(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766430
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】横編機の複合針
(51)【国際特許分類】
D04B 35/06 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
D04B35/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-260512(P2010-260512)
(22)【出願日】2010年11月22日
(65)【公開番号】特開2012-112060(P2012-112060A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2013年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】薗村 稔
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−289252(JP,A)
【文献】
国際公開第01/031102(WO,A1)
【文献】
特開昭60−075654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床に並設される針溝に収容され、前部にフックを有して針溝に沿って前後方向に往復移動可能な針本体と、フックを開閉するタングを前部に有して、針本体に対する前後方向の相対移動が可能なスライダーとが組合わされ、
スライダーは、針溝内で下方に配置され、前部にタングを有し、後部に下結合部を有する開閉体と、針溝内で開閉体よりも上方に配置され、開閉体の下結合部に結合される上結合部を有する基体とを備える、
横編機の複合針において、
下結合部または上結合部の一方に設けられ、他方側に開口し、開口端の両端から一方側に延びる側壁を有し、前後方向に関し、側壁間の幅が開口端の幅よりも狭い狭幅部分が設けられる凹部と、
下結合部または上結合部の他方に設けられ、前後方向の幅が凹部の狭幅部分よりも広い広幅部分が設けられ、凹部に他方側から挿入されて結合し、挿入の途中で、凹部の弾性変形で広幅部分が凹部の狭幅部分を通過可能となる凸部と、
を含み、
凹部には、狭幅部分よりも開口から離れる側に、凹部と凸部との結合時、他方側から狭幅部分を通過した凸部の広幅部分を収容するように、狭幅部分よりも前後方向の幅が広い部分が設けられ、
凹部と凸部との結合部分では、いずれか一方の厚みの中間に溝が設けられ、いずれか他方が溝に挿入される、
ことを特徴とする横編機の複合針。
【請求項2】
前記スライダーの開閉体は、前記タングが前記フックの両側に分れて、フックを越えて前進可能な二枚のブレードである、
ことを特徴とする請求項1記載の横編機の複合針。
【請求項3】
前記凹部は、前記下結合部として、前記二枚のブレードが重なる部分に形成され、
前記上結合部としての前記凸部の下端に設けられる溝が、前記結合の状態で、二枚のブレードが重なる部分のうち、凹部の下方となる部分を挟む、
ことを特徴とする請求項2記載の横編機の複合針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機の針床に形成される針溝に収容され、フックをスライダーで開閉する横編機の複合針に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機では、針床に多数の針溝を並設し、各針溝に収容される編針を、先端のフックが針床端部の歯口に進退するように駆動して、歯口でフックに供給される編糸で編地を編成している。編針としては、フックをスライダーで開閉する複合針がある。特に、スライダーでフックを開閉する部分となるタングを二枚のブレードで形成すれば、タングがフックを越えて移動可能となり、スライダーを利用する目移しも可能となる(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、横編機の針床は、歯口側が高く、歯口から離れると低くなるように傾斜しているけれども、説明の便宜上、以下の説明では、歯口側を前とし、歯口から離れる側を後として、前後方向を定める。また、前後方向に垂直な上下方向として、針溝内で浮く方向を上とし、針溝内で沈む方向を下とする。さらに、前から見る針溝の幅方向を左右方向とする。さらにまた、針床や針溝は、図示を省略する。
