特許第5767042号(P5767042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767042
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】金属または合金の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   B22D11/06 360C
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-149548(P2011-149548)
(22)【出願日】2011年6月16日
(65)【公開番号】特開2013-798(P2013-798A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年5月2日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、希少金属代替材料開発プロジェクト委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000176660
【氏名又は名称】株式会社三徳
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】鬼村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】入江 年雄
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−342734(JP,A)
【文献】 特開2004−154835(JP,A)
【文献】 特許第4224453(JP,B2)
【文献】 国際公開第2004/078381(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または合金原料を溶解し、原料溶融物とする溶解炉と、該原料溶融物を第一の冷却ロールに供給するためのタンディッシュと、該タンディッシュから供給される原料溶融物の冷却・凝固を行い、中間凝固物を得るための第一の冷却ロールと、該中間凝固物を冷却・凝固および/または圧延し、金属または合金を得るための第二の冷却ロールを備えた金属または合金の製造装置であって第一の冷却ロールと第二の冷却ロールは互いに隣接し、第二の冷却ロールは、第一の冷却ロールに対して回転軸が略平行となるように、回転軸方向に対して上下方向及び左右方向に可動式に配置された金属または合金の製造装置。
【請求項2】
第一の冷却ロールと第二の冷却ロールの間隔が0(0を含まない)〜3mmに調整可能であることを特徴とする請求項1記載の金属または合金の製造装置。
【請求項3】
第一の冷却ロール上のタンディッシュより原料溶融物が供給される位置から、第一の冷却ロールの回転方向に対し、第一の冷却ロール上で0(0を含まない)〜180°の位置に第二の冷却ロールが隣接するように配置可能であることを特徴とする請求項1または2記載の金属または合金の製造装置。
【請求項4】
タンディッシュが第一の冷却ロールの頂上もしくは回転方向に対し回転軸の後方かつ、回転軸の上方で第一の冷却ロールに隣接するように配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属または合金の製造装置。
【請求項5】
第二の冷却ロールは第一の冷却ロールの回転方向に対し回転軸の前方かつ、回転軸の上方に配置されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属または合金の製造装置。
【請求項6】
得られた金属または合金を破砕するための破砕機または破砕板を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属または合金の製造装置。
【請求項7】
得られた金属または合金を所望する温度に昇温または保持する加熱・保持手段を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属または合金の製造装置。
【請求項8】
得られた金属または合金を所望する温度に冷却する冷却手段を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属または合金の製造装置。
【請求項9】
