特許第5767080号(P5767080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱日立パワーシステムズ株式会社の特許一覧

特許5767080耐熱合金部材及びその製造方法、耐熱合金部材の補修方法
<>
  • 特許5767080-耐熱合金部材及びその製造方法、耐熱合金部材の補修方法 図000003
  • 特許5767080-耐熱合金部材及びその製造方法、耐熱合金部材の補修方法 図000004
  • 特許5767080-耐熱合金部材及びその製造方法、耐熱合金部材の補修方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767080
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】耐熱合金部材及びその製造方法、耐熱合金部材の補修方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 29/00 20060101AFI20150730BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20150730BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   B22D29/00 G
   B23K20/12 310
   B23K20/12 360
   C22F1/10 A
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-239453(P2011-239453)
(22)【出願日】2011年10月31日
(65)【公開番号】特開2013-27920(P2013-27920A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2013年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-136874(P2011-136874)
(32)【優先日】2011年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武彦
(72)【発明者】
【氏名】朴 勝煥
【審査官】 粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−259824(JP,A)
【文献】 特開平11−172392(JP,A)
【文献】 特開2008−246501(JP,A)
【文献】 特開2008−133519(JP,A)
【文献】 特開昭58−061260(JP,A)
【文献】 特開2003−034853(JP,A)
【文献】 特開平06−330161(JP,A)
【文献】 特開2004−176149(JP,A)
【文献】 特開平10−183316(JP,A)
【文献】 PILCHAK A. L. et al.,Friction Stir Processing of Investment-Cast Ti-6Al-4V: Microstructure and Properties,Metallurgical an Materials Transactions A,米国,Springer,2008年 7月,Vol.39A, No.7,pp.1519-1524
【文献】 PILCHAK A. L. et al.,Microstructural Changes Due to Friction Stir Processing of Investment-Cast Ti-6Al-4V ,Metallurgical an Materials Transactions A,米国,Springer,2007年 2月,Vol.38A, No.2,pp.401-408
【文献】 STERLING C. J.,EFFECTS OF FRICTION STIR PROCESSING ON THE MICROSTRUCTURE AND MECHANICAL PROPERTIES OF FUSION WELDED 304L STAINLESS STEEL,A thesis submitted to the faculty of Brigham Young University,米国,2004年 8月,pp.8-10,21-22,URL,http://contentdm.lib.byu.edu/cdm/ref/collection/ETD/id/147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 29/00