【0004】
図3は、特許文献1などに開示されているような、タングを二枚のブレードの先端に形成する複合針のスライダーの部分的な構成を示す。
図3(a)は、基体1の左側面構成と、切断面線A−Aから見た断面構成とを示す。この部分の断面構成は、中心線1aに関して非対称となる。基体1の後部からは、バット1bが立設され、針床に沿って移動するキャリッジに搭載されるカムによる案内作用を受ける。基体1の前部と後部との中間に設ける上結合部1cは、左側方に臨む長手溝1dと、左右両側方に開口して連通する凹所1eとを有する。上結合部1cとバット1bとの間は、弾性的に撓み変形が可能なアーム1fとなっている。なお、アーム1fは、前後方向を短縮して示す。
【0005】
図3(b)は、右側のブレード2の平面構成と、左側面構成とを示す。
図3(c)は、左側のブレード3の平面構成と、左側面構成とを示す。
図3(d)は、スライダー4の平面構成と、左側面構成とを示す。
図3(e)は、
図3(d)に示す基体1とブレード2,3との結合部分5を拡大して示す。
【0006】
すなわち複合針のスライダー4は、金属板からプレス加工などで形成される基体1と二枚のブレード2,3とを結合部分5で結合して形成される。各ブレード2,3は、前部にタング2a,3aをそれぞれ有し、下部が図示を省略している針本体に形成されるスライダー溝に収容され、スライダー溝内で相対的に前後に移動して、タング2a,3aで針本体のフックを開閉する。ブレード2,3には、タング2a,3bに続き、上端がスライダー溝の外部に開く湾曲部2b,3bが形成されている。ブレード2,3の後部には、下結合部2c,3cが設けられている。下結合部2c,3cは、結合用のバット2d,3dと、後方に延びる尾部2e,3eとを有する。タング2a,3aや湾曲部2b,3bが設けられる前部と、下結合部2c,3cが設けられる後部との間には、アーム2f,3fが設けられて、弾性変形で、前部が揺動可能となっている。ブレード3の尾部3eは、針溝の側壁に弾発的に摺接して摺動抵抗となるように、側方に膨らんでいる。結合部分5では、基体1の凹所1eとブレード2,3のバット2d,3dとが結合し、周囲にカシメ部5a,5b,5cが設けられて、取外しができないような、強固な結合がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2946323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図3に示すスライダー4での結合部分5では、基体1と二枚のブレード2,3とを精度良く結合させる必要があるけれども、下結合部2c,3cのバット2d,3dおよび尾部2e,3eに対し、これらが結合する上結合部1cの長手溝1dや凹所1eは、わずかに大きく形成される。このために、バット2d,3dや尾部2e,3eを長手溝1dや凹所1eに挿入させた後で、改めて位置決めして固定する後工程の作業を行う必要がある。位置決めは、たとえば、尾部2e,3eの上面を、長手溝1dの上壁面に当接させて行う。ブレード2,3の前部は、針本体に対する相対移動の際に、スライダー溝の底面に形成される凹凸がカムとなって揺動する。この揺動で、結合部分5には大きな曲げモーメントが印加され、結合を外してしまうおそれがあるので、カシメ部5a,5b,5cなどを設けて、強固に固定する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、スライダーとしての結合部分を後工程で強固に固定する必要がない、横編機の複合針を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、横編機の針床に並設される針溝に収容され、前部にフックを有して針溝に沿って前後方向に往復移動可能な針本体と、フックを開閉するタングを前部に有して、針本体に対する前後方向の相対移動が可能なスライダーとが組合わされ、
スライダーは、針溝内で下方に配置され、前部にタングを有し、後部に下結合部を有する開閉体と、針溝内で開閉体よりも上方に配置され、開閉体の下結合部に結合される上結合部を有する基体とを備える、
横編機の複合針において、
下結合部または上結合部の一方に設けられ、他方側に開口し、開口端の両端から一方側に延びる側壁を有し、前後方向に関し、側壁間の幅が開口端の幅よりも狭い狭幅部分が設けられる凹部と、
