特許第5766548号(P5766548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766548
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】等速自在継手およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   F16D3/20 F
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-180575(P2011-180575)
(22)【出願日】2011年8月22日
(65)【公開番号】特開2013-44348(P2013-44348A)
(43)【公開日】2013年3月4日
【審査請求日】2014年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山田 賢二
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−097629(JP,A)
【文献】 特開平08−121492(JP,A)
【文献】 特開2009−121673(JP,A)
【文献】 特開2011−133107(JP,A)
【文献】 特開2005−098450(JP,A)
【文献】 特開2008−298270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が前記外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備えた等速自在継手であって、
前記外側継手部材のトラック溝と内周面との境界部、および前記内側継手部材のトラック溝と外周面との境界部にトラックチャンファを設け、前記外側継手部材あるいは内側継手部材の少なくとも一方のトラックチャンファおよびトラック溝を焼入れし、前記トラック溝の表面硬度よりも小さい表面硬度を有する表面硬化層を前記トラックチャンファに形成したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記トラックチャンファの表面硬度をHRC56〜60の範囲に規定した請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記外側継手部材は球面状内周面に円弧状トラック溝が形成され、前記内側継手部材は球面状外周面に円弧状トラック溝が形成され、前記トルク伝達部材は、外側継手部材の球面状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持されたボールである請求項1又は2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記外側継手部材は円筒状内周面に直線状トラック溝が形成され、前記内側継手部材は球面状外周面に直線状トラック溝が形成され、前記トルク伝達部材は、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持されたボールである請求項1又は2に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記ボールの個数は8個以上である請求項3又は4に記載の等速自在継手。
【請求項6】
軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が前記外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備えた等速自在継手の製造方法において、
前記外側継手部材のトラック溝と内周面との境界部、および前記内側継手部材のトラック溝と外周面との境界部に設けられたトラックチャンファのうち、少なくとも一方のトラックチャンファの表面硬度が前記トラック溝の表面硬度よりも小さくなるように、前記外側継手部材および内側継手部材を熱処理してトラックチャンファおよびトラック溝を焼入れることを特徴とする等速自在継手の製造方法。
【請求項7】
前記トラックチャンファの表面硬度は、外側継手部材のトラック溝および内周面、内側継手部材のトラック溝および外周面を連続的なパターンで焼入れした後、その焼戻し工程でトラックチャンファでの焼戻し量を大きくすることにより設定されている請求項6に記載の等速自在継手の製造方法。
【請求項8】
前記トラックチャンファの表面硬度は、外側継手部材のトラック溝および内周面、内側継手部材のトラック溝および外周面を連続的なパターンで焼入れした後、トラックチャンファの表面硬化層を除去することにより設定されている請求項6に記載の等速自在継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、船舶や各種産業機械の動力伝達系において使用され、例えば4WD車やFR車などで使用されるドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれる等速自在継手およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達する手段として使用される等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を中間シャフトで連結した構造を具備する。
【0004】
これら固定式等速自在継手あるいは摺動式等速自在継手は、軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備えた構造が一般的である。
【0005】
