(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モデルガスは、1.0000よりも大きく1.0150以下の空燃比で燃焼させた前記排気ガスに相当することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ評価方法。
前記サンプルガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の含有量を、化学発光法を用いて測定することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のガスセンサ評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モデルガスを用いたガスセンサの評価には、ガスセンサの評価精度を向上させるために、実車でのセンサ出力特性との相関を向上させることが要求されている。特に、実車の下流側排気ガスの各成分の含有量を測定し、その測定された各成分の含有量に応じて生成したモデルガスを用いた場合、理論空燃比に比べて可燃成分が少ないリーン領域において実車でのセンサ出力特性との相関が十分ではなかった。
【0005】
本発明は、上述した課題を踏まえ、下流側排気ガス用のガスセンサの評価精度を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、内燃機関の排気系における浄化装置よりも排出先側の排気ガスに含まれる酸素(O2)を検出するガスセンサを、モデルガスに対する前記ガスセンサの出力特性に基づいて評価するガスセンサ評価方法が提供される。このガスセンサ評価方法は、前記排気ガスに相当するサンプルガスに含まれる複数の成分であって、少なくとも酸素(O2)および窒素酸化物(NOx)を含む複数の成分について、各成分の含有量を測定し;前記サンプルガスについて測定された前記複数の成分における各成分の含有量に対して、酸素(O2)の含有量の少なくとも一部を、同数の酸素原子を有する窒素酸化物(NOx)に換算して、窒素酸化物(NOx)の含有量を上乗せ増加させると共に、窒素酸化物(NOx)に換算された分に相当する酸素(O2)の含有量を減少させた組成で、前記モデルガスを生成し;前記モデルガスを前記ガスセンサに供給し、該ガスセンサの出力特性を評価する。この形態によれば、下流側排気ガス用のガスセンサの評価精度を向上させることができる。
【0007】
[適用例1]適用例1におけるガスセンサ評価方法は、内燃機関の排気系における浄化装置よりも排出先側の排気ガスに含まれる酸素(O
2)を検出するガスセンサを、モデルガスに対する前記ガスセンサの出力特性に基づいて評価するガスセンサ評価方法であって、前記排気ガスに相当するサンプルガスに含まれる複数の成分であって、少なくとも酸素(O
2)および窒素酸化物(NOx)を含む複数の成分について、各成分の含有量を測定し、前記サンプルガスについて測定された前記複数の成分における各成分の含有量に対して、酸素(O
2)の含有量の少なくとも一部を、同数の酸素原子を有する窒素酸化物(NOx)に換算して、窒素酸化物(NOx)の含有量を上乗せ増加させると共に前記酸素(O
2)の含有量を減少させた組成で、前記モデルガスを生成し、前記モデルガスを前記ガスセンサに供給し、該ガスセンサの出力特性を評価することを特徴とする。
この適用例によれば、酸素(O
2)を窒素酸化物(NOx)で置換したモデルガスの組成を容易に求めることができる。また、排気ガスに相当する成分を含有するサンプルガスのうち、酸素(O
2)の一部を窒素酸化物(NOx)で置換したモデルガスを用いてガスセンサを評価することによって、リーン領域における実車でのセンサ出力特性との相関を向上させることができる。その結果、下流側排気ガス用のガスセンサの評価精度を向上させることができる。
【0008】
[適用例2]適用例1のガスセンサ評価方法において、前記モデルガスの前記組成は、前記サンプルガスについて測定された前記酸素(O
2)の含有量の全てを、同数の酸素原子を有する窒素酸化物(NOx)に換算した組成であるとしても良い。
この適用例によれば、下流側排気ガスに対するセンサ出力との相関を一層向上させることができる。
【0009】
[適用例3]適用例1または適用例2のガスセンサ評価方法において、前記モデルガスは、1.0000よりも大きく1.0150以下の空燃比で燃焼させた前記排気ガスに相当するとしても良い。
この適用例によれば、1.0000よりも大きく1.0150以下のリーン領域でのセンサ出力の相関を向上させることができる。
