特許第5766929号(P5766929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766929
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】二重床構造体
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/18 20060101AFI20150730BHJP
   E04F 15/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   E04F15/18 602M
   E04F15/00 101K
   E04F15/18 601J
   E04F15/18 602E
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-230606(P2010-230606)
(22)【出願日】2010年10月13日
(65)【公開番号】特開2011-102532(P2011-102532A)
(43)【公開日】2011年5月26日
【審査請求日】2013年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2009-236310(P2009-236310)
(32)【優先日】2009年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094835
【弁理士】
【氏名又は名称】島添 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 潮
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 知哉
(72)【発明者】
【氏名】大内 渉
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−144350(JP,A)
【文献】 特開2008−274680(JP,A)
【文献】 特開2009−203698(JP,A)
【文献】 特開平11−315595(JP,A)
【文献】 特開2006−118177(JP,A)
【文献】 特開2000−301654(JP,A)
【文献】 特開2003−034750(JP,A)
【文献】 特開2006−234342(JP,A)
【文献】 特開2002−339559(JP,A)
【文献】 特開2004−042557(JP,A)
【文献】 特開2001−098751(JP,A)
【文献】 特開2008−266942(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3061404(JP,U)
【文献】 特開2000−170279(JP,A)
【文献】 特開平10−292610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00−15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床スラブ上に配列した支持脚の上部支承板によって床下地板の角部又は縁部を支持し、該床下地板の上にボード系緩衝材を固定し、該ボード系緩衝材の上に床仕上材を更に固定した構造を有する二重床構造体において、
前記ボード系緩衝材は、石膏芯材を有する石膏系面材からなり、該石膏系面材の下面は、石膏芯材の露出面からなり、
前記石膏系面材の下面に露出した石膏材料の面が前記床下地板の留め螺子の螺子頭部分、或いは、該床下地板の角部又は縁部に直に接触するように、前記石膏材料の面が前記螺子頭部分、前記角部又は前記縁部に対面した状態で、前記石膏系面材が前記床下地板上に固定されたことを特徴とする二重床構造体。
【請求項2】
前記ボード系緩衝材は、ガラス繊維不織布を石膏芯材の表裏両面に埋設し、ガラス繊維不織布によって表層部分を補強してなるガラス繊維不織布入り石膏板からなり、該石膏板の下面は、前記石膏芯材の露出面を構成することを特徴とする請求項1に記載の二重床構造体。
【請求項3】
石膏芯材の露出面は、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(タイプD)による測定値として得られる65以下の表面硬度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の二重床構造体。
【請求項4】
床スラブ上に配列した支持脚の上部支承板によって床下地板の角部又は縁部を支持し、該床下地板の上にボード系緩衝材を固定し、該ボード系緩衝材の上に床仕上材を更に固定した構造を有する二重床構造体における床鳴り現象防止方法において、
