特許第5767215号(P5767215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767215
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】省燃費型エンジン油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/12 20060101AFI20150730BHJP
   C10M 141/08 20060101ALI20150730BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 129/66 20060101ALN20150730BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
   C10M141/12
   C10M141/08
   !C10M139/00 Z
   !C10M129/66
   !C10M135/18
   C10N10:12
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N30:12
   C10N40:25
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-521342(P2012-521342)
(86)(22)【出願日】2011年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2011053733
(87)【国際公開番号】WO2011161982
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2013年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2010-144929(P2010-144929)
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JX日鉱日石エネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
(72)【発明者】
【氏名】丸山 正希
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335688(JP,A)
【文献】 特開2000−008069(JP,A)
【文献】 特表2008−518080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、有機モリブデン化合物をモリブデン(Mo)量として0.02質量%以上と、エステル結合および2個のエポキシ化シクロアルカンを有する脂環式エポキシ化合物を含有することを特徴とする省燃費型エンジン油組成物。
【請求項2】
有機モリブデン化合物がモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)である請求項に記載の省燃費型エンジン油組成物。
【請求項3】
潤滑油基油は100℃における動粘度が4.5mm/s以下である請求項1又は2に記載の省燃費型エンジン油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食、摩耗防止性能に優れた省燃費型エンジン油に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のために自動車の燃費を向上させ、COの排出を抑制する要求が非常に高まっている。自動車の燃費を向上させるにはエンジンの効率化が重要である一方、エンジンの摩擦を低減することも燃費向上に貢献できることから、摺動部品への低摩擦材料の使用や省燃費型エンジン油の採用が図られている。
【0003】
省燃費型エンジン油としては、SAE(米国自動車技術会)J300に規定されている粘度分類で5W−30や0W−30という低粘度化や、摩擦を低下させる添加剤(摩擦調整剤、以下FMと称することもある)としてモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)などの有機モリブデン系FMを配合することが有効であることが知られている。
【0004】
しかしながら、燃料やエンジ油中の硫黄分から硫酸が生成され、生成した硫酸の一部分がエンジン油に含まれることとなり、エンジン部材を腐食し、摩耗させることが知られている。したがって、MoDTCなどを配合しても腐食防止性に優れたエンジン油が強く求められている。
【0005】
この腐食防止、摩耗低減を向上させた内燃機関用潤滑油組成物として、潤滑油基油に、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、酸アミド化合物、脂肪酸部分エステル化合物及び/または脂肪族アミン化合物、及びベンゾトリアゾール誘導体を含むものが提案されている(特許文献1)。しかしながら、この潤滑油組成物では、腐食防止効果や摩耗低減効果が、いまだ十分ではない。
また、鉛及び銅に対する耐食性を改善した特定のエポキシ化エステル化合物を含む潤滑油が提案され(特許文献2)、この特許文献2にはシクロアルキル基を含む各種のエポキシ化エステル化合物が列記されているが、具体的な化合物としては、エポキシ化トロール油脂肪酸2‐エチルヘキシルのみしか開示されておらず、また摩擦調整剤として有機モリブデン化合物を添加できるという通り一遍の記載はあるものの、その効果、特にエポキシ化合物と有機モリブデン化合物との相乗効果については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−106199号公報
【特許文献2】特開2008−518080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、腐食、摩耗防止性能、さらに省燃費性に優れたエンジン油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、エンジン油を構成するさまざまな潤滑油基材、潤滑油添加剤に関して鋭意研究を進めた結果、潤滑油添加剤として脂環式エポキシ化合物と、有機モリブデン化合物の特定量を組み合わせて配合したエンジン油が省燃費性に優れつつ、優れた腐食、摩耗防止性能を示すことを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の省燃費型エンジン油組成物は、潤滑油基油に、有機モリブデン化合物をモリブデン(Mo)量として0.02質量%以上と脂環式エポキシ化合物を含有するものである。
