【実施例1】
【0017】
図1及び
図2において、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適したベーン型圧縮機が示されている。このベーン型圧縮機1は、圧縮室19を構成するシリンダ形成部8aと、このシリンダ形成部8a内に回転可能に収容され、駆動軸3に固定されたロータ4と、このロータ4に設けられた複数のベーン溝5に挿入されるベーン6と、シリンダ形成部8aのリア側端面に固定されるリアサイドブロック形成部8bと、シリンダ形成部8aのフロント側端面及び外周面を包囲し、リアサイドブロック形成部8bに嵌合する第2のハウジング部材9とを有して構成されている。
【0018】
リアサイドブロック形成部8bは、ロータ4を収容するシリンダ形成部8aのリア側に続いて一体に形成されているもので、シリンダ形成部8aと共に圧縮室19を形成する第1のハウジング部材8を構成している。
【0019】
第2のハウジング部材9は、シリンダ形成部8aのフロント側端面に当接するフロントサイドブロック形成部9aと、駆動軸3の軸方向に延設されシリンダ及びリアサイドブロック形成部8bの外周面を包囲するように形成されたシェル形成部9bとを一体化して構成されている。
【0020】
すなわち、第1のハウジング部材8と第2のハウジング部材9とを組付けることによってハウジング2が構成され、第2のハウジング部材9は、内部に第1のハウジング部材8を嵌合する嵌合空間9mが形成され、フロントサイドブロック形成部9aによってシリンダ形成部8aのフロント側が閉塞されると共に、この嵌合空間9mに第1のハウジング部材8を嵌合させることでシェル形成部9bのリア側が閉塞されるようになっている。
【0021】
駆動軸3は、第2のハウジング部材9のフロントサイドブロック形成部9aとリアサイドブロック形成部8bのリアサイドブロック形成部8bにプレーンベアリングを介して回転可能に支持されている。第2のハウジング部材9には、作動流体(冷媒ガス)の吸入口12および吐出口11と、吸入口12に連通し、シリンダ形成部8aに形成された凹部13と共に構成される吸入空間14が形成されている。また、シリンダ形成部8aと第2のハウジング部材9のシェル形成部9bとにより後述する吐出空間15が画成され、この吐出空間15は、第1のハウジング部材8のリアサイドブロック形成部8bに形成されたオイル分離器16を介して吐出口11に連通している。
【0022】
シリンダ形成部8aにより囲まれた空間とロータ4の断面は真円状に形成され、シリンダ形成部8aの軸中心とロータ4の軸中心とは、ロータ4の外周面とシリンダ形成部8aの内周面8wとが周方向の一箇所で当接するようにずらして設けられ(シリンダ形成部8aの内径とロータ4の外径との差の1/2だけずらして設けられ)、シリンダ形成部8aの内周面8wとロータ4の外周面との間には圧縮空間18が画成されている。この圧縮空間18はベーン6によって仕切られて複数の圧縮室19が形成され、各圧縮室19の容積はロータ4の回転によって変化するようになっている。
【0023】
図3及び
図4(a),(b)に示すように、ロータ4の軸方向に対して垂直に形成されるリアサイドブロック形成部8bからロータ4の軸方向に対して平行に形成されるシリンダ形成部8aの内周面8wに移行する内周縁角部8xに、ロータ4の挿入端外周縁角部4k及びベーン6の挿入端外周縁角部6kを収容可能に略断面半円弧状にシリンダ形成部側の逃がし溝8zが設けられている。
【0024】
ここで、シリンダ形成部側の逃がし溝8zは、旋盤加工によって形成されることを想定すると、シリンダ形成部側の逃がし溝8zと内周縁隅部8xとの間に形成される隙間を最小にすることができるため、
図5(a)に示すように、リアサイドブロック形成部8bからシリンダ形成部8aの内周面8wにまたがって形成されることが望ましいが、
図5(b),(c)に示すように、リアサイドブロック形成部8bにのみ形成されてもよいし、シリンダ形成部8aの内周面8wにのみ形成されてもよい。
【0025】
第2のハウジング部材9は、フロントサイドブロック形成部9aに一体化されたボス部9cに、駆動軸3に回転動力を伝えるプーリ20が回転自在に外装され、このプーリ20から電磁クラッチ21を介して回転動力が駆動軸3に伝達されるようになっている。
【0026】
さらに、
図6(a),(b)及び(c)に示すように、フロントサイドブロック形成部9aからシェル形成部9bに移行する箇所の内周縁隅部9sに、第1のハウジング部材8のフランジ部8cの先端外周縁角部8kを収容可能に略断面半円弧状にシェル形成部側の逃がし溝9xが形成されている。
【0027】
