【文献】
木村 正和 他,2πをこえる位相差で動作可能なPLL,1998年電子情報通信学会総合大会講演論文集 通信1,1998年 3月 6日,p.369,B−5−5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
FSK変調された変調波の同相成分及び直交成分が入力されるとともに、これら両成分に基づき検波信号を生成する論理回路と、前記検波信号と信号レベルの判定閾値との比較を通じて前記変調波に含まれるデータを復調する判定回路と、を備えるFSK復調器において、
前記論理回路は、第1の時刻における変調波と前記第1の時刻と異なる第2の時刻における変調波との第1の位相差に対して前記検波信号が固有の値となるとともに、前記第2の時刻における変調波と前記第1及び第2の時刻と異なる第3の時刻における変調波との第2の位相差と前記第1の位相差との差分が180°を超えないように、前記第1及び第2の位相差に基づき前記検波信号を生成するための算出式を変更するFSK復調器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
端子を介して受信される変調波は、例えば建物等によって反射することによりノイズを含むことがある。変調波にノイズが含まれると、同相成分及び直交成分の振幅が変化する。従って、これらを足し合わせて得られる検波信号にもノイズが含まれる。検波信号に含まれるノイズの大きさによっては、例えば
図4中の○で示すように、判定回路は判定誤りを起こすことがある。すなわち、本来LoレベルであるにもかかわらずHiレベルと判定されるおそれがある。
【0006】
一方、位相の変化は周波数に等しいことが一般に知られている。すなわち、位相を微分することにより周波数を得ることができる。そこで、同相成分(I(t))と直交成分(Q(t))とを単純に足し合わせて得られる検波信号を出力する論理回路に代えて、次の(式3)に示す検波信号を出力する論理回路を採用したFSK復調器が知られている。
【0007】
【数2】
現在時刻をk、過去の時刻をk−pとすると、同相成分I(t)の微分値(式中では、I(t)の上に・(ドット)を付す)、及び直交成分Q(t)の微分値(式中では、Q(t)の上に・(ドット)を付す)は、現在時刻の検波信号と過去の時刻の検波信号との差分値、すなわち、次の(式4)及び(式5)で近似できることが知られている。
【0008】
【数3】
(式4)及び(式5)の関係から、上述の(式3)に示す検波信号の分子項は次に示す(式6−2)、分母項は次に示す(式7)となる。
【0009】
【数4】
(式6−2)及び(式7)の関係から、検波信号は、次の(式8)で表される。
【0010】
【数5】
(式8)から位相差θと検波信号v(t)との関係は
図5のグラフで表される。
図5において一点鎖線で示すように、位相差θが±90°の場合は、検波信号の値から位相差が一の値に定まる。このため、判定回路は、正しく正負判定を行える。一方で、位相差θが±90°以外の場合は、検波信号v(t)の値から位相差θを一の値に定めることができない。例えば、位相差θが30°及び150°のときは、ともにsinθ=0.5となり、検波信号v(t)の値が同じになる。位相差θが定まらない場合、判定回路は、正負判定を誤るおそれがある。
【0011】
そこで、現在の時刻における変調波と過去の時刻における変調波との位相差に基づき、検波信号v(t)の算出式を変更する論理回路を採用したFSK復調器がある。この論理回路には、過去の時刻における変調波s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積(条件式A)と、過去の時刻における変調波を90°位相回転させたものrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積(条件式B)とが記憶されている。条件式A及び条件式Bは、次の(式9)及び(式10)で示される。
【0012】
【数6】
そして、論理回路は、条件式Aの正負と条件式Bの正負とに基づき、次の(式11)〜(式13)で示すように検波信号v(t)を求めるための算出式を変化させる。
【0013】
【数7】
なお、条件式Aの正負と条件式Bの正負とに基づき、求めることができる位相差θの判定結果は、次のようになる。
【0014】
(条件O)条件式A≧0且つ条件式B≧0のとき、0°≦位相差θ≦90°。
(条件P)条件式A<0且つ条件式B≧0のとき、90°<位相差θ≦180°。
(条件Q)条件式A<0且つ条件式B<0のとき、−180°<位相差θ<−90°。
【0015】
(条件R)条件式A≧0且つ条件式B<0のとき、−90°≦位相差θ<0°。
(式11)〜(式13)から位相差θと検波信号v(t)との関係は
図5における実線のグラフで表される。
図5に実線で示すように、位相差θが±180°未満の範囲において、検波信号v(t)の値から位相差が一の値に定まる。このため、検波信号v(t)に中心周波数オフセットがあり、位相差θが90°以外となっても、判定回路は、正負判定を誤りにくい。
