(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
本発明の一形態は、MNA処理された皮膚を介して薬物を投与するための経皮的薬物投与デバイスを提供するものである。
【0014】
本発明により提供される経皮的薬物投与デバイスは、投与対象である薬物がハイドロゲル中に含有されてなる薬物含有ハイドロゲルを有する。そして、当該薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率が35〜80%である点が最大の特徴である。
【0015】
上述したように、従来は、MNA処理された皮膚を介して薬物を投与するためのハイドロゲルによる薬物投与デバイスにおいては、当該ハイドロゲルとして保型性のないものが用いられていた。その理由としては、(1)ゲル化させるには、添加物や電子線など架橋させるための処理が必要で、薬物の安定性に対しては良い効果を持たないこと、(2)脱脂綿に湿らせた液体や未架橋のゲルの方が穿刺部位に侵入しやすいと思われること(実際は、穿刺孔は閉じてしまうので好ましくない)などがあり、液体状あるいはそれに近い剤形が好ましいと考えられていたからである。なお、この保型性のないハイドロゲルは、5分後応力緩和率がほぼ100%に近い値を示すものに相当し、軟膏のような状態である。
【0016】
また、マイクロニードルを使用した薬物投与方法として、薬物を含有したゲルをニードルにコーティングして投与する場合がある。ただし、この方法は、コーティングできる量に制限があり投与量が限られるため、量の多い薬物に対しては適さない。
【0017】
本発明者らは、上述したような保型性のないハイドロゲルに薬物を含有させてMNA処理後の皮膚から薬物を投与しても、薬物が必ずしも十分に皮膚を透過できない場合があることを見出した。そして、従来の技術とは異なり、ハイドロゲルに適度な保型性をもたせる(5分後応力緩和率を35〜80%の範囲に制御する)ことで、MNA処理後の皮膚からの薬物の投与効率が有意に向上することを見出したのである。なお、ハイドロゲルに適度な保型性をもたせる(5分後応力緩和率を35〜80%の範囲に制御する)ことで投与効率が向上するメカニズムは完全には明らかとはなっていないが、以下のメカニズムが推定されている。すなわち、MNA処理によって穿刺された後の皮膚開口部分は、皮膚が本来有している弾性によって塞がれてしまうが、本形態によれば、薬物含有ハイドロゲルが適度な保型性を有することで、ゲルが穿刺後の皮膚開口部分に入り込み、皮膚の弾性によってこれが塞がれるのを妨げ、安定した皮膚透過性を実現できるものと考えられる。
【0018】
以下、本形態に係る経皮的薬物投与デバイスの各構成要素について、詳細に説明する。
【0019】
[薬物含有ハイドロゲル]
本形態に係る経皮的薬物投与デバイスは、薬物含有ハイドロゲルを有している。薬物含有ハイドロゲルは、投与対象である薬物がハイドロゲル中に含有されてなるものである。
【0020】
薬物含有ハイドロゲル中に含有される薬物については特に制限はなく、経皮的に投与されることが望まれる薬物であればよい。この観点から、通常は経皮的に投与されることが想定されていない投与量の多い薬物などは好ましくない。また、皮膚の最大のバリア層である角質層は、脂溶性の膜であり、一般に経皮吸収性の高い薬物としては、脂溶性を有するものの方が適当であるとされている。しかしながら、マイクロニードルのように皮膚に直接孔を開けると、角質層のバリアは意味のないものとなるため、脂溶性薬物よりも、下層の水溶性の皮下組織に分配し易い水溶性薬物の方が薬物としては好ましい。水溶性薬物としては、一般的な水溶性薬物のほか、成長因子、ホルモン、サイトカイン、抗原、抗体、それらの断片並びに類縁体などが好ましい薬物として例示されうる。このように、本形態に係る経皮的薬物投与デバイスによれば、従来技術においては経皮的な投与が困難であるとされていた分子量500以上の薬物についても、効率的な経皮投与が期待できるという利点がある。
【0021】
また、薬物含有ハイドロゲルを構成するハイドロゲルの具体的な組成(構成成分)についても、特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。典型的には、ハイドロゲルは、高分子からなる基材と、溶媒とを含む。
【0022】
