(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765975
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】圧着端子
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
H01R4/18 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-48844(P2011-48844)
(22)【出願日】2011年3月7日
(65)【公開番号】特開2012-186050(P2012-186050A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】大沼 雅則
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義貴
【審査官】
岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−061870(JP,A)
【文献】
特開2010−003467(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/128344(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 3/00− 4/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子長手方向をX方向とし、X方向に直交する端子幅方向ならびに圧着対象の電線の導体の周方向をY方向とした場合に、
底板と、該底板のY方向における両側に延設されて該底板の内面上にX方向に沿って配される素線束よりなる電線の導体を包むように加締められる一対の導体加締片とで断面略U字状に形成された導体圧着部を有し、該導体圧着部の内面に凹状のセレーションが設けられた圧着端子において、
前記セレーションとして、前記電線の素線の直径より小さい直径の多数の同一形状の円筒凹部が点在するように設けられ、
前記多数の円筒凹部のなかに、Y方向に互いの位置がずれた関係にある複数の円筒凹部の間でY方向の位置が一部で互いにラップする関係のものが分散して含まれていることを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧着端子であって、
前記導体圧着部の内面にX方向に対して斜めに交差する格子が仮想的に設定され、該格子の各格子点に前記円筒凹部が配置されることで、X方向に隣接する格子線上の前記円筒凹部の間でY方向の位置が互いにずれており、該X方向に隣接する格子線上のY方向の位置が互いにずれた関係にある前記円筒凹部の間で、Y方向の位置が一部で互いにラップしていることを特徴とする圧着端子。
【請求項3】
請求項1に記載の圧着端子であって、
前記導体圧着部の内面にX方向に対して斜めに交差しY方向に線対称な格子が仮想的に設定されることで、前記格子の一方の対角線がX方向に位置し、他方の対角線がY方向に位置しており、且つ、該格子の各格子点に前記円筒凹部が配置されることで、Y方向に一定ピッチで前記円筒凹部が直線的に配列されると共に、X方向に隣接する配列間で前記円筒凹部が半ピッチずつY方向にずれた位置関係とされており、該X方向に隣接する配列間のY方向に半ピッチずれた前記円筒凹部の間で、Y方向の位置が一部で互いにラップしていることを特徴とする圧着端子。
【請求項4】
請求項3に記載の圧着端子であって、
前記格子のX方向に位置する一方の対角線が、Y方向に位置する他方の対角線よりも長くなるように設定されていることを特徴とする圧着端子。
【請求項5】
請求項3に記載の圧着端子であって、
前記格子のX方向に位置する一方の対角線の長さと、Y方向に位置する他方の対角線の長さとが等しくなるように設定されていることを特徴とする圧着端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線との接続に用いて好適な圧着端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の圧着端子として、
図9に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この圧着端子110は、図示しない相手側端子と電気的に接続可能な電気接続部111と、電線の複数本の素線を撚り合わせてなる導体(芯線)に圧着して接続される断面略U字状の導体圧着部112と、電線の被覆部に固定される被覆加締部115とを備えている。この導体圧着部112の内面112aには、導体の長手方向に対して直交する方向に延びる3本の凹溝状のセレーション118が形成されている。
【0003】
