【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、基板上の磁気抵抗センサと、
磁気的にマーキングされた細胞サンプルを濃縮するための濃縮区間とを備え、
濃縮区間が第1部分と第2部分を有し、第2部分が基板上に配置され、第1部分が基板の隣の担体上に配置され、
濃縮区間が基板の縁部を越えて
延び、濃縮区間は磁気的にマーキングされた細胞サンプルを基板上の磁気抵抗センサ上に案内する磁気ガイド片を有し、磁気的にマーキングされた細胞サンプルを磁界により基板上で濃縮させる永久磁石が設けられている磁気フローサイトメトリー装置により解決される(請求項1)。
この磁気フローサイトメトリー装置の製造方法は、
半導体基板上に磁気抵抗センサを形成する工程、
半導体基板上に
濃縮区間の第2部分を取り付ける工程、
担体上に半導体基板をパッケージング(実装)し、担体上に磁気抵抗センサの電気接続部を引き出す工程、
濃縮区間の第1部分を形成する工程
を有する(請求項
9)。
磁気の細胞検出方法によれば、磁気的にマーキングされた細胞サンプルが本発明による磁気フローサイトメトリー装置に注入される
(請求項14)。
本発明の有利な実施態様は次の通りである。
*磁気フローサイトメトリー装置に
関して
・磁気ガイド片が強磁性体である(請求項
2)。
・
濃縮区間に沿ってフロー室、特にマイクロ流体流路が形成され、マイクロ流体流路を通って流れる磁気的にマーキングされた細胞サンプルが磁気ガイド片で方向付けられる(請求項
3)。
・磁石を備え、この磁石がマイクロ流体流路を通って流れる磁気的にマーキングされた細胞サンプルが流路床面にある磁石の磁界により
濃縮されるように配置される(請求項
4)。
・マイクロ流体流路の第1部分及び第2部分並びに磁気抵抗センサ
は、マイクロ流体流路を通って流れる磁気的にマーキングされた細胞サンプルが先ずマイクロ流体流路の第1部分を通って
濃縮区間の第1部分上に、ついでマイクロ流体流路の第2部分を通って
濃縮区間の第2部分上およびセンサ上に案内され
るように配置され、マイクロ流体流路の第2部分および
濃縮区間の第2部分は、
マイクロ流体流路の第2部分および濃縮区間の第2部分によりそれぞれマイクロ流体流路の第1部分および
濃縮区間の第1部分に対するずれが流動する磁気的にマーキングされた細胞サンプルの
濃縮及び方向付けに関して修正されるように
形成されている(請求項
5)。
・
濃縮区間の長さが少なくとも15000μmである(請求項
6)。
・基板の最大拡がりが18000μm以下である(請求項
7)。
・磁気抵抗センサが
巨大磁気抵抗(GMR
)センサ、トンネル磁気抵抗(TMR
)センサまたは
異方性磁気抵抗(AMR
)センサである(請求項
8)。
*磁気フローサイトメトリー装置の製造方法に関して
・半導体基板のパッケージング(実装)工程は、パッケージング材料からマイクロ流体流路が形成されるように行われる(請求項
10)。
・
マイクロ流体流路は射出成形工程において形成される(請求項
11)。
・
濃縮区間の第1部分の磁気ガイド片が特に熱蒸着またはスパッタリングにより直接流路床面上に堆積される(請求項
12)。
・
濃縮区間の第2部分の磁気ガイド片が特に熱蒸着またはスパッタリングにより直接半導体基板上に堆積される(請求項
13)。
【0010】
本発明による磁気フローサイトメトリー装置は基板上の磁気抵抗センサと
濃縮区間を有する。この場合
濃縮区間は第1部分と第2部分に分けられる。
濃縮区間の第2部分は基板上に配置され、
濃縮区間の第1部分は基板の隣りの担体上に配置されるので、
濃縮区間は基板の縁部を超えて延びている。
【0011】
できるだけ長い
濃縮区間を形成するとともに、磁気抵抗センサが形成されている半導体基板を不必要に拡大しないようにするために、
濃縮区間は基板の隣りに形成される。特に
