特許第5765902号(P5765902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765902
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】衛星信号のコード追尾装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/30 20100101AFI20150730BHJP
   H04J 13/10 20110101ALI20150730BHJP
【FI】
   G01S19/30
   H04J13/10
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-200288(P2010-200288)
(22)【出願日】2010年9月7日
(65)【公開番号】特開2012-58035(P2012-58035A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年9月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】小田 真嗣
【審査官】 小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0270997(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/082635(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0159198(US,A1)
【文献】 特開2007−208904(JP,A)
【文献】 特開2005−283203(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/231580(US,A1)
【文献】 特開2007−336413(JP,A)
【文献】 特開2006−258436(JP,A)
【文献】 特表2007−505287(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/64812(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/105728(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0281325(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0046766(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0274374(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0103656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/30
H04J 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BOC変調された衛星信号をコード追尾する衛星信号のコード追尾装置であって、
レプリカBOCコードを生成するBOCコード発生器と、
レプリカPRNコードを生成するPRNコード発生器と、
前記BOCコード発生器で生成されたレプリカBOCコードと受信した衛星信号との相関処理を行なってBOCコードの相関値を示すBOC相関波形を生成するとともに、前記BOC相関波形に基づいて、コードの追尾点であるP位相よりも位相の進んでいるE信号と、P位相よりも位相が遅れているL信号との差を示すE−L波形を生成するBOC相関器と、
前記PRNコード発生器で生成されたレプリカPRNコードと受信した衛星信号との相関処理を行うPRN相関器と、
前記BOC相関器で生成されたE−L波形に基づいたコードの同期ずれに対する補正量δτEML、下記の符号情報λと、E−L波形の0チップ位置の傾きγと、E−L波形の相関値を正規化するための情報であって下記の式を用いて算出したスケール変換用情報αとにより、下記の式を用いて算出する第1のディスクリミネータと、
前記PRN相関器で生成された相関波形に基づいたコードの同期ずれに対する補正量δτSC、前記符号情報λと、BOC−PRN相関波形の追尾点での相関値SCと、BOC−PRN相関波形の相関値を正規化するための情報であって下記の式を用いて算出したスケール変換用情報βとにより、下記の式を用いて算出する第2のディスクリミネータと、
前記第1のディスクリミネータで算出された補正量δτEMLおよび前記第2のディスクリミネータで算出された補正量δτSCに基づいて、前記BOCコード発生器および前記PRNコード発生器を制御する制御発信器と、
を備え
前記第2のディスクリミネータは、前記スケール変換用情報βの算出に必要なスケール変換用情報αを、前記第1のディスクリミネータから入力される、
ことを特徴とする衛星信号のコード追尾装置。
λ:コード誤差を補正するための符合情報であり、「+1」または「−1」の値
α=|(E−L)|/2+|P|
P:P位相でのBOC相関波形の相関値
β=α+|SC|
【請求項2】
