(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シール部は、前記燃料極の周縁部又は前記空気極の周縁部に焼成により一体化されるとともに隣接する前記セパレータ及び前記固体電解質に焼成により一体化される、請求項1又は2に記載のスタック構造体。
前記セパレータ材料は、ランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物と希土類元素を固溶させたジルコニアとを含む、請求項10〜13のいずれかに記載の積層型固体酸化物形燃料電池の製造方法。
さらに、前記(a)工程後前記(b)工程に先立って、燃料ガス又は空気ガスの流通部のパターンを有し前記第1のシート上に前記熱処理によって消失される消失材料からなる消失材料層を付与する、請求項10〜14のいずれかに記載の積層型固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、積層型SOFC用のスタック構造体、このスタック構造体を備える積層型SOFC、この積層型SOFCを備えるSOFCシステム及び積層型SOFCの製造方法並びにガスシール帯が一体化した電極用シート及びその製造方法に関する。
【0016】
本発明のある種の実施形態は、固体電解質を挟んで対向状に配置される燃料極を含む燃料極層と空気極を含む空気極層とを含んで積層される複数個の単セルと、積層される前記単セル間を分離するセパレータと、を備え、特に、前記燃料極層及び前記空気極層の各層内にあって、少なくとも熱膨張収縮特性に関して前記セパレータ又は前記固体電解質と均等であって、前記燃料極の周縁部又は前記空気極の周縁部に一体化されるとともに隣接する前記セパレータ及び前記固体電解質に一体化される非多孔質部を含むシール部、を備え、前記燃料極及び前記空気極にそれぞれ供給される燃料ガス及び空気ガスを分離させて流通可能に形成したスタック構造を備えることができる。また、本発明の他の実施形態は、このようなスタック構造を意図することができる。
【0017】
本発明におけるスタック構造によれば、シール部が熱膨張収縮特性に関してセパレータ又は固体電解質と均等であるほか上記形態を採ることにより、燃料ガスと空気ガスとの流通がシール部によって分離される。また、本発明のスタック構造体によれば、積層される単セル間にわたって、シール部を介して一体化されたセパレータと固体電解質との連続相が形成されるとともに、こうした連続相の間を充填するように燃料極及び空気極が存在される構造を採ることができる。このため、単セル構成要素、すなわち、固体電解質、燃料極及び空気極がいずれも薄膜であって単セル自体において強度が確保されていなくても、積層によってスタック構造体とすることで容易に十分な機械的強度を確保することができる。すなわち、従来の電解質支持型、電極支持型などのように単セルにおいて機械的強度を確保するような単セル支持部を有していなくてもよく、単セルにおいて強度を確保するための各種制限も回避又は低減される。
【0018】
また、熱膨張収縮特性に関し固体電解質又はセパレータと均等であるシール部を有しているため、上記した連続相の耐熱衝撃性は良好なものとなるほか、こうしたシール部を燃料極層及び空気極層内に備えるため、燃料極や空気極と固体電解質やセパレータとの熱膨張収縮特性の相違を緩和して耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0019】
さらに、単セルでの機械的強度を確保するために固体電解質、燃料極及び空気極に要求される厚みに拘束されないため、内部抵抗や熱膨張係数を十分に考慮してこれらの厚みを設定することができる。このため、スタック構造体の内部抵抗を効果的に低減することができ、発電特性の向上が期待できる。また、スタック構造体の耐熱衝撃性を効果的に向上させることもできる。
【0020】
また、本発明のスタック構造体によれば、燃料ガス及び空気ガスを分離させて流通可能なシール部を燃料極層内及び空気極層内に備えて積層されているため、簡易にスタックが可能となっている。
【0021】
本発明の積層型SOFCの製造方法は固体電解質材料又はセパレータ材料からなる第1のシートと、電極材料帯とシール部材料帯とを有する第2のシートとを準備し、積層することで、セパレータで分離された単セルのスタック構造を形成することができる。したがって、簡易に本発明の積層型SOFCを製造することができる。
【0022】
以下、本発明の各種実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の積層型SOFC用のスタック構造体の一例を示し、
図2には、他の一例を示し、
図3には、さらに他の一例を示し、
図4には、本発明におけるSOFCの製造工程の一例を示す。これらの図面において共通する要素については同一の符号を用いて説明するものとする。なお、これらの図面に示す積層型SOFC用スタック構造体は、本発明のスタック構造体の一例であって本発明を限定するものではない。また、SOFCの製造工程についても同様である。