B23K 20/12
C22F 1/10
C22F 1/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱合金部材であって、
前記耐熱合金部材は、Ni基合金からなり、粗大組織層と、前記粗大組織層の表面の少なくとも一部に該粗大組織層よりも結晶粒が微細な再結晶組織層を有し、
前記再結晶組織層は、平均粒径で1μm以上100μm以下の結晶粒からなり、かつ該再結晶組織層の厚さが1mm以上5mm以下であることを特徴とする耐熱合金部材。
【請求項2】
前記粗大組織層が、平均粒径で1mm以上の結晶粒からなることを特徴とする請求項1に記載の耐熱合金部材。
【請求項3】
前記再結晶組織層は、前記粗大組織層の表面に摩擦撹拌法により加工ひずみを付与して攪拌層を形成し、該攪拌層に再結晶熱処理を施して再結晶化させることによって形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐熱合金部材。
【請求項4】
前記再結晶組織層は、前記粗大組織層の表面のうちの疲労損傷が予測される箇所に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の耐熱合金部材。
【請求項5】
前記再結晶組織層は、前記粗大組織層の表面のうちの周囲よりも所的に大きな力が作用する箇所に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の耐熱合金部材。
【請求項6】
耐熱合金部材の製造方法であって、
前記耐熱合金部材は、Ni基合金からなり、粗大組織層を有し、
前記粗大組織層の表面の少なくとも一部に摩擦撹拌法により加工ひずみを付与して攪拌層を形成する工程と、
前記攪拌層に再結晶熱処理を施して再結晶化させて前記粗大組織層の表面に該粗大組織層よりも結晶粒が微細な再結晶組織層を形成する工程と、
を含み、
前記再結晶組織層は、平均粒径で1μm以上100μm以下の結晶粒からなり、かつ該再結晶組織層の厚さが1mm以上5mm以下であることを特徴とする耐熱合金部材の製造方法。
【請求項7】
前記粗大組織層が、平均粒径で1mm以上の結晶粒からなることを特徴とする請求項6に記載の耐熱合金部材の製造方法。
【請求項8】
前記攪拌層は、前記粗大組織層の表面のうちの少なくとも疲労損傷が予測される箇所に形成されることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の耐熱合金部材の製造方法。
【請求項9】
耐熱合金部材の補修方法であって、
前記耐熱合金部材は、Ni基合金からなり、粗大組織層を有し、
前記耐熱合金部材表面のうちの少なくとも疲労損傷によってき裂が発生した箇所に、摩擦攪拌法により加工ひずみを付与して攪拌層を形成する工程と、
前記攪拌層に再結晶熱処理を施して再結晶化させて前記粗大組織層よりも結晶粒が微細な再結晶組織層を形成する工程と、
を含み、
前記再結晶組織層は、平均粒径で1μm以上100μm以下の結晶粒からなり、かつ該再結晶組織層の厚さが1mm以上5mm以下であることを特徴とする耐熱合金部材の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱合金を用いた耐熱合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、蒸気タービンのケーシング等の大型の鋳造品を製造すると、大きさによる効果でなかなか冷却が進まず高温で保持される時間が長く、すなわち冷却速度が小さいことにより、特に肉厚部の結晶粒が大きくなる。結晶粒が粗大となることは、組織的にクリープ特性(クリープひずみ速度)が優れる傾向にあるが、逆に疲労特性の低下が懸念される。
【0003】
例えば、蒸気タービンのケーシングには鋳造材を使用しており、かなり大型(10トンクラス)のものになると、厚さも数10mm〜数100mmとなることが考えられる。このように肉厚となる部位では、冷却速度が大きく低下し、結晶粒が粗大となる傾向にある。さらにケーシングについては、上半,下半をつなぐボルト締めがされる部分において、最も肉厚が厚くなるが、同時にボルト穴の淵において、疲労によるき裂が発生しやすい。また蒸気タービンのバルブについても鋳造材を使用しており、かなり大型なもの(数トン以上)となることが多くあり、同様の事象が想定される。
【0004】
