(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767265
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】車両の高電圧系制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20150730BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20150730BHJP
B60W 20/00 20060101ALI20150730BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20150730BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20150730BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20150730BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20150730BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20150730BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20150730BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20150730BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20150730BHJP
B60L 3/00 20060101ALI20150730BHJP
B60W 10/24 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
B60W30/09
B60K6/20 330
B60K6/54ZHV
B60K6/48
B60K6/20 320
B60K6/20 350
B60K6/20 370
B60W10/00 120
B60W10/00 104
B60W10/06
B60W10/08
B60W10/10
B60W10/00 148
B60L3/00 H
B60W10/18
B60W10/24
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-66057(P2013-66057)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189136(P2014-189136A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100093023
【弁理士】
【氏名又は名称】小塚 善高
(74)【代理人】
【識別番号】100117008
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 章子
(72)【発明者】
【氏名】岸田 太一
【審査官】
小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−227002(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/010281(WO,A1)
【文献】
特開平08−237815(JP,A)
【文献】
特開2006−141158(JP,A)
【文献】
特開2005−020952(JP,A)
【文献】
特開2013−51755(JP,A)
【文献】
特開2012−70561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/00 − 6/547
B60W 10/00 − 50/16
B60L 1/00 − 15/42
B60T 7/12 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてモータと当該モータに電力を供給するバッテリとを有する高電圧系を備えた車両の高電圧系制御装置であって、
先行車等の対象物と自車との間の車間距離を検出する車間距離検出部と、
車間距離に応じて自動的に車両を制動する自動ブレーキと、
前記自動ブレーキが作動したときに、前記高電圧系を遮断する遮断制御部と、
前記高電圧系において前記モータと接続されたインバータと、
前記インバータを制御するインバータコントローラとを有し、
前記高電圧系を遮断する前に、前記インバータコントローラは前記モータのトルクをゼロとするゼロトルク化するようにした車両の高電圧系制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の高電圧系制御装置において、車両が所定の遮断速度を超える高車速で走行している状態のもとで、前記自動ブレーキが作動したときに前記高電圧系を遮断するようにした、車両の高電圧系制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の高電圧系制御装置において、前記高電圧系を遮断するメインリレーを前記バッテリと前記インバータとの間に設けた、車両の高電圧系制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の高電圧系制御装置において、動力源としてモータとエンジンとを有し、モータトルクをゼロトルク化するときにエンジントルクを増減するようにした、車両の高電圧系制御装置。