【0023】
(積層型SOFC用スタック構造体)
本発明のスタック構造体は、各種形態を採ることができるが、以下、
図1〜
図3を参照して、本発明のスタック構造体について説明する。
【0024】
図1に示すスタック構造体20は、単セル2と、積層される単セル2間に介在されて単セル2を分離するセパレータ14と、燃料極7に燃料ガスを供給する燃料ガス流通部16と空気極9に空気ガスを供給する空気ガス流通部18とを備えている。単セル2は、
図1に示すように、固体電解質4と燃料極層6と空気極層8とを含んでいる。本発明の単セル2は、いわゆる電解質支持型でもなく電極支持型でもない。本発明のスタック構造体20における単セル2においては、例えば、固体電解質4の厚みに対して燃料極層6及び空気極層8の厚みがそれぞれ30%以上300%以下であることが好ましい。この範囲であると、焼成の際に反りや剥離が生じにくいからである。
【0025】
固体電解質4は、スタック構造体20の平面形態に近似した平面形態を有する層状体に形成されている。平面形態は、スタック構造体20の形状に依拠して、方形状、長方形状、円形状等の各種の形状を取ることができる。固体電解質4としては、SOFCに通常使用されるもとして公知のものを使用することができる。例えば、サマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、ストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などの酸化物イオン伝導性セラミックス材料が挙げられる。
【0026】
固体電解質4の熱膨張係数(20℃〜1000℃)は、10×10
-6K
-1以上〜12×10
-6K
-1以下であることが好ましい。この範囲であると、焼成の際にはく離や割れがしょうじにくいからである。スタック構造体の残留応力を考慮すると、より好ましくは、10.5×10
-6K
-1以上11.5×10
-6K
-1以下である。
【0027】
固体電解質4の厚みは特に限定されないが、1μm以上150μm以下とすることができる。この範囲であると、後述する燃料極層6及び空気極層8ともに単セル2を構成し、さらにセパレータ14とともにスタック構造体20を構成するとき、適切な機械的強度と発電特性を得ることができる。より好ましくは、1μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上40μm以下であり、一層好ましくは1μm以上20μm以下である。
【0028】
燃料極層6は、燃料極7を含有している。燃料極7を構成する燃料極材料としては、特に限定しないで公知のSOFCにおいて燃料極材料として用いられているものを用いることができる。例えば、金属触媒と酸化物イオン伝導体からなるセラミックス粉末材料との混合物又はその複合粉末が挙げられる。このとき用いられる金属触媒としては、ニッケル、鉄、コバルトや、貴金属(白金、ルテニウム、パラジウム等)等の還元性雰囲気中で安定であって水素酸化活性を有する材料を用いることができる。また、酸化物イオン伝導体としては、蛍石型構造又はペロブスカイト型構造を有するものを好ましく用いることができる。蛍石型構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などを挙げることができる。また、ペロブスカイト型構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物が挙げられる。上記材料の中では、酸化物イオン伝導体とニッケルとの混合物で、燃料極7を形成することが好ましい。また、上述したセラミックス材料は、1種類を単独で又は2種類以上を混合して使用することができる。また、燃料極7は、金属触媒を単体で用いて構成することもできる。なお、燃料極材料の粉末の平均粒子径は、好ましくは10nm以上100μm以下であり、より好ましくは50nm以上50μm以下であり、さらに好ましくは100nm以上10μm以下である。なお、平均粒子径は、例えば、JISR1619にしたがって計測することができる。なお、燃料極層6も、固体電解質4と同様、スタック構造体20の平面形態に依存した層状体に形成されている。
【0029】
燃料極層6の熱膨張係数(20℃〜1000℃)は、10×10
-6K
-1以上〜12.5×10
-6K
-1以下であることが好ましい。この範囲であると、固体電解質との界面ではく離がおきにくいからである。スタック構造体の残留応力を考慮すると、より好ましくは、10×10
-6K
-1以上12×10
-6K
-1以下である。また、燃料極層6の厚みは特に限定されないが、1μm以上150μm以下とすることができる。この範囲であると、単セル2を構成し、さらにセパレータ14とともにスタック構造体20を構成するとき、適切な機械的強度と発電特性を得ることができる。より好ましくは、1μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上40μm以下であり、一層好ましくは5μm以上20μm以下である。燃料極層6は、燃料極7のほかシール部10aを含んでいるが、シール部10aについては後述する。