そして、圧着端子110の導体圧着部112を電線の導体に加締めにより圧着すると、導体の素線が、凹溝状のセレーション118内に変形しながら押込まれる際に、セレーション118の縁部であるセレーションエッジをきっかけにして、導体の素線の表面の酸化膜が破られて新生面が生成され、この新生面と圧着端子110の導体圧着部112とが密着して、圧着端子110と電線の電気接続が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−245695号公報(
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来技術の圧着端子110では、導体圧着部112に電線の導体を加締める際のばらつきが大きく、例えば、圧着力が足りない(圧縮率が低過ぎる)と、新生面の生成が十分に行なわれず、圧着端子110と電線の酸化膜との間の電気的な接続抵抗が高く、不安定になる。また、圧着力が強過ぎる(圧縮率が高過ぎる)と、導体へのダメージが大きく(特に細い素線を撚り束ねた導体の場合はダメージが大きくなりやすく)、圧着端子110と電線の機械的な接続強度(固着力)が低くばらつきやすくなるという問題がある。
【0006】
そこで、凹溝状のセレーション118に代わる物として、
図10及び
図11に示すように、複数の円筒の凹部からなる丸セレーション116を等間隔に直列に配置する構成が考えられている。このような丸セレーション116によって、凹溝状のセレーション118よりも
図11中符号117で示すセレーションエッジ長を確保できるので、圧着力を高めなくても新生面の生成が行えるので、導体へのダメージを小さくすることができる。
【0007】
しかしながら、丸セレーション116でも、等間隔に直列に配置しただけでは、導体圧着部112に電線の導体を加締める際のばらつきを抑えることは困難である。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮し、導体圧着部に電線の導体を加締める作業におけるばらつきを低減し、電気的な接続抵抗を低く安定させることができると共に、機械的な接続強度を高く安定させることができる圧着端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、端子長手方向をX方向とし、X方向に直交する端子幅方向ならびに圧着対象の電線の導体の周方向をY方向とした場合に、底板と、該底板のY方向における両側に延設されて該底板の内面上にX方向に沿って配される素線束よりなる電線の導体を包むように加締められる一対の導体加締片とで断面略U字状に形成された導体圧着部を有し、該導体圧着部の内面に凹状のセレーションが設けられた圧着端子において、前記セレーションとして、前記電線の素線の直径より小さい直径の多数の同一形状の円筒凹部が点在するように設けられ、前記多数の円筒凹部のなかに、Y方向に互いの位置がずれた関係にある複数の円筒凹部の間でY方向の位置が一部で互いにラップする関係のものが分散して含まれていることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の圧着端子であって、前記導体圧着部の内面にX方向に対して斜めに交差する格子が仮想的に設定され、該格子の各格子点に前記円筒凹部が配置されることで、X方向に隣接する格子線上の前記円筒凹部の間でY方向の位置が互いにずれており、該X方向に隣接する格子線上のY方向の位置が互いにずれた関係にある前記円筒凹部の間で、Y方向の位置が一部で互いにラップしていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1に記載の圧着端子であって、前記導体圧着部の内面にX方向に対して斜めに交差しY方向に線対称な格子が仮想的に設定されることで、前記格子の一方の対角線がX方向に位置し、他方の対角線がY方向に位置しており、且つ、該格子の各格子点に前記円筒凹部が配置されることで、Y方向に一定ピッチで前記円筒凹部が直線的に配列されると共に、X方向に隣接する配列間で前記円筒凹部が半ピッチずつY方向にずれた位置関係とされており、該X方向に隣接する配列間のY方向に半ピッチずれた前記円筒凹部の間で、Y方向の位置が一部で互いにラップしていることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載の圧着端子であって、前記格子のX方向に位置する一方の対角線が、Y方向に位置する他方の対角線よりも長くなるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項3に記載の圧着端子であって、前記格子のX方向に位置する一方の対角線の長さと、Y方向に位置する他方の対角線の長さとが等しくなるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、導体圧着部の内面に、セレーションとして、電線の素線の直径より小さい直径の多数の同一形状の円筒凹部を点在するように設けたので、円筒凹部の開口縁であるセレーションエッジのトータル長を十分に長く設定することができる。従って、導体圧着部を電線の導体に加締めた際に、トータル長の長いセレーションエッジによって導体表面の酸化膜を破ることにより多くの新生面を生成することができ、これにより、導体と端子とが密着する面積を増加させることができて、電気的な接続抵抗を低く安定させることができる。