また、シェル形成部側の逃がし溝9xは、逃がし溝9xと内周縁隅部9sとの間に形成される隙間を最小にすることができるため、
図7(a)に示すように、フロントサイドブロック形成部9aとシェル形成部9bにまたがって形成されることが望ましいが、
図7(b),(c)に示すように、フロントサイドブロック形成部9aにのみ形成されてもよいし、シェル形成部9bにのみ形成されてもよい。
【0028】
シリンダ形成部8aは、その両端部に径方向に突出するフランジ部8c,8dが形成されている。フロント側のフランジ部8cは、第2のハウジング部材9の内周形状に合わせた形状に形成されており、第2のハウジング部材9の内側に嵌入されてフロントサイドブロック形成部9aの端面に当接され、また、リア側のフランジ部8dも、第2のハウジング部材9の内周形状に合わせた形状に形成されており、第2のハウジング部材9の内側に嵌入されてオーリング等のシール部材によりシェル形成部9bとの間が気密よくシールされている。
【0029】
シリンダ形成部8aの周面には、圧縮空間18に対応して吸入空間14に連通する吸入ポート22と、吐出空間15と連通する吐出ポート23が設けられている。したがってシリンダ形成部8aを第2のハウジング部材9に嵌入させると、吸入空間14は、吸入ポートを介して圧縮室19に連通し、シリンダ形成部8aの外周面とシェル形成部9bの内周面との間には、両側端がフランジ部8c,8dによって画成された吐出空間15が形成され、この吐出空間15が吐出ポート23を介して圧縮室19に連通可能となっている。そして、吐出ポート23は、吐出空間15に収容される吐出弁24により開閉されるようになっている。
【0030】
この吐出空間15は、シリンダ形成部8aの吐出ポート23の近傍に突設された隔壁25を境にして吐出弁24が設けられている部位からシリンダ形成部8aのほぼ全周に亘って設けられ、隔壁25に対して吐出ポート23が設けられている側とは反対側において、フランジ部8dに形成された通孔26を介してオイル分離器16に連通し、このオイル分離器16を経て吐出口11に通じている。
【0031】
また、吐出空間15は、シリンダ形成部8aの外周面と、第2のハウジング部材9の内周面との間隔を周方向で変化させることで作動流体の通路断面の大きさを周方向で繰り返し変化させて構成されている。
【0032】
具体的には、
図2(b)及び
図6(a)に示すように、シリンダ形成部8aの外周面には間隔をあけてシェル形成部9bの内面に当接する複数(この例では3つ)の凸部8aaが設けられており、さらにそれぞれの凸部8aaには、スリット8abが設けられて、作動流体は、このスリット8abを介してのみ吐出空間15を移動するようになっている。
【0033】
オイル分離器16は、リアサイドブロック形成部8bに一体に形成されているもので、フランジ部8dに形成された通孔26に連通する円柱状の空間に形成されたオイル分離室28を備え、このオイル分離室28にリアサイドブロック形成部8bと一体に形成された略円筒状の分離筒(セパレータパイプ)29を同軸上に配設して構成されている。
【0034】
オイル分離室28は、前記駆動軸3の軸方向に対して略直交する方向に延設されると共にその軸線が鉛直線に対して斜めに傾斜するように形成されており、上端部は、分離筒29を介して前記第2のハウジング部材9の吐出口11に連通し、下端部は、リアサイドブロック形成部8bの側面に開口されている。そして、このオイル分離室28の下端部の開口部は、第2のハウジング部材9のシェル形成部9bにより気密よく閉塞されている。この例において、シェル形成部9bは、リアサイドブロック形成部8bの全体が収容される程度に軸方向に延設されており、オイル分離室28は、圧縮機の軸方向の前後においてリアサイドブロック形成部8bの周方向の設けられたオーリング等のシール部材により第2のハウジング部材9のシェル形成部9bとの間が気密よくシールされている。
【0035】
したがって、オイル分離室28に流入した作動流体は、このオイル分離室28に収容された分離筒29の周りを旋回し、その過程で混在しているオイルが分離され、オイルが分離された吐出ガスを、分離筒29を介して吐出口11に送出するようにしている。また、分離されたオイルは、オイル分離室28の下端部に連通するように第1のハウジング部材8と第2のハウジング部材9との間に形成された図示しないオイル排出孔を介して第1のハウジング部材8の底部に形成されたオイル貯留室に溜められ、その後、オイル戻し通路を介して圧縮機の潤滑部分に戻されるようになっている。
【0036】