【0030】
空気極層8は、空気極9を含んでいる。空気極9を構成する空気極材料としては、特に限定しないで公知の固体酸化物形燃料電池において空気極材料として用いられているものを用いることができる。例えば、ペロブスカイト型構造等を有するCo,Fe,Ni,Cr又はMnなどからなる金属酸化物を用いることができる。具体的には(Sm,Sr)CoO
3,(La,Sr)MnO
3,(La,Sr)CoO
3,(La,Sr)(Fe,Co)O
3,(La,Sr)(Fe,Co,Ni)O
3などの酸化物が挙げられ、好ましくは、(La,Sr)MnO
3である。上述したセラミックス材料は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。なお、空気極材料の粉末の平均粒子径は、好ましくは10nm以上100μm以下であり、より好ましくは50nm以上50μm以下であり、さらに好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0031】
空気極層8の熱膨張係数(20℃〜1000℃)は、10×10
-6K
-1以上〜15×10
-6K
-1以下であることが好ましい。この範囲であると、固体電解質との界面ではく離がおきにくいからである。スタック構造体の残留応力を考慮すると、より好ましくは、10×10
-6K
-1以上12×10
-6K
-1以下である。空気極層8の厚みは特に限定されないが、1μm以上150μm以下とすることができる。この範囲であると、単セル2を構成し、さらにセパレータ14とともにスタック構造体20を構成するとき、適切な機械的強度と発電特性を得ることができる。より好ましくは、1μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上40μm以下であり、一層好ましくは5μm以上20μm以下である。空気極層8は、空気極9のほかシール部10bを含んでいるが、シール部10bについては後述する。
【0032】
以上の固体電解質4、空気極層6及び燃料極層8の厚みは、いずれも1μm以上150μm以下であることが好ましい。これらの要素がいずれもこの範囲の厚みであると、これらの焼成時及び使用時における熱膨張収縮特性の相違を調整することに大きく制限されないでこれらを一体化して単セルを形成できる。こうした一体性のある単セルを形成できるため、この単セルを積層するスタック構造体において容易に強度を確保することができる。より好ましくは、いずれの要素も1μm以上100μm以下である。さらに好ましくは、いずれの要素もが40μm以下であり、一層好ましくは20μm以下である。なお、本明細書において、平均粒子径は、例えば、JISR1619にしたがって計測することができる。
【0033】
スタック構造体20においては、複数の単セル2がセパレータ14で互いに分離された状態で積層されている。セパレータ14は、固体電解質4、燃料極層6及び空気極層8と同様にして積層可能な平板状であることが好ましい。このような平板状セパレータは、作製が容易であるしスタック構造体20を得るための積層工程も複雑化しないからである。セパレータ14の材料としては、SOFCのセパレータとして公知の各種導電性材料を用いることができる。例えば、ステンレス系の金属材料のほか、ランタンクロマイト系の金属セラミックス材料を使用することができる。
【0034】
後述するように、本発明のスタック構造体20を得るには、単セルの各構成要素とセパレータ14とを一括して焼成、これらを共焼結することが好ましい。かかる態様においては、セパレータ14が比較的低温で焼結するセラミックス材料であることが好ましい。こうしたセラミックス材料としては、焼結性を向上させるために、例えば、ランタンクロム系酸化物(LaCrO
3)、ランタンストロンチウムクロム系酸化物(La
(1-x)Sr
xCrO
3,0<x≦0.5)などのランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物,又はこうしたランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物と希土類元素を固溶させたジルコニアとを含むセラミックスを用いることが好ましい。希土類固溶ジルコニア(一般式(1−x)ZrO
2・xY
2O
3、式中Yは希土類元素を表し、0.02≦x≦0.20である。)を含んで焼成することで、従来に比べて低温でランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物を緻密に焼結できる。この結果、セル構成要素を共焼結可能な1400℃以下程度の温度で、セパレータを緻密化することができる。なお、こうしたランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物には、他の金属元素が固溶されていてもよい。
