【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、素子のさらなる微細化のために、EUV露光技術の開発が進められている。EUV露光では、反射型露光用マスクが使用される。反射型露光用マスクは、一般に、EUV光を反射する多層反射膜と、この多層反射膜上に設けられ、EUV光を吸収する吸収体パターンとを備えている。この吸収体パターンは、ウェハ上に形成するべきパターンに対応したパターンを有する。
【0003】
反射型露光用マスクに対してEUV光は斜めに照射される。そのため、吸収体パターンが厚いと(アスペクト比が高いと)、シャドーイング(shadowing)効果と呼ばれる現象が生じる。シャドーイング効果は、転写パターンの寸法に影響を与える。シャドーイング効果による転写パターンの寸法誤差を低減するためには、吸収体パターンを薄くする必要がある。その方法の一つとして、ハーフトーン型位相シフトマスクを用いた方法が知られている(非特許文献1)。
【0004】
種々材料の光学定数(例えば、屈折率n、消衰係数k)をパラメータにした反射率シミュレーション、および、露光条件やマスク条件をパラメータにしたリソグラフィシミュレーションにより、以下のことが分かっている。
【0005】
すなわち、吸収体パターンの材料としてTa系材料やCr系材料を用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを実現する場合、多層反射膜で反射したEUV光(多層膜反射光)と吸収体パターンで吸収されずに反射したEUV光(吸収体反射光)との位相差が180度の時で、両者の反射率比(吸収体反射光の反射率/多層膜反射光の反射率)を、1〜3%の範囲内に収める必要があることが分かっている。
【0006】
また、バッファ層の材料としてCrN系材料を用い、吸収体パターンの材料としてTaBN系材料を用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを実現する場合には、バッファ層と吸収体パターンとを足し合わせた厚さを従来標準の80nmから61nmへと薄くすれば良いことも分かっている。このようにハーフトーン型位相シフトマスクとなる様に吸収体パターン等を薄くすることにより、32nmHP〜22nmHP前後のパターン寸法に対して、シャドーイング効果を低減でき、転写像を劣化させることなくパターニングすることが可能になる。
【0007】
しかし、ターゲット寸法がより微細な寸法領域に達すると、EUV光の入射方向に対して垂直の方向に延びたラインパターンは、上記入射方向に対して平行の方向に延びたラインパターンに比べて、ウェハ上に形成される光学像のコントラスト値が低下する傾向が顕在化する。すなわち、ターゲット寸法がより微細な寸法領域に達すると、従来の反射型露光用マスクでは、十分なコントラスト値を有する光学像をウェハ上に形成することが困難になるという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1(a)−
図1(d)は、本実施形態の反射型露光用マスクの製造方法を説明するための断面図である。
【0016】
[
図1(a)]
低熱膨張率のガラス基板1上にEUV(露光光)を反射する多層反射膜2(高反射領域)を形成する。多層反射膜2は、Mo膜とSi膜との対を複数積層したものである。本実施形態では、Mo膜とSi膜との対の積層数は40、Mo膜の厚さは2.8nm、Si膜の厚さは4.2nmである。また、本実施形態では、ガラス基板1の主面は、多層反射膜2が形成される側の面(
図1に示されたガラス基板1の上面)となる。
【0017】
次に、多層反射膜2上に保護層(キャップ膜)3を形成する。ここでは、保護膜3として厚さ11nmのSi膜を使用する。保護膜3は多層反射膜2を構成するMo膜を酸化から保護する役割を有する。保護膜3上に、Ruを主成分とする厚さ30nmの吸収体層4を形成する。このようにして反射型露光用マスクブランクスを得ることができる。なお、吸収体層4は、露光光を完全には吸収するわけではなく、露光光の一部を反射する(低反射領域)。
【0018】
ここでは、反射型露光用マスクブランクス(ガラス基板1、多層反射膜2、保護膜3、吸収体層4)を形成したが、その代わりに、ガラス基板1上に多層反射膜2、保護膜3、吸収体層4が予め形成されている反射型露光用マスクブランクスを使用しても構わない。また、静電チャックによりガラス基板1を保持する場合には、ガラス基板1の裏面に静電チャック用の導電膜を形成する。
【0019】
