(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態のエアバッグ装置は、車両内に搭載されて、膨張展開するエアバッグにより車両の乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置は、車両内で、運転席や助手席等のシートの周囲に設けられて、乗員を保護する。以下では、ステアリングホイールに配置された運転席用のエアバッグ装置を例に採り説明する。
【0015】
図1は、エアバッグ装置を設けたステアリングホイールを示す正面図である。
図1では、ステアリングホイール90を乗員側から見て示している。
ステアリングホイール90は、運転席の前方に配置されている。エアバッグ装置1は、図示のように、ステアリングホイール90の中央部に搭載されて、乗員の前方に配置される。エアバッグ装置1は、エアバッグカバー2と、エアバッグカバー2内に配置されたエアバッグ(図示せず)を備えている。エアバッグカバー2は、エアバッグ装置1の表面を覆う。
【0016】
エアバッグは、折り畳まれた状態で、エアバッグカバー2内に収容されている。エアバッグは、膨張によりエアバッグカバー2を押し開いて車室内で展開する。エアバッグは、ステアリングホイール90と乗員の間で膨張展開する。その際、エアバッグは、乗員の位置する方向(乗員方向という)と側方に向けて膨張する。エアバッグは、ステアリングホイール90を覆うように展開する。
【0017】
図2は、本実施形態のエアバッグ装置1を示す図である。
図2では、エアバッグ装置1を
図1の矢印X方向から見て模式的に示している。また、展開(膨張)中のエアバッグ10を断面図で示している。
図3は、エアバッグ装置1を分解して示す斜視図である。
図3では、エアバッグ装置1の各部を上下方向に離して示している。
図3には、矢印により、組み合わされる部材の関係や部材同士の組み合わせ位置も示している。
【0018】
エアバッグ装置1は、図示のように、膨張展開可能なエアバッグ10と、インフレータ3と、エアバッグ10内に配置されたクッションリング4と、リアクションプレート5(
図2では省略する)を備えている。エアバッグ10は、インフレータ3から供給されるガスにより、乗員に向かって膨張展開する。
【0019】
インフレータ3は、ディスクタイプのガス発生装置である。インフレータ3は、厚さ方向の一端部の外周に、複数のガス噴出口(図示せず)を有する。インフレータ3の一端部は、エアバッグ10に形成された取付口11からエアバッグ10内に挿入される。その状態で、インフレータ3が取付口11に取り付けられる。車両緊急時や衝撃検知時に、複数のガス噴出口から放射状にガスを噴き出す。インフレータ3は、エアバッグ10内でガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。供給するガスにより、エアバッグ10を、所定の折り畳み形状から膨張展開させる。
【0020】
クッションリング4は、矩形状に形成されている。クッションリング4の中央部には、インフレータ3が挿入される孔4A(
図3参照)が形成されている。また、4つのボルト4Bが、クッションリング4の孔4Aの周りに固定されている。クッションリング4は、エアバッグ10をリアクションプレート5に固定する。その際、エアバッグ10の取付口11の周辺部が、クッションリング4とリアクションプレート5の間に挟み込まれる。
【0021】
エアバッグ10の固定時には、まず、ボルト4Bを、エアバッグ10の各部材に設けられた挿入孔12に挿入する。ボルト4Bにより、エアバッグ10の各部材を仮止めする。続いて、ボルト4Bを、リアクションプレート5の取付孔(図示せず)に挿入した後、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付ける。ボルト4Bは、インフレータ3をエアバッグ10に取り付ける取付部材であり、インフレータ3の挿入孔3Aに挿入される。次に、ボルト4Bを、ロックナット6によりリアクションプレート5に固定する。これにより、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。
【0022】
リアクションプレート5は、矩形状の周壁を有する。クッションリング4とエアバッグ10は、リアクションプレート5の一方の面に取り付けられる。インフレータ3の一端部は、リアクションプレート5の中央口(図示せず)に挿入される。その状態で、インフレータ3は、リアクションプレート5の他方の面に取り付けられる。リアクションプレート5の内部には、折り畳まれたエアバッグ10が配置される。エアバッグカバー2は、エアバッグ10を覆うように、リアクションプレート5に取り付けられる。その後、リアクションプレート5が、ステアリングホイール90に固定される。
【0023】
エアバッグ10は、円形状の保護布13と、ベルト状の連結部材14と、補強カバー15と、アウターバッグ20と、インナーバッグ30を有する。インナーバッグ30は、アウターバッグ20内に配置される。連結部材14は、インナーバッグ30内に配置される。エアバッグ10の各部は、織布やシートからなる基布を裁断して形成される。保護布13と補強カバー15の中央には、取付口11が形成されている。保護布13と補強カバー15は、クッションリング4とリアクションプレート5の間の所定位置に配置される。
【0024】
アウターバッグ20とインナーバッグ30は、それぞれエアバッグ10の外側膨張部と内側膨張部である。クッションリング4は、インナーバッグ30の取付口11から、インナーバッグ30内に挿入される。アウターバッグ20とインナーバッグ30は、クッションリング4によりリアクションプレート5に固定される。アウターバッグ20とインナーバッグ30の取付口11の周辺部が、クッションリング4とリアクションプレート5の間に保持される。