【0035】
希土類固溶ジルコニアにおける希土類としては、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等が挙げられるが、好ましくは、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、イッテルビウム(Yb)であり、より好ましくは、イットリウム(Y)である。希土類固溶ジルコニア(一般式(1−x)ZrO
2・xY
2O
3、式中Yは希土類元素を表す。)におけるxは、好ましくは0.02以上0.20以下であり、より好ましくは0.02以上0.1以下である。
【0036】
セパレータ14の熱膨張係数(20℃〜1000℃)は、8×10
-6K
-1以上〜12×10
-6K
-1以下であることが好ましい。この範囲であると、空気極層あるいは燃料極層とのはく離を抑えることができるからである。スタック構造体の残留応力を考慮すると、より好ましくは、9.5×10
-6K
-1以上11.5×10
-6K
-1以下である。セパレータ14の厚みは特に限定されないが、1μm以上200μm以下とすることができる。この範囲であると、単セル2間を分離するように積層してスタック構造体20を構成するとき、適切な機械的強度と発電特性を得ることができる。好ましくは10μm以上50μm以下であり、より好ましくは10μm以上40μm以下である。
【0037】
単セルの各構成要素とセパレータ14とは、それぞれの層の厚みが100μm以下であることが好ましい。
【0038】
(燃料極層におけるシール部)
燃料極層6は、燃料極7とともにシール部10aを備える。燃料極層6は、燃料極層6の厚みの範囲内においてシール部10aを有している。好ましくは、燃料極層6の厚みに一致する程度のシール部10aを有している。シール部10aは、燃料極7の周縁部に一体化されて、全体として燃料極層6を構成している。シール部10aは、少なくとも空気ガス及び燃料ガスに対して、SOFCにおいて要求される程度の気密性を発揮できる程度の非多孔質に形成されており、燃料極層6の燃料極7がその対極である空気極9に供給される空気ガスへ暴露されるのを回避し、燃料ガス及び空気ガスのそれぞれ独立した流通形態を確保できるように形成されている。したがって、燃料極7の周縁部のいずれの箇所に形成されるかは、燃料ガス流通部16や空気ガス流通部18のパターン及びこれらの二つの供給部16、18のスタック構造体20における配置形態に依存している。より具体的には、シール部10aは、空気ガスの供給部18の開口19の開放側となる周縁部に形成されて空気ガスへの燃料極7の暴露を防止している。
【0039】
図1に示す形態では、後述するように、燃料ガス流通部16及び空気ガス流通部18は、それぞれ複数個のコの字状の流路パターンを有しており、それぞれの開口17及び開口19は、スタック構造体20の対向するA面及びB面においてのみ開放されるようになっている。したがって、
図1における実施形態では、燃料極層6のシール部10aが配置される周縁部は、燃料極6のスタック構造体20のB面側の周縁部となる。
【0040】
例えば、
図2に示すスタック構造体40のようにストレート型の燃料ガス流通部36及び空気ガス流通部38を備える場合には、それぞれガスの開口37a、37b及び開口39a、39bは、スタック構造体40の対向する面に開放されることになる。すなわち、開口39a、39bは構造体40のC面側及びD面側に開放されている。したがって、シール部30aは、燃料極7のスタック構造体40のC面側及びD面側にある周縁部に一体に備えられることになる。
【0041】
シール部10aは、少なくとも熱膨張収縮特性に関してセパレータ14又は固体電解質4と均等に形成されている。こうすることで、セパレータ14で単セル2間を分離するときや燃料極層6で単セル2を構成するとき、積層されるべき材料との熱膨張収縮特性の相違を回避して、一体性及び耐熱衝撃性に優れるスタック構造体20を得ることができる。なお、熱膨張収縮特性とは、熱膨張係数を少なくとも包含するものである。また、熱膨張収縮特性に関し均等であるとは、SOFCの作製及び運転にあたってSOFCに付与される温度範囲において、セパレータ14又は固体電解質4と同一又はスタック構造体20の一体性を大きく阻害しない範囲である。なお、本発明者らの実験によれば、スタック構造体20の一体性を大きく阻害しない程度に相違する範囲とは、セパレータ14又は固体電解質4の熱膨張係数に対して0.85倍以上から1.18倍以下程度であることがわかっている。
【0042】
シール部10aの熱膨張収縮特性は、セパレータ14と固体電解質4とのいずれかと均等であればよい。いずれかと均等であれば、シール部とセパレータ14あるいは固体電解質4との界面でのはく離が避けられるからである。なお、セパレータ14及び固体電解質4の熱膨張係数によっては、シール部10aの熱膨張収縮特性は、固体電解質4及びセパレータ14の双方の熱膨張収縮特性と均等となりえる。このような態様が、スタック構造体20の機械的強度及び耐熱衝撃性の向上の観点から最も好ましい。
