(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766629
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/16 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
G01M3/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-31343(P2012-31343)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-167552(P2013-167552A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】500519987
【氏名又は名称】株式会社ジェイアール総研情報システム
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】仲山 貴司
(72)【発明者】
【氏名】津野 究
(72)【発明者】
【氏名】牛田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】蒲地 秀矢
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−053057(JP,A)
【文献】
特開平09−218124(JP,A)
【文献】
特開2001−296201(JP,A)
【文献】
特開2000−258278(JP,A)
【文献】
特開2002−294681(JP,A)
【文献】
特開2004−093246(JP,A)
【文献】
特開2000−088691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/16
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漏水による自己発電型漏水検知装置による出力に基づいて、予め記憶された各種の漏水の基準データと比較して漏水成分判定を行うことを特徴とする地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、前記漏水成分判定は、前記自己発電型漏水検知装置に接続された直流電圧計の値に基づいて行うことを特徴とする地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法。
【請求項3】
請求項1記載の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、前記漏水成分判定は、前記自己発電型漏水検知装置に接続された表示装置の照度に基づいて行うことを特徴とする地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法。
【請求項4】
請求項3記載の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、前記表示装置によって、トンネル内の漏水の有無を視覚により点検可能にすることを特徴とする地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池は通常、二つの電極と、これらの電極に接する電解質から構成され、電極は電子伝導性を、電解質はイオン伝導性をもつ必要がある。液体の電解質は水などの極性溶媒に塩を溶解した溶液(電解液)とする場合が多い(下記非特許文献1参照)。
ところで、供用中の鉄道駅や地下歩道などの地下施設で漏水が発生すると、利用者への滴水が問題となる。また、漏水は地下施設のトンネルなどの鉄筋コンクリート構造物で、鉄筋腐食などの変状を誘発する危険があり、長期間、対策を怠ると耐力低下につながる可能性がある。
【0003】
そこで、電気的な手法を用いて漏水を検知するシステム(例えば、下記特許文献1参照)が構築されているが、これは常時、電気を必要とする手段である。そのため、メンテナンス周期が電源交換周期の影響を受けてしまう。また、測定データをトンネル外部に伝達する手段を含んでいないため、その集約までを行うシステムとなっていない。
なお、後述する本発明とは異なるが、ボルタ電池と同様の化学反応を利用したセンサがあり、この反応を利用した水電池(例えば、下記特許文献2参照)に関する技術は多く存在している。しかし、これらは、電池としての技術であり、その性能向上を図るために、構造や材料を規定するものであり、漏水検知センサを有する漏水検知装置として使用する本発明とは異なるものである。
【0004】
また、小型化を可能にするとともに、大気汚染のないクリーンな状態で、太陽光の届かない室内にも設置し得る発電装置(下記特許文献3参照)や、海水淡水化設備で生成される濃縮海水をエネルギー的に有効利用する海水淡水化設備における濃縮海水を利用した発電方法及び装置(下記特許文献4参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−9905号公報
【特許文献2】特開2011−222236号公報