高分子からなる基材を構成する高分子としては、水溶性薬物の保持に適した水溶性高分子を基材の主成分として含むことが好ましい。ここで、「水溶性高分子」とは、水に溶解する高分子化合物の総称である。この水溶性高分子は、分子内に水との相互作用が強い極性を持った官能基を多く含む。かような水溶性高分子としては、天然由来のデンプン、ゼラチン、ジェランガム、半合成のカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。なお、高分子からなる基材の「主成分として」水溶性高分子を含む場合、水溶性高分子が高分子からなる基材に占める割合(質量比)は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。高分子からなる基材が水溶性高分子以外の高分子を含む場合、かような高分子としては、ポリアクリル酸およびその塩、ポリビニルピロリドン並びに多糖類など、ステアリン酸アルミニウム、デキストラン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
上述したような水溶性高分子の高分子鎖を架橋させるための架橋剤として、ホウ酸およびその塩やホウ砂、ホルムアルデヒド、多価イオン、イソシアネート化合物、ビニルモノマーなどの架橋剤がさらに含まれていてもよい。なお、このような架橋剤の添加量についても特に制限はない。架橋剤の添加量を調整することによってもゲルの5分後応力緩和率の値が制御されうることから、ゲルの5分後圧縮緩和率が所定の範囲内の値となるように、架橋剤の添加量を調整することができる。一例として、架橋剤の添加量は、高分子からなる基材100質量%に対して0.1〜30質量%程度とすればよい。その他、熱、紫外線、電子線、凍結と低温を繰り返す凍結低温結晶化法による架橋を、単独で、または併用して行ってもよい。
【0024】
また、溶媒としては、水や低級アルコール(エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなど)、多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなど)等の成分を含むのが一般的であり、特に水を溶媒として用いることが好ましい。
【0025】
上述した形態において、薬物含有ハイドロゲルを構成する各成分(薬物、高分子からなる基材、溶媒)の含有量について特に制限はなく、ゲルの5分後圧縮緩和率が所定の範囲内の値となるように、ゲルの固形分濃度を調整することができる。一例として、薬物含有ハイドロゲルにおける溶媒の含有量は、薬物含有ハイドロゲルの全量100質量%に対して、好ましくは50〜95質量%であり、より好ましくは60〜95質量%であり、特に好ましくは70〜90質量%である。また、薬物含有ハイドロゲルにおける高分子からなる基材の含有量は、薬物含有ハイドロゲルの全量100質量%に対して、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは3〜40質量%であり、特に好ましくは5〜30質量%である。なお、薬物含有ハイドロゲル中の薬物の含有量については、経皮的に投与すべき投与量を考慮して、適宜設定すればよい。
【0026】
上述したように、本形態に係る経皮的薬物投与デバイスは、薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率が35〜80%である点に特徴を有するものである。かような構成とすることで、ゲルの構成材料としての基材(高分子)の種類を問わず、薬物含有ハイドロゲルに含有される薬物の経皮的な投与効率が向上することが見出されたのである。なお、「5分後応力緩和率」の値としては、後述する実施例の欄に記載の手法(ゲルにプローブを一定荷重当て、初期荷重に対する5分後の荷重の変化量の百分率として算出する)により測定される値を採用するものとする。ここで、薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率が35%未満であると投与効率が低下してしまうが、これはゲルが高弾性になりすぎることでMNA処理による穿刺後の皮膚の開口部位へゲルが侵入しづらくなるものと考えられる。一方、薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率が80%を超えてもやはり投与効率が低下してしまうが、これはゲルの塑性が高すぎることで穿刺後の皮膚の開口部位を閉じようとする皮膚本来の弾性にゲルが十分に追従できず、開口部位から薬物が十分に侵入できないことによるものと考えられる。なお、従来の保型性を有しない薬物含有ハイドロゲルは、5分後応力緩和率がほぼ100%に近い値となるもので、本発明とは異なるものである(後述する実施例のサンプル1およびサンプル6を参照)。