前記第1のディスクリミネータで算出された補正量δτEMLと前記第2のディスクリミネータで算出された補正量δτSCとを加重平均して補正量を算出する加重平均器を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の衛星信号のコード追尾装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、BOC(Binary Offset Carrier)方式にて変調された衛星から信号をコード追尾する衛星信号のコード追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州では、GPS(Global Positioning System)以外の衛星航法システムとして、Galileo(ガリレオ)と称されるシステムが開発されている。このGalileoでは、GPSの信号との干渉を抑制・防止するために、サブキャリアを用いたBOC方式により変調して、信号を衛星から放送することが検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。このBOC変調は、PRN(Pseudo−Random Noise、擬似ランダム雑音)コードに加えてサブキャリアを更に変調するもので、例えばBOC(1、1)の場合、サブキャリアの周波数(括弧内の左側の数字)とPRNコードのチップレート(括弧内の右側の数字)との比が、1:1となっている。
【0003】
このようなBOC変調された衛星信号を復調するに際して、CDMA(Code Division Multiple Access)方式により複数の衛星信号を受信可能な受信装置では、空中線で受信したBOC変調された衛星信号は、ベースバンド処理部で扱いやすい所定のローカル信号に周波数変換する。そして、ローカル信号のI成分(In−Phase Component:同相成分)信号とQ成分(Quadranture Component:直交成分)信号とを得る。
【0004】
また、所望の衛星のローカル周波数信号を初期捕捉した後、次のようなコード追尾制御ループ(DLL:Delay Lock Loop)によりコードを追尾する。すなわち、図6に示すように、BOCコード発生器101において、レプリカPRNコードとレプリカサブキャリアとを生成し、さらにこれらを混合し、レプリカBOCコードを生成する。次に、BOC相関器102において、I成分、Q成分のローカル信号(図中「信号」)と、レプリカBOCコードとの相関処理を行なって相関値を得、さらにこれらを積算して積算相関値・相関波形を得る。とともに、コードの追尾点であるP(Punctual)位相より位相の進んでいるE(Early)信号と、P位相より位相が遅れているL(Late)信号との差を示すE−L波形(E波形とL波形との差分波形)を生成する。
【0005】
続いて、ディスクリミネータ103において、E信号とL信号との差がゼロ(E−L=0)となるように制御する。すなわち、E−L波形を正規化し、この正規化した波形に基づいて、コードの同期ずれに対する補正量を割り出す。ここで,コードの同期ずれとは、所望の衛星信号(ローカル信号)のコードとレプリカコード間の相対的なずれのことである。そして、この補正量をローパスフィルタ104を介してコードNCO105に伝送し、コードNCO105によって、BOCコード発生器101の位相を補正量だけずらす。このようなコード追尾制御を繰り返すことにより、レプリカBOCコードとローカル信号とのコード位相を同期し、衛星信号の追尾を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Phillip W. Ward, A Design Technique to Remove the Correlation Ambiguity in Binary Offset Carrier(BOC) Spread Spectrum Signals, Proceeding of the Institute of Navigation 2004 National Techical Meeting, 2004, Jan.,pp886−896
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、GPSのL1C/A信号であれば衛星信号はPRNコードで変調されており、PRNコードの自己相関波形は、図7に示すように、理想的には±1チップの区間で、0チップを中心とした三角形になる。このため、±1チップの範囲内であれば、E−L=0となるのは必ず0チップであるため、DLLにおいて真の追尾点を追尾することが可能となる。ここで、真の追尾点とは自己相関波形の最大ピーク位置であり、図7においては0チップが真の追尾点である。
【0008】
これに対して、BOCコードの場合、その自己相関波形は、図8に示すように、0チップ、±0.5チップ近傍で傾きの符号が変化するため、±1チップ内でE−L=0となる箇所は、図中「E−L波形」が示すように、0チップ、−0.5チップ付近、+0.5チップ付近の3箇所になる。このため、DLLにおいて、真の追尾点(0チップ)に対して、誤って±0.5チップずれた誤追尾点を追尾してしまう危険性がある。
【0009】
そこでこの発明は、BOC変調された衛星信号のコード追尾をより正確に行うことが可能な衛星信号のコード追尾装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、BOC変調された衛星信号をコード追尾する衛星信号のコード追尾装置であって、
レプリカBOCコードを生成するBOCコード発生器と、
レプリカPRNコードを生成するPRNコード発生器と、