第一の冷却ロールと第二の冷却ロール間の耐荷重が100t以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属または合金の製造装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属または合金の製造装置に関し、特に、ロール法により均一な結晶組織、微細な結晶組織または特定方向に配向した結晶組織を有する金属または合金を製造する際に適用可能な製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、広く一般的に知られている金属または合金の製造方法には、鋳造法として金型法、ロール法、ディスク法、ガスアトマイズ法等が、塑性加工法として押出法、圧延法、鍛造法等があり、それぞれの特徴を生かして様々な応用分野で利用されている。
例えば、Nd−Fe−B系磁石用合金は、単ロール法により鋳造条件を最適化することで、所望の配向、大きさを有するデンドライトを成長させた結晶組織としている。(特許文献1)また、単ロール法では、ロール面側の結晶組織とフリー面側の結晶組織に大きな差が出るとの理由から双ロール法により行うことが提案されている。(特許文献2)さらに、結晶を一方向に揃えることを目的に単ロール法で急冷固化したリボンにロール圧延を行うことが提案されている。(特許文献3)
金属または合金の結晶組織は、同じ金属または同じ組成の合金であっても鋳造の条件により大きく異なる。鋳造の条件としては、例えば、ロール法による場合、溶湯の温度、注湯量、注湯方法、ロールの材質、回転速度等が挙げられる。したがって、所望する結晶組織を有する金属または合金を得ようとする場合、これらのパラメーターを制御して最適な条件を見出すことが必要であり、工業的に量産しようとする場合には最適な条件で安定して操業可能な設備設計が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2639609号公報
【特許文献2】特開2002−363604号公報
【特許文献3】特開平10−189320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2の装置および製造方法によると冷却ロールの上方より溶湯をノズルより噴出させるため、注湯量、圧力が一定せず、ロール面で溶湯の流れが乱れるため、冷却条件が一定しない。さらに2つの冷却ロールの位置が固定されているため、適宜、冷却ロールの位置を選択することができず、最適な条件を見出すことが困難である。特許文献3の装置および方法によると同様に冷却ロールの上方より溶湯をノズルより噴出させるため、注湯量、圧力が一定せず、ロール面で溶湯の流れが乱れるため、冷却条件が一定しない。また、冷却ロールと別に圧延ロールを必要とすることから設備、保守に関わるコストが大きくなり、さらには圧延時の圧延物の温度を制御することが困難であった。
したがって、特許文献2および3の装置および方法により微細な結晶や特定方向に配向した結晶を含有する金属または合金を一定の品質で製造することは著しく困難であった。
【0005】
本発明の課題は、所望する組織を有する金属または合金、特に微細な結晶や特定方向に配向した結晶組織を有する金属または合金を製造するに適した製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、金属または合金原料を溶解し、原料溶融物とする溶解炉と、該原料溶融物を第一の冷却ロールに供給するためのタンディッシュと、該タンディッシュから供給される原料溶融物の冷却・凝固を行い、中間凝固物を得るための第一の冷却ロールと、該中間凝固物を冷却・凝固および/または圧延し、金属または合金を得るための第二の冷却ロールを備えた金属または合金の製造装置であって第一の冷却ロールと第二の冷却ロールは互いに隣接し、第二の冷却ロールは、第一の冷却ロールに対して回転軸が略平行となるように、回転軸方向に対して上下方向及び左右方向に可動式に配置された金属または合金の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属または合金の製造装置は、第二の冷却ロールが可動式であるため、第一の冷却ロールに対し隣接した任意の位置に、任意の間隔で配置することが可能であるので、第二の冷却ロールの位置を適宜変更することにより、所望する結晶組織、具体的には微細な結晶や特定方向に配向した結晶組織を有する金属または合金を容易に、安定して製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】日本国特許第3201944号の図1記載の合金製造装置の概略図である。
図2】本発明の装置に用いられる冷却ロールシステムの概略図である。
図3】実験例1のNd−Fe−B系磁石用合金の断面組織の顕微鏡観察像の写しである。
