特許第5765862号(P5765862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765862
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】低圧蒸気の再利用装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/18 20060101AFI20150730BHJP
   F04C 29/04 20060101ALI20150730BHJP
   F04C 28/08 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   F04C18/18 C
   F04C29/04 P
   F04C28/08 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-178834(P2013-178834)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-48718(P2015-48718A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2014年10月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127123
【氏名又は名称】株式会社アンレット
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義展
(72)【発明者】
【氏名】竹田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久
(72)【発明者】
【氏名】横井 隆志
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−116823(JP,A)
【文献】 特開2012−251757(JP,A)
【文献】 特開2011−047618(JP,A)
【文献】 実開平04−034487(JP,U)
【文献】 特許第2735739(JP,B2)
【文献】 特開2012−154315(JP,A)
【文献】 特公昭63−060208(JP,B2)
【文献】 特開昭56−050294(JP,A)
【文献】 特表2004−509271(JP,A)
【文献】 米国特許第4089744(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0191083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/18
F04C 29/04
F01D 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気利用プロセスから排出される温水を密閉タンクに貯留し、その密閉タンクとルーツ式ブロワの吸込側とを接続すると共に、当該ルーツ式ブロワの吐出側を蒸気ラインに接続し、そのルーツ式ブロワの運転により、前記密閉タンク内を減圧させて発生する低圧蒸気を、前記蒸気ラインに供給するように構成した低圧蒸気の再利用装置であって、
前記ルーツ式ブロワのルーツロータの軸心を中心として、前記ルーツ式ブロワの前記ルーツロータを囲むケーシングの吐出側から吸込側に所定角度もどった位置に、前記密閉タンクに貯留される温水の微細粒子を室内へ噴霧するノズルを設けたことを特徴とする低圧蒸気の再利用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気利用プロセスから排出される100℃以下の温水(ドレン)から発生させる低圧蒸気を蒸気ラインに供給する低圧蒸気の再利用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気利用プロセスから排出される100℃以下の温水は、ボイラ給水の予熱や暖房などの用途に限定されているが、その多くは利用されることなく放出されているのが現状である。
【0003】
因みに、熱媒として利用され潜熱を失った蒸気の一部は、凝縮されて高温高圧の温水となる。その温水をフラッシュタンクに回収・導入し、圧縮機で圧縮してフラッシュ蒸気と温水を熱媒として再利用すれば、ボイラで新たに水から蒸気を得るよりも少ないエネルギーで安価に利用可能な圧力蒸気に再生することができることは知られている。
【0004】
蒸気圧縮機としては、往復動圧縮機、回転式圧縮機やスクリュー形圧縮機などがある。例えば、特許文献1には、水平に配置されたシリンダーと、そのシリンダー内で回転するロータと、そのシリンダー内に収容される液体のシール媒体を備え、ロータには円錐形のロータ軸に取り付けられたスクリューブレードを有し、そのスクリューブレードは蒸気の吸入側から吐出側に向かってピッチを漸減させている構造のスクリュー形蒸気圧縮機が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、工場内に配設された高圧蒸気ラインと中圧蒸気ラインから、それぞれ蒸気タービンやプロセス需要に供給し、利用した余剰蒸気を高圧蒸気ライン又は中低圧蒸気ラインから抽気した蒸気を加熱媒体とした熱交換器を用いて加熱し、およそ150〜260℃の温度範囲で3〜8kgf/cm2Gの加熱蒸気に変えて蒸気タービンに供給するようにした余剰蒸気の有効利用装置が開示されている。
