(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロースエステルトウと、このセルロースエステルトウ中に分散した酢酸セルロース粒子とを含むタバコフィルターであって、前記酢酸セルロース粒子が、JIS Z8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が目開き1.7mmを通過し、目開き0.10mmを通過しない粒度を有し、かつ1〜50m2/gのBET比表面積を有するタバコフィルター。
さらにセルロースエステルトウ100重量部に対して1〜10重量部の可塑剤を含み、酢酸セルロース粒子が前記可塑剤でセルロースエステルトウに固定化されている請求項1記載のタバコフィルター。
セルロースエステルトウの平均繊度が10000〜50000デニール、単繊維の平均繊度が1〜10デニールである請求項1〜4のいずれかに記載のタバコフィルター。
酢酸セルロース粒子が、JIS Z8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が目開き1.0mmを通過し、目開き0.18mmを通過しない粒度を有する請求項1〜6のいずれかに記載のタバコフィルター。
300gの荷重を掛けたときの厚み保持率が90%以上であり、かつ長さ100mm及び直径8mmのフィルターロッドにおける空気流速17.5ml/秒での通気抵抗が1000mmWG以下である請求項1〜8のいずれかに記載のタバコフィルター。
【背景技術】
【0002】
タバコ業界では、近年のタバコに対する健康問題から、タバコ煙中の有害成分を除去する技術が求められている。タバコ煙中には種々の有害成分が含まれているが、なかでもフェノールやクレゾールなどのフェノール類は比較的高濃度で含まれる有害物質であり、効果的な除去が望まれている。有害物質の吸着には従来から活性炭が汎用されてきたが、活性炭に代表される物理吸着ではタバコ成分中の喫味成分まで除去される。すなわち、ニコチンやタール及びその他の香味成分まで除去されるため、タバコ煙の喫味が変わり、喫煙の満足感が阻害される。さらに、活性炭はフェノール類に対する吸着能も低い。そして、セルロースアセテートからなるトウに活性炭を添加してタバコフィルターに加工する技術としては、通常、速度の異なる2対のロール間で張力をかけることにより捲縮を伸ばしたトウにチャコールを散布し、さらにトリアセチンなどの可塑剤によりチャコールをトウに添着させてタバコフィルターに加工する技術が用いられる。しかし、この技術では活性炭の添着量を上げることが困難である上に、活性炭がトリアセチンを吸着するため、活性炭の吸着能力が低下するという問題点もあった。
【0003】
一方、タバコフィルターには、従来から酢酸セルローストウが常用されており、セルロースアセテートトウのフィルターは、タバコ主流煙中のフェノールを低減できるものの、十分ではない。そこで、セルロースアセテートトウのフィルターにおいて、タバコ主流煙中からフェノール類を選択的に吸着できる方法が望まれている。
【0004】
特表2001−526913号公報(特許文献1)には、タバコ煙に存在する遊離基を有する細胞毒性分子を除去するために、ローズマリー抽出物などのポリフェノール化合物又はこれらの誘導体を遊離基補集剤として含むタバコフィルターが開示されている。また、特許第3910175号公報(特許文献2)には、主流煙のフェノール類などを除去するために、(A)1〜300cPの粘度を有する液状脂肪酸エステルまたは液状脂肪酸を添加したフィルターセクション、及び(B)1〜300cPの粘度を有するグリコールを添加したフィルターセクションを備え、これらフィルターセクションの下流側に、(C)活性炭を添加したフィルターセクションを有するシガレット用フィルターが開示されている。
【0005】
しかし、これらのタバコフィルターでは、液状物質をフィルターに添加するため、液状物質がタバコ保管中に飛散したり、タバコ葉部に移行する。
【0006】
特開2006−191813号公報(特許文献3)には、タバコ主流煙中のCO濃度及びNOx濃度を低下させるために、ロッド状のコアと、前記コアを刻煙草により囲んで形成されたシースと、前記シースを覆うチューブとを備え、前記コアは、長手方向における一部又は全ての領域に亘り充填された多孔質体を含み、前記コアの通気抵抗は前記シースでの通気抵抗よりも低い喫煙物品が開示されている。この文献では、多孔質体の材料として、アルミナ、シリカ、ゼオライトが記載されている。
【0007】
しかし、この喫煙物品は、多孔質体はフィルターに適用されずにタバコ葉に適用されており、無機質材料を使用せざるを得ないが、無機質材料では、フェノール類の吸着が不充分である。