また、本発明において、好ましくは、上記有機モリブデン化合物として、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)を用い、上記脂環式エポキシ化合物として、エステル結合及び2個のエポキシ化シクロアルカンを有するものを用い、さらに上記潤滑油基油として、100℃における動粘度が4.5mm/s以下のものを用いるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の省燃費型エンジン油組成物は、長い期間使用してもエンジン部材の腐食、摩耗が少なく、さらに、低摩擦特性に優れているため、特に高温領域での省燃費性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の省燃費型エンジン油組成物に用いる潤滑油基油としては、鉱油、合成油、及びその混合物のいずれも使用できる。鉱油では粘度指数が120以上の高粘度指数潤滑油基油が好ましい。粘度指数が120以上の高粘度指数潤滑油基油は、ワックスの水素異性化或いは重質油の水素化分解で得られた生成油を溶剤脱ロウ又は水素化脱ロウすることにより得ることができる。
【0012】
ワックスの水素異性化は、沸点範囲が300〜600℃、炭素数として20〜70の範囲にあるワックス、例えば、鉱油系潤滑油の溶剤脱ロウ工程で得られるスラックワックスや、炭化水素ガス等を一酸化炭素と水素に転化して液体燃料を合成するフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等を原料として、水素異性化触媒、例えばアルミナ、或いはシリカ−アルミナ担体上にニッケル、コバルト等の8族金属、及びモリブデン、タングステン等の6A族金属の1種以上を担持した触媒や、ゼオライト触媒、もしくはゼオライト含有担体に白金等を担持した触媒と、水素分圧5〜14MPaの水素存在下、300〜450℃の温度、0.1〜2h−1のLHSV(液空間速度)で接触させることによって行うことができる。このとき、直鎖状のパラフィンの転化率が80%以上、軽質留分への転化率が40%以下となるようにすることが好ましい。
【0013】
一方、重質油の水素化分解を用いる高粘度指数の潤滑油基油は、次のようにして得ることができる。必要により水素化脱硫及び脱窒素を行った沸点が300〜600℃の範囲の常圧留出油、減圧留出油又はブライトストックを、水素化分解触媒、例えばシリカ−アルミナ担体上にニッケル、コバルト等の8族金属の1種以上、及びモリブデン、タングステン等の6A族金属の1種以上を担持した触媒と、水素分圧7〜14MPaの水素存在下、350〜450℃の温度、0.1〜2h−1のLHSV(液空間速度)で接触させて行うことができ、分解率(生成物に占める360℃以上の留分の減少した質量%)が40〜90%となるようにすることが好ましい。
【0014】
上記方法で得られる水素異性化生成油又は水素化分解生成油から軽質留分を留去して潤滑油留分を得ることができるが、この留分は、このままでは一般に流動点や粘度が高く、また粘度指数が十分に高くないため、脱ロウ処理を行い、ワックス分を除去して、n‐d‐M環分析による%CPが80以上、流動点が−10℃以下で粘度指数が120以上の潤滑油基油を得ることができる。
【0015】
このワックス分の除去を溶剤脱ロウ処理で行う場合、上記の軽質留分の留去に際して精密蒸留装置を用いて蒸留分離し、あらかじめガスクロマトグラフィー蒸留法による沸点371℃以上491℃未満の留分が70質量%以上になるようにカットすることが、溶剤脱ロウ処理をより効率的に行うために好ましい。この溶剤脱ロウ処理は、脱ロウ溶剤として例えばメチルエチルケトン/トルエン(容量比1/1)を用い、溶剤/油比2/1〜4/1の範囲で、−15〜−40℃の温度下に行うとよい。
【0016】
一方、ワックス分の除去を水素化脱ロウ法で行う場合は、軽質留分の留去は水素化脱ロウに支障とならない程度とし、水素化脱ロウ後に、精密蒸留装置を用いて蒸留分離してガスクロマトグラフィー蒸留法による沸点371℃以上491℃未満の留分が70質量%以上になるようにカットすることが、効率的で好ましい。この水素化脱ロウは、ゼオライト触媒と、水素分圧3〜15MPaの水素存在下、320〜430℃の温度、0.2〜4h−1のLHSV(液空間速度)で接触させ、最終的な潤滑油基油における流動点が−10℃以下となるようにするとよい。
【0017】
以上のような方法で、粘度指数120以上の潤滑油基油を得ることができるが、所望により、さらに溶剤精製或いは水素化精製を行うことができる。
【0018】
また、合成油としては、α‐オレフィンのオリゴマー、アジピン酸等の二塩基酸と一価アルコールから合成されるジエステルやネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと一塩基酸とから合成されるポリオールエステル、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
さらに、適宜の鉱油と合成油を組み合わせた混合油も、本エンジン油の基油として用いることができる。
鉱油、合成油又はこれらの混合油にしても、本発明の省燃費型エンジン油組成物に用いる場合、JIS K2283に規定する方法による100℃における動粘度が4.5mm/s以下でかつ粘度指数が120以上のものが好ましいが、さらには、100℃における動粘度が1.0mm/s以上、ASTM D2140に規定する方法のn‐d‐M環分析による%CPが80以上、JIS K2269に規定する方法による流動点が−10℃以下のものが、より好ましい。
【0020】
本発明の省燃費型エンジン油組成物は、エンジン油組成物全量基準で、有機モリブデン化合物をモリブデン(Mo)量として0.02質量%以上含有する。0.02質量%未満では、十分な省燃費持続性を得ることができない。この有機モリブデン化合物は、モリブデン(Mo)量として、0.03〜0.20質量%含有させることが好ましい。
