(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
超音波リニアアクチュエータは、例えば
図20で模式的に示す構造を有し、圧電素子の伸縮をロッド(駆動軸)に伝え、そのロッドに所定の摩擦力で係合している被駆動部材(移動体)を、前記圧電素子の伸張時と縮小時との速度差を利用して移動させるものである。例えば、
図20(A)から
図20(B)で示すように、ロッドをゆっくりと伸張させることで、そのロッドに摩擦係合している被駆動部材も移動し、
図20(B)から
図20(C)で示すように、前記所定の摩擦力を超える程、ロッドを瞬時に縮小すると、被駆動部材が慣性のために伸張位置に取り残される。このことを繰返し行うことによって、この超音波リニアアクチュエータは、前記被駆動部材を前記ロッドの軸方向に移動させる。そして、この超音波リニアアクチュエータは、伸張を瞬時に、縮小をゆっくりと行うことで、前記被駆動部材の移動方向を前記とは逆転することができる。
【0003】
このような超音波リニアアクチュエータは、通常のローレンツ力型のモータ等に比べて、構成が簡単で、しかも減速機構を用いずに負荷をダイレクトに駆動することができる。このため、特許文献1では、その搭載例として、前記ロッドをレンズ光軸方向に設置し、フォーカシングレンズの保持部材を前記ロッドに係合させることで、オートフォーカスを実現した駆動装置が提案されている。なお、前記ロッドに対して被駆動部材を摩擦係合させるためには、ばね等による押圧力だけではなく、磁力が用いられてもよい。
【0004】
しかしながら、上述の超音波リニアアクチュエータは、同じように圧電素子の振動を用いた他の超音波モータ、例えば定在波型や進行波型の超音波モータと比較すると、速度性能が低く、効率も悪いという問題がある。その違いは、他の超音波モータは、前記圧電素子を共振領域で駆動しているためである。圧電素子を共振領域で駆動すると、低電圧でも変位(ストローク)が増大し、効率良く速度性能を上げることができる。これに対して、上述の超音波リニアアクチュエータでは、駆動信号の周波数は、後述のように共振周波数の0.7倍程度であり、前記変位(ストローク)が、多くても数μmと小さい。また共振を用いることで、投入されたエネルギーは、ほとんどが機械振動に使われるのに対して、共振を用いない場合、前記エネルギーは、圧電素子を構成する誘電体から成る電気コンデンサの充放電で使用されることになり、効率が悪い。
【0005】
ここで、
図21に、超音波リニアアクチュエータの時間経過に伴う圧電素子および被駆動部材の変位の関係が示されている。上述のように、圧電素子の伸張時と縮小時との速度差を利用して被駆動部材を移動させるので、駆動回路から前記圧電素子には、
図22で示すような、擬似鋸歯状の駆動信号が与えられている。そして、
図21で示すように、その鋸歯状波形の斜辺部分の変位が積算されて、被駆動部材の総変位量になる。
【0006】
そこで、本件出願人は、先に特許文献2において、駆動周波数を適切に選定することで、
図23に示すような矩形波電圧を与えた場合にも、鋸歯状変位が得られることを示した。また、その理論的背景は、非特許文献1で明らかにされている。その理論を要約すると、
図24(C)で示すような鋸歯状波形の基本は、
図24(A)で示す基本周波数の正弦波信号に、
図24(B)で示す第2高調波の正弦波信号を加算して得ることができる。すなわち、前記鋸歯状波形には、成分的に複数の周波数の正弦波が含まれているが、そのうち少なくとも1次および2次の成分があれば前記超音波リニアアクチュエータの駆動に充分なレベルとなり、変位yは、下記の式(1)で表すことができる。
【0007】
y=−sin(ωt)−0.25・sin(2ωt) ・・・(1)
【0008】
そして、そのような鋸歯状波形を得るための条件は、駆動周波数が低い場合、そのものの波形を成形しなければならないが、或る程度駆動周波数が高くなると、共振周波数の前記0.7倍前後の矩形波を圧電素子に入力することで、鋸歯状変位を生じさせることが可能になる。特許文献2は、このような特性を利用して、製品において実現容易な矩形波電圧で駆動させるようにしたものである。
【0009】
図25には、前記矩形波のデューティおよび周波数を変化させた場合における被駆動部材の移動速度の変化が示されている。このグラフは、前記非特許文献1の
図20で示されたもので、圧電素子およびロッドの共振周波数は、200kHzとし、その駆動電圧は、6V
P−Pとし、被駆動部材のロッドに対する摩擦力は、300mNとしている。この
図25から明らかなように、共振周波数の前記0.7倍のときに、矩形波に含まれる1次成分の正弦波および2次成分の正弦波の位相およびゲインが適切な関係となり、鋸歯状変位が得られ、最高の速度が得られている。
【0010】
しかしながら、他の超音波モータのように、駆動周波数を共振周波数と一致させると、
図26(B)で示すように矩形波に含まれる1次成分の正弦波のゲインのみが拡大し、相対的に2次成分の正弦波のゲインが小さくなり、
図26(A)で示すような適切な鋸歯状変位とならない。すなわち、上述のような超音波リニアモータを駆動することはできない。
【0011】
