(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766501
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】車両用エアサスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/052 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
B60G17/052
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-107955(P2011-107955)
(22)【出願日】2011年5月13日
(65)【公開番号】特開2012-236549(P2012-236549A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 貴司
【審査官】
平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−123919(JP,A)
【文献】
特開平07−205630(JP,A)
【文献】
特開2009−067246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右の前輪を支持するように配設されるフロントエアスプリングと、
車両の左右の後輪を支持するように配設されるリヤエアスプリングと、
前記フロントエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排するフロント車高調整バルブと、
前記車両前部における左右の車高を検出するフロント車高センサと、
前記車両後部における左右の車高の変化をそれぞれバルブ本体から張り出すレバーの傾動によって検出し、該レバーの傾動に連動させて前記リヤエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排することにより、車両後部における左右それぞれの車高を一定高さに且つ車軸に対し車体を平行に保持するレベリング制御を行うためのリヤレベリングバルブと、
前記フロント車高センサで検出される左右の車高が入力され、該左右の車高の平均値が予め設定されている基準範囲に収まるよう前記フロント車高調整バルブへ制御信号を出力し、乗客の乗降時には、側面に乗降口が設けられた車両前部の車高を下げるクラウチング制御を行うコントローラと
を備えた車両用エアサスペンション制御装置において、
前記リヤエアスプリングの圧力を検出して前記コントローラへ入力する圧力センサを設けると共に、前記リヤレベリングバルブとエアタンク及びリヤエアスプリングとをつなぐエア管路途中に、前記コントローラから出力される制御信号により開閉可能なカットバルブを設け、
前記クラウチング制御が行われていない通常モード中に、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された閾値以上で、且つ、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記圧力センサで検出される車両後部における左右のリヤエアスプリングの圧力の差との積が負となる場合に、車両がうねり路にいると判断し、前記コントローラから前記カットバルブを閉じる制御信号を出力し、前記車両後部における左右それぞれのレベリング制御を強制的に休止させるよう構成したことを特徴とする車両用エアサスペンション制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エアサスペンション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアサスペンション制御装置が搭載され且つ乗降口が前部側面に設けられたバス等の車両の場合、停車時或いは走行時には、路面の凹凸や傾斜によって車輪が上下動したり、或いは車体が傾斜したりしようとしても、左右の車高を独立して一定高さに保持することにより車軸に対し車体を平行に保持するレベリング制御を行うようになっているが、乗客の乗降時には、乗降口が設けられた車両前部の車高を下げるクラウチング制御を行い、乗客の乗降を容易にするようになっている。
【0003】
図3は従来の車両用エアサスペンション制御装置の一例を示す全体概要構成図であって、1はバス等の車両、2は車両1の前輪、3は車両1の後輪であり、この車両用エアサスペンション制御装置は、前記前輪2を支持するように左右一個ずつ合計二個配設されるフロントエアスプリング4と、前記後輪3を支持するように左右二個ずつ合計四個配設されるリヤエアスプリング5と、前記フロントエアスプリング4とエアタンク6とを接続するエア管路7に設けられ且つ前記フロントエアスプリング4にエアタンク6内の圧縮エアをそれぞれ給排するフロント車高調整バルブ8と、前記エア管路7から分岐してリヤエアスプリング5とエアタンク6とを接続するエア管路9と、車両1前部における左右の車高11aをそれぞれ電気的に検出するポテンショメータ等のフロント車高センサ11と、該フロント車高センサ11で検出される車高11aに基づいて前記フロント車高調整バルブ8へ制御信号8aを出力するコントローラ13と、前記エア管路9途中に設けられ、前記車両1後部における左右の車高の変化をそれぞれバルブ本体15Bから張り出すレバー15Lの傾動によって機械的に検出し、該レバー15Lの傾動に連動させて前記リヤエアスプリング5にエアタンク6内の圧縮エアを給排するリヤレベリングバルブ15とを備えてなる構成を有している。