【0015】
また、素線径より径の小さな円筒凹部が多数点在することによって、圧着時に各素線に加わるダメージ(即ち、言い換えると、圧縮率)を分散させることができるため、機械的な接続強度を安定して高めることができる。
【0016】
また、電線の素線の直径より小さい直径の多数の同一形状の円筒凹部のなかに、Y方向に互いの位置がずれた関係にある複数の円筒凹部の間でY方向の位置が一部で互いにラップする関係のものが分散して含まれているので、円筒凹部の内部に素線が2本入り込むところが必ず存在することになり、この素線が2本入り込むところにおいて、入り込み時の素線の伸びにより、双方の素線に生成される新生面同士の接触が促進されることになる。特に、アルミニウムやアルミニウム合金製の素線である場合には新生面同士の凝着が促進されることになり、安定した電気的性能を得ることができる。
【0017】
なお、素線の直径よりも円筒凹部の直径を大きく設定すれば、複数の素線を円筒凹部の内部に入り込ませることが容易になるが、この場合は決められた面積の中に配置できる円筒凹部の個数が少なくなるため、セレーションエッジのトータル長が短くなってしまい、この点で、新生面の生成に不利となる。これに対し、本発明のように、素線の直径よりも円筒凹部の直径を小さく設定した場合は、決められた面積の中に配置できる円筒凹部の個数を多くすることができるため、セレーションエッジのトータル長を長くすることができ、この点で、上述したように新生面の生成に有利となる。
【0018】
請求項2の発明によれば、導体圧着部の内面に仮想的に設定した格子の各格子点に円筒凹部を配置し、X方向に隣接する格子線上のY方向の位置が互いにずれた関係にある円筒凹部の間で、Y方向の位置を一部で互いにラップさせているので、円筒凹部の内部に素線が2本入り込むところをバランスよく多く存在させることができ、電気的性能の一層の安定化を図ることができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、導体圧着部の内面に仮想的に設定した格子の各格子点に円筒凹部を配置し、X方向に隣接する配列間のY方向に半ピッチずつずれた円筒凹部の間で、Y方向の位置を一部で互いにラップさせているので、円筒凹部の内部に素線が2本入り込むところをバランスよく多く存在させることができ、電気的性能の一層の安定化を図ることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、格子のX方向に位置する一方の対角線が、Y方向に位置する他方の対角線よりも長くなるように設定されているので、小さな円筒凹部でも、X方向に隣接する配列間のY方向に半ピッチずつずれた円筒凹部の間で、Y方向の位置を互いにラップさせやすくなる。また、導体の周方向(Y方向)に対してセレーションの間隔が狭まることになるので、セレーションエッジによって生成する新生面の面積を大きくすることができ、導体と端子との電気的な接続抵抗をより低く安定させることができる。また、X方向に対してセレーションの間隔が広まることになるので、各素線に加わるダメージをより分散させることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、格子のX方向に位置する一方の対角線の長さとY方向に位置する他方の対角線の長さとが等しくなるように設定されているので、電気的な接続抵抗の安定的な低減と機械的な接続強度の安定的な強化をバランス良く図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態の圧着端子を示す斜視図である。
【
図2】同第1実施形態の圧着端子の導体圧着部を示す要部の展開図である。
【
図4】同第1実施形態の圧着端子の導体圧着部に形成されたセレーションと素線の関係を示す拡大図である。
【
図5】同セレーションの内部に圧着によって2本の素線が入り込んだ状態を示す拡大断面図である。
【
図6】導体圧着部の内面に形成されたセレーションの配置と素線の関係を示す図で、(a)は本発明の実施形態の場合を示す要部の展開図、(b)は比較例の場合を示す要部の展開図である。
【
図7】本発明の第2実施形態の圧着端子の導体圧着部を示す要部の展開図である。
【
図10】他の従来の圧着端子の導体圧着部を示す要部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図1は第1実施形態の圧着端子を示す斜視図、
図2は同圧着端子の導体圧着部を示す要部の展開図、
図3は
図2のA−A矢視断面図、
図4は同圧着端子の導体圧着部に形成されたセレーション(円筒凹部)と電線の素線の関係を示す拡大図である。
【0025】
図1に示すように、この圧着端子10は、錫メッキが施された銅または銅合金の板材、あるいは、アルミニウムまたはアルミニウム合金の板材をプレス加工することにより製作されている。圧着端子10は、先端部分に相手側端子と電気的に接続される電気接続部11と、電気接続部11の直後に、電線Wの導体Waの端末の外周に巻回、圧着して導体Waと電気的に接続される断面略U字状の導体圧着部12と、その更に後側に、電線Wの被覆Wb付の部分の外周に巻回し、加締められる断面略U字状の被覆加締部15とを有している。
