(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のノズル流路と連通した共通液室と、前記共通液室と連通した開口部と、前記開口部と連通したメイン液体供給室と、前記メイン液体供給室と連通する液体供給路と、前記液体供給路と連通する液体供給室と、前記液体供給室を、液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室と、第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、前記メイン液体供給室の一部に設けられた気液分離部と、前記気液分離部と連通する空気室と、を備え、
前記ノズル流路と、前記共通液室と、前記開口部と、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記液体供給室と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、前記ノズル流路の配列方向と前記液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、
前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、各々積層することなく配置されている請求項9または10に記載のインクジェットヘッド。
前記インクジェットヘッドとして、ノズル壁によって仕切られた複数のノズル流路が形成され、前記ノズル流路に連通する複数のインク吐出口が形成され、各々のノズル流路の内部にヒーターが配置されたものを用いる請求項13〜15の何れか1項に記載の物流方法。
前記インクジェットヘッドとして、前記複数のノズル流路と連通した共通液室と、前記共通液室と連通した開口部と、前記開口部と連通したメイン液体供給室と、前記メイン液体供給室と連通する液体供給路と、前記液体供給路と連通する液体供給室と、前記液体供給室を、液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室と、第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、前記メイン液体供給室の一部に設けられた気液分離部と、前記気液分離部と連通する空気室と、を備え、前記ノズル流路と、前記共通液室と、前記開口部と、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記液体供給室と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、前記ノズル流路の配列方向と前記液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、各々積層することなく配置されているものを用いる請求項16または17に記載の物流方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施形態に限定されず、その発明特定事項を有する全ての対象を含むものである。なお、本明細書において、「物流」とは、生産者(製造メーカー)から消費者(ユーザー)に至るまでの製品の流通工程全般を指し、輸送の他、包装、輸送前後の保管等、生産者(製造メーカー)が製品を製造した後、消費者(ユーザー)が使用を開始するに至るまでの全ての工程を含むものとする。
【0026】
[1]物流用充填液:
「物流用充填液」とは、サーマル方式のインクジェットヘッドを物流させる際に、前記インク吐出口に連通するノズル流路に充填される液体である。この物流用充填液はインクジェットヘッドを物流させるに先立って生産者(製造メーカー)によってノズル流路に充填される。そして、物流用充填液は消費者(ユーザー)がインクジェットヘッドを使用する際に印刷用インク(記録液)と置換され、ヘッド外部に排出される。本発明の物流用充填液は、インク吐出口の開口面積が100〜350μm
2の小口径のインクジェットヘッド、インク吐出口の周縁に撥水性領域が形成された撥水ヘッドに好適に用いることができる。
【0027】
本発明の物流用充填液は、少なくとも水溶性有機化合物および水を構成成分とする水性媒体に、染料を溶解させたものである。
【0028】
[1−1]染料:
本発明の物流用充填液は、色材として染料を含有している。所定量の染料を含有させることで、水性媒体(水、水溶性有機化合物等)やヘッドの構成材料等に微量含まれる不純物がヘッドの撥水性領域に付着するために起こる撥水性の低下を有効に防止することができる。色材として顔料ではなく染料を用いたのは、顔料のように顔料粒子が沈降してインク吐出口に固着する現象が生じ難く、前記固着に起因する「よれ印字」やノズルの詰まり(不吐ノズルの発生)等の不具合を生じ難いためである。また、所定量の染料を含有させることで、物流用充填液で印字検査を行うことが可能となる。
【0029】
染料の分子構造等は特に限定されないが、水溶性染料を用いることが好ましい。例えば、以下に掲げるイエロー染料、レッド染料、バイオレット染料、ブルー染料、ブラック染料等を好適に用いることができる。なお、視認性が低いイエロー染料を印字検査に用いるためには、印字検査用の記録媒体を予めブルー染料で着色しておく、あるいはイエロー染料で形成される印字パターンにブラックライトやLEDライト等の光を照射する等の方法により、イエロー染料を視認可能とする必要がある。
【0030】
[1−1A]イエロー染料:
イエロー染料としては、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.アシッドイエロー、C.I.リィアクティブイエロー、C.I.フードイエロー等を挙げることができる。具体的には、
(1)C.I.ダイレクトイエロー8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、142;
(2)C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99;
(3)C.I.リィアクティブイエロー2、3、17、25、37、42;
(4)C.I.フードイエロー3;等を用いることが好ましい。
【0031】
[1−1B]レッド染料:
レッド染料としては、C.I.ダイレクトレッド、C.I.アシッドレッド、C.I.リィアクティブレッド、C.I.フードレッド等を挙げることができる。具体的には、
(1)C.I.ダイレクトレッド2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230;
(2)C.I.アシッドレッド6、8、9、13、14、18、26、27、32、3537、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289;
(3)C.I.リィアクティブレッド7、12、13、15、17、20、23、24、31、42、45、46、59;
(4)C.I.フードレッド87、92、94;等を用いることが好ましい。
【0032】
[1−1C]バイオレット染料:
バイオレット染料としては、C.I.ダイレクトバイオレット等を挙げることができる。具体的には、C.I.ダイレクトバイオレット107;等を用いることが好ましい。