石膏系面材を前記ボード系緩衝材として使用し、前記石膏系面材の下面に露出した石膏材料の面が前記床下地板の留め螺子の螺子頭部分、或いは、該床下地板の角部又は縁部に直に接触するように前記石膏材料の面を前記螺子頭部分、前記角部又は前記縁部に対面させた状態で、前記石膏系面材を前記床下地板上に固定することを特徴とする二重床構造体の床鳴り現象防止方法
【請求項5】
前記ボード系緩衝材は、ガラス繊維不織布を石膏芯材の表裏両面に埋設し、ガラス繊維不織布によって表層部分を補強してなるガラス繊維不織布入り石膏板からなり、該石膏板の下面は、前記石膏芯材の露出面を構成することを特徴とする請求項4に記載の二重床構造体の床鳴り現象防止方法
【請求項6】
前記石膏材料の面は、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(タイプD)による測定値として得られる65以下の表面硬度を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の二重床構造体の床鳴り現象防止方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重床構造体に関するものであり、より詳細には、床スラブ上に配列した支持脚によって床下地板、ボード系緩衝材及び床仕上材を支持する二重床構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中高層建築物の二重床構造として、コンクリート床スラブ上に配列した支持脚によって床下地板、ボード系緩衝材及び床仕上材を支持する床先行工法の二重床構造が知られている。この種の二重床構造は、建築平面計画等の自由度、建築設備の配管・配線スペースの形成・確保等の観点より優れていることから、集合住宅のフリープラン化、バリアフリー化、SI(スケルトン・インフィル)住宅化等を重視する近年の建築技術の傾向に適合しており、このため、集合住宅等の設計・施工において積極的に採用される傾向が近年殊に顕著である。
【0003】
図8は、従来の二重床構造体の構成を示す縦断面図及び部分拡大断面図である。図9(A)〜図9(D)は、図8に示す二重床構造体の施工方法を段階的に示す縦断面図であり、図9(E)は、図9(B)に示す工程における床構造体の平面図である。
【0004】
図8に示す如く、二重床構造体は、コンクリート床スラブC上に配置された支持脚1と、支持脚1によって支持された支承板14と、支承板14によって支持された床下地板3と、床下地板3上に固定されたボード系緩衝材4と、ボード系緩衝材4上に固定された床仕上材5とから構成される。
【0005】
図9(A)〜図9(D)には、図8に示す二重床構造体の施工過程が段階的に示されている。図9(A)に示すように、多数の支持脚1がコンクリート床スラブC上に立設される。各支持脚1は、コンクリート床スラブCの上面に着座した弾性変形可能な防振台座11と、防振台座11から垂直上方に延びる外螺子付き支柱12と、内螺子付き連結具13をその中心部に嵌装せしめた水平な支承板14とから構成される。連結具13の内螺子は、支柱12の外螺子に螺合する。
【0006】
図9(B)に示すように、各床下地板3の角部及び縁部が支承板14上に固定され、支承板14を介して支持脚1に支持される。床下地板3を支承板14上に固定した状態が図9(E)に示されている。床下地板3は、板厚20mm、幅600mm及び長さ1820mmのパーティクルボードからなり、留め螺子6によって支承板14の上面に固定される。なお、図9(E)に示す如く、ドライバ先端部や六角レンチ等に係合可能な螺子頭溝18が支柱12の上端部に設けられる。所望により、支承板14に対する床下地板3の留付けに接着剤を併用しても良い。床下地板3とコンクリート床仕上材Cとの間には、目地部7の隙間を除いて室内空間から隠蔽された床下空間2が形成される。
【0007】
図9(C)に示す如く、ボード系緩衝材4が床下地板3上に積層され、図9(D)に示す如く、床仕上材5がボード系緩衝材4の上に更に積層される。ボード系緩衝材4は、例えば、板厚12.5mm、幅600mm及び長さ1820mmの硬質石膏ボードからなり、留め螺子又は釘等の固定具(図示せず)によって床下地板3の上面に固定される。床下地材3及びボード系緩衝材4は固定具の保持力によって面接触状態を維持し、床下地材3及びボード系緩衝材4の相対的な水平変位は、固定具の剪断強度と面材同士の摩擦とによって阻止される。
【0008】