【0027】
薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率の値を35〜80%の範囲内の値に制御する具体的な手法は特に制限されない。かような制御を達成するための手段の一例として、薬物含有ハイドロゲルの組成を調整することが挙げられる。例えば、他の条件が同一である場合には、ハイドロゲルを構成する高分子からなる基材の含有量を、溶媒の含有量に対して相対的に多くすることで、5分後応力緩和率の値が小さくなる方向に制御することができる。また、架橋剤を添加する場合には、架橋剤の添加量を多くしてゲルの架橋密度を増加させることで、5分後応力緩和率の値が小さくなる方向に制御することもできる。さらに、加熱、冷却架橋という手法や、光、放射線、プラズマ、触媒、凍結低温結晶化法による架橋という手法によっても、5分後応力緩和率の値が大きく(小さく)なる方向に制御することができる。
【0028】
また、薬物含有ハイドロゲルの応力緩和率を求める際の初期荷重は、適度な荷重が得られるものが好ましく、0.01N〜2.0N程度、より好ましくは0.01N〜1.2Nである。これよりも初期荷重が小さくても大きくても、MNA処理による穿刺後の皮膚の開口部位へゲルが侵入しづらくなる恐れがある。
【0029】
なお、薬物含有ハイドロゲルのサイズ(厚さ、投影面積)について特に制限はないが、一例として、薬物含有ハイドロゲルの厚さは、必要とする薬物濃度や持続性などによって適宜設定され、例えば1〜5000μm程度である。また、薬物含有ハイドロゲルの投影面積は、MNA処理により穿刺される皮膚表面の領域の大きさに応じて適宜設定され、例えば0.5〜5cm
2程度である。
【0030】
[支持体]
本形態に係る経皮的薬物投与デバイスは、上述した薬物含有ハイドロゲルを必須の構成成分として有するが、当該ゲル単体のみでは作業性も悪いことから、投錨性のある支持体をシート状の薬物含有ハイドロゲルの一方の面に配置してもよい。かような構成とすることで、ゲルを取り扱う際の作業性が格段に向上しうる。
【0031】
支持体の材質は特に制限されず、薬物含有ハイドロゲルに含まれる薬物などの成分が漏れ出さないものであればよいが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロンなどのポリアミド、レーヨン、パルプ、綿などのセルロースまたはその誘導体、ポリアクリロニトリルなどの素材から選ばれる1種または2種以上を組み合わせたものであり、織布または絡合、熱融着、圧着またはバインダー接着にて製した不織布が好ましい。なかでもポリエステル(特にポリエチレンテレフタレート)の不織布がハイドロゲルに対する投錨性が良いため好適に用いられる。
【0032】
また、支持体の厚さは、接触面積5cm
2あたり0.98Nの押圧で測定する場合に0.001〜1.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmである。支持体が薄すぎると、破れなどの形状破壊、支持体上に薬物含有ハイドロゲルを配置する際の浸み出しによる外観不良や成型不良、ゲルの貼付時の貼りづらさを招く傾向が見られ、0.1mm未満では特にその傾向が著しい。また支持体が厚すぎると、支持体の伸縮性不良や柔軟性不良による使用性低下、ゲルの貼付時のめくれ、さらには材料としてのコストアップを招く傾向が見られ、1.5mmを超えると特にその傾向が著しい。
【0033】
さらにまた、支持体の色については特に限定されないが、デバイスの商品イメージに大きく影響を与え、美観や人体適用時の使用感向上につながるものであるので、白色、肌色、黄色、赤色、橙色等が好ましい例として挙げられ、必要に応じ濃淡を調整したものがより好ましい。また印刷やエンボス等の加工も適宜可能である。
【0034】
[固定用粘着テープ]
通常は薬物含有ハイドロゲル自体に粘着性がないため、皮膚に貼付する際には、薬物含有ハイドロゲル、または薬物ハイドロゲルを積層した支持体の上から固定用粘着テープを被覆したデバイスとすることが特に好ましい。薬物含有ハイドロゲルを固定用粘着テープで固定することで、皮膚への適度な圧迫が得られて穿孔した孔に薬物含有ハイドロゲルが入り込むため、薬剤投与を効率的に行うことが可能になる。
【0035】