【特許文献3】特開2004−103294号公報
【特許文献4】特開2004−335312号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】渡辺正,片山靖 共著、「電池がわかる電気化学入門」,株式会社 オーム社、平成23年7月25日、 pp.6−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、鉄道駅や地下歩道での漏水は、利用者への影響が早い時期に顕在化するため、早期にその発生を検知する必要がある。また、トンネル区間、特に、鉄道トンネルでは、維持管理作業の時間的制約からメンテナンス周期の長さが重要となるが、既存の手法は、搭載した電源の交換期間がその周期の制約となる場合が多い。
本発明は、上記状況に鑑みて、検知対象である漏水を検知することで起動する、地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、漏水による自己発電型漏水検知装置による出力に基づいて、予め記憶された各種の漏水の基準データと比較して漏水成分判定を行うことを特徴とする。
〔2〕上記〔1〕記載の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、前記漏水成分判定は、前記自己発電型漏水検知装置に接続された直流電圧計の値に基づいて行うことを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、前記漏水成分判定は、前記自己発電型漏水検知装置に接続された表示装置の照度に基づいて行うことを特徴とする。
〔4〕上記〔3〕記載の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法であって、前記表示装置によって、トンネル内の漏水の有無を視覚により点検可能にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検知対象である漏水を検知することで起動する、地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る地下施設の自己発電型漏水検知装置と漏水成分判定装置の模式図である。
【
図2】本発明の実施例を示す漏水成分判定装置のブロック図である。
【
図3】本発明の実施例を示す漏水成分判定装置における入力データと各種の基準データメモリの模式図である。
【
図4】本発明の他の実施例を示す漏水成分判定のシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法は、漏水による自己発電型漏水検知装置による出力に基づいて、予め記憶された各種の基準データと比較して漏水成分判定を行う。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明に係る地下施設の自己発電型漏水検知装置と漏水成分判定装置の模式図である。なお、ここでは、地下施設としてのトンネルを例に説明する。
この図において、1はトンネル、2はトンネル1のひび割れ、3はひび割れ2より洩れる漏水、11は自己発電型漏水検知センサ、12は漏水3を溜める容器、13,14は容器12の内部に配置されて漏水3を検知するイオン化傾向の異なる電極、13A,14Aは電極13,14のリード線、15は自己発電型漏水検知センサ11の出力装置、16は設置環境に関するデータ入力装置、20は漏水成分判定装置である。ここでは、自己発電型漏水検知センサ11の出力装置15としては、直流電圧計を用いている。
【0014】
この自己発電型漏水検知装置は、漏水3を受ける容器12を備え、この容器12の内部には、イオン化傾向の異なる電極13と14が対向して配置されている。そこで、容器12が漏水3を受けると、その漏水3が電解液として振る舞い、電極13と14とのイオン化傾向の差によって電池としての機能を得る。本発明の自己発電型漏水検知センサ11は、イオン化傾向の異なる電極13と14が漏水に接して発電することで本発明の自己発電型漏水検知センサ11が起動して漏水を検知し、自己発電型漏水検知センサ11の出力装置15によりデータが得られ、このデータが漏水成分判定装置20に入力される。すると、このデータに基づいて、自己発電型漏水検知センサシステム、自己発電型漏水検知センサ11の出力装置15と設置環境に関するデータ入力装置を用いて漏水成分判定装置20により漏水成分が判定される。
【0015】
図2は本発明の実施例を示す漏水成分判定装置のブロック図、
図3はその漏水成分判定装置における入力データと各種の基準データメモリの模式図である。
これらの図において、漏水成分判定装置20は、中央処理装置(CPU)21、データ入力装置16からのデータを受けるI/F(インタフェース)22、このI/F22からのデータを記憶する各種の基準データメモリ23、自己発電型漏水検知センサ11の出力装置15からの出力信号を受けるI/F(インタフェース)24、計時装置26に接続されるI/F(インタフェース)25、報知装置28に接続されるI/F(インタフェース)27、無線送信装置30に接続されるI/F(インタフェース)29からなる。
【0016】
