(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767209
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】半導体製造装置用耐食性部材及びその製法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/50 20060101AFI20150730BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
C04B35/50
H01L21/68 R
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-508217(P2012-508217)
(86)(22)【出願日】2011年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2011056623
(87)【国際公開番号】WO2011122376
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2013年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-79250(P2010-79250)
(32)【優先日】2010年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−045461(JP,A)
【文献】
特開平10−053462(JP,A)
【文献】
特開平09−295683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)との複合酸化物の結晶相が主相である半導体製造装置用耐食性部材であって、
前記複合酸化物における2A族元素はSrであり、前記複合酸化物における3A族元素はY,Yb,Ho,Er及びDyからなる群より選ばれた1種である、半導体製造装置用耐食性部材。
【請求項2】
前記複合酸化物とは別に、3A族元素の酸化物の結晶相が存在しており、
前記3A族元素の酸化物は、酸化イッテルビウム、酸化ホルミウム、酸化イットリウム、酸化エルビウム及び酸化ジスプロシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載の半導体製造装置用耐食性部材。
【請求項3】
開気孔率が0.1%以下である、請求項1又は2に記載の半導体製造装置用耐食性部材。
【請求項4】
2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)とを含む粉末を、目的とする半導体製造装置用耐食性部材の形状に成形し、該成形体をホットプレス焼成することにより、主相が前記2A族元素と前記3A族元素との複合酸化物からなる前記耐食性部材を得る製法であって、前記複合酸化物における2A族元素はSrであり、前記複合酸化物における3A族元素はY,Yb,Ho,Er及びDyからなる群より選ばれた1種である、半導体製造装置用耐食性部材の製法。
【請求項5】
前記粉末には、前記3A族元素(Laを除く)が前記2A族元素(Mgを除く)と反応して前記複合酸化物を形成する化学量論量よりも過剰に含まれている、請求項4に記載の半導体製造装置用耐食性部材の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用耐食性部材及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるドライプロセスやプラズマコーティングなどを実施する際に利用される半導体製造装置では、エッチング、クリーニング用として、反応性の高いF、Cl系プラズマが使用される。このため、こうした装置に利用される部材には高い耐食性が必要であり、静電チャックやヒーター等のSiウエハと接する部材は更なる高耐食が求められる。このような要求に応えられる耐食性部材として、特許文献1には、PVD法によって形成されたYb
2O
3やDy
2O
3の薄膜が開示されている。これらの薄膜は、プラズマ中でのエッチングレートがアルミナ焼結体などと比べて非常に小さくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−222803号公報
【発明の開示】
【0004】
しかし、薄膜は成膜時に気孔やクラックが内在し易いためプラズマによる腐食が進み易く、更に基材との性質の違いや密着性の問題によって腐食の進行及び繰返し使用に伴う剥離等によってデバイス特性に影響を与える可能性があり、静電チャック等への適用には問題があった。これらの部材には焼結体が好適だが、上述の特許文献1では、PVD法によって形成されたYb