【0016】
しかしながら、判定回路において、信号レベルを判定する閾値は、過去の時刻における検波信号の値と、現在の時刻における検波信号の値の中央値とされる。従って、例えば、過去の時刻における変調波と現在の時刻における変調波との位相差が180°を超える場合、及び−180°を下回る場合には、過去の時刻における検波信号の正負と、現在の時刻における検波信号の正負とが逆転することになる。すなわち、判定回路は、信号レベルの判定を誤ることになる。
【0017】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、位相差θが±180°未満のときはもとより±180°以上のときであれ、判定を誤りにくい検波信号を生成するFSK復調器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、FSK変調された変調波の同相成分及び直交成分が入力されるとともに、これら両成分に基づき検波信号を生成する論理回路と、前記検波信号と信号レベルの判定閾値との比較を通じて前記変調波に含まれるデータを復調する判定回路と、を備えるFSK復調器において、前記論理回路は、第1の時刻における変調波と前記第1の時刻と異なる第2の時刻における変調波との第1の位相差に対して前記検波信号が固有の値となるとともに、前記第2の時刻における変調波と前記第1及び第2の時刻と異なる第3の時刻における変調波との第2の位相差と前記第1の位相差との差分が180°を超えないように、前記第1及び第2の位相差に基づき前記検波信号を生成するための算出式を変更することを要旨とする。
【0019】
従来のFSK復調器では、第1の位相差と第2の位相差との差分に関わらず、第1の位相差にのみ基づいて検波信号を生成するための算出式を変更していた。このため、論理回路は、例えば第1の位相差が200°の場合であっても、−160°の位相差と判定し、−160°の場合における算出式を用いて検波信号を生成していた。この例からも分かるように、第1の位相差に対し第2の位相差が180°を超える場合又は−180°を下回る場合には、第2の時刻における検波信号の正負と、第1の時刻における検波信号の正負とが逆転していた。これにより、判定回路が、信号レベルの判定を誤っていた。通常、信号レベルによってデータが割り当てられていることから、判定回路は、信号レベルの判定を誤ると、誤ったデータを取り出すことになる。
【0020】
この点、同構成によれば、論理回路は、第2の位相差と前記第1の位相差との差分が180°を超えないように、前記第1及び第2の位相差に基づき前記検波信号を生成するための算出式を変更する。これにより、判定回路において信号レベルの判定を誤ることが抑制される。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、前記算出式の異なる通常算出モード及び拡張算出モードを有し、前記通常算出モードにおける前記論理回路は、前記第1の位相差が90°より大きく180°以下であって、前記第2の位相差が−180°より大きく−90°未満である場合には、前記第2の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第1の時刻における変調波との内積を、前記第1の時刻における変調波の大きさの二乗、又は、前記第2の時刻における変調波の大きさの二乗、又は、前記第1の時刻及び前記第2の時刻における変調波の大きさの積である除算値で除し、その除した結果をマイナス2から減算した算出式を設定するとともに、前記拡張算出モードに移行し、前記第1の位相差が−180°より大きく−90°未満であって、前記第2の位相差が90°より大きく180°以下である場合には、前記第2の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第1の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果を2から減算した算出式を設定するとともに、前記拡張算出モードに移行するものであり、前記拡張算出モードにおける前記論理回路は、前記第1の位相差が90°より大きく180°以下であって、前記第2の位相差が−180°より大きく−90°未満である場合には、前記第2の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第1の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果を2から減算した算出式を設定するとともに、前記通常算出モードに移行し、前記第1の位相差が−180°より大きく−90°未満であって、前記第2の位相差が90°より大きく180°以下である場合には、前記第2の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第1の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果をマイナス2から減算した算出式を設定するとともに、前記通常算出モードに移行することを要旨とする。
