(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
様々な公知のマゼンタインクジェットインク着色剤は、顔料も染料も、良好な色特性を有する印刷画像を与えているが、より高い光学密度、彩度および/またはより低コストの代替着色剤が尚求められている。本発明は、改善された光学密度、彩度、色相およびコストを有する組成物を提供することにより、このニーズを満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、ビヒクルと、ビヒクルに分散された顔料着色剤とを含み、顔料着色剤が、ピグメントレッド146(PR146)、ピグメントレッド184(PR184)、ピグメントレッド269(PR269)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される第1の顔料と、ピグメントレッド122(PR122)、ピグメントバイオレット23(PV23)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される第2の顔料とを含む、マゼンタインクジェットインクを提供する。
【0009】
他の実施形態によれば、マゼンタインクジェットインクは、ピグメントレッド146およびピグメントレッド122を含み、ピグメントレッド146対ピグメントレッド122の重量比は、約2:3〜約5:1の範囲内である。
【0010】
他の実施形態によれば、マゼンタインクジェットインクは、ピグメントレッド146およびピグメントバイオレット23を含み、ピグメントレッド146対ピグメントバイオレット23の重量比は、約4:1〜約25:1の範囲内である。
【0011】
他の実施形態によれば、マゼンタインクジェットインクは、ピグメントレッド184およびピグメントレッド122を含み、ピグメントレッド184対ピグメントレッド122の重量比は、約2:3〜約5:1の範囲内である。
【0012】
他の実施形態によれば、マゼンタインクジェットインクは、ピグメントレッド184およびピグメントバイオレット23を含み、ピグメントレッド184対ピグメントバイオレット23の重量比は、約4:1〜約25:1の範囲内である。
【0013】
他の実施形態によれば、マゼンタインクジェットインクは、ピグメントレッド269およびピグメントレッド122を含み、ピグメントレッド269対ピグメントレッド122の重量比は、約2:3〜約5:1の範囲内である。
【0014】
他の実施形態によれば、ビヒクルは、水性ビヒクルである。
【0015】
他の実施形態によれば、マゼンタインクジェットインクは、25℃で約20mN.m
-1〜約50mN.m
-1の範囲の表面張力および25℃で約1mPa.s〜約20mPa.sの範囲の粘度を有する。
【0016】
他の実施形態は、
(a)上述したマゼンタインクジェットインクを含むマゼンタインクと、
(b)水性ビヒクルと、水性ビヒクルに分散した、ピグメントブルー15:3(PB15:3)、ピグメントブルー15:4(PB15:4)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の要素を含むシアン顔料着色剤とを含むシアンインクと、
(c)水性ビヒクルと、水性ビヒクルに分散した、ピグメントイエロー74(PY74)を含むイエロー顔料着色剤とを含むイエローインクと
を含むインクジェットインクセットを提供する。
【0017】
他の実施形態によれば、インクセット中のシアン顔料着色剤は、ピグメントブルー15:13である。
【0018】
他の実施形態によれば、インクセット中のシアン顔料着色剤は、ピグメントブルー15:14である。
【0019】
他の実施形態は、
(a)第1の顔料を第2の顔料と混合する工程であって、第1の顔料が、ピグメントレッド146、ピグメントレッド184、ピグメントレッド269およびこれらの組み合わせからなる群から選択される要素であり、第2の顔料が、ピグメントレッド122、ピグメントバイオレット23およびこれらの組み合わせからなる群から選択される要素である、工程と、
(b)分散剤を混合する工程と、
(c)分散液を得るために粉砕する工程と
を含むマゼンタインクジェットインクを製造する方法を提供する。
【0020】
他の実施形態によれば、第1の顔料は、ピグメントレッド146であり、第2の顔料は、ピグメントレッド122であり、ピグメントレッド146対ピグメントレッド122の重量比は、約2:3〜約5:1の範囲内である。
【0021】