固定式等速自在継手には、トルク伝達部材としてボールを用いたボールタイプのツェッパ型等速自在継手(BJ)やアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)があり、また、摺動式等速自在継手には、トルク伝達部材としてボールを用いたボールタイプのダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)がある。これら等速自在継手では、6個ボールのものが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4041657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では、軽量でコンパクトな等速自在継手の要望が高いことから、ボールの個数を増加させることでボール1個当りの負荷を軽減し、ボール径を小さくすることでコンパクト化を実現容易にした8個ボールの等速自在継手が提案されている。
【0008】
この8個ボールの等速自在継手のようにコンパクトな多数個ボールの等速自在継手において、高負荷時での耐久性の向上および寿命ばらつきの安定化を図るため、ボールPCDすきまなどの内部寸法仕様を規制することで対応したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、前述したようなコンパクトな多数個ボールの等速自在継手では、ボール径を小さくすることで外側継手部材および内側継手部材のトラック溝の深さが小さくなる。この場合、高負荷時にボールがトラック溝からトラックエッジ部(外側継手部材の場合はトラック溝と内周面との境界部、また、内側継手部材の場合はトラック溝と外周面との境界部)へ乗り上げる現象が発生し易くなる。
【0010】
この乗り上げた場合には、ボールとトラックエッジ部との干渉によるボールの傷付きが等速自在継手の寿命低下に影響する。
【0011】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、高負荷時に発生するボールのトラックエッジ部への乗り上げた場合でも、それに起因する寿命の低下を抑制し得る等速自在継手およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備えた等速自在継手であって、外側継手部材のトラック溝と内周面との境界部、および内側継手部材のトラック溝と外周面との境界部にトラックチャンファを設け、外側継手部材あるいは内側継手部材の少なくとも一方のトラックチャンファおよびトラック溝を焼入れし、トラック溝の表面硬度よりも小さい表面硬度を有する表面硬化層をトラックチャンファに形成したことを特徴とする。
【0013】
ここで、「外側継手部材あるいは内側継手部材の少なくとも一方のトラックチャンファ」とは、外側継手部材のトラックチャンファのみの場合、内側継手部材のトラックチャンファのみの場合、外側継手部材のトラックチャンファと内側継手部材のトラックチャンファの両方の場合を含むことを意味する。
【0014】
本発明は、球面状内周面に円弧状トラック溝が形成された外側継手部材と、球面状外周面に円弧状トラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材の球面状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持されたトルク伝達部材であるボールとで構成された固定式等速自在継手、例えばツェッパ型やアンダーカットフリー型等速自在継手に適用すれば有効である。
【0015】
また、本発明は、円筒状内周面に直線状トラック溝が形成された外側継手部材と、球面状外周面に直線状トラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持されたトルク伝達部材であるボールとで構成された摺動式等速自在継手、例えばダブルオフセット型等速自在継手にも適用可能である。
【0016】
さらに、本発明におけるボールの個数は8個以上であることが望ましい。このような多数個ボールの等速自在継手の場合、ボール径が小さくなることで外側継手部材および内側継手部材のトラック溝の深さが小さくなり、ボールの乗り上げ現象が発生し易くなる点で有効である。
【0017】
本発明では、外側継手部材のトラック溝と内周面との境界部、および内側継手部材のトラック溝と外周面との境界部に設けられたトラックチャンファのうち、少なくとも一方のトラックチャンファの表面硬度をトラック溝の表面硬度よりも小さくしたことにより、コンパクトな多数個ボールの等速自在継手において、高負荷時にボールが外側継手部材あるいは内側継手部材のトラックチャンファへ乗り上げても、この乗り上げ時のボールとトラックチャンファとの干渉によるボールの傷付きが発生し難くなる。
【0018】
本発明において、トラックチャンファの表面硬度をHRC56〜60の範囲に規定することが望ましい。このような範囲にトラックチャンファの表面硬度を規定すれば、乗り上げ時のボールとトラックチャンファとの干渉によるボールの傷付きを確実に発生し難くすることができる。なお、トラックチャンファの表面硬度がHRC56よりも小さいと、そのトラックチャンファが柔らかくなり過ぎることから、トラックチャンファの強度不足となる。逆に、トラックチャンファの表面硬度がHRC60よりも大きいと、そのトラックチャンファが硬くなり過ぎることから、乗り上げ時のボールの傷付きが発生し易くなる。
【0019】