【0008】
ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択的に効率よく除去するとして、特開2008−154509号公報(特許文献4)には、シリカゲルなどで構成された平均細孔径5〜350nmの多孔質体からなるタバコフィルター素材が開示され、特開2010−35550号公報(特許文献5)には、全窒素含有量1重量%以下、全炭素含有量20重量%以下、平均細孔径が2〜50nm、比表面積が500〜1300m
2/g及び細孔が六方構造の細孔を有する多孔質シリカからなるタバコフィルター素材が開示されている。これらの文献では、分割したフィルター間の空隙に、前記フィルター素材を充填するトリプレット構造によって、フィルターが製造されている。
【0009】
しかし、これらのフィルターは、トリプレット構造で形成されているため、フィルターが破損した場合には粒状多孔質体が飛散して目や肺に入る危険性を有している。また、トリプレット構造では、フィルターの硬度を向上できない。
【0010】
一方、セルロースの抄紙構造主体とするフィルターとして、特許第357622号公報(特許文献6)には、粉粒状又は非捲縮繊維状セルロースエステルと、カナダ標準ろ水度が100〜800mlの木材パルプとを、前者/後者=15/85〜80/20(重量%)の割合で含むシート状たばこ煙用フィルター素材が開示されている。
【0011】
しかし、このフィルターでは、本体が木材パルプ(セルロース)で構成されているため、フェノール除去率が充分でなく、フィルター硬度も低い。また、木材パルプに対して粒状セルロースエステルの含有量を増加させると、フィルターの硬度を向上できるが、圧力損失も大きくなるため、粒状セルロースエステルの増量には限界がある。さらに、フィルターから粒状セルロースエステルが脱離し易い。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のタバコフィルターは、セルロースエステルトウと特定の粒度を有する酢酸セルロース粒子とで構成されており、前記セルロースエステルトウ中に前記酢酸セルロース粒子が分散した構造(ダルメシアン構造)を有している。
【0023】
[セルロースエステルトウ]
セルロースエステルトウは、セルロースエステル繊維で形成され、かつトウ構造又はフィルターロッド構造を有する繊維束であり、詳しくは、セルロースエステルで構成されたモノフィラメントが集束した構造(実質的に無限長の連続長さを持ったマルチフィラメント構造)を有する繊維束である。具体的には、セルロースエステルトウは、例えば、3,000〜1,000,000本、好ましくは3,000〜100,000本、さらに好ましくは5,000〜100,000本程度の単繊維(モノフィラメント)を束ねる(集束する)ことにより形成されている。
【0024】
セルロースエステルトウの平均繊度(トータルデニール)は、例えば、10000〜50000デニール、好ましくは20000〜48000デニール、さらに好ましくは25000〜45000デニール(特に30000〜43000デニール)程度である。
【0025】
セルロースエステルトウを構成する単繊維(モノフィラメント)の平均繊度は、例えば、1〜10デニール、好ましくは1.2〜8デニール、さらに好ましくは1.5〜5デニール(特に1.8〜3デニール)程度である。単繊維の平均繊維長は、0.1mm〜5cm程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜30mm、好ましくは1〜20mm、さらに好ましくは3〜15mm(特に5〜10mm)程度である。
【0026】
単繊維の断面形状は、特に制限されず、例えば、異形(例えば、Y字状、X字状、I字状、R字状、H字状など)や中空状などのいずれであってもよいが、Y字状、X字状、I字状、R字状、H字状などの多角形の異形繊維断面が好ましい。なお、単繊維は、捲縮繊維が好ましい。
【0027】
セルロースエステル繊維を構成するセルロースエステルは、通常、セルロースアセテートである。但し、本発明の目的を損なわない範囲でセルロースエステルとして炭素数2〜4程度の他の有機酸との混合エステルを少量含有してもよい。このようなセルロースエステルには、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが含まれる。
【0028】
また、セルロースエステル(特にセルロースアセテート)の置換度(平均置換度)は、例えば、1〜3(例えば、1〜2.9)程度の範囲から選択でき、好ましくは1.5〜2.7、さらに好ましくは2.2〜2.6程度であってもよい。