【0033】
[1−1D]ブルー染料:
ブルー染料としては、C.I.ダイレクトブルー、C.I.アシッドブルー、C.I.リィアクティブブルー等を挙げることができる。具体的には、
(1)C.I.ダイレクトブルー1、15、22、25、41、76、77、80、86、87、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226;
(2)C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、117、127、138、158、161;
(3)C.I.リィアクティブブルー4、5、7、13、14、15、18、19、21、26、27、29、32、38、40、44、100;等を用いることが好ましい。
【0034】
[1−1E]ブラック染料:
ブラック染料としては、C.I.ダイレクトブラック、C.I.アシッドブラック、C.I.フードブラック等を挙げることができる。具体的には、
(1)C.I.ダイレクトブラック17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195;
(2)C.I.アシッドブラック2、48、51、52、110、115、156;
(3)C.I.フードブラック1、2;等を用いることが好ましい。
【0035】
前記染料は、前記物流用充填液の全質量に対し、0.2質量%以上、1質量%以下の濃度で含有させる。0.2質量%以上とすることにより、水性媒体(水、水溶性有機化合物等)やヘッドの構成材料等に微量含まれる不純物がヘッドの撥水性領域に付着することに起因する撥水性の低下を有効に防止することができる。1質量%以下とすることにより、染料がインク吐出口に固着することに起因する「よれ印字」やノズルの詰まり(不吐ノズルの発生)を有効に防止することができる。また、記録用インクに置換する際に混色によるインク汚染を防止することができる。前記効果をより確実に得るためには、前記染料は、前記物流用充填液の全質量に対し、0.3質量%以上、0.8質量%以下の濃度で含有されていることが好ましい。
【0036】
なお、インクジェット記録装置に対し複数のインクジェットヘッドを搭載する場合(例えばCMYKの4色)には、全てのインクジェットヘッド用の物流用充填液を同一組成とすることが好ましい。
【0037】
前記染料は、前記水溶性有機化合物に対する飽和溶解度以下の濃度で含有させる。飽和溶解度以下とすることにより、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発しても、染料の溶解状態が保たれる。従って、染料がインク吐出口に増粘あるいは固着することに起因する「よれ印字」やノズルの詰まり(不吐ノズルの発生)を有効に防止することができる。なお、ここに言う「飽和溶解度」は、25℃における飽和溶解度を意味する。
【0038】
染料の水溶性有機化合物に対する飽和溶解度は、例えば25℃において水溶性化合物100gに対し、添加する染料の量を徐々に変化させて、濃度の異なる染料溶液を調製し、各々の染料溶液について吸光度を測定し、孔径1μmのメンブレンフィルターにより濾過した後、再度、吸光度を測定し、前記濾過の前後で吸光度に差異が生じる染料溶液の染料濃度から求めることができる。例えばC.I.フードブラック2(FB2)のグリセリンに対する飽和溶解度は4(g/100g)、ジエチレングルコールに対する飽和溶解度は16(g/100g)、トリエチレングルコールに対する飽和溶解度は21(g/100g)である。
【0039】
[1−2]水性媒体:
本発明の物流用充填液は、少なくとも水溶性有機化合物および水を構成成分とする水性媒体に、染料が溶解されている。
【0040】
[1−2A]水溶性有機化合物:
「水溶性有機化合物」とは、水と自由に混和するか、或いは水に対する溶解度(25℃)が20g/100g以上の有機化合物を意味する。更に、本発明においては、前記水溶性有機化合物が、20℃における蒸気圧が3Pa以下の水溶性有機溶剤、即ち難揮発性の化合物であることが好ましい。このような化合物を用いることによって、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発してしまった場合でも、染料の溶解状態を維持することができ、染料の析出や固化を防止することができる。また、水溶性有機化合物は、染料に対する溶解性を示すものが好ましい。
【0041】
水溶性有機化合物の分子構造等は特に限定されないが、例えば、以下に掲げる多価アルコール類、エステル類、低級アルコキシアルコール類、アミン類、アミド類、複素環類等の水溶性有機溶剤を挙げることができる。
【0042】
(1)多価アルコール類:
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、イソブチレングリコール、チオジグリコール、1,2−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、グリセリン、ジグリセリン等;
【0043】
(2)エステル類:
γ−ブチロラクトン、ジアセチン、リン酸トリエチル等;
(3)低級アルコキシアルコール類:
2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等;
(4)アミン類:
エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等;
【0044】
(5)アミド類:
ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等;
(6)複素環類:
2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、モルホリン、N−エチルモルホリン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ヒドロキシイミダゾール、ジメチルアミノピリジン、1,3−プロパンスルトン、ヒドロキシエチルピペラジン、ピペラジン等;
【0045】
これらの中で、20℃での蒸気圧が3Pa以下の水溶性有機溶剤としては、ジエチレングリコール(2.7Pa)、トリエチレングリコール(0.02Pa)、グリセリン(<0.01Pa)等を挙げることができる。これらの中ではグリセリンが特に好ましい。
【0046】
水溶性有機化合物としては、前記水溶性有機溶剤の他、20℃で固体の水溶性有機化合物を前記水溶性有機溶剤に溶解させた溶液を用いることもできる。この溶液としては常温(20℃)において、前記水溶性有機溶剤100gに対して前記固体の水溶性有機化合物が1g以上溶解している溶液が好ましく、5g以上溶解している溶液が更に好ましい。前記固体の水溶性有機化合物の具体的な構造は特に限定されないが、例えば尿素、エチレン尿素等の尿素類;1,6−ヘキサンジオール、イノシトール、トリメチロールプロパン等の常温(20℃)で固体の多価アルコール類;グルコース、ソルビトール等の糖類;等を挙げることができる。特に尿素は揮発し難く、水溶性が高い点において好ましい。前記固体の水溶性有機化合物を溶解させる水溶性有機溶剤としては、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が好ましい。