さらに他の実施形態によれば、第1の顔料は、ピグメントレッド146であり、第2の顔料は、ピグメントレッド23であり、ピグメントレッド146対ピグメントレッド23の重量比は、約4:1〜約25:1の範囲内である。
【0022】
本明細書で用いる顔料名および略記は、Society of Dyers and Colourists(Bradford,Yorkshire,UK)により規定され、The Color Index,Third Edition,1971に公表された顔料についての「C.I」記号である。
【0023】
本発明のこれらおよびその他の特徴ならびに利点は、当業者であれば、以下の詳細な説明を読むことにより、容易に理解されるであろう。明確にするために、上述および別個の実施形態で後述する本発明の特定の特徴もまた単一の実施形態において組み合わせで提供されてもよい。反対に、単一の実施形態で記載された本発明の様々な特徴も、別個に、または任意のサブコンビネーションで提供されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
別記または別に定義されない限り、本明細書で用いる技術および科学用語は全て、本発明が係る当業者により一般的に理解される意味を有している。
【0025】
別記しない限り、パーセンテージ、部、比等は全て重量基準である。
【0026】
量、濃度あるいはその他値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値のいずれかとして与えられるとき、範囲が別個に開示されているかどうかに係らず、具体的に開示されている全ての範囲が、上限または好ましい値および下限または好ましい値の任意の対から形成されていると考えるものとする。本明細書において数値の範囲を挙げた場合、別記しない限り、範囲には、その終点、範囲内の全ての整数および分数が含まれるものとする。
【0027】
「約」という用語が、範囲のある値または終点を記載する際に用いられるとき、開示内容は、参照された特定の値または終点を含むものと理解すべきである。
【0028】
本明細書で用いる向上または改善した「印刷品質」を参照するとき、光学密度、光沢、印刷画像の像鮮明性(DOI)および、例えば、摩擦堅牢性(指による擦れ)、水堅牢性(水滴)および汚れ堅牢性(蛍光ペンで書く)をはじめとする堅牢性(印刷画像からのインク除去に対する抵抗性)の態様のいずれかが増大することを意味する。
【0029】
本明細書で用いる「SDP」という用語は、「自己分散可能」または「自己分散性」顔料を意味する。
【0030】
本明細書で用いる「分散液」という用語は、2相系を意味し、1相が、バルク物質全体に分配された微粉砕粒子(コロイドサイズ範囲であることが多い)からなり、粒子が、分散または内相で、バルク物質が連続または外相である。
【0031】
本明細書で用いる「分散剤」という用語は、懸濁媒体に添加されて、多くはコロイドサイズにある極微細固体粒子の均一かつ最大の分離を促す表面活性剤を意味する。自己分散性顔料以外の顔料については、分散剤は、ポリマー分散剤であることが最も多く、分散剤および顔料は、分散装置を用いて、通常、混合される。
【0032】
本明細書で用いる「OD」という用語は、光学密度を意味する。
【0033】
本明細書で用いる「光沢」という用語は、印刷表面からの反射光の観察を意味し、通常、印刷基材は、光沢紙である。
【0034】
本明細書で用いる「水性ビヒクル」という用語は、水、または水と少なくとも1つの水溶性有機溶媒(共溶媒)の混合物を指す。
【0035】
本明細書で用いる「イオン性基」という用語は、特定の条件下でイオン性となる潜在力を持った分子部分を意味する。
【0036】
本明細書で用いる「噴射性」という用語は、印刷中の目詰まりまたは偏向のない良好な噴射性を意味する。
【0037】
本明細書で用いる「Mn」という用語は、数平均分子量を意味する。
【0038】
本明細書で用いる「psi」という用語は、圧力の単位である1平方インチ当たりのポンドを意味する。
【0039】
本明細書で用いる「cP」という用語は、粘度の単位であるセンチポイズを意味する。
【0040】
本明細書で用いる「mPa.s」という用語は、粘度の単位であるミリパスカル秒を意味する。
【0041】
本明細書で用いる「mN.m
-1」という用語は、表面張力の単位である1メートル当たりのミリニュートンを意味する。
【0042】
本明細書で用いる「mS/cm」という用語は、導電率の単位である1センチメートル当たりのミリシーメンスを意味する。
【0043】