2O
3やDy
2O
3の薄膜について評価されているものの、焼結体については評価されていなかった。また、耐食性部材としては、Y
2O
3やAl
2O
3の焼結体が知られているものの、よりエッチングレートを小さく抑えることのできる焼結体材料の開発が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、半導体製造装置用耐食性部材として、従来品に比べてエッチングレートをより小さく抑えるものを提供することを主目的とする。
【0006】
本発明者らは、イットリアをはじめとする希土類酸化物の耐食性が高いことに着目し、更に高い耐食性を求めて希土類化合物を探索したところ、2A族金属(Mgを除く)と希土類元素(Laを除く)との複合酸化物の耐食性が極めて高いことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の半導体製造装置用耐食性部材は、主相が2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)との複合酸化物からなるものである。
【0008】
また、本発明の半導体製造装置用耐食性部材の製法は、2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)とを含む粉末を、目的とする半導体製造装置用耐食性部材の形状に成形し、該成形体をホットプレス焼成することにより、主相が前記2A族元素と前記3A族元素との複合酸化物からなる耐食性部材を得るものである。
【0009】
本発明の半導体製造装置用耐食性部材によれば、従来品であるイットリアやアルミナに比べてエッチングレートをより小さく抑えることできるため、耐食性部材からの発塵量が低減し、半導体製造プロセスにおいて使用される反応性の高いF、Cl系プラズマに長期間耐えることができる。また、本発明の半導体製造装置用耐食性部材の製法は、こうした耐食性部材を製造するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の半導体製造装置用耐食性部材は、2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)との複合酸化物の結晶相を含んでなるものである。
【0011】
本発明の半導体製造装置用耐食性部材において、前記複合酸化物の結晶相は、主相であってもよい。また、複合酸化物における2A族元素としては、複合酸化物の作りやすさの観点からCa,Srが好ましく、Srが特に好ましい。また、複合酸化物における3A族元素としては、耐食性と複合酸化物の作りやすさの観点からY,Yb,Ho,Dy,Erが好ましい。なお、Mgと3A族元素との複合酸化物や2A族元素とLaとの複合酸化物はこれまでに知られていない。
【0012】
本発明の半導体製造装置用耐食性部材において、前記複合酸化物とは別に、3A族元素の酸化物の結晶相が存在していてもよい。こうした3A族元素の酸化物は、耐食性が高いのみならず、前記複合酸化物の粒成長を抑制する効果があるため、得られた耐食性部材の強度が向上する。こうした3A族元素の酸化物は、酸化イッテルビウム、酸化ホルミウム、酸化イットリウム、酸化エルビウム及び酸化ジスプロシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種とすることが好ましい。
【0013】
本発明の半導体製造装置用耐食性部材において、開気孔率は0.1%以下であることが好ましい。開気孔率は、純水を媒体としたアルキメデス法により測定した値とする。開気孔率が0.1%を超えると、エッチングレートが高くなったり強度が低下したりするため、好ましくない。開気孔率は、できるだけゼロに近いほど好ましい。このため、特に下限値は存在しない。
【0014】
本発明の半導体製造装置用耐食性部材の製法は、2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)とを含む粉末を、目的とする半導体製造装置用耐食性部材の形状に成形し、該成形体をホットプレス焼成することにより、主相が前記2A族元素と前記3A族元素との複合酸化物からなる前記耐食性部材を得るものである。この製法は、本発明の半導体製造装置用耐食性部材を得るのに好適である。
【0015】
この製法において、前記粉末には、3A族元素(Laを除く)が2A族元素(Mgを除く)と反応して複合酸化物を形成する化学量論量よりも過剰に含まれていてもよい。こうすれば、複合酸化物の結晶相を含み、更に3A族元素の酸化物の結晶相を含んだ耐食性部材が得られる。
【0016】
