(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料把持部と種結晶把持部とを互いに天地方向に配置させた上で両者を近接させることにより、前記原料把持部に把持された原料と前記種結晶把持部に把持された種結晶とを近接させ、加熱部により溶融帯域を形成し、当該溶融帯域を冷却することにより単結晶を製造する単結晶製造装置において、
前記加熱部は、赤外線発生手段を有し、
天地方向の天の位置に前記種結晶把持部が配置されており、かつ、天地方向の地の位置に前記原料把持部が配置されており、
前記原料把持部にて把持される原料における少なくとも一部を水平方向に包囲自在であり、かつ、前記赤外線発生手段から発生して原料に照射される赤外線を、原料の溶融部分から天地方向の地の方向に向かって段階的に遮蔽していくことにより原料の温度勾配を緩和自在な赤外線遮蔽部を有する、単結晶製造装置。
前記赤外線遮蔽部における天地方向の天の側の端部には切り欠きが複数形成されており、当該切り欠きは、天地方向の天の方向から前記赤外線遮蔽部を見たときに前記原料把持部を中心として対称となる位置に形成されている、請求項1に記載の単結晶製造装置。
前記加熱部は、前記赤外線発生手段を複数有し、かつ、反射手段として複数の回転楕円鏡を有し、当該回転楕円鏡は共通の焦点を有しつつ、もう一方の焦点は当該共通の焦点から見て天地方向の天の方向に存在しており、前記赤外線発生手段は、当該もう一方の焦点に配置されている、請求項1または2に記載の単結晶製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
赤外線ランプによる加熱からレーザーによる加熱へと手法が変化していることについては、特許文献2および3に示唆されている。
【0007】
例えば、特許文献2においては、赤外線ランプにより原料を加熱しつつも、レーザー光により原料に対してスポット加熱を行っている。
【0008】
スポット加熱を行う理由として、溶融した原料(溶融帯域)と固体のままの原料との間、および、溶融した原料と種結晶との間における固液界面の温度勾配を急峻にするという効果をもたらすためということが記載されている(特許文献2の[0008])。そうなると、溶融帯域は不用意に長尺にならなくなる。その結果、溶融帯域の下方に配置された種結晶に、溶融した原料が自重で垂れなくなり、溶融帯域の安定維持が可能となることが同段落に記載されている。
【0009】
また、レーザーによる加熱に特化した特許文献3においては、赤外線ランプによる集光部分においては原料が完全融解するものの、その周囲だと温度が低くなるため、部分融解が生じることが記載されている。そのため、原料において固体部分と液体部分が共存する部分が発生し、単結晶の製造工程中、当該部分が膨張することにより、単結晶の形状やサイズが安定しないことが記載されている(特許文献3の[0005])。
そして、レーザー光を用いた加熱を行うことにより、溶融帯域は高温、溶融帯域以外の固体部分は十分に低温に保ち、部分融解を少なくし、固化しつつある単結晶への溶融帯域からの垂れを少なくすることが記載されている(特許文献3の[0020][0063])。
それに対し、レーザー光を用いず赤外線ランプ(ハロゲンランプ)を用いて原料を加熱する場合、部分融解や固化しつつある単結晶への溶融帯域からの垂れのみならず、種結晶への溶融帯域からの垂れも生じることが記載されている(特許文献3の[0064]に記載の従来例)。
【0010】
以上の内容を鑑みると、まず、特許文献2および3に共通した課題として、特許文献1のように赤外線ランプを使用する溶融帯域法では「溶融帯域からの垂れ」が生じるおそれがあることを挙げている。とにかく、この垂れを生じさせないようにするために、レーザー光によるスポット加熱を行っている。
【0011】
確かに、溶融帯域法におけるレーザー光によるスポット加熱は、固液界面の温度勾配を急峻にすることができ、溶融帯域を不用意に長くせずにすむため、製造される単結晶の品質に加え、溶融帯域の垂れにより種結晶を台無しにするおそれも少なくなる。
【0012】