本明細書で用いる「EDTA」という用語は、エチレンジアミン四酢酸を意味する。
【0044】
本明細書で用いる「IDA」という用語は、イミノ二酢酸を意味する。
【0045】
本明細書で用いる「EDDHA」という用語は、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)を意味する。
【0046】
本明細書で用いる「NTA」という用語は、ニトリロ酢酸を意味する。
【0047】
本明細書で用いる「DHEG」という用語は、ジヒドロキシエチルグリシンを意味する。
【0048】
本明細書で用いる「CyDTA」という用語は、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸を意味する。
【0049】
本明細書で用いる「DTPA」という用語は、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸を意味する。
【0050】
本明細書で用いる「GEDTA」という用語は、グリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸を意味する。
【0051】
本明細書で用いるSurfynol(登録商標)465は、Air Products(Allentown,PA,U.S.A.)より市販されている界面活性剤である。
【0052】
本明細書で用いるGlycereth−26は、平均エトキシル化値が26のグリセリンのポリエチレングリコールエーテルである。
【0053】
本明細書で用いるProxel(商標)GXLは、Avecia(Wilmington,DE,U.S.A.)より市販されている殺生物剤である。
【0054】
別記しない限り、上記の化学薬品は、Aldrich(Milwaukee,WI,U.S.A.)またはその他同様の化学研究供給業者から入手した。
【0055】
本明細書に挙げた材料、方法および実施例は、明確に示されていない限り、例示のためのみであり、限定しようとするものではない。
【0056】
また、単数で参照したものにはまた、文脈上明白に指示がない限り、複数(例えば、「1つの」は、1つ、または1つ以上を指す)も含まれてよい。
【0057】
顔料
原顔料は、インクビヒクルに不溶かつ、非分散性であり、安定な分散液を形成するために処理しなければならない。「安定な分散液」とは、顔料が微粉砕され、均一に分配され、粒子成長および凝集に対して抵抗性があることを意味する。
【0058】
分散剤による顔料の処理によって、分散液を形成することにより、顔料を安定化することができる。本明細書で用いる「分散剤」という用語は、概して、同じく当該技術において知られている「分散剤」および「懸濁剤」という用語と同義である。
【0059】
分散剤は、例えば、米国特許第4,597,794号明細書、同第5,085,698号明細書、同第5,519,085号明細書、同第6,143,807号明細書、米国特許出願公開第2008/0071007号明細書に開示されているような任意の好適な分散剤とすることができる。
【0060】
分散液は、顔料および分散剤を予備混合した後、ミリング工程で混合物を分散または解膠することにより調製する。予備混合物は、ミリング工程がウェットミリング操作を含むときは、水性キャリア媒体(水と、任意で、水混和性溶剤等)を含む。ミリング工程は、2本ロールミル、媒体ミル、水平ミニミル、ボールミル、磨砕機において実施するか、または、液体ジェット相互作用チャンバ内で、少なくとも5,000psiの液体圧力で、複数のノズルに水性予備混合物を通して、水性キャリア媒体中の顔料粒子の均一な分散液を生成する(マイクロフルイダイザー)。あるいは、分散剤および顔料を、加圧下でドライミリングすることにより、濃縮物を調製してもよい。メディアミル用の媒体は、ジルコニア、YTZ(登録商標)(Nikkato Corporation(Osaka,Japan))およびナイロンをはじめとする一般的に入手可能な媒体から選択する。これらの様々な分散プロセスは、米国特許第5,022,592号明細書、米国特許第5,026,427号明細書、米国特許第5,310,778号明細書、米国特許第5,891,231号明細書、米国特許第5,679,138号明細書、米国特許第5,976,232号明細書および米国特許出願公開第2003/0089277号明細書に例示されているとおり、当該技術分野において一般的な意味で周知されている。顔料分散液は、典型的に、濃縮形態(分散液濃縮物)で製造され、後に、最終インクを製造するために所望の添加剤を含有する好適な液体により希釈される。