【0025】
次に、エアバッグ10の各部について詳しく説明する。
なお、本発明では、アウターバッグ20、インナーバッグ30、及び、エアバッグ10に関して、それぞれ車両内で、乗員側(
図2、
図3では上側)になる部分を前面、車体側(
図2、
図3では下側)になる部分を後面という。アウターバッグ20とインナーバッグ30に関して、それぞれエアバッグ10として組み立てられた状態で、外側になる面を外面、内側になる面を内面という。
【0026】
インフレータ3の一端部は、インナーバッグ30の内部に配置される。インナーバッグ30は、インフレータ3から供給されるガスにより膨張する。インナーバッグ30は、少なくとも1つ(ここでは、3つ)のガスの流通口(流出口)31〜33と、気室34を有する。第1〜第3の流通口31〜33は、円形孔からなり、ガスをインナーバッグ30の内外間で流通させる。第1の流通口31は、インナーバッグ30の前面に形成されている。第2と第3の流通口32、33は、インナーバッグ30の側部に形成されている。気室34は、インナーバッグ30の内部空間である。インナーバッグ30は、エアバッグ10内で最初に膨張を開始し、流通口31〜33を通してアウターバッグ20内にガスを供給する。
【0027】
インナーバッグ30は、前面である前基布(前面パネル)35と、後面である後基布(後面パネル)36を有する。後基布36の内面には、保護布13が取り付けられる。保護布13は、後基布36とクッションリング4の間に配置されて、クッションリング4から後基布36を保護する。インフレータ3は、後基布36の中央に設けられた取付口11に取り付けられる。インフレータ3は、インナーバッグ30の後面に取り付けられて、インナーバッグ30内でガスを発生する。第1の流通口31は、前基布35の中央部に設けられ、ガスをインナーバッグ30から乗員方向Eに流出させる。
【0028】
インナーバッグ30の基布35、36は、円形部35A、36Aと、少なくとも1つ(ここでは、2つ)の矩形部35B、36Bからなる。2つの矩形部35B、36Bは、円形部35A、36Aから逆方向に延びるように、円形部35A、36Aの外周に形成されている。基布35、36は、縁部に沿って、縫製や接着(ここでは、縫製)により接合される。円形部35A、36A及び2つの矩形部35B、36Bが、それぞれ接合される。基布35、36により、気室34が、インナーバッグ30の内部に形成される。
【0029】
インナーバッグ30は、本体膨張部37と、少なくとも1つ(ここでは、一対)のガスの排出筒40を有する。本体膨張部37は、円形部35A、36Aにより球状に形成されたインナーバッグ30の球状膨張部である。排出筒40は、矩形部35B、36Bにより筒状に形成されたインナーバッグ30の筒状膨張部である。インナーバッグ30は、本体膨張部37と一対の排出筒40により構成される。本体膨張部37と排出筒40の内部は繋がる。本体膨張部37は、インフレータ3から供給されるガスにより、インナーバッグ30の中心で球形状に膨張する。ガスは、本体膨張部37から一対の排出筒40へ流れる。排出筒40は、本体膨張部37から供給されるガスにより、本体膨張部37の外方に向かって筒状に膨張する。膨張した本体膨張部37と排出筒40は、後述するように、エアバッグ10の膨張に伴い変形及び収縮する。
【0030】
インナーバッグ30は、排出筒40にガスの排出口41を有する。排出口41は、排出筒40の突端部42内に設けられている。排出筒40は、膨張時にインナーバッグ30の外方に突出し、突端部42の排出口41からガスを排出する。ガスは、インナーバッグ30の内部から外部へ排出される。一対の排出筒40が、インナーバッグ30の側方に向かって、かつ、逆方向に突出する。一対の排出筒40は、ガスをインナーバッグ30の側方に向かって排出する。インナーバッグ30は、インフレータ3が発生するガスを、一対の排出筒40により排出する。
【0031】
アウターバッグ20は、正面視円形状の袋体である。また、アウターバッグ20は、インナーバッグ30を収容するメインバッグである。アウターバッグ20は、インナーバッグ30の流通口31〜33から供給されるガスにより膨張する。エアバッグ10の膨張時に、アウターバッグ20は、インナーバッグ30に続いて膨張を開始する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30の周りで、インナーバッグ30よりも大きく膨張する。
【0032】
アウターバッグ20は、前面である前基布(前面パネル)21と、後面である後基布(後面パネル)22を有する。基布21、22は、同じ直径の円形状に形成され、外周に沿って接合される。基布21、22により、気室23が、アウターバッグ20の内部に形成される。アウターバッグ20は、少なくとも1つ(ここでは、2つ)のベントホール24と、排出筒40の通過口25を有する。ベントホール24は、後基布22の2箇所に形成されている。ベントホール24は、ガスを車体の位置する方向(車体方向という)に排出する。ガスは、アウターバッグ20の内部から外部へ排出される。
【0033】
アウターバッグ20の後基布22の外面には、補強カバー15が取り付けられる。補強カバー15は、後基布22を補強して、インフレータ3が発生するガスや熱から後基布22を保護する。また、補強カバー15は、ベントホール24に重なるベントホール部カバーでもある。補強カバー15は、矩形状の基布からなり、中心に形成された取付口11と、2つの円形状の開放孔15Aを有する。補強カバー15は、ベントホール24を覆うようにアウターバッグ20の外面に配置される。補強カバー15の両側縁が、縫製により後基布22の外面に接合される。開放孔15Aは、ベントホール24と同様の円形孔からなる。補強カバー15が後基布22に密着したときに、開放孔15Aは、ベントホール24に重なる。開放孔15Aは、ベントホール24から排出されるガスを通過させる。
