【文献】
”平成23年度 除染技術実証試験事業 「放射性物質を含む汚染土壌等からの乾式セシウム除去技術の開発」について(お知らせ)”,インターネット,日本,独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構,2012年 2月22日,p.1-p.4,p.2,URL,http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/narc/027564.html
【文献】
”アタカ大機 溶融飛灰からの放射性セシウムの分離除去技術を開発”,インターネット,日本,ゴムタイムス社,2012年 7月 5日,p.1-p.4,p.2,URL,http://www.gomutimes.co.jp/?p=35010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日の東日本大震災により福島第一原子力発電所の事故が発生し、この事故によって
131I、
134Cs、
137Cs、
90Sr等の放射性核種を含む放射性物質が原子力発電所から放出されて広範囲に拡散した。その後、拡散した放射性物質が特定の地域や設備に濃縮される現象が各地で確認され、この現象は「都市濃縮」等と称されて問題となっている。具体的には、拡散した放射性物質は雨水によって流されて河川や下水道の特定の箇所、或いは降雨の際に水たまりとなる窪地等に集まる傾向があり、このような箇所に放射性物質が濃縮される現象が確認されている。又、放射性物質を含むごみが焼却されることにより焼却灰に放射性物質が濃縮される現象が確認されている。尚、焼却灰には焼却炉の底等から回収される主灰と焼却排ガス中に浮遊する飛灰とがあり、放射性物質は主灰よりも飛灰に多く混在する傾向があることが知られている。このような放射性物質が濃縮された汚泥や土壌、焼却灰の処理方法としては貯蔵、或いは埋め立てが考えられるが、放射性物質が混在する汚泥や土壌、焼却灰の量は膨大であり貯蔵や埋め立てのための用地の確保が困難であるという問題がある。又、焼却灰は粉末状であるため中長期的に貯蔵や埋め立ての用地の周辺や地下に放射性物質が漏れ出すことが懸念される。尚、
131Iの半減期は約8日と短いため
131Iの影響は既に無視できるレベルと考えられるが、
134Cs、
137Cs、
90Srの半減期はそれぞれ2.1年、30.1年、28.8年程度であり中長期的な影響が懸念される。
【0003】
ところで、ごみ焼却場の焼却灰には放射性物質の他にもPCBやアスベスト、ダイオキシン等の汚染物質が混在していることがあり、このような汚染物質の処理方法として焼却灰を溶融・固化して減容しつつ無害化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。より詳細には、焼却灰を例えば1000℃以上の高温に加熱することにより、焼却灰は溶融されると共にPCBやアスベスト、ダイオキシン等の汚染物質も分解、或いは溶融されて無害化される。溶融した焼却灰は溶融スラグと称され冷却水の中に投入されて固化し岩石質又はガラス質の小石状の塊となる。焼却灰は溶融スラグになることにより体積が約1/2に減少する。溶融スラグは無害であり土木資材として利用される。
【0004】
しかしながら
134Cs、
137Cs、
90Sr等の放射性核種を含む放射性物質は加熱されても無害化されることはなく放射能を維持するという問題がある。例えば、溶融炉で焼却灰を加熱しても焼却灰の一部は溶融されずに溶融飛灰と称される微粒子となってオフガス中に浮遊することがある。この場合、放射性物質は溶融スラグ中よりも溶融飛灰中に多く検出される傾向があることが知られている。溶融飛灰はバグフィルター等の集塵装置によって回収され、又、元の焼却灰よりは減容されるものの、貯蔵や埋め立てのためには更なる減容が望ましい。
【0005】
これに対し、溶融飛灰を洗浄して放射性セシウムを水へ抽出し、水に移行した放射性セシウムをプルシアンブルーを用いて凝集沈殿させて分離・除去する手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。又、液体中の放射性物質類を除染用磁性複合粒子により捕獲し、これを磁力集積手段によって回収する手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
又、セシウムを含む放射性物質が混在する処理対象物を溶融炉ではなく回転式昇華装置によって加熱することにより放射性物質を揮発させ、揮発した放射性物質を含むオフガスを冷却して放射性物質を粒子状の固体に戻し、バグフィルターによって回収する手法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、溶融飛灰を水で洗浄する手法では水溶性の放射性物質は溶融飛灰から除去できても非水溶性の放射性物質は除去できないという問題がある。又、水溶性の放射性物質であっても溶融飛灰等の微細な粒子に吸着されてしまうと水に溶け出しにくくなることがあり、このような微細な粒子に吸着された放射性物質も除去できないという問題もある。又、溶融飛灰をバグフィルター等の集塵装置から回収して、改めて別途の装置にて洗浄するにはハンドリングが煩雑になり、加えてその被曝対策等が必要になるという問題もある。
【0010】
一方、回転式昇華装置によってセシウムを含む放射性物質を揮発させる手法によれば処理対象物から大部分の放射性物質を除去することはできるが、この手法でも放射性物質を処理対象物から完全に除去することは困難であり、処理対象物の放射性物質の濃度が著しく高い場合、加熱処理後の処理対象物に所定の基準を上回る濃度の放射性物質が残存する可能性がある。このような場合、放射性物質の濃度が処理前よりは低下していたとしても加熱処理後の処理対象物は貯蔵や埋め立てにより処分する必要がある。加熱処理後の処理対象物は粉末状であるため中長期的に貯蔵や埋め立ての用地の周辺や地下に放射性物質が漏れ出すことが懸念される。又、加熱処理後の処理対象物の放射性物質の濃度が高い場合、粉末状の処理対象物の飛散を防止するため運搬が制限される可能性もある。即ち、放射性物質の濃度が高い処理対象物は処理対象として適さないという問題がある。又、処理対象物によっては放射性物質だけでなく非放射性物質も少なからぬ量が放射性物質と共に揮発して放射性物質と共に回収される可能性がある。従って、処理対象物によっては充分な減容効果が得られない可能性がある。
