【実施例】
【0030】
試料の作製: 本発明の実施例または比較例として作成した試料1〜試料11について説明する。なお、各試料の説明において重複部分の説明は省略する。試料1〜試料11の組成を表1に示す。
【0031】
[試料1]
高分子マトリクスとして、末端にアリル基を有するポリイソブチレン(数平均分子量=5000):67重量部に、可塑剤として炭酸ジアルキル(C
14H
29OCOOC
14H
29、40℃における動粘度17.6mm
2/s、引火点210℃):33重量部と、熱伝導性充填材として平均粒径10μmの水酸化アルミニウム:240重量部と、平均粒径1μmの水酸化アルミニウム:10重量部、さらに平均繊維長100μmのピッチ系炭素繊維:55重量部と、硬化剤(CR300、株式会社カネカ製):2.5重量部と、白金触媒(PT−CS−3.2cS、Ferro社(米国)製):0.2重量部と、難燃剤として赤燐(ノーバレット120UF、燐化学工業株式会社製):10重量部と、を配合し振動攪拌器により混合して液状混合組成物を調製した。熱伝導性充填材にはチタネート系カップリング剤で表面処理済みのものを用いた。また、熱伝導性充填材やその他の添加剤は、高分子マトリクスと可塑剤の合計量に対して一定の添加量とした。
【0032】
この液状混合組成物を真空脱泡後、シート形状のキャビティを有する金型に注入し、磁束密度が8テスラの磁場を印加して、前記炭素繊維を厚み方向に配向させた。その後130℃雰囲気で1時間加熱することにより前記液状混合組成物を硬化させてシート状の熱伝導性成形体を得た。
【0033】
[試料2、試料3]
試料1に対し炭酸ジアルキルの添加量を変えた試料とした。
【0034】
[試料4〜試料
9]
可塑剤として、前記炭酸ジアルキルに加え、引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとしてパラフィンオイル(PW−90、出光興産株式会社製、40℃における動粘度90mm2/s、引火点272℃)を混合した試料とした。
【0035】
[試料
10、試料11]
可塑剤として、非シリコーン系オイルのみを用いた試料とした。
【0036】
【表1】
【0037】
試料の評価:
上記試料1〜試料11として作製したそれぞれの熱伝導性成形体、およびその作製過程で得られたそれぞれの液状混合組成物に対して各種の試験を行い評価した。その評価方法を以下に説明するが、評価結果は表1に示す。
【0038】
[液状混合組成物の粘度]
液状混合組成物の粘度を、回転粘度計(ブルックフィールド社製、商品名:DV−E型、スピンドルNo.14)を用い、25℃雰囲気下で、10rpmの回転数で測定した。
【0039】
[オイルブリード]
熱伝導性成形体でのオイルブリードの程度を評価した。
熱伝導性成形体を100℃の恒温槽内に24時間置き、その後熱伝導性成形体の表面を目視により観察した。表中の“ブリード”欄において、“あり”は試験片がオイルブリードを起こしたことを示し、“なし”は試験片がオイルブリードを起こさなかったことを示す。
【0040】
[難燃性]
熱伝導性成形体の難燃性について、米国アンダー・ライターズ・ラボラトリーズ・インク(Under Writers Laboratories Inc)によって制定された燃焼試験(UL94)によって評価した。
各試料の試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ1mm又は0.5mm)を、試験片の長手方向が鉛直方向となるように固定用クランプに保持した状態で、バーナー(口径:10mm、長さ:約10cm)の炎に10秒間接炎した後、炎から離して各試験片の燃焼時間を記録した。さらに、二度目の接炎後における火種の保持時間(グローイング時間)と、試験片の下方に配置されている脱脂綿を発火させる滴下物の有無とを記録した。以上の操作を各試験片について、5回1組として行った。そして、表2に示す判定基準に基づいて、「V−0」(表2では「94V−0」)又は「V−1」(表2では「94V−1」)についての合否を判定した。なお、この難燃性の判定基準は、「V−0」の方が「V−1」よりも難燃性が高いことを示し、「V−1」の判定基準が不合格であった試験片については、難燃性がないと判定し、表中の“難燃性”欄において“×”と記載した。
【0041】
【表2】
【0042】
[熱抵抗]
熱伝導性成形体の熱抵抗を測定した。