【0034】
アウターバッグ20の2つの通過口25は、後基布22の補強カバー15に覆われる位置に設けられる。通過口25は、後基布22に形成されたスリットからなる。2つの通過口25は、ベントホール24に近接する位置に、かつ、2つのベントホール24のインフレータ3側に形成される。通過口25は、インナーバッグ30の排出筒40を、アウターバッグ20の外方又は内方へ通過させる。排出筒40は、インナーバッグ30から、アウターバッグ20に形成された通過口25を通って、アウターバッグ20の外部まで配置される。これにより、排出筒40の突端部42が、エアバッグ10の膨張前に、アウターバッグ20外に配置される。
【0035】
排出筒40は、アウターバッグ20外で、補強カバー15とアウターバッグ20の間(補強カバー15内)に配置される。排出筒40の突端部42は、補強カバー15の開放した端部を通して、補強カバー15外に配置される。排出筒40は、インナーバッグ30の膨張により、補強カバー15内で膨張する。一対の排出筒40は、それぞれ排出口41から、インナーバッグ30内のガスをアウターバッグ20外へ排出する。インナーバッグ30は、インフレータ3から供給されるガスを、一対の排出筒40により、エアバッグ10外へ排出する。
【0036】
エアバッグ10の膨張展開時には、最初に、インフレータ3を収容するインナーバッグ30が、アウターバッグ20内で膨張する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30の外部で次第に膨張する。インナーバッグ30とアウターバッグ20は、インフレータ3が取り付けられた後面で連結された状態で膨張する。インナーバッグ30とアウターバッグ20は、乗員の前方で、乗員方向Eと側方に展開する。インナーバッグ30の全体が膨張展開した後、アウターバッグ20の全体が膨張展開する。その際、連結部材14により、アウターバッグ20の膨張と展開が規制される。これにより、アウターバッグ20は、側方に広がってから乗員方向Eに次第に膨張する。また、連結部材14は、排出筒40(排出口41)の開放と閉鎖を制御する。連結部材14は、インナーバッグ30の膨張開始後に排出筒40を閉鎖させる。
【0037】
連結部材14は、帯状部材(ここでは、帯状布)からなるテザーベルトである。連結部材14は、一対の排出筒40内の所定部をアウターバッグ20の前面に連結する。連結部材14の長さは、インナーバッグ30の基布35、36よりも短い長さになっている。連結部材14は、インナーバッグ30内及び一対の排出筒40内に配置される。連結部材14の両端部14Aを、それぞれ排出筒40内の所定部に接合することで、連結部材14が排出筒40に連結される。連結部材14は、第1の流通口31の位置で、アウターバッグ20の前面(前基布21)に接合される。連結部材14と前基布21は、中央の連結部14Bで円形状に縫製される。連結部材14は、インナーバッグ30の第1の流通口31を通して、アウターバッグ20の前面に連結される。連結部材14は、エアバッグ10の膨張前に、インナーバッグ30内で、前基布35と後基布36の間に配置される。
【0038】
図4は、膨張前のインナーバッグ30を示す平面図である。
図4では、インナーバッグ30内の部材を点線で示している。
一対の排出筒40には、図示のように、それぞれ折り返し部43と排出口41が設けられている。排出筒40の先端部は、排出筒40の内側へ折り返される。これにより、折り返し部43が、排出筒40の突端部42内に形成される。排出口41は、排出筒40の先端部に形成されており、排出筒40の折り返し部43に設けられる。折り返し部43は、排出口41を排出筒40内に位置させる。
【0039】
連結部材14は、インナーバッグ30内で、一対の排出筒40の折り返し部43間に配置される。連結部材14は、排出筒40内で折り返し部43の先端部に連結されて、折り返し部43の先端部を塞ぐ。連結部材14は、一対の折り返し部43の間で直線状に、かつ、弛みなく配置される。連結部材14は、一対の折り返し部43の中間位置で、アウターバッグ20の前面に連結される。連結部材14は、一対の排出筒40の折り返し部43をアウターバッグ20の前面に連結する。連結部材14は、インナーバッグ30内を通って、排出筒40内の折り返し部43をアウターバッグ20の前面に連結する。
【0040】
図5は、
図4に示すインナーバッグ30のY部を拡大した図である。
図5には、一方の排出筒40の突端部42を示している。
図5Aは、折り返し部43を形成する前の排出筒40の平面図である。
図5Bは、折り返し部43を形成した後の排出筒40の平面図である。
図5Cは、
図5Bの矢視Z1−Z1線で見た排出筒40の断面図である。
【0041】
インナーバッグ30の基布35、36は、図示のように、排出筒40の先端部で、台形状に形成されている。基布35、36(台形状の部分を含む)の縁部の全体が接合されて、排出筒40の縁部が閉鎖される。排出筒40の先端部を排出筒40内に反転させることで、排出筒40の先端部が折り返される。排出筒40の折り返し部43は、先細り形状をなし、排出筒40内に配置される。
【0042】
排出筒40の折り返し部43は、一対の対向部(対向面)44を有する。排出筒40の先端部は、一対の対向部44が重なるように折り返される。一対の対向部44は、それぞれ折り返し部43の基布35、36からなり、排出筒40の基布35、36の間に挟まれる。一対の対向部44は、排出筒40内で対向して配置される。排出口41は、一対の対向部44に形成された一対の貫通孔45からなる。一対の貫通孔45は、それぞれ対向部44を貫通する円形状の孔からなり、同じ形状に形成されている。一対の貫通孔45は、一対の対向部44の同じ位置に、かつ、同じ大きさに形成されている。