【0022】
同構成によれば、第1の位相差に対し第2の位相差が180°を超える場合又は−180°を下回る場合でも、第1の位相差に対して検波信号が固有の値となるとともに、第1の位相差の変化に対して検波信号は連続値となる。このため、判定回路は、検波信号の信号レベルの判定を行いやすい。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、前記第1の変調波と前記第2の変調波との内積の正負、前記第2の変調波を90°位相回転させたものと前記第1の変調波との内積の正負、前記第2の変調波と前記第3の変調波との内積の正負、及び前記第3の変調波を90°位相回転させたものと前記第2の変調波との内積の正負に基づき、前記第1及び第2の位相差を判定することを要旨とする。
【0024】
同構成によれば、内積の演算回路という簡易な回路構成により、第1の時刻の変調波と第2の時刻の変調波との位相差を求めることができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、前記第1の変調波の1サンプル前に取得した変調波を前記第2の変調波とし、前記第2変調波の更に1サンプル前に取得した変調波を前記第3の変調波として前記検波信号を求めることを要旨とする。
【0025】
同構成によれば、検波信号を求める際に、論理回路において処理する変調波(データ)が少ないので、論理回路にかかる負荷を抑制することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、デジタル信号を処理するデジタル回路であって、アナログ信号である変調波の同相成分及び直交成分をデジタル信号に変換するアナログデジタルコンバータを備え、前記アナログデジタルコンバータは、デジタル信号に変換した変調波の同相成分及び直交成分を前記論理回路に入力することを要旨とする。
【0026】
アナログ信号を処理する論理回路は、部品のばらつきによって出力が異なる。そのため、出力される検波信号の精度が低い。一方、デジタル信号を処理する論理回路であれば、処理するデータのビット数を増やすことにより、出力する検波信号の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、位相差θが±180°未満のときはもとより±180°以上のときであれ、判定を誤りにくい検波信号を生成するFSK復調器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のFSK復調器を具体化した一実施形態を
図1〜3に従って説明する。
<FSK復調器の構成>
図1に示すように、FSK復調器1は、アンテナ10と、局部発振器20と、位相器30と、第1及び第2の混合器(ミキサ)41,42と、第1及び第2のローパスフィルタ(LPF)51,52と、第1及び第2のアナログデジタルコンバータ(A/Dコンバータ)61,62と、論理回路70と、判定回路80とを備えている。
【0030】
アンテナ10は、FSK変調された変調波(アナログ信号)を受信する。この変調波は、予め決められた異なる2種類の周波数を有する信号である。アンテナ10は、第1及び第2の混合器41,42にそれぞれ接続されており、受信した変調波を、第1及び第2の混合器41,42に送る。
【0031】
第1及び第2の混合器41,42は、異なる2つの周波数の信号を混合させて、入力された信号とは異なる周波数の信号を出力する。第1の混合器41は、局部発振器20と直接接続されている。第2の混合器42は、位相器30を介して局部発振器20と接続されている。局部発振器20は、変調波に含まれる異なる2種類の周波数を足し合わせて2で割った周波数で発振する。局部発振器20により生成された発振信号は、第1の混合器41、及び位相器30に送られる。位相器30は、局部発振器20から送られてくる発振信号の位相を90°だけずらし、この位相をシフトした発振信号を第2の混合器42に送る。第1及び第2の混合器41,42は、それぞれ第1及び第2のLPF51,52と接続されている。第1の混合器41は、局部発振器20から直接入力される発振信号と変調波とを混合し、当該混合した信号を第1のLPF51に送る。第2の混合器42は、位相器30によって位相が90°だけずらされた発振信号と変調波とを混合し、当該混合した信号を第2のLPF52に送る。
【0032】
第1及び第2のLPF51,52は、入力された信号の高域の周波数成分を除去する。第1及び第2のLPF51,52は、第1及び第2のA/Dコンバータ61,62に接続されている。第1及び第2のLPF51,52は、高域の周波数成分を除去した信号をこれら第1及び第2のA/Dコンバータ61,62に送る。なお、第1のLPF51を通過した信号を変調波s(t)の同相成分(I(t))、第2のLPF52を通過した信号を変調波s(t)の直交成分(Q(t))という。同相成分(I(t))及び直交成分(Q(t))は上述の(式1)及び(式2)で表される。
【0033】