【0011】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、水に溶けにくい放射性物質が混在する処理対象物や放射性物質の濃度が高い処理対象物も処理できるハンドリングが容易な放射性物質の処理システム及び処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
134Cs、
137Cs及び
90Srの少なくとも1つの放射性核種を含む放射性物質が混在する処理対象物を1300℃以上に加熱して溶融しつつ放射性物質をオフガス中に揮発除去するための溶融炉と、溶融炉から排出されるオフガスを洗煙水で洗浄してオフガスに含まれる放射性物質をオフガスから洗煙水に分離するための洗煙ユニットと、
洗煙ユニットで洗煙されたオフガスに混在する溶融飛灰を回収するための集塵ユニットと、集塵ユニットにおいて回収される溶融飛灰を再処理のために溶融炉に搬送するための溶融飛灰再処理用搬送ユニットと、放射性物質を洗煙水から回収するための放射性物質回収ユニットと、を備える放射性物質の処理システムにより上記課題を解決するものである。
【0013】
又、本発明は、
134Cs、
137Cs及び
90Srの少なくとも1つの放射性核種を含む放射性物質が混在する処理対象物を溶融炉で1300℃以上に加熱して溶融しつつ放射性物質をオフガス中に揮発除去するための溶融ステップと、溶融炉から排出されるオフガスを洗煙水で洗浄してオフガスに含まれる放射性物質をオフガスから洗煙水に分離するための洗煙ステップと、
オフガスに残存する溶融飛灰を集塵ユニットにより回収するためのステップと、回収された溶融飛灰を再処理のために溶融炉に搬送するためのステップと、放射性物質を洗煙水から回収するための放射性物質回収ステップと、を備える放射性物質の処理方法により上記課題を解決するものである。
【0014】
本処理システム及び処理方法は、溶融飛灰等の処理対象物を洗浄して放射性物質を水に抽出するのではなく放射性物質をオフガス中に揮発除去するので、水溶性の放射性物質でも非水溶性の放射性物質でも処理対象物から分離して除去できる。又、溶融飛灰等の微細な粒子に吸着されて水に溶け出しにくくなった放射性物質も処理対象物から分離して除去できる。又、揮発した放射性物質を含むオフガスを洗煙水で洗浄することによりオフガスに含まれる放射性物質を冷却してオフガスから洗煙水に分離することができる。更に、放射性物質を吸着剤に吸着させたり、或いは放射性物質を凝集沈殿させることによって放射性物質を洗煙水から回収することができる。又、本処理システム及び処理方法では、溶融飛灰を洗浄する手法のように溶融飛灰をバグフィルター等の集塵装置から回収して改めて別途の装置にて洗浄するためのハンドリングや被曝対策等は必要ない。又、処理対象物の放射性物質の濃度が高く溶融スラグに所定の基準を上回る濃度の放射性物質が残存する場合でも、溶融スラグは岩石質又はガラス質の小石状の塊であるので放射性物質は溶融スラグの中に安定した状態で保持される。更に、小石状の塊である溶融スラグは表面積も小さい。従って、放射性物質を含む溶融スラグが貯蔵や埋め立てにより処分されても貯蔵や埋め立ての用地の周辺や地下に放射性物質が漏れ出すことがない。又、岩石質又はガラス質の小石状の溶融スラグであれば放射性物質を含んでいても運搬中の放射性物質の飛散の問題も生じない。又、処理対象物が溶融スラグとなることで減容効果も得られる。
【0015】
本処理システム及び処理方法で用いる溶融炉はエマルジョンバーナー式の表面溶融炉であるとよい。エマルジョンバーナー式の表面溶融炉は溶融飛灰を発生させないか、或いは溶融飛灰を発生させたとしても溶融飛灰の発生量は著しく少ない。従って、処理対象物に含まれる放射性物質を溶融飛灰に吸着された形態ではなく、気体としてオフガス中に効率良く揮発除去できる。又、処理対象物に放射性物質に加えてPCBやダイオキシン、アスベスト等の非放射性の汚染物質も混在している場合でも、エマルジョンバーナー式の表面溶融炉であればこれらの非放射性の汚染物質の無害化にも好適である。
【0016】
本処理システムは放射性物質回収ユニットにおいて処理された洗煙水が洗煙ユニットにおいて再利用されるように洗煙水が循環する構成であるとよい。このように洗煙水が循環して洗煙ユニットにおいて繰り返し利用されることにより、全体としては洗煙水を外部に排出しない処理システムを実現できる。
【0017】
又、本処理システムは溶融炉と洗煙ユニットとの間にオフガスを冷却するための熱交換ユニットを更に備え、洗煙ユニットが熱交換ユニットに隣接して設置されているとよい。オフガスが熱交換ユニットにおいて冷却されるとオフガス中の放射性物質の一部は固化して熱交換ユニットと洗煙ユニットとの間の配管に付着し洗煙ユニットまで到達しない可能性があるが、洗煙ユニットが熱交換ユニットに隣接して設置されていればオフガス中の放射性物質を洗煙ユニットまで確実に送ることができる。
【0019】
溶融炉から溶融飛灰が発生する場合でも溶融飛灰を溶融炉に搬送して再処理することにより、全体としては放射性物質が混在する溶融飛灰を外部に排出しない処理システム(又は処理方法)を実現できる。
【0020】
又、本処理システム(又は処理方法)は、洗煙水の中のドロスを回収するためのドロス回収ユニット(又はドロス回収ステップ)と、ドロス回収ユニット(又はドロス回収ステップ)において回収されるドロスを再処理のために溶融炉に搬送するためのドロス再処理用搬送ユニット(又はドロス再処理用搬送ステップ)と、を更に備えるとよい。
【0021】
洗煙水の中に放射性物質を含むドロスが混在する場合でもドロスを溶融炉に搬送して再処理することにより、全体としては放射性物質を含むドロスを外部に排出しない処理システム(又は処理方法)を実現できる。
【0022】