【0043】
排出筒40の先端部を折り返し線Tで折り返したときに、一対の貫通孔45は、一対の対向部44とともに、排出筒40内で重なる。一対の貫通孔45は、排出筒40の折り返し線Tに近接する所定位置に配置される。一対の貫通孔45は、折り返し線Tから離して配置される。その結果、一対の貫通孔45の全体が排出筒40内で重なる。一対の対向部44が貫通孔45の周りで離れることで、一対の貫通孔45の一部又は全体が離れる。これにより、一対の貫通孔45が開放されて、排出筒40内の折り返し部43に排出口41が形成される。インナーバッグ30が膨張したときに、排出筒40は、排出口41のみからガスを排出する。
【0044】
図6は、膨張後のインナーバッグ30を示す斜視図である。
図7は、排出筒40の突端部42を示す断面図である。
図7では、排出筒40を
図5Cに対応させて示している。
インナーバッグ30の膨張時には、
図6に示すように、ガスが基布35、36間の気室34に充填される。インナーバッグ30は、平面形状から立体形状に膨張する。
【0045】
一対の排出筒40は、本体膨張部37側の基端部46から突端部42まで膨張する。排出筒40の膨張により、一対の対向部44と一対の貫通孔45が、排出筒40の外方に開くように離れる。排出筒40は、折り返し部43の排出口41からガスを排出する(
図7A参照)。インナーバッグ30が膨張すると、折り返し部43は、ガスの圧力により排出筒40の外方へ押される。一対の折り返し部43は、互いの間の連結部材14を同等の力で引き合う。その結果、連結部材14が、排出筒40の外方へ押される一対の折り返し部43を、それぞれ引っ張る。排出筒40内の連結部材14は、折り返し部43の先端部を排出筒40の内方に引っ張る。折り返し部43を連結部材14により基端部46側へ引っ張ることで、折り返し部43と排出口41を排出筒40内に維持する。折り返し部43がガスの圧力で排出筒40外へ押し出されるのも防止する。連結部材14は、折り返し部43とガスを排出する排出口41を排出筒40内に保持する。
【0046】
アウターバッグ20の膨張に伴い、連結部材14が、アウターバッグ20に引っ張られる。連結部材14は、膨張したインナーバッグ30内から次第に引き出される。これに伴い、連結部材14が、排出筒40の折り返し部43とガスを排出する排出口41を引っ張る。連結部材14は、折り返し部43と排出口41を排出筒40の内方(基端部46側)に引き込む(
図7B参照)。排出口41は、次第に小さくなり、ガスの排出量が減少する。折り返し部43が更に引き込まれると、一対の対向部44と一対の貫通孔45が、排出筒40内で重なる。折り返し部43が排出筒40内の所定位置まで引き込まれたときに、一対の対向部44は、排出筒40内で重なり排出口41を閉鎖する(
図7C参照)。その際、貫通孔45の周りの一対の対向部44が、排出筒40内のガスの圧力により密着して、一対の貫通孔45を塞ぐ。排出筒40は、排出口41からのガスの排出を停止する。
【0047】
連結部材14は、折り返し部43を排出筒40内で変位させる。これにより、連結部材14は、排出筒40の排出口41を、ガスを排出する状態(開放状態)(
図7A参照)とガスの排出を停止する状態(閉鎖状態)(
図7C参照)との間で切り替える。排出口41が開放状態から閉鎖状態に切り替わった直後の状態(
図7B参照)では、エアバッグ10の状況に応じて、排出口41からガスが排出される。排出口41が完全に閉鎖した後でも、連結部材14がインナーバッグ30内に戻されると、排出口41がガスの圧力により再び開放する。
【0048】
次に、エアバッグ装置1(
図3参照)の製造手順について説明する。
アウターバッグ20に関しては、まず、補強カバー15を後基布22の外面に縫製(
図3では、縫製部を点線で示す)する。次に、基布21、22の外面を重ね合わせて、基布21、22を外周に沿って縫製する。その後、基布21、22を、取付口11を通して反転させる。なお、
図3では、アウターバッグ20及びインナーバッグ30を反転させた後における各部材の配置状態を示している。
【0049】
インナーバッグ30に関しては、まず、保護布13を後基布36の内面に縫製する。次に、基布35、36の外面を重ね合わせて、基布35、36を縁部に沿って縫製する。また、連結部材14の両端部14Aを、インナーバッグ30の両端部に接合する。その後、基布35、36を、取付口11を通して反転させて、連結部材14をインナーバッグ30内に配置する。排出筒40(
図4参照)は、インナーバッグ30から外方に突出するように配置する。排出筒40の先端部を内側に折り返して、折り返し部43を排出筒40内に形成する。
【0050】
続いて、クッションリング4(
図3参照)を、取付口11からインナーバッグ30内に入れる。クッションリング4の4つのボルト4Bを、インナーバッグ30の4つの挿入孔12に挿入する。インナーバッグ30とクッションリング4を、アウターバッグ20の取付口11からアウターバッグ20内に入れる。インナーバッグ30とアウターバッグ20は、クッションリング4のボルト4Bにより仮止めする。本体膨張部37とアウターバッグ20は、同芯状に配置される。また、各取付口11とインナーバッグ30の第1の流通口31の位置を合わせる。その状態で、連結部材14を、連結部14Bでアウターバッグ20の前基布21に縫製する。連結部材14と前基布21は、取付口11と第1の流通口31の内側で縫製する。一対の排出筒40は、それぞれ通過口25を通して補強カバー15内に挿入する。排出筒40の突端部42を、アウターバッグ20の外部に配置する。
【0051】