下結合部または上結合部の他方に設けられ、前後方向の幅が凹部の狭幅部分よりも広い広幅部分が設けられ、凹部に他方側から挿入されて結合し、挿入の途中で、凹部の弾性変形で広幅部分が凹部の狭幅部分を通過可能となる凸部と、
を含み、
凹部には、狭幅部分よりも開口から離れる側に、凹部と凸部との結合時、他方側から狭幅部分を通過した凸部の広幅部分を収容するように、狭幅部分よりも前後方向の幅が広い部分が設けられ、
凹部と凸部との結合部分では、いずれか一方の厚みの中間に溝が設けられ、いずれか他方が溝に挿入される、
ことを特徴とする横編機の複合針である。
【0011】
また本発明で、前記スライダーの開閉体は、前記タングが前記フックの両側に分れて、フックを越えて前進可能な二枚のブレードである、
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記凹部は、前記下結合部として、前記二枚のブレードが重なる部分に形成され、
前記上結合部としての前記凸部の下端に設けられる溝が、前記結合の状態で、二枚のブレードが重なる部分のうち、凹部の下方となる部分を挟む、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スライダーでは、開閉体の下結合部と、基体の
上結合部との結合を、一方に設けられる凹部に、他方に設けられる凸部を挿入して行う。凹部には、開口端の幅よりも側壁間の幅が狭い狭幅部分が設けられ、凸部には、幅が狭幅部分よりも広い広幅部分が設けられる。上下方向の挿入の途中で、凹部が弾性変形して広幅部分は狭幅部分を通過可能となるので、結合部分で開閉体と基体とを結合することができる。結合部分では、上下方向へは、広幅部分の通過が狭幅部分で阻止されるので、挿入のみで固定することができる。幅方向へも、凹部と凸部とが一方の溝に他方が挿入されて結合されているので、抜けないようにすることができる。したがって、結合部分を形成後は、強固に固定するための後加工を行う必要がないようにすることができる。
【0014】
また本発明によれば、スライダーの開閉体を二枚のブレードで形成しても、基体に挿入するだけで結合されて固定することができる。
【0015】
また本発明によれば、スライダーの基体と二枚のブレードとの結合部分で、二枚のブレード側の下結合部に凹部を設ける。二枚のブレードが重なる部分のうち、凹部の下方の部分を、基体側に設ける上結合部の凸部の先端の溝で挟むので、結合部分からブレードが幅方向に抜けないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例としての複合針を構成する基体11とブレード13との結合部分15を示す部分的な左側面図および正面断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の基体11およびブレード13の左側面図、および針本体16と複合針17の部分的な左側面図である。
【
図3】
図3は、従来からの複合針でのスライダー4の結合部分5を示す左側面図、平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1では、本発明の一実施例としての複合針の結合部分15の部分的な構成を示す。
図2では、
図1の結合部分15を備える複合針17の構成を示す。これらのうちで先に説明した部分については同一の参照符を付して、または
図3で説明した部分と対応する部分について、10位の数値のみが異なり、他は同一の参照符を付して、重複する説明を省略する場合がある。また、説明対象の図面には記載されていない部分について、先に説明してある参照符を付して言及する場合がある。
【実施例】
【0018】
図1(a)は基体11と開閉体であるブレード13とが離れている状態を示す。基体11の上結合部11cは、先端に溝11dが設けられ、下方に突出する凸部11eを有する。上結合部11cよりも後方には、アーム11fが延びるように形成されている。凸部11eの前後方向の幅は、広幅部分11gで最大となる。ブレード13は、上結合部11cと結合する下結合部13cを有する。下結合部13cには、上方に開口する凹部13dが設けられる。凹部13dには、開口端の両側から下方に延びる側壁間の幅が開口端での幅よりも狭くなる狭幅部分13eが設けられる。ブレード13は、前端側が
図3のブレード2,3と同様に異なるブレード12と重ねて用いられる。切断面線A−Aから見た断面構成を、