濃縮区間と基板は共通の担体、たとえばプリント回路板を分かち合っている。このプリント回路板上に半導体基板はセンサとともに載置されて電気的に接続され、かつ電気接続部を絶縁し腐食並びに機械的損傷から保護するようにパッケージ中に装填される。この担体基板もしくは担体基板上に載置されるパッケージング材料上に
濃縮区間は任意の長さに施される。たとえば
濃縮区間を蛇行状に形成し、曲がり部分を介して接続される多数の軌道内をセンサを備えた半導体チップに達するまで延びるようにすることができる。特に細胞サンプルを流すことのできるフロー室の形成にはパッケージング材料が使用される。パッケージングは特に射出成形法により行われ、これによりフロー室が作られる。
【0012】
濃縮区間は特に強磁性の磁気ガイド片を有すると有利である。ガイド片用の強磁性材料としてはたとえばニッケルが挙げられる。強磁性合金もこのために使用可能である。
【0013】
本発明の有利な実施態様ではフロー室、特にマイクロ流体流路が
濃縮区間に沿って形成され、このマイクロ流体流路を通って流れる磁気的にマーキングされた細胞サンプルは
濃縮区間の磁気ガイド片に方向付けられる。すなわち磁気ガイド片および磁気的にマーキングされた細胞は互いに作用し、細胞は細胞懸濁液内で方向付けされ、その磁気ラベルの漂遊磁界はセンサ上でできるだけ高い信号を生じる。
【0014】
本発明の別の有利な実施態様では装置は磁石を有し、この磁石は、マイクロ流体流路を通って流れる磁気的にマーキングされた細胞サンプルが
流路床面にあるこの磁石の磁界により
濃縮される
ように配置されている。すなわち磁気ガイド片による案内に付加して、磁石特に永久磁石の磁界が細胞懸濁液中で磁気的にマーキングされた細胞に磁力を及ぼしてこれを細胞懸濁液から流路床面へ向かう方向に動かす。
【0015】
このような磁気的にマーキングされた細胞の
濃縮と方向付けは、磁気的にマーキングされた細胞の濃度が流路床面の近くで従って磁気抵抗センサの近くで増大するという利点を有する。このセンサは合目的にはほぼすべてのマーキングされた細胞を検出できるように流路床面に設置される。細胞が
濃縮および方向付けの前に全サンプル量においても等しく分布されていれば、
濃縮および方向付けによりセンサでの個別細胞検出が保証されることになる。
【0016】
本発明の有利な実施態様では
、マイクロ流体流路の第1部分および第2部分並びに磁気抵抗センサは、マイクロ流体流路を通って流れる磁気的にマーキングされた細胞サンプルが
先ずマイクロ流体流路の第1部分
を通って濃縮区間の第1部分
上に、次にマイクロ流体流路の第2部分
を通って濃縮区間の第2部分およびセンサ上を案内される
ように配置されている。この場合マイクロ流体流路および
濃縮区間のそれぞれ第2部分は、マイクロ流体流路および
濃縮区間のそれぞれ第1部分とのずれを修正できるように形成されている。このようなずれは、磁気抵抗センサが配置されている基板と担体とを結合して、この担体の上に同様に該基板が配置されるときに生じうる。マイクロ流体流路および
濃縮区間のそれぞれ第2部分は、少なくとも流動的に磁気的にマーキングされた細胞サンプルの
濃縮および方向付けに関してこのずれが修正されるように作用する。すなわちセンサに到着する磁気的にマーキングされた細胞はあたかも担体から基板への移行時に
濃縮区間内でずれがないかのように流路床面で
濃縮および方向付けされる。
【0017】
特に
濃縮区間は15000μmの最小長さを有する。この場合基板は特に最高18000μmの最大拡がりを有する。特にシリコンのような半導体基板は極めて高価なので、所要面積が小さいと極めて有利である。半導体基板の小さい所要面積は、基板を担体上に取り付ける際にずれが補償されるだけの長さの
濃縮区間だけが基板上に存在することにより保証される。
濃縮および方向付けの大部分はしかし担体上における
濃縮区間の第1部分において行われる。
【0018】
濃縮区間の最小長さは、
濃縮区間の終端において高濃度化された細胞サンプルも流路床面で
濃縮され