次に、インナーバッグ30とアウターバッグ20からなるエアバッグ10を、クッションリング4により、リアクションプレート5に取り付ける。続いて、インフレータ3をリアクションプレート5に取り付けて、ロックナット6をボルト4Bにはめ込む。これにより、クッションリング4、エアバッグ10、及び、インフレータ3をリアクションプレート5に固定する。次に、エアバッグ10を折り畳んでリアクションプレート5内に配置する。ただし、エアバッグ10は、リアクションプレート5への固定前に、予め折り畳んでおいてもよい。
【0052】
最後に、エアバッグカバー2(
図3では図示せず)をリアクションプレート5に取り付けて、エアバッグ装置1の製造が完了する。エアバッグ装置1は、ステアリングホイール90(
図1参照)に取り付けられる。その後、車両緊急時や衝撃検知時に、インフレータ3を作動させる。インフレータ3は、ガスを発生する。このガスにより、エアバッグ10を、折り畳みを解消させつつ膨張させる。エアバッグ10は、ステアリングホイール90を覆うように膨張展開する。
【0053】
図8は、膨張展開するエアバッグ10を順に示す断面図である。
図8では、各段階のエアバッグ10を、
図2に対応させて示している。
エアバッグ10の展開初期では、まず、インナーバッグ30が、インフレータ3から供給されるガスにより、アウターバッグ20内で膨張する(
図8A参照)。排出筒40は、アウターバッグ20内の部分からアウターバッグ20外の突端部42まで膨張する(
図8B参照)。アウターバッグ20の通過口25は、排出筒40により拡げられる。折り返し部43の排出口41も、排出筒40内で開放する。インナーバッグ30は、インフレータ3が発生するガスを、排出口41からエアバッグ10外へ直接排出する。これにより、インナーバッグ30及びエアバッグ10の膨張を抑制する。
【0054】
連結部材14の両端部14Aが、一対の排出筒40の折り返し部43により引っ張られるため、連結部材14は、インナーバッグ30内に保持される。同時に、一対の折り返し部43が、連結部材14により、排出筒40の内方に引っ張られる。連結部材14は、折り返し部43と排出口41を排出筒40内に保持する。排出筒40は、ガスを排出口41からアウターバッグ20外へ排出する。
【0055】
連結部材14は、アウターバッグ20の前面(連結部14B)に張力を作用させて、前面を乗員方向Eの逆方向(車体方向)に引っ張る。連結部材14は、アウターバッグ20の前面の移動を妨げて、前面の乗員方向Eへの移動を止める。アウターバッグ20の前面は、連結部材14とインナーバッグ30により乗員方向Eへの移動が規制される。また、連結部材14から受ける張力により、アウターバッグ20の膨張と展開が規制される。アウターバッグ20は、側方に広がってから乗員方向Eに次第に膨張する。その結果、アウターバッグ20の乗員方向Eへの膨張や突き出しが抑制される。アウターバッグ20は、乗員方向Eに対して側方に大きく膨張する。エアバッグ10の中央部は、アウターバッグ20の膨張により、乗員方向Eに勢いよく突き出すことなく所定厚さに膨張する。
【0056】
アウターバッグ20は、インナーバッグ30の流通口31〜33(
図8では、第1の流通口31のみ示す)から供給されるガスにより膨張を開始する。その際、連結部材14がアウターバッグ20の乗員方向Eの膨張を規制するため、アウターバッグ20は、側方に優先的に膨張する。アウターバッグ20は、外方に広がるように広範囲に展開する。アウターバッグ20は、インナーバッグ30を中心に、側方に均等に膨張する。次に、アウターバッグ20の内圧の上昇に伴い、アウターバッグ20が乗員方向Eに膨張し、アウターバッグ20の厚さが増加する。
【0057】
膨張したインナーバッグ30は、流通口31〜33からガスを流出させて、ガスをアウターバッグ20の全体に供給する。その結果、アウターバッグ20の内圧が徐々に高くなり、インナーバッグ30の内外の圧力差が小さくなる。これに伴い、インナーバッグ30の剛性及び膨張形状を保持する力が低下する。インナーバッグ30は、ガスの流出により徐々に収縮する。インナーバッグ30の容積の減少と外径の縮小が進行する。連結部材14は、アウターバッグ20の膨張に伴い、アウターバッグ20の前面により乗員方向Eに引っ張られる。連結部材14は、第1の流通口31を通って、膨張したインナーバッグ30内から乗員方向Eへ次第に引き出される(
図8C参照)。
【0058】
連結部材14は、インナーバッグ30外へ引き出される間に、アウターバッグ20の前面を乗員方向Eへ徐々に移動させる。また、連結部材14は、折り返し部43と排出口41を排出筒40の内方に引き込む。折り返し部43は、排出筒40内(インナーバッグ30内)に次第に深く引き込まれる。排出筒40内で、排出口41の周りの折り返し部43がガスの圧力により密着して、折り返し部43の排出口41が閉鎖する。連結部材14は、折り返し部43により、ガスを排出する排出口41を閉鎖させて、排出口41によるガスの排出を停止させる。
【0059】
アウターバッグ20の前面は、連結部材14の引き出し量に応じて乗員方向Eへ移動する。これに伴い、アウターバッグ20は、乗員方向Eへ次第に膨張する。連結部材14は、膨張した排出筒40の折り返し部43を引っ張り、排出筒40をインナーバッグ30内に引き込む。排出筒40は、インナーバッグ30内に向かって変形して、次第に反転する。排出筒40は、連結部材14の引っ張りにより、補強カバー15外(アウターバッグ20内)へ向かって移動する。続いて、排出筒40は、通過口25を通ってアウターバッグ20内に引き込まれる(
図8D参照)。排出筒40は、補強カバー15外に移動する。これに伴い、補強カバー15が、アウターバッグ20の後面に密着する。通過口25は補強カバー15により塞がれる。補強カバー15の開放孔15Aは、ベントホール24に重なる。アウターバッグ20内のガスは、ベントホール24及び開放孔15Aからアウターバッグ20外へ排出される。
【0060】