有機モリブデン化合物として、具体的には、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、Moアミンコンプレックスなどが挙げられる。この中で、MoDTCが最も好ましく、MoDTPはリンが排ガス浄化の三元触媒を被毒するため、あまり好ましくない。
本発明において、MoDTCとしては、下記一般式(1)で表されるものを好ましく使用できる。
【0021】
【化1】
【0022】
式中、R〜Rは、炭素数4〜18個を有する直鎖及び/又は分岐のアルキル基及び/又はアルケニル基を表し、Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、その酸素原子と硫黄原子との比は1/3〜3/1である。R〜Rは、好ましくはアルキル基であり、特に好ましくは炭素数8〜14の分岐のアルキル基であり、具体的にはブチル基、2‐エチルヘキシル基、イソトリデシル基、ステアリル基等が挙げられる。1分子中に存在する4個のR〜Rは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、R〜Rの異なるMoDTCを2種以上混合して用いることもできる。
【0023】
本発明において、脂環式エポキシ化合物としては、エポキシ化シクロアルカン及びその誘導体が挙げられる。エポキシ化シクロアルカンとしては、炭素数3〜12が好ましい。エポキシ化シクロアルカンの具体例としては、エポキシ化シクロプロパン、エポキシ化シクロブタン、エポキシ化シクロペンタン、エポキシ化ジシクロペンタン、エポキシ化シクロヘキサン、エポキシ化シクロヘプタン、エポキシ化シクロオクタン、エポキシ化シクロノナン、エポキシ化シクロデカン、エポキシ化シクロドデカン、エポキシ化ノルボルナン等が挙げられる。
【0024】
エポキシ化シクロアルカン誘導体としては、脂環部分にアルキル基又はアルケニル基が1個以上導入されたアルキル化又はアルケニル化エポキシシクロアルカン、脂環部分に脂肪族若しくは芳香族のアルコキシ基が1個以上導入されたエーテル化合物、脂環部分にイミド基が1個以上導入されたイミド化合物及びビスイミド化合物、脂環部分にアミド基が1個以上導入されたアミド化合物等が挙げられ、より好ましくは脂環部分にカルボキシル基が1個以上導入されたエステル化合物が挙げられる。さらに好ましくは、エポキシ化シクロアルカンを2個有するものが好ましく、特には3,4‐エポキシシクロアルキル‐3,4‐エポキシシクロアルキルカルボキシレート(各アルキル基の炭素数は3〜12)が好ましく、具体的な化合物として、3,4‐エポキシシクロヘキシルメチル‐3,4‐エポキシシクロヘキサンカルボキシレートがもっとも好ましい。これら脂環式エポキシ化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
この脂環式エポキシ化合物の含有量は有効量含有させればよく、エンジン油組成物全量基準で0.05〜2質量%の範囲で適宜選定すればよい。
【0025】
本発明の省燃費型エンジン油組成物は、潤滑油としての性能をバランスよく確保するために上記以外の各種の添加剤を配合することができる。特には優れた清浄性及びスラッジ分散性、摩耗防止性能を確保するために、金属系清浄剤や無灰分散剤、摩耗防止剤を含有することが好ましい。
【0026】
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属清浄剤を用いることが好ましい。
アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1,500、特に好ましくは400〜700のアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。
【0027】
アルカリ土類金属フェネートとしては、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を有するアルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
アルカリ土類金属サリシレートとしては、炭素数1〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を有するアルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特に好ましくは、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
上記金属系清浄剤の含有量は任意であるが、省燃費型エンジン油組成物全質量に対して、金属量で0.05〜0.22質量%、好ましくは0.1〜0.2質量%含有させることが望ましい。
【0028】
また、無灰分散剤としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド及びそれらの誘導体が挙げられる。代表的なコハク酸イミドは、高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基で置換されたコハク酸無水物と、1分子当たり平均4〜10個、より好ましくは5〜7個の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。特には、高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基として、数平均分子量が700〜5000のポリイソブテン、特に数平均分子量が900〜3000のポリイソブテンを有するポリブテニルコハク酸イミドがより好ましい。
【0029】
このポリブテニルコハク酸イミドは、高純度イソブテンあるいは1‐ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒あるいは塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られるポリブテンから得られるものであり、ポリブテン末端にビニリデン構造を有するものが通常5〜100mol%含有される。なお、ポリアルキレンポリアミン鎖には優れたスラッジ抑制効果を得る観点から2〜5個、特には3〜4個の窒素原子を含むものが好ましい。