また、例えばガスタービンの燃焼器ライナでは、起動停止によって、微細クラックが多数発生することがある。これは、高温と低温を交互に繰り返す熱サイクルによって熱応力が発生し、材料に低サイクル疲労が負荷されるからである。
【0005】
当然のことながら、これらの部位は高温の蒸気や燃焼ガスに曝される部位であり、高温強度が必要になるため、材料としては、耐熱性(高温強度)が要求される。この観点からみると、蒸気タービンのケーシングの例のように結晶粒が大きいことは、高温のクリープ強度の向上、クリープひずみ速度の低下に寄与することができる。しかし、疲労特性については結晶粒が粗大であると低下する。また、ガスタービンのように、起動・停止が多いと、長時間の使用によって、表面に疲労き裂が発生・進展するおそれがある。
【0006】
疲労特性を改善する方法の一つとして、材料の結晶粒を微細にすることが従来から知られている(特許文献1)。特許文献1では、Al鋳造品に対して、疲労特性の改善のため、摩擦撹拌プロセスにより表面改質を行っている。しかし、Al合金では、高温強度に乏しく、火力プラントの高温部に採用されている高温材料のような高いクリープ特性は望めない。
【0007】
また、疲労により部材にクラックが発生してしまった場合に、これまでは溶接補修が行われていたが、溶接補修では溶接割れなどが発生するおそれがあり、補修工程がさらに増えることが懸念される。また、耐熱合金部材が鍛造材の場合は、溶接部においては基材に比べて、熱影響部や溶接金属部で強度が低下する等の恐れがあり、疲労強度は基材よりも低下することが懸念される。
【0008】
結晶粒の微細化は、例えばフェライト鋼では、熱処理によって行うことも可能であるが、オーステナイト鋼やNi基合金では、熱処理による微細化はできない。また、大型品や複雑形状品については、鍛造機のパワーの制約があり、難しい。
【0009】
近年、火力プラントの高温化が求められているが、高温化に伴い、高温部材にオーステナイト鋼やNi基合金が用いられることが提唱されつつある。しかしながら、これらの高温部材では、火力プラントの高温部品のように耐熱性が要求される大型構造部材を製造したり、クラックなどの補修をした場合に、疲労特性の低下が懸念され、大型構造部材の信頼性が低下することが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3229556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、結晶粒の粗大となりがちな大型の耐熱合金部材に対して、クリープ強度を維持しつつ、疲労特性(き裂発生の抑制,進展の抑制)を改善した耐熱合金部材及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、耐熱合金部材の部材表面に発生したクラックの補修による疲労特性の低下を防ぐ耐熱合金部材の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の耐熱合金部材は、部材表面に部材内部よりも結晶粒が微細な再結晶組織層を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、部材表面に部材内部よりも結晶粒の微細な再結晶組織層を有するため、疲労き裂の発生・進展が抑制される。そして、部材内部は、部材表面よりも結晶粒の大きな結晶組織を有するため、組織的にクリープ強度が優れている。したがって、高いクリープ強度を維持しつつ、疲労特性の向上、また信頼性の向上した、耐熱合金部材を提供することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る大型鋳造耐熱合金の一例を示した断面模式図である。
図2】摩擦撹拌プロセスの模式図である。
図3】実施例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、先進超々臨界圧石炭火力発電プラントの蒸気タービンのケーシングにNi基材であるIN625材を使って大型の鋳造材を試作した。断面を観察すると結晶粒径が大きく最大で70mm程度の大きさであった。この近辺より試験片を採取し、低サイクル疲労試験を実施したところ、ばらつきが大きく、蒸気タービン用材料として信頼性が低いことがわかった。
【0017】