【0061】
1つ以上の顔料を、いわゆる自己分散性顔料へと作製することも可能であろう。自己分散性顔料(「SDP」)という用語は、別個の分散剤なしで、水性ビヒクルにおいて安定した分散液が得られる親水性分散性付与基により化学的に変性された表面を有する顔料粒子のことを指す。親水性分散性付与表面基は、典型的にイオン性である。
【0062】
SDPは、官能基または官能基を含有する分子を、顔料表面にグラフトすることにより、物理的処理(例えば、真空プラズマ)により、または化学処理(例えば、オゾン、次亜塩素酸等による酸化)により調製してもよい。親水性官能基の単一種または複数種を、1つの顔料粒子に結合してもよい。親水性基は、カルボキシレートまたはスルホネート基であり、水性ビヒクルに分散したとき、SDPに負電荷を与える。カルボキシレートまたはスルホネート基は、一価および/または二価のカチオン対イオンに、通常、関連している。SDPの製造方法は周知されており、例えば、米国特許第5554739号明細書および米国特許第6852156号明細書に見出すことができる。
【0063】
所定の各非自己分散性顔料は、別個に分散してから、一緒にブレンドして、最終混合物を形成してもよい。最終混合物はまた、(a)第1の顔料を第2の顔料と混合する工程であって、第1の顔料および第2の顔料は上述したものである、工程と、(b)分散剤を混合する工程と、(c)分散液を得るために粉砕する工程とを含む方法によっても調製することができる。
【0064】
乾燥工程(a)中、原顔料をミルで混合する。工程(b)中、分散剤および任意で好適な溶媒をミルに添加する。工程(c)中、所望の粒子サイズの分散液が得られるまで、ミリングを続けるべきである。分散液の平均粒子サイズは200nm未満とすべきである。典型的に、平均アーティクルサイズは150nm未満である。より典型的には、平均アーティクルサイズは125nm未満である。
【0065】
工程(a)、(b)および(c)の粉砕または分散プロセスは、原顔料を分散剤と合わせ、それを、上述した工程に従って処理して、そのまま、または水性媒体へとさらに分散できる分散顔料を得ることを意味するものと考えられる。
【0066】
分散液の粒子サイズ値は、ISO13320−1粒子サイズ分析−レーザー回折法(国際標準化機構)に準拠するレーザー回折法により測定された値に基づいている。かかる測定の市販の機器としては、Microtrac Inc.(Montgomeryville,PA,USA)製Microtrac Particle Size Analyzerが挙げられる。レーザー回折手法についての説明は、例えば、Particle Size Measurement Chapter 14, 3rd edition, Terence Allen,Chapman and Hall,1981にある。
【0067】
所定の顔料以外の着色剤種が、インク中に存在していてもよく、またはインク着色剤は、所定の顔料のみから実質的になっていてもよい。
【0068】
インクに存在する着色剤の量は、インクの総重量を基準として、典型的には、約0.1重量%〜約10重量%の範囲内、より典型的には、約0.5重量%〜約8重量%の範囲内である。
【0069】
本発明のインクについて、着色剤および着色剤の相対比は、概して、約330〜約10の範囲の色相角(以下の測色の段落を参照のこと)を有するマゼンタ色が得られるように選択される。しかしながら、印刷試料の測定される色相は、用いる基材によって変わり得ることに留意しておく必要がある。普通紙や写真光沢紙等の紙に、100%の被覆率で印刷されたフルストレングスのインクだと、概して、40を超える、典型的には、50を超える色相(以下の測色の段落を参照のこと)を有するであろう。
【0070】
ビヒクル
インクビヒクルは、着色剤の液体キャリア(または媒体)であり、水性または非水性とすることができる。好ましい実施形態において、ビヒクルは、水性ビヒクルである。
【0071】
好適な水性ビヒクル混合物の選択は、所望の表面張力および粘度、選択した着色剤、インクの乾燥時間、およびインクが印刷される基材の種類等の特定の用途の要件に応じて異なる。本発明で用いてよい水溶性有機溶媒の代表例は、米国特許第5,085,698号明細書に開示されたものである。
【0072】
水と水溶性溶媒の混合物を用いる場合は、水性ビヒクルは、典型的に、約30%〜約95%の水を含有し、残り(すなわち、約70%〜約5%)は水溶性溶媒となるであろう。本発明の組成物は、水性ビヒクルの総重量を基準として、約60%〜約95%の水を含有していてよい。