連結部材14は、排出筒40とインナーバッグ30を収縮させつつ、インナーバッグ30外に引き出される。その際、膨張の力により、インナーバッグ30と排出筒40の変形が抑制されるため、連結部材14には、抵抗が付加される。この抵抗は、連結部材14の引き出しを妨げる力であり、インナーバッグ30を収縮させるための力や排出筒40を引き込むための力により発生する。アウターバッグ20の展開初期から後期まで、連結部材14とインナーバッグ30により、アウターバッグ20の前面に安定した抵抗が付加される。
【0061】
インナーバッグ30から受ける抵抗により、連結部材14の引き出しが抑制される。連結部材14は、インナーバッグ30から徐々に引き出される。その結果、連結部材14は、アウターバッグ20の前面に張力を付加した状態で、アウターバッグ20の前面を徐々に移動させる。アウターバッグ20の前面が安定して移動するため、アウターバッグ20が、部分的な突き出しや速度の速い突き出しを起こさず、徐々に厚く膨張する。アウターバッグ20は、安定して膨張展開する。
【0062】
連結部材14の引き出しが停止したときに、アウターバッグ20が、乗員の前方で完全に膨張展開する(
図8E参照)。連結部材14とインナーバッグ30は、アウターバッグ20の前面と後面の間で伸ばされる。連結部材14とインナーバッグ30は、アウターバッグ20の前面と後面の間でテザーベルトとして機能して、アウターバッグ20の前面を停止させる。アウターバッグ20は、連結部材14とインナーバッグ30により膨張が制限されて、所定厚さに膨張する。アウターバッグ20の前面は、乗員前方の所定位置に配置される。
【0063】
エアバッグ装置1は、膨張の各段階におけるアウターバッグ20(エアバッグ10)により、乗員を受け止めて保護する。エアバッグ10は、乗員の上体を主に受け止めて拘束する。エアバッグ10により衝撃やエネルギーを吸収することで、乗員の衝撃を緩和する。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、アウターバッグ20内のガスは、ベントホール24及び開放孔15Aから排出される。これにより、乗員の衝撃を緩和する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態のエアバッグ装置1では、エアバッグ10が乗員に向かって勢いよく突き出すのを防止し、エアバッグ10を安定して膨張展開させることができる。エアバッグ10が乗員に勢いよく当たるのを防止できるため、乗員が受ける衝撃を低減できる。乗員がステアリングホイール90に接近していても、乗員の受ける衝撃を大幅に低減できる。連結部材14が膨張した排出筒40を引き込むときに、連結部材14に排出筒40から大きな抵抗が付加される。その結果、連結部材14により、アウターバッグ20の前面の移動を確実かつ強固に規制できる。
【0065】
エアバッグ10の部分的な突き出しが抑制されるため、エアバッグ10の前面が比較的平らな状態で移動する。そのため、乗員を、エアバッグ10の広い面積で受け止めて安全に拘束できる。エアバッグ10が乗員方向Eに徐々に膨張するため、膨張完了後に、エアバッグ10が厚さ方向に伸び縮みするのが抑制される。その結果、エアバッグ10のバウンドが軽減する。エアバッグ10の膨張形状及び前面の位置が早期に安定するため、エアバッグ10の性能が安定する。エアバッグ10の膨張展開直後においても、乗員を安全に拘束できる。乗員が接触する際に、常に、有効な吸収ストロークをエアバッグ10に確保できるため、乗員の衝撃やエネルギーを確実に吸収できる。
【0066】
連結部材14とインナーバッグ30がテザーベルトとして機能することで、エアバッグ10が設定された厚さと形状に膨張展開する。エアバッグ10の膨張展開後の変動も抑制される。また、エアバッグ10の乗員方向Eの膨張を制限できるため、エアバッグ10の乗員に対する安全性を向上できる。連結部材14を設けずに、インナーバッグ30のみをテザーベルトとして利用するときには、エアバッグ10の厚さを確保するために、インナーバッグ30を大きくする必要がある。これに対し、連結部材14を設けることで、小さなインナーバッグ30でも、エアバッグ10を必要な厚さに膨張させることができる。
【0067】
上記のように膨張するエアバッグ10により、乗員を安全に保護することができる。また、エアバッグ10により、運転席に座る乗員の状態の違いに対応できるため、各状態の乗員を保護できる。
図9は、乗員を保護するエアバッグ装置1を示す側面図である。
図9では、体格に差がある2人の乗員91(91A、91B)を示している。
【0068】
大柄な乗員91A(
図9A参照)が運転席92に座るときには、乗員91Aは、運転席92を車両後方に位置させる。乗員91Aとエアバッグ装置1の距離L1は長くなる。小柄な乗員91B(
図9B参照)が運転席92に座るときには、乗員91Bは、運転席92を車両前方に位置させる。乗員91Bとエアバッグ装置1の距離L2は短くなる。そのため、小柄な乗員91Bは、大柄な乗員91Aよりも早いタイミングでエアバッグ10に接触する。
【0069】
エアバッグ10の膨張時には、エアバッグ10に、危険な突き出し(
図9C、
図9Dでは点線で示す)が生じるのが防止される。エアバッグ10の前面が平面を維持するようにして、エアバッグ10が乗員方向Eに徐々に膨張する。そのため、乗員91A、91Bは、エアバッグ10の突き出しにより害されることなく、エアバッグ10に適切に受け止められる。大柄な乗員91A(
図9C参照)は、正常に膨張展開したエアバッグ10に接触して保護される。
【0070】
小柄な乗員91B(