本発明は、軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備えた等速自在継手の製造方法であって、外側継手部材のトラック溝と内周面との境界部および内側継手部材のトラック溝と外周面との境界部に設けられたトラックチャンファのうち、少なくとも一方のトラックチャンファの表面硬度がトラック溝の表面硬度よりも小さくなるように、外側継手部材および内側継手部材を熱処理してトラックチャンファおよびトラック溝を焼入れることを特徴とする。
【0020】
本発明方法において、トラックチャンファの表面硬度は、外側継手部材のトラック溝および内周面、内側継手部材のトラック溝および外周面を連続的なパターンで焼入れした後、その焼戻し工程でトラックチャンファでの焼戻し量を大きくすることにより設定することが可能である。また、外側継手部材のトラック溝および内周面、内側継手部材のトラック溝および外周面を連続的なパターンで焼入れした後、トラックチャンファの表面硬化層を除去することにより設定することも可能である。このように、トラックチャンファの表面硬度は、熱処理および機械加工の組合せにより適宜設定可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外側継手部材のトラック溝と内周面との境界部、および内側継手部材のトラック溝と外周面との境界部に設けられたトラックチャンファのうち、少なくとも一方のトラックチャンファの表面硬度をトラック溝の表面硬度よりも小さくしたことにより、コンパクトな多数個ボールの等速自在継手において、高負荷時にボールがトラックチャンファへ乗り上げても、この乗り上げ時のボールとトラックチャンファとの干渉によるボールの傷付きが発生し難くなる。その結果、高負荷時に発生するボールのトラックチャンファへの乗り上げに起因する寿命の低下を抑制することができるので、信頼性の高い長寿命の等速自在継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態で、ツェッパ型等速自在継手の全体構成を示す縦断面図である。
図2図1のA−A線に沿う断面図である。
図3図1の等速自在継手の外側継手部材で、(A)は縦断面図、(B)は右側面図である。
図4図1の等速自在継手の内側継手部材で、(A)は縦断面図、(B)は右側面図である。
図5】本発明の実施形態で、ダブルオフセット型等速自在継手の全体構成を示す縦断面図である。
図6図5のB−B線に沿う断面図である。
図7図5の等速自在継手の外側継手部材で、(A)は縦断面図、(B)は右側面図である。
図8図5の等速自在継手の内側継手部材で、(A)は縦断面図、(B)は右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。以下の実施形態では、トルク伝達部材としてボールを用いたボールタイプのツェッパ型等速自在継手(BJ)を例示するが、他のボールタイプの固定式等速自在継手としてアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)にも適用可能であり、さらに、他のボールタイプの摺動式等速自在継手としてダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)にも適用可能である。また、以下の実施形態では、8個ボールの等速自在継手に適用した場合を例示するが、8個以上の多数個ボールの等速自在継手に対して有効である。
【0024】
図1および図2に示す実施形態のツェッパ型等速自在継手は、軸方向に延びる8つの円弧状トラック溝11が球面状内周面12に円周方向等間隔で形成された外側継手部材10と、その外側継手部材10のトラック溝11と対をなして8つの円弧状トラック溝21が球面状外周面22に形成された内側継手部材20と、外側継手部材10のトラック溝11と内側継手部材20のトラック溝21との間に介在するトルク伝達部材としての8個のボール30と、外側継手部材10の球面状内周面12と内側継手部材20の球面状外周面22との間に配されてボール30を保持するケージ40とで主要部が構成されている。
【0025】
この等速自在継手を構成する外側継手部材10は、図3(A)(B)に示すように、トラック溝11とその両側にある球面状内周面12との境界部であるトラックエッジ部にトラックチャンファ13が設けられている。また、内側継手部材20は、図4(A)(B)に示すように、トラック溝21とその両側にある球面状外周面22との境界部であるトラックエッジ部にトラックチャンファ23が設けられている。このトラックチャンファ13,23は、トラックエッジ部での応力集中を緩和するためのものであり、平坦なテーパ面状あるいは凸R曲面状のいずれであってもよく、その断面形状は任意である。
【0026】
この実施形態におけるツェッパ型等速自在継手において、トラックチャンファ13,23の表面硬度をトラック溝11,21の表面硬度よりも小さくする。通常、トラック溝11,21の表面硬度がHRC61〜63程度であるのに対して、トラックチャンファ13,23の表面硬度をHRC56〜60の範囲に規定する。
【0027】
このように、トラックチャンファ13,23の表面硬度をトラック溝11,21の表面硬度よりも小さくしたことにより、コンパクトな8個ボール30の等速自在継手において、高負荷時にボール30が外側継手部材10のトラック溝11と内周面12との境界部、および内側継手部材20のトラック溝21と外周面22との境界部であるトラックチャンファ13,23へ乗り上げても、そのトラックチャンファ13,23を柔らかくしたことで、この乗り上げ時のボール30とトラックチャンファ13,23との干渉によるボール30の傷付きが発生し難くなる。
【0028】