【0047】
水溶性有機化合物の前記物流用充填液の全質量に対する濃度は40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。40質量%以下とすることにより、印刷用インクに置換する際にノズル流路の内部に残留し難く、インク置換にかかる回復動作を最小限のものとすることができる。水溶性有機化合物の添加効果を得るためには、前記濃度が15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。水溶性有機化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
[1−2B]水:
水としては、イオン交換水を用いることが好ましい。水の含有率は、物流用充填液の全質量に対し、30質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。30質量%以上とすることにより、染料および水溶性有機化合物を水和させることができ、物流時における染料や水溶性有機化合物の凝集を防止することができる。一方、90質量%以下とすることにより、相対的に水溶性有機化合物の量が増え、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発してしまった場合でも、染料の溶解状態を維持することができ、染料の析出や固化を防止することができる。前記効果をより確実に発揮させるためには、水の含有率を55質量%以上、85質量%以下とすることが更に好ましい。
【0049】
[1−2C]界面活性剤:
水性媒体には、界面活性剤が含有されていることが好ましい。界面活性剤は物流用充填剤の吐出安定性を向上させる効果、物流用充填液の表面張力と濡れ性を調整する効果がある。界面活性剤の種類は特に限定されないが、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。中でもHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance)が10以上の親水性が高いノニオン性界面活性剤が好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等を用いることが好ましい。
【0050】
界面活性剤の含有率は、吐出安定性向上の効果を得るために、物流用充填液の全質量に対して、0.1質量%以上とすることが好ましく、0.15質量%以上とすることが更に好ましい。一方、過剰添加による粘度上昇および表面張力の低下を抑制するために、物流用充填液の全質量に対して、2質量%以下とすることが好ましく、1質量%とすることがより好ましく、0.2質量%以下とすることが更に好ましく、0.18質量%以下とすることが特に好ましい。
【0051】
[1−2D]その他の添加剤:
水性媒体には、目的に応じて、界面活性剤以外の添加剤が添加されていてもよい。そのような添加剤としては、例えば、消泡剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0052】
[1−3]表面張力:
物流用充填液は、表面張力を35mN/m以上に調整する。表面張力を35mN/m以上とすることにより、インク吐出口の周縁に形成された撥水性領域の撥水性低下を防止することができる。従って、物流用充填液を記録液に置換して印刷を行う際に、よれ印字やサテライトの増加を防止することができる。一方、表面張力の上限は特に限定されないが、43mN/m以下とすることが好ましく、38mN/m以下とすることが更に好ましい。これにより、吐出の不安定化を防止することができる。表面張力は物流用充填液に含まれる界面活性剤の添加量、界面活性剤の種類だけでなく、有機溶剤や染料の種類、添加量によっても変化する。
【0053】
物流用充填液の表面張力は、(温度25℃、湿度50%の条件下、自動表面張力計(例えば、協和界面科学社製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法)により測定した値を意味するものとする。物流用充填液の表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
【0054】
[1−4]粘度:
物流用充填液は、粘度が1.3mPa・s以上、5.0mPa・s以下のものが好ましい。物流用充填液の粘度を前記範囲とすることにより、物流用充填液によって印字検査を行うことが可能となる。この点については、物流方法の項で具体的に説明する。
【0055】
物流用充填液の粘度は、JIS Z8803に準拠して、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業社製、商品名「RE-80L型粘度計」等)を用い、測定した値を意味するものとする。物流用充填液の粘度は、(界面活性剤の添加量、水溶性有機化合物の添加量)等により調整することができる。
【0056】
[2]インクジェットヘッド:
以下、本発明のインクジェットヘッドの一の実施形態について、
図1A〜
図1Cおよび
図2A〜
図2Cを用いて説明する。但し、本発明のインクジェットヘッドは、以下に説明する構成に限定されるものではない。
【0057】
[2−1]ノズル部分の構造:
まず、ノズル部分の構造について
図1A〜
図1Cを用いて説明する。
図1Aはインクジェットヘッドのノズルの内部構造を模式的に示す上面図である。
図1Bは
図1Aに示すノズルの内部構造を模式的に示す側面図である。
図1Cは
図1Aに示すノズルのインク吐出口を模式的に示す正面図である。
【0058】
本発明のインクジェットヘッドは、サーマル方式のインクジェットヘッドである。サーマル方式のインクジェットヘッドは、図示のようにノズル壁153によって仕切られた複数のノズル流路159が形成され、ノズル流路159に連通する複数のインク吐出口151が形成され、各々のノズル流路159の内部にヒーター152が配置される。図示の形態では、ノズル流路159と共通液室156との間に、ヘッド内のインク流路中に浮遊する異物をトラップするためのノズルフィルタ155が設置されている。また、ノズル天板162が貼り付けられる天板部材161は異方性エッチング等で形成されたインク供給開口(不図示)を備え、外部からのインクを共通液室156からノズル流路159に導入可能に構成されている。
【0059】
ノズル流路159はノズル壁153によって左右の両側面側が仕切られることに加えて、ノズル天板162によって上面側が、ノズル底板164によって底面側が仕切られている。即ち、ノズル流路159は、ノズル壁153、ノズル天板162およびノズル底板164を隔壁として周囲の空間から区画された略四角柱状の内部空間である。ノズル天板162は、Si等で構成される天板部材161に積層されており、ノズル底板164は底板部分163に積層されている。
【0060】
