【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明によるガスワイピング装置は、鋼帯の表面にガスを吹き付けて、該表面のメッキ用の溶融金属の付着量を調整する中空のガスワイピングノズルを備えたガスワイピング装置であって、前記ガスワイピングノズルは、ガスを前記中空に導入するガス導入口を備えた隔壁と、鋼帯の幅方向に延設して前記中空からガスを吹出すスリットと、を備えており、前記スリットには、鋼帯の幅に応じて左右の領域を閉塞するとともに該スリットに沿ってスライド自在な左右の閉塞部材が配設され、かつ、離間した該左右の閉塞部材の間にガス吹出口が形成されており、前記中空において、前記左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部から前記隔壁へ延設する左右の外側整流片が配設され、該左右の外側整流片の内側に左右の内側整流片が配設され、左右の内側整流片の内側に中央ガス流路が形成され、左右の外側整流片と内側整流片の間にそれぞれ左右の端部ガス流路が形成されており、中央ガス流路を流れるガス流速に比して端部ガス流路を流れるガス流速を相対的に速い状態に制御しながらガスワイピングを実行するものである。
【0014】
本発明のガスワイピング装置は、ガス流路を中央ガス流路と左右の端部ガス流路の3つの流路に分割し、中央ガス流路を流れるガス流速に比して端部ガス流路を流れるガス流速を相対的に速い状態に制御しながらガスワイピングを実行する。このような制御により、鋼帯の中央部に付着している溶融金属に比して鋼帯の左右端に付着している溶融金属を多目に吹き飛ばし、溶融金属の付着量(付着厚)を相対的に低減することができる。この状態で鋼帯の中央部から両端部方向に押し寄せられてきた溶融金属が左右端に堆積すると、結果として鋼帯の全領域で溶融金属の付着厚を均等に調整することが可能となり、鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートを効果的に抑止することができるものである。
【0015】
3つの流路は、中央ガス流路を形成する左右の内側整流片と、内側整流片とともに左右の端部ガス流路を形成する左右の外側整流片から構成され、鋼帯の幅に応じてスライド自在な左右の閉塞部材は左右の外側整流片と連続一体に構成されている。
【0016】
ガス導入口から導入されたガスは、中央ガス流路と左右の端部ガス流路を流れ、これら3つのガス流路の幅の和と同じ幅を有するガス吹出口を介して鋼帯に吹き出される。この際、各流路はともに整流片で形成されていることから、ガス導入口から導入されたガスのうち、特に中央ガス流路と左右の端部ガス流路を構成する整流片に沿うガスの流れは極めてスムーズであるとともに、左右の外側整流片と連続一体となっている閉塞部材のガス吹出口側端部を介してガスのスムーズな吐出が図られる。
【0017】
なお、本明細書において「左右」とは、メッキポットから上方に搬送される鋼帯の幅方向を左右方向と規定し、この鋼帯の幅方向を基準として、鋼帯の左右、スリットの左右の領域、ガス導入口の左右端などと称呼するものである。
【0018】
そして、ガスワイピングノズルの中空内における左右の外側整流片および内側整流片によって画成される中央ガス流路と端部ガス流路の幅の和とガス吹出口の幅が常に同じに保たれるものであり(厳密には、ガス吹出口の幅から左右の内側整流片の厚みを差し引いた幅が中央ガス流路と左右の端部ガス流路の幅の和となる)、左右の閉塞部材のスライドによってガス吹出口の幅が変化した際には、これに追随して左右の外側整流片や内側整流片も同様にスライドし、中央ガス流路の幅や端部ガス流路の幅も変化し得る。ただし、中央ガス流路の幅と左右の端部ガス流路の幅の制御に関しては、中央ガス流路を流れるガス流速に比して端部ガス流路を流れるガス流速が相対的に速い状態となるように制御される。
【0019】
ここで、「中央ガス流路を流れるガス流速に比して端部ガス流路を流れるガス流速を相対的に速い状態に制御する」形態としては、以下で示す種々の形態を挙げることができる。
【0020】
その一つは、ガス導入口が左右の内側整流片で仕切られて、左右の端部ガス流路に対応するガス導入口の左右端領域(それぞれの幅をW1,W2)と、ガス導入口の中央領域(幅がW3)を形成し、左右の端部ガス流路の幅をそれぞれt1,t2とし、中央ガス流路の幅をt3とした際に、W1/t1>W3/t3、W2/t2>W3/t3の両関係式を満たす制御形態である。