前述のように、超音波リニアアクチュエータは、構成が簡単で、しかも減速機構を用いずに負荷をダイレクトに駆動できることから、ハイパワー化(動作速度やエネルギー効率を向上)することによって、新しい製品への適用が期待できる。例えば、ヒューマノイドロボットの人工筋肉のような用途への適用が期待できる。また、圧電薄膜を利用して超小型化、具体的にはランジュバン振動子を薄膜化、或いは積層せずに構造を単純化することも可能であることから、内視鏡先端部に用いられるアクチュエータ等のマイクロマシンへの応用も期待できる。一方、既存の製品では、例えばカメラの像ブレ補正において、前述のハイパワー化によって、大きなイメージセンサを高速で変位駆動させることが可能になり、またムービー撮影のように連続駆動しても、消費電力や発熱を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る駆動装置である超音波リニアアクチュエータ1の構造を模式的に示す斜視図である。この超音波リニアアクチュエータ1は、固定部材2と、支持板3と、圧電素子4,5と、駆動部材6,7と、被駆動部材8とを備えている。この超音波リニアアクチュエータ1は、大略的に、固定部材2から立設された支持板3の両面に第1の振動子である圧電素子4,5が取付けられ、さらにその圧電素子4,5の先端に駆動部材6,7が取付けられ、少なくとも一方の駆動部材(
図1では6のみ)に、摩擦係合する被駆動部材8が設けられて構成されている。
【0020】
支持板3は、圧電素子4,5や駆動部材6,7の重量を支持することができ、振動伝搬を少なくするために、薄板から形成される。例えば、材料は、ジュラルミンであり、厚みは、0.2mmである。圧電素子4,5は、例えば厚み方向に振動するランジュバン振動子で構成され、その振動方向の一端に駆動部材6,7がそれぞれ固着され、他端が、支持板3の各面にそれぞれ取付けられる。圧電素子4,5の支持板3への接合方法には、接着が採用されているが、より信頼性の高いボルト締めランジュバン振動子のように接合されてもよい。このように構成することで、後述するように駆動回路から相互に等しい駆動信号が入力されることによって、支持板3側では相互に振動を打ち消し合って該支持板3には伝搬せず、発生した振動は、駆動部材6,7側のみに伝搬する。
【0021】
駆動部材6,7は、ロッド状の部材であり、被駆動部材8が所定の摩擦力で係合している。そして、駆動部材6,7は、根元でも先端でも圧電素子4,5の変位を遅れなく伝える必要性から、使用する駆動条件において剛体である材料によって形成されている。なお、被駆動部材8における前記摩擦力は、ばね等による押圧力によって生じる場合に限らず、磁力等によって発生されてもよい。この被駆動部材8は、例えば超音波リニアアクチュエータ1が撮像装置に適用される場合、フォーカシングやズーミングのレンズの保持枠等に連結される。
【0022】
ここで、圧電素子の伸縮を駆動部材に伝え、その駆動部材に所定の摩擦力で係合している被駆動部材を前記圧電素子の伸張時と縮小時との速度差を利用して移動させる超音波リニアアクチュエータにおいて、前記速度差を発生させるための駆動波形である鋸歯状波形について考える。駆動回路から圧電素子に与えられる駆動信号の周波数をfdとし、1次共振周波数をfr1とし、2次共振周波数をfr2とし、駆動電圧の1次成分に対する駆動部材の変位1次成分の位相遅れをθ1とし、駆動電圧の2次成分に対する駆動部材の変位2次成分の位相遅れをθ2とし、駆動部材の変位1次成分に対する変位2次成分の位相遅れをθ2’とし、駆動電圧の1次成分に対する2次成分の調整量をθ2''とする場合に、fr2=2fr1とすると、2次成分に対する位相のずれは、1次成分の2倍で効いてくるので、θ1で規格化すると、θ2’=θ2−2・θ1、またθ2''=―θ2である。
【0023】
そして、駆動周波数fdが1次共振周波数fr1より充分小さい場合には、圧電素子には、鋸歯状波形そのものを入力して駆動する必要がある。この場合、θ1=θ2=0であり、θ2’も0である。これに対して、前記特許文献2では、fd=0.7fr1とすることで、θ1=−20°(遅れ)、θ2=−130°0であり、θ2’=−90°となって、前述の
図24(A)(B)から、(C)のような変位が得られることが利用されている。これに対して、本実施形態の超音波アクチュエータ1は、共振状態では、位相遅れθ1,θ2が共に90°となることを利用して、fd=fr1=0.5fr2とすることで、共振周波数fr1を用いても、1次成分に対する2次成分の位相遅れθ2’が、前記fd=0.7fr1の場合と同様に、−90°となるため、鋸歯状の変位が得られることを利用している。表1は、各駆動条件と位相遅れθ1,θ2,θ2’の関係を示すものである。
【0025】
このため、上述のように構成される超音波リニアアクチュエータ1において、本実施の形態では、後述する駆動回路から圧電素子4,5に与えられる駆動信号に対して、該圧電素子4,5および駆動部材6,7は、少なくとも1次および2次の共振モードを有し、駆動部材6,7の切削や成型等によって、それらの共振周波数が略2倍となるように調整されている。その調整方法を以下に説明する。
【0026】
先ず、
図2(A)に示すように圧電素子4,5単体の場合、それらの圧電素子4,5の長手方向の1次の共振モード(1次モード)と、2次の共振モード(2次モード)とは、薄板から成る支持板3を節として、それぞれ
図2(B)および
図2(C)のようになり、(2次共振モードの周波数fr2)/(1次共振モードの周波数fr1)=3となる。この共振周波数比3を2とすることができれば、前述のように、θ2’=θ2−2・θ1=−90°として、擬似鋸歯状の変位振動を生じさせることができる。
【0027】
そこで、圧電素子4,5の一端にそれぞれ固着される駆動部材6,7の材料には、ジュラルミンが用いられている。また、例えば圧電素子4,5の径は、10mmであり、その長さ(厚み)は、5mmであって、駆動部材6,7の径は、10mmであり、長さは、45mmである。この状態で構成された超音波リニアアクチュエータ1’が
図3に模式的に示されている。ただし、
図3には、被駆動部材8が省略されている。
【0028】
この状態から、
