【実施例】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0021】
図1、
図2及び
図3は、二重床構造体において床鳴り現象が発生する原因を説明するための縦断面図、部分拡大断面図及び平面図であり、
図4は、本発明の好適な実施例を示す二重床構造体の縦断面図及び部分拡大断面図である。
【0022】
弾性変形可能な防振台座を備えた支持脚によって床下地板及び石膏系面材(ボード系緩衝材)を支持する構成の二重床構造体においては、床鳴り現象発生の原因を特定することが極めて困難であり、その原因は、長年に亘って不明であった。しかしながら、多くの床鳴り現象は、以下に説明する特定の原因に起因することが本発明者の最近の実験及び研究により判明した。
【0023】
本発明の実施例について説明する前に、本発明者が実験により知得した二重床構造体の床鳴り現象の原因について、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0024】
図1は、使用時における二重床構造体の変形又は挙動を例示する縦断面図及び部分拡大断面図であり、
図1(A)には、人の踏圧等の活荷重Fが床面に作用していない状態が示されており、
図1(B)には、活荷重Fが床面に作用した状態が示されている。
図2は、床下地板の施工後且つボード系緩衝材の施工前の状態で示された二重床構造体の平面図である。
【0025】
二重床構造体は、コンクリート床スラブC上に配列した支持脚1の上部支承板14によって床下地板3の角部又は縁部を支持し、床下地板3の上にボード系緩衝材4を固定し、ボード系緩衝材4の上に床仕上材5を更に固定してなる床先行工法の二重床構造体(以下、単に「床構造体」という。)である。
【0026】
各支持脚1は、コンクリート床スラブCの上面に着座した弾性変形可能な防振台座11と、防振台座11から垂直上方に延びる外螺子付き支柱12と、内螺子付き連結具13をその中心部に嵌装せしめた水平な支承板14とから構成される。防振台座11は、支柱12を弾力的に支持するゴム又はエラストマー等の弾性体を有する。連結具13の内螺子は、支柱12の外螺子に螺合する。ドライバ先端部や六角レンチ等に係合可能な螺子頭溝18(
図2)が支柱12の上端部に設けられる。
【0027】
床下地板3は、板厚20mm、幅600mm及び長さ1820mmのパーティクルボードからなり、留め螺子6によって支承板14の上面に固定される。
図2に示すように、隣接する床下地板3の縁部は所定寸法だけ離間しており、目地部7が床下地板3の間に形成される。床下地板3とコンクリート床仕上材Cとの間には、室内空間から隠蔽された床下空間2が形成される。
【0028】
ボード系緩衝材4は、板厚12.5mm、幅600mm及び長さ1820mmの硬質石膏ボードからなり、留め螺子又は釘等の固定具(図示せず)によって床下地板3の上面に固定される。硬質石膏ボード等の石膏ボードは、石膏系芯材4aの両面をボード用原紙4bで被覆成型してなる石膏系面材である(JIS A 6901)。
【0029】
床下地板3を支承板14に固定するための留め螺子6は、理想的には、
図1(A)の右半部に示すように垂直に床下地板3及び支承板14に螺入するとともに、螺子頭頂面6aが床下地板3の上面と面一、或いは、床下地板3の上面よりも僅かに下方にめり込むように施工されることが望ましい。
【0030】
しかし、実際の工事現場の施工においては、
図1(A)の左半部に示すように留め螺子6が僅かに傾斜し、螺子頭頂面6aが床下地板3の上面から突出する状態が生じ易く、これを確実に防ぐことは極めて困難である。
【0031】
このような床構造体において、
図1(B)に示すように人の踏圧等の活荷重Fが作用すると、防振台座11は、活荷重Fの作用で弾力的に歪み、圧縮変形するので、床材3、4、5は、防振台座11の変形によって下方に撓む。人の踏圧等の活荷重Fは短時間で解放されるので、床構造体は、
図1(A)に示す初期状態に復元する。活荷重Fは、居住者等の活動と関連して繰り返し床面に作用するので、
図1(A)に示す初期状態と、
図1(B)に示す撓み変形状態とが、床構造体に繰り返し生じる。
【0032】