固定用粘着テープの基材材質は特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ナイロンなどのポリアミド、ポリアクリロニトリル、セルロースまたはその誘導体、アルミニウムなどの金属箔などの素材から選ばれる1種または2種以上を組み合わせてフィルム状または布帛(織布、不織布、編布)にしたものが好ましい。特にポリウレタンが好適に用いられる。
【0036】
また、固定用粘着テープの基材厚さは、好ましくは1〜200μmであり、より好ましくは5〜150μm、さらに好ましくは10〜100μmである。固定用粘着テープが薄すぎると、強度低下による破れなどの形状破壊や、貼付時の貼りづらさを招く。また、固定用粘着テープが厚すぎると、使用性の低下や貼付時のめくれ、違和感を招く。
【0037】
なお、固定用粘着テープには、剥離性または貼付性の向上を目的として、場合により、割線、ミシン目、キャリアシート等の加工を行ったり、外観性向上やフィルムのズレを防止することを目的として、エンボス加工等を行うことが適宜必要である。
【0038】
固定用粘着テープの粘着剤としては、天然ゴム系、合成ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系など各種の粘着剤を使用することができるが、アクリル系粘着剤を使用すれば皮膚に対する刺激が少ないものを比較的経済的に得ることができる。また、粘着剤の厚さは、好ましくは5〜200μmであり、より好ましくは5〜50μmである。粘着剤が薄すぎると、皮膚への接着力が低くなり、脱落しやすくなる。一方、粘着剤厚が厚すぎると、使用性の低下や糊残り、違和感を招く。
【0039】
固定用粘着テープは、上述の薬物含有ハイドロゲルまたは薬物含有ハイドロゲル上に積層した支持体の上から覆った状態で、同形以上の剥離シートとともに包装材内に封入されることが好ましいが、固定用粘着テープ自体を別添として、ハイドロゲルとともに包装材に封入されていてもよい。固定用粘着テープを別添する場合は、離型フィルムを固定用粘着テープの面積以上に裁断したものを粘着面に積層する。
【0040】
また、支持体と薬物含有ハイドロゲルが積層されたデバイスを皮膚に配置後、腕などを周回して固定するマジックテープ(登録商標)などの固定具を用いて、デバイスを固定することもできるが、薬物含有ハイドロゲルの固定性を考慮すると、上記記載の固定用粘着テープを用いることが推奨される。
【0041】
[離型フィルム]
薬物含有ハイドロゲルの支持体または固定用粘着テープが設けられた表面とは反対側の表面を保護する目的で、離型フィルムを配置してもよい。この離型フィルムは使用時には剥離除去される。離型フィルムの材質は特に制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ナイロンなどのポリアミド、ポリアクリロニトリル、セルロースまたはその誘導体、アルミニウムなどの金属箔などの素材から選ばれる1種または2種以上を組み合わせてフィルム状にしたものが好ましい。特にポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。
【0042】
離型フィルムの厚さは、好ましくは20〜150μmであり、より好ましくは40〜120μm、さらに好ましくは50〜100μmである。離型フィルムが薄すぎると、強度低下による破れなどの形状破壊や、デバイスの製造トラブルを生じたり、ゲルの貼付時の貼りづらさを招き、20μm未満では特にその傾向が著しい。また、離型フィルムが厚すぎると、デバイスの製造におけるフィルムの裁断適性不良、ゲルの貼付時のめくれ、原材料としてのコストアップを招き、150μmを超えると特にその傾向が著しい。
【0043】
なお、離型フィルムには、剥離性または貼付性の向上を目的として、割線、ミシン目、印刷等の加工を行ったり、外観性向上やフィルムのズレを防止することや、包装材からの取りだしを容易にすることを目的としてエンボス加工などを行うことが適宜可能である。離型フィルムは2枚以上としても良い。また、離型フィルムの薬物含有ハイドロゲル側の表面には、離型性を向上させるためのシリコーン処理等の処理を施してもよい。
【0044】
離型フィルムは必要に応じてハイドロゲル、支持体、固定用粘着テープの大きさに合わせるようにして裁断されたものを使用しても良いが、通常は固定用粘着テープよりも大きく形成した1枚の離型フィルムとすることが好ましい。また、その場合には、薬物含有ハイドロゲルの水分を支持体外に漏れることを防止するために、離型フィルムの中央付近に凹部を設けることもできる。
【0045】