図4(A)に示すように、駆動部材6,7において、その端部から長さWだけその径が細く削られる。前記長さWは、例えば25mmである。この部分を削ることで共振周波数比fr2/fr1を下げることができ、削る量でその下がり方を調整することができる。そのメカニズムは、先ず集中定数回路において、共振周波数frは、下記式(2)で表される。kは、等価ばね定数、mは、等価質量である。
【0029】
fr=1/2π・√(k/m) ・・・(2)
【0030】
一般に、振動体において振動の腹に当たる部分を削る(機械インピーダンスを下げる)と共振周波数frは、高くなり(上式においてmを下げる効果)、振動の節に当たる部分を削っても共振周波数frは、高くなる(上式においてkを下げる効果)。そこで、今回削った前記長さWの部分6a,7aは、
図4(B)で示すように、1次モードに対しては、振動の腹に当たる部分であり、削り取ることで、実線から破線で示すように、共振周波数frが高くなる。一方、
図4(C)で示すように、2次モードに対しては、削り取られる部分6a,7aには、振動の腹および節の両方にあたる部分があり、大きくは変わらない。この削る量と、1次モードおよび2次モードの共振周波数fr1,fr2との関係が
図5(A)に示され、共振周波数比fr2/fr1との関係が
図5(B)に示されている。
【0031】
図6は、圧電素子4,5を駆動するための駆動回路の一構成例である駆動回路9のブロック図である。この駆動回路9は、制御回路90と、発振器92と、分周器93と、移相器94,95と、切換えスイッチ96と、加算器97とを備えている。発振器92は、前記第2共振周波数fr2の信号S2’を発振し、その発振信号S2’は、分周器93に入力される。分周器93は、この発振信号S2’を1/2に分周して前記第1共振周波数fr1の信号S1を生成する。また、発振器92の発振信号S2’は、2つの移相器94,95に共通に入力される。そして、移相器94は、この発振信号S2’の位相を+90°シフトして信号Sを生成し、切換えスイッチ96の一方の個別接点に与え、移相器95は、この発振信号S2’の位相を−90°シフトして信号Sを生成し、切換えスイッチ96の他方の個別接点に与える。制御回路90は、被駆動部材8の移動方向に応じて、切換えスイッチ96を切換え、こうして、周波数がfr2であって、位相が相互に180°ずれ、かつ第1共振周波数fr1の信号から位相が90°ずれた信号S2が選択されて加算器97に入力される。加算器97は、前記第1共振周波数fr1の信号S1に、+90°または−90°の第2共振周波数fr2の信号S2を加算し、これを前記圧電素子4,5に出力する。
【0032】
図14は、上述のような駆動回路9の動作波形図である。先ず、
図14(A)および
図14(B)は、それぞれ周波数fr1,fr2の正弦波信号S1,S2’であり、それらの位相は、相互に同期しているものとする。これらを同相で相互に加算すると、その振幅は、
図14(C)で示すようになる。
図14(C)は、正弦波信号S1,S2’の振幅比は2:1であるが、
図14(D)は、第2共振周波数fr2の信号S2’のレベルを小さく(前記振幅比を大きく)したものである。こうして、鋸歯状(三角)波形が作成され、被駆動部材8が駆動される。そして、前記信号S2’をシフトさせて行くと、
図14(E)から
図14(F)で示すようになる。
【0033】
したがって、被駆動部材を駆動するために、
図14(C)や
図14(D)で示す波形が用いられるが、このような波形を圧電素子に入力して、被駆動部材に同様の変位を行わせることができる場合は、fd≪fr1の場合である。実際には、前記特許文献2のように、fd≒0.7fr1や本実施の形態のようにfd=fr1となると、2次モードの位相遅れが大きくなり、被駆動部材8に所望とする変位波形に対して、圧電素子4,5に入力すべき波形は、表2および表3の通りとなる(
図6の駆動回路9における駆動波形は、1次+2次正弦波のみの欄で示している)。
【0036】
一方、
図7(A)は、圧電素子4,5を駆動するための駆動回路の他の構成例である駆動回路9aのブロック図である。この駆動回路9aは、いわゆるHブリッジ回路であり、+Vの電源ラインと接地ラインとの間に接続される、p型のFETQ1およびn型のFETQ2の直列回路ならびに同様のp型のFETQ3およびn型のFETQ4の直列回路を備えて構成され、それらの中点間を連結するように圧電素子4,5が接続されている。前記各FETQ1〜Q4は、制御回路91によってON/OFF制御される。
【0037】
制御回路91から各FETQ1〜Q4に出力される制御信号S1〜S4およびそれによる各FETQ1〜Q4のON/OFFによって圧電素子4,5の両端子間に印加される電圧Vsの態様は、例えば
図8で示す通りである。この
図7(A)に示す例では、前記Hブリッジの対角位置に設けられるFETQ1,Q4およびFETQ2,Q3は、それぞれ同相で駆動されるとともに、FETQ1,Q4とFETQ2,Q3とは、相互に逆相で駆動される。これによって、圧電素子4,5には矩形波の駆動信号が印加され、
図8で示すように、そのデューティを0.3程度とすることで被駆動部材8が一方方向に駆動され、0.7程度とすることで被駆動部材8が他方方向に駆動される。
【0038】
このように構成される駆動回路9aにおいて、被駆動部材8に所望とする変位波形に対して、圧電素子4,5に入力すべき波形は、表2および表3の通りとなる(Hブリッジ回路を使用の欄で示している)。ここで、前記特許文献2では、鋸歯状の変位波形に対して、矩形波が同相(デューティが0.3)であったのに対し、本実施の形態の駆動装置1の場合は、前記駆動回路9の場合と同様で、逆相(デューティが0.7)となっている。したがって、逆方向駆動の場合は、デューティが0.3となる。
【0039】