しかしながら、溶融帯域法におけるレーザー光を用いた単結晶製造方法が万能と言うわけではないことが、本発明者により発見された。本発明者により発見された課題は、以下の通りである。
(課題1)レーザー光源が必要となるため、赤外線ランプを用いた装置よりも、装置が高価となる。
(課題2)そもそも従来の溶融帯域法を用いた手法(例えば特許文献1〜3)では、溶融帯域を維持しつつ単結晶を成長させる作業を行うにはかなりの熟練度が必要となり、失敗すると、下方にある種結晶が台無しになるという大きなリスクが存在する。
【0013】
近年、単結晶製造装置は、国内のみならず、研究機関を中心として、アジアを含む海外まで普及しつつある。そのような状況下で、上記の課題1および課題2が際立ってきている。
【0014】
課題1としては、海外の全ての国が、レーザー光を用いた単結晶製造装置を必要とするとは限らず、比較的廉価となる単結晶製造装置に対する需要が高まっている。
【0015】
また、海外のみならず国内であっても、単結晶の大量生産ではなく、単結晶の物性研究や単結晶製品の試作などの少量生産のために単結晶製造装置が必要とされるケースもある。少量生産のために高価な単結晶製造装置を購入するのはハードルが高く、そのハードルの高さのせいで、単結晶の物性研究や単結晶新製品の開発が遅れているという面もある。
【0016】
そのため、比較的廉価である、赤外線ランプを用い、かつ、るつぼを用いない単結晶製造装置を活用しつつ、課題2を解決する必要がある。
【0017】
課題2としては、仮に、海外の国の研究機関が、レーザー光を用いた単結晶製造装置を購入したとしても、海外における作業者の熟練度を即座に向上させることは極めて困難である。そのため、高度な熟練度の必要なく、下方にある種結晶を台無しにするというリスクを無くす手法が求められている。
【0018】
また、装置の費用や操作性に焦点を当てた上記の課題1および2に加え、得られる単結晶そのものの品質や形状についても、特許文献2および3の従来技術では、以下の課題が生じてしまうことを、本発明者は見出した。
(課題3)本来、単結晶の成長においては、結晶成長部分の温度勾配は急峻であるよりも緩やかであるほうが良質の結晶育成が可能である。ところが、溶融帯域法にてレーザー光源を用いて単結晶を成長させる場合、固液界面(結晶成長部分)の温度勾配が急峻となるため、良質な単結晶を成長させようとしても、その品質については自ずと限界が生じる。
(課題4)課題3に加え、レーザー光による溶融帯域法では、レーザーの特性上、集光領域が小さくなり、棒状の原料ひいては成長後の単結晶の直径は非常に小さなものに限られてしまう。
【0019】
上記の課題3および4は、単結晶に求められる品質のレベルが飛躍的に向上していること、および、精密機器に求められる単結晶のサイズが徐々に大きくなっていることから、解決すべき喫緊の課題である。
【0020】
本発明は、赤外線を用い、かつ、るつぼを用いないことにより、単結晶の製造コストを著しく低減するとともに、赤外線を用いて原料を溶融させても、溶融した原料が種結晶に垂れず、比較的良質な単結晶の製造が容易に可能な単結晶製造装置および単結晶製造方法を提案することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。その際、本発明者はまず、特許文献2および3においてレーザー光を導入する理由について追究した。レーザー光を導入する理由としては、原料に対するスポット加熱が可能となるためである。原料に対するスポット加熱を行う理由としては、溶融帯域と固体部分との間の境界である固液界面を明瞭にし、垂れが生じる部分や部分融解する部分を減らすためである。この垂れが、下方に配置された種結晶にまで延びてしまうと、種結晶が台無しになってしまう。だからこそ、固液界面の温度勾配を可能な限り急峻にするよう、特許文献2および3ではレーザー光源を導入している。
【0022】