このような床先行工法の二重床構造は、例えば、特開平11−13269号公報、特開平11−13270号公報、特開平9−242311号公報、特開2002−106152号公報、特開2008−274680号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−13269号公報
【特許文献2】特開平11−13270号公報
【特許文献3】特開平9−242311号公報
【特許文献4】特開2002−106152号公報
【特許文献5】特開2008−274680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように支持脚及びボード系緩衝材を用いた床構造体に関し、床鳴り現象の問題が指摘されているが、床鳴り現象は、床下地材の材種、寸法、配置、間隔、組立状態、固定方法、乾燥・収縮等の不確定且つ複合的な要因で発生する現象であり、その原因は、極めて特定し難いと考えられてきた。
【0011】
従って、支持脚及びボード系緩衝材を用いた床構造体における床鳴り現象は、その発生原因が不明であることから、床鳴り現象を効果的に防止する有効な対策は、依然として採られていない事情がある。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、支持脚及びボード系緩衝材を用いた床構造体における床鳴り現象を効果的に防止することができる二重床構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明は、床スラブ上に配列した支持脚の上部支承板によって床下地板の角部又は縁部を支持し、該床下地板の上にボード系緩衝材を固定し、該ボード系緩衝材の上に床仕上材を更に固定した構造を有する二重床構造体において、
前記ボード系緩衝材は、石膏芯材を有する石膏系面材からなり、該石膏系面材の下面は、石膏芯材の露出面からなり、
前記石膏系面材の下面に露出した石膏材料の面が前記床下地板の留め螺子の螺子頭部分、或いは、該床下地板の角部又は縁部に直に接触するように、前記石膏材料の面が前記螺子頭部分、前記角部又は前記縁部に対面した状態で、前記石膏系面材が前記床下地板上に固定されたことを特徴とする二重床構造体を提供する。
なお、本明細書において、面材等の「下面」は、床施工時又は構築時に垂直方向下側に位置する面材等の面を意味し、また、面材等の「上面」は、床施工時又は構築時に垂直方向上側に位置する面材等の面を意味するものとする。
【0014】
他の観点より、本発明は、床スラブ上に配列した支持脚の上部支承板によって床下地板の角部又は縁部を支持し、該床下地板の上にボード系緩衝材を固定し、該ボード系緩衝材の上に床仕上材を更に固定した構造を有する二重床構造体における床鳴り現象防止方法において、
石膏系面材を前記ボード系緩衝材として使用し、前記石膏系面材の下面に露出した石膏材料の面が前記床下地板の留め螺子の螺子頭部分、或いは、該床下地板の角部又は縁部に直に接触するように前記石膏材料の面を前記螺子頭部分、前記角部又は前記縁部に対面させた状態で、前記石膏系面材を前記床下地板上に固定することを特徴とする二重床構造体の床鳴り現象防止方法を提供する
【0015】
本発明の上記構成によれば、石膏材料の面が留め螺子の螺子頭部分等に対面することから、床構造体の撓み変形時に石膏材料が螺子頭部分等に接触するにすぎないので、ボード系緩衝材下面の組織緻密化に起因する擦れ音の発生を防止し、床鳴り現象を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の二重床構造体によれば、支持脚及びボード系緩衝材を用いた床構造体における床鳴り現象を効果的に防止することができる。
【0017】
本発明の床鳴り現象防止方法によれば、支持脚及びボード系緩衝材を用いた床構造体に適した床鳴り現象防止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】床鳴り現象の発生原因を説明するための二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
図2】床鳴り現象の発生原因を説明するための二重床構造体の平面図である。
図3】床鳴り現象の他の発生原因を説明するための二重床構造体の縦断面図、部分拡大断面図及び平面図である。
図4】本発明の実施例を示す二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
図5】本発明の第1参考例を示す二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
図6】本発明の第2参考例を示す二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