また、ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記ポリブテニルコハク酸イミドに、ホウ酸等のホウ素化合物や、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等の含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる変性コハク酸イミドとして用いることができる。特に、ホウ酸等のホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)コハク酸イミドは、熱・酸化安定性の面で優れている。
この無灰分散剤の含有量は任意であるが、省燃費型エンジン油組成物全質量に対して、0.5〜15質量%含有することが好ましい。
【0030】
本発明の省燃費型エンジン油組成物は、摩耗防止剤としてジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を、エンジン油組成物全質量基準で、リン(P)量として0.01〜0.10質量%含有させることが好ましく、0.05〜0.08質量%がより好ましい。エンジン油全質量に対するZnDTPに含まれるリン金属元素質量が0.01質量%未満では十分な摩耗防止性能を得ることができず、0.10質量%より大きい場合では自動車の排ガス浄化触媒に与える被毒の影響が大きくなる。
ZnDTPとしては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基を有する化合物が好ましい。なお、このアルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0031】
ジチオリン酸亜鉛の具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
ZnDTPの含有量は、エンジン油全重量に対して、ZnDTPに含まれるリン(P)金属元素重量で0.01〜0.10質量%が好ましく、0.03〜0.08質量%がより好ましい。
【0032】
本発明のエンジン油には、所望により、さらに無灰系の酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、防錆剤や消泡剤等の添加剤を添加することができる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
基油としては、重質油の水素化分解で得られた生成油を水素化脱ロウすることで得られた鉱油系基油(動粘度:17.7mm/s(40℃)、4.1mm/s(100℃)、粘度指数:134、%CP:85、流動点:−20℃)を用いた。
【0034】
上記基油に、添加剤として下記に説明するMoDTC、防食剤として潤滑油に対して広く添加されているベンゾトリアゾール誘導体(BTA)、エポキシ化合物、粘度指数向上剤(VI)及びその他添加剤を表1に示す割合で配合して実施例1〜2及び比較例1〜6のエンジン油を調製した。なお、その他の添加剤は、アルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、Caスルホネート、アルケニルコハク酸イミド、流動点降下剤及び消泡剤からなる添加剤混合物であり、実施例及び比較例全部に共通して同じ添加量で添加した。粘度指数向上剤は、実施例及び比較例全部について組成物の100℃における動粘度が9.3〜9.5mm/s(SAEエンジン油粘度分類の30に相当)になるよう添加した。
【0035】
MoDTCとしては、一般式(1)で表される化合物で、R〜Rが2‐エチルヘキシル基とイソトリデシル基との混合物で、酸素原子と硫黄原子との比が1/1のものを使用した。
ベンゾトリアゾール誘導体としては、N,N-ビス[(2‐エチルヘキシル)アミノメチル]‐1H‐ベンゾトリアゾール(チバスペシャリティ社製、Irgamet39)を使用した。
エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物である3,4‐エポキシシクロヘキシルメチル‐3,4‐エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを、また比較のために、非脂環式エポキシ化合物である2‐エチルヘキシルグリシジルエーテル(エポキシ化合物1)及びネオデカン酸グリシジルエステル(エポキシ化合物2)を使用した。
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系化合物を用いた。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の実施例及び比較例のエンジン油それぞれについて、腐食酸化安定性試験を実施して、試験後のオイルを誘導結合プラズマ‐原子発光分光法(ICP‐AES)で元素分析を行った。腐食酸化安定性試験はJISK2503に準拠して行ったが、試験条件は試験温度を135℃、試験片を銅(Cu)、鉛(Pb)、錫(Sn)に変更した。
また、供試エンジン油の省燃費性をSRV摩擦試験(試験条件:荷重400N、振幅1.5mm、 振動数50Hz、温度100℃)で評価し、良好な場合を○とし、不良な場合を×とした。
これらの結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すとおり、実施例1〜2のエンジン油組成物は、良好な省燃費性を示すと共に、腐食酸化安定性試験でのCuやPb、Snの溶出が少ないことが分かる。したがって、腐食摩耗防止性に優れつつ、高い省燃費性を発揮できる。
一方、MoDTCも脂環式エポキシも用いない比較例1では、腐食酸化安定性試験でのCuやPbの溶出は少ないものの、省燃費性が劣る。MoDTCを配合し、脂環式エポキシ化合物を配合しなかった比較例2では、省燃費性に優れるものの、腐食酸化安定性試験でのCuの著しい腐食が生じた。
また、MoDTCと共にベンゾトリアゾール誘導体を用いた比較例3、4ではベンゾトリアゾール誘導体の配合量が少ないとCuの溶出が多く、又はベンゾトリアゾール誘導体の配合量が多いとPbの溶出が多く、省燃費性に優れるものの腐食酸化安定性に劣ることが分かる。また、MoDTCと共に非脂環式エポキシ化合物を用いた比較例5、6ではCuの溶出が多く、特に脂肪酸とエポキシのエステルは、防食性が極めて低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、腐食、摩耗防止性能、さらは省燃費性に優れており、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関用のエンジン油として利用することができる。