(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5765834
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロック
(51)【国際特許分類】
E02B 3/10 20060101AFI20150730BHJP
E02B 7/02 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
E02B3/10
E02B7/02 B
E02B7/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-212786(P2014-212786)
(22)【出願日】2014年10月17日
【審査請求日】2014年10月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306024805
【氏名又は名称】株式会社 林物産発明研究所
(72)【発明者】
【氏名】林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 和志郎
(72)【発明者】
【氏名】林 宏三郎
(72)【発明者】
【氏名】林 加奈子
【審査官】
砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−332274(JP,A)
【文献】
特開2001−3367(JP,A)
【文献】
特開2001−81780(JP,A)
【文献】
特開2001−32243(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/019681(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0158122(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04−3/14
E02B 7/00−7/18
E02B 8/00
E02D 17/00−17/20
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防、農業ダム、砂防ダムのような治水構築物の建造を成すためのものであって、基版部の両端縁から直角に立ち上がる噛合せ用折曲片部を左右対称的に連設すると共に当該基版部の中央部分に下記する結束のための連結用孔を穿設して成るブロック単体を用い、当該ブロック単体所要数を、夫々相隣なる噛合せ用折曲片部を隣接させて連ねて形成したブロック列一対を、互いに対向する状態に組み合わせ、この一対のブロック列を、複数列積重ねると共に、
基版部の平面側を正面に向けた状態で構築し、
或は、基版部の側面側を正面に向けた状態で構築し、
若しくは、既存堤防内に埋設するように構築し、
この状態において各ブロック単体を縦横方向に、また必要に応じて奥方向を含めた方向に、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態で連結するための結束手段を施すように構成したことを特徴とする耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロック。
【請求項2】
基版部の中央部分に穿設した連結用孔と一直線状を呈するように、噛合せ用折曲片部の内側に隣接させてサイド連結用孔を穿設し、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態に連結するための結束手段を、当該連結用孔とサイド連結用孔の何れかを用いるように構成した請求項1に記載の耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防、農業ダム、砂防ダム等、治水構築物を建造するための組立ブロックに関し、完成された構築物に耐震性が付与されるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、堤防、農業ダム、砂防ダム等、治水構築物の建造は、コンクリートに依りその全体を一体成形するもの、或いは、外壁部分をブロック片で囲み、その内部にコンクリートを流し込むようにして構成したもの(例えば、
特許文献1参照。)がある。 そして、これらは何れも剛的強化が根本思想であり、不動的な形態で設置することを原則とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−209658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような
剛的強化を基本思想とする不動的な形態で設置するものであると、地震が発生した場合、その強度を越した
際に、亀裂等が生じ崩壊事故を招いてしまうこととなる。
【0005】
本発明は、堤防、農業ダム、砂防ダム等、治水構築物の建造を、多数のブロック単体の連結に基づき構成することに依り、その全体を揺れ動き可能な形態と成し、もって地震発生時の震動を吸収して構築物自体に亀裂発生及び崩落事故発生と言う事態発生を未然に防止するように構成したものである。
【0006】
本発明はこのような新規な構成を具えた「耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロック」の提供を図り、以て、上記したような耐震性と言う従来の問題の解決化を図ると同時に、このような多数のブロック単体の連結に基づくと言う新しい構築方式の採用に基づき、治水構築物の建造作業の迅速化及び簡易化が図られるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は請求項1に記載のように、堤防、農業ダム、砂防ダムのような治水構築物の建造を成すためのものであって、基版部1の両端縁から直角に立ち上がる噛合せ用折曲片部2を左右対称的に連設すると共に当該基版部1の中央部分に下記する結束のための連結用孔3を穿設して成るブロック単体Aを用い、当該ブロック単体A所要数を、夫々相隣なる噛合せ用折曲片部2を隣接させて連ね
