特許第5766594号(P5766594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766594
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】液体洗浄剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 11/00 20060101AFI20150730BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20150730BHJP
   C11D 1/04 20060101ALI20150730BHJP
   C11D 9/02 20060101ALI20150730BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20150730BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C11D11/00
   C11D17/08
   C11D1/04
   C11D9/02
   A61Q19/10
   A61K8/36
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-272093(P2011-272093)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-124258(P2013-124258A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100076680
【弁理士】
【氏名又は名称】溝部 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】田村 辰仙
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−328000(JP,A)
【文献】 特開昭57−115500(JP,A)
【文献】 特開2001−181150(JP,A)
【文献】 特開平9−100495(JP,A)
【文献】 特開昭62−256899(JP,A)
【文献】 特開平11−293289(JP,A)
【文献】 特開平8−133962(JP,A)
【文献】 特開平6−212198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 11/00
A61K 8/36
A61Q 19/10
C11D 1/04
C11D 9/02
C11D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高級脂肪酸塩を合計で25〜40質量%含有する液体洗浄剤組成物の製造方法であって、下記工程(1)及び工程(2)を含む、液体洗浄剤組成物の製造方法。
工程(1):融点が35℃以下の高級脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で、アルカリ水溶液中で中和して溶解させる工程
工程(2):融点が35℃超の高級脂肪酸を、80〜85℃で、工程(1)で得られた溶解液中で中和して溶解させる工程
【請求項2】
工程(1)における温度が50℃以上90℃以下である、請求項1記載の液体洗浄剤組成物の製造方法。
【請求項3】
高級脂肪酸塩が、高級脂肪酸のカリウム塩、及び高級脂肪酸塩のトリエタノールアミン塩からなる群から選択される高級脂肪酸塩である、請求項1又は2記載の液体洗浄剤組成物の製造方法。
【請求項4】
融点が35℃以下の高級脂肪酸の割合が、工程(1)及び工程(2)で用いる高級脂肪酸の総量中、40〜80質量%であり、融点が35℃超の高級脂肪酸の割合が、工程(1)及び工程(2)で用いる高級脂肪酸の総量中、20〜60質量%である、請求項1〜3いずれかに記載の液体洗浄剤組成物の製造方法。
【請求項5】
融点が35℃以下の高級脂肪酸が、椰子油脂肪酸及びオレイン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項1〜4いずれかに記載の液体洗浄剤組成物の製造方法。
【請求項6】
融点が35℃超の高級脂肪酸が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項1〜5いずれかに記載の液体洗浄剤組成物の製造方法。
【請求項7】