又、本処理システムは洗煙水のpHを調整するためのpH調整ユニットを更に備えるとよい。放射性物質を吸着する性質を有する吸着剤は、洗煙水が中性に近い場合に放射性物質を吸着する能力が高く、洗煙水が強い酸性やアルカリ性を示す場合には放射性物質を吸着する能力が低い傾向がある。例えば処理対象物がカリウム、ナトリウム、カルシウムを含んでいる場合、洗煙水が強いアルカリ性を示すことがある。このような場合でも、洗煙水のpHを(例えば7に近い値に)調整することにより、吸着剤は放射性物質を効率よく吸着することができる。
【0023】
又、本処理システム(又は処理方法)は、揮発促進剤を処理対象物に添加するための揮発促進剤添加ユニット(又は揮発促進剤添加ステップ)を更に備え、揮発促進剤はCaCl
2、FeCl
3、CaCO
3、CaI
2、B
2O
3及びNa
2B
4O
7の少なくとも1つの成分を含むとよい。CaCl
2、FeCl
3、CaCO
3、CaI
2は
134Csや
137Csを含む放射性物質の揮発を促進する効果が高い。又、B
2O
3及びNa
2B
4O
7は処理対象物の融点を降下させる効果や溶融スラグの流動性を向上させる効果を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水に溶けにくい放射性物質が混在する処理対象物や放射性物質の濃度が高い処理対象物も処理できるハンドリングが容易な放射性物質の処理システム及び処理方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示されるように、本発明の第1実施形態に係る放射性物質の処理システム10は、
134Cs、
137Cs及び
90Srの少なくとも1つの放射性核種を含む放射性物質が混在する処理対象物12を1300℃以上に加熱して溶融しつつ放射性物質をオフガス中に揮発除去するための溶融炉14と、溶融炉14から排出されるオフガスを洗煙水16で洗浄してオフガスに含まれる放射性物質をオフガスから洗煙水16に分離するための洗煙ユニット18と、放射性物質を洗煙水16から回収するための放射性物質回収ユニット20と、を備えている。
【0027】
放射性物質の処理システム10は、洗煙ユニット18で洗煙されたオフガスに残存する溶融飛灰を回収するための集塵ユニット22と、集塵ユニット22において回収される溶融飛灰を再処理のために溶融炉14に搬送するための溶融飛灰再処理用搬送ユニット24と、を更に備えている。
【0028】
又、放射性物質の処理システム10は、洗煙水の中のドロスを回収するためのドロス回収ユニット26と、ドロス回収ユニット26において回収されるドロスを再処理のために溶融炉14に搬送するためのドロス再処理用搬送ユニット28と、を更に備えている。
【0029】
又、放射性物質の処理システム10は、洗煙水のpHを調整するためのpH調整ユニット30を更に備えている。又、放射性物質の処理システム10は、揮発促進剤を処理対象物12に添加するための揮発促進剤添加ユニット32を更に備えている。
【0030】
処理対象物12は例えばごみ焼却場でごみを焼却して得られる主灰や飛灰等の焼却灰、(本第1実施形態の溶融炉14とは別の)溶融炉から得られる溶融飛灰、下水処理で得られる汚泥や汚泥焼却灰、土壌等であり、本第1実施形態では処理対象物12は例えばフレキシブルコンテナバッグ等の容器に収容されている。放射性物質は例えば
134Cs、
137Cs、
90Srの塩化物、酸化物、水酸化物等の化合物である。放射性物質の具体的な例としてはCs、CsCl、CsOH、Cs
2CO
3、CsI、Sr、SrCl
2、Sr(OH)
2、SrO、SrI
2、SrCO
3等を挙げることができる。これら放射性物質の融点及び沸点を表1に示す。尚、表1中の「分解」は融点よりも高く1300℃よりも低い温度で放射性物質が分解し他の化合物等に変化することを意味する。
【0032】
溶融炉14はエマルジョンバーナー式の表面溶融炉であり、燃焼室の上部に設置された主バーナー34が燃焼室の炉床部36に向かって火炎を放射するようになっている。主バーナー34にはサービスタンク38からエマルジョン燃料が供給されるようになっている。サービスタンク38は、燃料タンク40から供給される重油、軽油、灯油、廃油、アルコール、ジメチルエーテル等の燃料と還元水発生装置42から供給される還元水とを混合してエマルジョン燃料を生成するようになっている。還元水発生装置42は上水を電気分解して還元水を生成するようになっている。尚、還元水発生装置42を省略し、還元水に替えて上水と燃料とを混合してエマルジョン燃料を生成してもよい。上水としては水道水、井戸水、再処理水等を用いることができる。又、主バーナー34の近傍には着火バーナー44が設置されている。着火バーナー44にはガスボンベ46からプロパンガス等の気体燃料が供給されるようになっている。
【0033】
溶融炉14の加熱温度は上記のように1300℃以上であり、溶融炉14の加熱温度は1350℃以上であることがより好ましい。加熱温度が1300℃以上であれば
134Cs、
137Cs、
90Srを含む放射性物質を処理対象物から揮発除去できると共にアスベストの内、青石綿を溶解させて無害化することもできる。尚、溶融炉14の加熱温度が1250℃以上であれば総てのSrCl
2を瞬時に揮発させることができる。又、加熱温度が1277℃以上であれば総てのCsIを瞬時に揮発させることができる。又、加熱温度が1295℃以上であれば総てのCsClを瞬時に揮発させることができる。又、加熱温度が1382℃以上であれば総てのSr(金属)を瞬時に揮発させることができる。従って、溶融炉14の加熱温度は1400℃以上であることが更に好ましい。又、加熱温度が1400℃以上であればアスベストの内、茶石綿を溶解させて無害化することもできる。又、加熱温度が1450℃以上であれば余裕をもってPCBを分解することができる。又、加熱温度が1500℃以上であればアスベストの内、白石綿を溶解させて無害化することができると共に、酸化鉄を含む金属鉄を溶解することもできる。又、加熱温度が1773℃以上であれば総てのSrI
2を瞬時に揮発させることができる。溶融炉14の加熱温度の上限値は例えば1800℃、或いは2000℃である。溶融炉14の炉壁等を構成するキャスタブルの破損の防止という点では加熱温度の上限値は1800℃であることが好ましい。
【0034】