図9D参照)は、膨張展開途中のエアバッグ10に接触して保護される。乗員91Bは、充分に膨張したエアバッグ10に、かつ、平面状のエアバッグ10に接触する。そのため、乗員91Bは、エアバッグ10により安全に保護される。このように、乗員91A、91Bの状態に関わらず、エアバッグ10により、乗員91A、91Bを害することなく保護できる。このエアバッグ10では、乗員91A、91Bを拘束する性能が高く、特に、高い初期拘束性能が得られるため、乗員91A、91Bを安全に拘束できる。
【0071】
アウターバッグ20は、側方に素早く膨張して、短時間で広範囲に展開する。そのため、乗員91が高速でエアバッグ10に進入するときでも、エアバッグ10により乗員91を確実に受け止めることができる。乗員91が展開途中のエアバッグ10に進入したときには、乗員91は、高い内圧を保持するインナーバッグ30でも受け止められる。インナーバッグ30は、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収する。インナーバッグ30により、乗員91がステアリングホイール90に当たるのも防止できる。
【0072】
アウターバッグ20は、連結部材14により乗員方向Eの膨張が規制されて、側方に優先して膨張する。そのため、乗員91がエアバッグ10に近接しているときでも、エアバッグ10の突き出しにより乗員91が害されるのを抑制できる。乗員91がステアリングホイール90に密着しているときでも、インナーバッグ30の膨張により生じる乗員91とステアリングホイール90の間の僅かな空間から、アウターバッグ20が側方に膨張する。これにより、エアバッグ10が、乗員91とステアリングホイール90の間で展開する。乗員91は、エアバッグ10により保護される。
【0073】
乗員91がエアバッグ装置1に接触(又は、接近)しているときには、乗員91は、早期にエアバッグ10に接触する(
図8B参照)。このように、乗員91がOOP(Out Of Position)状態にあるときでも、エアバッグ10により、非正常な乗車姿勢の乗員91を保護できる。乗員91がエアバッグ10に接触するときに、インフレータ3から供給されるガスは、排出筒40の排出口41からアウターバッグ20外へ排出される。これにより、エアバッグ10の乗員方向Eへの膨張が抑制される。エアバッグ10に供給されるエネルギーも減少する。そのため、乗員91がエアバッグ10から受ける衝撃が緩和される。
【0074】
インフレータ3から供給されるガスは、排出筒40を通って、速い速度で効率よく排出される。そのため、ガスを排出口41から短時間で大量に排出できる。排出口41が小さいときでも、充分なガスの排出量を確保できる。その結果、OOP状態の乗員91に傷害を与えるのを抑制できる。乗員91がOOP状態でないときには、アウターバッグ20の膨張に伴い、排出口41が閉鎖される。ガスの排出停止により、アウターバッグ20に供給されるガスの量が増加する。乗員91は、大きく膨張展開したアウターバッグ20により保護される。
【0075】
排出口41からガスが排出される間、折り返し部43と排出口41は、連結部材14により排出筒40内に保持される(
図7参照)。連結部材14は、折り返し部43を排出筒40の内方に引き込んで、折り返し部43に排出口41を閉鎖させる。折り返し部43を排出筒40内で変位させることで排出口41を閉鎖できるため、排出口41の閉鎖に要する折り返し部43の変位距離が短くなる。その結果、ガスの排出停止にかかる時間を短くすることができる。排出口41の閉鎖機構のレスポンスも向上する。特に、折り返し部43を設けない排出筒に比べて、ガスの排出停止にかかる時間が大幅に短縮する。
【0076】
図10は、比較例の排出筒110を示す図である。
図10Aは、排出筒110の突端部111を示す平面図である。
図10Bは、
図10Aの矢視Z2−Z2線で見た排出筒110の断面図である。
図10C〜
図10Eは、膨張した排出筒110の断面図である。
排出筒110の排出口112は、図示のように、排出筒110の先端部に設けられた非接合部からなる。連結部材113は、排出筒110の開口部に接合される。排出筒110は、排出口112からガスを排出する(
図10C参照)。
【0077】
連結部材113は、排出筒110の先端部を排出筒110内に引き込む(
図10D参照)。排出筒110の先端部は反転する。排出筒110内で、排出筒110の先端部が密着することで、排出口112が閉鎖される(
図10E参照)。比較例の排出筒110では、ガスの排出を停止するときに、排出筒110の先端部を、排出筒110の外部から内部まで大きく変位させる必要がある。排出筒110の先端部の変位距離に応じて、ガスの排出停止にかかる時間が長くなる。
【0078】
これに対し、本実施形態(
図7参照)では、エアバッグ10の膨張開始時に、ガスをエアバッグ10外へ排出してエアバッグ10の膨張を抑制しつつ、ガスの排出を短時間で停止できる。その結果、ガスを有効に活用できる。乗員91がOOP状態でないときには、アウターバッグ20の内圧を迅速に高くできる。排出口41の閉鎖により、折り返し部43から連結部材14に付加される抵抗が大きくなり、アウターバッグ20の前面の移動が早期から規制される。排出筒40の先端部を折り返すことで、インナーバッグ30の全長を短くすることもできる。
【0079】
乗員91が、ある程度膨張したエアバッグ10により受け止められたときには、ガスは、排出口41から必要に応じて排出される(
図7B参照)。これにより、乗員91の衝撃が緩和される。折り返し部43が排出筒40内に引き込まれている間に、エアバッグ10に乗員91が進入することがある(
図8C参照)。その際、連結部材14は、インナーバッグ30内に戻される。折り返し部43がガスにより押されて、閉鎖された排出口41が開放する。エアバッグ10は、再び開放された排出口41からガスを排出して、乗員91の衝撃やエネルギーを吸収する。
【0080】