インク吐出口151はノズル流路159の一端に形成されるインクを吐出させる開口部であり、ノズル流路159を経由して共通液室156に連通されている。インク吐出口151はフェイス面に形成される。図示の例では、フェイス面はノズル壁153と一体的に形成されているが、別途フェイスプレートを設置してフェイス面を形成してもよい。インク吐出口151の開口面積は100〜350μm
2に構成される。開口面積を100μm
2以上とすることで、不吐ノズルの発生を防止することができる。一方、350μm
2以下とすることで、1つのインク液滴の量が10pL以下の微小液滴を形成させることができ、解像度を600dpi以上とすることができる。なお、前記開口面積は吐出口幅171と吐出口高さ172の積で表される。
【0061】
ノズル流路は複数のノズル流路によってノズル列を形成している。ノズル列を形成するノズル流路の数は特に限定されないが、本発明の効果を発現させるためには、1インチ当たり600〜2400個であることが好ましく、そのノズル列の長さが2インチ以上であることが好ましい。
【0062】
ヒーター152は、ノズル流路159に充填されたインクを加熱発泡させるための加熱手段である。ヒーター152は底板部分163に設置されている。ヒーター152としては抵抗体(例えばチッ化タンタル等からなる抵抗体)を用いることができる。ヒーター152には通電のためのアルミニウム等からなる電極(図示せず)が接続されており、その一方にはヒーター152への通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)が接続されている。スイッチトランジスタは制御用のゲート素子等の回路からなるICによって駆動を制御され、ヘッド外部からの信号によって、所定のパターンで駆動する。
【0063】
ノズルの全長は200μm以上、300μm以下とすることが好ましい。この場合の「ノズルの全長」とは、ノズル流路159の長さを意味し、具体的にはノズル流路159を構成するノズル壁153のインク吐出口151側の端部から共通液室156側の端部までの長さを意味する。
【0064】
ノズル流路159は、ヒーター中心157からインク吐出口151側の端部までの部分であるノズル前方部181と、ヒーター中心157から共通液室156側の端部までの部分であるノズル後方部182に区分される。吐出速度の観点から、ノズル前方部181の流抵抗(前方抵抗)と、ノズル後方部182の流抵抗(後方抵抗)は、前方抵抗/後方抵抗の値が0.3〜0.8であることが好ましい。なお、流抵抗は、流路断面積、流路長、吐出するインクの粘度等の値から、ハーゲン・ポアズイユの法則により計算で求めることができる。即ち、使用するインク(ひいてはその粘度)が定まれば、前方抵抗/後方抵抗の値は、ノズルの流路断面積、流路長等により調整することができる。
【0065】
[2−2]撥水化領域:
本発明のインクジェットヘッドは、インク吐出口の周縁に撥水性領域が形成されたものである。そして、インク吐出口の周縁に、水との接触角が90°以上の撥水性領域が形成されていることが好ましく、水との接触角が100°以上の撥水性領域が形成されていることが更に好ましい。接触角は、JIS R 3257に準拠して、接触角計(例えば、エキシマ社製、商品名「SImage−mini」等)を用い、ATAN1/2θ法)により測定することができる。
【0066】
撥水性領域は、インク吐出口が形成されている部材(フェイス材。)の表面(フェイス面)に撥水性膜を付与する方法等により形成することができる。
【0067】
フェイス面に撥水性膜を付与する方法としては、フェイス面に超撥水性の樹脂膜を形成する方法を挙げることができる。超撥水性の樹脂膜は、従来公知の方法により形成することができる。例えば、フェイス面にフッ素樹脂、シリコーン樹脂等を塗工して樹脂膜を形成する方法、フェイス面においてフッ素系モノマーをプラズマ重合させてフッ素樹脂膜を形成する方法等を挙げることができる。また、フェイス面に撥水撥油性の樹脂膜を形成する方法を採用してもよい。例えばフルオロ炭素化合物を重合させたフッ素樹脂からなる膜を形成する方法等を挙げることができる。中でも、フッ素系溶媒(旭硝子社製「CXT−809A」、住友スリーエム社製「<ノベック>HFE−7100」、「<ノベック>HFE−7200」、「<ノベック>HFE−71IPA」等)に、含フッ素シリコーンカップリング剤(例えば、信越化学社製「KP−801M」等)を溶解させた溶液を調製し、この溶液をフェイス面に加熱蒸着させることにより、撥水性膜を形成する方法が好ましい。
【0068】
[2−3]ノズル材:
ノズル流路159を仕切るノズル壁153、ノズル天板162、ノズル底板164は、例えば感光性樹脂により形成することができる。感光性樹脂としては、ラジカル重合反応を利用したネガ型レジスト、カチオン重合反応を利用したネガ型レジスト等を挙げることができる。
【0069】
ラジカル重合反応を利用したネガ型レジストは、そのレジスト中に含まれる光重合開始剤から発生するラジカルにより、レジスト中に含まれるラジカル重合可能なモノマーやプレポリマーの分子間での重合や架橋が進むことで硬化する。光重合開始剤としては、例えばベンゾイン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アントラキノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、チタノセン類、アクリジン類等を挙げることができる。モノマーやプレポリマーの種類は特に限定されないが、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、マレイン酸ジエステル、アリル基を有するモノマーやプレポリマー等が好ましい。
【0070】
カチオン重合反応を利用したネガ型レジストは、そのレジスト中に含まれる光カチオン開始剤から発生するカチオンにより、レジスト中に含まれるカチオン重合可能なモノマーやプレポリマーの分子間での重合や架橋が進むことで硬化する。光カチオン開始剤としては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等を挙げることができる。具体的には、ADEKA社製の「アデカオプトマーSP−170」、「SP−150」、みどり化学社製の「BBI−103」、「BBI−102」、Rhodia社製の「Rhodorsil Photoinitiator 2074」、三和ケミカル社製の「IBPF」、「IBCF」、「TS−01」、「TS−91」等を挙げることができる。モノマーやプレポリマーの種類は特に限定されないが、エポキシ基やビニルエーテル基やオキセタン基を有するモノマーやプレポリマー等が好ましい。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。具体的には、東亜合成社製の「アロンオキセタンOXT−121」、ダイセル化学工業社製の「セロキサイド2021」、「GT−300シリーズ」、「GT−400シリーズ」、「EHPE3150」等の脂環式エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0071】
その他、ネガ型フォトレジストとしては、化薬マイクロケム社製の「SU−8シリーズ」、「KMPR−1000」、東京応化工業社製の「TMMR」、「TMMR S2000」、「TMMF S2000」等を用いることもできる。