【0006】
上記スクリュー形蒸気圧縮機やタービン形蒸気圧縮機は、構造上100℃以下、すなわち大気圧以下での使用ができないことから、蒸気圧縮機としての利用が限られている。このため、廃棄処分される100℃以下の温水から低圧蒸気を発生させて利用する方法・装置の開発・出現が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−312553号公報
【特許文献2】特開2005−282512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、未利用で廃棄される100℃以下の温水から低圧蒸気を発生させて再利用を可能とする簡易な構造で設備費の安価な低圧蒸気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、蒸気利用プロセスから排出される温水を密閉タンクに貯留し、その密閉タンクとルーツ式ブロワの吸込側とを接続すると共に、当該ルーツ式ブロワの吐出側を蒸気ラインに接続し、そのルーツ式ブロワの運転により、前記密閉タンク内を減圧させて発生する低圧蒸気を、前記蒸気ラインに供給するように構成した低圧蒸気の再利用装置であって、
前記ルーツ式ブロワのルーツロータの軸心を中心として、前記ルーツ式ブロワの前記ルーツロータを囲むケーシングの吐出側から吸込側に所定角度もどった位置に、前記密閉タンクに貯留される温水の微細粒子を室内へ噴霧するノズルを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1の発明)
この低圧蒸気の再利用装置によれば、従来利用されることなく放出されていた100℃以下の温水を蒸気圧縮機によって低圧蒸気に変換させることにより、蒸気の再利用が可能となる。加えて、装置は簡易な構造であることから、メインテナンスが容易で設備費も安価である。
【0011】
ケーシングの吐出側に近い箇所で温水の噴霧を行うことにより、吸入される蒸気に混入することにより生ずる液化現象が回避されるため、ルーツロータが円滑に回転作動すると共にルーツ式ブロワの下流側にドレントラップを設置する必要がない。加えて、ノズルから密閉タンクに貯留されて供給される温水の微細粒子を室内へ噴霧することにより、ルーツロータやケーシング回りの機械部品の過熱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る低圧蒸気の再利用装置の構成図
図2】本発明装置に用いるルーツ式ブロワの正面図
図3】同、ルーツ式ブロワの側面図
図4】ルーツ式ブロワにおける蒸気流量と圧縮比との関係を示すグラフ
図5】ルーツ式ブロワにおける動力と差圧との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の最良の形態例を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1において、本発明に係る低圧蒸気の再利用装置Aは、蒸気利用プロセスの下流側の一点鎖線で囲まれた部分に相当する構成とされている。
【0015】
蒸気利用プロセス側においては、蒸気を発生させるボイラ1と、その蒸気を利用する複数のプロセス5とを配管2により接続し、各プロセス5の出口側に夫々設けたスチームトラップ6と密閉タンク15とが配管14により接続されている。3は配管2に介装された減圧弁である。各プロセス5から排出されて密閉タンク15に貯留される温水は、当該タンク15に設置されたレベルセンサ16にて容量を検知され、必要に応じてボイラ1に配管7により接続された給水タンク9に温水回収ポンプ11の作動によって供給するように設けられている。8は配管7に介装された給水ポンプである。密閉タンク15と温水回収ポンプ11とを接続する管路10には電磁弁12が介装されている。
【0016】
上記密閉タンク15と、蒸気圧縮機としてのルーツ式ブロワ31の吸込側とを配管19にて接続すると共にルーツ式ブロワ31の吐出側が蒸気ライン(蒸気管路)60の一端に接続されている。20は配管19に介装された圧力センサである。蒸気ライン60の他端については、前記各プロセス5の入口側に相当する配管2に接続されている。61は蒸気ライン60に介装された温度センサである。
【0017】