【0029】
[酢酸セルロース粒子]
本発明では、酢酸セルロース粒子の粒度(原料基準)が、JIS Z8801−1 2006に準拠した方法で1.7〜0.10mmである。すなわち、本発明の酢酸セルロース粒子は、全粒子のうち90重量%以上の粒子が目開き1.7mmの篩を通過するが、90重量%以上の粒子が0.10mmの篩を通過しない粒度を有する。さらに、本発明の酢酸セルロース粒子の前記粒度は1.7〜0.18mmが好ましく、1.0〜0.18mmが特に好ましい。粒度がこの範囲にあると、フェノール低減率が高い上に、大きな圧力損失の低下を伴わずに、フィルターの硬度を向上できる。
【0030】
酢酸セルロース粒子の平均粒径は、例えば、0.1〜2mm、好ましくは0.2〜1mm、さらに好ましくは0.3〜0.8mm程度である。
【0031】
酢酸セルロース粒子の形状は、例えば、球状、楕円体状、多角体形(多角錘状、正方体状、直方体状など)、板状又は鱗片状(フレーク状)、棒状、不定形などが挙げられるが、フィルター特性や分散性などの点から、略球状などの等方形状が好ましい。さらに、酢酸セルロース粒子は、多孔質体であってもよい。
【0032】
なお、酢酸セルロース粒子の粒度及び形状は、可塑剤を添加した場合、セルロースエステルトウ中で変形する可能性もあるが、本発明では、セルロースエステルトウに添加する前(原料)の粒度及び形状を基準とする。
【0033】
酢酸セルロース粒子のBET法で測定した比表面積(BET比表面積)は、0.1〜100m
2/g程度の範囲から選択でき、例えば、1〜50m
2/g、好ましくは3〜30m
2/g、さらに好ましくは5〜20m
2/g(特に8〜15m
2/g)程度であってもよい。
【0034】
酢酸セルロース粒子の嵩比重は、例えば、0.1〜0.6g/cm
3、好ましくは0.2〜0.55g/cm
3、さらに好ましくは0.3〜0.5g/cm
3程度であってもよい。
【0035】
酢酸セルロースの酢化度は、例えば、29〜62.5%(例えば、29〜62%)程度の範囲から選択でき、好ましくは40〜59%、さらに好ましくは44〜58%程度であってもよい。
【0036】
酢酸セルロースの重合度(粘度平均重合度)は、通常10〜1000(例えば50〜1000)、好ましくは50〜900(例えば100〜800)、さらに好ましくは200〜800程度であってもよい。
【0037】
酢酸セルロース粒子の割合は、セルロースエステルトウ100重量部に対して10〜1000重量部程度の範囲から選択でき、例えば、20〜500重量部(特に30〜400重量部)程度であってもよい。さらに、本発明では、酢酸セルロース粒子の割合を多くしても、圧力損失の大きな増大を伴わずに、フィルターの硬度を向上できるとともに、フェノール除去率も向上できる。そのため、酢酸セルロース粒子の割合は、セルロースエステルトウ100重量部に対して、例えば、100〜500重量部(特に200〜400重量部)程度であってもよい。
【0038】
[可塑剤]
本発明では、可塑剤は、セルロースエステルトウの成形性を向上させるだけでなく、前記酢酸セルロース粒子を均一に分散させるとともに、可塑化されたトウに酢酸セルロース粒子が付着するためか、酢酸セルロース粒子をセルロースエステルトウに固定化する役割も有している。
【0039】
可塑剤としては、例えば、セルロースエステルのエステル基(例えば、アセチル基)と親和性の高い化合物が好ましく、例えば、ポリオールの脂肪酸エステルやエステルオリゴマーなどを利用できる。可塑剤の具体例としては、例えば、ポリオールの低級脂肪酸(例えば、酢酸などのC
1−4アルカンカルボン酸)エステル(例えば、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチンなどのC
3−6アルカントリオール−モノ乃至トリC
1−4アシレート、好ましくはグリセリンモノ乃至トリC
2−3アシレートなど)、ポリオールオリゴマーの低級脂肪酸エステル(例えば、ジグリセリンテトラアセテートなどのジC
3−6アルカントリオール−モノ乃至テトラC
1−4アシレートなど)などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
これらの可塑剤のうち、セルロースエステルトウの成形性を向上できる上に、酢酸セルロース粒子との親和性にも優れる点から、アセチン類(例えば、ジアセチン、トリアセチンなどのグリセリンジ又はトリアセテート)、特にトリアセチンが好ましい。アセチン類などの可塑剤を用いると、従来の可塑剤の役割(トウの成形性)だけでなく、酢酸セルロース粒子をトウ中に均一に分散できるとともに、可塑剤を介して酢酸セルロース粒子をセルロースエステルトウに固定化できる。