又、処理対象物がCsを含む土壌である場合、処理対象物を1000〜1200℃に加熱した状態に保持するとCsAlSi
2O
6が生成されてCsが揮発しにくくなることが報告されている(例えば、JAEA−Research−2011−026「土壌の原位置加熱による放射性セシウムの除去可能性に検討」参照)。又、1000℃程度の高温環境で試薬状のCs
2CO
3、Al
2O
3、SiO
2を混合して反応させるとCsAlSi
2O
6が生成されることも報告されている。従って、処理対象物がSiO
2やAlを多く含む焼却灰や土壌である場合、溶融炉14は1000〜1200℃を大きく上回る1400〜1500℃の加熱温度で焼却灰や土壌を溶融し、CsAlSi
2O
6の生成速度よりもCsを含む(CsAlSi
2O
6以外の)放射性物質の揮発速度が速くなるようにしてCsを含む放射性物質の揮発を促進する必要がある。
【0035】
炉床部36は傾斜しており、処理対象物12は炉床部36の上部側の入り口からプッシャー48に押されて燃焼室内に搬入されるようになっている。尚、燃焼室の入り口までは処理対象物12はコンベア50によって搬送されるようになっている。
【0036】
揮発促進剤添加ユニット32は溶融炉14の上流側に備えられており、溶融炉14に投入される前の処理対象物12に揮発促進剤を添加するように構成されている。揮発促進剤は、例えばCaCl
2、FeCl
3等の塩化物や、CaCO
3、CaI
2、融点を降下させる効果や溶融スラグの流動性を向上させる効果のあるB
2O
3、Na
2B
4O
7等である。尚、揮発促進剤はこれらのいずれか1つの成分のみを含む構成でもよいし、2以上の成分を含む構成でもよい。又、揮発促進剤は粉末、タブレット、液体(水溶液)のいずれの形態でもよい。
【0037】
又、炉床部36の下部側にはスラグ落下口が形成されており、炉床部36の上で加熱されて溶融した処理対象物12(溶融スラグ)はスラグ落下口を介してスラグコンベア52へ落下するようになっている。スラグコンベア52は配管54A及び54Bを介して水砕水槽56と連結されており、スラグコンベア52と水砕水槽56との間で水が循環するようになっている。溶融スラグはスラグコンベア52において水で冷却されて固化してから外部に搬出されるようになっている。又、溶融炉14の外壁部等は配管58A及び58Bを介して冷却水槽60と連結されており、これらの間で水が循環することにより溶融炉14の外壁部等が冷却されるようになっている。
【0038】
洗煙ユニット18は内部に羽根車状の部材(図示省略)を備えており、この羽根車状の部材が回転することにより溶融炉14からオフガスを吸引するようになっている。又、洗煙ユニット18は配管62A及び62Bを介して洗煙水槽64と連結されており、洗煙水16が洗煙ユニット18と洗煙水槽64との間で循環するようになっている。洗煙ユニット18はオフガスと洗煙水16とを混合して撹拌するようになっている。洗煙水16としては上述の上水を用いることができる。水砕水槽56、冷却水槽60及び洗煙水槽64には上水が適宜補充されるようになっている。尚、洗煙ユニット18はスクラバであってもよい。
【0039】
又、溶融炉14と洗煙ユニット18との間にはオフガスを冷却するための熱交換ユニット66が備えられている。洗煙ユニット18は熱交換ユニット66に隣接して設置されている。熱交換ユニット66と洗煙ユニット18は例えば断熱フランジを介して直結されているとよい。又、熱交換ユニット66と洗煙ユニット18はベローズを介して連結されていてもよい。溶融炉14から排出されるオフガスはこの熱交換ユニット66において400〜800℃程度に減温されてから洗煙ユニット18に供給されるようになっている。熱交換ユニット66は空気によってオフガスを冷却するようになっており、オフガスの冷却に伴って加熱される空気は燃焼用空気として溶融炉14の主バーナー34に供給されるようになっている。尚、洗煙ユニット18において洗煙されたオフガスの温度は常温程度に低下するため集塵ユニット22において結露する可能性がある。熱交換ユニット66においてオフガスの冷却に伴って加熱される空気は集塵ユニット22における結露の防止のために集塵ユニット22の入り口側にも供給されるようになっている。
【0040】
pH調整ユニット30は、洗煙水槽64に中和剤を投入することにより洗煙水16のpHを例えば6.7〜7の範囲の7に近い値に調整するようになっている。中和剤としては洗煙水16が酸性である場合は例えば水溶性苛性ソーダ等を用いることができる。又、洗煙水16がアルカリ性である場合は例えば塩酸等を用いることができる。尚、洗煙ユニットが噴射や噴霧により洗煙水を供給して接触させて吸収・集塵するスクラバである場合には洗煙水中に予め中和剤を混入させることも可能である。
【0041】
洗煙ユニット18において洗煙されたオフガスは、洗煙ユニット18から水切りユニット68、集塵ユニット22、煙突72を介して外部に排出されるようになっている。水切りユニット68はオフガス中に混在する洗煙水16を遠心分離によってオフガスから分離するようになっている。尚、配管62Bは水切りユニット68にも連結されており、水切りユニット68においてオフガスから分離された洗煙水16は配管62Bを介して洗煙水槽64に回収されるようになっている。
【0042】
集塵ユニット22はバグフィルターである。集塵ユニット22の入り口側においてオフガスは熱交換ユニット66から供給される加熱された空気により100℃以上に加熱されるようになっており、これにより集塵ユニット22における結露が防止されるようになっている。又、集塵ユニット22の入口側には粉体や液体(一例として消石灰又はその水溶液)が霧状に噴霧されるようになっている(図示省略)。オフガス中の微細な粉塵はこれらの粉体や液体に吸着されて集塵ユニット22で捕獲されるようになっている。又、集塵ユニット22の出口側には還元水発生装置42によって生成された還元水、又は上水が霧状に噴霧されるようになっている。
【0043】
尚、例えば処理対象物12に含まれる放射性物質の濃度が高い等の理由で集塵ユニット22の集塵能力だけでは十分な集塵効果が得られない場合には、集塵ユニット22と煙突72との間にHEPAフィルターを更に設置してもよい。HEPAフィルターは集塵ユニット22を通過した微細な粉塵を濾紙による吸着効果を利用してオフガスから分離するように構成された装置である。