以上の構成において、図示しない動力源からの回転動力がプーリ20及び電磁クラッチ21を介して駆動軸3に伝達され、ロータ4が回転すると、吸入口12から吸入空間14に流入された作動流体が吸入ポート22を介して圧縮空間18に吸入される。圧縮空間18内のベーン6によって仕切られた圧縮室19の容積はロータ4の回転に伴って変化するので、ベーン6間に閉じ込められた作動流体は圧縮され、吐出ポート23から吐出弁24を介して吐出空間15に吐出される。吐出空間15に突出された作動流体は、シリンダ形成部8aの外周面に沿って(第2のハウジング部材9のシェル形成部9bの内周面に沿って)周方向に移動し、シリンダ形成部8aの下側を通過するようにシリンダ形成部8aの周囲をほぼ一周してフランジ部8dに形成された通孔26を介してリアサイドブロック形成部8bに一体形成されたオイル分離器16のオイル分離室28に導入され、オイル分離された後に吐出口11から外部回路へ吐出される。
【0037】
したがって、上述の圧縮機においては、リアサイドブロック形成部8bが、ロータ4を収容するシリンダ形成部8aのリア側に続いて一体に形成され、シリンダ形成部8aと共に圧縮室19を形成する第1のハウジング部材8を構成しており、この第1のハウジング部材8をフロントサイドブロック形成部9aとシェル形成部9bとが一体に形成された第2のハウジング部材9に収容する構成としているので、圧縮機の部品点数を削減することが可能とともに、各部材の組付け精度の管理が不要となる。
【0038】
また、シリンダ形成部8aの外周面とシェル形成部9bの内周面との間に両側端がフランジ部8c,8dによって画成された吐出空間15が形成され、この吐出空間15が吐出ポート23を介して圧縮室19に連通可能となっているため、第1のハウジング部材8と第2のハウジング部材9でハウジング2が構成される場合においても吐出空間15の確保が可能となる。
【0039】
また、第2のハウジング部材9の第2の角部にシェル形成部側の逃がし溝9xが形成されているため、第1のハウジング部材8と干渉することなく嵌合することが可能となり、製造工数の減少を図ることができる。
さらに、シリンダ形成部8aの角部にシリンダ形成部側の逃がし溝8zが形成されることで、ロータの挿入端外周縁角部4k及びベーンの挿入端外周縁角部6kと干渉することなく嵌合することが可能になるため、製造工数の減少を図ることができる。
【実施例2】
【0040】
また、実施例1においては、シリンダ形成部8aとリアサイドブロック形成部8bとが一体に形成されている第1のハウジング部材8と、フロントサイドブロック形成部9aとシェル形成部9bとが一体に形成された第2のハウジング部材9と嵌合することでハウジング2を構成するベーン型圧縮機の例を示したが、シリンダ形成部8aとフロントサイドブロック形成部9aとを一体に形成する第1のハウジング部材8と、リアサイドブロック形成部8bとシェル形成部9bとが一体に形成された第2のハウジング部材9とで構成するハウジング2をベーン型圧縮機に適用してもよい。
【0041】
具体的には、
図8に示されるように、第1のハウジング部材8は、フロントサイドブロック形成部9aと、シリンダ形成部8aとを一体に形成して構成され、また、第2のハウジング部材9は、リアサイドブロック形成部8bと、シェル形成部9bとを一体に形成して構成される。
【0042】
また、第1のハウジング部材においては、ロータ4の軸方向に対して垂直に形成されるフロントサイドブロック形成部9aからロータ4の軸方向に対して平行に形成されるシリンダ形成部8aの内周面8wに移行する内周縁角部8xに、ロータ4の挿入端外周縁角部4k及びベーン6の挿入端外周縁角部6kを収容可能に実施例1に示したものと同様のシリンダ形成部側の逃がし溝8zが設けられている。
【0043】
また、第2のハウジング部材9は、リアサイドブロック形成部8bとシェル形成部9bとによって、シリンダ形成部8aのリア側を閉塞するように嵌合空間9mを形成し、この嵌合空間9mに第1のハウジング部材8をシリンダ形成部8aのフロント側が閉塞されるように嵌合することで、ハウジング2を構成している。
【0044】
さらに、第2のハウジング部材9においては、リアサイドブロック形成部8bからシェル形成部9bに移行する内周縁角部には、実施例1に示したものと同様のシェル形成部側の逃がし溝9xが形成されている。
尚、他の構成は前記実施例と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
このような構成のベーン型圧縮機1においては、第2の角部に形成されたシェル形成部側の逃がし溝9xが第1のハウジング部材8と干渉を防ぐことが可能となり、前記構成例と同様の作用効果を奏することが可能となる。