材料の疲労き裂は、特に内部に介在物がない限りは、材料表面から導入される。すなわち、材料表面から導入されたき裂は、肉厚全体にわたって結晶粒が粗大であると、早期に材料内部に伝播し、結果として、疲労特性の低下やばらつきの発生が懸念される。実際に、低サイクル疲労試験を同じ条件で数本実施したところ、破断回数で最大1桁程度のばらつきが見られた。ただし、結晶粒が大きいことは、組織的にクリープ強度が高くなり、クリープひずみ速度が遅くなることがわかっており、耐熱材料としてクリープ特性を維持しつつ、疲労特性を向上させることが必要となった。
【0018】
そこで、何らかの方法で、き裂の起点となる材料の表面組織を微細組織とし、疲労き裂の発生を抑制することを検討し、摩擦撹拌プロセス(以下、FSPとする)で試行した。これは、回転するツールを材料に押し当て、材料の表面を回転するツールで撹拌し、塑性流動させ、材料にひずみ(加工ひずみ)を導入する方法である。この方法によって、多量のひずみ(転位)を材料表面に導入した。そのあとに、再結晶をさせるために、1050℃にて2時間の熱処理を実施した。その結果、FSPによって撹拌された層において、数十μmの細かい結晶粒となることを確認した。
【0019】
図1は、本発明に関わる大型鋳造耐熱部材の断面組織の模式図である。大型鋳造耐熱部材3の部材内部は粗大な結晶粒を有する組織を呈しており(粗大組織層2)、組織的にクリープ強度・クリープひずみ速度が優れている。部材表面については、前述のFSPとその後の再結晶熱処理によって、部材内部に対して十分細かな結晶粒を有する再結晶組織を呈している(再結晶組織層1)。
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0021】
本発明の耐熱合金部材は、火力プラントの高温部材に用いられるNi基部材であり、当該部材内部は大きな結晶粒を有する組織で、且つ、部材表面は微細な結晶粒を有する。すなわち、部材表面に部材内部よりも微細な結晶粒の再結晶組織層を有する。
【0022】
部材表面の結晶粒の大きさは、平均粒径で100μm以下であることが好ましく、1μm以上であることが好ましい。部材内部の結晶粒の大きさは部材表面の結晶粒の大きさよりも大きければ特に規定はしないが、粗大な結晶粒であるほど、例えば平均粒径が1mm以上の結晶粒を有するものであれば、本発明によって得られる効果が大きく、疲労特性の改善,信頼性の向上に効果的である。
【0023】
さらに、部材表面の再結晶組織層の厚さは、部材表面から1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0024】
このような組織形態とする製法として、摩擦撹拌法によって、部材表面に加工ひずみを付与し、その後に再結晶熱処理を施す。
【0025】
以下に、本発明に関わる大型鋳造耐熱部材について詳細に説明する。
(材料)
本発明に関わる材料は、火力プラントの高温部材として用いられている材料を使用する。具体的には、鉄(Fe)をベースとした材料(フェライト鋼,オーステナイト鋼など)が使用される。また、近年の石炭火力プラントの高効率化を目指した開発の中で、ニッケル(Ni)をベースとした材料についても適用が可能である。ただし、フェライト鋼においては、熱処理によっても組織の微細化が可能であり、本発明では、そのような処理が難しい、オーステナイト鋼やNi基材料を用いた場合にさらに有効である。
【0026】
適用部材としては、例えば、結晶粒の大きくなりがちな大型の鋳造部材(例えば、蒸気タービンのケーシングやバルブ)や、熱疲労環境の過酷なガスタービンの燃焼器ライナで長時間運転後に微細疲労き裂が発生してしまったものなどについて、効果的に適用可能であるが、特にこれに限ったものではない。
【0027】
オーステナイト鋼やNi基材は、鋳造部品が大型になるほど、鋳造時の冷却速度が遅くなるので、結晶粒が大きくなり、例えば一つの結晶粒の大きさが数十mm程度になることもある。
【0028】
また、ガスタービンの燃焼器ライナなどについては、鍛造材であり鋳造部品よりも結晶粒は小さい。しかし、長時間の実機使用によって熱疲労などにより微細疲労き裂が発生する。き裂の深さが、摩擦撹拌プロセスにおけるツールの深さ未満であれば、本発明による補修が可能である。
【0029】
材料については、前述のように火力プラントで主に用いられている耐熱材料のFeやNiをベース(一方、もしくは両方で50質量%以上含有する)とする材料であるが、その成分としては、限られた材料である必要はなく、前述の大きな結晶粒を有する材料や、疲労などによって表面に微細疲労き裂が発生した材料には適用が可能である。
【0030】
(結晶粒の大きさ)