【0004】
又、前記バス等の車両1の運転席には、運転者によってON・OFF操作され且つON状態で所定の条件が満たされたときに車両1前部が低くなるようクラウチング制御を行わせるためのクラウチングスイッチ14が設けられ、該クラウチングスイッチ14がコントローラ13に接続されている。
【0005】
前記車両用エアサスペンション制御装置においては、停車時或いは走行時、前記フロント車高センサ11により車両1前部における左右の車高11aが検出されてコントローラ13へ入力され、該コントローラ13において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が演算され、該平均値と予め設定されている基準範囲との比較が行われ、該基準範囲より前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が低いときにはフロント車高調整バルブ8への制御信号8aにより左右のフロントエアスプリング4に同時に圧縮エアが供給され、前記基準範囲より前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が高いときにはフロント車高調整バルブ8への制御信号8aにより左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出される。同時に、前記車両1後部における左右の車高が低くなると、前記リヤレベリングバルブ15のレバー15Lが
図3中、相対的に上方へ傾動し、エアタンク6内の圧縮エアが左右のリヤエアスプリング5へ供給される一方、逆に前記車両1後部における左右の車高が高くなると、前記リヤレベリングバルブ15のレバー15Lが
図3中、相対的に下方へ傾動し、左右のリヤエアスプリング5から圧縮エアが排出される。このようにして、レベリング制御が行われ、路面の凹凸や傾斜によって車輪が上下動したり、或いは車体が傾斜したりしようとしても、左右の車高を独立して一定高さに保持することにより車軸に対し車体が平行に保持される。尚、前記車両1の傾き修正は、軸荷重が大きく、トレッド(輪距)も広い後軸側で行う方が効果的であることは広く知られている。
【0006】
一方、運転者が車両1を走行させ、停留所等に到着して車両1を停止させ、パーキングブレーキを作動させた状態で、前記クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作されると、前述と同様、フロント車高センサ11により車両1前部における左右の車高11aが検出されてコントローラ13へ入力され、該コントローラ13において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が演算され、該平均値と予め前記基準範囲より低く設定されているクラウチング制御用基準範囲との比較が行われ、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まるよう、前記コントローラ13からフロント車高調整バルブ8へ出力される制御信号8aにより左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出される。このようにして、乗降口が前部側面に設けられたバス等の車両1の場合、クラウチング制御が行われ、乗客の乗降時に、乗降口が設けられた車両1前部の車高が下げられ、乗客の乗降を容易にすることが可能となる。
【0007】
尚、前述の如き車両用エアサスペンション制御装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−205630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、例えば、上り勾配の道路において、
図4に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高くなっており、車両1の後輪3(
図4には示されていない)が接地する路面の高さは、前輪2側とは逆に右側の方が低くなっているような状況となる「うねり路」で、前述と同様に、クラウチング制御が行われて、車両1前部の左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出された場合、右側のフロントエアスプリング4に内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリング4の上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなる、いわゆるラバーコンタクト状態に陥ってしまうことがあった。
【0010】
前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まる前に、右側のフロントエアスプリング4がラバーコンタクト状態となってしまった場合、左側のフロントエアスプリング4からは更に継続して圧縮エアが排出されることになるが、それでも、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲まで下がらないと、左側のフロントエアスプリング4内の圧縮エアがほとんどなくなり、該左側のフロントエアスプリング4がスタビライザ反力で更に縮む形となる。