上記液体洗浄剤組成物が、ラウリン酸塩2〜11質量%、ミリスチン酸塩5〜14質量%、パルミチン酸塩0.5〜7質量%、ステアリン酸塩0〜4質量%、オレイン酸塩5〜12質量%を含有する、請求項1〜6いずれかに記載の液体洗浄剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級脂肪酸塩を含有する液体洗浄剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高級脂肪酸を用いた液体洗浄剤にはカリウム塩(カリ石鹸)が用いられている。特に椰子脂肪酸カリウムやオレイン酸カリウム等のクラフト点の低いカリ石鹸を主成分とした液体洗浄剤が主流であった。しかし、椰子脂肪酸やオレイン酸カリウムを主体とするカリ石鹸を基剤とした液体洗浄剤組成物は、低温安定性は良好なものの、一般に、キメの粗い泡しか得られないという欠点がある。そこで、キメの細かな泡を得るために、高級脂肪酸及びそのカリウム塩を合計で30〜40質量%含有し、その脂肪酸組成が、ラウリン酸30〜60質量%、ミリスチン酸20〜70質量%、パルミチン酸5〜25質量%及びステアリン酸0〜3質量%であり、高級脂肪酸:高級脂肪酸のカリウム塩の質量比が0.001:99.999〜1:99である液体身体洗浄剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−160470号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高級脂肪酸塩を含有する液体洗浄剤組成物を製造するには、まず、高級脂肪酸を水酸化カリウムなどによって中和する必要があるが、撹拌力の弱い装置を用いた場合には、高級脂肪酸塩が高濃度(例えば、30〜40質量%)になると、難溶性のゲルが析出し、中和時間が著しく延長し生産性が低下するという問題があった。特許文献1のように、複数の脂肪酸塩を組み合わせることは、泡質に優れた液体洗浄剤組成物を得るために有利であるが、高濃度の高級脂肪酸塩を含有する液体洗浄剤組成物を、攪拌力が弱い条件でも、より効率よく製造できる方法の開発が望まれている。
【0005】
本発明の課題は、高級脂肪酸塩を主成分とし、豊かでクリーミーな泡を与える液体洗浄剤組成物の製造において、高濃度の脂肪酸を短時間で中和することができる、生産性に優れた液体洗浄剤組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高級脂肪酸塩を合計で25〜40質量%含有する液体洗浄剤組成物の製造方法であって、下記工程(1)及び工程(2)を含む、液体洗浄剤組成物の製造方法に関する。
工程(1):融点が35℃以下の高級脂肪酸〔以下、低融点脂肪酸ともいう〕を、前記脂肪酸の融点以上の温度で、アルカリ水溶液中で中和して溶解させる工程
工程(2):融点が35℃超の高級脂肪酸〔以下、高融点脂肪酸ともいう〕を、80〜85℃で、工程(1)で得られた溶解液中で中和して溶解させる工程
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、豊かな泡立ちでクリーミーな泡を与える高級脂肪酸塩を高濃度で含有する液体洗浄剤組成物を、攪拌力の弱い条件でも、短時間で製造することができるため、生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<工程(1)>
【0009】
工程(1)は、融点が35℃以下の低融点脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で、アルカリ水溶液中で中和して溶解させる工程である。これにより、低融点脂肪酸塩が溶解したアルカリ水溶液が得られる。工程(1)を有することにより、その後に行われる工程(2)において、高融点脂肪酸が中和反応系(アルカリ水溶液)に分散しやすくなり、高融点脂肪酸の中和、溶解がより速やかに進行するものと考えられる。
【0010】
工程(1)で使用される低融点脂肪酸としては、融点が35℃以下の単一脂肪酸、融点が35℃以下の混合脂肪酸が挙げられる。融点が35℃以下の単一脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸等が挙げられる。また、融点が35℃以下の混合脂肪酸としては、例えば、パーム核油脂肪酸、椰子油脂肪酸等が挙げられる。混合脂肪酸は、比較的低鎖長の混合脂肪酸組成を有するものが好ましい。
【0011】
前記低融点脂肪酸のうち、泡質や泡量のコントロールの観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などから構成され、融点が35℃以下の混合脂肪酸を用いることが好ましい。また、ハンドリング性の観点から、椰子油脂肪酸、パルミトレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びオレイン酸からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましく、椰子油脂肪酸、及びオレイン酸からなる群から選択される1種以上がより好ましい。
【0012】