図7】本発明の第3参考例を示す二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
図8】従来の二重床構造体の構成を示す縦断面図及び部分拡大断面図である。
図9図8に示す二重床構造体の施工方法を段階的に示す縦断面図及び平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適な実施形態によれば、石膏芯材の露出面は、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(タイプD)による測定値として得られる65以下の表面硬度を有する。例えば、上記ボード系緩衝材は、ガラス繊維不織布を石膏芯材の表裏両面に埋設し、ガラス繊維不織布によって表層部分を補強してなるガラス繊維不織布入り石膏板からなり、石膏板の下面は、石膏芯材の露出面である。
【実施例】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0021】
図1図2及び図3は、二重床構造体において床鳴り現象が発生する原因を説明するための縦断面図、部分拡大断面図及び平面図であり、図4は、本発明の好適な実施例を示す二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
【0022】
弾性変形可能な防振台座を備えた支持脚によって床下地板及び石膏系面材(ボード系緩衝材)を支持する構成の二重床構造体においては、床鳴り現象発生の原因を特定することが極めて困難であり、その原因は、長年に亘って不明であった。しかしながら、多くの床鳴り現象は、以下に説明する特定の原因に起因することが本発明者の最近の実験及び研究により判明した。
【0023】
本発明の実施例について説明する前に、本発明者が実験により知得した二重床構造体の床鳴り現象の原因について、図1図3を参照して説明する。
【0024】
図1は、使用時における二重床構造体の変形又は挙動を例示する縦断面図及び部分拡大断面図であり、図1(A)には、人の踏圧等の活荷重Fが床面に作用していない状態が示されており、図1(B)には、活荷重Fが床面に作用した状態が示されている。図2は、床下地板の施工後且つボード系緩衝材の施工前の状態で示された二重床構造体の平面図である。
【0025】
二重床構造体は、コンクリート床スラブC上に配列した支持脚1の上部支承板14によって床下地板3の角部又は縁部を支持し、床下地板3の上にボード系緩衝材4を固定し、ボード系緩衝材4の上に床仕上材5を更に固定してなる床先行工法の二重床構造体(以下、単に「床構造体」という。)である。
【0026】
各支持脚1は、コンクリート床スラブCの上面に着座した弾性変形可能な防振台座11と、防振台座11から垂直上方に延びる外螺子付き支柱12と、内螺子付き連結具13をその中心部に嵌装せしめた水平な支承板14とから構成される。防振台座11は、支柱12を弾力的に支持するゴム又はエラストマー等の弾性体を有する。連結具13の内螺子は、支柱12の外螺子に螺合する。ドライバ先端部や六角レンチ等に係合可能な螺子頭溝18(図2)が支柱12の上端部に設けられる。
【0027】
床下地板3は、板厚20mm、幅600mm及び長さ1820mmのパーティクルボードからなり、留め螺子6によって支承板14の上面に固定される。図2に示すように、隣接する床下地板3の縁部は所定寸法だけ離間しており、目地部7が床下地板3の間に形成される。床下地板3とコンクリート床仕上材Cとの間には、室内空間から隠蔽された床下空間2が形成される。
【0028】
ボード系緩衝材4は、板厚12.5mm、幅600mm及び長さ1820mmの硬質石膏ボードからなり、留め螺子又は釘等の固定具(図示せず)によって床下地板3の上面に固定される。硬質石膏ボード等の石膏ボードは、石膏系芯材4aの両面をボード用原紙4bで被覆成型してなる石膏系面材である(JIS A 6901)。
【0029】
床下地板3を支承板14に固定するための留め螺子6は、理想的には、図1(A)の右半部に示すように垂直に床下地板3及び支承板14に螺入するとともに、螺子頭頂面6aが床下地板3の上面と面一、或いは、床下地板3の上面よりも僅かに下方にめり込むように施工されることが望ましい。
【0030】
しかし、実際の工事現場の施工においては、図1(A)の左半部に示すように留め螺子6が僅かに傾斜し、螺子頭頂面6aが床下地板3の上面から突出する状態が生じ易く、これを確実に防ぐことは極めて困難である。
【0031】