【請求項5】
請求項4記載の車両の高電圧系制御装置において、前記エンジンと駆動輪との間に変速機を設け、モータトルクをゼロトルク化するときに変速比を調整するようにした、車両の高電圧系制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを有する車両に設けられた高電圧系を制御するための車両の高電圧系制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源として電動モータを有する車両には、電動モータのみを動力源とする狭義の電気自動車(EV)と、広義の電気自動車として電動モータと内燃機関とが動力源として設けられたハイブリッド車両(HEV)とがある。これらの電気自動車においては、電動モータはインバータを介して二次電池等のバッテリに接続されており、バッテリから電動モータまでは高電圧系を構成している。車両が先行車や障害物に衝突した場合には、乗員を保護するためにエアバッグを作動させるようにしている。さらに、衝突により高電圧のバッテリにダメージが及ぶと、漏電による感電等の危険が想定されるので、衝突を検知したときには、高電圧系を自動的に遮断つまりオートディスコネクトするようにしている。
【0003】
特許文献1には、衝突予知信号が入力されると、システムのメインリレーをオフするようにしたハイブリッド車両が記載されている。また、特許文献2には車両衝突時または衝突予知時に強電リレーを遮断するようにしたハイブリッド車両の制御装置が記載されている。
【0004】
特許文献3には、衝突が予知された場合に高電圧バッテリとインバータの間の電気的接続を切断するようにしたハイブリッド車両の高電圧遮断システムが記載されている。また、特許文献4には、衝突の予知後にプリクラッシュブレーキを必要とする領域に入ったときにはモータによる回生制動を行うようにしたブレーキアシストシステムが記載されている。このブレーキアシストシステムにおいては、衝突の可能性が判断されると、モータへの駆動力配分比をエンジンへの駆動力配分比よりも高めに設定し、ブレーキ作動を必要とする領域に入ったと判断されると、モータにより回生制動力を発生させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−20952号公報
【特許文献2】特開2006−20450号公報
【特許文献3】特開2006−143141号公報
【特許文献4】特開2007−129827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両に車間距離検出器を車両に設けると、障害物を含めて先行車と自車との間の車間距離を検出することができる。車間距離検出器とともに車輪を自動的に作動させる自動ブレーキを有する車両においては、車間距離に応じて衝突を予知することにより、自動的にブレーキを作動させるようにしたプリクラッシュ制御を行うことができる。プリクラッシュ制御を行うことにより、自車の前方に先行車や傷害物が存在していても、自動的にブレーキを作動させて衝突を回避したり、衝突の被害を軽減したりすることができる。
【0007】
しかしながら、上述のように、衝突を検知してから高電圧系を遮断するようにしたのでは、高電圧系の危険を十分に回避することができない場合がある。
【0008】
本発明の目的は、高電圧系を有する車両における安全性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両の高電圧系制御装置は、動力源としてモータと当該モータに電力を供給するバッテリとを有する高電圧系を備えた車両の高電圧系制御装置であって、先行車等の対象物と自車との間の車間距離を検出する車間距離検出部と、車間距離に応じて自動的に車両を制動する自動ブレーキと、前記自動ブレーキが作動したときに、前記高電圧系を遮断する遮断制御部と、
前記高電圧系において前記モータと接続されたインバータと、前記インバータを制御するインバータコントローラとを有し、
前記高電圧系を遮断する前に、前記インバータコントローラは前記モータのトルクをゼロとするゼロトルク化するようにした。
【発明の効果】
【0010】
対象物と自車との車間距離に応じて自動ブレーキにより車両を制動するプリクラッシュ制御が行われると、自動ブレーキの作動に基づいて高電圧系が遮断される
前に、モータのトルクをゼロトルク化するので、
オートディスコネクト時のショックを緩和することができる。さらに、万一、車両が先行車等の対象物に衝突したとしても、高電圧系の危険を回避することができ、車両の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ハイブリッド車両のシステム構成の一例を示す概略図である。