濃縮区間の磁気ガイドに沿って方向付けされるので、磁気抵抗センサの通過時点で個別細胞の検知が保証されるという利点を有することが判明している。
【0019】
半導体チップと担体とを結合する際に、わずかなオフセット、すなわち典型的には100μm以下のずれが生じうる。すなわち
濃縮区間の第1部分は事実上磁気抵抗センサが配置されているところとは異なる点に方向付けされる。これを補償するために半導体チップ上のセンサへのマイクロ流体流路の最後の部分上になお強磁性片を有する
濃縮区間が形成され、これにより
濃縮および方向付けられた細胞がセンサに向かって集中させられる。細胞は特に層状の流れプロフィルに従う。流路床面でできるだけセンサ表面近くでの細胞の
濃縮のため、磁気細胞はたとえば1つの永久磁石によりデバイスの下側で、または2つの磁石によりフローサイトメーターの上側または下側で作られる磁気勾配磁界にさらされる。
【0020】
装置の磁気抵抗センサは特にGMR(Giant
Magneto Resistance=巨大磁気抵抗)センサである。たとえば装置の磁気抵抗センサはTMR(Tunnel Magneto Resistance=トンネル磁気抵抗)センサまたは装置の磁気抵抗センサはAMR(異方性磁気抵抗)センサである。
【0021】
上述の装置の製造は、半導体基板上に磁気抵抗センサを作る工程、半導体基板上に
濃縮区間の第2の部分を取り付ける工程、担体上に半導体基板をパッケージングする工程、並びに担体上に磁気抵抗センサの電気接続部を引き出す工程、最後に
濃縮区間の第1部分を形成する工程を含む。この方法は、半導体基板のわずかな表面が大きな
濃縮区間を形成できるように利用されるという利点を有する。半導体チップのパッケージングはマイクロシステム技術では日常的な方法であり、絶縁、腐食保護並びに接続部の損傷保護および担体たとえばプリント回路板上の半導体チップの取り付けに役立つ。パッケージングおよび担体はたとえばさらに、担体上に
濃縮区間の長い部分を形成してその上で大部分の
濃縮および方向付けをセンサを備えた半導体チップ上に細胞懸濁液を導く前に行うようにするのに用いられる。
【0022】
利点は特に、少ないシリコン消費量において1μリットルあたり約1細胞の低濃度サンプルに対して大きなスループット量を有する大きな
濃縮区間が実現されることにある。シリコン‐ダイ‐フットプリント(Silicon-die-footprint)はそれ故できるだけ小さくされる。ダイ(die)とはたとえばハウジングのない半導体チップ、集積電子デバイス、半導体またはセンサ基板のことである。半導体チップ上に集積センサ回路を製造後にこの回路は「パッケージ」中にカプセル化され、損傷または腐食から保護される。そのため半導体チップはまず担体基板上に載置され、集積回路の電気接続部が担体基板上に引き出される。これはたとえばワイヤボンドまたはスルーホールにより行われる。パッケージング材料としてはたとえばセラミックまたはエポキシのようなポリマーが使用される。パッケージングはそれゆえ環境の影響にさらされるデバイスを作るために必要な工程である。本発明の実施形態のこの例は、一方では
濃縮区間を配置するための付加的な面として、他方ではパッケージング材料がフロー室の形成自体に用いられ、これが特に個々の工程において行われるという二重の意味でこのパッケージングを利用できるという利点を有する。
【0023】
本発明の有利な実施態様では、半導体基板のパッケージング工程においてパッケージング材料からマイクロ流体流路が形成される。パッケージング工程は特に射出成形により行われる。そのため射出成形技術によりマイクロ流体流路が形成される。
【0024】
本発明の有利な実施態様では、
濃縮区間、特に
濃縮区間の第1部分の磁気ガイド片は直接流路床面に堆積される。このためたとえば熱蒸着またはスパッタリングなどの方法が用いられる。パッケージング材料上にマイクロ流体流路を形成することによりそれゆえガイド片による磁気ガイドが流路内に作られる。