【0011】
しかも、これと同時に、前記車両1後部における左側のリヤエアスプリング5に対しては、圧縮エアの供給が行われると共に、前記車両1後部における右側のリヤエアスプリング5からは圧縮エアが排出され、前記車両1の後輪3が接地する右下がりの路面に車体が平行となるようにレベリング制御が働いてしまうため、車両1の左側の前輪2が浮き上がって、非常に不安定な状態になるという不具合が生じていた。
【0012】
又、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まる前に、右側のフロントエアスプリング4がラバーコンタクト状態となってしまった場合、左側のフロントエアスプリング4からは更に継続して圧縮エアが排出されることから、この動作に伴って、車両1前部における左側の車高11aだけでなく、車両1後部における左側の車高も低くなり、車両1が左側に傾くと、やはりレベリング制御が働いて、車両1後部における左側のリヤエアスプリング5に圧縮エアが供給されてしまい、前述の如く車両1の左側の前輪2が浮き上がるまでには至らないとしても、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が高くなり、該左右の車高11aの平均値をクラウチング制御用基準範囲に収めるべく再び左側のフロントエアスプリング4から圧縮エアが排出され、以下、前述と同様の動作が繰り返され、クラウチング制御とレベリング制御が交互に行われて制御が収束せず、エアタンク6内の圧縮エアが全部消費されるまで車体の上下動が継続してしまうという不具合が生じる可能性もあった。
【0013】
尚、前述の如き車両用エアサスペンション制御装置において、そのコストを最小限に抑えることも非常に重要となっている。
【0014】
本発明は、斯かる実情に鑑み、車両の前輪と後輪が接地する路面の高さが左右で異なるうねり路においても、車両の左右一方の前輪が浮き上がったりすることを防止しつつ、クラウチング制御を確実に行うことができ、且つ圧縮エアの消費を抑制し得、更にコストダウンを図り得る車両用エアサスペンション制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、車両の左右の前輪を支持するように配設されるフロントエアスプリングと、
車両の左右の後輪を支持するように配設されるリヤエアスプリングと、
前記フロントエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排するフロント車高調整バルブと、
前記車両前部における左右の車高を検出するフロント車高センサと、
前記車両後部における左右の車高の変化をそれぞれバルブ本体から張り出すレバーの傾動によって検出し、該レバーの傾動に連動させて前記リヤエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排することにより、車両後部における左右それぞれの車高を一定高さに且つ車軸に対し車体を平行に保持するレベリング制御を行うためのリヤレベリングバルブと、
前記フロント車高センサで検出される左右の車高が入力され、該左右の車高の平均値が予め設定されている基準範囲に収まるよう前記フロント車高調整バルブへ制御信号を出力し、乗客の乗降時には、
側面に乗降口が設けられた車両前部の車高を下げるクラウチング制御を行うコントローラと
を備えた車両用エアサスペンション制御装置において、
前記リヤエアスプリングの圧力を検出して前記コントローラへ入力する圧力センサを設けると共に、前記リヤレベリングバルブとエアタンク及びリヤエアスプリングとをつなぐエア管路途中に、前記コントローラから出力される制御信号により開閉可能なカットバルブを設け、
前記クラウチング制御が行われていない通常モード中に、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された閾値以上で、且つ、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記圧力センサで検出される車両後部における左右のリヤエアスプリングの圧力の差との積が負となる場合に、車両がうねり路にいると判断し、前記コントローラから前記カットバルブを閉じる制御信号を出力し、前記車両後部における左右それぞれのレベリング制御を強制的に休止させるよう構成したことを特徴とする車両用エアサスペンション制御装置にかかるものである。
【0016】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0017】
前述の如く構成すると、例えば、車両の左右一方の側の前輪が接地する路面の高さが左右他方の側より著しく高い、即ち、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された閾値以上となっており、車両の後輪が接地する路面の高さは、前輪側とは逆に左右一方の側の方が低い、即ち、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記圧力センサで検出される車両後部における左右のリヤエアスプリングの圧力の差との積が負となっているような場合、車両がうねり路にいると判断され、前記コントローラから前記カットバルブを閉じる制御信号が出力され、車両後部における左右それぞれのレベリング制御は強制的に休止される。