このような床構造体において、図1(B)に示すように人の踏圧等の活荷重Fが作用すると、防振台座11は、活荷重Fの作用で弾力的に歪み、圧縮変形するので、床材3、4、5は、防振台座11の変形によって下方に撓む。人の踏圧等の活荷重Fは短時間で解放されるので、床構造体は、図1(A)に示す初期状態に復元する。活荷重Fは、居住者等の活動と関連して繰り返し床面に作用するので、図1(A)に示す初期状態と、図1(B)に示す撓み変形状態とが、床構造体に繰り返し生じる。
【0032】
図1(B)に部分的に拡大して示すように、床構造体の撓み変形状態において留め螺子6の螺子頭部分6bが過渡的にボード系緩衝材4の下面に喰い込むが、この状態は繰り返し発生するので、螺子頭部分6bが圧入するボード系緩衝材4の下面部分(ボード用原紙4b)は、繰り返す螺子頭部分6bの圧入によって圧密化する。この結果、初期状態においても復元しない恒久的な窪み4cがボード系緩衝材4の下面に賦形又は形成される。螺子頭部分6bに接する窪み4cの部分のボード用原紙4bは、繰り返す圧密化作用のために、その組織が緻密化する。但し、窪み4c以外のボード系緩衝材4の部分は、留め螺子6の保持力により、床下地板3の上面との面接触状態を維持する。
【0033】
このような窪み4cが螺子頭部分6bの直上に形成された床構造体では、活荷重Fが床構造体に作用して床構造体が図1(B)に示す如く撓み変形した後、活荷重Fの解除によって床構造体が瞬時に初期状態(図1(A))に復元しようとする際、緻密化した窪み4cの面(下面)と、螺子頭頂面6aとの擦過によって擦れ音が発生し、この音は、室内の人に床鳴り音として意識される。
【0034】
このような床鳴り現象は、螺子頭頂面6aが通常のビス頭の円直径(直径8mm程度)である場合には、窪み4cの深さ(高さ)h=0.2〜0.5mmにおいて発生するが、深さhが0.2mm未満であるか、或いは、0.5mmを超えると、床鳴り現象は発生し難いことが判明した。
【0035】
また、この種の床鳴り現象は、螺子頭部分6bとボード系緩衝材4との関係のみならず、図2に示す床下地板3の角部3aと、ボード系緩衝材4との関係においても発生する。
【0036】
図3(A)及び図3(B)は、図1と同じく、使用時における床構造体の変形又は挙動を例示する部分拡大断面図である。図3(A)には、人の踏圧等の活荷重Fが床面に作用していない状態が示されており、図3(B)には、活荷重Fが床面に作用した状態が示されている。また、図3(C)は、擦れ音を発生させる床下地板3の角部3aを示す平面図である。
【0037】
床下地板3の角部3aは、その上面が水平な状態であることが望ましいが、実際の工事現場の施工においては、角部3aの上面が上方に僅かに突出するように尖った状態が生じ易い。上方に僅かに突出した角部3aは、留め螺子6の螺子頭部分6bと同様、床構造体の撓み変形状態において過渡的にボード系緩衝材4の下面に喰い込む。この状態が繰り返し発生すると、角部3aが圧入するボード系緩衝材4の下面部分(ボード用原紙4b)は圧密化する。この結果、初期状態においても復元しない恒久的な窪み4dがボード系緩衝材4の下面に賦形又は形成される。螺子頭部分6bによって形成される前述の窪み4cと同じく、角部3aに接する窪み4dの部分のボード用原紙4bは、繰り返す圧密化作用のために、その組織が緻密化する。但し、窪み4c以外のボード系緩衝材4の部分は、留め螺子6の保持力により、床下地板3の上面との面接触状態を維持する。
【0038】
このような窪み4dが形成された床構造体は、活荷重Fの作用により図3(B)に示す如く撓み変形した後、活荷重Fの解除によって初期状態(図3(A))に復元しようとするが、その際、緻密化した窪み4dの面と、図3(C)に示す角部3aの上方突出領域3bとの擦過によって擦れ音が発生する。この音は、室内の人に床鳴り音として意識される。
【0039】
このような床鳴り現象は、上方に僅かに突出した角部3a上面の範囲が10mm×10mmの寸法である場合、窪み4dの深さ(高さ)h=0.2〜0.5mmにおいて発生するが、螺子頭頂面6a(図1)の場合と同じく、深さhが0.2mm未満であるか、或いは、0.5mmを超えると、床鳴り現象は発生し難い。
【0040】
このような現象に基づいて上述の床鳴り現象の発生メカニズムを考察すると、次のとおりである。
【0041】
(1)人の踏圧等の活荷重Fが床面に作用すると、防振台座11の弾力的な変形により、床材3、4、5が下方に撓み、留め螺子6の螺子頭部分6bのような螺子、ビス、釘等のヘッド部又は頂部や、床下地板3の角部3a等の尖った上向き突出部(上方突出領域3b)がボード系緩衝材4の下面に繰り返し圧入し、これにより、ボード系緩衝材4のボード原紙4bが過渡的に押圧される(図1(B)及び図3(B))。
【0042】