【0010】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかのガスセンサ評価方法において、前記ガスセンサは、ジルコニア式酸素センサであるとしても良い。
この適用例によれば、下流側排気ガス用のジルコニア式酸素センサの評価精度を向上させることができる。
【0011】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかのガスセンサ評価方法において、前記サンプルガスに含まれる酸素(O
2)の含有量を、磁気圧法を用いて測定しても良い。
この適用例によれば、磁気圧法による酸素の測定結果に基づいて生成したモデルガスを用いた下流側排気ガス用のガスセンサの評価において、評価精度を向上させることができる。
【0012】
[適用例6]適用例1ないし適用例5のいずれかのガスセンサ評価方法において、前記サンプルガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の含有量を、化学発光法を用いて測定しても良い。
この適用例によれば、化学発光法による窒素酸化物の測定結果に基づいて生成したモデルガスを用いた下流側排気ガス用のガスセンサの評価において、評価精度を向上させることができる。
【0013】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかのガスセンサ評価方法において、前記サンプルガスにおける含有量の測定対象となる前記複数の成分は、酸素(O
2)および窒素酸化物(NOx)に加え、更に、二酸化炭素(CO
2)、一酸化炭素(CO)、水素(H
2)、プロパン(C
3H
8)、プロピレン(C
3H
6)、メタン(CH
4)、水(H
2O)、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)の少なくとも1つを含むとしても良い。
この適用例によれば、モデルガスによる下流側排気ガスの再現性を向上させることができる。
【0014】
[適用例8]適用例8のガスセンサ評価装置は、内燃機関の排気系における浄化装置よりも排出先側の排気ガスに含まれる酸素(O
2)を検出するガスセンサを、モデルガスに対する前記ガスセンサの出力特性に基づいて評価するガスセンサ評価装置であって、前記排気ガスに相当するサンプルガスに含まれる複数の成分であって、少なくとも酸素(O
2)および窒素酸化物(NOx)を含む複数の成分、について測定された各成分の含有量に対して、酸素(O
2)の含有量の少なくとも一部を、同数の酸素原子を有する窒素酸化物(NOx)に換算して、窒素酸化物(NOx)の含有量を上乗せ増加させると共に前記酸素(O
2)の含有量を減少させた組成で、前記モデルガスを生成するガス生成部と、前記モデルガス生成部によって生成した前記モデルガスを前記ガスセンサに供給するガス供給部とを備えることを特徴とする。
この適用例によれば、酸素(O
2)を窒素酸化物(NOx)で置換したモデルガスの組成を容易に求めることができる。また、排気ガスに相当する成分を含有するサンプルガスのうち、酸素(O
2)の一部を窒素酸化物(NOx)で置換したモデルガスを用いてガスセンサを評価することによって、リーン領域における実車でのセンサ出力特性との相関を向上させることができる。その結果、下流側排気ガス用のガスセンサの評価精度を向上させることができる。
【0015】
[適用例9]適用例9のガスセンサ評価装置において、前記モデルガスの前記組成は、前記サンプルガスについて測定された前記酸素(O
2)の含有量の全てを、同数の酸素原子を有する窒素酸化物(NOx)に換算した組成であるとしても良い。
この適用例によれば、下流側排気ガスに対するセンサ出力との相関を一層向上させることができる。
【0016】
本発明の形態は、ガスセンサ評価方法およびガスセンサ評価装置の形態に限るものではなく、例えば、ガスセンサ評価用コンピュータの制御方法、ガスセンサの製造方法、ガスセンサなどの種々の形態に適用することも可能である。また、本発明は、前述の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A−1.ガスセンサの構成:
図1は、評価対象の一例であるガスセンサ10の断面構成を示す説明図である。
図2は、ガスセンサ10の使用態様の一例を示す説明図である。
図1には、ガスセンサ10の中心軸である軸線CAに沿って切断したガスセンサ10の断面を図示した。本実施形態の説明では、ガスセンサ10の紙面下方側を「先端側」といい、ガスセンサ10の紙面上方側を「後端側」という。
【0019】
ガスセンサ10は、内燃機関の排気系900に装着され、排気ガスに含まれる酸素(O
2)を検知する酸素センサである。本実施形態では、ガスセンサ10は、ジルコニア(二酸化ジルコニウム(ZrO