図7で示すように、基板(24)上の発熱体(25)及び放熱体(26)(ヒートシンク(株式会社アルファ製FH60−30)と、その上部に取り付けられたファン(風量:0.01kg/sec、風圧:49Pa))で試料1〜試料11の試験片(27)(10mm×10mmの寸法にカットしたもの)を挟持し、放熱体(26)上に重り(28)を載置して一定荷重(40N)を試験片(27)に加えた。そして、発熱体(25)が発熱した状態で10分間放置した後、試験片(27)における発熱体(25)側の外面の温度T1と放熱体(26)側の外面の温度T2とを測定機(29)により測定した。そして、下記式(1)により試験片(27)の熱抵抗値を算出した。発熱体(25)は通常、CPUに代表される電子部品であるが、シートの性能評価の簡素化および迅速化のため、本試験では発熱体(25)として発熱量が25Wであるヒータを用いた。
熱抵抗値(℃/W)=(T1(℃)−T2(℃))/発熱量(W)・・・式(1)
【0043】
各試験の評価結果の分析:
[液状混合組成物の粘度]
図2には、液状混合組成物の粘度について、横軸に“可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合”をとり、縦軸に“可塑剤配合量”をとってプロットしたグラフを示す。
非シリコーン系オイルと炭酸ジアルキルとからなる可塑剤中の炭酸ジアルキルの重量比率が多くなるほど、可塑剤の合計量が少なくても液状混合組成物の粘度を低粘度にすることができることがわかる。これらの粘度の値とともに、実際の作業性から粘度の評価をした。具体的には、液状混合組成物を調製した後の脱泡性が良く、ブレードコーターを用いてシートを作製した時に、シートの厚みが設定した厚みどおりに作製できたものを、表1の「粘度の評価」において“○”とした。また、特に粘度が比較的低いことから、シート成形時にシーティング速度を速くしても所望の厚みの熱伝導性成形体を作製できたものを“◎”とした。一方、脱泡性が悪く極めて脱泡に時間がかかるもの、あるいはブレードコーターでシートを作製するときに、液状混合組成物の流動性が劣ることに起因してシートの厚みを所望の厚みに調製することが困難であったものを“×”とした。
【0044】
次に、液状混合組成物の粘度を詳細に分析するために試料1〜試料11の可塑剤の配合量と粘度の関係を
図1に示した。
【0045】
図1において、「DAC」は炭酸ジアルキルを意味し、その後の数字は炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルとでなる可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合を示す。例えば「DAC1.0」は、炭酸ジアルキルの割合が1.0(炭酸ジアルキルが100%で非シリコーン系オイルを含まない)であることを、「DAC0.5」は炭酸ジアルキルの割合が0.5(炭酸ジアルキルが50%で残りの50%が非シリコーン系オイル)であることを意味する。
【0046】
測定結果を基に、可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合が一定の場合の可塑剤配合量と粘度の関係を示す近似式、式(2)〜式(5)を見積もった。
y=1.78×10
4x
−0.460 式(2)・炭酸ジアルキルの割合が1.0
y=2.72×10
4x
−0.684 式(3)・炭酸ジアルキルの割合が0.5
y=8.63×10
4x
−0.778 式(4)・炭酸ジアルキルの割合が0.33
y=3.64×10
4x
−0.658 式(5)・炭酸ジアルキルの割合が0
※)ただし、xは液状混合組成物の粘度(mPa・s)を表し、yは高分子マトリクス100重量部に対する可塑剤配合量(重量部)を表す。
但し、炭酸ジアルキルの割合が0.1の試料は1点しかないため、近似式を作成することはできなかった。また、本願において近似式は全て最小二乗法によるものである。
【0047】
得られた近似式に任意の粘度の値を代入することで、その液状混合組成物の粘度が前記値となる可塑剤配合量を見積もることができる。例えば粘度56000mPa・sを代入することで、各炭酸ジアルキルの割合のときに、粘度が56000mPa・sとなる可塑剤配合量を見積もることができた。
【0048】
さらに
図1で求めた各近似式、式(2)〜式(5)から粘度56000mPa・sと粘度42000mPa・sの場合の可塑剤配合量を算出し、横軸に“可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合”、縦軸に“可塑剤配合量(重量部)”としたグラフ中にプロットした。そして、
図2に示す粘度56000mPa・sの等粘度曲線(曲線1)と粘度42000mPa・sの等粘度曲線(曲線2)を作成した。なお、56000mPa・sは試料4の粘度であり、42000mPa・sは試料5の粘度である。
【0049】
そして、この
図2の上に、試料1〜試料11をプロットし、粘度56000mPa・sの等粘度曲線(曲線1)を基準として、この等粘度曲線よりも粘度が低い試料を好ましい粘度の試料とし、この等粘度曲線よりも粘度が高い試料を高粘度の試料と位置づけた