前記BOCコード発生器で生成されたレプリカBOCコードと受信した衛星信号との相関処理を行なってBOCコードの相関値を示すBOC相関波形を生成するとともに、前記BOC相関波形に基づいて、コードの追尾点であるP位相よりも位相の進んでいるE信号と、P位相よりも位相が遅れているL信号との差を示すE−L波形を生成するBOC相関器と、
前記PRNコード発生器で生成されたレプリカPRNコードと受信した衛星信号との相関処理を行うPRN相関器と、
前記BOC相関器で生成されたE−L波形に基づいたコードの同期ずれに対する補正量δτEML、下記の符号情報λと、E−L波形の0チップ位置の傾きγと、E−L波形の相関値を正規化するための情報であって下記の式を用いて算出したスケール変換用情報αとにより、下記の式を用いて算出する第1のディスクリミネータと、
前記PRN相関器で生成された相関波形に基づいたコードの同期ずれに対する補正量δτSC、前記符号情報λと、BOC−PRN相関波形の追尾点での相関値SCと、BOC−PRN相関波形の相関値を正規化するための情報であって下記の式を用いて算出したスケール変換用情報βとにより、下記の式を用いて算出する第2のディスクリミネータと、
前記第1のディスクリミネータで算出された補正量δτEMLおよび前記第2のディスクリミネータで算出された補正量δτSCに基づいて、前記BOCコード発生器および前記PRNコード発生器を制御する制御発信器と、
を備え
前記第2のディスクリミネータは、前記スケール変換用情報βの算出に必要なスケール変換用情報αを、前記第1のディスクリミネータから入力される、
ことを特徴とする。
λ:コード誤差を補正するための符合情報であり、「+1」または「−1」の値
α=|(E−L)|/2+|P|
P:P位相でのBOC相関波形の相関値
β=α+|SC|
【0011】
この発明によれば、BOC相関器によってBOC相関波形とE−L波形とが生成され、第1のディスクリミネータによって、E信号とL信号との差(E−L波形)に基づいたコードの同期ずれに対する補正量δτEMLが算出される。このとき、E−L波形では、±1チップの範囲内において、E−L=0となる箇所が3箇所存在するため、補正量がゼロとなる個所(ゼロクロス点)も3箇所存在することになる。一方、PRN相関器によってBOC−PRN相関波形が生成され、第2のディスクリミネータによって、BOC−PRN相関波形に基づいたコードの同期ずれに対する補正量δτSCが算出される。このとき、BOC−PRN相関波形では、±1チップの範囲内において、相関値がゼロとなるのは、0チップの1箇所のみであるため、ゼロクロス点も0チップの1箇所のみに存在する。そして、これらの補正量δτEML、δτSCに基づいて、制御発信器によってBOCコード発生器とPRNコード発生器のコード位相が制御され、衛星信号のコードが追尾される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコード追尾装置において、前記第1のディスクリミネータで算出された補正量δτEMLと前記第2のディスクリミネータで算出された補正量δτSCとを加重平均して補正量を算出する加重平均器を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、第1のディスクリミネータが算出する、誤追尾しないことが保証されている場合には重畳する雑音量が少ないという特徴を有する補正量δτEMLと、第2のディスクリミネータが算出する、±1チップの範囲内において、ゼロクロス点が0チップ付近の1箇所のみに存在することにより、±1チップという広い範囲で誤追尾することがないという特徴を有する補正量δτSCとに基づいて各発生器のコード位相が制御されるため、誤追尾することなく、真の追尾点を正確に追尾することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、2のディスクリミネータで算出された補正量δτEML、δτSCを加重平均した補正量に基づいて、各発生器のコード位相を制御するため、より適正、正確なコード追尾を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態に係る衛星信号のコード追尾装置を示す構成ブロック図である。
図2図1のコード追尾装置のPRN相関器の出力信号を示す図である。
図3図1のコード追尾装置のBOC用ディスクリミネータの出力信号を示す図である。
図4図1のコード追尾装置の第2のディスクリミネータの出力信号を示す図である。
図5図1のコード追尾装置の加重平均器の出力信号を示す図である。
図6】従来の衛星信号のコード追尾装置を示す構成ブロック図である。
図7】PRNコードの積算相関値を示す図である。
図8】BOCコードの積算相関値とそのE−L波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係る衛星信号のコード追尾装置(以下、「コード追尾装置」という)1を示す構成ブロック図である。このコード追尾装置1は、BOC変調された衛星信号をコード追尾する装置であり、逆拡散およびBOC復調を行うスペクトラム拡散信号受信装置(以下、「受信装置」という)に組み込まれている。ここで、以下に述べるBOCは、サブキャリアの周波数とPRNコードのチップレートとの比が1:1である、BOC(1、1)とする。
【0018】
受信装置は、空中線で受信したBOC変調された衛星信号を、ベースバンド処理部で扱いやすい所定のローカル信号に周波数変換し、ローカル信号のI成分信号とQ成分信号とを得る。
【0019】