【0043】
シール部10aは、好ましくはセパレータ14又は固体電解質4と同一の組成を有している。これらのいずれかと同一の組成であれば、いずれかと一体化されるとき、良好に一体化され、スタック構造体20の耐熱衝撃性を向上させるほか、機械的強度を向上させることができる。シール部10aが、セパレータ14又は固体電解質4と同一組成であるとき、こうしたシール部10aは、セパレータ14又は固体電解質4の一部を含んでいる、あるいは当該一部からなるということができる。すなわち、セパレータ14又は固体電解質4が燃料極層6の燃料極7以外の部分に及んだ部分によってシール部10aが構成されているといえる。
【0044】
例えば、
図1に示すスタック構造体20及び
図2に示すスタック構造体40は、シール部10a、30aはそれぞれ固体電解質4と同一組成を有しており、固体電解質4の一部によって構成されている。また、
図3に示すスタック構造体60のシール部50aは、セパレータ4と同一組成を有しており、セパレータ4の一部から構成されている。
【0045】
なお、
図2に示すように、燃料極層6及び空気極層8の燃料極7及び空気極9の両側の周縁部にそれぞれシール部30a、30bを両側の周縁部に備える場合、シール部30aの熱膨張収縮特性は、セパレータ14と固体電解質4とのいずれかと均等であればよい。いずれかと均等であれば、シール部とセパレータ14あるいは固体電解質4との界面でのはく離が避けられるからである。なお、セパレータ14及び固体電解質4の熱膨張係数によっては、シール部30aの熱膨張収縮特性は、固体電解質4及びセパレータ14の双方の熱膨張収縮特性と均等となりえる。このような態様が、スタック構造体40の機械的強度及び耐熱衝撃性の向上の観点から最も好ましい。
【0046】
(空気極層におけるシール部)
空気極層8は、空気極9とともにシール部10bを備える。シール部10bは、空気極層8の厚みの範囲内においてシール部10bを有している。好ましくは、空気極8の厚みに一致する程度のシール部10bを有している。シール部10bは、シール部10aと同様に、空気極9の周縁部に一体化されて、全体として空気極層8を構成している。シール部10bは、空気極9が燃料ガスに暴露されるのを回避し、燃料ガス及び空気ガスのそれぞれ独立した流通形態を確保できるように形成されている。なお、シール部10bは、シール部10aが、燃料極9の空気ガスへの暴露を防止するものであるのに対してシール部10bが空気極9の燃料ガスへの暴露を防止する点以外は、シール部10aと同様の構成を採ることができる。すなわち、既に説明したシール部10aの非多孔質性、空気極層8及び熱膨張係数に関しての各種態様をそのまま適用できる。
【0047】
なお、シール部10bも、固体電解質4又はセパレータ14と同一組成とすることができ、またその一部を含むものとすることができるが、シール部10aがこれらのいずれかと同一又はいずれかの一部であるときには、シール部10bもシール部10aと同様に構成されることが好ましい。こうすることで、シール部の熱膨張収縮によるスタック構造体の変形を防ぐことができるからである。
【0048】
シール部10bの空気極9又はスタック構造体20における位置は、シール部10aと同様、燃料ガス流通部16や空気ガス流通部18のパターン及びこれらの二つの供給部16、18のスタック構造体20における配置形態に依存している。より具体的には、シール部10bは、燃料極ガスの供給部16の開口17の開放側となる周縁部に形成されて燃料ガスへの空気極9の暴露を防止している。
【0049】
図1に示す形態では、燃料ガス流通部16及び空気ガス流通部18は、それぞれ複数個のコの字状の流路パターンを有しており、それぞれの開口17及び開口19は、スタック構造体20の対向するA面及びB面においてのみ開放されるようになっている。したがって、
図1における実施形態では、空気極層8のシール部10bが配置される周縁部は、空気極9のスタック構造体20のA面側の周縁部となる。
【0050】
例えば、
図2に示すスタック構造体40にあっては、燃料ガスの開口37a、37bは構造体40のA面側及びB面側に開放されている。したがって、シール部30bは、空気極9のスタック構造体40のA面側及びB面側にある周縁部に一体に備えられることになる。
【0051】
本発明の積層型SOFCは、以上説明した各種形態のスタック構造体により構成できる。例えば、構築したスタック構造体に対して、当業者に公知の適切な集電のための要素を付与することで積層型SOFCとして構成することができる。
【0052】
(ガス流通部)
図1に示すように、スタック構造体20の単セル2は、燃料極7に燃料ガスを供給する燃料ガス流通部16及び空気極9に空気ガスを供給する空気ガス流通部18を備えている。これらのガス流通部16、18のパターンや形態は特に限定されない。例えば、