【0041】
可塑剤の割合は、セルロースエステルトウ100重量部に対して、例えば、0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜8重量部(特に5〜7重量部)程度である。
【0042】
[タバコフィルター]
本発明のタバコフィルターは、前記セルロースエステルトウ中に前記酢酸セルロース粒子が分散した構造(ダルメシアン構造)を有している。酢酸セルロース粒子の分散形態は、特に限定されず、例えば、芯部(コア部)に粒子が高濃度で存在する形態であってもよいが、フィルター特性などの点から、トウ中に略均一に粒子が分散する形態が好ましい。
【0043】
本発明のタバコフィルターのBET比表面積は、例えば、0.5〜10m
2/g、好ましくは1〜10m
2/g、さらに好ましくは2〜10m
2/g(特に5〜10m
2/g)程度であってもよい。本発明では、酢酸セルロース粒子を高濃度で含有できるため、フィルターの比表面積も向上でき、フィルター特性に優れている。
【0044】
本発明のタバコフィルターは、酢酸セルロース粒子を含むため、フィルター硬度も高く、300gの荷重を掛けたときの厚み保持率が88%以上であり、例えば、90%以上(例えば、90〜99.5%)、好ましくは91〜99%、さらに好ましくは92〜98%(特に93〜97%)程度である。本発明では、セルロースエステルトウ100重量部に対して100重量部以上(特に200重量部以上)の酢酸セルロース粒子を含有させることにより、フィルター硬度は93〜97%(特に94〜96%)程度にも調整できる。
【0045】
本発明のタバコフィルターは、前述のような高いフィルター硬度を有するとともに、圧力損失も小さく、長さ100mm及び直径8mmのフィルターロッドにおける空気流速17.5ml/秒での通気抵抗(圧力損失)が1500mmWG(ウォーターゲージ)以下である。前記通気抵抗は1000mmWGであってもよく、例えば、420〜1000mmWG、好ましくは420〜900mmWG、さらに好ましくは420〜800mmWG(特に420〜600mmWG)程度である。本発明では、酢酸セルロース粒子を多量に配合して硬度を向上させた場合でも、通気抵抗の極端な増大が抑えられ、適度な圧力損失のフィルターを調製できる。
【0046】
本発明のタバコフィルターは、フェノールの除去効率にも優れており、Health Canadaの試験方法T−114に準拠したフェノール低減率が5%以上を示す。前記フェノール低減率は10%以上(例えば、10〜80%)であってもよく、例えば、20%以上(例えば、20〜70%)、好ましくは30%以上(例えば、30〜60%)、さらに好ましくは40%以上(例えば、40〜55%)程度である。本発明では、このような高いフェノール低減率を有するとともに、フィルターが浮遊微粒子を透過し易いトウ構造を有しているため、ニコチンやタールなどの喫味成分の透過性に優れ、タバコ本来の嗜好性を損なわない。
【0047】
タバコフィルターは、慣用の添加剤、例えば、香料(メントールなど)などの有機系物質を含んでいてもよい。また、フィルターの色目を改良する目的で、無機粒子(カオリン、タルク、ゼオライト、ケイソウ土、シリカゲル、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、ジルコニアなど)を含有してもよく、特に酸化チタンが好ましい。さらに、セルロースアセテートは紡糸での作業性の点から油剤を含んでいてもよい。
【0048】
本発明のタバコフィルターは、有害成分の除去率をさらに向上させるため、慣用の吸着剤、キトサン又はその塩や香料などを含有してもよいが、特定粒度の酢酸セルロース粒子を含み、フェノール類などの有害成分を効率的に除去できるため、キトサン又はその塩などの吸着物質を実質的に含んでいなくてもよい。
【0049】
本発明のタバコは、このような特性を有するタバコフィルターを備えている。タバコフィルターの配設部位は特に制限されないが、巻紙により、棒状に成形されたタバコにおいては、口元の部位、又は口元と紙巻きタバコとの間に配設する場合が多い。なお、タバコの断面外周は、前記フィルターの断面外周に対応している場合が多く、通常、15〜30mm、好ましくは17〜27mm程度であってもよい。
【0050】
[タバコフィルターの製造方法]