次に、ローカル信号のI成分信号、Q成分信号と、E、P、L位相のレプリカBOCコードとの相関処理を行い、相関値を算出し、さらに各相関値を積算して各積算相関値を算出する。そして、算出した各積算相関値を用いて、所望の衛星信号のBOCコードの初期捕捉を行い、コード追尾装置1によってBOCコードを追尾する。同時に、所望の衛星信号に含まれる搬送波成分を初期捕捉した後、搬送波成分を追尾する。このような追尾動作を維持することで、コード追尾情報,搬送波成分の追尾情報を得、さらに衛星信号に含まれる航法データまたはセカンダリーコードの情報を得る。
【0020】
コード追尾装置1は、主として、BOCコード発生器21と、PRNコード発生器31と、BOC相関器22と、PRN相関器32と、BOC用ディスクリミネータ(第1のディスクリミネータ)23と、第2のディスクリミネータ33と、加重平均器4と、コードNCO(制御発信器)6とを備えている。
【0021】
BOCコード発生器21は、コードNCO6からの制御指令に基づいて、レプリカBOCコードを生成する発生器であり、所望の衛星信号のPRNコードと同一のレプリカPRNコードと、このレプリカPRNコードのチップレートと同一の周波数のサブキャリアとを発生、混合して、レプリカBOCコードを生成する。
【0022】
PRNコード発生器31は、コードNCO6からの制御指令に基づいて、レプリカPRNコードを生成する発生器であり、所望の衛星信号のPRNコードと同一のレプリカPRNコードを生成する。
【0023】
BOC相関器22は、まず、BOCコード発生器21で生成されたレプリカBOCコードと、受信した衛星信号との相関処理を行なってBOCコードの相関値を示すBOC相関波形を生成する。具体的には、E、P、L位相のレプリカBOCコードと、ローカル信号のI成分、Q成分との相関値を算出し、レプリカBOCコードの繰り返し周期に相当する期間、積算する。積算した相関波形を正規化すると、図8に示すように、0チップで最大ピーク+1のメインピークを有し、±0.5チップ付近で−0.5程度のサイドピークを有するBOC相関波形が生成される。次に、このBOC相関波形に基づいて、コードの追尾点であるP位相よりも位相の進んでいるE信号・位相と、P位相よりも位相が遅れているL信号・位相との差を示すE−L波形を生成する。これにより、図8に示すように、±1チップ内において、0チップ付近、−0.5チップ付近、+0.5チップ付近の3箇所で、E−L=0となる箇所(ゼロクロス点)を有するE−L波形が生成される。
【0024】
PRN相関器32は、PRNコード発生器31で生成されたレプリカPRNコードと、受信した衛星信号との相関処理を行なってBOC−PRN相関波形を生成する。具体的には、レプリカPRNコードと、ローカル信号のI成分、Q成分との相関値を算出し、レプリカPRNコードの繰り返し周期に相当する期間、積算する。これにより、図2に示すように、±0.5チップ範囲内の傾きが「−1」で、正規化相関値がゼロとなるチップ位置(ゼロクロス点)が、0チップの1箇所のみであるBOC−PRN相関波形が生成される。このようにBOC−PRN相関波形が生成されるのは、入力BOC信号(衛星信号)とレプリカPRNコードとの相関によって、入力BOC信号に重畳されていたサブキャリア成分が出力(抜き出される)されるためである。
【0025】
BOC用ディスクリミネータ23は、BOC相関器22で生成されたE−L波形を正規化して、E信号とL信号との差に基づいたコードの同期ずれに対する補正量を算出する。具体的には、この実施の形態では、次式数1によって補正量δτEMLを算出し、これを積算する。
【0026】
【数1】
ここで、λは符合情報、E−LはE−L波形の相関値、γはE−L波形の0チップ位置の傾き、αはE−L波形の相関値を正規化するためのスケール変換用情報である。スケール変換用情報αは,例えば次式数2によって算出してもよい。
【数2】
ここで,PはP位相でのBOC相関波形の相関値である。
【0027】
これにより、図3に示すように、「コード同期ずれ」に対する「補正量」を示すE−L波形による補正用波形が生成・出力される。この波形は、±1チップ内において、「補正量」がゼロとなる「コード同期ずれ」の個所(ゼロクロス点)が、0チップ、−0.5チップ付近、+0.5チップ付近の3箇所存在する。
【0028】
ここで、符合情報λは、コード誤差を正しく補正するための符号情報であり、その値は、「+1」または「−1」になる。図8のBOC相関波形とE−L波形は航法データまたはセカンダリーコードの符合が「+1」の場合を図示しているが、航法データまたはセカンダリーコードの符合が「−1」の場合において、図8のBOC相関波形とE−L波形はX軸に関して上下反転した対称図形になる。すなわち、航法データまたはセカンダリーコードの符合によってE−L波形の相関値の符合が変わるため、この影響を相殺する目的で数1と後述する数3に符合情報λを導入している。ここで、符合情報λが正しくない場合は、コードの同期ずれが増大されてしまう。このため、符号情報を正しく生成する必要があり、例えば、次のようにして生成する。
【0029】
「符号情報λの生成方法」
Galileo衛星信号のE1−C信号を受信する受信装置において、E1−C信号に重畳しているセカンダリーコードは、既知情報であるため、受信装置内で生成したセカンダリーコードと受信したセカンダリーコードとを一度同期させることで、同期したセカンダリーコードの符号を符号情報として用いる。また、セカンダリーコードを同期させずに、衛星位置、ユーザ位置、受信機時刻、所定受信機時刻の相関値の情報から、受信すべきセカンダリーコードを算出し、その算出結果を符号情報として用いることも可能である。