なお、融点が35℃以下の混合脂肪酸とは、実際に融点が35℃以下になるように分子レベルで混合されているものを言う。複数の高級脂肪酸が予め混合脂肪酸として使用されない場合、例えば、反応系中で混合状態となる場合は、低融点脂肪酸が使用されているとはみなさないものとする。
【0013】
本発明では、目的とする液体洗浄剤組成物中に配合される低融点脂肪酸塩のうち、50質量%以上、更に75質量%以上、更に100質量%、すなわち全量に相当する量の低融点脂肪酸を工程(1)で用いることが好ましい。
【0014】
工程(1)で使用されるアルカリ水溶液とは、低融点脂肪酸及び高融点脂肪酸を中和し得る量のアルカリ剤を含んだ水溶液であって、例えば、アルカリ金属水酸化物の水溶液、アルカノールアミンの水溶液が挙げられる。すなわち、アルカリ剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミンが挙げられる。このうち、低温安定性の観点から、水酸化カリウム、トリエタノールアミンが好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0015】
アルカリ水溶液中のアルカリ剤の濃度としては、溶解性、ハンドリング性の観点から、5〜20質量%が好ましく、6〜15質量%がより好ましく、7〜10質量%が更に好ましい。このアルカリ濃度のアルカリ溶液を用意するのに水酸化カリウムフレーク等の固体のアルカリ剤を水に直接溶解してもよいし、48%水酸化カリウム水溶液等、市販の高濃度アルカリ水溶液を水に希釈して用意してもよい。
【0016】
低融点脂肪酸とアルカリ水溶液、好ましくはアルカリ剤濃度が前記範囲のアルカリ水溶液との質量比率は、溶解効率の観点から、低融点脂肪酸/アルカリ水溶液で5/95〜20/80が好ましく、10/90〜20/80がより好ましいが、最終的には、泡質、泡量、洗浄力等の洗浄性能や刺激等、安全性の観点から決定された最終処方の低融点脂肪酸及び高融点脂肪酸とアルカリ剤のモル比率を考慮して選定される。
【0017】
本発明では、工程(1)で得られる溶解液中で工程(2)の高融点脂肪酸の中和を行うことから、工程(1)で用いるアルカリ水溶液は、低融点脂肪酸を完全に中和できる量以上のアルカリ剤を含有することが好ましく、さらに最終的に低融点脂肪酸と高融点脂肪酸を中和し液体洗浄剤組成物を製造するのに必要な量のアルカリ剤を含有することが好ましい。本発明では、低融点脂肪酸と高融点脂肪酸の合計に対するアルカリ剤のモル比〔アルカリ剤のモル数/(低融点脂肪酸と高融点脂肪酸の合計モル数)〕は、0.5〜1.0が好ましく、0.75〜0.99が好ましく、0.90〜0.98がより好ましく、この量に相当するアルカリ剤の全量が工程(1)で用いるアルカリ水溶液中に配合されていることが好ましい。
【0018】
工程(1)では、低融点脂肪酸の融点以上の温度で、低融点脂肪酸を中和、溶解させる。複数の低融点脂肪酸を用いる場合には、融点が最も高い脂肪酸の融点以上の温度で行う。好ましい温度としては、中和物の溶解効率の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、65℃以上が更に好ましい。また、焦げ付き防止、難溶性ゲル抑制の観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましく、80℃未満が更に好ましく、75℃以下が更に好ましい。したがって、好ましい温度範囲としては、50℃以上90℃以下が好ましく、60℃以上85℃以下がより好ましく、60℃以上80℃以下が更に好ましく、60℃以上80℃未満が更に好ましく、65℃以上75℃以下が更に好ましい。
【0019】
工程(1)は、水に低融点脂肪酸を添加してアルカリ剤を添加する方法、アルカリ水溶液に低融点脂肪酸を添加する方法、の何れの方法でも行うこともできるが、溶解時間の短縮の観点から、アルカリ水溶液に低融点脂肪酸を添加して行うことが好ましい。工程(1)では、低融点脂肪酸塩と水とを含有する混合液が得られる。
【0020】
工程(1)は、通常、攪拌下に行われ、その攪拌条件(攪拌速度)は限定されないが、本発明では、通常、中和、溶解に非常に時間がかかる弱い攪拌力でも問題なく実施できる。実験室レベルでは、300〜500mLのビーカーで、攪拌羽根(例えば、翼径50〜80mmのアンカー羽根またはプロペラ羽根)を用いて100rpm以下の攪拌力でも問題なく低融点脂肪酸の中和、溶解が可能となることから、工業的な規模でも、通常よりも緩やかな攪拌条件で実施できる。
【0021】
工程(1)は、低融点脂肪酸がアルカリ水溶液と接触した時点を始点とし、また、中和が進行して、脂肪酸が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上溶解した時点、更に好ましくは目視観察により反応液の外観が概ね透明になった時点を終点とすることができる。なお、透明の程度は、中和開始初期の状態と比べた透明性の向上により判断してよい。