本発明のタバコフィルターは、慣用の紡糸方法(乾式、溶融又は湿式紡糸方法)により得られたセルロースエステルトウに、酢酸セルロース粒子(及び必要に応じてアセチン類などの可塑剤)を混合することにより得ることができる。例えば、タバコフィルターの既存の製造装置を用いて、セルロースエステルトウベール(集積梱包材)を開繊し、可塑剤の添加装置で可塑剤を添加し、さらに活性炭の添加装置(チャコール添加機構)を利用して酢酸セルロース粒子を添加した後、所定の直径に集束し、巻紙で固定させるプラグ巻上げ機を用いてフィルタープラグ(集束体)とする方法により成形できる。
【0051】
本発明では、多量の酢酸セルロース粒子を配合する場合(例えば、セルロースエステル100重量部に対して150重量部以上)、酢酸セルロース粒子を均一に分散させてトウ中に保持させるために、予備開繊したセルロースエステルトウに酢酸セルロース粒子を添加した後、前記セルロースエステルトウを空気流でさらに開繊してもよい。この方法では、チャコールフィルターにおける従来の方法(すなわち、開繊したセルロースエステルトウに粒子を添加する方法)に比べて、多量の酢酸セルロース粒子を添加できるとともに、セルロースエステルトウと酢酸セルロース粒子とが接触した状態で、空気流によってトウを開繊しながら、前記粒子を攪拌してトウ中に充填(ジェット充填)させるため、例えば、セルロースエステル100重量部に対して200重量部以上(例えば、200〜500重量部程度)の酢酸セルロース粒子であっても、セルローストウ中に酢酸セルロース粒子を均一に分散できる。
【0052】
このような方法を実施するための製造装置としては、例えば、予備開繊したトウを空気流で開繊可能な装置(例えば、特開2008−255529号公報に記載の製造装置)を改良した装置などが利用できる。詳しくは、特開2008−255529号公報の
図1に記載の製造装置において、空気流を導入する前の予備開繊されたトウに酢酸セルロース粒子を添加可能な添加部を備えた装置を利用できる。このような添加部を備えた製造装置の一例を
図1に示す。
【0053】
図1に示すように、この装置では、予備開繊ユニット1において、セルロースエステルトウベールから取り出された捲縮トウを、2対の予備開繊ローラ11,12間に連続的に供給することにより予備開繊される。すなわち、上流側のローラ11に比べて下流側のローラ12のロール径を大きくすることにより予備開繊できる。予備開繊の詳細は、特開2008−255529号公報に記載の方法を利用できる。
【0054】
次に、開繊ユニット2において、予備開繊されたセルロースエステルトウ10に酢酸セルロース粒子を添加した後、空気流でトウ10をさらに開繊させる。詳しくは、トウ10を開繊ユニット2の略円筒形状の添加部20に連続的に供給しながら、予備開繊されたトウ10に対して、添加部本体21に形成されたホッパ23から粒子導入孔22を介して酢酸セルロース粒子を添加する。この方法では、粒子導入孔22を介して酢酸セルロース粒子を添加することにより、添加部20を通過する間に予備開繊されたトウ10と酢酸セルロース粒子とが十分に接触し、酢酸セルロース粒子をトウ10の予備開繊物に対して保持させることが容易であるため、トウ重量よりも多量の酢酸セルロース粒子を保持させることもできる。
【0055】
添加部本体21には、導入孔23の下流側にさらに脱気孔24が形成されている。この脱気孔24は、後述する開繊部30において空気を逃がすための脱気孔であり、周知のベントホール(例えば、周知の樹脂成形用の押出機などに設置されているベントホールなど)と同じ形状であってもよい。
【0056】
さらに、開繊部30において、酢酸セルロース粒子と接触させたトウ10を空気流でさらに開繊する。詳しくは、添加部20において、酢酸セルロース粒子と接触した繊維トウ10は、中空円筒状管体(ノズル本体)31内の添加部側に配設された筒状流路形成部32内を通過して、中空円筒状管体31内の第1開繊ゾーンZ
1に供給される。前記筒状流路形成部32は、空気流を制御する役割を有しており、軸部33と矢尻部34とを備えるとともに、中空円筒状管体の内壁面も筒状流路形成部32の形状に対応して矢尻部34に相当する内壁面が下流方向に向かって内径が減少している。すなわち、中空円筒状管体31の側壁において軸部33に相当する部分に形成された気体供給孔36から、トウ10を開繊するための空気流が中空円筒状管体31内に導入されるが、前記軸部33及び矢尻部34の外周面と中空円筒状管体31の内周面31aとの間に均等間隔に形成された間隙を通じてトウ10の流れ方向に沿った空気流がトウ10と均一に衝突する。そのため、気体供給口36から供給された空気流は、開繊ユニットの軸方向に沿って次工程の整形・膨張ユニット3(開繊部30の開口部31b)に向かう流れを形成し、その状態で筒状流路形成部32から第1開繊ゾーンZ