て形成したブロック列一対を、互いに対向する状態に組み合わせ、この一対のブロック列を複数列積重ねると共に、
基版部の平面側を正面に向けた状態で構築し、
或は、基版部の側面側を正面に向けた状態で構築し、
若しくは、既存堤防内に埋設するように構築し、
この状態において各ブロック単体Aを縦横方向に、また必要に応じて奥方向を含めた方向に、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態で連結するための結束手段を施すように構成したことを特徴とする耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロックに係る。
【0008】
本発明は請求項2に記載のように、基版部1の中央部分に穿設した連結用孔3と一直線状を呈するように、噛合せ用折曲片部2の内側に隣接させてサイド連結用孔4を穿設し、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態に連結するための結束を、当該連結用孔3とサイド連結用孔4の何れかを用いるように構成した請求項1に記載の耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロックを実施の態様とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は請求項1に記載のような構成、すなわち、堤防、農業ダム、砂防ダムのような治水構築物の建造を成すためのものであって、基版部1の両端縁から直角に立ち上がる噛合せ用折曲片部2を左右対称的に連設すると共に当該基版部1の中央部分に下記する結束のための連結用孔3を穿設して成るブロック単体Aを用い、当該ブロック単体A所要数を、夫々相隣なる噛合せ用折曲片部2を隣接させて連ね
て形成したブロック列一対を、互いに対向する状態に組み合わせ、この一対のブロック列を複数列積重ねると共に、
基版部の平面側を正面に向けた状態で構築し、
或は、基版部の側面側を正面に向けた状態で構築し、
若しくは、既存堤防内に埋設するように構築し、
この状態において各ブロック単体Aを縦横方向に、また必要に応じて奥方向を含めた方向に、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態で連結するための結束手段を施すように構成したから、本発明を用いて建造した農業ダム、砂防ダムのような治水構築物は、地震発生の際に当該地震の震動を吸収して崩壊事故発生と言うような事態を未然に防止することとなる。
【0010】
更に、本発明に係るブロックを用いることに依って、治水用建造物の建築は、現場にての組立作業で事足りるため、作業の容易化と迅速化が図られる。
【0011】
本発明は請求項2に記載のような構成、すなわち、基版部1の中央部分に穿設した連結用孔3と一直線状を呈するように、噛合せ用折曲片部2の内側に隣接させてサイド連結用孔4を穿設し、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態に連結するための
結束手段を、当該連結用孔3とサイド連結用孔4の何れかを用いるように構成することに依って、横方向に一列状にあるブロック単体Aの長さを長短二つの態様に変化させることが出来る。
【0012】
従って、例えば強度的必要性が高い場合は、連結用孔3を用いるような形態に配列することに依り、重複部分の多幅性に基づき強度の向上化が図られる。 そして、強度的必要性が少ない場合は、サイド連結用孔4を用いるような形態で配列することに依り、ブロック単体の使用数が同じでも、重複部分の減少化に基づき、全体長さの長大性が図られるため、製造コストの低減化が並びに作業のスピードアップ化が許容されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の要旨部品たるブロック単体の第1の実施例を表した斜視図である。
【
図2】上記ブロック単体の組合わせ状態を表した縦断面図である。
【
図3】同上組合せ状態における連結化を図った状態を表した説明用縦断面図である。
【
図4】前記ブロック単体の組合わせ状態を表した正面図である。
【
図5】同上組合せ状態における連結化を図った状態を表した説明用正面図である。
【
図6】本発明に基づき形成した農業用ダムの一例を表した正面図である。
【
図7】本発明に基づき形成した砂防用ダムの一例を表した正面図である。
【
図8】本発明に基づき耐震的補強が成された堤防を表した説明用略図である。
【
図9】本発明の要旨部品たるブロック単体の第2の実施例を表した斜視図である。
【
図10】上記ブロック単体の第1の組合わせ状態を表した縦断面図である。
【
図11】上記ブロック単体の第2の組合わせ状態を表した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は既述したように、堤防、農業ダム、砂防ダム等、治水構築物の建造を、多数のブロック単体の連結に基づき構成することに依り、その全体を揺れ動き可能な形態と成し、もって地震発生時の震動を吸収して構築物自体に亀裂発生及び崩落事故発生と言う事態が生じることを未然に防止するように構成したものである。
【0015】
図1は上記したブロック単体Aを表したものである。 同図において、1は基版部、2は当該基版部1の両端縁部分に直角にしてかつ同一方向に連設した噛合せ用折曲片部であって、これらは主としてコンクリート材料によって一体的に形成したものである。 3は基版部1の中央部分に穿設した連結用孔を示す。