【0022】
なお、工程(1)の時間は溶解脂肪酸量により異なるため特に限定されないが、低融点脂肪酸がアルカリ水溶液と接触した時点を始点として、4時間以内、更に2時間以内、特に1時間以内であることが好ましい。
【0023】
<工程(2)>
工程(2)は、融点が35℃超の高融点脂肪酸を、80〜85℃で、工程(1)で得られた溶解液中で中和して溶解させる工程である。工程(2)において、工程(1)で得られた溶解液中で高融点脂肪酸の中和、溶解を行うことにより、高融点脂肪酸の中和、溶解が速やかに進行し、最終的な液体洗浄剤組成物を得るための時間の総和を少なくすることができる。
【0024】
工程(1)で得られた溶解液が高融点脂肪酸を中和するのに十分なアルカリ剤を含有していれば、そのまま工程(2)で使用できる。また、当該溶解液に、更にアルカリ剤を添加することもできるが、その場合は、高融点脂肪酸を添加する前にアルカリ剤を添加することが好ましい。
【0025】
工程(2)で使用される高融点脂肪酸としては、融点が35℃超の単一脂肪酸、融点が35℃超の混合脂肪酸が挙げられ、単一脂肪酸が好ましい。融点が35℃超の単一脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、べヘン酸が挙げられる。このうち、泡量と泡質の観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選択される1種以上であることが更に好ましい。融点が35℃以下の混合脂肪酸は、これら高融点脂肪酸や低融点脂肪酸から構成されるものが、適宜使用できる。
【0026】
工程(2)では、溶解効率の観点から、80〜85℃で、高融点脂肪酸の中和、溶解が行われる。
【0027】
工程(2)は、通常、攪拌下に行われ、その攪拌条件(攪拌速度)は限定されないが、本発明では、通常、中和、溶解に非常に時間がかかる弱い攪拌力でも問題なく実施できる。実験室レベルでは、300〜500mLのビーカーで、攪拌羽根(例えば、翼径50〜80mmのアンカー羽根またはプロペラ羽根)を用いて100rpm以下の攪拌力でも問題なく高融点脂肪酸の中和、溶解が可能となることから、工業的な規模でも、通常よりも緩やかな攪拌条件で実施できる。
【0028】
本発明では、工程(1)と工程(2)を同一の反応装置(反応槽)で行うことができる。また、工程(1)と工程(2)の間隔は短い方が好ましい。
【0029】
工程(2)は、高融点脂肪酸が工程(1)で得られた溶解液と接触した時点を始点、また、中和が進行して、反応液の外観が透明になった時点を終点とすることができる。この場合の透明とは、目視観察により不溶物が観察できなくなり、外観が概ね透明になったと認識できる状態であればよく、中和開始初期の状態と比べた透明性の向上により判断してよい。
【0030】
なお、工程(2)の時間は溶解脂肪酸量により異なるため特に限定されないが、高融点脂肪酸が工程(1)で得られた溶解液と接触した時点を始点として、5時間以内、更に3時間以内、特に2時間以内あることが好ましい。
【0031】
<液体洗浄剤組成物>
本発明の液体洗浄剤組成物は、所定量の高級脂肪酸塩と水とを含有する。工程(2)で得られた溶解液(中和液)は、そのまま、又は他成分(水、溶剤、他のアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、ポリオール類、塩類、油剤、粘度調整剤、防腐剤、pH調整剤、香料、色素等)を添加するなど適宜組成を調整して液体洗浄剤組成物として用いることができる。
【0032】
本発明の製造方法により製造される液体洗浄剤組成物は、洗浄力の向上、洗浄剤組成物の原料としてのハンドリング性、保管性の観点から、高級脂肪酸塩を合計で25〜40質量%、好ましくは28〜35質量%含有する。
【0033】
本発明では、泡性能と生産性の観点から、低融点脂肪酸の割合が、工程(1)及び工程(2)で用いる高級脂肪酸の総量中、すなわち、低融点脂肪酸と高融点脂肪酸の総量中、40〜80質量%、更に60〜80質量%であり、高融点脂肪酸の割合が、工程(1)及び工程(2)で用いる高級脂肪酸の総量中、すなわち、低融点脂肪酸と高融点脂肪酸の総量中、20〜60質量%、更に20〜40質量%であることが好ましい。なお、本発明でいう、高級脂肪酸とは、炭素数8〜26の脂肪酸であってよい。
【0034】
本発明の製造方法で製造される液体洗浄剤組成物が含有する高級脂肪酸塩は、泡性能の観点から、その脂肪酸組成がラウリン酸15〜60質量%、ミリスチン酸20〜70質量%、パルミチン酸2〜20質量%、ステアリン酸0〜3質量%及びオレイン酸10〜50%であることが好ましい。更に、ラウリン酸15〜45質量%、ミリスチン酸30〜60質量%、パルミチン酸3〜10質量%ステアリン酸0〜2質量%及びオレイン酸20〜40質量%であるのが好ましい。また、本発明の効果を損わない範囲、例えば高級脂肪酸塩に対して10質量%以下、更に8質量%以下、更に5質量%以下であれば、工程(2)の後の溶解液(中和物)が未中和の高級脂肪酸を含んでいてもよい。