1に供給されたトウ10と接触し、トウ10は空気圧により、厚み方向に拡大されて開繊される。トウの安定した供給と生産性の点から、軸部及び矢尻部の外周面と中空円筒状管体の内周面との間隙は0.3〜1.0mm程度であってもよく、空気流の圧力は、例えば、0.1〜0.3MPa(特に0.1〜0.2MPa)程度である。
【0057】
また、気体供給孔36から導入される空気流によって筒状流路形成部32の上流部(流路内の上流部)と下流部(第1開繊ゾーンZ
1)とで生じる圧力差は、前述の脱気孔24から空気が逃がされることにより消滅し、常圧が保持される。そのため、下流部が高圧となり、酢酸セルロース粒子が飛散することが抑制され、酢酸セルロース粒子の添加量を増加できる。
【0058】
空気流により開繊されたトウ10は、中空円筒状管体31内の第1開繊ゾーンZ
1を通過した後、さらに第2開繊ゾーンZ
2に供給される。この装置では、第1開繊ゾーンZ
1の内径d
1が軸方向で同一であるのに対して、第2開繊ゾーンZ
2の内径は下流方向に向かって拡大している。
【0059】
本発明では、筒状流路形成部32の内径d
3は5〜30mm(特に5〜25mm)程度である。この内径d
3に対する第1開繊ゾーンZ
1の内径d
1の比率(d
1/d
3)は、1〜5倍程度であってもよい。さらに、内径d
1に対する前記第2開繊ゾーンZ
2の末端出口での内径d
2の比率(d
2/d
1)は1.5〜2倍程度であってもよい。
【0060】
なお、開繊部30の基本的な形状及び機構については、特開2008−255529号公報に記載の開繊部と同様の形状及び機構を利用できる。
【0061】
最後に、膨張・整形ユニット3において、第2開繊ゾーンZ
2を通過したセルロースエステルトウ10を膨張させながら整形する。膨張・整形ユニット3は、略中空円筒形状に形成されたリザーバ40と、軸芯方向に延びる棒状の芯材41とで構成されており、アダプター50を介して開繊部30の開口部31bに接続されている。なお、リザーバ40は、軸芯方向に延びる複数の長尺状の板バネで構成されており、隣接する板バネ間に間隙が形成されており(図示せず)、前記間隙から空気が抜ける構造を形成している。膨張・整形ユニット3の内径d
4は、実質的に中空円筒状管体31の外径よりも大きくなるように設定されており、中空円筒状管体31の外径の1倍以上(例えば、1〜1.4倍程度)である。膨張・整形ユニット3の長さ(リザーバ40の長さ)は、例えば150〜350mm程度であってもよい。
【0062】
このような構造を有する膨張・整形ユニット3では、一時的にトウ10の開繊物が膨張して滞留する間、芯材41により重力方向に垂れ下がらないように保持されるともとに、リザーバ40により膨張が抑制されてロッド形状に整形された後、連続的に押し出されることにより得られる長尺状のトウ開繊物(トウ開繊物の膨張体)をトランペット状の収束管に導入し、常法に従って、巻取紙を用いて巻上げてフィルターロッドが得られる。このような工程において、ユニット内でのトウが滞留することにより、酢酸セルロース粒子が飛散することなく、トウ10の開繊物内に保持される。
【0063】
なお、リザーバについても、特開2008−255529号公報に記載のリザーバなどを利用できるが、トウの開繊物の過度の膨張を抑制しながら外形を整えることができればよく、その形状や材質は特に限定されないが、形状は板状、棒状などが適しており、材質は金属、合成樹脂など(特に金属)が適しており、例えば、金属製の棒状リザーバ、合成樹脂製の板状リザーバなどであってもよい。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、シガレットサンプルは以下の方法で作製し、各特性(粒度、通気抵抗、フェノール低減量、フィルター硬度)は以下の方法で測定した。
【0065】
[シガレットサンプルの作製]
市販のタバコ[日本たばこ産業(株)製「ピース・ライト・ボックス」(登録商標第2122839号)]のセルロースジアセテート捲縮繊維トウのフィルタ本体(25mm)の末端から20mmの部分をカミソリで切断した。切断した長片、すなわちタバコ葉充填片のフィルタ部に、長さ20mm、内径8mmのガラス管を残フィルター長に相当する長さ(5mm)だけ挿入し、これらをシーリングテープにて結束した。このガラス管によって生じた15mmの空間に、実施例及び比較例で作製した長さ20mmのフィルターサンプルを挿入し、このガラス管とフィルタの接続部分にもシーリングテープを巻いて密閉し、それぞれシガレットサンプルを得た。フィルターサンプルの代わりに、前記タバコから切り取った20mmのフィルター断片を用いる以外は、同様にして、レファレンスシガレットを作製した。