2))を利用したジルコニア式酸素センサである。
【0020】
図2に示すように、本実施形態では、ガスセンサ10は、排気系900における浄化装置920よりも排出先側(排気ガスの流れの下流側)に位置する排気管930に装着され、浄化装置920よりも排出先側の排気ガス(下流側排気ガス)に含まれる酸素を検出する。本実施形態では、ガスセンサ10の先端側は、排気管930の内側に挿入され、ガスセンサ10の後端側は、排気管930の外側に配置される。本実施形態では、排気系900の浄化装置920は、排気マニホールド910の下流側に設けられた三元触媒であり、浄化装置920の下流側には、順に、排気管930、消音器940、排気管950が設けられている。
【0021】
図1に示すように、ガスセンサ10は、センサ素子100と、発熱体150と、主体金具200と、プロテクタ300と、外筒410と、第1出力端子520と、第2出力端子530と、第1リード線570と、第2リード線580、第3リード線590とを備える。
【0022】
ガスセンサ10のセンサ素子100は、酸素分圧に応じた起電力を出力する酸素濃淡電池を構成する。センサ素子100は、固体電解質体110と、内側電極120と、外側電極130とを備える。
【0023】
センサ素子100の固体電解質体110は、酸化物イオン伝導性(酸素イオン伝導性)を有する材料からなり、軸線CAに沿って延伸し先端側が閉塞した有底筒状に形成されている。本実施形態では、固体電解質体110の材料は、酸化イットリウム(Y
2O
3)を添加した酸化ジルコニウム(ZrO
2)、すなわち、イットリア部分安定化ジルコニアである。他の実施形態では、固体電解質体110の材料は、酸化カルシウム(CaO)や、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等から選択される酸化物を添加した部分安定化ジルコニアであっても良い。
【0024】
センサ素子100の内側電極120は、固体電解質体110の内側を覆うように形成されている。センサ素子100の外側電極130は、固体電解質体110の外側を覆うように形成されている。本実施形態では、内側電極120および外側電極130の材料は、白金(Pt)であるが、他の実施形態では、白金合金であっても良いし、他の貴金属や、他の貴金属合金であっても良い。本実施形態では、内側電極120および外側電極130は、無電解メッキによって形成されている。
【0025】
ガスセンサ10の発熱体150は、センサ素子100の内側に設けられ、第3リード線590を介した電力に基づいて発熱し、センサ素子100を加熱する。本実施形態では、ガスセンサ10の精度を向上させるために、第3リード線590から発熱体150に供給される電力を調整することによって、センサ素子100の温度は一定に維持される。
【0026】
ガスセンサ10の主体金具200は、円筒状の金属部材である。主体金具200の内側には、センサ素子100が保持される。主体金具200の外周には、ネジ部210が形成されており、ガスセンサ10は、ネジ部210を介して排気管930に取り付けられる。
【0027】
ガスセンサ10のプロテクタ300は、有底円筒状の金属部材である。プロテクタ300は、主体金具200の先端側から突出したセンサ素子100を覆うように主体金具200の先端側に固設され、センサ素子100を保護する。プロテクタ300には、センサ素子100へと排気ガスを導入可能に貫通孔311,312が形成されている。
【0028】
ガスセンサ10の外筒410は、円筒状の金属部材である。外筒410は、主体金具200の後端側から突出したセンサ素子100、発熱体150、第1出力端子520および第2出力端子530を覆うように、主体金具200の後端側に固設され、センサ素子100、発熱体150、第1出力端子520および第2出力端子530を保護する。
【0029】
本実施形態では、センサ素子100は、センサ素子100の内側に外気を導入可能に構成されている。センサ素子100の内側に導入された外気は、ガスセンサ10が排気ガスから酸素を検知するための基準となる基準ガスとして利用される。
【0030】
ガスセンサ10の第1出力端子520は、センサ素子100に形成された内側電極120と、第1リード線570との間を、電気的に接続する導体である。ガスセンサ10の第2出力端子530は、センサ素子100に形成された外側電極130と、第2リード線580との間を、電気的に接続する導体である。ガスセンサ10の第1リード線570および第2リード線580は、ガスセンサ10からのセンサ出力を処理する処理回路(図示しない)へと電気的に接続される。
【0031】