[
図1(b)]
吸収体層4上にレジストを塗布し、この塗布したレジストに対してEB(Electron Beam)描画および現像を行うことにより、吸収体層4上にレジストパターン5を形成する。
【0020】
[
図1(c)]
レジストパターン5をマスクに用い、塩素と酸素を主成分としたガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)プロセスにより吸収体層4をエッチングして、Ruを主成分とする単層構造の吸収体パターン4Pを形成する。この時、保護膜3は、エッチングストッパとして機能し、多層反射膜2のエッチングを防止する。単層構造の吸収体パターン4Pを用いることの利点としては、マスクプロセスでの吸収体エッチング条件が簡略化できる点がある。ただし、後述する複数層で構成される吸収体であっても、適切な形状に吸収体エッチングすることができれば支障は無い。
【0021】
吸収体パターン4Pは、
図7(a)に示すように、第1の長手方向D1を有するライン状パターン4P1(第1のライン状パターン)と、
図7(b)に示すように、第1の長手方向D1と90度異なる第2の長手方向D2を有するライン状パターン4P2(第2のライン状パターン)とを含んでいる。ライン状パターン4P1の長手方向D1と、主面の上から見た場合の該主面に対するEUV光10の入射方向(以下、単に光入射方向という。)とは一致している。
【0022】
ここでは、ライン状パターン4P1,4P2は、例えば、ラインアンドスペースパターン(L&Sパターン)であるが、ライン状パターン4P1,4P2は、個々のパターンが完全なラインパターンである必要なく、例えば、
図8(a)および
図8(b)に示すように、端が矩形状のラインパターンでも構わない。すなわち、全体としてライン状であれば特に限定されない。
【0023】
[
図1(d)]
レジストパターン5を剥離し、その後、周知の洗浄工程、マスク欠陥検査工程、修正工程および最終洗浄工程等を経て、反射型露光用マスクが完成する。
【0024】
また、上記の説明には、露光時のウェハ上隣接ショットからの漏れ光に対する対策は述べられていないが、この種の対策としては、例えば、多層膜エッチングにより遮光帯を作製したり、または、高反射率吸収体上に遮光用の吸収体を付与したブランクスを用いるなど、周知の漏れ光対策技術で構わない。
【0025】
図2は、ガラス基板と、ガラス基板上に設けられたMo/Si多層反射膜と、Mo/Si多層反射膜上に設けられたSi膜からなる保護層と、保護膜上に設けられた吸収体パターンとを備えた反射型露光用マスク(
図1(d)の構造)に関し、横軸を吸収体層の材料(吸収体材料)の屈折率nとし、縦軸を吸収体材料の消衰係数kとする二次元平面(n−k平面)において、Mo/Si多層反射膜で反射したEUV光と吸収体層で反射したEUV光との位相差が180度となる吸収体層の厚さの等高線を示している。
図2には、吸収体材料の具体例として、Ru、Mo、TaN、Cr、Ta、Ta
2 O
5 、SiO
2 、Ge、Siが示されている。
【0026】
図3は、上記反射型露光用マスクにおいて、上記n−k平面上で位相差180度となる厚さを有する吸収体層を用いた場合の反射率比の等高線を示している。この反射率比は、保護層を含むMo/Si多層反射膜で反射するEUV光を反射率R1、吸収体層で反射するEUV光を反射率R2とすると、100・R2/R1で定義される。
【0027】
図2、
図3より、吸収体材料としてRuを採用することにより、位相差180度を満足する吸収体層の厚さを40nm以下にできるとともに、反射率比の範囲を4〜40%にでき、さらに
図2および現在想定している光学定数の範囲内から位相差180度を満足する吸収体層の厚さの下限を見積もると20nmとなる。
図4に、
図2から得られる吸収体膜厚40nm以下を満足する光学定数n,kの領域と、
図3から得られる反射率比4〜40%を満足する光学定数n,kの領域との重なり領域20を示す。
【0028】
一方、吸収体材料としてTa系材料やCr系材料を採用した場合、背景技術で述べた通り、ハーフトーン型位相シフトマスクのために利用可能な反射率比の範囲は1〜3%である。
【0029】
このように本実施形態によれば、従来に比べて、ハーフトーン型位相シフトマスクのために利用可能な反射率比の範囲が広くなるので、ターゲット寸法が20nmHP代というより微細な寸法領域に達しても、ハーフトーン型位相シフトマスクを利用してシャドウイング効果を抑制できる反射型露光用マスクを容易に実現できるようになる。上記のように利用可能な反射率比の範囲が1〜3%であれば、ターゲット寸法が16nmHP以下というさらに微細な寸法領域に達しても、また、ターゲット寸法が10nmHP代と極微細な寸法領域に達しても、ハーフトーン型位相シフトマスクを利用してシャドウイング効果を抑制できる反射型露光用マスクを容易に実現できるようになる。