【0044】
溶融飛灰再処理用搬送ユニット24はコンベアを有して構成されており、集塵ユニット22において濾過される溶融飛灰等の粉塵をフレキシブルコンテナバッグ等の容器に収容した状態で直接溶融炉14へ、或いはコンベア50を介して間接的に溶融炉14へ搬送するようになっている。
【0045】
放射性物質回収ユニット20は、ポンプ74と、一次フィルター76と、2次フィルター78と、セシウム吸着塔80と、活性炭吸着塔82と、を備えている。一次フィルター76、2次フィルター78、セシウム吸着塔80及び活性炭吸着塔82は2つずつ備えられており並列に配置されている。ポンプ74は洗煙水槽64から洗煙水16を吸引し、吸引した洗煙水16を一次フィルター76及び2次フィルター78を介してセシウム吸着塔80及び活性炭吸着塔82に供給するようになっている。セシウム吸着塔80はセシウムを吸着する性質を有するフェロシアン化鉄(紺青、プルシアンブルーとも言う)、フェロシアン化コバルト等の吸着剤をタンク又は缶状の容器の中に収容した構造であり、洗煙水16がセシウム吸着塔80を通過すると洗煙水16の中の
134Csや
137Csを含む放射性物質はセシウム吸着塔80の中で吸着剤に吸着されて洗煙水16から分離されるようになっている。尚、セシウム吸着塔80においてフェロシアン化鉄やフェロシアン化コバルトが
134Csや
137Csを含む放射性物質を吸着することによりシアンが生成される。セシウム吸着塔80は交換可能であり、例えば所定の時間が経過する毎に、或いは所定量の放射性物質を吸着する毎にセシウム吸着塔80は交換されるようになっている。活性炭吸着塔82はセシウム吸着塔80の容器と同様の容器の中に吸着剤として活性炭を収容した構造であり、洗煙水16が活性炭吸着塔82を通過すると洗煙水16に含まれるシアンやセシウム以外の放射性物質(セシウム吸着塔80において吸着剤に吸着されなかった放射性物質)、非放射性の不純物が活性炭吸着塔82の中で活性炭に吸着されて洗煙水16から分離されるようになっている。活性炭吸着塔82も交換可能であり、例えば所定の時間が経過する毎に、或いは所定量のシアンや放射性物質等を吸着する毎に活性炭吸着塔82も交換されるようになっている。活性炭吸着塔78を通過した洗煙水16は再生水貯留水槽84に貯留されるようになっている。活性炭吸着塔78を通過した洗煙水16は上水として洗煙水槽64等に供給されて再利用されるようになっている。即ち、放射性物質の処理システム10は、放射性物質回収ユニット20において処理された洗煙水16が洗煙ユニット18において再利用されるように洗煙水16が循環する構成である。
【0046】
ドロス回収ユニット26は、洗煙水槽64の底部のドロスを洗煙水槽64の上部から真空ポンプ(図示省略)等で吸引して回収するようになっている。尚、洗煙水槽64がドロスを凝集剤によって沈殿させて回収するシックナー構造になっていてもよい。又、重力沈降や遠心分離によりドロスを洗煙水16から分離するシックナー構造になっていてもよい。即ち、洗煙水槽64がドロス回収ユニットを構成していてもよい。回収されたドロスは天日、或いは加熱装置(図示省略)により乾燥されるようになっている。又、熱交換ユニット66においてオフガスの冷却に伴って加熱される空気を利用してドロスが乾燥されるようになっていてもよい。ドロス再処理用搬送ユニット28は溶融飛灰再処理用搬送ユニット24と同様にコンベアを有して構成されており、ドロス回収ユニット26において回収されるドロスをフレキシブルコンテナバッグ等の容器に収容した状態で直接溶融炉14へ、或いはコンベア50を介して間接的に溶融炉14へ搬送するようになっている。
【0047】
次に、放射性物質の処理システム10による放射性物質の処理方法について
図2のフローチャートに沿って説明する。まず、揮発促進剤を処理対象物12に添加する(S102:揮発促進剤添加ステップ)。具体的には、溶融炉14に投入される前の処理対象物12に揮発促進剤添加ユニット32によって前述の揮発促進剤を処理対象物12の量に対して所定の比率で添加する。
【0048】
次に、揮発促進剤が添加された処理対象物12を溶融炉14で1300℃以上に加熱して溶融しつつ放射性物質をオフガス中に揮発除去する(S104:溶融ステップ)。これにより処理対象物12に混在する
134Cs、
137Cs、
90Srを含む放射性物質の大部分が揮発してオフガス中に移行する。この際、CaCl
2、FeCl
3、CaCO
3、CaI
2等の揮発促進剤によって
134Csや
137Csを含む放射性物質の揮発が促進される。又、B
2O
3、Na
2B
4O
7が添加される場合は融点を降下させる効果や溶融スラグの流動性を向上させる効果が得られる。溶融飛灰等の処理対象物を洗浄して放射性物質を水に抽出するのではなく放射性物質をオフガス中に揮発除去するので、水溶性の放射性物質でも非水溶性の放射性物質でも処理対象物12から分離して除去できる。又、溶融飛灰等の微細な粒子に吸着されて水に溶け出しにくくなった放射性物質が存在する場合でもこのような放射性物質を処理対象物から分離して除去できる。又、溶融炉14はエマルジョンバーナー式の表面溶融炉であるので溶融飛灰を発生させないか、或いは溶融飛灰を発生させたとしても溶融飛灰の発生量は著しく少ない。従って、処理対象物12に含まれる放射性物質を溶融飛灰に吸着された形態ではなく、気体としてオフガス中に効率良く揮発除去できる。溶融炉14で加熱されて溶融した処理対象物12(溶融スラグ)はスラグ落下口を介してスラグコンベア52へ落下する。放射性物質は揮発除去されているので溶融スラグには放射性物質が含まれていないか、放射性物質が含まれていたとしても微量である。又、処理対象物12が溶融スラグとなることで減容効果も得られる。尚、溶融スラグの放射能の量が例えば3.000Bq/kg以下であれば建設、土木資材(例えば、コンクリートの骨材、路盤材、堤防等の埋戻し材)として利用することが可能と考えられる。例えば、処理対象物が焼却灰の場合、溶融スラグを建設、土木資材として利用することで1/100以下の減容効果が得られる。一方、加熱溶融される前の処理対象物12に含まれる放射性物質の濃度が著しく高い場合、溶融スラグに所定の基準を上回る濃度の放射性物質が残存することがある。このような場合でも、溶融スラグは岩石質又はガラス質の小石状の塊であるので放射性物質は溶融スラグの中に安定した状態で保持され、更に、小石状の塊の溶融スラグは表面積が小さいので放射性物質を含む溶融スラグは貯蔵や埋め立てにより処分されても用地の周辺や地下に放射性物質が漏れ出すことがない。尚、溶融スラグの放射能の量が例えば100.000Bq/kg以下であれば一般廃棄物最終処分場に埋設することも可能と考えられる。又、岩石質又はガラス質の小石状の塊の溶融スラグであれば放射性物質を含んでいても運搬中の放射性物質の飛散の問題も生じない。