22はルーツ式ブロワ31を駆動するモータ、23は該モータ20の回転速度を圧力センサ20により検出される真空度のデータに基づいて制御するためのインバータ制御装置である。55は密閉タンク15に貯留される温水の微細粒子を給水ポンプ27の作動によって後記ルーツ式ブロワ31の室(r)内へ噴霧するためのノズルである。密閉タンク15と給水ポンプ27とを接続する配管26には、電磁弁28が介装されている。この電磁弁28は、上記温度センサ61の指令に基づいて開閉操作されることによりルーツ式ブロワ31の吐出側の蒸気温度を調整可能に設けられている。
【0018】
なお、上記ノズル55の設置箇所については、ルーツ式ブロワ31の構造の説明の中で述べる。
【0019】
図2図3において、ルーツ式ブロワ31は、ケーシング32内に3葉のルーツロータ41,41が収容されて当該ケーシング32の左右両側に取り付けたハウジング35、36に備えた軸受39によりロータシャフト40が夫々支持されるように設けられている。
【0020】
32aはケーシング32に設けられた吸込口、32bはケーシング32に設けられた吐出口である。ケーシング32の適宜位置には、温水を循環させてルーツ式ブロワ31の運転による過熱を防止するためのジャケット33を設けている。また、図2に示すように、ルーツロータ41の軸心(o)を中心としてケーシング32の吐出側から吸込側に所定角度、即ち80度もどった位置に、密閉タンク15に貯留されて供給される温水の微細粒子を室(r)内へ噴霧するノズル55を設けている。
【0021】
左側のハウジング35に形成された中心穴37には、軸封部42が設けられている。45はロータシャフト40に嵌着されたリング43に内縁部45aを接触するように中心穴37に装着された複数個、ここでは2個のドライテフロン(登録商標)シールである。
【0022】
ルーツ式ブロワ31の運転中にルーツロータ41側から中心穴37に漏出する蒸気は、中心穴37に連通するように形成されたドレン穴38から回収することにより、軸受39側へ進入するのを防止するように設けている。
【0023】
右側のハウジング36についても、左側の軸封部42と同様の構成としていることから、便宜上説明を省略し、図3の図面に同じ符号を付した。
【0024】
なお、ケーシング32とハウジング35・36に関して蒸気による腐食が懸念される場合には、通常使用されているステンレス材料と同等の耐食性を有して熱膨張率の低いオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄材料(例えば、ニレジストD5)を採用することができる。
【0025】
48はハウジング35に取り付けられたシールケース、49はロータシャフト40の左端部に固定されたプーリである。51はロータシャフト40の右端部に固定されたタイミングギヤ、52はハウジング36に取り付けられたギヤカバーである。
【0026】
しかして、ルーツ式ブロワ31の運転により、蒸気利用プロセス5から排出される温水が貯留される密閉タンク15の内部を減圧させることにより低圧蒸気を発生させ、その低圧蒸気を蒸気ライン60に供給する低圧蒸気の再利用装置Aが構成される。
【0027】
本発明に係る低圧蒸気の再利用装置Aの作用については、各構成の説明の中で触れていることから説明を省略する。
【0028】
(実験)
本発明に係る低圧蒸気の再利用装置Aについて実験を行ない、蒸気圧縮機として用いたルーツ式ブロワの特性を調べた。実験結果を図4図5のグラフに示す。
ルーツ式ブロワ
口径:40mm
回転数:2000rpm
モータの動力:7.5kW
蒸気温度:120℃(80℃の温水を利用)
ノズルからの噴霧量:75ml/分
【0029】
実験の結果、空気量から蒸気量に換算した値よりも多くの蒸気量が得られた。このことは、過熱蒸気により比体積が増加したため、容積効率が向上したことが原因であると考えられる。さらに、過熱蒸気の発生を防止するためにルーツ式ブロワの室内へ温水を噴霧したことにより、効率よく再蒸発したものと考えられる。また、図5に示すように、動力に関しては、蒸気での実測値と空気での特性値と比べると、殆ど差異がないことが確認された。
【0030】
なお、図4において、実測空気流量から蒸気流量に換算した値を「ブロワ換算蒸気流量」としてグラフに表している。以下に、その換算に用いた換算式と計算例を示す。
【0031】
【数1】
【0032】
(計算例)
圧縮比2.46における計算例を示す。
吸込圧力:57.3kPA
吐出圧力:141.3kPA
圧縮比:2.46
理論空気量:2.128m3/min
回転数:2000rpm
実測空気量:1.18m3/min
ガス分子量:18
空気分子量:29
【0033】
上記各数値を数1に代入することにより、ガス量0.92(m3/min)が得られる。その数値と実測空気量を図4のグラフ中に表示した。他の圧縮比についても同様の計算方法でガス量を求めてグラフにプロットした。
【符号の説明】
【0034】
A・・・本発明に係る低圧蒸気の再利用装置
5・・・プロセス
15・・・密閉タンク
20・・・圧力センサ
22・・・モータ
31・・・ルーツ式ブロワ(蒸気圧縮機)
32・・・ケーシング
33・・・ジャケット
41・・・ルーツロータ
55・・・ノズル
60・・・蒸気ライン
図1
図2
図3
図4
図5