[包装袋]
上述した構成からなる経皮的薬物投与デバイスは、水分の揮散を防止するという観点から、使用時までは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、紙等とアルミ箔の複合フィルム、あるいはアルミを蒸着したフィルムなどをヒートシールした包装袋中に保管することが好ましい。中のデバイスを取り出しやすくするために、包装材の内装にはサンドブラスト処理、エンボス処理、シリコーン処理などを施すことができる。
【0046】
[製造方法]
本形態に係る経皮的薬物投与デバイスの製造方法については特に制限はなく、薬物含有ハイドロゲルの製造に関する従来公知の知見と、薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率の制御について上述した知見、後述する実施例に記載の知見などを総合的に考慮することで、製造が可能である。製造方法の一例について説明すると、まず、ゲルを構成する成分(薬物、高分子からなる基材、溶媒)をそれぞれ所定量秤量して混合し、ゲル作製用溶液を調製する。次いで、得られたゲル作製用溶液を所望のサイズに型などを用いて成型し、固化させることで、薬物含有ハイドロゲルを作製することができる。
【0047】
[用途]
本形態に係る経皮的薬物投与デバイスは、MNA処理された皮膚を介して薬物を投与するという用途に用いられる。
【0048】
本形態の経皮的薬物投与デバイスの使用に先立ち、MNA処理が行われるが、このMNA処理の具体的な形態について特に制限はなく、複数の針を同時に穿刺することによって皮膚のバリア機能を一時的に低減することができるいずれかの器具によって実行されうる(例えば、Wu, X.M.ら、(2006)J.Control Release、118:189−195などを参照)。
【0049】
MNAを構成するマイクロニードルの構成材料について特に制限はなく、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、またはポリグリコール酸からなる基剤を有する自己分解型のマイクロニードルが用いられうる。このような自己分解型のマイクロニードルは生体適合性が高いことから、安全に使用されうる。マイクロニードルの形状やサイズについても特に制限はないが、通常は円錐状や多角錐状(四角錐状など)などの錐状であり、この場合、三角錘状の底面の面積は0.1〜0.5mm
2程度であり、錘状の高さは0.4〜0.5mm程度である。
【0050】
ここで、
図1は、長さ0.5mm、錐状先端径0.1mmのマイクロニードルアレイ(MNA)処理による穿刺後のヘアレスマウス皮膚表面の穿刺部位(1か所)の経時的な変化を示す写真である。
図1に示すように、穿刺直後から時間が経過するに伴って、皮膚が本来有する弾性によって皮膚の開口部位は閉じられてゆく。従来の保型性のない(保型性の小さい)薬物含有ハイドロゲルを用いて薬物の経皮的投与を企図した場合には、このように開口部位が塞がれる際の応力をゲルによって緩和することは困難であった。これに対し、本発明に係る薬物含有ハイドロゲルを用いることで、開口部位が塞がれる際の応力をゲルによって緩和することができ、その結果、開口部位からの薬物の効率的な投与が可能となったのである。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、本実施例において、混合物の組成比における「%」は「質量%」を意味する。
【0052】
[サンプルの調製]
(サンプル1〜4の調製)
下記の表1に示す組成のポリビニルアルコール(PVA)および半量の水をオートクレーブにて90℃にて60分間で加熱した後、攪拌羽で均一に混合した。なお、PVAとしては、株式会社クラレ社製の型番PVA―117(平均重合度1700、ケン化度98〜99mol%)を用いた。次いで、薬物として塩酸リドカイン(濃度:ゲル作製用溶液全量に対して10%)および半量の水を混合した水溶液、並びに得られたPVA水溶液を混合し、ゲル作製用溶液を調製した。PET支持体の表面に厚さ1.5mmに塗布した。−20℃にて12時間凍結した後5℃にて解凍することで固化成型し、15mmφに成型して、サンプル1〜4を調製した。
【0053】
(サンプル5〜7の調製)