図1(a)の右側に示す。ブレード12にも、下結合部12cおよび凹部12dがブレード13と同様に設けられる。
【0019】
図1(b)は、基体11とブレード12,13とを結合して結合部分15を形成している状態を示す。結合部分15で切断面線B−Bから見た断面構成を、右側に示す。凹部12d,13dには、開口端の幅よりも側壁間の幅が狭い狭幅部分12e.13eが設けられ、凸部11eには、幅が狭幅部分12e,13eよりも広い広幅部分11gが設けられる。上下方向の挿入の途中で、凹部12d,13dが弾性変形して広幅部分11gは狭幅部分12e,13eを通過可能となるので、上結合部11cと下結合部12c,13cとで開閉体と基体11とを結合することができる。この結合で、上下方向へは、広幅部分11gの通過が狭幅部分12e,13eで阻止されるので、挿入のみで固定することができる。凹部12d,13dの下方で、二枚のブレード12,13が重ねられている部分が凸部11
eの先端の溝11dに挿入されて結合されているので、上下方向の挿入のみで、幅方向に抜けないようにすることができる。したがって、結合部分15の形成後は、強固に固定するための後加工を行う必要はないようにすることができる。
【0020】
図2は、本発明の実施例としての複合針17と、主要な部品である基体11、ブレード13および針本体16の構成を示す。
図2(a)に示す基体11は、
図1で説明した上結合部11cとともに、前方下部に長手溝11hを有する。長手溝11hは、幅方向の中間に、下方に開口する状態で形成される。基体11の後方には、アーム11fが延出され、
図3(a)に示すバット1bと同様なバットも立設されるけれども、図示は省略する。
【0021】
図2(b)に示すブレード13は、前部に、タング13aと湾曲部13bとを有するとともに、傾斜部13fも有する。タング13aおよび湾曲部13bは、
図3(c)のタング3aおよび湾曲部3bとそれぞれ同様である。傾斜部13fは、クリア時にタング13aを沈めるために設けられる。クリア時には、針本体が前進し、タング13aが相対的に後退して、針本体のフックを開き、フックに係止される編目をタング13aに受ける。この際に、編目の移行の障害とならないように、タング13aを針本体のスライダー溝に沈める必要がある。図示を省略しているブレード12についても同様である。
【0022】
図2(c)に示す針本体16は、前端にフック16aを有し、フック16aに続く針幹に、スライダー溝16bが形成されている。スライダー溝16bの前方部分には、底部にカム部16cが設けられている。カム部16cは、ブレード13のタング13aがフック16aの先端を閉鎖する際に、タング13aをスライダー溝16bから浮上させる。クリア時には、タング13aがスライダー溝16b内で後退し、傾斜部13fが針本体16に設けられる押圧部16dで押圧され、タング13aがスライダー溝16b内に沈む。
【0023】
図2(d)に示す複合針17は、基体11とブレード13とが結合部分15を形成して組合わされるスライダー14と、針本体16とを含む。複合針17は、横編機の針床に並設される針溝に収容され、前部にフック16aを有して針溝に沿って前後方向に往復移動可能な編針として機能する。
【0024】
なお、針本体16のフック16aを開閉するタング13aを有するブレード13と、同様なブレード12との二枚のブレード12,13を、基体11と組合せる開閉体としているけれども、開閉体は一枚の構成とすることもできる。枚数がいずれであっても、開閉体は、結合部分15を形成後に、基体と開閉体とを取外し、損傷を受けたような場合に、交換することは可能となる。
【0025】
また、基体11側の上結合部11cに凸部11eを形成し、ブレード12,13側の下結合部12c,13cに凹部12d,13dを形成しているけれども、凸部をブレード12,13側に、凹部を基体11側に形成することもできる。二枚のブレード12,13を用いる場合は、凹部を形成する基体11側に溝を設けてブレード12,13側の凸部の先端を挿入するようにすればよい。基体側と開閉体側とで厚みに差がない場合は、一方を部分的に薄くして、他方に設ける溝に挿入するようにすればよい。
【符号の説明】
【0026】
11 基体
11c 上結合部
11d 溝
11e 凸部
11g 広幅部分
12,13 ブレード
12c,13c 下結合部
12d,13d 凹部
12e,13e 狭幅部分
14 スライダー
15 結合部分
16 針本体
17 複合針