ガスセンサ10では、内側電極120は、基準ガスである外気に曝される基準電極として機能し、外側電極130は、排気ガスに曝される検出電極として機能する。これによって、センサ素子100には、基準ガスと排気ガスとの間の酸素濃度差に応じた起電力が発生する。このセンサ素子100の起電力は、第1リード線570および第2リード線580を介してガスセンサ10の外部へと、センサ出力として出力される。
【0032】
A−2.ガスセンサ評価装置の構成:
図3は、ガスセンサ評価装置60の構成を示す説明図である。ガスセンサ評価装置60は、排気ガスを模したモデルガスに対するガスセンサ10のセンサ出力特性に基づいてガスセンサ10を評価する。本実施形態では、ガスセンサ評価装置60は、ガスセンサ10による酸素の検出対象である排気ガスに相当するサンプルガスに含まれる複数の成分について測定された各成分の含有量のうち、酸素(O
2)の含有量を減少させると共に窒素酸化物(NOx)の含有量を増加させた組成で、モデルガスを生成可能に構成されている。
【0033】
ガスセンサ評価装置60は、評価制御部610と、ガス分析部630と、結果出力部680と、ガス生成部700と、ガス供給部800とを備える。ガスセンサ評価装置60では、ガス生成部700によって生成されたモデルガスが、ガス供給部800に取り付けられた評価対象となるガスセンサ10に供給される。
【0034】
ガスセンサ評価装置60のガス生成部700は、評価制御部610からの制御信号に基づいてモデルガスを生成する。ガス生成部700は、貯蔵部711〜719と、流量調整部731〜739とを備える。
【0035】
ガス生成部700の貯蔵部711は、窒素(N
2)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部731は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部711からのガス供給部800へと供給される窒素の流量を調整する。
【0036】
ガス生成部700の貯蔵部712は、二酸化炭素(CO
2)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部732は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部712からガス供給部800へと供給される二酸化炭素の流量を調整する。
【0037】
ガス生成部700の貯蔵部713は、酸素(O
2)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部733は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部713からガス供給部800へと供給される酸素の流量を調整する。
【0038】
ガス生成部700の貯蔵部714は、一酸化炭素(CO)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部734は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部714からガス供給部800へと供給される一酸化炭素の流量を調整する。
【0039】
ガス生成部700の貯蔵部715は、水素(H
2)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部735は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部715からガス供給部800へと供給される水素の流量を調整する。
【0040】
ガス生成部700の貯蔵部716は、プロパン(C
3H
8)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部736は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部716からガス供給部800へと供給されるプロパンの流量を調整する。
【0041】
ガス生成部700の貯蔵部717は、メタン(CH
4)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部737は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部717からガス供給部800へと供給されるメタンの流量を調整する。
【0042】
ガス生成部700の貯蔵部718は、一酸化窒素(NO)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部738は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部718からガス供給部800へと供給される一酸化窒素の流量を調整する。