(2)活荷重Fが解放すると、防振台座11の弾性復元力等によって床材3、4、5の撓みが解消し、ボード原紙4bに対する圧力が除去される。
【0043】
(3)床面に対して活荷重Fが繰り返し作用すると、ボード原紙4bに対する圧力の付加及び除去が反復し、螺子、ビス、釘等のヘッド部又は頂部や、床下地板3の角部3a等の上向き突出部に接するボード原紙4bが圧密化する。ボード原紙4bの紙は、多数の繊維が空隙を介して絡み合った状態であるが、繰り返し圧縮されることにより、繊維間の空隙が縮小し又は消失し、繊維同士が凝集ないし密着する。
【0044】
(4)紙や、パルプ等の木質材は、硬い金属又は木質材との接触により擦過音を発生し易い性質の素材であるが、ボード原紙4bの緻密化により表面が硬化するとともに、緻密化したボード原紙4bの表面と螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bとの相対変位及び擦過現象を発生させる窪み4c、4dが形成される結果、ボード原紙4bと、螺子頭頂面の金属や、角部3aの上方突出領域3bとが擦過して擦れ音が発生する状態が発生する。
【0045】
(5)このような状態で活荷重Fが床面に作用して、床材3、4、5が撓み変形し且つ復元すると、ボード原紙4bと螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bとが擦過し、比較的大きな高音域の擦れ音が発生し、この音は、室内の人に床鳴り音として認識される。
【0046】
図4は、本発明の実施例を示す床構造体の縦断面図であり、床構造体は、このような擦れ音を防止する対策として、表層を紙で被覆していない石膏系面材をボード系緩衝材4として採用した構成を有する。
【0047】
図4に示す床構造体は、図1図3に示す床構造体と同じく、コンクリート床スラブC上に配置された多数の支持脚1によって支持された床下地板3と、床下地板3の上面に固定されたボード系緩衝材4と、ボード系緩衝材4の上面に固定された床仕上材5とから構成される。図1図3に示す床構造体と同様、床下地板3はパーティクルボードからなり、留め螺子6によって支承板14の上面に固定される。所望により、支承板14に対する床下地板3の固定に接着剤を併用しても良い。ボード系緩衝材4は、留め螺子又は釘等の固定具(図示せず)によって床下地板3の上面に固定される。但し、窪み4c以外のボード系緩衝材4の部分は、留め螺子6の保持力により、床下地板3の上面との面接触状態を維持する。
【0048】
ボード系緩衝材4は、ガラス繊維を石膏芯材に混入するとともに、ガラス繊維不織布(グラスティッシュ)41、42を石膏芯材の表裏両面に挿入し且つ埋設し、ガラス繊維不織布41、42によって表層部分を補強してなるガラス繊維不織布入りの繊維補強石膏板(ガラス繊維不織布入り石膏板)である。ガラス繊維不織布41、42の埋設深さは、約0.5mm〜数mm程度に設定される。ボード系緩衝材4は、このようにガラス繊維不織布41、42を伏せ込んだ素地あらわし構成を有する石膏系面材であり、ボード系緩衝材4の上面及び下面には石膏芯材が露出しており、従って、螺子頭部分6bと対向するボード系緩衝材4の表面(下面)には、ボード原紙等の紙が全く存在せず、しかも、パーティクルボードの表面のような木質材又はパルプも存在せず、石膏材料の面が直に露出するにすぎない。ガラス繊維不織布入り石膏板として、吉野石膏株式会社製品「タイガーグラスロック」(製品名)が挙げられる。
【0049】
このように紙又は木質材を表面又は表層に有しないボード系緩衝材4を用いた場合、組織の緻密化に起因する擦れ音発生が生じず、従って、擦れ音による床鳴り現象を回避し得ることが本発明者の実験により判明した。
【0050】
本発明者は、この原因を究明すべく、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(株式会社テクロック「TECLOCK GS−720G」(タイプD))を用いて、上記ガラス繊維不織布入り石膏板の表面硬度を計測するとともに、各種石膏ボード、珪酸カルシウム板等の建材ボードの表面硬度を測定した。この結果、石膏芯材の露出面の表面硬度は、約62であり、石膏ボードや、珪酸カルシウム板等の建材ボードの表面硬度は、65を超えていること、そして、表面硬度が65を超えるボード建材をボード系緩衝材4として使用すると、前述の擦れ音が発生することが判明した。即ち、擦れ音の発生を防止するには、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(タイプD)による測定値として得られる65以下の表面硬度を有するボード系緩衝材4を用い、或いは、このような表面硬度の表面をボード系緩衝材4に形成することが望ましく、石膏芯材の素地が露出した石膏系面材であるガラス繊維不織布入り石膏板は、このような条件に適合する。