図4】実験例2のNd−Fe−B系磁石用合金の断面組織の顕微鏡観察像の写しである。
図5】実験例3のNd−Fe−B系磁石用合金の断面組織の顕微鏡観察像の写しである。
【符号の説明】
【0009】
10:製造システム
11:第1のチャンバー
12:第2のチャンバー
11a,12a;シャッター
13:溶解炉
14:タンディッシュ
15:回転ロール
16:粉砕板
17a:薄帯状の合金
17b:粉砕された合金
18a,18b,18:収納容器
19:ふた
20:冷却ロールシステム
21:第一の冷却ロール
22:第二の冷却ロール
23:台座
24:第一のロール架台
25:第一の軸受け
26:第二のロール架台
27:第二の軸受け
28:架台固定具
29:フレーム
30:第一のガイド
31:第二のガイド
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の製造装置は、溶解炉、タンディッシュ、第一の冷却ロール及び第二の冷却ロールを少なくとも備えるものである。
前記溶解炉としては、原料を溶融するための抵抗加熱もしくは高周波加熱等の加熱手段を有し、坩堝等を用いた通常の加熱容器に、例えば、所定軸において前記加熱容器が傾倒し、内部の原料溶融物を流出させることができる傾倒手段を有する溶解炉が使用できる。前記溶解炉は、原料溶融物を一定流量で流出させうることが好ましい。
前記タンディッシュは、溶解炉から供給される原料溶融物を整流し、一定の流速、流量で第一の冷却ロール上へ供給する機能を有する。このタンディッシュとしては、溶解炉から供給される原料溶融物が流通し、第一の冷却ロールに供給されるまでの間に原料溶融物の流れを第一の冷却ロールの幅方向に広げる底面部と、この底面部の両側からの原料溶融物の流出を防止する側面部とを備えた形状のタンディッシュの他、底部に1つもしくは複数の流通口を有し、かつ上部が開放された形状の容器であって、溶解炉から供給される原料溶融物を一旦貯留した後、底部の流通口より流通するタンディッシュ等が挙げられる。タンディッシュは、第二の冷却ロールと同様に第一の冷却ロールに対し、任意の位置に配置できる。タンディッシュを配置する位置を変更することで、第一の冷却ロールへの原料溶融物の供給条件および第一の冷却ロールにおける冷却・凝固の条件を制御することが可能である。
【0011】
第一の冷却ロールは、溶解炉から供給される原料溶融物の冷却・凝固を行い、中間凝固物を得る機能を有する。該中間凝固物は最終的に得ようとする結晶組織に応じて、全体が固化した状態もしくは一部が固化した状態とする。第一の冷却ロールとしては、熱伝導率の大きい銅もしくは銅合金等や第一の冷却ロールと第二の冷却ロールとの間で大きな荷重がかかる場合は、鉄合金、炭素鋼、ダイス鋼、ハイスピード鋼、W−C、Mo等が使用できる。また、耐摩耗性の向上、または結晶核の生成の制御等を目的として、第一の冷却ロールの表面を異種材料で被覆することができる。また、安定して冷却能を発揮させるため、第一の冷却ロールの内部には水等の冷却媒体を流通させる構造を有することができる。また、第一の冷却ロールは、回転軸を中心として同心円状である。
【0012】
第二の冷却ロールでは、第一の冷却ロールにより得られた中間凝固物を冷却・凝固および/または圧延して所望の結晶組織を有する金属または合金を得る機能を有する。中間凝固物の全体が固化した状態(もしくは粒界のみが液相の状態)であれば、第二の冷却ロールと第一の冷却ロールとの間で圧延を行うことで微細な結晶組織や特定方向に配向した結晶組織を有する金属または合金が得られる。また、中間凝固物の一部が固化した状態であれば、第二の冷却ロールにより未凝固部分の冷却・凝固を行い、さらに必要により同時に圧延を行うことで微細な結晶や特定方向に配向した結晶組織を有する金属または合金が得られる。この場合、条件によっては、第一の冷却ロール上において発生した結晶核を第二の冷却ロールで分散することも可能で、この場合、等軸晶が均一に分散した組織を得ることができる。第二の冷却ロールとしては、前記第一の冷却ロールと同様なものを用いることができる。
【0013】
第一の冷却ロールと第二の冷却ロールは互いに隣接し、第二の冷却ロールは、第一の冷却ロールに対して回転軸が略平行となるように、回転軸方向に対して上下方向及び左右方向に可動式に配置することができる。好ましくは、第一の冷却ロールと第二の冷却ロール間の間隔が0(0を含まない)〜3mmとなるように配置することができる。前述の通り、金属または合金を所望の結晶組織とするには、多数のパラメーターの制御が必要であるが、本発明の装置においては、第二の冷却ロールが可動式であるため、原料溶融物の供給条件を一定にすれば第二の冷却ロールの位置および第一の冷却ロールと第二の冷却ロール間の間隔を適宜設定することにより、比較的容易に最適な鋳造条件の設定を行うことができる。例えば、第一の冷却ロール上の各位置での中間凝固物の温度と厚みを解析しておけば、適切な固化状態、温度での冷却・凝固(結晶核の分散含む)および/または圧延を行うことができる。
