた。しかし、可動ブレードのコーナーRを大きくし過ぎると、インターロック部が減少してせん断接合強度が低下することになるので、図4に示すパンチ頭平面部の内接円の半径以下にする必要がある。
【実施例】
【0015】
接合する2枚の金属板として、表1に示す機械的特性を有する板厚1.6mmのZn‐Al‐Mg系めっき鋼板を使用した。
三叉型パンチは、パンチ頭平面部の内接円の半径4mm、幅3mm、テーパ角120度、略Y字の交差する半径2mmのものを使用した。三叉型アンビルは、アンビル頭平面部の中心半径8mm、幅3.3mm、高さ4mm、略Y字の交差する半径2mmのものを、五角形角柱の可動ブレードは、長さ10mm、幅8mm、高さ4.9mmとし、コーナーRを2〜6mmの間で種々変更したものを用いた。
【0016】
このような形状のアンビル外周に配置された3個の可動ブレード上に、2枚の被接合めっき鋼板を重ねた状態で位置決めをしてセットした。ついで、ストリッパにより前記2枚のめっき鋼板をブレードと挟み込んで固定した。セットされた前記2枚のめっき鋼板に上方から前記形状のパンチを荷重100kNで押し込んで、2枚のめっき鋼板をかしめ接合した。
【0017】
【0018】
ブレードのコーナーRを2、2.5、3、4、5、6mmと変化させて、三叉型パンチを押込みかしめ接合を行なった。n数は5個で実施。かしめ部の残存板厚は、予備実験でせん断接合強度が高かった1.1mmとなるようストローク調整した。接合体の側壁部のクラックの状態は、目視で確認した。また、接合体について、引張試験を行った。引張試験は、JIS Z 3136に準じてせん断引張強度を測定し、平均値で整理した。その結果を表2に示す。
【0019】
【0020】
表2に示す結果から、側壁部のクラックを抑えるには、ブレードのコーナーRを2.5mm(0.78t)以上にする必要があった。せん断引張強度は、パンチ頭平面部の内接円の半径4mm以下のブレードのコーナーRが2〜4mmで比較的高く安定していた。
よって、側壁部のクラックもなくせん断接合強度が高い接合体を得るには、ブレードのコーナーRを2.5〜4mmとしたものを用いる必要があることがわかる。
図1
図2
図3
図4