下記の表1に示す組成のゼラチンおよび半量の水を55℃の水浴で加温した。次いで、ジェランガム、ホウ酸および半量の水を混合した水溶液、並びに得られたゼラチン水溶液、薬物として塩酸リドカイン(濃度:ゲル作製用溶液全量に対して10%)を混合し、ゲル作製用溶液を調製した。なお、ゼラチンとしては、和光純薬工業社製の和光一級のものを用い、ジェランガムとしては、伊那食品工業社製のイナゲルGP−10を用いた。PET支持体の表面に厚さ1.5mmに塗布した。5℃にて12時間冷却することで固化成型し、15mmφに成型して、サンプル5〜7を調製した。
【0054】
(サンプル8〜12の調製)
下記の表2に示す組成のゼラチンおよび半量の水を55℃の水浴で加温した。次いで、ジェランガム、ホルムアルデヒドおよび半量の水を混合した水溶液、並びに得られたゼラチン水溶液、薬物として塩酸リドカイン(濃度:ゲル作製用溶液全量に対して10%)を混合し、ゲル作製用溶液を調製した。なお、ゼラチンとしては、和光純薬工業社製の和光一級のものを用い、ジェランガムとしては、伊那食品工業社製のイナゲルGP−10を用いた。PET支持体の表面に厚さ1.5mmに塗布し、5℃にて12時間冷却することで固化成型し、15mmφに成型して、サンプル8〜12を調製した。
【0055】
[特性の評価]
(5分後応力緩和率の測定)
5分後応力緩和率の測定には、測定装置として株式会社ORIENTEC社製のテンシロン型番STA−1150を用い、侵入速度:50mm/min、侵入距離:2mm、プランジャー:22mmφの条件でゲルの表面にかかる荷重を測定した。なお、同様の測定をゲルの調製直後およびゲルの調製から5分後に行い、それぞれ初期荷重および5分後荷重として、下記数式1に従って、5分後応力緩和率を算出した。それぞれのゲルについて同様の測定を5回行った。その結果得られた平均値(Ave.)および標準偏差(S.D.)の値を下記の表1および表2に示す。
【0056】
【数1】
【0057】
(皮膚透過試験)
まず、マイクロニードルアレイ(MNA)として、ポリ乳酸からなる高さ0.45mm×底面の幅0.25mmの三角錐状のマイクロニードルが45本(5×9本)配列したものを準備した。
【0058】
このMNAを用いて、穿刺圧約2500gでヘアレスマウス(雄性、7週齢、日本SLC)の腹部摘出皮膚に穿刺した。穿刺後の皮膚を縦型拡散セル(内径:20mmφ、容量:約16mL)に装着し、上記で調製したサンプルをゲルが皮膚に向き合うように皮膚の穿刺部位に載置し、PET支持体の上からカテリープ(登録商標)で固定した。次いで、拡散セルのジャケット内に32℃に加温した温水を通水し、レシーバー液に生理食塩水を入れ、透過実験を行った。ゲルの載置から1時間後および4時間後に、拡散セルのサンプリングポートから0.5mLずつサンプリングし、同量のアセトニトリルを添加して除タンパクを行った遠心上清をサンプルとして回収し、HPLCにより透過薬物量を定量した。なお、HPLCによる測定条件は以下のとおりとした。
【0059】
(HPLC測定条件)
装置 :LC−2010HT
カラム :Mightysil RP−18 GP、5μm、4.6×150mm(関東化学)
カラム温度:40℃
注入量 :20μL
流速 :1.5mL/min
検出波長 :230nm
移動相 :10mM SDS、20mMリン酸緩衝液(pH3.0)/アセトニトリル=11/9
1時間後および4時間後における塩酸リドカインの累積透過量の測定結果を下記の表1および表2に示す。なお、表に記載の値は、同様の実験を3回行って得られた平均値(Ave.)および標準偏差(S.D.)である。また、それぞれのサンプルについて、ゲルの5分後応力緩和率(%)に対して塩酸リドカインの1時間累積透過量(μg/cm
2)をプロットしたグラフを
図2に示し、4時間累積透過量(μg/cm
2)をプロットしたグラフを
図3に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1〜2および
図2〜3に示すように、同一の成分を有するゲルどうし(すなわち、サンプル1〜4、サンプル5〜7、サンプル8〜12のそれぞれ)で比較すると、薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率が35〜80%の範囲内の値であるサンプルは、この範囲を外れるサンプルよりも1時間後累積透過量および4時間後累積透過量について大きい値を示した。このことから、本発明のように、薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率を上記の範囲内の値とすることで、MNA処理による穿刺後の皮膚を介して薬物を効率的に投与することができる経皮的薬物投与デバイスが提供されうることが示された。