部材表面の再結晶組織層の結晶粒の大きさは、平均粒径で100μm以下である。これよりも小さな結晶粒径であれば、十分な疲労特性や信頼性の向上が見込める。疲労特性は結晶粒が細かいほど優れるため、下限は特に設けない。
【0031】
また部材の内部については、特に結晶粒の大きさの規定は設けない。ただし、内部の結晶粒径が平均で1mm以下では、表面部のみに対して結晶粒を改めて微細とする効果が小さいため、平均で1mm以上の大きさの結晶粒を有する組織であることが望ましい。特に、内部の結晶粒径が大きいものほど疲労特性の改善には有効である。
【0032】
(再結晶組織層の厚さ)
部材表面の再結晶組織層(微細組織層)の厚さは、1mm以上5mm以下とする。肉厚が10mmよりも厚い部材では、再結晶組織層が1mmより薄いと、その効果が十分でなく、またき裂が発生するとすぐに内部の結晶粒の大きな領域に到達してしまい、き裂が一気に進展してしまう恐れがある。
【0033】
(微細化方法)
以上の組織を達成するために、摩擦撹拌プロセス(FSP)を適用する。図2に施工方法の模式図を示す。まず、図2(a)に示すように、粗大な組織を有する部材の部材表面に回転ツール4を押しあてて、部材表面に沿って回転ツール4を移動させることで部材表面に加工ひずみを導入させ、攪拌層5を形成する。その後、図2(b)に示すように、加工ひずみが導入された部材表面に対して、再結晶温度以上の温度で熱処理8をすることにより攪拌層5に再結晶を起こさせ、結晶粒を微細化させた再結晶組織層6を形成する。再結晶温度は、用いる材料固有の温度であり、それ以上であれば特に温度は規定しない。また再結晶熱処理については、必要な特性が得られる粒度となるように、再結晶の熱処理温度及びその温度での保持時間を調整の上、実施する。
【0034】
また、微細化させる部位について、当該部材全表面にわたって実施する必要はなく、実施に当たっては、特に疲労き裂の発生し易い部位(疲労損傷が予測される箇所、周囲よりも所的に大きな力が作用する箇所)や、微細き裂が発生した部位などのみに実施するのも、効果的である。
【0035】
〔実施例〕
以下、実施例を説明する。
(実施例1)
表1に示す条件で、摩擦撹拌プロセス、および再結晶熱処理を実施し、所定の組織、すなわち、表面のみを微細な組織とし、内部については、粗大な結晶粒のままとなるかを板材(50mmt)に対して、検討した。
【0036】
【表1】
【0037】
材料としては、Ni基では、鋳造材IN625、鍛造材N263、Fe基では、鋳造材SCS16を供試材とした。供試材のIN625の結晶粒径は、最大で70mm程度、平均で40mm程度の結晶粒を有していた。また、SCS16では、平均で10mm程度の結晶粒径を有していた。結晶粒度を表中に示してある。
【0038】
また、N263については、表面に模擬クラック(深さ1.0mm,開口幅0.3mm)を導入した後、長時間時効劣化(900℃×8000h)させ、その後溶体化熱処理をして、表面部のみ研削により酸化物を除去した材料に微細クラック補修を模擬し、クラック部に対して摩擦撹拌プロセスを施工した。結果のように、材料や熱処理条件によって数値は様々であるが、結晶粒が微細となることが確認できた。また、模擬クラック補修については、摩擦撹拌プロセスを施工し、再結晶熱処理を施した後に、表面外観観察及び断面観察を行った結果、クラックは消滅していた。
【0039】
(実施例2)
表1の中で、Ni基(IN625)について、機械的特性を評価するため、クリープ試験及び疲労試験を実施した。なお、それ以外の耐熱材料についても、絶対値は様々となるが、本発明適用による組織の違いによって、Ni基と同様の傾向が見られると予想できる。
【0040】
結果を図3に示す。疲労試験は低サイクル疲労試験(温度700℃、ひずみ一定でN=3で実施)、クリープ試験は750℃,150MPaで評価した。材料は、鋳造材で平均結晶粒の大きさが、30mm程度のものを使用した。それぞれFSP、再結晶熱処理を施した。微細化させた再結晶組織層の深さは、1.0mm,2.0mm,3.0mmとして、比較として施工しないもの(再結晶組織層なし)の試験も実施した。ばらつきについても評価するため、各条件で3本ずつ試験を実施した。本発明を適用していない試験片(“なし”)では、同条件にもかかわらず、破断回数にばらつきがあり、結晶粒が大きいことで信頼性が低下していることがわかる。それに対して、施工しているものは、ばらつきの範囲内であることが確認できる。
【0041】
クリープ特性については、ばらつきの範囲内で、表面の結晶粒の微細化によるクリープ強度の低下は見られない。
図1
図2
図3