【0026】
図2に示すように、電線Wは、複数本の素線Wcを撚り合わせてなる導体(芯線)Waと、この導体Waを被覆する絶縁被覆Wbとで構成されており、圧着端子10は、電線Wの導体Waの端末(前端)に、その前後方向を電線Wの導体Waの長手方向と一致させて接続される。
【0027】
ここでは、圧着端子10の前後方向つまり端子長手方向をX方向、それに直交する端子幅方向ならびに導体Waの周方向をY方向として説明する。
【0028】
導体圧着部12は、電気接続部11から連続する底板13と、底板13の左右両側(Y方向における両側)に延設されて底板13の内面13a上に配された導体Waを包むように加締められる左右一対の導体加締片14、14とで断面略U字状に形成されている。
【0029】
この導体圧着部12の内面、即ち底板13の内面13aから導体加締片14の内面14aにかけての範囲には、凹状のセレーションとして、電線Wの素線Wcの直径dより小さい直径2rの多数の同一形状(同一深さ、且つ同一半径r)の円筒凹部16が点在するように設けられている。
【0030】
具体的には、
図2に二点鎖線で示すように、導体圧着部12の内面に、X方向に対して斜めに交差し、Y方向に線対称な格子21が仮想的に設定されることで、格子21の一方の対角線21aがX方向に位置し、他方の対角線21bがY方向に位置しており、格子21の各格子点に、それぞれ円筒凹部16が配置されている。従って、Y方向に一定ピッチ2tで円筒凹部16が直線的に配列されると共に、X方向に隣接する配列間で円筒凹部16が半ピッチtずつY方向にずれた位置関係とされている(
図4参照)。また、この実施形態においては、格子21は、X方向に位置する一方の対角線21aが、Y方向に位置する他方の対角線21bよりも長くなるように設定されており、X方向に長い菱形格子になっている。
【0031】
さらに、この導体圧着部12においては、多数の円筒凹部16のなかに、Y方向に互いの位置がずれた関係にある複数の円筒凹部16の間でY方向の位置が一部で互いに寸法S(S<2r)だけラップする関係のものが分散して含まれている。即ち、X方向に隣接する円筒凹部16の配列間のY方向に半ピッチtずれた円筒凹部16の間で、Y方向の位置が一部で寸法Sだけ互いにラップしている。
【0032】
このように構成された圧着端子10の導体圧着部12の底板13の上に、電線Wの端末を皮剥きして露出させた導体Waを載せて、一対の導体加締片14,14を導体Waを包むように加締めて圧着すると、外部から加えられる押圧力により、導体圧着部12の内面と導体Waが強く圧接して、セレーションである円筒凹部16と隣接する円筒凹部16の間では導体Waが長手方向に沿って延びると共に、円筒凹部16の内部に導体Waが圧入される。
【0033】
そして、導体Waが円筒凹部(セレーション)16の内部に圧入される際に、セレーションエッジ17によって導体Wa表面の酸化膜が破れて新生面が露出し、新生面と円筒凹部16の内面とが密着することで、電気的な接続抵抗を下げることができる。また、導体Waが円筒凹部16の内部に圧入されることで、導体Waがセレーションエッジ17に引っ掛かり、機械的な接続強度を高めることができる。
【0034】
また、導体圧着部12の内面に、セレーションとして、電線の素線Wcの直径dより小さい直径2rの多数の同一形状の円筒凹部16が点在するように設けられているので、円筒凹部16の開口縁であるセレーションエッジ17のトータル長を十分に長く設定することができる。従って、導体圧着部12を電線の導体Waに加締めた際に、トータル長の長いセレーションエッジ17によって導体Wa表面の酸化膜を破ることにより多くの新生面を生成することができ、これにより、導体Waと圧着端子10とが密着する面積を増加させることができて、電気的な接続抵抗を低く安定させることができる。
【0035】
また、素線Wcの直径dより直径2rの小さな円筒凹部16が多数点在することによって、圧着時に各素線Wcに加わるダメージ(即ち、言い換えると、圧縮率)を分散させることができるため、機械的な接続強度を安定して高めることができる。
【0036】
また、電線Wの素線Wcの直径dより小さい直径2rの多数の同一形状の円筒凹部16のなかに、Y方向に互いの位置がずれた関係にある複数の円筒凹部16の間でY方向の位置が一部で互いに寸法Sだけラップする関係のものが分散して含まれているので、言い換えると、導体圧着部12の内面に仮想的に設定された格子21の各格子点に円筒凹部16を配置され、X方向に隣接する配列間のY方向に半ピッチtずつずれた円筒凹部16の間で、Y方向の位置が一部で互いに寸法Sだけラップしているので、
図4、
図5、
図6(a)に示すように、1つの円筒凹部16の内部に素線Wcが同時に2本入り込むところPが必ず存在することになり、その素線Wcが2本入り込むところPにおいて、入り込み時の素線Wcの伸び(