このように本実施形態では、圧電素子4,5の伸縮をロッド状の駆動部材6,7に伝え、その駆動部材6に所定の摩擦力で係合している被駆動部材8を、圧電素子4,5の伸張時と縮小時との速度差を利用して移動させる超音波リニアアクチュエータ1において、駆動回路9,9aから圧電素子4,5には駆動部材6と被駆動部材8との係合部分に前記速度差を生じさせる擬似鋸歯状の変位振動を生じさせるために、以下の構成が採用されている。
【0040】
すなわち、前記擬似鋸歯状の変位振動を生じさせるために、少なくとも基本周波数での振動に、その2倍の周波数の高調波での振動が重畳される。従来では、前記矩形波の駆動信号を系の共振周波数の0.7倍程度とすることによって(共振周波数を跨いで)、その高調波の振動が得られていたのに対して、本実施形態では、前記駆動信号は、共振周波数比fr2/fr1が略2となる2つの共振周波数fr1,fr2の成分を含む信号とされ、圧電素子4,5および駆動部材6,7の形状を調整して、それらがこの2つの共振周波数fr1,fr2で共振するようにされている。
【0041】
したがって、圧電素子4,5および駆動部材6,7を共振状態で使用することができ、変位振動を振幅拡大係数のQ倍に増大することができる。すなわち、前記式1から、下式(3)に変化させることができる。
【0042】
y=−Q{sin(ωt)−0.25・sin(2ωt)} ・・・(3)
【0043】
こうして、本実施形態の超音波リニアアクチュエータ1は、アクチュエータの動作速度を向上することができるとともに、投入エネルギーの多くが機械振動に使われるようになり、エネルギー効率を向上することができる。これによって、該超音波リニアアクチュエータ1を小型化することができ、或いはトルクを増大して、新規用途等へも使用することができる。
【0044】
なお、上述の駆動回路9aにおいて、電源短絡が生じないように、総てのFETQ1〜Q4がOFFしているデッドタイムが設けられてもよい。またこれを利用して、前記矩形波も、電源電圧を前記+Vとするとき、−V,0,+Vの3値で発生させ、例えば
図14(G)で示すような電圧を与える波形であってもよい。その場合、圧電素子4,5に入力される電圧自体が前記擬似鋸歯状波形に近くなって、1次モードと2次モードとの位相条件を合わせることができる。また、前記FETQ1〜Q4に代えて、バイポーラのトランジスタ等を用い、
図14(H)で示すような三角波電圧が与えられてもよい。
【0045】
また、前記駆動回路は、
図7(A)で示す駆動回路9aに限らず、
図7(B)で示す駆動回路9bのような、単純なプッシュプルの回路で構成されてもよい。この駆動回路9bでは、圧電素子4,5への印加電圧Vsが+Vであるのに対して、
図7(A)で示すHブリッジ回路9aは、圧電素子4,5に2倍の電圧+2Vを印加することができ、また、前記3値の電圧を発生することもできる。
【0046】
また、本実施形態の超音波リニアアクチュエータ1では、ロッド状の駆動部材6,7において、振動の腹に当たる部分を削る(機械インピーダンスを下げる)ことでその共振周波数frが高くなることを利用して、1次の共振モードについては共振の腹となり、2次の共振モードでは共振の腹および節となる所定範囲Wを切削等で小径に形成するので、2次の共振モードでの共振周波数fr2は、そのままに、1次の共振モードでの基本共振周波数fr1を高くして、それらの共振周波数比fr2/fr1を、前記擬似鋸歯状の変位振動を効率良く生じさせる2倍とすることができる。
【0047】
次に、別の実施形態について説明する。
【0048】
(第2実施形態)
図9(A)は、第2実施形態に係る駆動装置である超音波リニアアクチュエータの構造を模式的に示す側面図である。この超音波リニアアクチュエータ11において、前述の
図1および
図4で示す超音波リニアアクチュエータ1に類似し、対応する部分には、同一の参照符号が付され、その説明が省略される。この超音波リニアアクチュエータ11では、ロッド状の駆動部材16は、少なくとも前記所定範囲Wにおいてその側面が連続曲面となっている、すなわち前記径が軸方向に滑らかに(連続的に)変化している。
【0049】
図9(A)では、駆動部材16のほぼ全長に亘ってその側面が連続曲面となっているので、該駆動部材16の先端には、さらに一定の径の駆動部材17が連結されており、この駆動部材17によって被駆動部材8が駆動される。このため、
図9(B)および
図9(C)で示すように、駆動部材16は、前述の駆動部材6,7と同様に1次および2次の共振モードが生じる弾性体であり、これに対して駆動部材17は、2つの共振モードの周波数域fr1,fr2において剛体として振舞う材料で形成され、駆動部材17の材料には、弾性率が高いことが求められる。また、これらの駆動部材16,17の先端での負荷を減らすために、駆動部材17には密度が低いことが求められる。そこで、前述のように駆動部材16には例えばジュラルミンが用いられ、駆動部材17には例えばカーボン繊維が用いられる。ただし、駆動部材17を連結することで、適正な駆動部材16の形状が変化するので、駆動部材17を連結した状態で、共振周波数の比fr2/fr1が2となるように、該駆動部材16の形状が適正化される。
【0050】
このように構成することで、超音波リニアアクチュエータ11では、該駆動部材16を前記2倍の共振周波数比が生じる最適形状に形成し、段差が無く、応力集中を避けることができ、信頼性を向上することができるとともに、振動ロスも小さく(Qが高い)共振による速度性能の向上をより期待することができる。
【0051】
また、この超音波リニアアクチュエータ11では、圧電素子4から駆動部材16,17が延びて形成される場合に、それらは、1組だけ設けられ、該圧電素子4は、前記振動方向の一端が固定物13に固定される。すなわち、圧電素子4および駆動部材16,17の支持部材として、密度が高く、弾性率が高い材料、例えばタングステンから形成され、それらの構成よりも充分重量が大きい固定物が用いられる。