第1のA/Dコンバータ61は、入力された変調波s(t)の同相成分I(t)をデジタル信号に変換する。第2のA/Dコンバータ62は、入力された変調波s(t)の直交成分Q(t)をデジタル信号に変換する。第1及び第2のA/Dコンバータ61,62は、論理回路70と接続されている。第1及び第2のA/Dコンバータ61,62は、デジタル信号に変換した変調波s(t)の同相成分I(t)及び直交成分Q(t)を論理回路70に送る。
【0034】
論理回路70は、同相成分I(t)及び直交成分Q(t)に基づき論理演算を行うことにより、検波信号v(t)を生成する電子回路である。論理回路70は、現在の時刻における変調波、現在の時刻よりも1つ前の時刻である過去の時刻における変調波、及び過去の時刻よりも1つ前の時刻である大過去の時刻における変調波から算出される次の4つの内積の正負に基づき、後述する検波信号を出力する。4つの内積とは、過去の時刻における変調波と現在の時刻における変調波との内積(条件式A)、過去の時刻における変調波の位相を90°回転させたものと現在の時刻における変調波との内積(条件式B)、大過去の時刻における変調波と過去の時刻における変調波との内積(条件式A’)、大過去の時刻における変調波の位相を90°回転させたものと過去の時刻における変調波との内積(条件式B’)を指す。
【0035】
なお、ここでは、論理回路70が変調波(正確には、変調波の同相成分及び直交成分)を取得する時間間隔(サンプリング周期)を時間pとする。従って、現在の時刻をkとすれば、その1つ前の過去の時刻はk−p、また過去の時刻の1つ前に取得した大過去の時刻はk−2pとなる。これより、現在の時刻、過去の時刻、及び大過去の時刻における変調波s(k),s(k−p),s(k−2p)は、次の(式14)〜(式16)で表される。
【0036】
【数8】
従って、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積、すなわち、条件式Aは次の(式17)で、大過去の時刻における変調波s(k−2p)と過去の時刻における変調波s(k−p)との内積、すなわち、条件式A’は次の(式18)で、それぞれ表される。
【0037】
【数9】
また、過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(k−p)は次の(式19)で、大過去の時刻における変調波s(k−2p)を90°位相回転させたrot(90°)s(k−2p)は次の(式20)で、それぞれ表される。
【0038】
【数10】
従って、過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積、すなわち、条件式Bは次の(式21)で表される。また、大過去の時刻における変調波s(k−2p)を90°位相回転させたrot(90°)s(k−2p)と過去の時刻における変調波s(k−p)との内積、すなわち、条件式B’は、次の(式22)で表される。
【0039】
【数11】
なお、論理回路70は、通常算出モードと拡張算出モードとを有し、条件式A,B,A’,B’の正負に基づいて2つのモード間で切り替わる。論理回路70は、通常算出モードとされているときには、条件式A,B,A’,B’の正負が条件S〜条件Vのいずれに該当するかを判断し、該当する条件に割り当てられている算出式、すなわち、次に示す(式23)〜(式27)を使用して検波信号v(t)を算出する。
【0040】
【数12】
また、論理回路70は、拡張算出モードとされているときには、条件式A,B,A’,B’の正負が条件W〜条件Zのいずれに該当するかを判断し、該当する条件に割り当てられている算出式、すなわち、次に示す(式28)〜(式31)を使用して検波信号v(t)を算出する。
【0041】
【数13】
論理回路70は、通常算出モードにおいて、(条件T−2)又は(条件U−2)が満たされるとき、すなわち(式25)又は(式27)を使用して検波信号v(t)を生成した場合に拡張算出モードに切り替わる。また、論理回路70は、拡張算出モードにおいて、(条件W)又は(条件Z)が満たされるとき、すなわち(式28)又は(式31)を使用して検波信号v(t)を生成した場合に通常算出モードに切り替わる。
【0042】
なお、論理回路70には、判定回路80が接続されている。判定回路80は、論理回路70から出力される検波信号と、信号レベル判定閾値との比較を通じて変調波に含まれるデータを示すデータ信号を生成する。信号レベル判定閾値は、過去の時刻における検波信号の値と、現在の時刻における検波信号の値の中央値とされている。
【0043】
<論理回路の作用>
次に、論理回路70の作用について説明する。2つのベクトルの内積が正となるとき両ベクトルのなす角は、90°以内であり、2つのベクトルの内積が負となるとき両ベクトルのなす角は、90°より大きくなることが周知である。すなわち、
図2(b)に示すように、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積(条件式A)の正負と、