【0066】
[粒度]
JIS Z 8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が通過する目開きを粒度の上限とし、90重量%以上の粒子が通過しない目開きを粒度の下限として表示した。
【0067】
[通気抵抗]
実施例及び比較例で得られた長さ100mmのフィルターロッドとシガレットサンプルについて、通気抵抗として、自動通気抵抗測定器(イギリス・セルリーン(CERULEAN)社製「QTM−6」)を用いて、空気流速17.5ml/秒の条件で圧力損失(mmWG)を測定した。なお、シガレットサンプルについては、この装置の自動システムにかからないので、1個づつ手動で測定した。
【0068】
[フェノール低減率]
Health Canadaの試験方法T−114「Determination of Phenolic Compounds in Mainstream Tobacco Smoke」にしたがって、実施例及び比較例で作製したシガレットサンプルとレファレンスシガレットとを喫煙した時に主流煙中に含まれるフェノールの量を測定した。すなわち、各5本のシガレットを喫煙機で喫煙した時の主流煙中に含まれる粒子状物質をケンブリッジフィルターで捕集し、捕集したフィルターに含まれるフェノールを1%の酢酸水溶液で抽出し、この抽出液に含まれるフェノールを逆相グラジエント液体クロマトグラフィーで分離、波長選択蛍光分析法で検出し、高純度のフェノール(純度99%以上)を用いて作製した検量線で定量した。さらに、レファレンスシガレットで捕集されたフェノール量をT
pとし、比較例及び実施例で作成したシガレットサンプルで捕集されたフェノール量をC
pとして次式によりフェノール低減率を算出した。
【0069】
フェノール低減率(%)=100×(1−C
p/T
p)
[フィルター硬度(厚み保持率)]
実施例及び比較例で作製した長さ100mmのフィルターロッドについて、硬度計(フィルトローナ社製「QTM7」)を用いて、フィルター硬度を測定した。詳しくは、フィルター硬度(%)は、フィルターロッド側面に垂直に300gの荷重を掛けたときに、荷重によって変形後の荷重方向の直径をd、変形前の直径をd
0として、次式で算出した。すなわち、全く変形しなければ硬度は100%となり、硬度が100%に近いほど硬いことを意味する。
【0070】
フィルター硬度(%)=d/d
0×100
実施例1
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製「L−40」、酢化度55.6%)を篩分けで分級し、粒度「1.0〜0.425mm」の酢酸セルロース粒子Aを得た。酢酸セルロース粒子Aの嵩比重は0.40、BET比表面積は10.8m
2/gであった。たばこ煙用チャコールフィルター製造用巻上げ機(ドイツ・ハウニ社製「KDF2/AC1/AF1」)を用いて、断面Y字状のフィラメント(2.2デニール)で構成されたセルロースアセテート繊維のトウ(トータルデニール40000)を幅約20cmに開繊し、トウ100重量部に対し6重量部のトリアセチンを均一に散布した後、チャコール添加機構を利用してトウ100重量部に対して50重量部の酢酸セルロース粒子Aを均一に散布し、巻取紙を用いて巻上げた後、カッターで切断し、長さ100mmのフィルターロッドを得た。得られたフィルターロッドをさらに長さ20mmに切断し、フィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は3.2m
2/gであった。
【0071】
実施例2
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製「LT−55」、酢化度60.8%)を篩分けで分級し、粒度「1.0〜0.425mm」の酢酸セルロース粒子Bを得た。酢酸セルロース粒子Bの嵩比重は0.53、BET比表面積は3.1m
2/gであった。この酢酸セルロース粒子Bをトウ100重量部に対して70重量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は1.4m
2/gであった。
【0072】
実施例3
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製「LM−80」、酢化度52.0%)を篩分けで分級し、粒度「1.0〜0.425mm」の酢酸セルロース粒子Cを得た。酢酸セルロース粒子Cの嵩比重は0.29、BET比表面積は2.5m