【0073】
インク中の水性ビヒクルの量は、インクの総重量を基準として、典型的に、約70%〜約99.8%、特に、約80%〜約99.8%である。
【0074】
水性ビヒクルは、グリコールエーテルまたは1,2−アルカンジオール等の界面活性剤または浸透剤を含めることにより、即時浸透(急速乾燥)させることができる。好適な界面活性剤としては、エトキシル化アセチレンジオール(例えば、Air Productsより市販されているSurfynols(登録商標)シリーズ)、エトキシル化第1級(例えば、Shellより市販されているNeodol(登録商標)シリーズ)および第2級(例えば、Union Carbideより市販されているTergitol(登録商標)シリーズ)アルコール、スルホサクシネート(例えば、Cytecより市販されているAerosol(登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(例えば、Witcoより市販されているSilwet(登録商標)シリーズ)およびフルオロ界面活性剤(例えば、DuPontより市販されているZonyl(登録商標)シリーズ)が挙げられる。
【0075】
グリコールエーテルまたは1,2−アルカンジオールの添加量は、適切に決めなければならないが、インクの総重量を基準として、典型的に、約1重量%〜約15重量%の範囲、より典型的には、約2重量%〜約10重量%の範囲内である。界面活性剤は、インクの総重量を基準として、典型的に、約0.01%〜約5%、特に、約0.2%〜約2%の量で用いてよい。
【0076】
添加剤
その他成分および添加剤を、インクジェットインクに処方してもよく、かかるその他の成分または添加剤が、インクジェットインクの安定性および噴射性を妨げない程度までとする。これは、当業者であれば、所定の実験により容易に求められる。
【0077】
一般的に、界面活性剤をインクに添加して、表面張力および湿潤特性を調整する。好適な界面活性剤としては、ビヒクルの段落で上に開示したものが挙げられる。界面活性剤は、インクの総重量を基準として、典型的に、約5重量%までの量で、より典型的には、2重量%までの量で用いられる。
【0078】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸(GEDTA)およびこれらの塩等の金属イオン封鎖剤(またはキレート化剤)を含めると、例えば、重金属不純物の有害な影響を排除するのに有利である。
【0079】
ポリマーをインクに添加して、耐久性またはその他特性を改善してもよい。ポリマーは、ビヒクルにおいて可溶、または分散した形態であることができ、イオンまたはノニオンとすることができる。可溶ポリマーとしては、鎖状ホモポリマーおよびコポリマーまたはブロックコポリマーが挙げられる。それらは、グラフトまたは分岐ポリマー、スターおよびデンドリマーを含む構造化ポリマーとすることもできる。分散ポリマーとしては、例えば、ラテックスおよびヒドロゾルが挙げられる。ポリマーは、これらに限られるものではないが、フリーラジカル、基転移、イオン、縮合およびその他の種類の重合をはじめとする公知のプロセスにより作製してよい。それらは、溶液、乳化または懸濁重合プロセスにより作製される。ポリマー添加剤の好ましい部類としては、アニオンアクリル、スチレン−アクリルおよびポリウレタンポリマーが挙げられる。
【0080】
可溶性ポリマーが存在しているときは、そのレベルは、インクの総重量を基準として、典型的に、約0.01重量%〜約3重量%である。上限は、インク粘度またはその他物理的な制限により決まる。
【0081】
殺生物剤を添加して、微生物の成長を阻害してもよい。バッファを添加して、pHを維持してもよい。
【0082】
成分の比率
所望のインク特性を達成するために、上述した成分を混合して、様々な比率および組み合わせでインクを作製することができる。特定の最終用途のためにインクを最適化するにはある程度実験が必要となろうが、かかる最適化は、概して、当業者であれば分かる。
【0083】
インク中のビヒクルの量は、典型的に、約70%〜約99.8%、より典型的には、約80%〜約99%の範囲内である。処方インクに用いる着色剤のレベルは、所望の光学密度を印刷画像に付与するのに必要なレベルである。前述したとおり、着色剤の量は、インクの総重量を基準として、典型的に、0.1重量%〜約10重量%の範囲内、より典型的には、約0.5重量%〜約8重量%の範囲内である。