ここで、ホットプレス焼成は、不活性雰囲気下で実施するのが好ましい。不活性雰囲気とは、酸化物原料の焼成に影響を及ぼさない雰囲気であればよく、例えば窒素雰囲気やアルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気などが挙げられる。また、ホットプレス時の焼成温度及びプレス圧力は、緻密な焼結体が得られるような温度及び圧力であればよく、酸化物原料の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、焼成温度を1500〜1800℃の間で設定し、プレス圧力を100〜300kgf/cm
2の間で設定してもよい。成形時の圧力は、特に制限するものではなく、形状を保持することのできる圧力に適宜設定すればよい。更に、2A族元素(Mgを除く)と3A族元素(Laを除く)とを含む粉末に焼結助剤を含有させたあと、所定の形状に成形し、その成形体をホットプレス焼成してもよい。その場合、焼結助剤を用いない場合に比べて、焼成温度を低くすることができるため、製造コストが低減される。但し、耐食性に影響する助剤は好ましくなく、例えば、Mg,Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物は耐食性が高く、好適である。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の好適な実施例について説明する。Yb
2O
3,Ho
2O
3,Y
2O
3原料は、純度99.9%以上、平均粒径1μm以下の市販粉末を使用した。SrCO
3原料は、純度99.9%以上、平均粒径1μm以下の市販粉末を使用した。Al
2O
3原料は純度99.5%以上の平均粒径0.5μmの市販粉末を使用した。
【0018】
[実施例1〜8]
まず、合成原料粉末を調製した。すなわち、表1に示す希土類酸化物と炭酸ストロンチウムとを表1に示すモル比となるように秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、φ10mmの玉石を用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した。その後30メッシュの篩に通し、調合粉末とした。続いて、その調合粉末を120kgf/cm
2の圧力で一軸加圧成形し、φ50mm、厚さ20mm程度の円盤状成形体を作製した。成形体を大気雰囲気中で1000〜1200℃、12時間熱処理し、CO
2成分の除去と複合酸化物の合成を行った。合成した複合酸化物を乳鉢で粗粉砕し、必要に応じて平均粒径1μm以下まで湿式粉砕した。湿式粉砕は溶媒をイソプロピルアルコールとし、一般的なポットミルで粉砕した。粉砕後取り出したスラリーを窒素気流中110℃で乾燥し、30メッシュの篩に通して合成原料粉末とした。
【0019】
次に、合成原料粉末を所定形状に成形した。すなわち、合成原料粉末を、200kgf/cm
2の圧力で一軸加圧成形し、φ50mm、厚さ10mm程度の円盤状成形体を作製した。
【0020】
最後に、得られた成形体を焼成して半導体製造装置用耐食性部材を得た。すなわち、円盤状成形体を焼成用黒鉛モールドに収納し、所定の焼成温度で焼成した。焼成はホットプレス法を用いた。プレス圧力は200kgf/cm
2とし、焼成終了までAr雰囲気とした。焼成温度(最高温度)での保持時間は4時間とした。
【0021】
[比較例1,2]
実施例1〜8の合成原料粉末の代わりに、比較例1ではAl
2O
3原料粉末、比較例2ではY
2O
3原料粉末を用いて成形・焼成を行った。なお、比較例1では焼成温度を1700℃、比較例2では焼成温度を1500℃とした。
【0022】
[評価方法]
得られた各焼結体を各種評価用に加工し、以下の評価を行った。各評価結果を表1に示す。
(1)開気孔率・嵩密度
純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。試料形状は3mm×4mm×40mmに加工したものを用いた。
(2)結晶相評価
焼結体を乳鉢で粉砕し、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα,40kV,40mA,2θ=10−70°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製 D8 ADVANCE)を使用した。
(3)エッチングレート
各焼結体表面を鏡面に研磨し、ICPプラズマ耐食試験装置を用いて下記条件の耐食試験を行った。表面粗さ計により測定した非暴露面と暴露面との段差を試験時間で割ることにより各材料のエッチングレートを算出した。
ICP:800W、バイアス:450W、導入ガス:NF
3/O
2/Ar=75/35/100sccm 0.05Torr、暴露時間:10h、試料温度:室温
(4)強度
JISR1601に準じて4点曲げ試験を行い、強度を算出した。