【0043】
ガス生成部700の貯蔵部719は、水(H
2O)を貯蔵するタンクである。ガス生成部700の流量調整部739は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、貯蔵部719からガス供給部800へと供給される水分量を調整する。本実施形態では、流量調整部731,732,733から供給される窒素、二酸化炭素、酸素の少なくとも一つを含むガスに対して、流量調整部739によって水分を加える。
【0044】
ガスセンサ評価装置60のガス供給部800は、ガス生成部700によって生成されたモデルガスを、評価対象となるガスセンサ10に供給する。ガス供給部800は、評価用排気管810と、発熱部820とを備える。
【0045】
ガス供給部800の評価用排気管810は、実車の排気管930を模した金属製の筒状体であり、評価用排気管810の中にはモデルガスが流される。評価用排気管810におけるモデルガスの流れの上流側には、発熱部820が設けられている。評価用排気管810におけるモデルガスの流れの下流側は、評価対象となるガスセンサ10を取付可能に構成されている。
【0046】
本実施形態では、ガス生成部700における流量調整部731〜739から供給される窒素、二酸化炭素、酸素、一酸化炭素、水素、プロパン、メタン、一酸化窒素、水の少なくとも一つを含むガスは、発熱部820よりも上流側から評価用排気管810に導入される。
【0047】
ガス供給部800の発熱部820は、評価制御部610からの制御信号に基づいて、モデルガスの温度を調整する。本実施形態では、発熱部820は、評価用排気管810の外周に設けられ、評価用排気管810を加熱することによってモデルガスの温度を調整する。
【0048】
ガスセンサ評価装置60の評価制御部610は、ガス供給部800に取り付けられた評価対象のガスセンサ10が出力するセンサ出力に基づいて、その評価対象のガスセンサ10を評価する。本実施形態では、評価制御部610は、モデルガスの組成毎にセンサ出力の許容範囲を設定したデータベースを予め記憶しており、そのデータベースを参照することによって、評価対象のガスセンサ10の良否を判断する。
【0049】
ガスセンサ評価装置60のガス分析部630は、評価用排気管810に取り付けられた評価対象のガスセンサ10の近傍におけるモデルガスを分析する。本実施形態では、ガス分析部630は、評価対象のガスセンサ10の近傍からモデルガスを取り込み、そのモデルガスに含まれる成分を分析する。本実施形態では、ガス分析部630は、モデルガスの分析結果を評価制御部610に出力可能に構成されている。
【0050】
ガスセンサ評価装置60の結果出力部680は、評価制御部610による評価結果を出力可能に構成されている。本実施形態では、結果出力部680は、画像によって評価結果を出力する表示装置である。他の実施形態では、結果出力部680は、評価制御部610による評価結果を示すデータを他の処理装置に出力するインターフェースであっても良い。
【0051】
A−3.ガスセンサ評価処理:
図4は、ガスセンサ評価処理を示す説明図である。
図4のガスセンサ評価処理は、ガスセンサ評価装置60を用いてガスセンサ10を評価するための処理である。
【0052】
ガスセンサ評価処理では、まず、ガスセンサ10による酸素の検出対象である排気ガスに相当するサンプルガスに含まれる各成分の含有量を測定する(工程P110)。具体的には、実車の排気系900の排気管930に装着したガスセンサ10の近傍である位置SP(
図2を参照)から排気ガスをサンプルガスとして取得し、そのサンプルガスに含まれる各成分の含有量を測定する。
【0053】
図5は、サンプルガスに含まれる各成分の含有量を測定した結果の一例を示す表である。
図5には、ガスセンサ10のセンサ出力Voutと共に、そのセンサ出力Voutが出力されている状態で測定されたサンプルガスの各成分の含有量を表した。
【0054】
図5の試験では、センサ出力Voutが0.07〜0.73V(ボルト)となる18種類のサンプルガスについて各成分の含有量を測定した。
図5に示した値のうち、センサ出力Vout=0.60(V)における各成分の値は、センサ出力Vout=0.55(V)における各成分の値と、センサ出力Vout=0.66(V)における各成分の値と、の間の関係から推定した値である。本実施形態では、ガスセンサ10は、空気過剰率λ=1.0000の場合にセンサ出力Voutが0.60Vになるように設計されている。
【0055】