2/gであった。この酢酸セルロース粒子Cをトウ100重量部に対して60重量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は0.9m
2/gであった。
【0073】
実施例4
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製「LL−10」、酢化度44.3%)を篩分けで分級し、粒度「1.0〜0.425mm」の酢酸セルロース粒子Dを得た。酢酸セルロース粒子Dの嵩比重は0.46、BET比表面積は4.0m
2/gであった。この酢酸セルロース粒子Dをトウ100重量部に対して100重量部用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は2.1m
2/gであった。
【0074】
実施例5
たばこ煙用チャコールフィルター製造用巻上げ機(KDF2/AC1/AF1)を改良して作製した
図1の装置を用いて、断面Y字状のフィラメント(2.2デニール)で構成されたセルロースアセテート繊維のトウ(トータルデニール36000)を幅約20cmに開繊し、トウ100重量部に対し6重量部のトリアセチンを均一に散布した後、添加部を利用してトウ100重量部に対して200重量部の酢酸セルロース粒子Aを均一に添加した後に空気流で開繊(ジェット充填)し、トランペット状の収束管に導入し、常法に従って、巻取紙を用いて巻上げた後、カッターで切断し、長さ100mmのフィルターロッドを得た。得られたフィルターロッドをさらに長さ20mmに切断し、フィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は6.8m
2/gであった。
【0075】
実施例6
酢酸セルロース粒子Aをトータルデニール32000のトウ100重量部に対して300重量部用いる以外は、実施例5と同様にしてジェット充填法でフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は8.1m
2/gであった。
【0076】
実施例7
酢酸セルロース(LL−10)を篩分けで分級し、粒度「0.425〜0.18mm」の酢酸セルロース粒子DFを得た。酢酸セルロース粒子DFの嵩比重は0.51、BET比表面積は5.2m
2/gであった。この酢酸セルロース粒子DFをトウ100重量部に対して100重量部用いる以外は、実施例1と同様にして慣用の方法でフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は2.6m
2/gであった。
【0077】
実施例8
酢酸セルロース(L−40)を篩分けで分級し、粒度「0.425〜0.18mm」の酢酸セルロース粒子AFを得た。酢酸セルロース粒子AFの嵩比重は0.44、BET比表面積は12.1m
2/gであった。酢酸セルロースAの代わりに酢酸セルロースAFを用いる以外は、実施例5と同様にしてジェット充填法でフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は8.1m
2/gであった。
【0078】
実施例9
酢酸セルロースAの代わりに酢酸セルロースAFを用いる以外は、実施例6と同様にしてジェット充填法でフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は9.2m
2/gであった。
【0079】
比較例1
酢酸セルロース粒子Aを添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は測定下限未満(0.1m
2/g未満)であった。
【0080】
比較例2
酢酸セルロース(L−40)を篩分けで分級し、目開き0.10mmを通過した粒度の酢酸セルロース粒子AFFを得た。酢酸セルロース粒子AFFの嵩比重は0.55、BET比表面積は15.2m
2/gであった。酢酸セルロースAの代わりに酢酸セルロースAFFを用いる以外は、実施例6と同様にしてジェット充填法でフィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルのBET比表面積は11.2m
2/gであった。
【0081】
実施例及び比較例で得られたフィルターの評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1の結果から明らかなように、実施例のフィルターは、適度な通気抵抗を保持しつつ、高い硬度を有しており、フェノール低減率も高い。一方、酢酸セルロース粒子を配合しない比較例1では、フェノール低減率が低く、粒度の小さい酢酸セルロース粒子を含む比較例2では、圧力損失が大きい。