【0014】
好ましくは、本発明の装置は、第一の冷却ロール上でタンディッシュより原料溶融物が供給される位置から、第一の冷却ロールの回転方向に対して、第一の冷却ロール上の0(0を含まない)〜180°の位置に第二の冷却ロールが隣接するように配置することができる。さらに好ましくは0(0を含まない)〜90°であり、最も好ましくは0(0を含まない)〜45°である。0〜180°で行うことにより、第一の冷却ロール上で生成される中間凝固物の温度が過剰に低下することなく、次いで行う第二の冷却ロールでの冷却・凝固および/または圧延を制御して行うことができる。
【0015】
好ましくは、本発明の装置は、タンディッシュを第一の冷却ロールの頂上もしくは回転方向に対し回転軸の後方かつ、回転軸の上方で第一の冷却ロールに隣接するように配置することができる。タンディッシュをこの位置に配置することで安定して原料溶融物をロールに供給することが出来るため、均一な組織が得やすい。
【0016】
好ましくは、本発明の装置は、第二の冷却ロールを第一の冷却ロールの回転方向に対し回転軸の前方かつ、回転軸の上方に配置することができる。
【0017】
好ましくは、本発明の装置は、第一の冷却ロールと第二の冷却ロール間の耐荷重が100t以上であることが好ましい。与える歪みの大きさによって、以下に説明するように様々な結晶組織が得られるため、耐荷重は大きいほど、得られる結晶組織の制御範囲が拡がり、好ましい。
【0018】
金属または合金が粉末冶金用途等最終的に粉末形状で用いられる場合、好ましくは、本発明の装置は、得られた金属または合金を破砕するための破砕機または破砕板を備えることができる。該破砕機または破砕板は、金属または合金を1cm角程度の薄片に破砕できるものであれば特に限定されず、第二の冷却ロールを経て排出される排出速度を利用する破砕板やフェザーミル等が挙げられる。このように破砕を行うことで、金属または合金の嵩を減らすことができるため、ハンドリングが容易に行える他、後の粉砕工程を簡略化することができる。
【0019】
好ましくは、本発明の装置は、得られた金属または合金を所望する温度に昇温または保持する加熱・保持手段を備えることができる。金属または合金を所望する温度に昇温または保持することで、粒成長させて結晶粒を所望する大きさに制御したり、結晶粒、粒界の組成のばらつきを均一化することができる。加熱・保持手段は、金属または合金が室温まで冷却される前に行えるものであれば特に限定されず、例えば第二の冷却ロールを経て、もしくは破砕機または破砕板から供給される金属または合金を加熱機構有するポット内に収納して行う形態やトンネル炉、ロータリーキルン炉等を用い、連続的に移送しながら行う形態等が挙げられる。加熱方式は抵抗加熱式、誘導加熱式等が挙げられる。
【0020】
好ましくは、本発明の装置は、得られた金属または合金を所望する温度に冷却する冷却手段を備えることができる。例えば第二の冷却ロールを経て、もしくは破砕機または破砕板、あるいは加熱・保持手段から供給される金属または合金を常温まで冷却しうる冷却装置であれば特に限定されない。生産効率を考慮すると、水、冷却ガス等の冷媒を利用して比較的短時間、通常1時間以内、好ましくは30分間以内で常温まで冷却しうる冷却装置が好ましい。
前記冷却手段は、例えば、回転可能な管であり、管壁内部又は管壁外側に、冷媒が流通する冷却機構を備えた管状冷却器等が挙げられる。該管状冷却器の内壁には、管の一端から他端に対して複数のフィンを設け、金属または合金が混合され、一様に容器内壁に接するようにすることが好ましい。
前記冷却手段は、上述の冷却器に限定されるものではなく、例えば、冷却ガス(不活性ガス)を直接金属または合金に供給して冷却する装置、強制冷却手段を備えていない自然冷却しうる装置であっても良い。
【0021】
本発明の装置は、金属または合金の活性が高く、大気中で溶解、鋳造を行うと容易に酸化してしまうような場合は、前述の溶解炉、タンディッシュ、第一の冷却ロール、第二の冷却ロール、破砕機または破砕板、加熱・保持手段、冷却手段が真空雰囲気または不活性ガス雰囲気下に保持しうるものとすることができる。例えば、これら全ての構成要素が1つの不活性ガス雰囲気に保持しうるチャンバー内に設けられていても良いし、金属または合金が大気にさらされないように別個に気密に連結したものであっても良い。内部を減圧しうる公知の減圧装置を設けることが好ましい。