図5の試験では、2008年式ホンダ・アコードSULEV(Super Ultra Low Emission Vehicle)の内燃機関について、回転数2000rpm(回毎分)、吸気量0.3g/cyl(グラム毎シリンダ)、触媒使用履歴150kmile(キロマイル)の条件下で、排気ガスの空気過剰率λを変化させて運転を行った。
図5の試験では、ガスセンサ10の近傍である位置MP(
図2を参照)において空気過剰率λを測定した。
図5の試験では、サンプルガスの成分のうち、二酸化炭素(CO
2)、酸素(O
2)、一酸化炭素(CO)、水素(H
2)、全炭化水素(THC)、メタン(CH
4)、一酸化窒素(NO)、水(H
2O)の各成分について測定した。
【0056】
本実施形態では、水素炎イオン化法(FID)を用いてサンプルガス中の全炭化水素(THC)を検出し、磁気圧法(MPD)を用いてサンプルガス中の酸素(O
2)を検出した。具体的には、株式会社堀場製作所製の自動車排ガス測定装置MEXA−7400WBSに搭載された分析計FMA−720を用いて、全炭化水素(THC)および酸素(O
2)の各含有量を測定した。
【0057】
本実施形態では、非分散型赤外吸収法(NDIR)を用いてサンプルガス中の一酸化窒素(NO)および二酸化炭素(CO
2)を検出した。具体的には、株式会社堀場製作所製の自動車排ガス測定装置MEXA−7400WBSに搭載された分析計AIA−723を用いて、一酸化窒素(NO)および二酸化炭素(CO
2)の各含有量を測定した。
【0058】
本実施形態では、化学発光法(CLD)を用いてサンプルガス中の一酸化窒素(NO)を検出した。具体的には、株式会社堀場製作所製の自動車排ガス測定装置MEXA−7400WBSに搭載された分析計CLA−720Aを用いて、一酸化窒素(NO)の含有量を測定した。
【0059】
本実施形態では、ガスクロマトグラフ法(GC)および水素炎イオン化法(FID)を用いてサンプルガス中のメタン(CH
4)を検出した。具体的には、株式会社堀場製作所製の自動車排ガス測定装置MEXA−7400WBSに搭載された分析計GFA−720を用いて、メタン(CH
4)の含有量を測定した。
【0060】
本実施形態では、セクタ型質量分析法を用いてサンプルガス中の水素(H
2)を検出した。具体的には、株式会社堀場製作所製のセクタ型質量分析計MSHA−1000WSLを用いて、水素(H
2)の含有量を測定した。
【0061】
本実施形態では、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いてサンプルガス中の水(H
2O)を検出した。具体的には、株式会社堀場製作所製のエンジン排ガス分析計MEXA−6000FTを用いて、水(H
2O)の含有量を測定した。
【0062】
図4の説明に戻り、サンプルガスの各成分の含有量を測定した後(工程P110)、サンプルガスについて測定された各成分の含有量のうち、酸素(O
2)の含有量を減少させると共に窒素酸化物(NOx)の含有量を増加させたモデルガスの組成を設定する(工程P120)。
【0063】
図6は、モデルガスの設定に利用する組成の一例を示す表である。
図6の各段の組成は、
図5の各段の組成にそれぞれ対応し、モデルガス用に一部の値が変更されている。
図6には、次の数式1を用いて変更後の各組成から求めた空気過剰率λおよびその逆数R(1/λ)を表した。
【0065】
数式1における[化学式]は、各組成において対応する化学式で表される成分の含有量(濃度)を示す値である。数式1における定数βは、燃焼前の窒素(N
2)と酸素(O
2)の比を示す値であり、本実施形態では、窒素(N
2)の濃度を79.01%とし、酸素(O
2)の濃度を20.9%として、β=3.764とした。数式1における定数β以降の分子項は、燃焼前の窒素(N
2)の分量を示し、定数β以降の分母項は、燃焼できなかった燃料の分量を示す。
【0066】
図6の各組成では、二酸化炭素(CO
2)の値を13.38%に固定し、水(H
2O)の値を11.8%に固定した。
図6の各組成では、
図5の試験結果における全炭化水素(THC)の値に相当するプロパン(C
3H
8)の含有量を設定した。
【0067】
図6の各組成では、ガスセンサ評価装置60で調整可能な各成分の上限値および下限値に応じて、各成分の値を変更した。具体的には、酸素(O
2)については、供給下限値を0.0030%に設定した。一酸化炭素(CO)については、供給下限値を0.0010%に設定した。水素(H
2)については、供給上限値を0.0170%に設定し、供給下限値を0.0015%に設定した。メタン(CH
4)については、供給上限値を15ppmに設定した。
【0068】
このように設定した各種成分(二酸化炭素(CO
2)、酸素(O
2)、一酸化炭素(CO)、水素(H
2)、プロパン(C
3H
8)、メタン(CH