特に、トラックチャンファ13,23の表面硬度をHRC56〜60の範囲に規定することにより、乗り上げ時のボール30とトラックチャンファ13,23との干渉によるボール30の傷付きを確実に発生し難くすることができる。なお、トラックチャンファ13,23の表面硬度がHRC56よりも小さいと、そのトラックチャンファ13,23が柔らかくなり過ぎることから、トラックチャンファの強度不足となる。逆に、トラックチャンファ13,23の表面硬度がHRC60よりも大きいと、そのトラックチャンファ13,23が硬くなり過ぎることから、乗り上げ時のボール30の傷付きが発生し易くなる。
【0029】
以上の実施形態のように、トラックチャンファ13,23の表面硬度がトラック溝11,21の表面硬度よりも小さくなるように、外側継手部材および内側継手部材を熱処理することになるが、その場合、以下のような手法により、トラックチャンファの表面硬度をHRC56〜60の範囲に規定すればよい。
【0030】
まず、第一の手法として、通常の浸炭あるいは高周波焼入れ焼戻しにより、外側継手部材10のトラック溝11および内周面12、内側継手部材20のトラック溝21および外周面22の全体を連続的なパターンで焼入れすることにより、外側継手部材10のトラック溝11および内周面12、内側継手部材20のトラック溝21および外周面22で必要とする表面硬度、例えばHRC63程度を確保する。その後、焼戻し工程で誘導テンパー方式を採用することにより部分的な表面硬度のコントロールを行う。つまり、誘導テンパー方式の焼戻しにより、トラックチャンファ13,23での焼戻し量を部分的に大きくすることにより、トラックチャンファ13,23の表面硬度を低下させてHRC56〜60の範囲に設定する。
【0031】
また、第二の手法として、高周波焼入れ焼戻しにより、外側継手部材10のトラック溝11および内周面12、内側継手部材20のトラック溝21および外周面22を非連続的なパターンで焼入れすることにより、トラックチャンファ13,23を除く部位を焼入れすることにより、トラックチャンファ13,23の表面硬度をHRC56〜60の範囲に設定する。
【0032】
さらに、第三の手法として、通常の浸炭あるいは高周波焼入れ焼戻しにより、外側継手部材10のトラック溝11および内周面12、内側継手部材20のトラック溝21および外周面22の全体を連続的なパターンで焼入れすることにより、外側継手部材10のトラック溝11および内周面12、内側継手部材20のトラック溝21および外周面22で必要とする表面硬度、例えばHRC63程度を確保する。その後、トラックチャンファ13,23の表面硬化層を焼入れ鋼切削や研削などの仕上げ加工による機械加工を加えることで除去することにより、トラックチャンファ13,23の表面硬度をHRC56〜60の範囲に設定する。
【0033】
以上の実施形態では、外側継手部材10のトラックチャンファ13および内側継手部材20のトラックチャンファ23の両方について、それらトラックチャンファ13,23の表面硬度をトラック溝11,21の表面硬度よりも小さくした場合について説明したが、外側継手部材10のトラックチャンファ13あるいは内側継手部材20のトラックチャンファ23のいずれか一方のみの表面硬度をトラック溝11,21の表面硬度よりも小さくするだけでもよい。
【0034】
以上の実施形態では、固定式等速自在継手の一つであるツェッパ型等速自在継手に適用した場合を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、摺動式等速自在継手の一つであるダブルオフセット型等速自在継手にも適用可能である。
【0035】
ダブルオフセット型等速自在継手は、図5および図6に示すように、軸方向に延びる8つの直線状トラック溝111が円筒状内周面112に円周方向等間隔で形成された外側継手部材110と、その外側継手部材110のトラック溝111と対をなして8つの直線状トラック溝121が球面状外周面122に形成された内側継手部材120と、外側継手部材110のトラック溝111と内側継手部材120のトラック溝121との間に介在するトルク伝達部材としての8個のボール130と、外側継手部材110の円筒状内周面112と内側継手部材120の球面状外周面122との間に配されてボール130を保持するケージ140とで主要部が構成されている。
【0036】
この等速自在継手を構成する外側継手部材110は、図7(A)(B)に示すように、トラック溝111とその両側にある円筒状内周面112との境界部であるトラックエッジ部にトラックチャンファ113が設けられている。また、内側継手部材120は、図8(A)(B)に示すように、トラック溝121とその両側にある球面状外周面122との境界部であるトラックエッジ部にトラックチャンファ123が設けられている。
【0037】
このダブルオフセット型等速自在継手に適用した実施形態において、トラックチャンファ113,123の表面硬度をトラック溝111,121の表面硬度よりも小さくする。そのトラックチャンファ113,123の表面硬度およびトラック溝111,121の表面硬度の数値範囲や、その表面硬度を設定するための熱処理などの手法については、前述のツェッパ型等速自在継手の実施形態の場合と同様であるため、重複説明は省略する。
【0038】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0039】
10,110 外側継手部材
11,111 トラック溝
12,112 内周面
13,113 トラックチャンファ
20,120 内側継手部材
21,121 トラック溝
22,122 外周面
23,123 トラックチャンファ
30,130 トルク伝達部材(ボール)
40,140 ケージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8