【0035】
また、本発明の製造方法で得られる液体洗浄剤組成物は、高級脂肪酸塩として、組成物中に、ラウリン酸塩2〜8質量%、ミリスチン酸塩5〜13質量%、パルミチン酸塩0.5〜5質量%、ステアリン酸塩0〜4質量%、オレイン酸塩5〜12質量%を含有することが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法により得られる液体洗浄剤組成物には、例えば、通常液体身体洗浄剤組成物に用いられる各種の成分、例えばアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩等のアニオン界面活性剤;イミダゾリン系、ベタイン系等の両性界面活性剤;アルキルグルコシド、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルジメチルアミンオキサイド等の非イオン界面活性剤;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等のポリオール類;塩類、エタノール、水溶性高分子等の粘度調整剤;カチオンポリマー等の感触向上剤;2−エチルヘキサン酸トリグリセリド等の油剤;パラベン、EDTA、BHT等の保存剤;エチレングリコールジステアレート等のパール化剤;トリクロサン等のデオドラント剤;架橋ポリアクリル酸ナトリウム等のスクラブ剤;その他色素、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0037】
本発明の製造方法により得られる液体洗浄剤組成物は、身体用の場合、25℃における5質量%水溶液のpHが8.5〜12、更に9〜11、より更に9.1〜10.9であることが好ましい。
【0038】
また、本発明の製造方法により得られる液体洗浄剤組成物は、ポンプによる輸送、配合などが可能で、ポンプ容器から排出可能な粘度を有することが好ましく、具体的には、30℃における粘度(BM型粘度計、ローターNo.2、30rpmで測定)が10000mPa・s以下、更に5000mPa・s以下、より更に2000mPa・s以下であることが好ましい。
【0039】
本発明は、複数の高級脂肪酸塩を含有する液体洗浄剤組成物の製造方法であって、高級脂肪酸塩の原料である高級脂肪酸のうち、融点が35℃以下の単一脂肪酸及び/又は混合脂肪酸を先にアルカリ水溶液中で中和して溶解させ、次いで当該アルカリ水溶液中で融点が35℃を超える単一脂肪酸及び/又は混合脂肪酸を中和して溶解させるものである。高級脂肪酸塩のうち、融点が35℃以下のものと融点が35℃を超えるものを組み合わせることが泡質に優れた液体洗浄剤組成物を得る観点で好ましく、本発明はそのような組成の液体洗浄剤組成物を効率よく製造できるものである。
【0040】
本発明の態様の一つとして、ラウリン酸塩2〜8質量%、ミリスチン酸塩5〜13質量%、パルミチン酸塩0.5〜5質量%、ステアリン酸塩0〜4質量%、オレイン酸塩5〜12質量%を含有する液体洗浄剤組成物の製造方法であって、下記工程(I)及び工程(II)を含む、液体洗浄剤組成物の製造方法が挙げられる。
工程(I):ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び及びオレイン酸からなる群から選ばれる、融点が35℃以下の単一脂肪酸及び/又は混合脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で、アルカリ水溶液中で中和して溶解させる工程
工程(II):ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び及びオレイン酸からなる群から選ばれる、融点が35℃を超える単一脂肪酸及び/又は混合脂肪酸を、80〜85℃の温度範囲で、工程(I)で得られた溶解液中で中和して溶解させる工程
この方法の工程(I)及び工程(II)の好ましい態様は、それぞれ工程(1)及び工程(2)に準ずることができる。
【0041】
また、本発明により、高級脂肪酸塩を合計で25〜40質量%含有する高級脂肪酸塩含有水溶液の製造方法であって、下記工程(i)及び工程(ii)を含む、高級脂肪酸塩含有水溶液の製造方法が提供される。
工程(i):融点が35℃以下の高級脂肪酸を、前記脂肪酸の融点以上の温度で、アルカリ水溶液中で中和して溶解させる工程
工程(ii):融点が35℃超の高級脂肪酸を、80〜85℃の温度範囲で、工程(i)で得られた溶解液中で中和して溶解させる工程
この方法の工程(i)及び工程(ii)の好ましい態様は、それぞれ工程(1)及び工程(2)に準ずることができる。
【実施例】
【0042】
実施例1〜2