【0072】
本発明においては、耐溶剤性、ノズル壁としての強度に優れたエポキシ系感光性樹脂を用いることが好ましい。具体的な市販品としては、東京応化工業社製の「TMMR S2000」が特に好ましい。
【0073】
[2−4]ヘッドの全体構造:
次に、インクジェットヘッドの全体構造について
図2A〜
図2Cを用いて説明する。
図2Aは、本発明のインクジェットヘッドの構造例を説明するための正面図であり、
図2Bは、
図2AのA−A断面図であり、
図2Cは、
図2AのB−B断面図である。説明の便宜上、正面図において液体供給ケースカバーは省略している。
【0074】
インクジェットヘッドは、図示のように、複数のノズル流路と連通した共通液室112と、共通液室112と連通した開口部と、開口部と連通したメイン液体供給室126と、メイン液体供給室126と連通する液体供給口127と、液体供給口127と連通する液体供給室(第一液体供給室134、第二液体供給室135)と、液体供給室を、液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室134と、第二液体供給室135とに分離するように配設された供給フィルター118と、メイン液体供給室126の一部に設けられた気液分離部120と、気液分離部120と連通する空気室141と、を備えていることが好ましい。
【0075】
そして、ノズル流路と、共通液室112と、開口部と、メイン液体供給室126と、液体供給口127と、液体供給室(第一液体供給室134、第二液体供給室135)と、供給フィルター118と、気液分離部120と、空気室141とが、ノズル流路の配列方向と液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、メイン液体供給室126と、液体供給口127と、供給フィルター118と、気液分離部120と、空気室141とが、各々積層することなく配置されていることが好ましい。
【0076】
セラミック製のベースプレート110はシリコンにより形成されるヒーター基板111を支持している。ヒーター基板111には、液体の吐出エネルギー発生素子としての複数の電気熱変換体(ヒーターまたはエネルギー発生部)とこれらの電気熱変換体に対応するノズルを構成するための複数の流路壁とが形成されている。また、ヒーター基板111には各ノズルに連通する共通液室112を囲む液室枠も形成されている。このように形成されたノズルの側壁および液室枠の上には、共通液室112を形成する天板113が接合されている。したがって、ヒーター基板111と天板113は互いに一体化した状態でベースプレート110に積層接着されている。このような積層接着は、銀ペーストなどの熱伝導率のよい接着剤によって行われる。ベースプレート110におけるヒーター基板111の後方には、実装済みのPCB(電気配線基板)114が両面テープ(図示せず)により支持されている。ヒーター基板111上の各吐出エネルギー発生素子とPCB114とは、各々の配線に対応するワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0077】
天板113上面には、液体供給部材115が接合されている。液体供給部材115は液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117より構成されており、液体供給ケースカバー117が液体供給ケース116の上面を塞ぐことにより、後述する液室や液体供給路が形成される。本実施形態においては、液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117の接合は、熱硬化型の接着剤により行われる。また、液体供給ケース116には供給フィルター118および排出フィルター119が配設されている。供給フィルター118は液体供給部材115に供給された液体中の異物の除去を目的とし、排出フィルター119は液体吐出ヘッド外部からの異物の侵入を防止することを目的とする。各々のフィルターは熱溶着によって液体供給ケース116に固定されている。さらに液体供給ケース116の一部には気液分離部120が形成され、気液分離部120に突出する形で外部より液面検知センサ121が実装されており、上述したような液室内の液体量の制御を行う。
【0078】
ここで、液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117の2つの部品の嵌合により形成される液室および液体供給路等の構成について説明する。液体供給ケース116の天板113との接合面には、ノズルの配列方向と略平行かつノズル列の幅に渡って矩形状の開口部(以下、液体供給口127という)が形成されており、液体供給口127の延長上には貯留室状のメイン液体供給室126が形成されている。すなわち、メイン液体供給室126はノズル列と略平行かつノズル列の幅に渡って形成されている。また、液体供給口127と対向側の天面は、ほぼ全域にわたって気液分離部120を最上部とした傾斜(以下、メイン液体供給室傾斜129という)を成している。メイン液体供給室傾斜129には2つの開口部が形成されており、1つは液体連通部131、他方は気液分離部120である。
【0079】
気液分離部120はメイン液体供給室126の一部を成し、メイン液体供給室126の他の部分よりも深さが大きくなっている。これは、後述するように液室内の液体に混在する気泡を破泡する効果を高めるためである。図示の形態においては、気液分離部120の内部にステンレスの電極を3本実装しており、図中左側より上限検知電極123、グランド電極124、下限検知電極125である。グランド電極124と上限検知電極123間の通電、グランド電極124と下限検知電極125間の通電により、メイン液体供給室126内の液面を上限と下限の間に維持する構成となっている。図示の形態のインクジェットヘッドにおいては、気液分離がなされた液体の液面を検知することで、検知の信頼性を向上させることが可能である。
【0080】
気液分離部120の延長上にはエア連通部130があり、その先はエア流路として機能する空気室141となる。さらに先には前述した排出フィルター119が配設されており、排出ジョイント133に連通する。排出フィルター119は撥水性を有する材質によって構成されており、万が一エア流路(空気室141)に液体が流入し、排出フィルター119にインクが付着することで、フィルター内部にインクのメニスカスが形成されても、その撥水性によってフィルター部の毛管力を低減することができ、インクを容易に除去することができる。
【0081】
一方、メイン液体供給室傾斜129に設けられた液体連通部131を介して液体供給口127が設けられている。液体供給口127は、液体連通部131から供給フィルター118近傍まで管状を成しており、メイン液体供給室126とほぼ同一平行平面上に形成される。供給フィルター118もまた、メイン液体供給室126と略同一平行平面上に配置されている。供給フィルター118は液体供給室を二室に分離するように配設され、供給ジョイント132に連通する側の室、すなわち液体吐出ヘッド内の液体供給の流れに沿って上流側の室が第一液体供給室134、下流側が第二液体供給室135となっている。供給フィルター118はメイン液体供給室126と略同一平行平面上に配置されているため、供給フィルター118の両面に隣接する第一液体供給室134および第二液体供給室135もまた、メイン液体供給室126やノズル配列面139とほぼ平行平面上に配置されることになる。
