【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は上記目的のため、吸着材を備えた本発明者等による研磨パッドの構成に基づき、各構成の性状を調整しつつ研磨性能に対する作用を検討した。特に、吸着材を構成する吸着層及び基材の諸特性が研磨性能に及ぼす影響に着目して検討を進めることで本発明に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、基材と吸着層とからなる吸着材と、研磨層とが接合されてなる研磨パッドにおいて、前記吸着層は、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、及び末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンから選ばれる少なくとも1種のシリコーンを架橋させてなる組成物からなるものであり、前記吸着層は、その表面粗さの平均値Saが0.02〜0.06μmであること特徴とする研磨パッドである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。上記の通り、本発明は、吸着層の定盤と接触する面の表面粗さについて規定することで、好適な研磨作業を行うことのできる研磨パッドとするものである。本発明者等による吸着材を備える研磨パッドは、定盤への固定時において、吸着層の作用により剪断力(横方向の固定強度)が高い一方で、剥離力(縦方向の固定強度)が低いという特性を有する。このような定盤に対する剪断力と剥離力との関係により、研磨パッドの交換作業を容易なものとしつつ、研磨作業中は研磨パッドのずれを抑制するという効果が発揮される。また、定盤に対する剥離力が低いとはいっても、それは相対的なものであり、研磨作業中に研磨パッドが外れる、或いは、吸着層と定盤との間に空間が生じるというほど弱い力ではない。
【0012】
但し、本発明者等の検討によると、吸着層と定盤との界面が上記のような状態にある場合、吸着層の表面粗さは、研磨作業時の研磨力の面内均一性に微小な影響を及ぼし得る。この面内均一性に対する影響は、さほど大きいものではないが、研磨面に対し超高繊細な平坦度を要求する場合や、被研磨面の面積が増大する場合においては無視できない影響を及ぼす。
【0013】
本発明に係る吸着材を備える研磨パッドは、上記のような理由から、吸着層の表面粗さを規定するものである。この表面粗さについては、0.06μm以下であることを要する。0.06μmを超えると研磨力の面内均一性に影響が生じ得るからである。一方、その下限値については、本来制限されるべきではないが製造可能な最小値として0.02μmである。尚、ここでの表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)である。
【0014】
また、吸着層の表面粗さとは、吸着層面内の平均の意義であり、吸着層の中心部、端部(外周部)等の複数部分の表面粗さについての測定値の平均である。好ましくは、吸着層の中心部と両端部の3点についての表面粗さの平均値を採用する。そして、より好適な研磨性能を発揮させるためには、吸着層の表面粗さに均一性があることが好ましい。具体的には、吸着層の中心部の表面粗さ(Sc)及び吸着層の端部の表面粗さ(So)について、ScとSaとの差、及び、SoとSaとの差がいずれも0.02μm以下であることが好ましい。尚、吸着層の端部の表面粗さについては、研磨パッド直径の双方の両端で前記関係を具備することが好ましい。
【0015】
吸着層の材質については、基本的に、上記した本発明者等による従来の研磨パッドで適用されるものと同様である。即ち、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、及び末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンから選ばれる少なくとも1種のシリコーンを架橋させてなる組成物を積層して形成している。
【0016】
上記のシリコーンの具体例としては、直鎖状ポリオルガノシロキサンの例として化1の化合物が挙げられる。また、分枝状ポリオルガノシロキサンの例として化2の化合物が挙げられる
【0017】
【化1】
(式中Rは下記有機基、nは整数を表す)
【0018】
【化2】
(式中Rは下記有機基、m、nは整数を表す)
【0019】
化1、化2において置換基(R)の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換した同種又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和基を除く1価炭化水素基が挙げられる。好ましくはその少なくとも50モル%がメチル基であるものである。置換基は異種でも同種でもよい。また、このポリシロキサンは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0020】
また、吸着層を構成するシリコーンは、数平均分子量が30000〜100000のものが好適な吸着作用を有する。但し、表面粗さの調整にあっては、適用するシリコーンの数平均分子量と製造段階における焼成温度が影響を及ぼす。好適な表面粗さを容易に発揮させるためシリコーンの数平均分子量は、30000〜60000のものが好ましい。
【0021】
そして、本発明では、吸着層と共に吸着材を構成する基材の物性についても一定の制限を設定するのが好ましい。基材とは、薄い有機物からなる吸着層の取扱い性を確保するための支持部材である。従って、基材は本来、研磨パッドの研磨性能を考慮して適用されるものではないが、本発明者等によると、基材について破断強度及び破断伸度を適切なものを適用することで、より好適な研磨性能を発揮することができる。ここで設定すべき基材の物性は、破断強度及び破断伸度であり、破断強度については210〜290MPa、破断伸度80〜130%とするのが好ましい。より好ましくは、破断強度が210〜240MPaであり、破断伸度が110〜130%である。尚、この引張強度は、乾燥時に測定される値とする。
【0022】
基材は、上記の破断強度、破断伸度を有するシート状の樹脂材料が適用される。具体的には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等の樹脂である。好ましくは、ポリエステル系樹脂材料であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)であり、特に好ましいのはPETである。基材は、単層でも良いが複数の樹脂で多層構造としても良い。
【0023】
吸着材は、吸着層と基材とから構成されるが、吸着層の厚さは20〜30μmとするのが好ましい。また、基材の厚さは、50〜200μmとするのが好ましい。基材と吸着層は密着接合されていることが好ましい。
【0024】
吸着材の作製は、基材に吸着層となるシリコーン成分を含有する塗工液を塗布して焼成することでポリオルガノシロキサンが架橋し吸着層が形成される。塗工液は、上記直鎖状、分枝状ポリオルガノシロキサン化合物と架橋剤を含む。架橋剤は公知のもので良いが、例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するものであるが、実用上からは分子中に2個の≡SiH結合を有するものをその全量の50重量%までとし、残余を分子中に少なくとも3個の≡SiH結合を含むものとすることが好ましい。
【0025】
塗工液は、架橋反応で用いる白金系触媒を含んでいても良い。白金系触媒は、公知のものが適用され、例えば、塩化第一白金酸、塩化第二白金酸等の塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物あるいは塩化白金酸と各種オレフィンとの鎖塩等が挙げられる。また、塗工液は、無溶剤型、溶剤型、エマルション型のいずれの形態でも良い。溶剤型塗工液を使用する場合、塗布後に乾燥し溶媒を除去することが好ましい。塗工液塗布後の焼成は、120〜180℃で60〜150秒加熱するのが好ましい。
【0026】
本発明に係る研磨パッドは、吸着材に研磨層を接合して形成される。研磨層は、一般的な研磨パッドで適用される研磨布が適用する。例えば、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等で形成された不織布、発泡成形体等が適用できる。また、その表面(研磨面)の形状は、平坦であるものに限られず、研磨剤を保持するための溝等を適宜形成しても良い。研磨層となる研磨布の厚さは、0.5〜3mmのものが用いられる。
【0027】
研磨層と基材との接合方法も公知の方法でよく、例えば接着剤、粘着剤等を用いて両者を接合すればよい。