図5中の矢印)により、双方の素線Wcに生成される新生面Pa同士の接触が促進されることになる。特にアルミニウムやアルミニウム合金製の素線Wcである場合には、新生面同士の凝着が促進されることになり、安定した電気的性能を得ることができる。
【0037】
また、格子21のX方向に位置する一方の対角線21aがY方向に位置する他方の対角線21bよりも長くなるように設定されているので、小さな円筒凹部16でも、X方向に隣接する配列間のY方向に半ピッチtずつずれた円筒凹部16の間で、Y方向の位置を互いにラップさせやすくなる。また、導体Waの周方向(Y方向)に対して円筒凹部(セレーション)16の間隔が狭まることになるので、セレーションエッジ17によって生成する新生面の面積を大きくすることができ、導体Waと端子10との電気的な接続抵抗をより低く安定させることができる。また、X方向に対して円筒凹部(セレーション)16の間隔が広まることになるので、各素線Wcに加わるダメージをより分散させることができる。
【0038】
因みに、
図6(b)の比較例のように、Y方向に位置がずれた円筒凹部16の間で、Y方向に一部がラップしているものがないと、1つの円筒凹部16の内部に素線Wcが2本同時に入り込むところが存在しない場合があり得るので、双方の素線Wcに生成される新生面Pa同士の接触(あるいは凝着)が促進されにくいと言うことができる。
【0039】
なお、素線Wcの直径dよりも円筒凹部16の直径2rを大きく設定すれば、複数の素線Wcを円筒凹部16の内部に入り込ませることが容易になるが、この場合は、決められた面積の中に配置できる円筒凹部16の個数が少なくなるため、セレーションエッジ17のトータル長が短くなってしまい、この点で、新生面の生成に不利となる。
【0040】
さらに、本実施形態では、セレーションとしての円筒凹部16が、格子21の一方の対角線21aがX方向に位置し、他方の対角線21bがY方向に位置する正方形格子になるよう想定された各格子点に配置されていることによって、電気的な接続抵抗の安定的な低減と機械的な接続強度の安定的な強化をバランス良く図ることができる。
【0041】
なお、格子21の間隔、およびセレーションとしての円筒凹部16の穴径、深さは、導体Waを構成する素線Wcの素材や線径、本数等に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0042】
次に、第2実施形態について、図面に基づいて説明する。上記第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施形態と上記第1実施形態との構成で大きく異なる点は、導体圧着部12の内面に形成されたセレーションとしての円筒凹部16の配置パターンである。
【0043】
図7は第2実施形態の圧着端子の導体圧着部を示す要部の展開図、
図8は
図7のB−B矢視断面図である。
【0044】
本第2実施形態の圧着端子の導体圧着部12Bでは、円筒凹部16が配置される格子22のX方向に位置する一方の対角線22aとY方向に位置する他方の対角線22bとが等しい長さに設定されており、格子22が正方形格子になっている。
【0045】
電線Wの端末に導体圧着部12を圧着する工程については、前記第1実施形態と同様である。
【0046】
このように、格子22のX方向に位置する一方の対角線22aの長さとY方向に位置する他方の対角線22bの長さとが等しくなるように設定されている場合は、電気的な接続抵抗の安定的な低減と機械的な接続強度の安定的な強化をバランス良く図ることができる。
【0047】
なお、前記第1実施形態では、円筒凹部16が配置される格子22のX方向に位置する一方の対角線22aがY方向に位置する他方の対角線22bより長く設定されている場合について述べたが、X方向に位置する一方の対角線22aがY方向に位置する他方の対角線22bよりも短く設定されていてもよい。
【0048】
また、前記各実施形態においては、導体圧着部12の内面に仮想的に設定される格子21、22が、Y方向について線対称である場合について述べたが、必ずしもそれに限られない。
【0049】
例えば、導体圧着部12の内面にX方向に対して斜めに交差する格子が仮想的に設定され、格子の各格子点に円筒凹部が配置されることで、X方向に隣接する格子線上の円筒凹部の間でY方向の位置が互いにずれている場合であれば、X方向に隣接する格子線上のY方向の位置が互いにずれた関係にある円筒凹部の間で、Y方向の位置が一部で互いにラップしている条件を満たせば、前記と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 圧着端子
12,12B 導体圧着部
13 底板
13a 内面
14 導体加締片
14a 内面
16 円筒凹部(セレーション)
21,22 格子
21a,22a X方向に位置する対角線
21b,22b Y方向に位置する対角線
W 電線
Wa 導体
Wc 素線
d 素線の直径
2r 円筒凹部の直径
2t Y方向のピッチ
S ラップ代