連結部材14を一対の排出筒40の折り返し部43に連結するときには、一対の折り返し部43を、1つの連結部材14により引っ張ることができる。一対の折り返し部43間の連結部材14により、一対の折り返し部43を均等に引っ張ることもできる。一対の折り返し部43が連結部材14を引き合うため、一対の折り返し部43の位置が排出筒40内で安定する。帯状の連結部材14により、折り返し部43の先端部を引っ張るため、折り返し部43の状態を安定させることができる。折り返し部43の一対の対向部44を重ねて排出口41を閉鎖することで、排出口41を簡単かつ確実に閉鎖できる。
【0081】
エアバッグ10の展開初期の厚さは、膨張時のインナーバッグ30の厚さにより設定できる。乗員91とエアバッグ装置1との距離に応じて、エアバッグ10の展開初期の厚さを薄くすることで、乗員91の危険を回避できる。その後、連結部材14がインナーバッグ30内から引き出されて、アウターバッグ20が完全に膨張する。エアバッグ10は、乗員91に対して最大の吸収ストロークを発揮する。エアバッグ10の膨張展開時には、まず、インナーバッグ30が膨張する。続いて、アウターバッグ20が側方へ膨張してから、アウターバッグ20が完全に膨張する。その間、エアバッグ10が、充分な内圧を維持しながら次第に膨張するため、エアバッグ10により、乗員91を安全に拘束できる。
【0082】
次に、排出口41の他の実施形態について説明する。
図11〜
図13は、他の実施形態の排出口を設けた排出筒40を示す平面図である。
図11〜
図13では、折り返し部43を形成する前の排出筒40を示している。
図11〜
図13に示す排出筒40は、排出口のみが相違する。
【0083】
図11Aに示す排出筒40では、排出口41は、半円形状に形成された一対の貫通孔50からなる。貫通孔50を半円形状にすることで、円形状の貫通孔45よりも、排出口41が早く閉鎖される。
図11Bに示す排出筒40では、排出口41は、台形状に形成された一対の貫通孔51からなる。このように、一対の貫通孔は、ガスを排出可能な様々な形状に形成できる。
【0084】
図11Cに示す排出筒40では、排出口41は、円形状に形成された一対の貫通孔52からなる。一対の対向部44は、排出筒40内で、一対の貫通孔52をずらした状態で重なる。これにより、排出口41の面積と、排出口41から排出されるガスの量を調整することができる。
【0085】
図11Dに示す排出筒40では、排出口41は、円形状に形成された一対の貫通孔53からなる。一対の貫通孔53は、一対の対向部44に複数形成されている。複数対の貫通孔53を設けることで、各貫通孔53を小さくできる。その結果、貫通孔53が変形し難くなる。ガスを排出中に、貫通孔53の形状を維持できるため、ガスを確実に排出できる。ガスの排出量を安定させることもできる。
【0086】
図12Aに示す排出筒40では、排出口41は、円形状に形成された一対の貫通孔54からなる。一対の貫通孔54は、それぞれ仕切り部材54Aにより、複数(ここでは、2つ)に仕切られている。仕切り部材54Aにより、貫通孔54が変形し難くなるため、ガスを排出中に、貫通孔54の形状を維持できる。そのため、貫通孔54からガスを確実に排出できる。ガスの排出量を安定させることもできる。
【0087】
図12Bに示す排出筒40では、排出口41は、半円形状に形成された一対の貫通孔55からなる。貫通孔55は、仕切り部材55Aにより仕切られている。仕切り部材55Aにより、貫通孔55の形状を維持できる。
図12Cに示す排出筒40では、排出口41は、台形状に形成された一対の貫通孔56からなる。貫通孔56は、仕切り部材56Aにより仕切られている。仕切り部材56Aにより、貫通孔56の形状を維持できる。
【0088】
図13Aに示す排出筒40では、排出口41は、開口60からなる。開口60は、円弧状の孔であり、一対の対向部44の側縁部(ここでは、両側縁部)に形成されている。ガスの排出時には、開口60が拡がる。一対の対向部44が重なることで、開口60が閉鎖される。排出口41が開口60からなるときには、ガスの排出中に、排出口41の形状を維持する効果が得られる。そのため、排出口41からガスを確実に排出できる。ガスの排出量を安定させることもできる。
【0089】
図13Bに示す排出筒40では、排出口41は、開口61からなる。開口61は、切欠きであり、一対の対向部44の側縁部に形成されている。排出口41が開口61からなるときには、ガスの排出中に、排出口41の形状を維持する効果が得られる。
図13Cに示す排出筒40では、排出口41は、スリット状の開口62からなる。開口62は、一対の対向部44の側縁部に設けられた非接合部からなる。排出口41が開口62からなるときには、ガスの排出中に、排出口41の形状を維持する効果が得られる。
【0090】
なお、本実施形態では、運転席用のエアバッグ装置1を例に説明したが、本発明は、助手席用のエアバッグ装置や他のエアバッグ装置に適用することもできる。また、連結部材14(
図3参照)は、帯状部材以外の部材(例えば、紐やリボン)であってもよい。連結部材14を、第1の流通口31を通さずに、インナーバッグ30の他の開口を通してアウターバッグ20に連結してもよい。ただし、連結部材14を、第1の流通口31を通してアウターバッグ20に連結すると、他の開口を形成するための作業と工数を削減できる。
【0091】
排出筒40は、ベントホール24を通して、アウターバッグ20の外部に配置してもよい。ベントホール24を排出筒40の通過口として使用するときには、アウターバッグ20に通過口25を形成する必要がない。そのため、通過口25の形成のための作業と工数を削減できる。排出筒40の突端部42を、補強カバー15とアウターバッグ20の間に配置するようにしてもよい。排出筒40は、インナーバッグ30に1つ、又は、3つ以上設けてもよい。インナーバッグ30の本体膨張部37は、種々の形状(例えば、球形状、楕円体形状、又は、角錐形状)に形成してもよい。