【0052】
このように構成することで、圧電素子4の発生する振動を、駆動部材16,17側に伝搬させるために、圧電素子4および駆動部材16,17と同様の構成をもう1組設ける必要がなく、構成を小型化することができる。
【0053】
次に、別の実施形態について説明する。
【0054】
(第3実施形態)
図10および
図11は、第3実施形態に係る駆動装置である超音波モータの構造を模式的に示す側面図である。これらの超音波モータ1a,11aにおいて、前述の
図1,
図4および
図9で示す超音波リニアアクチュエータ1,11に類似し、対応する部分には、同一の参照符号が付され、その説明が省略される。これらの超音波モータ1a,11aでは、被駆動部材28は、その外周面が駆動部材6,16への係合部分となる回転体28aと、その回転軸となる出力取出し軸28bとを備えて構成されている。出力取出し軸28bは、一対のブラケット28cによって回転自在に枢支されており、そのブラケット28cは、支持部材28dによって、固定部材2等の固定位置から駆動部材6,16側に弾発的に付勢されている。
【0055】
このように構成することで、駆動部材6,16の前記振動方向への変位、すなわちリニアの変位は、高速の回転変位に変換して取出される。なお、超音波モータ11aにおいて、回転体28aへの係合部分は、微小であるので、その間の駆動部材16の曲面の影響は、支持部材28dの弾発力等で吸収できるものとして、
図11の例では駆動部材17が連結されていないけれども、曲面の傾斜が急であったり、該駆動部材16の振幅(ストローク)が大きかったりして、影響が生じる場合には、駆動部材17が連結されていてもよい。
【0056】
次に、別の実施形態について説明する。
【0057】
(第4実施形態)
図12は、第4実施形態に係る駆動装置である超音波リニアアクチュエータの構造を模式的に示す斜視図であり、
図13は、その断面図である。この超音波リニアアクチュエータ21において、前述の
図1,
図4および
図9で示す超音波リニアアクチュエータ1,11に類似し、対応する部分には、同一の参照符号が付され、その説明が省略される。この超音波リニアアクチュエータ21では、圧電素子として、共振周波数fr1,fr2をそれぞれ有する第1の圧電素子24,25および第2の圧電素子27が設けられ、圧電素子24,27間は、連結部材26で連結されている。
【0058】
より具体的には、前記薄板から成る支持板3の両面に、その一端が取付けられる圧電素子24,25の内、圧電素子25は、前述の圧電素子5と同様に、支持板3に対する振動除去用のダミーであり、圧電素子24の他端には、連結部材26の一端が固着される。この連結部材26の他端は、大径の頭部26aとなっており、その頭部26aは、筒状に形成される圧電素子27の内周面27bに嵌め込まれ、該圧電素子27の長さ方向(前記振動方向)の中間位置で固着されている。したがって、圧電素子24の振動は、連結部材26を介して、そのまま圧電素子27の前記中間位置に伝達される。一方、圧電素子27の連結部材26とは反対側の端面には、駆動部材17と同様にカーボン繊維から成る駆動部材29が連結され、この駆動部材29に被駆動部材8が摩擦係合する。
【0059】
そして、この超音波リニアアクチュエータ21では、発振器等を備える駆動回路から、駆動信号として、第1の圧電素子24,25には共振周波数fr1の正弦波信号が与えられ、第2の圧電素子27には共振周波数fr2の正弦波信号が位相調整されて与えられる。すなわち、第1の圧電素子24にy1の変位を与えると、
図13のA部には、y1の変位が生じる。さらに第2の圧電素子27にy2の変位を与えると、B部には、y1+y2の変位が生じる。このように2つの圧電素子24,27を用いることでも変位を重畳することができる。例えば、第1の圧電素子24,25の共振周波数fr1は、100kHzとなるように、そして、第2の圧電素子27の共振周波数fr2は、200kHzとなるように、それぞれ圧電素子長が調整されている。ここで、圧電素子24,25および圧電素子27に印加する電圧をそれぞれV1,V2とする場合に、下記式で表される電圧をそれぞれ印加することで、どちらの圧電素子24,25;27も共振した状態となり、B部において鋸歯状変位が得られる。
【0060】
V1=−sin(2π・100k・t)
V2=−0.25*sin(2π・200k・t)
【0061】
このように本実施形態では、圧電素子4,5の伸縮をロッド状の駆動部材29に伝え、その駆動部材29に所定の摩擦力で係合している被駆動部材8を、前記圧電素子4,5の伸張時と縮小時との速度差を利用して移動させる超音波リニアアクチュエータ21において、駆動部材29と被駆動部材8との係合部分に前記速度差を生じさせる擬似鋸歯状の変位振動を生じさせるために、以下の構成が採用される。
【0062】
すなわち、2つの圧電素子24,27が備えられ、それらの間を連結部材26が連結し、第1の圧電素子24を固定側とし、第2の圧電素子27を駆動側としてそれに固着した駆動部材29に被駆動部材8が所定の摩擦力で係合する。そして、図示しない駆動回路から第1および第2の圧電素子24,27には、それぞれ位相調整された正弦波の駆動信号が与えられる。これによって第1の圧電素子24および連結部材26の基本共振周波数fr1での共振と、第2の圧電素子27による基本共振周波数fr1の2倍の周波数fr2での共振とが重畳され、この結果、駆動部材29と被駆動部材8との係合部分に擬似鋸歯状の変位振動が生じ、前記速度差が生じる。
【0063】