500mLのビーカーに水を入れ、KOHフレークを溶解し、アルカリ水溶液を用意した。アルカリ水溶液を所定の温度に調節した後、低融点脂肪酸を添加し、攪拌羽根(形状;アンカー羽根、サイズ;直径80mm)により、回転数80rpmの条件で攪拌しながら、低融点脂肪酸を中和させた。反応系が透明になり、溶解したのを確認した〔工程(1)〕後、得られた溶解液を所定の温度に調整し、速やかに高融点脂肪酸を添加し、前記同様の条件で攪拌しながら、高融点脂肪酸を中和、溶解させ、高級脂肪酸塩を含有する液体洗浄剤組成物を得た〔工程(2)〕。水、低融点脂肪酸、高融点脂肪酸、KOHの使用量は表1に示す通りとした。
【0043】
反応時の溶解時間、並びに得られた液体洗浄剤組成物の泡量及び泡質を、以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0044】
(1)溶解時間
原料脂肪酸が最初にアルカリ剤と接触した時点(実質的に中和が開始された時点)から、ゲル等の不溶物が消え、透明液体となるまでの合計の時間を測定した。例えば、実施例1、2では、アルカリ水溶液に低融点脂肪酸を投入した時点〔工程(1)〕から、工程(2)を経て、ゲル等の不溶物が消え、透明液体となるまでの時間を測定した。
【0045】
(2)泡量
各洗浄剤組成物について、10倍希釈水溶液を調製し、この水溶液100mL(液温40℃)を目盛り付きメスシリンダー(直径:65mm)に注入した。ついで、水溶液中に攪拌羽根(形状;プロペラ羽根、サイズ;直径50mm)を、羽根の最上部を水面の位置に設置して羽根を回転させ、攪拌開始から30秒後において生じた泡の体積(mL)を測定して泡立ち量とし、下記基準で評価した。なお、攪拌羽根の回転数は1,000r/minであり、5秒毎に反転させた。
◎;泡量が200mL以上
○;泡量が160mL以上200mL未満
△;泡量が120mL以上160mL未満
×;泡量が120mL未満
【0046】
(3)泡質:
各液体洗浄剤組成物について、10名の専門パネラーが原液1mLを手に取り適量の水とともに手をすり合わせる手洗い試験を行い、下記基準により泡質を評価した。
5;非常にクリーミーな泡である。
4;クリーミーな泡である。
3;普通の泡である。
2;やや粗い泡である。
1;粗い泡である。
これらの評価の平均値を小数点第1位で算出し、以下の基準で判定した。
◎;平均値が4.5以上
○;平均値が3.5〜4.4
△;平均値が2.5〜3.4
×;平均値が2.4以下
【0047】
比較例1〜6
反応装置及び攪拌条件は実施例1と同じとして、各成分の使用量及び反応条件を以下の通りとして高級脂肪酸塩を含有する液体洗浄剤組成物を製造し、実施例1と同様に溶解時間、泡量、泡質を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
・比較例1
実施例1と同様のアルカリ水溶液を80℃に昇温し、低融点脂肪酸と高融点脂肪酸を同時に添加し、中和、溶解を行った。表中、製造手順の欄では「同時添加A」として示した。
【0049】
・比較例2
実施例1と同様のアルカリ水溶液を80℃に昇温し、高融点脂肪酸を添加して中和、溶解させ〔工程(2)に相当〕、次いで溶解液を70℃に降温し、低高融点脂肪酸を添加して、中和、溶解させた〔工程(1)に相当〕。表中、製造手順の欄では「工程(2)→工程(1)」として示した。
【0050】
・比較例3
実施例1において、工程(2)を60℃で行った。
【0051】
・比較例4
実施例1において、工程(2)を90℃で行った。
【0052】
・比較例5
水に低融点脂肪酸と高融点脂肪酸を同時に添加し、80℃に加熱し、分散させた後、KOHを加え、中和、溶解を行った。表中、製造手順の欄では「同時添加B」として示した。
【0053】
・比較例6
製造原料中の脂肪酸の割合を表1の通りとした以外は比較例1と同様に中和、溶解を行った。表中、製造手順の欄では「同時添加C」として示した。
【0054】
【表1】
【0055】
(注)
*1 脂肪酸組成は、カプリル酸4.4重量%、カプリン酸5.9%、ラウリン酸53.6質量%、ミリスチン酸19.1質量%、パルミチン酸10.0質量%、ステアリン酸0.8質量%、オレイン酸5.8質量%、リノール酸0.4重量%である。
*2 アルカリ剤/高級脂肪酸(モル比)は、〔アルカリ剤のモル数/(低融点脂肪酸と高融点脂肪酸の合計モル数)〕に相当するモル比であり、表中の高級脂肪酸の酸価から計算した。
*3 比較例3では、工程(2)で外観が濁った状態が継続し、合計8時間を超えても溶解した混合物が得られなかった。
*4 比較例4では、工程(2)で部分的なゲル化が生じるため、合計8時間を超えても全体として透明な外観を呈する溶解した混合物が得られなかった。
*5 比較例5では、脂肪酸が十分溶解せず、工程(2)で外観が濁った状態が継続し、合計8時間を超えても溶解した混合物が得られなかった。