【0084】
添加剤が存在するときは、概して、インクの総重量を基準として、約15重量%未満で含まれる。界面活性剤を添加するときは、概して、インクの総重量を基準として、約0.1重量%〜約3重量%の範囲内である。ポリマーは、必要に応じて添加することができるが、インクの総重量を基準として、概して、約12重量%未満である。
【0085】
インク特性
噴射速度、液滴の分離長さ、液滴サイズおよび流れ安定性は、インクの表面張力および粘度に大きく影響される。インクジェットインクは、典型的に、25℃で約20mN.m
-1〜約50mN.m
-1の範囲の表面張力を有する。粘度は、25℃で30mPa.sと高くすることができるが、典型的には、25℃で約1mPa.s〜約20mPa.sの範囲である。インクは、様々な噴射条件およびプリントヘッド設計と適合する物理的特性を有している。インクは、インクジェット装置をかなりの程度まで詰まらせないよう、長期間にわたって優れた貯蔵安定性を有していなければならない。さらに、インクは、接触するインクジェット印刷装置の部品を腐食してはならず、実質的に無臭かつ無毒でなければならない。インクの好ましいpHは、約6〜約8の範囲内である。
【0086】
インクセット
「インクセット」という用語は、噴射するためにインクジェットプリンタに装着された個々のインクまたはその他流体の全てを指す。インクセットは、典型的に、少なくとも3つの異なる色のインクを含む。例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)インクは、CMYインクセットを形成する。より典型的には、インクセットは、少なくとも4つの異なる色のインク、例えば、ブラック(K)をCMYインクセットに加えることにより、CMYKインクセットを形成する。このように、本発明の必要なマゼンタ顔料インクを含むインクセットはまた、シアンシアンおよびイエローインク、またはシアン、イエローおよびブラックインクも一般的に含むであろう。
【0087】
典型的なCMYまたはCMYKインクに加えて、インクセットは、オレンジインク、グリーンインク、レッドインクおよび/またはブルーインク等の異なる色のインクを含む1つ以上の「色域拡大」インク、フルストレングスならびにライトシアンおよびライトマゼンタ等のライトストレングスインクをさらに含んでいてもよい。かかるその他のインクは、一般的な意味で、当業者に知られている。
【0088】
インクセットのその他のインクはまた、典型的に、水性インクであり、本発明でクレームされたマゼンタインクについて本明細書に前述したものと同じ処方についての配慮を受ける。インクセットのその他のインクは、顔料系または染料系であってよい。典型的にその他のインクは顔料系である。インクジェットインクに有用な色の特性を備えた顔料としては、既に上述したものに加えて、ピグメントレッド122およびピグメントレッド202のマゼンタ顔料、ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー95、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー114、ピグメントイエロー128およびピグメントイエロー155のイエロー顔料、ピグメントオレンジ5、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ62、ピグメントレッド17、ピグメントレッド49:2、ピグメントレッド112、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド188、ピグメントレッド255およびピグメントレッド264のレッド顔料、ピグメントグリーン1、ピグメントグリーン2、ピグメントグリーン7およびピグメントグリーン36のグリーン顔料、ピグメントブルー60、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット32、ピグメントバイオレット36およびピグメントバイオレット38のブルー顔料およびカーボンブラックのブラック顔料が例示される。
【0089】
インクセットはまた定着剤インクを含んでいてもよい。定着剤は、着色インク上および/または下に噴射されるインクで、色特性または耐久性を高めるものである。概して、顔料用定着剤は、彩度および/または光学密度を増大するように設計されている。定着剤インクは、通常、無色で、水性ビヒクルおよび1つ以上の定着剤を含んでいる。
【0090】
基材