図1に示すコの字状、
図2に示すストレート型のほか、ジグザグ状、放射状、螺旋状等各種パターンが挙げられる。その他、SOFCにおけるこれらガス流通部については公知の態様を適用できる。これらの供給部16,18は、中空状の流路であることが好ましく、より好ましくは、セパレータ14側に形成されている。本発明のスタック構造体20においては、
図1に示すように、これらガス流通部16、18は、コの字状の流路パターンを有し、その開口17、19をスタック構造体20の対向する面においてのみ開放される形態が好ましい。こうした形態であると、燃料極層6及び空気極層8においてシール部10a及び10bをそれぞれ回避すべきガス流通部の開口の開放面においてのみ形成すれば足りるからである。
【0053】
図1に示すように、本発明のスタック構造体20においては、単セル2とこれに組み合わされる1個又は2個のセパレータ14とからなるユニットが、全体として平板状であることが好ましい。このような平板状の積層形態であると、スタック構造体20の全体としても柱状体として構成することができ、応力が集中しやすい部分が発生しにくく機械的強度が得られやすくなる。また、熱膨張係数の相違により応力等が残留しても剥離や破損の少ないスタック構造体20を得ることができる。さらに、積層型SOFCの製造工程を容易化することができる。
【0054】
なお、燃料ガス流通部16、空気ガス流通部18の流路形態は、全ての単セル2において同一でなくともよく、異なっていてもよい。例えば、コの字型流路とストレート型流路の双方を備えるスタック構造体20を排除するものではない。
【0055】
スタック構造体20に含まれる積層により形成する単セル2の数は特に限定されない。必要な機械的強度が発現されるように積層されることが好ましい。
【0056】
(積層型SOFC)
本発明の積層型SOFCは、本発明のスタック構造体を備えることができる。本発明のスタック構造体に対して、適宜必要な部材、すなわち、スタック構造体への燃料ガス及び空気ガスの供給源からのガス供給系、集電部材やケーシング等を備えることで積層型SOFCを構築できる。
【0057】
(SOFCシステム)
本発明のSOFCシステムは、本発明の積層型SOFCを備えることができる。積層型SOFCは、単体であってもよいが、通常、意図した電力を出力するように、積層型SOFCを複数組み合わせたモジュールを1個又は複数個を備えている。SOFCシステムは、さらに、燃料ガス改質装置、熱交換器及びタービン等、公知のSOFCシステムの要素を備えることができる。
【0058】
(積層型SOFCの製造方法)
本発明の積層型SOFCの製造方法は、
図4に示すように、スタック構造体の前駆体である積層体を準備する工程と、この積層体を熱処理する工程と、を備えている。
図5には、この製造工程の一例を記載している。
【0059】
(積層体準備工程)
積層体準備工程は、固体電解質の材料である固体電解質材料又はセパレータの材料であるセパレータ材料を含む第1のシートを準備し、燃料極材料又は空気極材料を含む電極材料帯と、少なくとも熱膨張収縮特性に関して前記固体電解質又は前記セパレータと均等な非多孔質性のシール部を形成するためのシール材料帯と、を有する第2のシートを準備して、第1のシート上に積層することを繰り返して、積層体を準備する工程である。なお、ここでいう積層体は、スタック構造体の前駆体であるので、単セルがセパレータにより分離された状態で積層されたものをいう。
【0060】
図5に示す製造工程では、セパレータ材料を含む第1のシート上に、空気ガス流通部を形成するための消失材料層を形成し、その後、空気極材料からなる電極材料帯と固体電解質材料からなるシール材料帯とを有する第2のシートを積層している。セパレータ材料を含む第1のシートは既に説明したセパレータ材料を常法に従ってシート化することにより得ることができる。なお、第1のシート及び第2のシートはいずれも積層後の加熱処理により意図したセラミックスとなるような未焼成セラミックスシートである。このような第1のシートは、例えば、セパレータ材料を主成分として、さらにバインダー樹脂、有機溶媒などが適量加えたスラリーを、ナイフコート、ドクターブレードなどの塗工装置を用いたテープキャスト法などのキャスティングによるシート成形法を用いて得ることができる。得られたシートを、常法に従い、乾燥後、必要に応じて加熱処理することで第1のシート(未焼成のセラミックスグリーンシート)を得ることができる。
【0061】
セパレータ材料は、ランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物と希土類元素固溶ジルコニアとを含むセラミックス粉末を用いることが好ましい。希土類元素安定化ジルコニアを含むことで、1400℃以下程度の焼成温度でも、ランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物を緻密に焼結させることができ、セル構成要素との共焼結が可能となる。また、高い導電率も維持できる。この材料において、希土類固溶ジルコニアは、ランタン−クロム系ペロブスカイト型酸化物セラミックスの質量に対して0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.05質量%未満であると、焼結温度低下効果が十分得られにくく、10質量%を超えても導電性が低下するおそれが生じるからである。