【0082】
第二液体供給室135は供給フィルター118上方に開口(以下、第二液体供給室開口136という)があり、これを介して液体供給口127に連通している。また、第二液体供給室135の天面はこの開口を最上部とする傾斜(以下、第二液体供給室傾斜138という)が形成されている。
【0083】
以上のように、メイン液体供給室126、気液分離部120、液体供給口127、供給フィルター118、第一液体供給室134、第二液体供給室135は、各々ノズル配列面139と略平行平面上に設定される。一方でA−A断面に示すように、メイン液体供給室126、液体供給路127、供給フィルター118、気液分離部120は互いに平面の鉛直方向に重ならないように配置することが重要である。
【0084】
本発明のインクジェットヘッドは、ヘッドとインクタンクが一体的に構成されたものであってもよいし、ヘッドとインクタンクが分離可能に構成されたものであってもよい。ヘッドとインクタンクが分離可能に構成されたタイプのインクジェットヘッドは、インクタンクを装着しない状態で物流される場合があるが、このような物流形態はノズル流路の密閉性を確保し難く、ヘッドの劣化が生じ易い。本発明のインクジェットヘッドは、ノズル流路に本発明の物流用充填液が充填されているため、吐出不良等の不具合を有効に防止可能である。
【0085】
[2−5]物流用充填液の充填:
前記インク吐出口に連通するノズル流路に、本発明の物流用充填液が充填されている。物流用充填液は、インクジェットヘッド内部の空洞のうち、少なくともインク吐出口から共通液室までの部分(即ち、ノズル流路および共通液室)に充填することが好ましい。充填方法としては、例えば物流用充填液をインクタンクに注入し、前記インクタンクをインクジェット記録装置に接続し、吸引動作によりインクジェットヘッドのノズル流路内に物流用充填液を充填する方法等を挙げることができる。
【0086】
[2−6]インクジェット記録装置:
以下、参考までに、本発明のインクジェットヘッドに好ましく用いられるインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)について、
図3を用いて説明する。
図3は、インクジェット記録装置の全体構成を模式的に示す正面図である。
【0087】
図示の記録装置100は、記録媒体Pの記録領域の幅方向の全域に渡って延在する長尺なヘッド22を用いた記録装置の例である。記録装置100はホストPC102と接続されている。そして記録装置100は、ホストPC102から送信される記録情報に基づいて4つのインクジェットヘッド(以下、単にヘッド22K、22C、22M、22Yと記す。)から記録媒体Pに液体を吐出して記録を行う。図示の記録媒体Pはロール紙である。4つのヘッド22K、22C、22M、22Yは、記録媒体Pの搬送方向(矢印A方向)に沿って配置されている。各ヘッドは搬送方向にヘッド22K(ブラックインク用)、ヘッド22C(シアンインク用)、ヘッド22M(マゼンタインク用)、ヘッド22Y(イエローインク用)の順で互いに平行に配置されている。ヘッド22K、22C、22M、22Yは、いわゆるラインヘッドであり、記録媒体搬送方向と交差する方向(図では、直交する方向)に沿ってノズルを所定の密度で配置したものとなっている。ノズルの配置幅(記録媒体の搬送方向における配列範囲)は、使用する記録媒体の最大記録幅以上の幅となっている。記録装置が記録を行う際は、各ヘッドを移動させることなく、ヘッドに設けられたヒーターを駆動することによってノズルからインク(記録液)を吐出して記録を行う。
【0088】
ヘッドは記録に伴って、インク吐出口が形成された面(フェイス面22Ks、22Cs、22Ms、22Ys)にゴミやインク滴等の異物が付着することで吐出状態が変わり、記録に影響を与えることがある。そのため、各ヘッド22K、22C、22M、22Yから安定して液体を吐出できるように、記録装置100には回復ユニット40が組み込まれている。この回復ユニット40によるフェイス面のクリーニングを定期的に行うことによって、ヘッド22K、22C、22M、22Yのノズルからの液体吐出状態を初期の良好な吐出状態に回復させることができる。回復ユニット40には、クリーニング動作のときに4つのヘッド22K、22C、22M、22Yのフェイス面22Ks、22Cs、22Ms、22Ysから液体および微細な気泡を除去する際に使用されるキャップ50が備えられている。このキャップ50はヘッド22K、22C、22M、22Yに独立して設けられている。
【0089】
記録媒体Pは、供給ユニット24から供給され、記録装置100に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。記録を行う際には、搬送中の記録媒体Pがヘッド22K(ブラックインク用)の下に到達すると、ホストPC102から送られた記録情報に基づいて、ヘッド22Kからブラックインクが吐出される。同様にヘッド22C、ヘッド22M、ヘッド22Yの順に、各色のインクが吐出されて記録媒体Pへのカラー記録が完成する。
【0090】
[3]物流方法
本発明の物流方法は、サーマル方式のインクジェットヘッドの物流方法である。そして、前記インクジェットヘッドとして、既に説明した本発明のインクジェットヘッドを用い、前記インクジェットヘッドのインク吐出口に連通するノズル流路に、本発明の物流用充填液を充填した状態でインクジェットヘッドを物流させるものである。本発明の物流方法には、ヘッドを単独で物流させる形態、ヘッドをインクジェット記録装置に搭載した状態で物流させる形態の双方が含まれる。ヘッドを記録装置に搭載した状態で物流させる形態としては、例えばキャッピングした状態のヘッドを記録装置の本体に装着した状態で物流させる形態等を挙げることができる。
【0091】
本発明の物流用充填液を用いることで、物流時において水性媒体が揮発しても、染料の溶解状態が保たれる。従って、インクジェットヘッドの物流に際してヘッドキャップやフェイス面テープでインク吐出口を封着する等の密封処理を行う必要がなく、インクジェットヘッドの製造・梱包工程を簡素化することができる。また、ヘッドキャップの過剰密着やフェイス面テープの接着剤に起因して不吐ノズルが発生する等の不具合を防止することができる。更に、インクジェットヘッドを単独で物流させる場合より、密封性を確保し難く、水性媒体が揮発し易い、インクタンクを分離した状態での物流やインクジェットヘッドをインクジェット記録装置に装着させた状態での物流にも好適に用いることができる。
【0092】