そして、データ入力装置16としては、
図3(a)に示されるような淡水データ16Aや、
図3(b)に示されるような塩水(海水)データ16Bや、
図3(c)に示されるような酸性水データ16CなどをI/F22を介して各種の基準データメモリ23に予め記憶しておく。そこで、自己発電型漏水検知センサ11の出力装置15からの出力データがI/F24を介して漏水成分判定装置20に入力されると、このその自己発電型漏水検知センサ11の出力装置15からの出力データが各種の基準データメモリ23内の基準データと比較されて漏水成分が判定されて、必要に応じてその判定結果が報知装置28から報知される。
【0017】
また、水中のイオンと導電率とは相関関係がある。NaClやKCなど多くの塩類の場合は、見ずに溶けた電解質はほとんどイオンになり、濃度と導電率との関係が直線的であるのに対して、弱電解質である酢酸などの有機酸などの場合は、濃度が非常に低い領域では導電率と直線関係ですが、濃度が高くなるにつれてイオン化する割合が減少する。このような電解質に特有な特徴を予めメモリに記憶させておき、漏水成分判定装置によって判定するようにすることができる。
【0018】
図4は本発明の他の実施例を示す漏水成分判定のシステムのブロック図であり、31,41は自己発電型漏水検知センサ、32,42は容器、33,43は漏水、34,35,44,45はイオン化傾向の異なる電極、34A,35A,44A,45Aは電極のリード線である。
図4(a)は淡水の場合、
図4(b)は塩水(海水)の場合の漏水成分判定を示す模式図であり、
図4(a)では、淡水の自己発電型漏水検知センサの出力を表示装置36で表示し、その照度データを漏水成分判定装置38で判定する。なお、この漏水成分判定装置38には、各種の照度データ入力装置37からのデータが記憶されており、淡水の自己発電型漏水検知センサの出力と比較されて漏水の成分の判定が行われる。
図4(b)では、塩水(海水)の自己発電型漏水検知センサの出力を表示装置46で表示し、その照度データを漏水成分判定装置48で判定する。なお、この漏水成分判定装置48には、各種の照度データ入力装置47からのデータが記憶されており、塩水(海水)の自己発電型漏水検知センサの出力と比較されて漏水の成分の判定が行われる。
【0019】
また、この実施例では、表示装置36,46の点灯の有無によって、トンネル内での漏水の有無を視覚により点検することができるので、実用的効果が高い。
このように、本発明によれば、検査の対象となる漏水が溜まると、その漏水はボルタ電池(2個の異種金属の電極を、それらの一方又は両方に化学的に作用する溶液に浸した構成の電圧発生用の一次電池)として自己発電を行うようにした。特に、漏水が海岸地方の塩分を含んだ海水の場合は、トンネルの鉄筋コンクリートの鉄筋の腐食が問題となり、山岳地方の酸性の温泉水であるような場合には、トンネルのコンクリートの腐食などの変状を誘発する危険があるので、その漏水の早期発見と成分判定に寄与することができる。
【0020】
例えば、海岸付近や感潮河川直下のトンネルでは、漏水が塩化物イオンを多く含むため、塩害が発生してトンネルの鉄筋腐食を誘発する。そのため、合理的な維持管理のためには、この種の塩化物イオンを多く含む漏水は早期に発見して対策することが望ましい。本発明によれば、このような漏水成分を漏水の検知とあわせて判定することができる。
また、酸性水の漏水は、トンネルのコンクリートを浸食するため、トンネルの劣化の原因となる。例えば、温泉地付近に位置するトンネルではこのような事象が生じるので、このような酸性の漏水も同時に発見して対策することが望ましい。本発明によれば、このような漏水成分を漏水の検知とあわせて判定することができる。
【0021】
本発明は、不純物が含まれる漏水も電解液として振る舞うことができるので、電解液中に含まれる電解質の種類や量に応じて生じる電池性能の差異を利用して、主に都市トンネルで塩害の原因となる海水や、山岳トンネルでごく稀に発生する酸性の漏水も判定することができる。また、同様に駅等の排水に含まれる環境汚染物質も判定することができる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法は、検知対象である漏水を検知する、地下施設の漏水による電池反応を利用した漏水成分判定方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 トンネル
2 トンネルのひび割れ
3,33,43 漏水
11,31,41 自己発電型漏水検知センサ
12,32,42 容器
13,14,34,35,44,45 イオン化傾向の異なる電極
13A,14A,34A,35A,44A,45A 電極のリード線
15 自己発電型漏水検知センサの出力装置
16 設置環境に関するデータ入力装置
16A 淡水データ
16B 塩水(海水)データ
16C 酸性水データ
20,38,48 漏水成分判定装置
21 中央処理装置(CPU)
22,24,25,27,29 I/F(インタフェース)
23 各種の基準データメモリ
26 計時装置
28 報知装置
30 無線送信装置
36,46 表示装置
37,47 照度データ入力装置