【0062】
次に、第2のシートを準備する。第2のシートは、空気極材料帯と固体電解質材料からなるシール材料帯を備えている。空気極材料帯とシール材料帯との配置は、本発明の積層型SOFCについて既に説明したシール部の設計思想により決定することができる。また、このような異なる帯(バンド)を有するシートは、ドクターブレードなどの塗工装置を使用してテープキャスティング法などのキャスティングによるシート成形法により得ることができる。すなわち、キャスティング方向に沿って異なる組成のスラリーが同時に排出されかつキャスティング後に異種のスラリー帯が混合することなく一体化されるようにして塗工するようにする。このとき、異なる帯を形成するためのスラリーの流動性を調整することでこのような異種組成帯の一体塗工が可能となる。こうして得られた塗工物を、常法に従い、乾燥し、必要に応じて加熱処理することで第2のシートを得ることができる。
【0063】
なお、空気極材料帯用のスラリーは、既に説明した空気極材料を常法に従いスラリー化することで得ることができる。なお、空気極材料帯用のスラリーには必要に応じて発泡材料等を添加することができる。また、シール材料帯用には、ここでは、固体電解質材料を用いて適当なスラリーとし、それを塗工に用いることができる。
【0064】
このようにして準備した第1のシートに対して、第2のシートを積層する。第1のシートに対する第2のシートの方向は、意図したスタック構造となるように燃料極材料帯とシール材料帯とは配置されるようにする。なお、セパレータ材料からなる第1のシートに対して空気極等電極用の第2のシートを積層するときには、ガス流通部を形成するために所定パターニングで消失材料層を塗工した上で第2のシートを積層することが好ましい。消失材料層を熱処理工程で消失される材料で構成することで熱処理によりガスの流通が可能な管状構造が形成される。パターンを、燃料ガス又は空気ガスの流通部のパターンとすることで容易にガス供給構造を形成できる。このようなガス流通部の作製によれば、積層工程を複雑化せず、かつ得られるスタック構造体の機械的強度等に影響を与えないで管状構造を構築できる。
【0065】
このようして第1のシート上に第2のシートを積層したら、再び、別の第1のシートを準備し、さらにその第1のシート上に別の第2のシートを積層する。例えば、
図5に示す例では、固体電解質材料からなる第1のシートをさらに準備し、燃料極材料体とシール材料帯とを有する第2のシートを準備する。なお、固体電解質材料及び燃料極材料スラリーは、既述の固体電解質及び燃料極の材料をそれぞれスラリー化して用いればよい。燃料極材料用には、熱処理後の多孔質性を確保するために必要に応じて発泡剤等を含めることもできる。
【0066】
積層する第1のシート及び第2のシートの種類は、最終的に得ようとするスタック構造体(単セルがセパレータにより分離した構造を有する)に応じて決定される。また、積層時の各シートの方向性についても同様である。また、積層工程における積層順序は、スタック構造体を得られる範囲で任意に行うことができ、特に限定されない。例えば、第1のシートと第2のシートの積層は、順次行ってもよいし、部分的な積層体を作製した上で、これらの積層体同士を積層するようにしてもよい。
【0067】
さらに、第2のシートにおけるシール材料帯の組成の選択及び配置は、既に本発明のスタック構造体において説明した各種態様を適用することができる。ガス流通部についても既に説明した本発明のスタック構造体において説明した各種態様を適用することができる。
【0068】
(熱処理工程)
熱処理工程は、積層工程で得られたスタック構造体の前駆体としての積層体を熱処理する工程である。熱処理は、積層体を構成するセラミックス材料が少なくとも一部が焼結されて緻密質又は多孔質の所望の焼成体を得られるように実施する。好ましくは、セル構成要素及びセパレータの全てを共焼結させる。例えば、1250℃以上1550℃以下の温度で加熱処理することができ、好ましくは1300℃以上1500℃以下である。より好ましくは1300℃以上1400℃以下である。なお、空気中で焼成することができる。
【0069】
この熱処理によって積層体を構成するシートが一体化され本発明のスタック構造体を得ることができる。すなわち、単セルがセパレータで分離されるとともに、単セルの燃料極層又は空気極層には、シール部として機能する部分が予め一体化された状態で備えるスタック構造体を一挙に得ることができる。
【0070】