図3を作成した。
図3を見ると、炭酸ジアルキルとパラフィンオイルを混合した試料の粘度は、それぞれを単独に用いた試料どうしを結ぶ直線よりも低粘度となることがわかる。このことから、炭酸ジアルキルとパラフィンオイルの組合せには、粘度を下げる相乗効果があるものと考えられる。
【0050】
[難燃性]
図4では、横軸に“可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合”、縦軸に“可塑剤配合量(重量部)”としたグラフ中に試料1〜試料11にプロットした際、難燃性の試験結果から、難燃性を有する試料を「○」とし、難燃性のない試料を「●」と表記した。
炭酸ジアルキルの重量比率が多くなると、急激に難燃性が悪くなる傾向があることがわかる。
難燃性の評価結果については、試料2、試料4、試料8の評価結果を基に閾値を推定した。すなわち、高分子マトリクス100重量部に対する可塑剤中の炭酸ジアルキルが100重量部である試料2および試料8は難燃性がなく、前記炭酸ジアルキルが97重量部である試料5は難燃性がV−0であった。また、パラフィンオイルの影響についても試料5に対してパラフィンオイルが少ない試料2と、パラフィンオイルが多い試料8とで、難燃性の評価結果に差があることから、本発明の範囲ではパラフィンオイルの配合量は難燃性にほとんど影響を及ぼさないものと考えられる。以上のことから、炭酸ジアルキルが100重量部未満であれば難燃性を有することができるものと考えられる。こうした分析に基づき
図4には、炭酸ジアルキルが100重量部であることを示す曲線3(難燃性限界値曲線)を示す。
【0051】
[オイルブリード]
図5には、各試料のオイルブリードの評価結果を示す。可塑剤の配合量が300重量部と多量である試料8および試料11でオイルブリードが見られ、他の試料はオイルブリードが起こらなかった。本評価結果内では、可塑剤の配合量が同程度の試料において炭酸ジアルキルの重量比率が増すことで、オイルブリードし易くなった試料はなく、少なくとも試料10の257重量部を上限として、それ以下の可塑剤の配合量では、オイルブリードは起こらないものと考えられる。そのためオイルブリード“あり”の試料とオイルブリード“なし”の試料を区切る補助線として、直線4(y=257の直線)(ブリード限界値直線)を示した。
【0052】
上記実験例(試料の作製、評価)は本発明の1例であり、例えば、用いる高分子マトリクスや可塑剤の粘度、難燃剤や熱伝導性充填材の配合量により、液状混合組成物の粘度や最適な可塑剤の配合量は異なってくる。しかし、熱伝導性成形体の熱伝導性を高めようとするときに、配合を調整するにしても、成形性、オイルブリードの抑制、難燃性などの観点から自ずと配合の限界があり、そうした限界的な配合に対して、可塑剤を「炭酸ジアルキルと引火点が250℃以上の非シリコーン系オイルとを混合し、且つ炭酸ジアルキルの配合量を高分子マトリクス100重量部に対して100重量部以下とする」ことで、従来のよりも成形し易い液状混合組成物を調製できること、あるいは、従来の限界よりも、より多くの熱伝導性充填材を配合することで熱伝導性を高めながら、可塑剤のオイルブリードを抑制し、難燃性に優れた熱伝導性組成物を得ることができるということが、これらの実験例から導き出される。
【0053】
このような観点から実験例の評価結果について
図6を用いて検討すると、「粘度56000mPa・sを示す曲線1とブリード限界値直線(直線4)の交点」から「粘度56000mPa・sを示す曲線1と難燃性限界値曲線(曲線3)の交点(ただし交点を含まず)」まで、すなわち炭酸ジアルキルの割合が0.05以上0.85未満であることが、上記効果を得るために適した配合である。こうした範囲について、本実験例の材料を用いたときの可塑剤の配合量を見積もると121〜257重量部となる。
【0054】
前記炭酸ジアルキルの範囲が、0.21〜0.60の範囲であれば、より熱伝導性を高めようとしたときに、成形性、オイルブリードの抑制、難燃性の特性を満たすことができる。
図2について説明すれば、熱伝導性充填材の配合量を多くできる配合とは、液状混合組成物の粘度を低粘度にできる配合であり、ここでは「粘度42000mPa・sを示す曲線2とブリード限界値直線(直線4)の交点」から「粘度42000mPa・sを示す曲線2と難燃性限界値曲線(曲線3)の交点(ただし交点を含まず)」までの範囲、すなわち炭酸ジアルキルの割合を0.21以上0.60未満と規定することができる。こうした範囲について、本実験例の可塑剤の配合量を見積もると、166重量部〜257重量部となる。
【0055】
なお、上記実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない任意の変更形態を含むものである。