4)、一酸化窒素(NO)、水(H
2O))以外の残余成分を窒素(N
2)とし、
図6の各組成における窒素(N
2)の含有量を設定した。
【0069】
図7は、
図6に示したモデルガスの設定に利用する組成のうち、1.0000から±0.10%、±0.20%、±0.30%、±0.50%、±1.00%、±1.50%の各変化率で変化させた空気過剰率λの各々に対応する各成分の含有量を示す表である。
【0070】
図8は、本実施形態の評価に使用するモデルガスの組成の一例を示す表である。
図8の各段の組成は、
図7の各段の組成にそれぞれ対応し、酸素(O
2)の含有量を減少させると共に窒素酸化物(NOx)の含有量を増加させるために一部の値が変更されている。
図8の例では、空気過剰率λが1.0010〜1.0150までのリーン領域において、酸素(O
2)の含有量の全てを、同数の酸素原子を有する一酸化窒素(NO)の含有量として、前述の数式1を用いて換算した組成とした。
【0071】
図4の説明に戻り、モデルガスの組成を設定した後(工程P120)、評価対象のガスセンサ10を用意し(工程P130)、そのガスセンサ10をガスセンサ評価装置60に取り付ける(工程P140)。その後、設定した組成に従って生成したモデルガスをガスセンサ10に供給して、モデルガスに対するセンサ出力特性に基づいてガスセンサ10を評価する(工程P150)。そのガスセンサ10について評価を終えた後、他の評価対象のガスセンサ10について評価を行う場合には、他の評価対象のガスセンサ10をガスセンサ評価装置60に取り付け(工程P140)、同様に評価を行う(工程P150)。
【0072】
A−4.モデルガスの比較試験:
図9は、モデルガスの比較試験の結果を示すグラフである。
図9には、横軸に空気過剰率λをとり、縦軸にセンサ出力Voutをとって、各種のガスに対するガスセンサ10のセンサ出力特性を図示した。
図9の比較試験では、酸素(O
2)の全てを一酸化窒素(NO)で置換した
図8のモデルガスである置換モデルガスによるセンサ出力特性と、サンプルガスを再現した
図7のモデルガスである再現モデルガスによるセンサ出力特性とを測定し、実車(
図5の試験と同様の車両)に装着した場合のセンサ出力特性と比較した。
【0073】
図9の比較試験において、置換モデルガスおよび再現モデルガスによるセンサ出力特性を測定する際には、ガスセンサ評価装置60にガスセンサ10を取り付け、モデルガスの温度を450℃とし、モデルガスの流量を40L/min(リットル毎分)とした条件で、異なる空気過剰率λとなる各組成のモデルガス毎に、ガスセンサ10のセンサ出力Voutが安定した静的状態で、センサ出力Voutの値を測定した。
図9の比較試験では、置換モデルガスおよび再現モデルガスの各々について、ガスセンサ10のセンサ素子100を600℃に加熱した状態と、ガスセンサ10のセンサ素子100を800℃に加熱した状態とでセンサ出力特性を測定した。
【0074】
図9の比較試験において、実車によるセンサ出力特性を測定する際には、
図5の試験と同様の条件で、ガスセンサ10のセンサ出力Voutが安定した静的状態で、ガスセンサ10のセンサ出力Voutの値を測定すると共に、ガスセンサ10の近傍である位置MP(
図2を参照)において排気ガスの空気過剰率λを測定した。
【0075】
図9に示すように、空気過剰率λが1.0000よりも大きいリーン領域において、置換モデルガスによるセンサ出力特性は、再現モデルガスによるセンサ出力特性と比較して、実車でのセンサ出力特性に近い値となり、実車でのセンサ出力特性との相関に優れている。
【0076】
A−5.効果:
以上説明した実施形態によれば、酸素(O
2)を一酸化窒素(NO)で置換した置換モデルガス(
図8の組成)を用いてガスセンサ10を評価することによって、
図9に示すように、リーン領域における実車でのセンサ出力特性との相関を向上させることができる。その結果、下流側排気ガス用のガスセンサ10の評価精度を向上させることができる。
【0077】
B.他の実施形態:
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【0078】
例えば、
図8のモデルガスの組成のように、酸素(O
2)の含有量の全量を、同数の酸素原子を有する一酸化窒素(NO)の含有量として換算するのではなく、酸素(O
2)の含有量の一部を、同数の酸素原子を有する一酸化窒素(NO)の含有量として換算しても良い。
【0079】
また、本発明の実施形態では、不活性ガスとして窒素(N
2)を使用したが、これに限定されず、アルゴン(Ar)等を使用してもよい。また、プロパン(C
3H
8)に変えてプロピレン(C
3H
6)等を使用してもよい。