【0030】
このように本実施形態によれば、従来に比べて、ハーフトーン型位相シフトマスクのために利用可能な反射率比の範囲が広くなるので、ターゲット寸法が現状よりも微細な寸法領域に達しても、ハーフトーン型位相シフトマスクを利用してシャドウイング効果を抑制できる反射型露光用マスクを容易に実現できるようになる。
【0031】
上記位相差(180度)および反射率比(4〜40%)を満足する厚さを有する吸収体層を備えた反射型露光用マスクブランクスにおいて、上記吸収体層を加工して得られる吸収体パターンを有する反射型露光用マスクの像コントラスト値について調べた。
【0032】
その結果を、
図5(a)および
図5(b)、ならびに、
図6(a)および
図6(b)に示す。これらの図において、像コントラスト値はシミュレーションにより取得した。また、像コントラスト値は、ウェハ上に転写される吸収体パターンの光学像のコントラスト値であり、上記光学像の最大値(ウェハ上の光強度分布の最大値)をImax、上記光学像の最小値(ウェハ上の光強度分布の最小値)をIminとすると、像コントラスト値は(Imax−Imin)/(Imax+Imin)で定義される。
【0033】
図5(a)および
図5(b)は、上記吸収体パターンがターゲット寸法32nmHPのラインパターンである場合の、n−k平面上での像コントラスト値の等高線を示している。
図5(a)は、光入射方向に対して長手方向が平行なラインパターン(平行パターン)を示しており、
図5(b)は、光入射方向に対して長手方向が垂直なラインパターン(垂直パターン)の例を示している。ここでは、上記ラインパターンは1:1のL&Sパターンである。
【0034】
露光条件は、開口数NA=0.25、コヒーレンスファクタσ=0.8、中心波長λ=13.5nm(13.45nm〜13.55nm)である。
【0035】
図5(a)および
図5(b)から、ターゲット寸法32nmHPの場合、平行パターンと垂直パターンとの間で像コントラスト値の等高線の差異は殆どみられず、垂直パターンでの像コントラスト値の劣化は充分に小さいことが分かる。
【0036】
図6(a)および
図6(b)は、上記吸収体パターンがターゲット寸法16nmHPのラインパターンである場合の、n−k平面上での像コントラスト値の等高線を示している。
図6(a)は、光入射方向に対して長手方向が平行なラインパターン(平行パターン)を示しており、
図6(b)は、光入射方向に対して長手方向が垂直なラインパターン(垂直パターン)の例を示している。ここでは、上記ラインパターンは1:1のL&Sパターンである。
【0037】
露光条件は、開口数NA=0.3、コヒーレンスファクタσin/σout=0.3/0.7、中心波長λ=13.5nm(13.45nm〜13.55nm)である。
【0038】
図6(a)および
図6(b)から、ターゲット寸法16nmHPの場合、平行パターンと垂直パターンとの間で像コントラスト値の等高線の差異がみられ、垂直パターンでの像コントラスト値の劣化が大きいことが分かる。
【0039】
また、垂直パターンの場合、屈折率(n)が約0.92よりも小さい範囲でないと、像コントラスト値は0.6以上にならず、この屈折率範囲を
図2に当てはめると、吸収体層(吸収体パターン)の厚さは40nm強以下となる。したがって、像コントラスト値の低下の抑制およびシャドーイング効果の抑制のためには、吸収体層(吸収体パターン)の厚さは40nm以下に設定する。
【0040】
さらに、吸収体材料にTa系材料やCr系材料を採用した場合には、像コントラスト値0.6以上を満たすことができないことが分かる。
【0041】
しかし、ターゲット寸法16nmHPに対して反射型露光用マスクの吸収体材料としてRuを主成分とする厚さ29nmの吸収体層4を採用した場合には、平行パターンおよび垂直パターンの両方に対して像コントラスト値0.6以上を満たすことができる。
【0042】