【0049】
次に、溶融炉14から排出されるオフガスを洗煙水16で洗浄してオフガスに含まれる放射性物質をオフガスから洗煙水16の中に分離する(S106:洗煙ステップ)。具体的には、オフガスは洗煙ユニット18に吸引されつつ溶融炉14から排出されて熱交換ユニット66において例えば400〜800℃程度に減温されてから洗煙ユニット18に供給され、洗煙ユニット18において洗煙水16と混合されて撹拌される。オフガスが熱交換ユニット66において冷却されるとオフガス中の放射性物質の一部が固化して熱交換ユニット66と洗煙ユニット18との間の配管に付着し洗煙ユニットまで到達しない可能性があるが、洗煙ユニット18は熱交換ユニット66に隣接して設置されているのでオフガス中の放射性物質は洗煙ユニット18へ確実に送られる。揮発した放射性物質を含むオフガスが洗煙水16と撹拌されることによりオフガスに含まれる放射性物質は洗煙水16によって冷却されて固体化し、オフガスから洗煙水16に分離される。尚、オフガス中に溶融飛灰や粉塵等の微粒子が混在する場合、そのような微粒子もオフガスから洗煙水16に分離される。放射性物質が移行した洗煙水16は洗煙ユニット18から洗煙水槽64に送られる。オフガスは洗煙ユニット18において洗煙された後、水切りユニット68、集塵ユニット22、煙突72を介して外部に排出される。尚、集塵ユニット22の入口側では消石灰等の粉体、或いは消石灰が溶解した水等の液体が配管内のオフガスに霧状に噴霧される。又、集塵ユニット22の出口側では還元水発生装置42によって生成された還元水、又は上水が配管内のオフガスに霧状に噴霧される。水切りユニット68によってオフガスから分離された洗煙水16は洗煙水槽64に回収される。洗煙水16において洗煙されたオフガス中に溶融飛灰等の粉塵が残存している場合でも、そのような粉塵は、集塵ユニット22の入口側で噴霧される粉体等に吸着され粉体等と共に集塵ユニット22においてオフガスから除去される。又、集塵ユニット22を通過するような微細な粉塵が混在している場合でも、集塵ユニット22と煙突72との間にHEPAフィルターが設置されていれば、そのような微細な粉塵はHEPAフィルターにおいてオフガスから除去される。
【0050】
次に、放射性物質を吸着する性質を有する吸着剤によって放射性物質を洗煙水16から回収する(S108:放射性物質回収ステップ)。具体的には、洗煙水槽64に貯留されている洗煙水16は放射性物質回収ユニット20のポンプ74によって吸引され、一次フィルター76及び2次フィルター78を介してセシウム吸着塔80に供給される。洗煙水16に移行した
134Csや
137Csを含む放射性物質はセシウム吸着塔80においてフェロシアン化鉄、フェロシアン化コバルト等の吸着剤に吸着されて洗煙水16から分離される。尚、フェロシアン化鉄やフェロシアン化コバルトが
134Csや
137Csを含む放射性物質を吸着することによりシアンが生成される。セシウム吸着塔80において
134Csや
137Csを含む放射性物質が分離、除去された洗煙水16は次に活性炭吸着塔82に供給される。洗煙水16に含まれるシアンやセシウム以外の放射性物質、或いは非放射性の不純物は活性炭吸着塔70において活性炭に吸着されて洗煙水16から分離、除去される。このようにシアンや放射性汚染物質、非放射性の不純物が分離、除去された洗煙水16は再生水貯留水槽84に送られた後、上水として洗煙水槽64等に供給されて再利用される。セシウム吸着塔80は、所定の時間が経過する毎に、或いは所定量の放射性物質を吸着する毎に交換される。又、活性炭吸着塔82も、所定の時間が経過する毎に、或いは所定量の放射性物質等を吸着する毎に交換される。
【0051】
尚、洗煙水16はpH調整ユニット30によって適宜(例えば常時、或いは定期的に)pHが(例えば6.7〜7の範囲の7に近い値に)調整される。このように洗煙水16のpHを調整することによりセシウム吸着塔80のフェロシアン化鉄、フェロシアン化コバルト等の吸着剤が放射性物質を吸着する能力が高められるので放射性物質を効率良く回収することができる。
【0052】
ところで上記のように洗煙ユニット18で洗煙されたオフガスに溶融飛灰が残在している場合があり、このような場合、溶融飛灰は集塵ユニット22においてオフガスから分離されて回収される(S202:溶融飛灰回収ステップ)。集塵ユニット22において回収される溶融飛灰は再処理のために溶融飛灰再処理用搬送ユニット24によって溶融炉14に搬送される(S204:溶融飛灰再処理用搬送ステップ)。洗煙ユニット18で洗煙されたオフガスに溶融飛灰が残在している場合でも、このように溶融飛灰を溶融炉14に搬送して再処理することにより、全体としては放射性物質を含む溶融飛灰を外部に排出しない処理システム及び処理方法が実現される。
【0053】
又、放射性物質を含むドロスが洗煙水16に混在する場合がある。この場合、ドロスはドロス回収ユニット26によって洗煙水16から回収される(S302:ドロス回収ステップ)。ドロス回収ユニット26において回収されるドロスは再処理のためにドロス再処理用搬送ユニット28によって溶融炉14に搬送される(S304:ドロス再処理用搬送ステップ)。このようにドロスを溶融炉14に搬送して再処理することにより、全体としては放射性物質を含むドロスを外部に排出しない処理システム及び処理方法が実現される。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前記第1実施形態に係る放射性物質回収ユニット20はセシウム吸着塔80等を備え、放射性物質を吸着剤に吸着させて洗煙水16から回収するように構成されているのに対し、本第2実施形態では