図2(a)に示すように過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたものと現在の時刻における変調波s(k)との内積(条件式B)の正負とから、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との位相差θがどの範囲にあるかを容易に求めることができる。同様に、大過去の時刻における変調波s(k−2p)と過去の時刻における変調波s(k−p)との内積(条件式A’)の正負と、大過去の時刻における変調波s(k−2p)を90°位相回転させたものと過去の時刻における変調波s(k−p)との内積(条件式B’)の正負とから、大過去の時刻における変調波s(k−2p)と過去の時刻における変調波s(k−p)との位相差θ’がどの範囲にあるかを容易に求めることができる。位相差θ,θ’の判定結果は、次のようになる。
【0044】
・判定1…条件式A≧0且つ条件式B≧0のとき、0°≦位相差θ≦90°。
・判定2…条件式A<0且つ条件式B≧0のとき、90°<位相差θ≦180°。
・判定3…条件式A<0且つ条件式B<0のとき、−180°<位相差θ<−90°。
【0045】
・判定4…条件式A≧0且つ条件式B<0のとき、−90°≦位相差θ<0°。
・判定5…条件式A’≧0且つ条件式B’≧0のとき、0°≦位相差θ’≦90°。
・判定6…条件式A’<0且つ条件式B’≧0のとき、90°<位相差θ’≦180°。
【0046】
・判定7…条件式A’<0且つ条件式B’<0のとき、−180°<位相差θ’<−90°。
・判定8…条件式A’≧0且つ条件式B’<0のとき、−90°≦位相差θ’<0°。
【0047】
従って、各条件における位相差θ,θ’の判定結果は、次のようになる。
(条件S)条件式A≧0且つ条件式B≧0のとき、0°≦位相差θ≦90°。
(条件T−1)条件式A<0且つ条件式B≧0であって、条件式A’<0且つ条件式B’<0を満たさないとき、90°<位相差θ≦180°、−90°≦位相差θ’≦180°。
【0048】
(条件T−2)条件式A<0且つ条件式B≧0であって、条件式A’<0且つ条件式B’<0を満たすとき、90°<位相差θ≦180°、−180°<位相差θ’<−90°。
【0049】
(条件U−1)条件式A<0且つ条件式B<0であって、条件式A’<0且つ条件式B’≧0を満たさないとき、−180°<位相差θ<−90°、−180°<位相差θ’≦90°。
【0050】
(条件U−2)条件式A<0且つ条件式B<0であって、条件式A’<0且つ条件式B’≧0を満たすとき、−180°<位相差θ<−90°、90°<位相差θ’≦180°。
【0051】
(条件V)条件式A≧0且つ条件式B<0のとき、−90°≦位相差θ<0°。
(条件W)条件式A<0且つ条件式B≧0であって、条件式A’<0且つ条件式B’<0を満たすとき、90°<位相差θ≦180°、−180°<位相差θ’<−90°。
【0052】
(条件X)条件式A<0且つ条件式B≧0であって、条件式A’<0且つ条件式B’≧0を満たすとき、90°<位相差θ≦180°、90°<位相差θ’≦180°。
(条件Y)条件式A<0且つ条件式B<0であって、条件式A’<0且つ条件式B’<0を満たすとき、−180°<位相差θ<−90°、−180°<位相差θ’<−90°。
【0053】
(条件Z)条件式A<0且つ条件式B<0であって、条件式A’<0且つ条件式B’≧0を満たすとき、−180°<位相差θ<−90°、90°<位相差θ’≦180°。
以上から、位相差θと検波信号v(t)との関係は
図3のグラフで表される。
図3に示すように、位相差θに対して検波信号v(t)が固有の値となる。このため、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を正確に行うことができる。また、位相差θと位相差θ’との差分が180°を下回るとともに、位相差θの変化に対して検波信号v(t)は連続値となる。特に、位相差θが180°を超える場合、及び−180°を下回る場合でも、検波信号v(t)は連続値となるとともに、位相差θが180°を超える場合にはそれまでの値よりも増加し、−180°を下回る場合にはそれまでの値よりも減少する。本例の検波信号v(t)は、位相差θが0°を超える場合には正、下回る場合には負とされている。すなわち、検波信号v(t)の正負は、位相差θが180°、及び−180°を境にして変化しない。このため、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を行いやすい。
【0054】
なお、上述の(式21)は、上述の(式6−1)と等しい。すなわち、上述の(式23)〜(式31)の分子項は、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積である・・・(A)。
【0055】
また、現在の時刻における変調波s(t)の大きさは、次の(式32)で表される。
【0056】
【数14】