【0016】
図2及び
図4は上記したブロック単体A所要数を対向させて互いに組み合わせた状態を表したものである。この場合、互いに組み合うブロック単体は、夫々相隣なる噛合せ用折曲片部2を隣接させて
ブロック列を形成すると共に、これを対向させたものを一対とすると共に、その互いの連結用孔3に合致させるように位置させる(
図2参照)。
【0017】
この状態において、
図3及び
図5に示すような互いの連結処理を施すことに依り、ブロック単体Aを多列かつ多段方向に、また必要に応じて奥方向を含めた方向に結合させて、全体を一枚の壁状に集結安定化させ、堤防、農業ダム、砂防ダム等、治水構築物の建造目的を達成させる。
【0018】
上記した連結処理であるが、
図3に示すように、連結用孔3に挿し込んだ連結部材Bを、対向状態で合致化されて位置する噛合せ用折曲片部2,2間を挿通させて反対側に突出させると共に、この状態にある連結部材Bの両端に適宜の抜け止め処理を施す。 当該抜け止め処理としては、例えば有頭のピン状部材を挿し込んだ後に、その先端にカシメまたは止め部材の嵌着等に基づき抜け止め目的が達成される等、適宜な手段であって可とする。
【0019】
但し、両端施す当該抜け止め手段は、下記するロープ掛け等に基づく結束手段の止め部材として利用可能とする形態を具えたものとすることが好ましい。
【0020】
図3及び
図5は上記したロープ掛け等に基づく結束処理を施した状態を表したものである。 これは上述した連結部材Bの両端突出部分に対して、夫々横方向及び縦方向に一直線状に連ねるようにロープCを掛け止めて緊締させることに依って行うように構成してある。 これにより、各ブロック単体Aは適度の揺れ動き的遊びを具えた状態で壁状に連結されることとなる。
【0021】
本発明において重要な点は、このように「各ブロック単体Aは適度の揺れ動き的遊びを具えた状態で壁状に連結される」ようにしたことにあり、これは、「地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態で連結するための結束手段」とするものである。 従って、そのための手段は図示のものに限定されるものではなく、このような目的が達成される結束手段であれば、如何なる形態のものであっても実施可能とする。
【0022】
図6は本発明を用いて形成した農業用ダムを示す正面図、
図7は同上
砂防用ダムを示す正面図、第8図は本発明を用いて形成した既存の堤防に対しする耐震補強の一例を表した略図であって、各図面においては、ロープによる掛け止めの表示は、分かり易くするために作図上省略してある。
【0023】
ところで、
図6に示す農業用ダムの場合は、基版部1の平面側を正面に向けた状態で構築することに依り、水流規制が成される形態での設置目的が果たされる。 なお、水流規制の完璧化を図る場合は、ブロック単体Aをウレタン材で形成し、ロープによる掛け止めに基づき互いの密着化を図ることに依り、水流の完全阻止目的が達成される。 本発明はこのような形態で実施する場合もある。
【0024】
そして、
図7に示す砂防用ダムの場合は、
基版部1の側面側を正面に向けた状態で構築することにより、水の流れは阻害されずに、砂、石等のみが流されることを阻止されるように構成したものである。
【0025】
更に
図8は既存の堤防に対する耐震補強を、本発明ブロックを用いて行った場合の一例を表したものであって、同図においてMは既存堤防、Nは外面の客土、Pは湖面を示す。
そして、本発明による耐震補強は既存堤防内に埋設することに依り行うものである。
【0026】
図9は本発明の第2の実施例を示したものであって、
図1に示すブロック単体Aに対して、その基版部1の中央部分に穿設した連結用孔3と一直線状を呈するように、新たな連結孔であるサイド連結孔4を付け加え、これを噛合せ用折曲片部2の内側に隣接させて穿設するように構成したものである。
【0027】
これにより、
図10に示すように既述した第1の実施例の場合と同様な連結形態を採ることが出来ると同時に、
図11に示すように対向する互いの噛合せ用折曲片部2を合致化させた状態での結束が、連結用孔4を利用することに依り可能化される。 このような形態で連結することに依り、強度的には落ちるが横幅を伸長化した状態での構築が図られるため、設置コストの低廉化を図ることが出来る。
【0028】
本発明はその構築目的に即して上記のような各構築形態を採るものとする。 そして、夫々の構築状態にあって、各ブロック単体Aは適度の揺れ動き的遊びを具えた状態での壁状連結が成されているため、地震が発生した際、当該遊びに基づきその震動の吸収作用が奏される。 従って、従来のように剛的設置を図ったものにおいて、その強度を越した場合に生じる亀裂発生、崩壊事故の招きと言うような事態発生は、本発明にあってはよく回避することが出来る。
【符号の説明】
【0029】
A ブロック単体
1 基版部
2 噛合せ用折曲片部
3 連結用孔
B 連結部材
C ロープ
4 サイド連結用孔
【要約】
【課題】
発明は、堤防、農業ダム、砂防ダム等、治水構築物を建造するための組立ブロックに関し、完成された構築物に耐震性が付与されるようにしたものである。
【解決手段】
基版部1の両端縁から直角に立ち上がる噛合せ用折曲片部2を左右対称的に連設すると共に当該基版部1の中央部分に結束のための連結用孔3を穿設して成るブロック単体Aを用い、当該所要数のブロック単体Aに対して、地震の揺れに対応した適度の揺れ動きを可能とする遊びを具えた状態で連結するための結束手段を施すように構成した耐震性を具えた治水用構築物を建造するための組立ブロック。
【選択図】
図1