【0018】
この状態からクラウチング制御が行われて、車両前部の左右のフロントエアスプリングから同時に圧縮エアが排出された場合、左右一方の側のフロントエアスプリングに内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリングの上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなるラバーコンタクト状態に陥り、左右他方の側のフロントエアスプリングから更に継続して圧縮エアが排出され、それでも、前記車両前部における左右の車高の平均値がクラウチング制御用基準範囲まで下がらないと、左右他方の側のフロントエアスプリング内の圧縮エアがほとんどなくなり、該左右他方の側のフロントエアスプリングがスタビライザ反力で更に縮む形となるが、このとき、前記カットバルブは既に閉じられ、前記車両後部における左右それぞれのレベリング制御は休止されているため、前記車両後部における左右のリヤエアスプリングに対しては、圧縮エアの給排が行われず、前記車両の後輪が接地する左右一方の側の方が低い路面に車体が平行となるようにレベリング制御が働いてしまうことが避けられ、車両の左右他方の側の前輪が浮き上がって非常に不安定な状態になる心配はない。
【0019】
又、前記車両前部における左右の車高の平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まる前に、左右一方の側のフロントエアスプリングがラバーコンタクト状態となってしまった場合、左右他方の側のフロントエアスプリングからは更に継続して圧縮エアが排出されることから、この動作に伴って、車両前部における左右他方の側の車高だけでなく、車両後部における左右他方の側の車高も低くなり、車両が左右他方の側に傾いたとしても、車両後部における左右それぞれのレベリング制御は強制的に休止されているため、車両後部における左右他方の側のリヤエアスプリングに圧縮エアが供給されることはなく、前記車両前部における左右の車高の平均値が高くなってしまうようなことが避けられ、クラウチング制御のみが単独で確実に行われることとなる。
【0020】
この結果、クラウチング制御とレベリング制御が交互に行われて制御が収束しなくなるようなことが回避され、エアタンク内の圧縮エアが全部消費されるまで車体の上下動が継続してしまうというような不具合も生じなくなる。
【0021】
尚、仮に、前記車両前部における左右の車高を検出するフロント車高センサと同じ形式の車高センサを車両後部にも採用すると、コストアップは避けられないが、前記圧力センサやカットバルブは低価格であるため、全体のコストダウンを図る上で有効となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車両用エアサスペンション制御装置によれば、車両の前輪と後輪が接地する路面の高さが左右で異なるうねり路においても、車両の左右一方の前輪が浮き上がったりすることを防止しつつ、クラウチング制御を確実に行うことができ、且つ圧縮エアの消費を抑制し得、更にコストダウンを図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例を示す全体概要構成図である。
【
図2】本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例を示すフローチャートである。
【
図3】従来の車両用エアサスペンション制御装置の一例を示す全体概要構成図である。
【
図4】車両の前輪が接地する路面の高さが左右で著しく異なっている状況の一例として車両の右側における路面が高い状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
図1及び
図2は本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例であって、図中、
図3及び
図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は
図3及び
図4に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、
図1及び
図2に示す如く、リヤエアスプリング5の圧力18aを検出してコントローラ13へ入力する圧力センサ18を設けると共に、前記リヤレベリングバルブ15とエアタンク6及びリヤエアスプリング5とをつなぐエア管路9途中に、前記コントローラ13から出力される制御信号16a,17aにより開閉可能なカットバルブ16,17を設け、通常モード中に、車両1がうねり路にいるか否かを判断し、該車両1がうねり路にいる場合には、前記コントローラ13から前記カットバルブ16,17を閉じる制御信号16a,17aを出力し、前記車両1後部における左右それぞれのレベリング制御を強制的に休止させるよう構成した点にある。
【0026】
先ず、
図2のステップS1において通常モードとは、走行時或いは停止時に、クラウチング制御が行われていない状態を指す。
【0027】
図2のステップS2において前記車両1がうねり路にいるか否かの判断は、例えば、