像コントラスト値を0.6以上とする理由は、像コントラスト値が0.6よりも小さくなると、ウェハ上の転写像のコントラストが低下して良好なウェハ上レジスト像が得られなくなるからである。なお、吸収体パターンのサイズに対応して像コントラスト値の下限は変わるが、将来、現状よりも必要となる像コントラスト値が小さくなるとは考えにくいので、現在のフォトマスクの動向から、像コントラスト値の下限を0.6としている。本実施形態のように像コントラスト値の下限を決めることにより、反射型露光用マスクの吸収体パターンに対応する光学像が転写されたウェハ上のレジストを現像した場合、上記吸収体パターンに対応するパターンを有するレジストパターンを形成できるようになる。
【0043】
本実施形態の反射型露光用マスクを用いた半導体装置の製造方法は以下の通りである。
【0044】
まず、半導体基板を含む基板上にレジストが塗布される。半導体基板は、例えば、シリコン基板や、SOI基板である。
【0045】
次に、上記基板の上方に実施形態の反射型露光用マスクが配置され、該反射型露光用マスクを介して上記レジストに光または荷電ビームが照射され、その後、現像が行われ、レジストパターンが作成される。
【0046】
次に、上記レジストパターンをマスクにして上記基板がエッチングされ、微細パターンが形成される。
【0047】
ここで、上記レジストの下地(基板の最上層)がポリシリコン膜や金属膜の場合、微細な電極パターンや配線パターンなどが形成される。上記レジストの下地(基板の最上層)が絶縁膜の場合、微細なコンタクトホールパターンやゲート絶縁膜などが形成される。上記レジストの下地が上記半導体基板の場合、微細な素子分離溝(STI)などが形成される。
【0048】
以上述べたレジストの塗布、レジストパターンの形成、被加工基板のエッチングを繰り返して必要な微細パターンを形成し、半導体装置を製造する。本実施形態の反射型露光用マスクを用いた半導体装置の製造方法は、例えば、微細なフラッシュメモリを製造するのに適している。
【0049】
なお、上記実施形態では、位相差180度を満足する厚さを有する吸収体パターン(吸収体層)の場合(最良な場合)について説明したが、位相差180度±10度以内の範囲であればよい。位相差180度±10度以内の範囲であればハーフトーンマスク効果は得られるからである。吸収体材料の主成分がRuの場合、
図9に示すように、Ru吸収体パターン(Ru吸収体層)の厚さ(Ru thickness)を30nm±3nm以内の範囲に設定することにより、位相差(Phase shift)を180度±10度内の範囲に収めることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、像コントラスト値をシミュレーションにより取得したが、Aerial Image Measurement System と呼ばれる露光波長の光学像取得装置を用いて、実測により像コントラスト値を取得しても構わない。
【0051】
さらに、上記実施形態では、Ruを主成分とするRu膜で構成された単層構造の吸収体パターン4Pを使用したが、反射率比の値を調整するために、Ru膜と、このRu膜よりも薄く、Crを主成分とするCr膜との積層膜で構成された多層構造の吸収体パターン、または、Ru膜と、このRu膜よりも薄く、Taを主成分とする材料で形成された膜との積層膜で構成された多層構造の吸収体パターンを使用しても構わない。
【0052】
例えば、Ruを主成分とする吸収体パターンと、この吸収体パターンよりも薄く、TaN系材料(Taを主成分する材料)で形成された吸収体パターンとの積層構造のRu/TaN吸収体パターンを用いても構わない。このRu/TaN吸収体パターンの場合には、Ru吸収体パターンの厚さを21nm、TaN吸収体パターンの厚さを19nmに設定することにより、位相差180度において反射率比を20%にすることができる。
【0053】
なお、Ruを主成分とするとは、Ruの単体金属の他に、Ru合金(Ruを主成分とする合金)でも構わないことを意味している。Ru合金としては、例えば、CrRu合金、CrRuN合金があげられる。
【0054】
また、マスク欠陥検査工程で行われる異物欠陥検査の時に、必要なコントラストを確保するために、上記検査に使用される光の反射を防止するための反射防止膜を吸収体パターン4Pの表面に形成しても構わない。上記反射防止膜は、
図1(a)の工程で、吸収体層4上に形成する。
【0055】
さらにまた、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらにまた、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0056】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施できる。