(5)体積抵抗率
JISC2141に準じた方法により、室温大気中で測定した。試験片形状はφ50mm、厚さ1mmとし、主電極径を20mm、ガード電極内径を30mm、ガード電極外径を40mm、印加電極径を40mmとなるよう各電極を銀ペーストで形成した。印加電圧は、500V/mmとし、電圧印加後1分時の電流を読み取り、体積抵抗率を算出した。
【0023】
【表1】
【0024】
[評価結果]
表1に示すように、実施例1では、Yb
2O
3とSrCO
3とをモル比50:50で反応させることにより酸化物原料SrYb
2O
4を合成し、これを上述した手順で成形、焼成して半導体製造装置用耐食性部材を得た。この耐食性部材は、SrYb
2O
4結晶相を主相とするものであり、エッチングレートが比較例1,2よりも低かったことから、比較例1,2に比べて耐食性が優れていることがわかる。
【0025】
実施例2では、Yb
2O
3とSrCO
3とをモル比55:45で反応させることにより、SrYb
2O
4とYb
2O
3とをモル比82:18で含む酸化物原料を合成し、実施例3では、Yb
2O
3とSrCO
3とをモル比67:33で反応させることにより、SrYb
2O
4とYb
2O
3とをモル比1:1で含む酸化物原料を合成した。これらを上述した手順で成形、焼成して得られた耐食性部材は、SrYb
2O
4結晶相とYb
2O
3結晶相とが混在するものであり、エッチングレートが比較例1,2よりも低かったことから、比較例1,2に比べて耐食性が優れていることがわかる。また、実施例2,3の耐食性部材は、実施例1よりも強度が高かったが、これは、Yb
2O
3が存在したことで焼結粒径が微細化したからだと考えられる。なお、焼結粒径が微細化すると強度が高くなることはよく知られている。更に、実施例3の耐食性部材は、実施例1に比べて体積抵抗率が高くなったが、これは、SrYb
2O
4よりも体積抵抗率の高いYb
2O
3が存在しているからだとと考えられる。
【0026】
実施例4では、Ho
2O
3とSrCO
3とをモル比50:50で反応させることにより、酸化物原料SrHo
2O
4を合成し、実施例5では、Ho
2O
3とSrCO
3とをモル比55:45で反応させることにより、SrHo
2O
4とHo
2O
3とをモル比82:18で含む酸化物原料を合成した。これらの酸化物原料を上述した手順で成形、焼成して得られた半導体製造装置用耐食性部材は、エッチングレートが比較例1,2よりも低かったことから、比較例1,2に比べて耐食性が優れていることがわかる。また、実施例4,5の耐食性部材は、実施例1よりも強度は低かったが、体積抵抗率が高かった。なお、実施例5の耐食性部材は、実施例4に比べて強度が高かったが、これは、実施例5ではHo
2O
3が存在したことにより焼結粒径が実施例4よりも微細化したからだと考えられる。
【0027】
実施例6では、Y
2O
3とSrCO
3とをモル比50:50で反応させることにより、酸化物原料SrY
2O
4を合成した。この酸化物原料を上述した手順で成形、焼成して得られた半導体製造装置用耐食性部材は、エッチングレートが比較例1,2よりも低かったことから、比較例1,2に比べて耐食性が優れていることがわかる。
【0028】
実施例7では、Er
2O
3とSrCO
3とをモル比50:50で反応させることにより、酸化物原料SrEr
2O
4を合成した。この酸化物原料を上述した手順で成形、焼成して得られた半導体製造装置用耐食性部材は、エッチングレートが比較例1,2よりも低かったことから、比較例1,2に比べて耐食性が優れていることがわかる。
【0029】
実施例8では、Dy
2O
3とSrCO
3とをモル比50:50で反応させることにより、酸化物原料SrDy
2O
4を合成した。この酸化物原料を上述した手順で成形、焼成して得られた半導体製造装置用耐食性部材は、エッチングレートが比較例1,2よりも低かったことから、比較例1,2に比べて耐食性が優れていることがわかる。
【0030】
実施例1,4,6〜8を比較すると、希土類酸化物の耐食性は、SrYb
2O
4>SrEr
2O
4>SrHo
2O
4>SrDy
2O
4>SrY
2O
4の順となる。つまり、耐食性は、希土類元素の原子量が大きいほど良好であった。また、比較例2のY
2O
3と実施例6のSrY
2O
4との比較から、本発明の複合酸化物はY
2O
3より高耐食であると判断した。
【0031】
本出願は、2010年3月30日に出願された日本国特許出願第2010−079250号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、半導体製造におけるドライプロセスやプラズマコーティングなどを実施する際に利用される半導体製造装置に利用可能である。