特許第5766943号(P5766943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766943
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20150730BHJP
   B24B 37/26 20120101ALI20150730BHJP
   B24B 37/11 20120101ALI20150730BHJP
【FI】
   B24B37/00 L
   B24B37/00 T
   B24B37/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-275880(P2010-275880)
(22)【出願日】2010年12月10日
(65)【公開番号】特開2012-121115(P2012-121115A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2013年12月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)社団法人 砥粒加工学会、「2010年度 砥粒加工学会学術講演会講演論文集」、平成22年8月26日発行 (2)社団法人 日本機械学会、「第8回生産加工・工作機械部門講演会論文集」、平成22年11月19日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願、平成21年度、独立行政法人新エネルギ−・産業技術総合開発機構希少金属代替材料開発プロジェクト(対象鉱種追加分)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】000164508
【氏名又は名称】九重電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】谷 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 信幸
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/123463(WO,A1)
【文献】 特開2000−343413(JP,A)
【文献】 特開2000−218551(JP,A)
【文献】 特開2004−266218(JP,A)
【文献】 特開2008−254124(JP,A)
【文献】 特開2006−297847(JP,A)
【文献】 特開2011−098426(JP,A)
【文献】 特開2006−187827(JP,A)
【文献】 特開平11−285961(JP,A)
【文献】 特開2007−268688(JP,A)
【文献】 特開2001−054859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00− 37/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物との間に研磨材を含有するスラリーを供給しながら前記工作物を相対的に移動させて工作物を研磨する研磨パッドであって、基材がA硬度60〜100(18〜65D硬度)の気泡径が0.01〜3mm(10〜3000μm)で気孔率が〜70%であるエポキシ発泡樹脂の単層で形成されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記基材に直径0.5〜500μmの砥粒が1〜30%配合されていることを特徴とする請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記基材の研磨面全域に格子状の溝が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物との間に研磨材を含有するスラリーを供給しながら前記工作物を相対的に移動させて工作物を高精度に研磨する研磨パッドであり、現在使用されている研磨パッドよりも格段に優れた研磨能率を向上させることができる研磨パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスプレイ用の液晶硝子、板硝子、光学用のレンズプリズム、更には、半導体のウエハーのような工作物の表面および端面はきわめて高度な平滑度および平坦度が求められることから高精度の研磨仕上げが要求されるとともに 高い研磨能率による研磨時間の短縮化も要求される。
【0003】
そこで、例えば粒径が0.5〜2.0μm程度の研磨材を含有するスラリーを工作物との間に供給しながら前記工作物とを相対的に移動させて工作物を研磨する研磨パッドによる研磨方法が知られている。
【0004】
そして、研磨パッドに含有される研磨材の粒径を同じ範囲の径とすることにより、研磨スラリーによる研磨と研磨パッドによる研磨レートの差をなくし、加工面の平坦度を向上させる手段が特開2007−250166号公報に提示されている。
【0005】
しかしながら、前述の如く高度な平滑度および平坦度が求められる工作部の表面を研磨するには前述の如く粒径が0.5〜2.0μm程度の研磨スラリ−を流して、発泡ウレタン樹脂又は二層の一方が発泡ウレタン樹脂のスエ−ド等の研磨パッドを用いての研磨方法が主流であるが、この様に何れも用いられている研磨パッドの基材に大きな違いがない事から、研磨パッドの特性により多少の研磨能率の差は出るものの研磨能率自体には大差がなく、発泡ウレタン樹脂により形成される基材を用いていることからそれ以上大きく研磨能率を向上させることには限界がある。
【0006】
また、例えば特開2005−177945号公報に提示されているように、研磨パッドの研磨領域表面に一定の溝を形成して研磨スラリーの流れを良くする事により研磨能率を向上させる研磨パッドが提示されている。
【0007】
ところが、前記溝を有する研磨パッドは溝の形状が工作物に転写してうねりを生じさせる、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−250166号公報
【特許文献2】特開2005−177945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来のウレタン研磨パッドが有している問題点を解決するためになされたものであり、きわめて高度な平滑度および平坦度が求められる高精度の研磨仕上げを行うことはいうまでもなく、従来の研磨パッドよりも格段に優れた研磨能率を向上させることを可能にする研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、作物との間に研磨材を含有するスラリーを供給しながら前記工作物を相対的に移動させて工作物を研磨する研磨パッドであって、基材がA硬度60〜100(18〜65D硬度)の気泡径が0.01〜3mm(10〜3000μm)で気孔率が〜70%であるエポキシ発泡樹脂の単層で形成されていることを特徴とする。硬度を60〜100°の範囲としたのは、硬度が60°以下では形状精度が悪化し、硬度が100°以上では摩耗が多くなるためである。
【0011】
また、本発明において、用いられる研磨パッド基材はスラリー添加時の動的 摩擦係数が大きいエポキシ樹脂基材を用いることによりスラリ−の保持力を高め研磨能率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の研磨パッドは、現在市販されている研磨パッドとしては優れているといわれているウレタン研磨パッドに比較してスラリー添加時の動的摩擦係数が大きく砥粒の保持力が高くなる為に、工作物と砥粒の相対速度が高まる事で研磨能率が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の好ましい実施の形態を示す斜視図。
図2】本発明の実施例である研磨パッドの外観を示す写真。
図3】本発明の実施例である研磨パッドの表面についての光学顕微鏡写真。
図4】本発明の実施例についての発泡剤・発泡助剤添加量とパッド硬度との関係図。
図5】本発明の実施例と市販のウレタン樹脂を基材とする研磨パッドについての動的摩擦係数を示す関係図。
図6】本発明の実施例と市販ウレタン樹脂を基材とする研磨パッドの滞留性の関係図。
図7】本発明の実施例における発泡剤・発泡助剤添加量と研磨能率との関係図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は回転式の研磨台に取り付けられる本発明である研磨パッドの好ましい実施の形態を示すものであり、研磨パッド1は発泡させたエポキシ樹脂によって形成された薄形円柱形の基材2により形成され、少なくとも表面に直径が0.01〜3mmの気孔3が形成さ
れている。
【0016】
本実施の形態は、基材として熱硬化性エポキシ樹脂と、発泡剤との混合物に、硬化剤を加え金型内で発泡させて硬化させた後、離型し、室温で二次乾燥し、その後、所定厚にスライスして薄いシ−ト状の製品にする。
【実施例】
【0017】
一例を更に詳しく説明すると、120℃で予熱して粘度を低下させたエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、JER834)70.0gに対して、硬化剤(ジャパ
ンエポキシレジン、JERキュアFL052)を38.5g添加した。また研磨パッドに
気孔を形成する為に、発泡剤(永和化成 セルラ−D)及び発泡助剤(永和化成製、セルベ−スト M3)を添加した。発泡剤及び発泡助剤は同量添加し、添加量は2.5〜4.