本発明の物流方法においては、ノズル流路に、粘度が、1.3mPa・s以上、5.0mPa・s以下である物流用充填液を充填し、前記物流用充填液で印字検査を行い、その後、前記ノズル流路に、前記物流用充填液を充填した状態でインクジェットヘッドを物流させることが好ましい。粘度が、1.3mPa・s以上の物流用充填液を用いることにより、印字検査の際にサテライトやミストの発生を抑制することができ、適切な印字検査を行うことが可能となる。一方、5.0mPa・s以下の物流用充填液を用いることにより、印字検査の際に記録ヘッドへのインクリフィル(インクの供給)を迅速に行うことができ、印字擦れの発生を抑制することができる。前記効果をより確実に得るためには、粘度が、1.5mPa・s以上、3.5mPa・s以下であることが更に好ましく、1.7mPa・s以上、3.2mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0093】
所定量の染料を含有し、前記粘度を有する物流用充填液を用いることにより、物流用充填液で印字検査を行うことが可能となる。従来は、
図4の工程図に示すように、ヘッド製造工程の後、ノズル流路に印字検査液を充填し、検査印字および判定を行った後、前記印字検査液を物流用充填液に置換し、ヘッドの状態で梱包、輸送、保存等の物流後、ヘッドを記録装置本体に装着していた。これは、ヘッドを記録装置に装着させた状態で物流させると密封性を確保し難く、水性媒体が揮発し易いためである。しかし、本発明の物流用充填液を用いた物流方法においては、
図5の工程図に示すように、印字検査および判定を行った後、物流用充填液が充填されたヘッドを記録装置本体に装着させた状態のまま、梱包、輸送、保存等の物流を行うことも可能である。また、
図6の工程図に示すようにヘッド製造工程の後、ノズル流路に物流用充填液を充填し、検査印字および判定を行った後、梱包、輸送、保存等の物流に付してもよい。この方法によれば、検査用インクを物流用充填液に置換する工程を省略することができ、工程を簡素化することも可能である。また、この方法によれば、印字検査液の廃液が生ずることもない。
【実施例】
【0094】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例の構成のみに限定されるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0095】
(飽和溶解度の測定)
まず、実施例および比較例で用いる染料について、飽和溶解度(25℃)を測定した。染料としては、C.I.フードブラック2(FB−2)、C.I.ダイレクトブルー199(DBL199)、C.I.ダイレクトイエロー86(DY86)を用いた。水溶性有機化合物としては、グリセリン(GLY)、トリエチレングリコール(TEG)、ジエチレングリコール(DEG)、GLYとTEGの1:1混合溶液、GLY:TEG:エチレン尿素(EtU)の10:10:1混合液、GLY:TEG:トリメチロールプロパン(TMP)の10:10:1混合液を用いた。また、GLY:TEG:EtUの10:10:1混合液およびGLY:TEG:TMPの10:10:1混合液については、GLYとTEGの1:1混合液に対しEtUまたはTMPを0.1の割合で混合することにより調製した。
【0096】
飽和溶解度は、25℃において水溶性化合物100gに対し、添加する染料の量を徐々に変化させて、濃度の異なる染料溶液を調製し、各々の染料溶液について吸光度を測定し、孔径1μmのメンブレンフィルターにより濾過した後、再度、吸光度を測定し、前記濾過の前後で吸光度に差異が生じた染料溶液の染料濃度から求めた。その結果を表1に示す。
【0097】
【0098】
<実施例1>
染料としてC.I.フードブラック2(FB−2)を、水溶性有機化合物としてグリセリンを、ノニオン系界面活性剤としてPOE(10)アセチレングリコール(川研ファインケミカル社製「アセチレノールE100」)を用いた。FB−2(0.2質量部)、グリセリン(20質量部)、ノニオン系界面活性剤(0.15質量部)に、イオン交換水を加え、全体を100質量部とした。この組成物を2時間撹拌した後、前記組成物を1μmのメンブレンフィルターで濾過し、イオン交換樹脂層を通過させてカルシウム等の不純物を除去することにより、実施例1の物流用充填液を得た。
【0099】
<実施例2>
FB−2の添加量を0.4質量部に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の物流用充填液を得た。
【0100】
<実施例3>
FB−2の添加量を0.5質量部に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3の物流用充填液を得た。
【0101】
<実施例4>
FB−2の添加量を0.8質量部に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例4の物流用充填液を得た。
【0102】
<実施例5>
FB−2の添加量を0.8質量部に変更し、水溶性有機化合物の添加量を40質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の物流用充填液を得た。
【0103】
<実施例6>
水溶性有機化合物を、トリエチレングリコールに変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例6の物流用充填液を得た。
【0104】
<実施例7>
水溶性有機化合物を、ジエチレングリコールに変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例7の物流用充填液を得た。
【0105】
<実施例8>
水溶性有機化合物を、グリセリン:トリエチレングリコール(1:1)混合液に変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例8の物流用充填液を得た。
【0106】
<実施例9>
染料を、C.I.ダイレクトイエロー86(DY86)に変更し、水溶性有機化合物を、グリセリン:トリエチレングリコール:エチレン尿素(10:10:1)混合液に変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例9の物流用充填液を得た。
【0107】
<実施例10>
染料を、DY86に変更し、水溶性有機化合物を、グリセリン:トリエチレングリコール:トリメチロールプロパン(10:10:1)混合液に変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例10の物流用充填液を得た。
【0108】
<実施例11>
染料を、C.I.ダイレクトブルー199(DBL199)に変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例11の物流用充填液を得た。
【0109】
<実施例12>
染料を、DY86に変更した点以外は、実施例3と同様にして、実施例12の物流用充填液を得た。
【0110】
<実施例13>
ノニオン系界面活性剤の添加量を0.1質量部に変更した点以外は、実施例11と同様にして、実施例13の物流用充填液を得た。
【0111】
<実施例14>
ノニオン系界面活性剤の添加量を0.18質量部に変更した点以外は、実施例11と同様にして、実施例14の物流用充填液を得た。
【0112】