本発明の装置の外へ金属または合金を搬出する出口に、更に他のチャンバーを設けることもできる。該他のチャンバーには、前記出口を連通・遮断しうる連通・遮断手段と、チャンバー内部を不活性ガス雰囲気及び減圧下に保持しうる装置を設けることができる。前記他のチャンバーを設けることにより、本発明の装置内に大気を導入することなく、得られた金属または合金を装置外へ搬出することができる。
【0022】
本発明の装置を用いて、例えば以下のように希土類金属含有合金の製造を行うことができる。
まず、溶解炉にて希土類金属含有合金原料を溶融する。希土類金属含有合金原料は、用途に応じて公知の組成に基づいて適宜選択することができる。合金原料は、各種金属の混合物であっても、また母合金であっても良い。溶融条件は公知の条件に基づいて合金組成等に応じて適宜選択することができる。
次いで、溶解炉から出湯する原料溶融物は、タンディッシュを介して第一の冷却ロールに連続的に供給され、第一の冷却ロール上で冷却・凝固することにより中間凝固物を得る。例えば、原料溶融物を薄帯状又は薄片状に固化することによって中間凝固物を得ることができる。
第一の冷却ロールによる冷却・凝固の条件は、目的の希土類金属含有合金に応じて公知の条件等を勘案して適宜選択できる。通常、冷却速度100〜10000℃/秒程度で実施できる。
【0023】
次いで中間凝固物は、第二の冷却ロールにより冷却・凝固または圧延される。中間凝固物の一部が固化した状態であれば、第二の冷却ロールの位置を適宜選択することにより、第一の冷却ロール上で生成した結晶核から成長したデンドライトと第二の冷却ロール上で生成した結晶核から成長したデンドライトが合金中心部に等軸晶をほとんど生成することなく接合する結晶組織を有する合金や第一の冷却ロール上で生成した結晶核が第二の冷却ロールにより均一に分散し、合金全体が微細な等軸晶からなる結晶組織を有する合金等が得られる。
圧延の条件は、目的の希土類含有合金に応じて公知の条件等を勘案して適宜選択できる。中間凝固物の全体が固化した状態(もしくは粒界のみが液相の状態)であれば、第二の冷却ロールにより第一の冷却ロールとの間で圧延を行うことで微細な結晶組織や特定方向に配向した結晶組織を有する合金が得られる。この場合、第一の冷却ロール上での中間凝固物の厚みに対し、適宜、第二の冷却ロールの位置と第一の冷却ロールと第二の冷却ロール間の間隔を適宜選択することで、圧延時の中間凝固物の温度、圧下率が決まり、所望の結晶組織有する合金を得ることができる。
【0024】
破砕は、例えば破砕板を用いて、冷却ロールから剥離してくる合金が、該剥離時の勢いで衝突することにより破砕しうる合金衝突面を有する板状物等を所望箇所に設置することにより行うことができる。または、フェザーミルを用いてもよい。
破砕して得られる合金の表面温度は、通常、700℃以上、好ましくは900℃以上程度である。
【0025】
次いで、合金を連続的に移動させながら、温度調節することにより、合金の熱履歴を制御して合金の結晶組織を所望の状態にすることができる。このような合金の熱履歴の制御は、破砕して得られる合金の表面温度が、通常600℃以下、好ましくは900℃以下に降温する前に行うことが望ましい。合金の表面温度が300℃以下に降温した後に制御を行う場合、該制御に要するエネルギーのロスが大きくなる。結晶組織の制御は、結晶粒径、結晶の相比、結晶の析出形状等について行うことができる。その温度や時間は、合金組成、合金の厚さ、目的の結晶組織等によって大きく異なる。400〜1050℃の温度範囲で1秒間〜1時間程度、好ましくは2秒間〜30分間程度、更に好ましくは5秒間〜20分間の短時間で行うことができる。
【0026】
次いで、合金を冷却する。該冷却は、合金を200℃以下、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは室温程度まで冷却することにより行うことができる。このような冷却は、冷媒を用いた強制冷却の他に、自然冷却であっても良い。
希土類金属含有合金の製造は、すべての工程を不活性ガス雰囲気中で行う。前記方法によると常温程度まで冷却された合金を、酸化の原因となる大気中に一度も暴露せずに得ることができる。
【0027】
例えば、希土類金属含有合金として、希土類−ボロン−鉄系磁石用合金を本願発明の装置により製造した場合、様々な特性を発揮する結晶組織有する合金が得られる。