以上のように、本発明の製造方法によれば、スタック構造体におけるセパレータ、固体電解質、燃料極層及び空気極層のそれぞれに対応するシートを準備し積層することにより、一挙にスタック構造体を得ることができる。すなわち、簡易に種々の利点を有する本発明のスタック構造体を得ることができる。
【0071】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0072】
(積層型SOFC用の電極シート)
本発明の積層型SOFC用電極シートは、燃料極材料又は空気極材料を含む電極材料帯と、前記積層型SOFCにおいて非多孔質性のシール部を形成するためのシール材料帯と、を有することができる。本発明のシートによれば、燃料極層又は空気極層の層内においてシール部を形成することができ、このため、確実かつ簡易なシール構造を提供できる。特に、シール材料帯を、少なくとも熱膨張収縮特性に関して積層型SOFCの固体電解質又はセパレータと均等とすることで、隣接するセパレータ又は固体電解質との一体性が良好で機械的強度にも優れるスタック構造体を得ることができる。
【0073】
本発明の電極用シートについては、既に本発明のスタック構造体において説明した燃料極、空気極、セパレータ、固体電解質及びシール部について各種態様を適用することができる。また、本発明の電極用シートの製造には、本発明の積層型SOFCにおいて説明した第2のシートの製造方法を適用することができる。
【0074】
以下、発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。
【実施例1】
【0075】
本実施例では、燃料極としてNi/8YSZのサーメット(Ni:8YSZ=80:20(モル比)、空気極としてLa
0.8Sr
0.2MnO
3(LSM)、電解質として8YSZ、セパレータとしてLa
0.79Ca
0.06Sr
0.15CrO
x(LCaSCr)を用いた。これらのスラリーをそれぞれ準備して、セパレータ用シート、固体電解質用シートをテープキャスト法によって厚さ20μmから80μmのグリーンシートに作製した。また、空気極用シートとして、空気極材料帯とその一端側にセパレータ材料からなるシール材料帯を有する厚さ20μmのグリーンシートを作製した。さらに、燃料極用シートとして、燃料極材料帯とその一端側にセパレータ材料からなるシール材料帯を有する厚さ20μmのグリーンシートを作製した。熱処理のときに起こるグリーンシートの収縮を均一にするために、スラリー濃度をそれぞれのシートについて調整した。
【0076】
これらの各種のシートを
図6に示す形態で積層し、空気中1400℃で焼成した。得られた構造体は、そりもなく一体化されており、層間剥離もなく極めて高い一体性の構造体を得ることができた。なお、得られた構造体においては、燃料極層、空気極層及び固体電解質は、それぞれ、約15μmであった。
【0077】
以上の結果から、実施例で使用した各種シートを積層し焼成することでそりのない良好な積層構造体を得られることがわかった。
【0078】
なお、焼成した構造体につき、その断面の組成についてエネルギー分散型分光法(EDX)を用いて確認した。その結果を
図7に示す。セパレータ、空気極、固体電解質、燃料極として意図した組成の層が形成されていることがわかった。
【実施例2】
【0079】
本実施例では、実施例1においてセパレータ用シートと空気極用シート及びセパレータ用シートと燃料極用シートを積層させる際にカーボンペーストをスクリーン印刷し、実施例1と同様に焼成した。その結果得られた構造体は、構造体全体としての一体性を維持しつつカーボンペースト塗工領域に空隙が形成されていることがわかった。以上のことから、消失材料を用いて微細なガス流路を形成できることがわかった。
【実施例3】
【0080】
本実施例では、LCaSCr粉末、当該酸化物粉末の質量に対して1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%及び7質量%の各量の3YSZ(3モル%イットリア安定化ジルコニア)、当該酸化物粉末に加えておおよそ10質量%の硝酸カルシウムを配合し、乳鉢にて良く混合した。この混合粉末を、一軸プレス(1300kgf/cm
2,5分)にて成形後、大気中、1300℃で5時間焼成した。なお、3YSZを添加しない以外は、同様の操作を行い、比較例も作製した(硝酸カルシウム含有3YSZ「0」質量%試料)。
【0081】
得られた焼結体につき体積と重量とを求め、密度を算出した。結果を
図8に示す。また、得られた焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(0質量%及び1質量%添加)を
図9に示す。
【0082】
図8に示すように、3YSZ未添加の場合に5.3g/cm
3であったランタン−カルシウム−ストロンチウム−クロム酸化物の密度が僅か1質量%の3YSZ添加で6%,また5質量%の添加で9%増加することがわかった。また、
図9に示すように、3YSZを微量添加することで結晶粒が微細化し緻密になっている様子が走査型電子顕微鏡(SEM)観察より確認された。