図3に示されるように放射性物質回収ユニット90が粒子状の放射性物質を凝集沈殿させることにより洗煙水16から回収するように構成されている。他の構成は前記第1実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0055】
放射性物質回収ユニット90は、第1シックナー92と第2シックナー94とを備え、これらが直列に連結された構成である。洗煙水槽64の洗煙水16はまず第1シックナー92に送られるようになっている。
【0056】
第1シックナー92には第1薬剤が投入されるようになっている。第1薬剤は例えば、K
4[Fe(CN)
6](フェロシアン化合物)と凝集剤との混合物である。凝集剤は例えばポリアクリルアミド系を主体としたノニオンやアニオン系混合凝集剤である。第1シックナー92で処理された洗煙水16は第2シックナー94に送られるようになっている。
【0057】
第2シックナー94には第2薬剤が投入されるようになっている。第2薬剤は例えば、UDD(高分散炭素材料)とK
4[Fe(CN)
6](フェロシアン化合物)との混合物である。又、第2薬剤はUDD(高分散炭素材料)とK
4[Fe(CN)
6](フェロシアン化合物)と上記の凝集剤との混合物でもよい。
【0058】
第2シックナー94において処理された洗煙水16は再生水貯留水槽84に送られた後、上水として洗煙水槽64等に供給されて再利用されるようになっている。又、第1シックナー92及び第2シックナー94において洗煙水16から分離される、放射性物質を含む凝集沈殿物は脱水機(図示省略)によって脱水された後、加熱乾燥機(図示省略)によって乾燥されてから所定の容器に封入されて外部に搬出されるようになっている。
【0059】
90Srを含む放射性物質の濃度が高い場合、第1薬剤及び第2薬剤のいずれか一方又は両方と共にH
2PO
4等のリン化合物、NaOH、KOH等を投与し、
90Srを含む放射性物質を凝集沈殿させて洗煙水16から分離するとよい。
【0060】
尚、前記第1及び第2実施形態において、溶融炉14はエマルジョンバーナー式の表面溶融炉であるが、放射性物質が混在する処理対象物12を加熱して溶融しつつ放射性物質をオフガス中に揮発除去できれば、他のタイプの溶融炉を用いてもよい。例えば、誘導加熱炉、抵抗加熱炉、アーク加熱炉等の電気式の溶融炉やプラズマ加熱炉、或いはバーナー式加熱炉を用いてもよい。
【0061】
又、前記第1実施形態において、放射性物質回収ユニット20は、セシウムを吸着する性質を有する吸着剤を容器の中に収容した構造のセシウム吸着塔80と活性炭を容器の中に収容した構造の活性炭吸着塔82とを備える構成であるが、放射性物質を洗煙水16から回収できれば放射性物質回収ユニットの構成は特に限定されない。例えば、それぞれ異なる種類の吸着剤を容器の中に収容した構造の3種類以上の吸着塔を備える構成の放射性物質回収ユニットを用いてもよい。又、2種類、或いは3種類以上の吸着剤を容器の中に収容した構造の1種類の吸着塔だけを備える構成の放射性物質回収ユニットを用いてもよい。
【0062】
又、前記第1実施形態において、セシウム吸着塔80及び活性炭吸着塔82は所定の時間が経過する毎に、或いは所定量の放射性物質等を吸着する毎に容器ごと交換されるようになっているが、容器の中の吸着剤だけを交換するようにしてもよい。
【0063】
又、前記第1実施形態において、セシウムの吸着剤としてフェロシアン化鉄やフェロシアン化コバルトが例示されているが、セシウムの吸着のための吸着剤として例えばゼオライト等の他の吸着剤を用いてもよい。
【0064】
又、前記第1実施形態に係る放射性物質回収ユニット20はセシウム吸着塔80等を備る構成であり、又、前記第2実施形態に係る放射性物質回収ユニット90は放射性物質を凝集沈殿させることにより洗煙水16から回収するように構成されているが、フェロシアン化鉄、フェロシアン化コバルト、ゼオライト等の吸着剤と磁性粉とを組み合わせた構造の磁性吸着剤を用い、放射性物質回収ユニットは、例えば洗煙水16を貯留する水槽に磁性吸着剤を添加し、放射性物質を吸着した磁性吸着剤を磁力によって集めて洗煙水16から分離、除去する構成としてもよい。
【0065】
又、前記第1及び第2実施形態において、放射性物質の処理システム10は溶融飛灰再処理用搬送ユニット24を備えているが、例えば集塵ユニット22において回収される溶融飛灰の量が少ないような場合には、溶融飛灰は人手により、或いは半自動的な搬送装置によって溶融炉14に搬送するようにしてもよい。
【0066】
又、前記第1及び第2実施形態において、放射性物質の処理システム10はドロス回収ユニット26及びドロス再処理用搬送ユニット28を備えているが、例えばドロス回収ユニット26において回収されるドロスの量が少ないような場合には、ドロスは人手により、或いは半自動的な搬送装置によって溶融炉14に搬送するようにしてもよい。又、ドロスは人手により、或いは半自動的な回収装置によって回収されるようにしてもよい。又、例えば洗煙水槽64の中の洗煙水16を撹拌して洗煙水槽64の底のドロスを洗煙水16と共に放射性物質回収ユニット20(90)に送り、ドロス或いはその中に含まれる放射性物質を放射性物質回収ユニット20(90)において回収するようにしてもよい。
【0067】
又、前記第1及び第2実施形態において、揮発促進剤としてCaCl
2、FeCl
3、CaCO
3、CaI
2、B
2O
3、Na
2B
4O
7が例示されているが、放射性物質の揮発を促進する効果や融点を降下させる効果、或いは溶融スラグの流動性を向上させる効果を有するものであれば他の揮発促進剤を用いてもよい。
【0068】
又、前記第1及び第2実施形態において、放射性物質の処理システム10は揮発促進剤添加ユニット32を備えているが、例えば放射性物質の処理システム10に搬入される前に処理対象物12に予め揮発促進剤が添加される場合や、揮発促進剤を用いなくても充分に放射性物質をオフガス中に揮発除去できる場合には、放射性物質の処理システム10は揮発促進剤添加ユニット32を備えていない構成でもよい。