図4に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高くなっており、車両1の後輪3(
図4には示されていない)が接地する路面の高さは、前輪2側とは逆に右側の方が低くなっているような状況の場合に、車両1がうねり路にいると判断することが可能となる。
【0028】
ここで、前記ステップS2におけるうねり路の判断は、数式で表すと、
[数1]
|FR−FL|≧ΔF0
但し、FR:車両1前部における右側の車高
FL:車両1前部における左側の車高
ΔF0:車両1前部における左右の車高の差の絶対値の閾値(閾値)
で、且つ
[数2]
(FR−FL)×(RRP−RLP)≦0
但し、RRP:車両1後部における右側のリヤエアスプリング5の圧力
RLP:車両1後部における左側のリヤエアスプリング5の圧力
となる。
【0029】
即ち、[数1]の条件は、フロント車高センサ11(
図1参照)で検出される車両1前部における左右の車高11aの差の絶対値が予め設定された閾値ΔF0以上ということを示し、[数2]の条件は、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差と圧力センサ18(
図1参照)で検出される車両1後部における左右のリヤエアスプリング5の圧力18aの差との積が負となる場合を示しており、[数1]で且つ[数2]という条件を満たす場合に、車両1がうねり路にいると判断し、
図2のステップS3において前記車両1後部における左右それぞれのレベリング制御を強制的に休止させるようにする。
【0030】
因みに、前記閾値ΔF0は、例えば、78[mm]に設定することができるが、この数値に限定されるものではなく、20〜150[mm]の範囲から適宜選定すれば良い。
【0031】
尚、前記車両1の前輪2が接地する路面に左右で高低差がほとんどないような状況で、且つ前記車両1の後輪3が接地する路面に左右で著しい高低差があるような状況であっても、うねり路であると言えるが、該うねり路の判断に、このような条件も加えようとした場合、制御干渉が発生する可能性がある一方、前記車両1前部における左右の車高11aを検出するフロント車高センサ11と同じ形式の車高センサを車両1後部にも採用しなければならなくなるため、車両1後部における左右の車高差を閾値と比較することは行わないようにしてある。
【0032】
前記ステップS2において、車両1がうねり路にいないと判断された場合には、前記車両1後部における左右それぞれのレベリング制御を強制的に休止させることはせずに後述するステップS4へ進むようにする。
【0033】
続いて、
図2のステップS4においてクラウチングスイッチ14が運転者によってON操作されたか否かを検出し、該クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作されていない場合には、前記ステップS2へ戻って、前記車両1がうねり路にいるか否かの判断を再度行うようにする一方、前記クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作された場合には、
図2のステップS5において車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まっているか否かを判断し、該車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まっていない場合には、
図2のステップS6において車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲より高いか否かを判断し、該車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲より高い場合には、
図2のステップS7において左右のフロントエアスプリング4から圧縮エアを排出し、車両1前部の車高11aを下げるようにする。
【0034】
逆に前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲より低い場合には、
図2のステップS8において左右のフロントエアスプリング4に圧縮エアを供給し、車両1前部の車高11aを上げるようにする。
【0035】
前記ステップS7或いはステップS8のいずれかの操作が行われた後、前記ステップS5に戻って車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まっているか否かを再度判断し、該車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まっている場合には、前記車両1前部の車高11aをその位置に保持し、乗客が乗降を容易に行えるようにする。
【0036】
この後、
図2のステップS9においてクラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作されたか否かを検出し、該クラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作された場合には、
図2のステップS10においてクラウチング制御を終了し、前記車両1前部の車高11aを元に戻し、
図2のステップS11において車両1後部における左右それぞれのレベリング制御を再開し、前記ステップ1へ戻るようにする。