前記第一の冷却ロール上で生成した結晶核から成長したデンドライトと第二の冷却ロール上で生成した結晶核から成長したデンドライトが合金中心部に等軸晶をほとんど生成することなく、両デンドライトが接合する結晶組織有するNd−Fe−B系磁石用合金の場合、従来の合金と比較して、厚み、デンドライト間隔、元素分布の均一化した結晶組織有する合金が得られ、このような合金を用いてNd−Fe−B系磁石を作製すると焼結時に異常粒成長が生じることなく磁石が得られるため、保磁力が向上する。したがって、Dy、Tb等の重希土類元素の使用量を大幅に削減できる。
前記合金全体が微細な等軸晶からなる結晶組織有するNd−Fe−B系磁石用合金を用いてNd−Fe−B系磁石を作製すると微細な結晶粒からなる磁石が得られるため、保磁力が向上する。したがって、Dy、Tb等の重希土類元素の使用量を大幅に削減できる。 前記圧延を行うことにより微細な結晶組織有するNd−Fe−B系磁石用合金を用いてNd−Fe−B系磁石を作製すると微細な結晶粒からなる磁石が得られるため、保磁力が向上する。したがって、Dy、Tb等の重希土類元素の使用量を大幅に削減できる。
【0028】
以下に図面を参照して本発明の装置の例を具体的に説明するが、本発明の装置はこれに限定されない。
【0029】
図1は、日本国特許第3201944号の図1であって、冷却ロール15を図2の冷却ロールシステム20に置換えたものが、本発明の金属または合金の製造装置の一例である。以下、図1図2の概略図を使用して本発明の装置を説明する。回転ロール15を冷却ロールシステム20に置換えた場合も、冷却ロールシステム20は他の構成部材と緩衝することなく、配置される。
【0030】
製造システム10は、不活性ガス雰囲気下及び減圧下にすることができる気密性の第1のチャンバー11と、第2のチャンバー12とから基本的に構成される。第1のチャンバー11は、金属または合金の原料を溶融する溶解炉13と、溶解炉13から出湯する金属または合金の原料溶融物17を薄帯状に冷却する冷却ロールシステム20と、溶解炉13からの金属または合金の原料溶融物17を第一の冷却ロール21に誘導するタンディッシュ14と、金属または合金の原料溶融物17を冷却・凝固して中間凝固物(図示せず)を得るための第一の冷却ロール21と、該中間凝固物を冷却・凝固および/または圧延し薄帯状の金属または合金17aを得るための第二の冷却ロール22と、第一の冷却ロール21および第二の冷却ロール22から剥離してくる薄帯状の金属または合金17aを、衝突することのみにより粉砕させる粉砕板16と、粉砕された金属または合金17bを収納する密閉可能な収納容器(18a,18b)とを備える。この第1のチャンバー11は、第2のチャンバー12と連通する箇所に、気密性を保持できる開閉自在なシャッター11aを備える。
【0031】
溶解炉13は、金属または合金の原料を溶融したのち、軸13aを中心に矢印A方向に傾倒して、金属または合金の原料溶融物17を略一定量づつタンディッシュ14へ流通させうる構造となっている。
【0032】
タンディッシュ14は、金属または合金の原料溶融物17が側面から流出するのを防止する側面部を省略した断面図で示しており、溶解炉13から流出してくる金属または合金の原料溶融物17を整流させて第一の冷却ロール21に略均一量で供給するための堰き板14aを備えている。
【0033】
第一の冷却ロール21および第二の冷却ロール22は、外周面が銅等の金属または合金の原料溶融物17を冷却しえる材料で形成され、一定角速度等で回転可能な駆動装置(図示せず)を備えている。第一の冷却ロール21は、台座23に設置された第一のロール架台24に第一の軸受け25により設置されている。また、第二の冷却ロール22は、第二のロール架台26に第二の軸受け27により設置されている。第二のロール架台26は、架台固定具28により台座23に設置されたフレーム29に設置されている。フレーム29は、第二のロール架台26を上下に移動するための駆動装置(図示せず)を備え、第二のロール架台26は第一のガイド30に沿って、上下方向に移動する。第二のロール架台26は、第二の冷却ロール22を左右に移動するための駆動装置(図示せず)を備え、第二の冷却ロール22は第二のガイド31に沿って、左右方向に移動する。したがって、第二の冷却ロール22は、第一の冷却ロール21に対し、互いに隣接し、回転軸が略平行となるように、かつロール間の間隔が0(0を含まない)〜3mmとなるように配置可能である。図2は、冷却ロールシステム20の側面図であり、反対側面にも第一の冷却ロール21、第二の冷却ロール22を支持もしくは移動を可能にするための同様な架台、フレーム等が省略して記載されている。
【0034】