当該(式32)の右辺を二乗すれば、上述の(式23)〜(式31)の分母項と等しい。すなわち、(式23)〜(式31)の分母項は、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗に等しい・・・(B)。
【0057】
以上、(A)及び(B)の記載から、次のことがわかる。すなわち、本例の論理回路70は、通常算出モードにおいて、条件S、及び条件Vの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除して求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件T−1の場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体を2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件T−2の場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体をマイナス2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。そして、それ以降は、拡張算出モードに移行する。条件U−1の場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体をマイナス2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件U−2の場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体を2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。そして、それ以降は、拡張算出モードに移行する。
【0058】
また、本例の論理回路70は、拡張算出モードにおいて、条件Wの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体を2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。そして、それ以降は、通常算出モードに移行する。条件Xの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体をマイナス2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件Yの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体を2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件Zの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体をマイナス2から減算することにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。そして、それ以降は、通常算出モードに移行する。
【0059】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(1)過去の時刻における変調波s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との位相差θ、及び大過去の時刻における変調波s(t−2p)と過去の時刻における変調波s(t−p)との位相差θ’に基づき、検波信号v(t)の算出式が変化するように論理回路70を組んだ。また、位相差θ,θ’に基づき、通常算出モードと拡張算出モードとの間で切り替わるように論理回路70を組んだ。位相差θ,θ’に応じて出力する検波信号v(t)の算出式を変更することより、位相差θの変化に対して検波信号v(t)が固有の値となる。このため、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を正確に行うことができる。また、位相差θ,θ’の変化に対して検波信号v(t)は連続値となる。特に、位相差θが180°を超える場合、及び−180°を下回る場合でも、検波信号v(t)は連続値となるとともに、位相差θが180°を超える場合にはそれまでの値よりも増加し、−180°を下回る場合にはそれまでの値よりも減少する。本例の検波信号v(t)は、位相差θが0°を超える場合には正、下回る場合には負とされている。すなわち、検波信号v(t)の正負は、位相差θが180°、及び−180°を境にして変化しない。このため、従来困難であった位相差θが±180°を超える場合であれ、FSK信号を復調することができる。
【0060】