<比較例1>
FB−2の添加量を0.1質量部に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の物流用充填液を得た。
【0113】
<比較例2>
FB−2の添加量を1.5質量部に変更し、グリセリンの添加量を40質量部とした点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の物流用充填液を得た。
【0114】
<比較例3>
グリセリンの添加量を10質量部とした点以外は、実施例3と同様にして、比較例3の物流用充填液を得た。
【0115】
<比較例4>
ノニオン系界面活性剤の添加量を0.3質量部に変更した点以外は、実施例3と同様にして、比較例4の物流用充填液を得た。
【0116】
<比較例5>
比較例5においては実施例3と同一組成の物流用充填液を調製した。但し、以下の検討においてインクジェットヘッドとして親水性ヘッドを用いた。
【0117】
(インクジェットヘッドの作製)
図1A〜
図1Cに示すノズル構造を有し、
図2A〜
図2Cに示す全体構造を有するインクジェットヘッドを作製した。インク吐出口の開口面積は225μm
2とし、4800個のノズルがノズル列を形成する構造とした。ノズル列の長さは4インチとした。ヘッドの解像度は1200dpiとした。撥水性領域はフェイス面全体に形成した。
図1Cに示すようにフェイス面には、Siからなる天板部材161および底板部分163、並びにエポキシ系感光性樹脂からなるノズル天板162、ノズル底板164およびノズル壁153が露出している。即ち、フェイス面はこれらの部材の端面からなる。フッ素系溶媒(旭硝子社製「CXT−809A」)に含フッ素シリコーンカップリング剤(信越化学社製「KP−801M」)を溶解させた溶液を調製し、この溶液を前記フェイス面全体に加熱蒸着させることにより撥水化処理し、撥水性領域を形成した。撥水性領域の水との接触角は103.3°であった(以下、このヘッドを「撥水性ヘッド」と記す場合がある)。
【0118】
前記インクジェットヘッドと同一構造のヘッドを用い、撥水性領域を形成することに代えて、親水性領域を形成したものも作製した。親水性領域はフェイス面全体に形成した。具体的には、
図1Cに示すような天板部材161、底板部分163、ノズル天板162、ノズル底板164およびノズル壁153の端面からなるフェイス面をUV/O
3処理することにより親水化処理し、親水性領域を形成した。前記親水性領域と実施例3の物流インクの接触角は55°であった(以下、このヘッドを「親水性ヘッド」と記す場合がある)。
【0119】
(物流用充填液の充填)
実施例および比較例の物流用充填液をインクタンクに注入し、前記インクタンクを
図3に示す記録装置100(インクジェットプリンタ、キヤノンファインテック社製「LX−P5500」)に接続し、吸引動作によりインクジェットヘッドのノズル流路内に前記物流用充填液を充填した。実施例1〜14および比較例1〜4においては前記撥水性ヘッドを用いた。比較例5においては前記親水性ヘッドを用い、物流用充填液としては実施例3の物流用充填液と同一組成のものを用いた。
【0120】
(物流用充填液による印字検査の可否)
物流用充填液を充填した後、引き続き前記記録装置100により、インクジェットヘッドのヒーターに連続的にヒートパルスを30万発与え、物流用充填液によりノズルチェックのパターンを印刷し、印字検査を行った。
【0121】
ノズルチェックパターンは、前記インクジェットヘッドの全4800個のノズルのうち、まず、第1ノズルおよび第1ノズルから16個おきのノズル(1/75インチ間隔、計300ノズル)の各々に長さ1.5mmの直線を描画させ(第1列)、次いで、第2ノズルおよび第2ノズルから16個おきのノズル(1/75インチ間隔、計300ノズル)の各々に長さ1.5mmの直線を描画させる(第2列)という操作を合計16回繰り返し(第3列〜第16列)、1列あたり300本×16列、合計4800本の直線を描画する階段状のパターンとした。評価は以下の通り、4800ノズル中の不吐ノズルの数により行った。不吐ノズルの数は、原則として印字パターンを目視することにより計数した。但し、染料として、目視が困難なDY86を使用した実施例9については、印字パターンにLEDランプの光を照射した状態で目視した。なお、以下に示すインク置換性及びインク置換後の画像品位の評価については、印字検査時に不吐ノズルのないインクジェットヘッドを使用して評価を行った。
○:不吐ノズルがない
△:不吐ノズルが1〜2本ある
×:不吐ノズルが3本以上ある、あるいは隣接する不吐ノズルがある
【0122】
(インク置換性)
物流用充填液による印字検査の後、インクジェットヘッドを前記記録装置から外してアルミパックに梱包し、60℃の条件下、2週間保存した。前記保存後、インクジェットヘッドのインク吐出口の固着がないことを確認し、前記インクジェットヘッドを記録液が注入されたインクタンクを搭載した前記記録装置に接続し、吸引動作によりインクジェットヘッドのノズル流路内の物流用充填液を記録液に置換した。記録液としては、前記記録装置用のBkインク(キヤノンファインテック社製、LX−P5500用Bkインク「BJI−P511Y」)を用いた。記録液への置換(インク置換)は、前記記録装置に搭載されている回復シーケンス(回復「大」)により実施した。
【0123】
前記インク置換を実施した後、物流用充填液と同様の方法により印字検査を行った。印字検査で物流用充填液による混色が確認されなくなるまで前記回復シーケンスを繰り返し、混色が確認されなくなったところでインク置換完了とした。評価基準は以下の通りとした。以下の評価が、○または△であれば、インクの増粘や固着がなかったと評価することができる。
○:前記回復シーケンス1回でインク置換が完了した
△:前記回復シーケンス2回でインク置換が完了した
×:前記回復シーケンス2回でインク置換が完了しなかった
【0124】
(インク置換後の画像品位)
前記インク置換が完了した後、記録媒体としてインクジェットプリンタ用フォトペーパー(キヤノン社製「PR−101」)を用いて、物流用充填液と同様の方法により印字検査を行った。評価基準は以下の通りとした。
◎:「よれ印字」および不吐ノズルがない
○:隣接する「よれ印字」および不吐ノズルはないが、「よれ印字」が1〜3本ある
△:隣接する「よれ印字」および不吐ノズルはないが、「よれ印字」が4〜5本ある
×:隣接する「よれ印字」または不吐ノズルがあるか、「よれ印字」が6本以上ある
【0125】
【0126】
【0127】
表3に示すように、本発明の物流用充填液を用いた実施例1〜14はインク置換性、インク置換後の画像品位とも良好な結果を示した。
【0128】
一方、染料の含有率が低い物流用充填液を用いた比較例1はインク置換後の画像品位が不良であった。染料の含有率が高い物流用充填液を用いた比較例2はインク置換性、インク置換後の画像品位とも不良であった。また、水溶性有機化合物に対する飽和溶解度以上の染料を溶解させた物流用充填液を用いた比較例3、表面張力が低い物流用充填液を用いた比較例4、インク吐出口の周縁に親水性領域が形成されたヘッドを用いた比較例5はインク置換後の画像品位が不良であった。