図1(B)に部分的に拡大して示すように、床構造体の撓み変形状態において留め螺子6の螺子頭部分6bが過渡的にボード系緩衝材4の下面に喰い込むが、この状態は繰り返し発生するので、螺子頭部分6bが圧入するボード系緩衝材4の下面部分(ボード用原紙4b)は、繰り返す螺子頭部分6bの圧入によって圧密化する。この結果、初期状態においても復元しない恒久的な窪み4cがボード系緩衝材4の下面に賦形又は形成される。螺子頭部分6bに接する窪み4cの部分のボード用原紙4bは、繰り返す圧密化作用のために、その組織が緻密化する。但し、窪み4c以外のボード系緩衝材4の部分は、留め螺子6の保持力により、床下地板3の上面との面接触状態を維持する。
【0033】
このような窪み4cが螺子頭部分6bの直上に形成された床構造体では、活荷重Fが床構造体に作用して床構造体が
図1(B)に示す如く撓み変形した後、活荷重Fの解除によって床構造体が瞬時に初期状態(
図1(A))に復元しようとする際、緻密化した窪み4cの面(下面)と、螺子頭頂面6aとの擦過によって擦れ音が発生し、この音は、室内の人に床鳴り音として意識される。
【0034】
このような床鳴り現象は、螺子頭頂面6aが通常のビス頭の円直径(直径8mm程度)である場合には、窪み4cの深さ(高さ)h=0.2〜0.5mmにおいて発生するが、深さhが0.2mm未満であるか、或いは、0.5mmを超えると、床鳴り現象は発生し難いことが判明した。
【0035】
また、この種の床鳴り現象は、螺子頭部分6bとボード系緩衝材4との関係のみならず、
図2に示す床下地板3の角部3aと、ボード系緩衝材4との関係においても発生する。
【0036】
図3(A)及び
図3(B)は、
図1と同じく、使用時における床構造体の変形又は挙動を例示する部分拡大断面図である。
図3(A)には、人の踏圧等の活荷重Fが床面に作用していない状態が示されており、
図3(B)には、活荷重Fが床面に作用した状態が示されている。また、
図3(C)は、擦れ音を発生させる床下地板3の角部3aを示す平面図である。
【0037】
床下地板3の角部3aは、その上面が水平な状態であることが望ましいが、実際の工事現場の施工においては、角部3aの上面が上方に僅かに突出するように尖った状態が生じ易い。上方に僅かに突出した角部3aは、留め螺子6の螺子頭部分6bと同様、床構造体の撓み変形状態において過渡的にボード系緩衝材4の下面に喰い込む。この状態が繰り返し発生すると、角部3aが圧入するボード系緩衝材4の下面部分(ボード用原紙4b)は圧密化する。この結果、初期状態においても復元しない恒久的な窪み4dがボード系緩衝材4の下面に賦形又は形成される。螺子頭部分6bによって形成される前述の窪み4cと同じく、角部3aに接する窪み4dの部分のボード用原紙4bは、繰り返す圧密化作用のために、その組織が緻密化する。但し、窪み4c以外のボード系緩衝材4の部分は、留め螺子6の保持力により、床下地板3の上面との面接触状態を維持する。
【0038】
このような窪み4dが形成された床構造体は、活荷重Fの作用により
図3(B)に示す如く撓み変形した後、活荷重Fの解除によって初期状態(
図3(A))に復元しようとするが、その際、緻密化した窪み4dの面と、
図3(C)に示す角部3aの上方突出領域3bとの擦過によって擦れ音が発生する。この音は、室内の人に床鳴り音として意識される。
【0039】
このような床鳴り現象は、上方に僅かに突出した角部3a上面の範囲が10mm×10mmの寸法である場合、窪み4dの深さ(高さ)h=0.2〜0.5mmにおいて発生するが、螺子頭頂面6a(
図1)の場合と同じく、深さhが0.2mm未満であるか、或いは、0.5mmを超えると、床鳴り現象は発生し難い。
【0040】
このような現象に基づいて上述の床鳴り現象の発生メカニズムを考察すると、次のとおりである。
【0041】
(1)人の踏圧等の活荷重Fが床面に作用すると、防振台座11の弾力的な変形により、床材3、4、5が下方に撓み、留め螺子6の螺子頭部分6bのような螺子、ビス、釘等のヘッド部又は頂部や、床下地板3の角部3a等の尖った上向き突出部(上方突出領域3b)がボード系緩衝材4の下面に繰り返し圧入し、これにより、ボード系緩衝材4のボード原紙4bが過渡的に押圧される(
図1(B)及び
図3(B))。
【0042】
(2)活荷重Fが解放すると、防振台座11の弾性復元力等によって床材3、4、5の撓みが解消し、ボード原紙4bに対する圧力が除去される。
【0043】
(3)床面に対して活荷重Fが繰り返し作用すると、ボード原紙4bに対する圧力の付加及び除去が反復し、螺子、ビス、釘等のヘッド部又は頂部や、床下地板3の角部3a等の上向き突出部に接するボード原紙4bが圧密化する。ボード原紙4bの紙は、多数の繊維が空隙を介して絡み合った状態であるが、繰り返し圧縮されることにより、繊維間の空隙が縮小し又は消失し、繊維同士が凝集ないし密着する。