(2)論理回路70は、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積の正負、及び過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたものと現在の時刻における変調波s(k)との内積の正負から、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との位相差θを求める。また、論理回路70は、大過去の時刻における変調波s(k−2p)と過去の時刻における変調波s(k−p)との内積の正負、及び大過去の時刻における変調波s(k−2p)を90°位相回転させたものと過去の時刻における変調波s(k−p)との内積の正負から、大過去の時刻における変調波s(k−2p)と過去の時刻における変調波s(k−p)との位相差θ’を求める。そして、論理回路70は、求めた位相差θ,θ’に基づき検波信号v(t)の算出式を変化させた。すなわち、内積の演算回路という簡易な回路構成で位相差を求めることができる。
【0061】
(3)論理回路70は、時間p毎に変調波を取得する。すなわち、論理回路70が過去の時刻k−pにおいて取得された変調波は、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前に取得されたものである。また、論理回路70が大過去の時刻k−2pにおいて取得された変調波は、現在の時刻kにおいて取得された変調波の2つ前に取得されたものである。論理回路70は、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前及び2つ前に取得された変調波を用いて処理を行う。このため、検波信号v(t)を求める際に、論理回路70において処理する変調波(データ)が他の場合と比べて少ない。例えば、論理回路70が、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前及び3つ前に取得された変調波を用いて処理するとき、当該論理回路70には、現在の時刻kにおいて取得された変調波の2つ前の変調波が入力されているので、この変調波の処理を一時的に停止する回路を論理回路70に組む必要ある。このことから、論理回路70は、当該論理回路70にかかる負荷を抑制することができる。
【0062】
(4)論理回路70は、デジタル信号を処理するデジタル回路とした。このため、論理回路70は、処理するデータのビット数を容易に増やすことができ、ひいては、出力する検波信号の精度を高めることができる。
【0063】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、論理回路70は、条件S〜条件Zのいずれの場合においても、検波信号v(t)の分母、すなわち除算値は、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗としたが、過去の時刻における変調波s(t−p)の大きさの二乗であってもよい。このように構成した場合であれ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、現在の時刻における変調波s(t)の大きさと過去の時刻における変調波s(t−p)の大きさとの積であってもよい。この場合、例えば、条件S及び条件Vにおける検波信号v(t)の分母項は、次の(式33)で表される。
【0064】
【数15】
(式6−2)及び(式33)の関係から、条件S、及び条件Vの検波信号v(t)は、次の(式34)で表される。
【0065】
【数16】
(式34)に示すように、検波信号v(t)は、周波数成分のみで表される。言い換えれば、当該(式34)には、ノイズの影響を受けて変化する振幅を示す項が排除されている。従って、判定回路80は、ノイズの影響を受けづらい検波信号v(t)の信号レベルの判定を行うことができる。このため、判定回路80は、信号レベルの判定を誤りにくい。なお、条件S、及び条件Vの検波信号v(t)のみ示したが、条件S〜条件Zのいずれの場合における検波信号v(t)にも適用することができる。
【0066】
・上記実施形態において、論理回路70は、時間p毎に変調波を取得したが、例えば時間pとは異なる時間n毎に変調波を取得してもよい。このように構成した場合であっても、上記実施形態の効果(1)と同様の効果を得ることができる。
【0067】
・上記実施形態において、第1及び第2のA/Dコンバータ61,62を省略してもよい。この場合、論理回路70は、アナログ信号を処理する論理回路とする。このように構成した場合であっても、上記実施形態の効果(1)と同様の効果を得ることができる。
【0068】
・上記実施形態では、第1の時刻を現在の時刻k、第2の時刻を過去の時刻k−p、第3の時刻を大過去の時刻k−2pとした関係で説明したが、本発明の適用は、この関係に限らない。例えば、過去の時刻をk−2p、大過去の時刻をk−4pとしてもよい。
【0069】
・上記実施形態で示した式は、解を等価的に求めるものであれば異なる形式に変更してもよい。
・上記実施形態では、過去の時刻における変調波を90°位相回転させたが、必ずしも90°の位相回転に限るものではない。
【0070】
・上記実施形態では、10種類の条件に応じて、検波信号v(t)を変更したが、これに限らず条件の種類は適切に増減させてもよい。また、条件の判定式や検波信号v(t)の算出式を適切に変更してもよい。