したがって、この超音波リニアアクチュエータ21では、第1および第2の圧電素子24,27および連結部材26を共振状態で使用することができ、前記変位振動を振幅拡大係数のQ倍に増大し、動作速度を向上することができるとともに、投入エネルギーの多くが機械振動に使われるようになり、エネルギー効率を向上することができる。これによって、超音波リニアアクチュエータ21を小型化することができ、或いはトルクを増大して、新規用途等へも使用することができる。
【0064】
この超音波リニアアクチュエータ21も、前述の
図10および
図11で示す超音波モータ1a,11aと同様に、被駆動部材8に代えて、回転体28aおよび出力取出し軸28bを備えて構成される被駆動部材28を用いることで、
図15で示すような超音波モータ21aとされてもよい。これによって回転変位が出力される。
【0065】
次に、別の実施形態について説明する。
【0066】
(第5実施形態)
図16は、第5実施形態に係る駆動装置であるリニアアクチュエータの構造を模式的に示す側面図である。このリニアアクチュエータ31は、前述の
図9(A)に示す超音波リニアアクチュエータ11に類似し、対応する部分には、同一の参照符号が付され、その説明が省略される。このリニアアクチュエータ31では、振動子にボイスコイルモータ34が用いられている。
【0067】
すなわち、上述の圧電素子4,5;24,25等は、変位を出力(力を出力)するために用いているだけである。そのため、振動子は、圧電素子に限らず、他の機械出力素子でも実現可能である。そこで、本実施形態では、圧電素子と同じ固体アクチュエータである磁歪素子の一例である上記ボイスコイルモータ34が用いられている。このボイスコイルモータ34の他にも、超磁歪素子等の電磁アクチュエータや、静電気アクチュエータに対しても同様の駆動原理を適応可能である。上記ボイスコイルモータ34の場合、その周波数応答が低いので、駆動部材16は、共振を生じさせるために、剛性の低い材料が用いられる。このため、プラスチックが用いられる。
【0068】
次に、別の実施形態について説明する。
【0069】
(第6実施形態)
図17は、第6実施形態に係る駆動装置である超音波リニアアクチュエータの構造を模式的に示す断面図である。この超音波リニアアクチュエータ21aにおいて、前述の
図13に示す超音波リニアアクチュエータ21に類似し、対応する部分には、同一の参照符号が付され、その説明が省略される。この超音波リニアアクチュエータ21aでは、第2の圧電素子27aは、第1の圧電素子24より大径に形成され、第1の圧電素子24を内挿している。
【0070】
より具体的には、連結部材29は、第1の圧電素子24より大径の円板状に形成され、第1の圧電素子24の一端に固着され、記第2の圧電素子27aは、連結部材29および第1の圧電素子24を内挿する筒状に形成され、その振動方向の中点が連結部材29の外周縁部に固着され、第1の圧電素子24とは反対側の端部に駆動部材28が取付けられて被駆動部材8との係合部分となっている。
【0071】
このように構成することで、この超音波リニアアクチュエータ21aは、第2の圧電素子27aの第1の圧電素子24に対する支持強度を高めることができる。
【0072】
次に、別の実施形態について説明する。
【0073】
(第7実施形態)
図18(A)は、第7実施形態に係る駆動装置である超音波リニアアクチュエータの構造を模式的に示す斜視図であり、
図18(B)は、その断面図である。この超音波モータ41において、前述の
図13および
図17に示す超音波リニアアクチュエータ21,21aに類似し、対応する部分には、同一の参照符号が付され、その説明が省略される。この超音波リニアアクチュエータ41では、2つの圧電素子24,27を用いる場合に、第1の圧電素子24と第2の圧電素子27との間に、ロッド状に形成され、そのロッドの先端が第1の圧電素子に固着される第1の駆動部材46が備えられる。そして、第2の圧電素子27および第2の駆動部材47は、第1の駆動部材46を内挿する筒状に形成され、第2の駆動部材47は、その内周面で第1の駆動部材46の外周面に摩擦係合するとともに、第2の圧電素子27は、第2の駆動部材47の第1の圧電素子24とは反対側の端部に固着される。
【0074】
このように構成することによって、この超音波リニアアクチュエータ41も、正弦波信号が入力される2つの圧電素子24,25;27を用いて、共振振動を重畳することができる。ここでは、第1の駆動部材46は、単純な正弦波駆動を行い、第2の駆動部材47も周波数が2倍の単純な正弦波振動を行う。そして、それらの摩擦係合部分には相対的に擬似鋸歯状変位が生じ、第1の圧電素子24および第1の駆動部材46側と、第2の圧電素子27および第2の駆動部材47側とは、振動方向に相対的に移動する(上記の場合、第1の圧電素子24および第1の駆動部材46側は、固定部材2から立設された支持板3に固定されているので、第2の圧電素子27および第2の駆動部材47側が被駆動部材となって移動する)。
【0075】
なお、圧電素子24,25;27の部分は、必ずしも全長が圧電素子である必要はなく、共振駆動するのであれば、
図19に示す超音波リニアアクチュエータ41aのように、中央部のみが圧電素子24a,25a;27aとされ、その両側には振動伝達部材48,49が設けられてもよい。
【0076】
上述のような各実施形態で示した共振モードは、縦振動であるが、本実施形態に利用できる共振モードは、横振動、撓み振動、ねじり振動等のいずれのものでもよく、また縦振動と撓み振動等、別の振動モードが組み合わされてもよい。
【0077】