【0069】
又、前記第1及び第2実施形態において、処理対象物12はフレキシブルコンテナバッグ等の容器に収容された状態で溶融炉14に搬入されるようになっているが、溶融飛灰、汚泥焼却灰、土壌等の処理対象物の搬送が人手によらず自動的に行われる場合には容器に収容されることなく溶融炉14に搬入されるようになっていてもよい。
【0070】
同様に、集塵ユニット22において回収される溶融飛灰やドロスも、これらの溶融炉14への搬送が人手によらず自動的に行われる場合には容器に収容されることなく溶融炉14に搬入されるようになっていてもよい。一方、集塵ユニット22において回収される溶融飛灰やドロスの搬送が人手により行われる場合には、容器に収容された状態で搬送される必要がある。
【0071】
[実験例1]
非放射性のCsを含む模擬灰を試験炉で加熱溶融してCsの除去効果を確認した。具体的には放射性セシウムを含まない関西地区の焼却飛灰(約20g)、及び溶融飛灰(約20g)にそれぞれ化学トレーサとして非放射性のCsOHを約1000ppm添加した2種類の試料を3つずつ用意した。又、同じ焼却飛灰(約20g)、及び溶融飛灰(約20g)に化学トレーサとして非放射性のCsClを約1000ppm添加した2種類の試料を3つずつ用意した。同種類の3つの試料にはそれぞれ揮発促進剤としてCaCl
2、FeCl
2、CaCO
3を添加し、合計12種類の試料を用意した。これら12種類の試料をそれぞれ市販の試験炉(石英管式の常圧加熱炉)で約1350℃の温度で約1時間加熱し、得られた12種類の溶融スラグ中に残存するCsの量を分析することによりCsの除去効果を確認した。
【0072】
12種類の試料のCsの除去率は98.2〜98.7%であった。即ち、いずれの試料においてもCsの除去率は98%以上(DF(除染係数)=50以上)であった。尚、焼却飛灰の重量は20〜45%減少した。又、溶融飛灰の重量は約90%減少した。これは焼却飛灰、及び溶融飛灰に含まれるNa、Ca、Cl等の揮発性の成分が高温により揮発したためと推定される。又、この実験では化学トレーサとしてCsOHが添加された試料とCsClが添加された試料との間にCsの除去率に差異は認められなかった。又、この実験では揮発促進剤としてCaCl
2が添加された試料とFeCl
2が添加された試料とCaCO
3が添加された試料との間にCsの除去率に差異は認められなかった。一方、焼却飛灰の重量の減少率が最大(45%)であった試料の揮発促進剤はCaCl
2だった。
【0073】
[実験例2]
非放射性のCsを含む模擬灰を実規模の溶融炉で加熱溶融してスラグ及び洗煙水へのCsの移行効果を確認した。具体的には放射性セシウムを含まない焼却灰(主灰:約500kg)に化学トレーサとして非放射性のCsOH(約500g)を添加した試料を用意した。又、この試料とは別にこの試料と同じ焼却灰(主灰:約500kg)に非放射性のCsCl(約500g)を揮発促進剤を兼ねる化学トレーサとして添加した試料を用意した。これら2つの試料をそれぞれエマルジョンバーナー式の表面溶融炉(日本環境保全(株)製、NK−500)で約1500℃の温度で正味約4時間(断続的に6〜7時間)加熱し、得られた2種類の溶融スラグ中に残存するCsの量及び洗煙水に移行したCsの量をICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)で分析した。分析結果を表2に示す。尚、表2の焼却灰のCsの濃度は(mg/kg)はCsClやCsOHの質量ではなくCsの質量の(焼却灰の質量に対する)割合である。
【0075】
表2に示されるように、いずれの試料についても溶融スラグに残存するCsの量(濃度)は測定限界の100mg/kgよりも少なかった。即ち、焼却灰に含まれていたCsの90%程度、又はそれ以上が揮発除去されたことが確認された。
【0076】
[実験例3]
放射性のCsを含む焼却灰を試験炉で加熱溶融してCsの除去効果を確認した。具体的には
134Cs及び
137Csを含む関東地区の焼却灰(主灰、飛灰、主灰+飛灰)の5種類の試料S1〜S5を約1350℃の温度で約1時間加熱し、加熱前後の
134Cs、
137Csの量を分析することにより
134Cs、
137Cの除去効果を確認した。又、試料S1〜S5の加熱前後の質量を測定することにより重量の減少効果を確認した。尚、試料S1〜S3は同じ地区で採取された焼却灰である。又、試料S4〜S5は他の同じ地区で採取された焼却灰である。分析結果を表3に示す。
【0078】
S1はCsの揮発率が90%に近い値であり、又、試料S2〜S3はCsの揮発率が90%以上であり良好であった。これに対し試料S4ではCsの揮発率が74%程度であった。これは試料S4が採取された地区は試料S1〜S3が採取された地区と異なり、試料S4の成分と試料S1〜S3の成分との違いが大きかったためと考えられる。一方、試料S4と同じ地区で採取された試料S5のCsの揮発率は90%以上であった。これは試料S5には揮発促進剤CaI2が添加されたためと考えられる。
【0079】
[実験例4]
放射性のCsを含む焼却灰を実規模の溶融炉で加熱溶融してCsの除去効果を確認した。具体的には
134Cs及び
137Csを含む上記実験例3の試料S4と同じ関東地区の焼却灰(主灰)の試料L1を約1400℃の温度で約3.5時間加熱し、加熱前後の
134Cs、
137Csの量を分析することにより
134Cs、
137Cの除去効果を確認した。又、試料L1の加熱前後の質量を測定することにより重量の減少効果を確認した。分析結果を表4に示す。又、上記実験例3の試料S4の分析結果を参考に併記する。尚、試料L1の総放射能(Bq)は放射能濃度(Bq/kg)を換算して得られた値である。又、上記実験例3の試料S1〜S5は予め乾燥処理を行ってから総放射能(Bq)や質量を測定し、その後で加熱溶融処理を行ったが、実験例4の試料L1については乾燥処理は行っていない。
【0081】
表4に示されるように実規模の溶融炉でも試験炉と同様の
134Cs、
137Cの除去効果が得られることが確認された。