【0051】
かくして、本実施例の床構造体は、石膏芯材の下側露出面を備えたガラス繊維不織布入り石膏板をボード系緩衝材4として採用し、石膏材料を下面に直に露出せしめた構成のものであり、このような床構造体によれば、ボード系緩衝材下面の組織緻密化に起因する擦れ音の発生を防止し、床鳴り現象を効果的に防止することができる。
【参考例1】
【0052】
図5は、本発明の第1参考例を示す床構造体の縦断面図であり、床構造体は、このような擦れ音を防止する対策として、下面側の石膏ボード原紙に特殊な表面処理を施した石膏ボードをボード系緩衝材4として採用した構成を有する。なお、以下に記載する第1〜第3参考例は、特許請求の範囲に記載された本発明の構成を説明するためのものではないが、本発明の構成及び作用に関する理解を容易にするために、以下に説明する。
【0053】
図5に示す床構造体は、ボード系緩衝材4を構成する石膏ボードの下面側の石膏ボード原紙4bに特殊な表面処理を施した点を除き、図1図3に示す床構造体と同じ構造を有する。
【0054】
本発明者は、下側の石膏ボード原紙4bの下面4fに対して、適量のシリコーンを含有した2液ウレタンアクリル系塗料を塗布量5.0g/m2にて全面塗布して乾燥させ、或いは、ステアリン酸カリウム水溶液をステアリン酸カリウム塗布量8.0g/m2にて全面塗布して乾燥させ、これにより、表面処理皮膜層を下面4fに形成した。本発明者は、このような表面処理を下面4fの全面に施した石膏ボードをボード系緩衝材4として使用した床構造体を用意し、繰り返す活荷重Fの作用に起因する擦れ音の発生の有無を実証試験した結果、このような床構造体おいても、擦れ音が発生せず、擦れ音の発生による床鳴り現象を回避し得ることが本発明者の実験により判明した。
【0055】
これは、このような表面処理皮膜層が、石膏ボード原紙4bの表面摩擦係数を低減し、ボード原紙4bと螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bとの擦過による擦過音発生を抑制することに起因するものと考えられる。なお、石膏ボード原紙4bの表面摩擦係数低減は、面材同士の摩擦を利用して床下地材3及びボード系緩衝材4の相対的水平変位を阻止しようとする従来構造の考え方と相反するものと考えられるが、この程度の石膏ボード原紙4bの表面摩擦係数低減は、実際には、床下地材3及びボード系緩衝材4の一体性を損なうものではなく、仮に床下地材3及びボード系緩衝材4の一体性に支障が生じたとしても、留め螺子6による留付け箇所数を増すことにより、十分に対応し得る。
【0056】
本発明者は、比較例として、下側の石膏ボード原紙4bの下面4fに対して、適量のシリコーンを含有した2液ウレタンアクリル系塗料を塗布量4.0g/m2にて全面塗布して乾燥させ、或いは、1液ニトロセルロース系塗料を塗布量4.5g/m2にて全面塗布して乾燥させ、これにより、表面処理皮膜層を下面4fの全面に形成したものを用意し、繰り返す活荷重Fの作用に起因する擦れ音の発生の有無を同様に実証試験したが、このような床構造体においては、擦れ音が発生してしまうことから、擦れ音の発生による床鳴り現象を防止し難いことが認められた。
【0057】
第1参考例の床構造体は、石膏ボード原紙4bの下面4fに対して、所定量以上(5.0g/m2以上)の2液ウレタンアクリル系塗料又はステアリン酸カリウム水溶液を塗布する表面処理を施した石膏ボードをボード系緩衝材4として採用することにより、石膏ボード原紙4bの表面摩擦係数を低減した構成のものであり、このような床構造体によれば、擦れ音による床鳴り現象を効果的に防止することができる。
【0058】
変形例として、石膏ボード原紙4bの下面4fにアクリル樹脂系塗料、酢酸ビニル樹脂系塗料等の面状の樹脂被覆層を形成しても良く、或いは、この樹脂被覆層に対してエンボス加工を更に施しても良い。このような樹脂被覆層の厚さは、0.2mm以上、好ましくは、0.3mm以上の寸法に設定することが望ましい。このような厚さの樹脂被覆層は、螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bの上方突出部分を或る程度まで吸収し、石膏ボード原紙4bの緻密化の作用を緩和するので、石膏ボード原紙4bの窪み4c、4dの深さh(図1及び図3)を0.2mm未満に抑制する上で有効に機能する。前述の如く、窪み4c、4dの深さhが0.2mm未満であるとき、床鳴り現象が発生し難いことが本発明者の実験によって判明しているので、このような厚さの樹脂被覆層を石膏ボード原紙4bの下面4fに形成することにより、床鳴り現象を効果的に防止することができる。