【0037】
前述の如く構成すると、例えば、上り勾配の道路において、
図4に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高い、即ち、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差の絶対値が予め設定された閾値ΔF0以上となっており([数1]参照)、車両1の後輪3(
図4には示されていない)が接地する路面の高さは、前輪2側とは逆に右側の方が低い、即ち、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差と前記圧力センサ18で検出される車両1後部における左右のリヤエアスプリング5の圧力18aの差との積が負となっている([数2]参照)ような場合、車両1がうねり路にいると判断され、前記コントローラ13から前記カットバルブ16,17を閉じる制御信号16a,17aが出力され、車両1後部における左右それぞれのレベリング制御は強制的に休止される。
【0038】
この状態からクラウチング制御が行われて、車両1前部の左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出された場合、右側のフロントエアスプリング4に内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリング4の上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなるラバーコンタクト状態に陥り、左側のフロントエアスプリング4から更に継続して圧縮エアが排出され、それでも、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲まで下がらないと、左側のフロントエアスプリング4内の圧縮エアがほとんどなくなり、該左側のフロントエアスプリング4がスタビライザ反力で更に縮む形となるが、このとき、前記カットバルブ16,17は既に閉じられ、前記車両1後部における左右それぞれのレベリング制御は休止されているため、前記車両1後部における左右のリヤエアスプリング5に対しては、圧縮エアの給排が行われず、前記車両1の後輪3が接地する右下がりの路面に車体が平行となるようにレベリング制御が働いてしまうことが避けられ、車両1の左側の前輪2が浮き上がって非常に不安定な状態になる心配はない。
【0039】
尚、乗客の乗降中や車内での移動中等に車両1の姿勢変化が生じ、該車両1後部における左右の車高が予め設定されている基準範囲から逸脱したとしても、前記クラウチング制御が行われている間は、前記車両1がうねり路にいるか否かの判断は行われず、前記車両1後部における左右それぞれのレベリング制御は休止状態のままその時点での車高に保持されるため、レベリング制御が行われて車高が変化してしまう心配もない。
【0040】
又、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まる前に、右側のフロントエアスプリング4がラバーコンタクト状態となってしまった場合、左側のフロントエアスプリング4からは更に継続して圧縮エアが排出されることから、この動作に伴って、車両1前部における左側の車高11aだけでなく、車両1後部における左側の車高11aも低くなり、車両1が左側に傾いたとしても、車両1後部における左右それぞれのレベリング制御は強制的に休止されているため、車両1後部における左側のリヤエアスプリング5に圧縮エアが供給されることはなく、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が高くなってしまうようなことが避けられ、クラウチング制御のみが単独で確実に行われることとなる。
【0041】
この結果、クラウチング制御とレベリング制御が交互に行われて制御が収束しなくなるようなことが回避され、エアタンク6内の圧縮エアが全部消費されるまで車体の上下動が継続してしまうというような不具合も生じなくなる。
【0042】
尚、仮に、前記車両1前部における左右の車高11aを検出するフロント車高センサ11と同じ形式の車高センサを車両1後部にも採用すると、コストアップは避けられないが、前記圧力センサ18やカットバルブ16,17は低価格であるため、全体のコストダウンを図る上で有効となる。
【0043】
こうして、車両1の前輪2と後輪3が接地する路面の高さが左右で異なるうねり路においても、車両1の左右一方の前輪2が浮き上がったりすることを防止しつつ、クラウチング制御を確実に行うことができ、且つ圧縮エアの消費を抑制し得、更にコストダウンを図り得る。
【0044】
尚、本発明の車両用エアサスペンション制御装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
1 車両
2 前輪
3 後輪
4 フロントエアスプリング
5 リヤエアスプリング
6 エアタンク
8 フロント車高調整バルブ
8a 制御信号
9 エア管路
11 フロント車高センサ
11a 車高
13 コントローラ
14 クラウチングスイッチ
15 リヤレベリングバルブ
15B バルブ本体
15L レバー
16 カットバルブ
16a 制御信号
17 カットバルブ
17a 制御信号
18 圧力センサ
18a 圧力