基材は、任意の好適な基材とすることができるが、本発明は、紙、特に「普通」紙およびフォト光沢紙等の専用紙に印刷するのに特に好適である。
【0091】
以下の実施例により、本発明を例示する。ただし、それに限定されるものではない。
【実施例】
【0092】
ポリマー1
ポリマー1は、ベンジルメタクリレート(BzMA)およびメタクリル酸(MAA)の重量比が90/10BzMA/MAAのランダムコポリマーである。数平均分子量(Mn)は約5,000g/モルである。ポリマー1は、米国特許出願公開第2005/0090599号明細書の開示内容に従って調製され、2−ピロリドン溶媒中濃縮溶液として回収された。
【0093】
分散液
以下の表Aに挙げた水性分散液は、ポリマー1を分散剤として用いて調製された。顔料対分散剤重量比は2.5:1である。成分をまず高速分散機(HSD)で混合してから、YTZ(登録商標)媒体を用いて媒体ミルで粉砕した。各粉砕した分散液を、限外濾過により精製して、分散剤に取り込まれた溶媒を全て除去して、顔料12%の最終の水中分散液とした。総分散液の約0.2重量%の量のProxel(商標)GXLを添加して、微生物の成長を抑制した。同じく表Aに挙げてあるのは、用いた各顔料について対応の色指数名についての商品名である。
【0094】
【表1】
【0095】
測色
インクジェットプリンタが基材に書き込む被覆率は、通常、プリンタソフトウェアにより制御され、プリンタ設定で設定することができる。印刷は、100%の被覆率をターゲットとする選択された標準印刷モードで行った。100%被覆率のこの設定は、インクジェットプリンタが、印刷している領域の少なくとも100%を覆うだけの十分な液滴/ドットを発射することを意味する。この結果、通常、広がった、部分的に重なり合ったドットとなる。報告された光学密度(OD)値は、100%被覆率で印刷された領域の1つについてのものである。
【0096】
光学密度、彩度、色相および色域体積を、Greytag−Macbeth Spctrolino分光計を用いて測定した。色相(h
ab)および彩度(C
*ab)値は、式h
ab=tan
-1(b
*/a
*)に従ったCIELAB色空間L
*、a
*およびb
*項に基づくものである。角度は、適切な象限およびC
*ab=(a
*2+b
*2)
1/2について調整する。測定および定義は、当該技術分野において周知されている。例えば、米国材料試験協会(ASTM)インターナショナルにより発行されたASTM Standard E308およびPrinciples of Color Technology,Billmeyer and Saltzman,3rd Ed.,Roy Berns editor,John Wiley & Sons,Inc.(2000)を参照のこと。
【0097】
例1
インク1A−1B、2A−2Bおよび3A−3Bを、表1Aによる分散液A−Cおよびその他成分を用いて調製した。インク1Aは、着色剤PR122のみによる比較例のインクである。インク1Bは、着色剤PR146のみによる比較例のインクである。インク2A−2Bは、PR122およびPR146により調製した本発明によるインクである。インク3A−3Bは、PR146およびPV23により調製した本発明によるインクである。
【0098】
【表2】
【0099】
インクを、Canon i560プリンタに装填して印刷した。用いた基材としては、Xerox4200紙、Hewlett Packard多目的紙(「HP Multipurpose」)およびHewlett Packard明白色紙(「HP Bright White」)がある。
【0100】
様々な紙でのインクの印刷特性を表1Bにまとめてある。PR146とPR122の組み合わせのインク2Aは、着色剤のみのPR122によるインク1Aに比べて、好ましい光学密度および彩度を有することが分かった。同じく、インク2Aは、着色剤のみのPR146によるインク1Bに比べて、PR122に近い色相を有することが分かった。
【0101】
PR146とPV23の組み合わせのインク3Aは、着色剤のみのPR122によるインク1Aに比べて、好ましい光学密度を有することが分かった。ただし、その彩度はやや低い。同じく、インク3Aの色相は、着色剤のみのPR146によるインク1Bに比べて、PR122に近づいており望ましいことが分かった。
【0102】
顔料濃度の高いインク2Bおよび3Bは、試験した条件下で、顔料濃度の低い対応のインク2Aおよび3Aよりもいくらか有利になったとは思われなかった。
【0103】
【表3】
【0104】
例2