【
図2】(A)はプリクラッシュ制御時における本発明の高電圧系の遮断制御を示すタイムチャートであり、(B)は比較例として示す従来の高電圧系の遮断制御を示すタイムチャートである。
【
図3】本発明の遮断制御のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示す車両10は、ハイブリッド車両であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関により構成されるエンジン11と、発電機能を有するモータであるモータジェネレータ12とをそれぞれ動力源として備えている。エンジン11の出力軸は変速機13に連結されており、変速機13の出力軸14にはモータジェネレータ12が連結されている。出力軸14は減速歯車対15を介して前輪用の車軸16に連結されており、この車両10は、エンジン11の動力を駆動輪としての前輪17に伝達するエンジン駆動系と、モータジェネレータ12の動力を駆動輪に伝達するモータ駆動系とを有している。車軸16に設けられた前輪17には、走行モードに応じて、エンジン11の動力とモータジェネレータの動力の少なくともいずれか一方が伝達される。後輪用の車軸18には後輪19が設けられている。なお、
図1においては、前輪用の車軸16に設けられる差動装置は図示省略されている。
【0013】
モータジェネレータ12のステータにはインバータ21が接続されており、インバータ21には通電ラインにより蓄電デバイスであるバッテリ22が接続されている。バッテリ22からモータジェネレータ12までは高電圧系23となっており、バッテリ22とインバータ21の間の通電ラインには、高電圧系のコンタクトつまりメインリレー24が設けられている。この車両10においては、エンジン11の動力は矢印Eで示すように前輪17に伝達され、バッテリ22の電力を矢印Bで示すようにモータジェネレータ12に供給するとモータジェネレータ12の動力は矢印Mで示すように前輪17に伝達される。これにより、エンジン11とモータジェネレータ12の少なくとも何れかを動力源として車両10を駆動することができる。
【0014】
車両の減速時にはモータジェネレータ12を発電機として機能させると、破線の矢印Gで示すように、制動時に熱エネルギーとして捨てられる減速エネルギーを吸収してバッテリ22に充電する回生ブレーキモードとなる。
【0015】
この車両10には、傷害物や先行車と自車との間の車間距離を検出するための車間距離検出器25が設けられている。この車間距離検出器25としては、2つのCCDカメラを用いて左右の視差を利用して対象物である先行車や傷害物までの距離を検出する形態、ミリ波レーダーを用いて距離を検出する形態等がある。車間距離検出器25からの検出センサ信号は、車間距離検出部としての車間距離検知コントローラ26において検出センサ信号に基づいて先行車等の対象物と自車との間の車間距離が検出される。検出された車間距離の信号は、遮断制御部としてのHEVコントローラ27に送られる。このHEVコントローラ27にはバッテリコントローラ28が接続されており、バッテリコントローラ28は、HEVコントローラ27からの信号に基づいてメインリレー24を接続状態と接続を解除する状態とに制御する。
【0016】
前輪17と後輪19には、車両10に制動力を加えるために、自動ブレーキ31が設けられており、それぞれの自動ブレーキ31は液圧アクチュエータを有し、ブレーキコントローラ32により液圧アクチュエータの作動が制御される。車両10には足踏み式のブレーキも設けられているが、
図1においては、図示省略されている。HEVコントローラ27からは、エンジン11を制御するエンジンコントローラ33に制御信号が送られて、エンジン11の出力トルクが制御される。さらに、HEVコントローラ27からは、変速機13を制御する変速機コントローラ34に変速指令信号が出力され、インバータ21を制御するインバータコントローラ35にモータジェネレータ12の出力トルクの指令信号が出力される。HEVコントローラ27を含めて上述した種々のコントローラは、中央演算処理装置(CPU)とメモリ(ROM,RAM)と入出力インターフェーイスを備えたマイクロコンピュータにより構成される。
【0017】
図1に示すように、車両10には先行車等の対象物と自車との間の車間距離を検出する車間距離検出器25と自動ブレーキ31とが設けられており、自車と対象物との間の車間距離が所定のプリクラッシュ制御距離以下となると、プリクラッシュ制御が行われ、自動ブレーキ31を作動させて自動的に車両10が制動される。
【0018】
図2(A)はプリクラッシュ制御時における本発明の高電圧系の遮断制御を示すタイムチャートであり、
図2(B)は比較例として示す従来の高電圧系の遮断制御を示すタイムチャートである。
【0019】