【参考例2】
【0059】
図6は、本発明の第2参考例を示す床構造体の縦断面図であり、床構造体は、擦れ音を防止する対策として、変形復元性を有する柔軟なシート状物8を床下地板3とボード系緩衝材4との間に介挿した構成を有する。
【0060】
シート状物8として、厚さ0.09mmのテフロン(登録商標)シート、厚さ0.05mmのPP(ポリプロピレン)シート、厚さ0.5mmのPE(ポリエチレン)シート、厚さ0.1mmのポリオレフィンシート等の樹脂シートを好適に使用し得る。このようなシート状物8は、螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bと接触するが、両者間の摩擦力は、比較的小さく、このため、相対変位の際に擦過音が発生し難い。変形例として、厚さ0.2mm以上、好ましくは、厚さ0.3mm以上の比較的厚い不織布又は織布、例えば、布製ガムテープ等をシート状物8として使用しても良い。このようなシート状物8は、螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bの上方突出部分を或る程度まで吸収し、石膏ボード原紙4bの緻密化の作用を緩和するので、石膏ボード原紙4bの窪み4c、4dの深さh(図1及び図3)を0.2mm未満に抑制する上で有効に機能する。
【0061】
このようにシート状物8を床下地板3とボード系緩衝材4との間に介挿した床構造体に関しても、組織の緻密化に起因する擦れ音発生が生じず、従って、擦れ音による床鳴り現象を回避し得ることが本発明者の実験により認められた。
【参考例3】
【0062】
図7は、本発明の第3参考例を示す床構造体の縦断面図であり、床構造体は、擦れ音を防止する対策として、接着剤を多数の線状又は多点状にボード系緩衝材4の下面に塗布し、接着剤の硬化体からなる多数の線状又は多点状塗着物をボード系緩衝材4の下面に塗着した構成を有する。塗着物9は、0.2mm以上、好ましくは、0.3mm以上の厚さを有する。
【0063】
なお、図7に示すように、本例の床構造体は、石膏ボードの下面側の石膏ボード原紙4bに多数の線状又は点状塗着物9を形成した点を除き、図1図3に示す床構造体と同じ構造を有する。
【0064】
塗着物9を形成するための接着剤として、アクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、酢ビ樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、合成ゴム系接着剤、ラテックス系接着剤等を好適に使用し得る。線状又は点状塗着物9は、螺子頭部分6bとボード用原紙4bとの接触面積を減少するように働く。
【0065】
変形例として、エンボス加工したシート状物をボード系緩衝材4と床下地板3との間に介挿しても良い。このようなシート状物の基材(シート)として、紙、ポリプロピレン製シート、テフロン(登録商標)製シート、ユポ(登録商標)等の合成紙、或いは、不織布等を好適に使用し得る。
【0066】
このように多数の線状又は多点状塗着物9をボード系緩衝材4の下面に形成し、或いは、エンボス加工したシート状物等をボード系緩衝材4と床下地板3との間に介挿した床構造体に関しても、擦れ音の発生による床鳴り現象を回避し得ることが本発明者の実験により認められた。
【0067】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において種々の変更又は変形が可能であり、かかる変更又は変形例も又、本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【0068】
例えば、上記実施例は、床下地板としてパーティクルボードを使用した床構造体に関するものであるが、床下地板として、ハードボード、木質系合板、MDF、OSB等のボード建材を使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、床スラブ上に配列した支持脚の上部支承板によって床下地板の角部又は縁部を支持し、床下地板の上にボード系緩衝材を固定し、ボード系緩衝材の上に床仕上材を更に固定した構成を有する二重床構造体に適用される。
【符号の説明】
【0070】
1 支持脚
2 床下空間
3 床下地板
4 ボード系緩衝材
5 床仕上材
6 留め螺子
7 目地
8 シート状物
9 線状又は点状塗着物
C コンクリート床スラブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9