【0021】
この制御形態は、提供されるガスの元圧が同じ場合に、左右の端部ガス流路の幅とこれに対応するガス導入口の左右端領域の幅の比、および、中央ガス流路の幅とこれに対応するガス導入口の中央領域の幅の比を調整することで、中央ガス流路を流れるガス流速に比して端部ガス流路を流れるガス流速を相対的に速い状態に制御することを可能としたものである。
【0022】
また、他の一つは、前記隔壁には複数のガス導入口が設けてあり、隔壁の中央領域から左右の端部領域にいくにつれてガス導入口の寸法が大きくなっている形態である。
【0023】
これは、隔壁の中央領域と左右の端部領域においてそれぞれ存在しているガス導入口の寸法を調整することのみによって、中央ガス流路と端部ガス流路の流速を変化させるものである。
【0024】
なお、上記2つの制御形態を組み合わせた形態であってもよいことは勿論のことである。
【0025】
また、鋼帯の左右端から左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部までの隙間の長さsが、0≦s≦10mmの範囲であるのが好ましい。
【0026】
本発明者等の検証結果に基づくものであり、鋼帯の左右端から左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部までの隙間sが0≦s≦10mmの範囲となっている場合に、スプラッシュの発生が無い、もしくは極めて少なく、ノズル詰まりが生じないことが実証されている。
【0027】
また、左右の端部ガス流路にリリーフバルブが流体連通しており、左右の端部ガス流路からのガス吹き出し量をリリーフバルブの開閉によって制御する形態であってもよい。
【0028】
本実施の形態によれば、端部ガス流路の流速が速すぎてメッキ液の目付量が少なくなり過ぎるのを解消するべく、端部ガス流路における流速が速すぎる場合はリリーフバルブにてガスを逃がすものである。
【0029】
また、隔壁にあるガス導入口にはガス導入配管が導入ガス調整バルブを介して接続されており、中央ガス流路に圧力センサが備えてあり、該圧力センサによる中央ガス流路内のセンシングデータに基づいて導入ガス調整バルブの開度の調整をおこなう形態であってもよい。
【0030】
提供されるガスの元圧が同じ状態で、板幅が大きなものから小さなものに変化した場合、変化した板幅に応じて中央ガス流路、端部ガス流路の幅を変化させると、鋼帯に提供されるガスの流量が変化し、板幅の変化前後でメッキ液の目付量が変化してしまう。そこで鋼帯の幅の変化に応じてガス流路の幅を変化させた際に、中央ガス流路の圧力を測定し、幅変化前の圧力となるように導入ガス調整バルブの開度を調整することにより、板幅の変化前後でのメッキ液の目付量の変化を抑制することが可能になる。
【0031】
さらに、本発明によるガスワイピング装置の好ましい実施の形態は、前記ガスワイピングノズルの前記中空において、その上面には下面まで届かない垂れ片が固定され、この垂れ片から離れた位置の下面には上面まで届かない立上り片が固定されており、ガス導入口から中央ガス流路および端部ガス流路に導入されたガスは、垂れ片と立上り片を流通する過程で整流されるようになっているものである。
【0032】
ガス流路内において、間隔をおいて垂れ片と立上り片が設けられていることで、これら垂れ片と立上り片をガスがうねるようにして流通する過程でガスが整流され、ガスの圧力や流速がガス流路の幅方向で可及的に均一化される。
【0033】
また、本発明によるガスワイピング装置の他の実施の形態は、左側の閉塞部材および外側整流片と内側整流片が固有のスライド機構である左スライド機構によってスライド自在となり、右側の閉塞部材および外側整流片と内側整流片が固有のスライド機構である右スライド機構によってスライド自在となり、左スライド機構と右スライド機構が共通のベース上に搭載され、該ベースはベーススライド機構に繋がれてスライド自在となっており、前記ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり、前記左スライド機構と右スライド機構によって左右の閉塞部材および外側整流片と内側整流片がスライドしてガス吹出口の幅が調整され、前記位置センサにて検出された鋼帯の位置データに基づいてベーススライド機構がベースをスライドさせ、ベースのスライドによる右スライド機構と左スライド機構のスライドによって左右の閉塞部材および外側整流片と内側整流片がスライドするようになっている形態を挙げることができる。