シアンインクおよびイエローインクを、以下の表2Aによる分散液D−Eおよびその他成分を用いて調製した。これらの2つのインクを、インクセットにおいて、マゼンタインク1A、1B、2Aまたは3Aと共に用いた。
【0105】
【表4】
【0106】
シアンおよびイエローインクを、マゼンタインク1A、1B、2Aまたは3Aと共に用いたインクセットの色域体積を、表2Bにまとめてある。色域体積を、米国特許第7,233,413号明細書に記載された計算方法を用いて求めた。ターゲットとするパターンは、原色と二次色で構成されていた。L
*=20、a
*=4およびb
*=0の標準ブラック値を各計算に用いた。結果によれば、本発明のインク2Aによるインクセットは、比較例のインク1Aまたはインク1Bによるインクセットに比べて、好ましい(大きな)体積を有していることが分かった。本発明のインク3Aによるインクセットもまた良好な色域を有していたが、比較例のインクのものほどには大きくなかった。色域体積はL
*a
*b
*単位で表わされる。
【0107】
【表5】
【0108】
例3
インク5A−5Eを、着色剤PR122、PV23、PR184および表3Aによる他の成分を用いて調製した。インク5Eは、唯一の着色剤としてPR184を含む比較例のインクである。
【0109】
【表6】
【0110】
インク5A−5Fを例1に記載したとおりにして印刷した。様々な紙での印刷特性を表3Bにまとめてある。結果によれば、本発明のインクは、唯一の着色剤としてPR184を含むインク5Eまたは唯一の着色剤としてPR122を含むインク1Aに比べて、適切な色相および好ましい光学密度を有していたことが分かった。彩度もまた、インク5Aおよび5Bについては好ましかったが、インク5Cおよび5Dについてはやや減少していた。
【0111】
【表7】
【0112】
例4
インク6A−6Dを、表4Aによる分散液AおよびGならびに他の成分を用いて調製した。インク6Dは、唯一の着色剤としてPR269(分散液G中)を含む比較例のインクである。
【0113】
【表8】
【0114】
インク6A−6Dを例1に記載したとおりにして印刷した。様々な紙での印刷特性を表4Bにまとめてある。結果によれば、本発明のインク6A−6Cは、唯一の着色剤としてPR122を含むインク1Aに比べて、適切な色相、良好な彩度および好ましい光学密度を有していたことが分かった。
【0115】
【表9】
【0116】
例5
二次赤色を、Canon i560プリンタで、例2のイエローインクを、マゼンタの本発明のインク(インク2A、インク5Bまたはインク6C)または比較例のマゼンタインク1Aと共に用いて印刷した。イエローインク対マゼンタインクの比は1:1である。表5Aにまとめた印刷特性によれば、マゼンタの本発明のインク(インク2A、インク5Bまたはインク6C)と共に例2のイエローインクからの二次赤色は、例2の同じイエローインクであるが、比較例のマゼンタインク1Aと共に含む二次赤色に比べて、HP MultipurposeおよびHP Bright White papersに印刷したとき、良好なODおよび匹敵する彩度を有することが分かった。
【0117】
【表10】
【0118】
例6
分散液H
分散剤Hを、等量のPR122およびPR146を予備混合した後、ポリマー1を分散剤として用いて、顔料対分散剤重量比を2.5:1にすることにより調製した。成分を、分散機(HSD)で混合してから、YTZ(登録商標)媒体を用いた媒体ミルでミリングした。ミリングした分散液を、限外濾過により精製して、分散剤に取り込まれた溶媒を全て除去して、顔料12%の最終の水中分散液とした。総分散液の約0.2重量%の量のProxel(商標)GXLを添加して、微生物の成長を抑制した。新たに作製したときと、60℃に設定したオーブンで2週間エージングした後のこの分散液の物理的特性を、以下の表6Aに示してある。分散液Hはエージング期間において安定であったことが分かる。
【0119】
【表11】
【0120】
インク7Aおよび7Bを、表6Bによる分散液Hおよび他の成分を用いて調製した。
【0121】
【表12】
【0122】
インク7Aおよび7Bを例1に記載したとおりにして印刷した。様々な紙での印刷特性を表6Cにまとめてある。インク7Aおよび7Bは両方共、唯一の着色剤としてPR122で作製した比較例のインク1A(例1)に比べて、高い光学密度および彩度を示した。それらはまた、唯一の着色剤としてPR146で作製した比較例のインク1B(例1)に比べると、PR122に近い色相を有することも分かった。
【0123】
【表13】