図2(A)に示すように、自動ブレーキ31が作動して対象物に衝突しないようにプレクラッシュ制御が行われる。自動ブレーキ31のブレーキ液圧が所定の閾値を超えると、HEVコントローラ27はバッテリコントローラ28に遮断信号を出力する。これにより、バッテリコントローラ28はメインリレー24に接続解除信号を出力してオートディスコネクトが実施される。プリクラッシュ制御が行われると、先行車等の対象物に衝突することなく、車両10は停止されるが、万一、対象物に車両10が衝突したとしても、既に自動ブレーキ31の作動に基づいてオートディスコネクトが実施されてメインリレー24が遮断されている。このように、メインリレー24の遮断によって高電圧系23が遮断されているので、万一、車両10が対象物に衝突したとしても、高電圧系の危険を確実に回避することができる。
【0020】
特に、車両が所定の遮断速度を超える高車速で走行している状態のもとで、プリクラッシュ制御が行われたときに、オートディスコネクトを実施するようにしている。この遮断速度としては、例えば、30km/hを超える車速に設定されている。このような高速度で車両10が走行している状態のもとで、プリクラッシュ制御が行われたときには、低車速のもとでプリクラッシュ制御が行われたときよりも、衝突の可能性が高くなることが想定される。そこで、所定の遮断速度以上の高車速で走行している状態のもとで、プリクラッシュ制御が行われたときに、オートディスコネクトを実施する。なお、遮断速度としては、上述した30km/hに限られることはなく、任意の車速に設定することができる。
【0021】
図2(B)に比較例として示すように、従来では車両が先行車等の対象物に衝突したことが検知されたときに、エアバッグを作動させるとともにオートディスコネクトを実施するようにしている。このため、衝突後にオートディスコネクトが実行されるので、高電圧系の危険が想定されるが、自動ブレーキ31の作動に基づいてオートディスコネクトを実行することにより、高電圧系の危険を回避することができる。
【0022】
オートディスコネクトが実行されると、モータジェネレータ12の駆動トルクを駆動輪に伝達している状態のもとでは、車両にショックが発生する。そこで、プリクラッシュ制御が行われてから、オートディスコネクトが実施されるまでに、モータジェネレータ12に軸トルクが発生しないように、モータジェネレータ12の目標トルクをゼロとするゼロトルク化制御が行われる。ゼロトルク化は、HEVコントローラ27からインバータコントローラ35に送られる指令信号により行われる。このゼロトルク化制御とともに、エンジントルクを増減することにより、ドライバの要求トルクとの乖離を少なくするようにしている。この乖離を少なくする方式としては、変速機13の変速比を調整するようにする形態がある。さらには、エンジントルクの増減と変速比の調整とを合わせて行うようにする形態がある。
【0023】
図3は遮断制御のアルゴリズムを示すフローチャートである。車両10の走行時には、車間距離検出器25からの信号に基づいて車間距離検知コントローラ26によって先行車や障害物等の対象物と自車との車間距離が検出される(ステップS1)。ステップS2において、車速が所定の遮断速度を超えていると判定された状態のもとで、自車と対象物との車間距離が所定以下にまで短くなって車両10が対象物に接近すると、衝突予測がステップS3において判定される。衝突予測が判定されたときには、
図2(A)に示すように、プリクラッシュ制御が実行される(ステップS4)。プリクラッシュ制御が実施されると、自動ブレーキ31がブレーキコントローラ32からの制御信号により作動して、車両10には制動力が加えられる。
【0024】
自動ブレーキ31の液圧が閾値を超えると、まず、ステップS5においてモータトルクがゼロトルク化された後に、ステップS6においてオートディスコネクトが実行されてメインリレー24が遮断される。このように、ゼロトルク化を行って高電圧系23を遮断すると、プリクラッシュ制御のもとで、ドライバの要求トルクとの乖離を少なくするようにしつつ、万一、車両が衝突したとしても、高電圧系23の安全を確保することができる。
【0025】
プリクラッシュ制御は、車両が低車速で対象物に接近した場合にも実行される。上述のように、車速が上述した高車速のときにプリクラッシュ制御が実行された状態のもとで、自動ブレーキ31の作動に基づいてオートディスコネクトを実施することにより、衝突の可能性が低車速のときよりも高い走行状態における高電圧系における危険を回避することができる。
【0026】
プリクラッシュ制御により車両10が対象物に衝突することなく、対象物の直前で停止したときには、車両10の停止信号に基づいてメインリレー24が接続状態に切り換えられる。ただし、この切り換え動作を手動のスイッチで行うようにしても良い。
【0027】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、
図1に示す車両10はエンジン11とモータジェネレータ12とを動力源とするハイブリッド車両であるが、本発明の高電圧系制御装置は、電動モータのみを動力源とする車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 車両
11 エンジン
12 モータジェネレータ
13 変速機
14 出力軸
15 減速歯車対
21 インバータ
22 バッテリ
23 高電圧系
24 メインリレー
25 車間距離検出器
26 車間距離検知コントローラ
27 HEVコントローラ