【0034】
本実施の形態では、左右の閉塞部材および外側整流片と内側整流片のスライド制御が、それぞれに固有のスライド機構である左スライド機構と右スライド機構によっておこなわれるようになっている。ここで、「スライド機構」とは、閉塞部材や外側・内側整流片をスライドさせるシリンダ装置や、スライド基板上をスライドする電動スライダ装置などからなる。シリンダ装置を用いる場合には、装置を構成して摺動するピストンの先端に閉塞部材や外側・内側整流片を取り付けておき、ピストンの摺動に応じて閉塞部材や外側・内側整流片を左右にスライド自在に構成することができる。また、電動スライダ装置を用いる場合には、電動スライダと閉塞部材や外側・内側整流片をワイヤ等で繋いでおき、電動スライダがスライド基板上を左右にスライドするのに応じて閉塞部材や外側・内側整流片を左右にスライド自在に構成することができる。
【0035】
たとえばプロセスコンピュータに入力された鋼帯の幅に関するデータが左右のスライド機構に送信され、この送信データに基づいて左右のスライド機構がスライドしてガス吹出口の幅が所望の幅に調整されるようになっている。
【0036】
ところで、還元焼鈍炉から搬送されてきた鋼帯は、メッキポット中の溶融金属内に浸漬され、メッキポット内にあるシンクロールを介して鉛直上方に搬送された後、この鉛直上方の鋼帯の搬送路の両側に配設された上記ガスワイピング装置から吹出されたガスによって、鋼帯の両側面に付着した溶融金属の一部が払拭されて所望の付着量に調整されるようになっている。鋼帯の幅に関するデータに基づいてガス吹出口の幅が所望の幅に調整されているものの、鋼帯はこの搬送過程で蛇行し、その中心ラインと既に幅が調整済みのガス吹出口の中心ラインがずれることが往々にしてある。
【0037】
そこで、本実施の形態では、左スライド機構と右スライド機構を共通のベース上に搭載しておき、このベースをベーススライド機構に繋いでスライド自在としておく。さらにガス吹出口の近傍に鋼帯の位置を検出する位置センサを設けておき、この位置センサからの鋼帯の位置データ(鋼帯の中心ライン位置データ、もしくは鋼帯の左右端の位置データ)に基づいてベーススライド機構がベースを所望にスライドさせることにより、ガス吹出口の幅を規定する左右のスライド機構の相対位置を変化させないようにしてそれらを鋼帯の位置に対応するようにスライドさせるものである。
【0038】
なお、このベーススライド機構も左右のスライド機構と同様に、シリンダ装置や電動スライダ装置などから形成することができる。また、「ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり」に関し、位置センサはガス吹出口の近傍のうちでも可及的にガス吹出口に近い場所に設けてあるのが鋼帯に対するガスの吹出しをより精緻に実行できる観点から望ましいものの、ここでの「近傍」には、たとえばポット内にある浴面からガスワイピング装置の配設位置の上方までの間の比較的広い範囲を包含するものである。
【0039】
また、本発明によるガスワイピング装置のさらに他の実施の形態は、左側の閉塞部材および外側整流片と内側整流片が固有のスライド機構である左スライド機構によってスライド自在となり、右側の閉塞部材および外側整流片と内側整流片が固有のスライド機構である右スライド機構によってスライド自在となり、前記ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり、前記左スライド機構と右スライド機構によって左右の閉塞部材および外側整流片と内側整流片がスライドしてガス吹出口の幅が調整され、前記位置センサにて検出された鋼帯の位置データに基づいて、左スライド機構と右スライド機構が左右の閉塞部材および外側整流片と内側整流片をスライドさせるようになっているものである。
【0040】
本実施の形態において、左スライド機構と右スライド機構によってガス吹出口の幅が調整されるのは既述の実施の形態と同じであるが、これら左右のスライド機構は共通のベース上に搭載されておらず、位置センサから受信した鋼帯の位置情報データに基づいて左右のスライド機構が同期して同じ方向に同じ量だけスライドし、もって左右の閉塞部材や外側・内側整流片を既に調整されているガス吹出口の幅を維持したまま鋼帯の位置に対応するようにスライド制御するものである。