1gの範囲で変化させた。これらの材料を混合した後、攪拌を行い金型に注型した。その後、加熱を行い樹脂での硬化と発泡を行った。加熱温度(116℃)以上の120℃で45分間保持した。図2に製作した研磨パッド(外径210mm)の外観図を示す。又図3にパッド表面の光学顕微鏡像を示す。発泡剤を添加する事により研磨パッド表面に多数の
気孔が形成されていることがわかる。図4に発泡剤及び発泡助剤の添加量と製作した研磨パッドの硬度(JIS−A)の関係を示した。
【0018】
次に砥粒の保持力に関する指標として研磨パッドの動的摩擦係数をトライボ試験機により評価を行った。評価は乾式状態及びスラリー添加時において行った。図5に市販ウレタン樹脂研磨パッドと本発明エポキシ樹脂研磨パッドの動的摩擦係数測定結果を示す。乾式状態においてはウレタン樹脂研磨パッドに比較してエポキシ樹脂研磨パッドは半分程度の低い摩擦係数を示した。しかし、酸化セリウムを3wt%純水に分散させたスラリーを添加して測定を行ったところ、ウレタン樹脂研磨パッドの場合は少し摩擦係数が増加した程度であったのに対して、エポキシ樹脂研磨パッドの場合は大きく増加して0.6を超える高い摩擦係数を示した。
【0019】
次にスラリーの滞留性に関して確認を行うため、酸化セリウムを3wt%純水に分散させたスラリーを60μL滴下した研磨パッドを傾斜させてスラリーの流動の様子を観察し
た。傾斜角25度ではスラリーは流れ落ちず、研磨パッド上にとどまっていたが、ウレタン樹脂研磨パッドの場合は液滴が下に大きくせり出した状態となった。傾斜角を30度にしたところ、ウレタン樹脂研磨パッド上の液滴は滑落してしまったが、エポキシ樹脂研磨パッド上の液滴は傾斜角を55度にしても全く落ちずスラリーの滞留性が非常に高い事が確認された。図6にウレタン樹脂研磨パッド及びエポキシ樹脂研磨パッドと滞留性の関係を示した。
【0020】
次に、前記得られた研磨パッドと酸化セリウム砥粒を用いてガラスの研磨実験を行った。表1に研磨実験条件を示す。製作した研磨パッドは表面に凹凸が存在するために、研磨機上において切削(フェイシング)を行った。
【0021】
【表1】
【0022】
工作物にはソ−ダガラスを用い、研磨圧力は20KPa,研磨パッド及び工作物の回転速度は60rpmとした。また砥粒には平均粒径が1.2μmの酸化セリウム(昭和電工製SHOROX A−10)を用い、純水中に分散させた。比較の為に市販されている酸化セリウム
配合発泡ウレタン研磨パッド(九重電気製KAP66A)を用い、同様な条件で研磨実験を
行った。
【0023】
研磨加工後表面粗さは白色式干渉顕微鏡(ZygoNewView5032)により評価し、研磨能率は研磨前後の工作物の質量差により評価した。図7に研磨パッド作製時における発泡剤及び発泡助剤の添加量と研磨能率及び加工後工作物表面粗さの関係を示す。
【0024】
発泡剤及び発泡助剤の添加量が3.9gまでは添加量の増加に伴い、研磨能率が向上し
ている。4.0g以上添加した研磨パッドは気孔率が大きい為、パッドが脆く研磨能率が
低下した。添加量が3.9gであり市販パッドと同程度の硬度78を有する研磨パッドが
最大の研磨能率を示しており、市販のウレタン研磨パッドと比較して約2倍の研磨能率が得られた。また加工後工作物の表面粗さは市販ウレタン研磨パッドと比較しても遜色なく、粗さを維持しながら高い研磨能率を有することが確認できた。
【0025】
これは本発明である基材にエポキシ樹脂を用いた研磨パッドが市販の基材にウレタン樹脂を用いた研磨パッドよりもスラリー添加時の動的摩擦係数が大きく砥粒の保持力が高くなり、工作物と砥粒の相対速度が高まる事で研磨能率が高くなり、研磨能率を高める効果があると得られた結果である。
【0026】
これらのことから、従来有効といわれていたウレタン樹脂を基材に用いた研磨パッド(スエ−ド含む)及び溝を形成したウレタン樹脂を基材に用いた研磨パッドに比べて本発明のエポキシ樹脂の基材を用いた研磨パッドが研磨能率の向上に関して有効であることが確認される。
【符号の説明】
【0027】
1 研磨パッド全体、2 熱硬化性エポキシ樹脂基材、3 気泡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7