粉砕板16は、第一の冷却ロール21および第二の冷却ロール22から剥離してくる金属または合金17aが連続的に衝突しうる位置に設置された金属製の板状物である。この粉砕板16の下方には、気密性の高い金属製の収納容器18aを、矢印方向に移動可能に配置しており、粉砕された金属または合金17bが収納容器18a内に満たされたのをセンサー(図示せず)が感知することにより、シャッター11aが開放し、収納容器18aが第2のチャンバー12内へ、また収納容器18bが合金粉砕板16の下方に位置するようにそれぞれの収納容器を移動させるベルトコンベアー装置(図示せず)を設置している。
【0035】
一方、第2のチャンバーは、粉砕された金属または合金17bで満たされた収納容器18aに気密性のふた19を随時することができる装置(図示せず)を備え、密閉された収納容器18aを製造システム10外へ出すための開閉自在な気密性のシャッター12aを備える。このふた19をすることができる装置は、第1のチャンバー11内に設けることもできる。
【0036】
この製造システム10には、収納容器(18a,18b)に加えて更に別の収納容器を順次第1のチャンバー11内に供給するための第3のチャンバー(図示せず)を第1のチャンバー11に連通するよう隣接して設置することもできる。この第3のチャンバーは、例えば第2のチャンバー12と同様に、不活性ガス雰囲気下とすることができ、第1のチャンバー11と連通する箇所には、前記気密性を保持できる開閉自在なシャッター11aと同様なシャッター(図示せず)を設置することができる。このシャッターにより、第1のチャンバー内を不活性ガス雰囲気下に保持しながら製造システム10外から順次収納容器を供給することができる。
【0037】
製造システム10には、収納容器18内に収納した、粉砕された金属または合金17bを冷却するための冷却装置を設けることができる。例えば、収納容器18に冷却装置を備える場合、収納容器18の壁が中空構造のものを用い、該中空構造内に冷媒を流通しえるように冷媒搬入口と冷媒搬出口を備えている。冷却装置は、収納容器18の壁の中空構造内に水や冷却ガス等の冷媒を供給する管と、該中空構造部分から排出される冷媒を冷却装置に返送する管とを備え、粉砕された金属または合金17bが収納容器18に収納された後、収納容器の各口へ所定時間冷媒を流通によって冷却させることができる。
【実験例】
【0038】
実験例1
前述の本発明の装置を用いて、Nd−Fe−B系磁石用合金を製造した。
ネオジム33.00質量%、硼素1.00質量%、アルミニウム0.05質量%、残部鉄で、合計重量が60kgとなるようにそれぞれの原料を秤量し、溶解炉13で溶解した後、1550℃で出湯し、第一の冷却ロール21上にタンディッシュ14を介して供給し連続的に凝固させた。タンディッシュ14は第一の冷却ロール21の頂上から第一の冷却ロール21の回転方向に対して後方45°に配置した。第一の冷却ロール21はロール径が300mmで、周速度1.57m/秒とした。予備実験として、第2の冷却ロール22を第一の冷却ロールに隣接させず(使用せず)に鋳造を行ったところ得られる合金(本発明の中間凝固物に相当)の厚みは0.8mmであった。次いで、第二の冷却ロール22を、第一の冷却ロール21の頂上に隣接するように配置し、第一の冷却ロール21と第二の冷却ロール22の間隔は0.8mmとした。両ロール間にかかった最大荷重は1.1tであった。得られた合金の断面を光学顕微鏡により観察した。顕微鏡観察像を図3に示す。
【0039】
実験例2
実験例1において、タンディッシュ14を第一の冷却ロール21の頂上から第一の冷却ロール21の回転方向に対して後方10°に配置し、第一の冷却ロール21と第二の冷却ロール22の間隔を0.2mmとした以外は実験例1と同様にして行った。両ロール間にかかった最大荷重は2.3tであった。中間凝固物の厚みは0.5mmであった。得られた合金の断面を光学顕微鏡により観察した。顕微鏡観察像を図4に示す。
【0040】
実験例3
実験例1において、第一の冷却ロール21と第二の冷却ロール22の間隔を0.2mmとし、両ロール間にかかった最大荷重は4.9tであった以外は実験例1と同様にして行った。中間凝固物の厚みは0.5mmであった。得られた合金の断面を光学顕微鏡により観察した。顕微鏡観察像を図5に示す。
【0041】
実験例1の合金は、両側から厚み方向にきれいにデンドライトが成長しており、中心部には等軸晶がほとんど発生しておらず、デンドライトが接合する結晶組織を有していた。
実験例2の合金は、粒径が0.01〜2μm程度の結晶粒を有する結晶組織を有していた。
実験例3の合金は、粒径が0.01〜5μm程度の結晶粒を有する結晶組織を有していた。
図1
図2
図3
図4
図5