また、従来の超音波リニアアクチュエータでは、高変位を取り出すために圧電定数の大きな材料を使うことが多かったけれども、該圧電定数の大きな材料は、共振した場合のQが一般に低く、本実施形態の超音波リニアアクチュエータでは、圧電定数は、低くとも、共振した場合のQが高いハード系の圧電素子が望ましい。例えば、前記Q値は、一実施例では1000以上であり、少なくとも100以上が望ましい。さらにまた、従来の超音波リニアアクチュエータでは、高速を得るために高変位が可能な積層圧電素子を用いることが多かったけれども、本実施形態の超音波リニアアクチュエータでは、より安価なバルクの圧電素子等でも充分にハイパワーなアクチュエータを実現することができ、また微小な圧電素子を用いても充分な駆動性能を実現することができる。
【0078】
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0079】
一態様にかかる駆動装置は、振動方向として所定の方向に振動する第1の振動子と、前記第1の振動子の振動方向の一端に取付けられて該第1の振動子により前記振動方向に変位駆動される駆動部材と、前記駆動部材に所定の摩擦力で係合している被駆動部材と、前記第1の振動子に駆動信号を与えて振動させる駆動回路とを備え、前記第1の振動子は、系において少なくとも1次および2次の共振モードを有し、かつ1次共振モード周波数に対して2次共振モード周波数が略2倍の周波数となるように形成され、前記駆動回路は、前記略2倍の周波数の関係を有する1次および2次の共振モードの周波数に略一致した成分を重畳した信号を前記駆動信号として前記第1の振動子に与えることで、前記駆動部材と前記被駆動部材との係合部分に共振によって拡大した擬似鋸歯状の変位振動を生じさせ、前記被駆動部材を前記振動方向に移動させる。そして、好ましくは、上述の駆動装置において、前記被駆動部材は、前記第1の振動子の変位における伸張時と縮小時との速度差を利用することで移動するものである。
【0080】
この構成によれば、圧電素子等の第1の振動子の伸縮を駆動部材に伝え、その駆動部材に所定の摩擦力で係合している被駆動部材を、前記第1の振動子の伸張時と縮小時との速度差を利用して移動させる超音波リニアアクチュエータ等として実現される駆動装置において、前記駆動部材と被駆動部材との係合部分に前記速度差を生じさせる擬似鋸歯状の変位振動を生じさせるために、以下の構成が採用される。
【0081】
すなわち、前記擬似鋸歯状の変位振動を生じさせるために、少なくとも基本周波数での振動に、その2倍の周波数の高調波での振動が重畳されればよく、従来では、その高調波の振動は、振動子に矩形波の駆動信号を与えて、その周波数を系の共振周波数の0.7倍程度とすることで得られていたのに対し、本実施形態では、1次共振モードの周波数に対して、2次共振モードの周波数がその略2倍の周波数となるように、前記第1の振動子および駆動部材の形状が調整されるとともに、駆動回路から第1の振動子に与える駆動信号も、それら2つの共振モードの周波数に略一致した成分を重畳した信号とされる。
【0082】
したがって、このような構成の駆動装置は、該駆動装置を共振状態で使用することができ、前記変位振動を振幅拡大係数のQ倍に増大し、動作速度を向上することができるとともに、投入エネルギーの多くが機械振動に使われるようになり、エネルギー効率を向上することができる。これによって、前記駆動装置等を小型化することができ、或いはトルクを増大して、新規用途等へも使用することができる。
【0083】
また、他の一態様では、上述の駆動装置において、前記駆動部材は、ロッド状であり、その第1の振動子とは反対側の端部からの所定範囲が小径に形成される。これによって、機械インピーダンスを下げ、この結果、前記2次の共振モードは、1次の共振モードの2倍に設定される。
【0084】
この構成によれば、ロッド状の駆動部材において、振動の腹に当たる部分を削る(機械インピーダンスを下げる)ことで、その共振周波数が高くなることを利用して、1次の共振モードでは共振の腹となるとともに、2次の共振モードでは共振の腹および節となる所定範囲が、切削等で小径に形成される。
【0085】
したがって、2次共振周波数は、そのままに、1次共振周波数を高くして、それらの共振モード間の周波数比は、前記擬似鋸歯状の変位振動を効率良く生じさせる略2倍とされる。なお、前記駆動部材の材料を軸方向の途中から変えることによって機械インピーダンスが下げられてもよい。
【0086】
また、他の一態様では、上述の駆動装置において、前記駆動部材は、ロッド状であり、少なくとも前記所定範囲では、その側面が連続曲面となっている、すなわち前記径が軸方向に滑らかに(連続的に)変化している。
【0087】
この構成によれば、駆動部材は、前記略2倍の周波数比が生じる最適形状に形成され、段差が無く、応力集中を避けることができ、信頼性を向上することができる。
【0088】
また、他の一態様では、これら上述の駆動装置において、前記駆動回路は、Hブリッジ回路を備え、前記駆動信号として、矩形波または3値の階段状波を発生する。
【0089】
この構成によれば、駆動回路がHブリッジ回路を備えることで、そのHブリッジの中点間を連結するように設けられる第1の振動子には、Hブリッジの両端間に印加される電源電圧をVとする場合に、2倍の電圧2Vを印加することができる。
【0090】
したがって、このような構成の駆動装置は、大きな振動振幅を得ることができる。
【0091】