【0044】
(4)紙や、パルプ等の木質材は、硬い金属又は木質材との接触により擦過音を発生し易い性質の素材であるが、ボード原紙4bの緻密化により表面が硬化するとともに、緻密化したボード原紙4bの表面と螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bとの相対変位及び擦過現象を発生させる窪み4c、4dが形成される結果、ボード原紙4bと、螺子頭頂面の金属や、角部3aの上方突出領域3bとが擦過して擦れ音が発生する状態が発生する。
【0045】
(5)このような状態で活荷重Fが床面に作用して、床材3、4、5が撓み変形し且つ復元すると、ボード原紙4bと螺子頭頂面6a又は上方突出領域3bとが擦過し、比較的大きな高音域の擦れ音が発生し、この音は、室内の人に床鳴り音として認識される。
【0046】
図4は、本発明の
実施例を示す床構造体の縦断面図であり、床構造体は、このような擦れ音を防止する対策として、表層を紙で被覆していない石膏系面材をボード系緩衝材4として採用した構成を有する。
【0047】
図4に示す床構造体は、
図1〜
図3に示す床構造体と同じく、コンクリート床スラブC上に配置された多数の支持脚1によって支持された床下地板3と、床下地板3の上面に固定されたボード系緩衝材4と、ボード系緩衝材4の上面に固定された床仕上材5とから構成される。
図1〜
図3に示す床構造体と同様、床下地板3はパーティクルボードからなり、留め螺子6によって支承板14の上面に固定される。所望により、支承板14に対する床下地板3の固定に接着剤を併用しても良い。ボード系緩衝材4は、留め螺子又は釘等の固定具(図示せず)によって床下地板3の上面に固定される。但し、窪み4c以外のボード系緩衝材4の部分は、留め螺子6の保持力により、床下地板3の上面との面接触状態を維持する。
【0048】
ボード系緩衝材4は、ガラス繊維を石膏芯材に混入するとともに、ガラス繊維不織布(グラスティッシュ)41、42を石膏芯材の表裏両面に挿入し且つ埋設し、ガラス繊維不織布41、42によって表層部分を補強してなるガラス繊維不織布入りの繊維補強石膏板(ガラス繊維不織布入り石膏板)である。ガラス繊維不織布41、42の埋設深さは、約0.5mm〜数mm程度に設定される。ボード系緩衝材4は、このようにガラス繊維不織布41、42を伏せ込んだ素地あらわし構成を有する石膏系面材であり、ボード系緩衝材4の上面及び下面には石膏芯材が露出しており、従って、螺子頭部分6bと対向するボード系緩衝材4の表面(下面)には、ボード原紙等の紙が全く存在せず、しかも、パーティクルボードの表面のような木質材又はパルプも存在せず、石膏材料の面が直に露出するにすぎない。ガラス繊維不織布入り石膏板として、吉野石膏株式会社製品「タイガーグラスロック」(製品名)が挙げられる。
【0049】
このように紙又は木質材を表面又は表層に有しないボード系緩衝材4を用いた場合、組織の緻密化に起因する擦れ音発生が生じず、従って、擦れ音による床鳴り現象を回避し得ることが本発明者の実験により判明した。
【0050】
本発明者は、この原因を究明すべく、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(株式会社テクロック「TECLOCK GS−720G」(タイプD))を用いて、上記ガラス繊維不織布入り石膏板の表面硬度を計測するとともに、各種石膏ボード、珪酸カルシウム板等の建材ボードの表面硬度を測定した。この結果、石膏芯材の露出面の表面硬度は、約62であり、石膏ボードや、珪酸カルシウム板等の建材ボードの表面硬度は、65を超えていること、そして、表面硬度が65を超えるボード建材をボード系緩衝材4として使用すると、前述の擦れ音が発生することが判明した。即ち、擦れ音の発生を防止するには、JIS K 6253:2006準拠のゴム硬度計(タイプD)による測定値として得られる65以下の表面硬度を有するボード系緩衝材4を用い、或いは、このような表面硬度の表面をボード系緩衝材4に形成することが望ましく、石膏芯材の素地が露出した石膏系面材であるガラス繊維不織布入り石膏板は、このような条件に適合する。
【0051】
かくして、本実施例の床構造体は、石膏芯材の下側露出面を備えたガラス繊維不織布入り石膏板をボード系緩衝材4として採用し、石膏材料を下面に直に露出せしめた構成のものであり、このような床構造体によれば、ボード系緩衝材下面の組織緻密化に起因する擦れ音の発生を防止し、床鳴り現象を効果的に防止することができる。