【0025】
半導体基板上に配置される
濃縮区間の部分に対しては磁気ガイド片が同様に直接半導体基板上に堆積される。このため同様に熱蒸着またはスパッタプロセスが用いられる。
【0026】
磁気細胞検出方法のため磁気的にマーキングされた細胞サンプルは半導体基板の隣りの付加的な担体基板上に
濃縮区間を備えた上述の装置に注入される。
【0027】
外部磁界、たとえば永久磁石の磁界上の
濃縮、および強磁性ガイド軌道による磁気泳動的方向付けは測定工程中に現場的(in situ)に行われると有利である。それゆえマーキングされた細胞のほぼ100%の所望の再発見率を保証するためには磁気的にマーキングされた細胞に対する十分に長い方向付け区間が必要である。強磁性磁路を有する
濃縮および方向付け区間の正確に必要な長さへの影響ファクタは次のとおりである。
1.細胞サンプルがマイクロ流体流路をポンピングされる速度
2.印加された
濃縮磁界の磁界強度
3.懸濁液中における超常磁性にマーキングされた細胞の濃度、並びに
4.使用されたマーカーの磁気特性
5.細胞懸濁液の組成およびレオロジー特性、すなわちたとえばその流動特性、および
6.マーキングされた細胞の種類およびその細胞表面上のアイソトープ数、従って検出すべき漂遊磁界の強度を決定する細胞当りの常磁性マーカの数、
【0028】
細胞懸濁液は特に圧力勾配によりマイクロ流体流路中をポンピングされる。圧力勾配はたとえば噴射器または噴射システムの手動操作により作ることができる。これにより細胞サンプルの層状の流れが再循環なしに生じることが保証される。細胞および細胞を囲む複合媒体が近似的に同じ密度を有するので、蛇行状の流路の曲がり範囲においても僅かな遠心力が生じるだけで、マーキングされた細胞はその軌道上にとどまることができる。
【0029】
磁気フローサイトメトリーにおいてはそれゆえ磁気的にマーキングされた細胞が磁気抵抗センサのごく近くを通り過ぎることが重要である。細胞サンプルはフロー室、たとえばマイクロ流体流路を流れるので、マーキングされた細胞はこのフロー室で磁気抵抗センサが設置されているその内面近くを通らなければならない。特に流路壁は磁気センサに直接接触して設置される。代替的な実施態様では磁気抵抗センサが流路壁に埋め込まれる。磁気マーキングとしては超常磁性ラベルが用いられると有利である。磁気抵抗センサとしてはGMR、TMRまたはAMRセンサが問題となる。磁気的にマーキングされた細胞がセンサに近づくことは、磁気マーキングの漂遊磁界が近傍界領域では距離の三乗で減衰するので重要である。磁気的にマーキングされた細胞の方向付けは検出可能性に正に作用する。その場合磁気的にマーキングされた細胞は、磁気マーキングの磁界がセンサ内でできるだけはっきりした信号を惹起するようにフロー方向に方向付けられると有利である。磁気フローサイトメトリーでは誤正信号と正信号との間のできるだけ正確な差別化が必要である。そのため正信号にはノイズ信号と区別するために信号に対するできるだけ高い閾値が設定できるようにしなければならない。
【0030】
磁気的にマーキングされた細胞がマイクロ流体流路の直径を狭めて個々の細胞のみがこの流路を通過できるようにして細分化されてセンサ上を案内される方法とは異なり、本方法は、前処理しない複合懸濁液から直接ほぼ100%の個別細胞検出を可能にする利点を有する。従って流動システムの閉塞を生ずるような細胞のいわば機械的細分化の大きな欠点が克服される。またこの種の測定装置では種々の直径を有する磁気的にマーキングされた細胞を正確に個々に求めることはできないであろう。細胞はたとえば約3から30μmの直径を有する。これらの細胞は直径が10ないし1000倍の極めて幅広のマイクロ流体流路中を案内されると有利である。センサまたはセンサアレイはこの場合フロー方向に直角をなして配置され、たとえば細胞の直径に応じて幅が30μmに達する。
【0031】
本発明の実施形態を添付の図面の
図1から
図8について具体的に説明する。