また、他の一態様にかかる駆動装置は、振動方向として所定の方向に振動する第1の振動子と、前記第1の振動子の振動方向の一端側に設けられて該第1の振動子により前記振動方向に変位駆動されるとともに、自身も前記所定の方向に振動する第2の振動子と、前記第2の振動子またはそれに連結される駆動部材に所定の摩擦力で係合している被駆動部材と、前記第1および第2の振動子にそれぞれ駆動信号を与えて振動させる駆動回路とを備え、前記第1および第2の振動子は、系においてそれぞれ共振モードを有し、かつ前記第1の振動子と前記第2の振動子との共振モード周波数の比が略2倍の周波数となるように形成され、前記駆動回路は、前記略2倍の周波数の関係を有する1次および2次の共振モードの周波数に略一致した成分を有する信号を前記駆動信号として前記第1および第2の振動子にそれぞれ与えることで、前記第2の振動子または前記駆動部材と前記被駆動部材との係合部分に共振によって拡大した擬似鋸歯状の変位振動を生じさせ、前記被駆動部材を前記振動方向に移動させる。
【0092】
この構成によれば、超音波リニアアクチュエータ等として実現される駆動装置において、圧電素子等から成る振動子が2つ設けられ、第1の振動子が固定側とされ、第2の振動子が駆動側とされ、被駆動部材が所定の摩擦力で係合される。そして、第1および第2の振動子の伸張時と縮小時とで速度差を生じさせることで被駆動部材が移動される。そして、前記第1および第2の振動子は、系においてそれぞれ共振モードを有し、かつ第1の振動子と第2の振動子との共振モード周波数の比が略2倍の周波数となるように形成されるとともに、駆動回路からそれら2つの振動子に与える駆動信号も、2つの共振モードの周波数にそれぞれ略一致した成分を有する信号とされる。
【0093】
したがって、このような構成の駆動装置は、該駆動装置を共振状態で使用することができ、前記変位振動を振幅拡大係数のQ倍に増大し、動作速度を向上することができるとともに、投入エネルギーの多くが機械振動に使われるようになり、エネルギー効率を向上することができる。これによって、前記駆動装置等を小型化することができ、或いはトルクを増大して、新規用途等へも使用することができる。
【0094】
また、他の一態様では、上述の駆動装置において、前記2つの振動子を用いる場合に、好ましくは、第1の振動子と第2の振動子との間に介在され、軸部と、該軸部よりも大径の頭部とを有し、前記軸部の先端が前記第1の振動子の一端に固着される連結部材が備えられ、前記第2の振動子は、前記連結部材を内挿する筒状に形成され、その前記振動方向の中点が前記連結部材の頭部に固着され、前記第1の振動子とは反対側の端部が前記被駆動部材との係合部分となる。
【0095】
また、他の一態様では、上述の駆動装置において、前記2つの振動子を用いる場合に、好ましくは、第1の振動子と第2の振動子との間に介在され、前記第1の振動子よりも大径に形成されて該第1の振動子の一端に固着される連結部材が備えられ、前記第2の振動子は、前記連結部材および第1の振動子を内挿する筒状に形成され、その前記振動方向の中点が前記連結部材の外周縁部に固着され、前記第1の振動子とは反対側の端部が前記被駆動部材との係合部分となる。
【0096】
また、他の一態様にかかる駆動装置では、前記2つの振動子を用いる場合に、好ましくは、所定の方向に振動する第1の振動子と、前記第1の振動子の振動方向の一端側に設けられる第1の駆動部材と、前記第1の駆動部材に所定の摩擦力で係合している第2の駆動部材と、前記第2の駆動部材に設けられ、前記第1の振動子と同一方向に振動する第2の振動子と、前記第1および第2の振動子にそれぞれ駆動信号を与えて振動させる駆動回路とが備えられ、前記第1および第2の振動子は、系においてそれぞれ共振モードを有し、かつ前記第1の振動子と第2の振動子との共振モード周波数の比は、略2倍の周波数となるように形成され、前記駆動回路は、前記略2倍の周波数の関係を有する1次および2次の共振モードの周波数に略一致した成分を有する信号を前記駆動信号として前記第1および第2の振動子にそれぞれ与え、これによって前記第1の駆動部材と第2の駆動部材との係合部分に共振によって拡大した擬似鋸歯状の変位振動が生じ、前記第1の振動子および第1の駆動部材と、前記第2の振動子および第2の駆動部材とは、前記振動方向に相対的に移動する。
【0097】
また、他の一態様では、上述の駆動装置において、前記第2の振動子の両端面には、略同径の筒状に形成される振動伝達部材がそれぞれ固着され、前記駆動部材との間には一方の振動伝達部材が介在されることが好ましい。
【0098】
また、他の一態様では、上述の駆動装置において、前記第1の振動子は、前記振動方向の一端が固定物に固定されている。
【0099】
この構成によれば、第1の振動子から駆動部材や連結部材および第2の振動子等が延びて形成される駆動装置において、前記第1の振動子の前記振動方向の一端は、固定物に固定され、他端は、前記駆動部材や連結部材および第2の振動子を接続される。すなわち、該駆動装置の支持部材として、密度が高く、弾性率が高い材料から成り、充分重量が大きい固定物が用いられる。
【0100】
したがって、このような構成の駆動装置は、前記第1の振動子の発生する振動を駆動部材や連結部材側に伝搬させる場合に、該駆動装置と同様の構成をもう1組設ける必要はなく、構成を小型化することができる。
【0101】
また、他の一態様では、これら上述の駆動装置において、前記被駆動部材は、その外周面が前記係合部分となる回転体と、その回転軸となる出力取出し軸とを備えて構成される。
【0102】
この構成によれば、前記被駆動部材の前記振動方向への変位、すなわちリニアの変位を、回転の変位にして取出すことができる。
【0103】
また、他の一態様では、これら上述の駆動装置において、前記第1の振動子は、圧電素子であり、その振幅拡大係数(Q値)が100以上である。
【0104】
この出願は、2010年2月4日に出願された日本国特許出願特願2010−23394を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0105】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。