【0030】
第2のディスクリミネータ33は、PRN相関器32で生成されたBOC−PRN相関波形を正規化して、BOC−PRN相関波形に基づいたコードの同期ずれに対する補正量を算出する。具体的には、この実施の形態では、次式数3によって補正量δτSCを算出し、これを積算する。
【0031】
【数3】
ここで,SCはBOC−PRN相関波形の相関値で、βはBOC−PRN相関波形の相関値を正規化するためのスケール変換用情報である。スケール変換用情報βは、例えば次式数4によって算出してもよい。
【0032】
【数4】
【0033】
これにより、図4に示すように、「コード同期ずれ」に対する「補正量」を示すBOC−PRN相関波形による補正用波形が生成・出力される。この波形は、±1チップ内において、「補正量」がゼロとなる「コード同期ずれ」の個所(ゼロクロス点)が、0チップにのみ1箇所存在する。ここで、数4の算出に必要なスケール変換用情報αは、BOC用ディスクリミネータ23から第2のディスクリミネータ33に入力され、符号情報λは、前述のようにして生成される。
【0034】
加重平均器4は、ローパスフィルタ5を介して入力された各ディスクリミネータ23、33で算出された補正量を加重平均して平均補正量δτを算出する。例えば、重みをw、wとした場合に、次式数5によって算出、積算する。
【0035】
【数5】
これにより、図5に示すように、約±1チップ内において、「補正量」がゼロとなる「コード同期ずれ」の個所(ゼロクロス点)が、0チップにのみ1箇所存在する補正用波形が生成・出力される。ここで、図5の波形は、w=w=1の場合を示している。
【0036】
コードNCO6は、ディスクリミネータ23、33で算出された補正量に基づいて、BOCコード発生器21およびPRNコード発生器31のコード位相を制御・調整する数値制御発信器である。具体的には、加重平均器4で算出された平均補正量δτに基づいて、レプリカコードの位相を制御するためのコードチップレート・制御指令を発生器21、31に出力する。これにより、発生器21、31によるレプリカコードが、ローカル信号に対して位相同期するものである。
【0037】
ここで、BOC用ディスクリミネータ23で算出された補正量は、第2のディスクリミネータ33で算出された補正量より雑音量が少ないという特徴がある。これは、BOC用ディスクリミネータ23の補正量を算出する元としたE−L波形において、E位相に重畳している雑音とL位相に重畳している雑音には高い相関があるためで、E位相とL位相の差をとることにより、お互いの雑音の符合が逆になることで、重畳している雑音が相殺される効果がある。このE位相とL位相に重畳している雑音の相関特性は、E位相とL位相の間の距離が短いほど高い相関性があることが知られている。一方、BOC−PRN相関波形にはこのような雑音の相殺効果はない。このため、BOC用ディスクリミネータ23で算出された補正量は、誤追尾する原因になる正しくない補正量が算出される危険性があるが、誤追尾しないことが保証されている場合には、補正量の精度が高い(補正量に重畳する雑音量が少ない)という特徴がある。
【0038】
このようにして発生器21、31のコード位相を補正量に基づいて制御する、というコード追尾制御ループ(DLL)を継続することで、衛星信号をコード追尾するものである。そして、このようなコード追尾装置1によれば、約±1チップの範囲内において、コード同期ずれに対する補正量のゼロクロス点が0チップの1箇所のみに存在する補正用波形(平均補正量δτ)に基づいて、各発生器21、31のコード位相が制御される。このため、誤追尾することなく(サイドピークの誤追尾点を追尾することなく)、確実に真の追尾点(メインピーク)を追尾することが可能となる。しかも、約±1チップという広い範囲で、確実に真の追尾点を追尾することが可能である。さらに、2つのディスクリミネータ23、33の補正量を加重平均した平均補正量δτに基づいて、各発生器21、31のコード位相を制御するため、より適正、正確なコード追尾を行うことが可能となる。
【0039】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、加重平均器4で加重平均された平均補正量δτに基づいて、各発生器21、31のコード位相を制御しているが、その他の手法によりコード位相を制御してもよい。例えば、誤追尾のおそれが低い場合には、BOC用ディスクリミネータ23で算出された補正量のみに基づいて、各発生器21、31のコード位相を制御し、誤追尾のおそれが高い場合には、第2のディスクリミネータ33で算出された補正量のみに基づいて、各発生器21、31のコード位相を制御してもよい。これにより、誤追尾のおそれが低い場合には、より高精度な追尾が可能となる。また、加重平均器4を用いているが、カルマンフィルタを用いて補正量を推定、算出してもよく、さらに、補正量δτEML、δτSCなどの算出式は、上記以外の式であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 コード追尾装置
21 BOCコード発生器
22 BOC相関器
23 BOC用ディスクリミネータ(第1のディスクリミネータ)
31 PRNコード発生器
32 PRN相関器
33 第2のディスクリミネータ
4 加重平均器
6 コードNCO(制御発信器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8