しかしながら、本発明者の調べたところによると、本来、単結晶の成長においては、結晶成長部分の温度勾配は急峻であるよりも緩やかであるほうが良質の結晶育成が可能である。それに対し、レーザー光を導入する特許文献2および3においては、固液界面の温度勾配が急峻となる。そのため、レーザー光を用いた場合、良質な単結晶を成長させようとしても、その品質については自ずと限界が生じる。とはいえ、特許文献1〜3に示されるように、垂れが生じる部分や部分融解する部分を減らさなければならない。種結晶を台無しにしてしまうことがないようにするという課題を解決するためには、レーザー光を導入せざるを得なかったという事情があることを、本発明者は把握した。
【0023】
そこで、本発明者は、従来の溶融帯域法による単結晶製造装置における原料と種結晶の配置に着目した。特許文献1〜3に示すように、単結晶製造装置における原料と種結晶とは互いに天地方向に配置されている。本発明者は、この配置を逆転させ、天地方向の天の位置に種結晶を配置し、かつ、天地方向の地の位置に原料を配置し、溶融帯域からの垂れが種結晶に延びるおそれを完全に無くするという、盲点とも言える技術的思想を想到した。
【0024】
上記の技術的思想を具現化することにより、従来の溶融帯域法における制約を解除することが可能となる。一例を挙げると、溶融帯域からの垂れが種結晶に延びるおそれを完全に無くすことができれば、溶融帯域がある程度膨張したり長くなったりしても構わなくなる。その結果、固液界面の温度勾配を急峻にする必要がなくなる。
【0025】
この点に着目した本発明者は、従来の考えとは全く逆に、原料において溶融帯域と固体部分との間の温度勾配を緩和することにより、溶融帯域法を用いつつも比較的簡易に良質な単結晶を製造できることも、本発明の好適な例として見出した。
【0026】
以上の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
原料把持部と種結晶把持部とを互いに天地方向に配置させた上で両者を近接させることにより、前記原料把持部に把持された原料と前記種結晶把持部に把持された種結晶とを近接させ、加熱部により溶融帯域を形成し、当該溶融帯域を冷却することにより単結晶を製造する単結晶製造装置において、
前記加熱部は、赤外線発生手段を有し、
天地方向の天の位置に前記種結晶把持部が配置されており、かつ、天地方向の地の位置に前記原料把持部が配置されている、単結晶製造装置である。
【0027】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記原料把持部にて把持される原料における少なくとも一部を水平方向に包囲自在であり、かつ、前記赤外線発生手段から発生して原料に照射される赤外線を、原料の溶融部分から天地方向の地の方向に向かって段階的に遮蔽していくことにより原料の温度勾配を緩和自在な赤外線遮蔽部を有する。
【0028】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、
前記赤外線遮蔽部における天地方向の天の側の端部には切り欠きが複数形成されており、当該切り欠きは、天地方向の天の方向から前記赤外線遮蔽部を見たときに前記原料把持部を中心として対称となる位置に形成されている。
【0029】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記加熱部は、前記赤外線発生手段を複数有し、かつ、反射手段として複数の回転楕円鏡を有し、当該回転楕円鏡は共通の焦点を有しつつ、もう一方の焦点は当該共通の焦点から見て天地方向の天の方向に存在しており、前記赤外線発生手段は、当該もう一方の焦点に配置されている。
【0030】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4のいずれかの態様に記載の発明において、
前記原料把持部は、ペレット状の原料と係合自在な形状を有しており、かつ、前記種結晶把持部は、棒状の種結晶を把持自在な形状を有している。
【0031】
本発明の第6の態様は、第1ないし第5のいずれかの態様に記載の発明において、
前記原料把持部は、円柱状かつ直径10mm以上の大きさの原料を把持自在であり、
製造される単結晶の直径は1mm以上である。
【0032】
本発明の第7の態様は、
原料と種結晶とを互いに天地方向に配置した上で溶融帯域を形成し、当該溶融帯域を冷却することにより単結晶を製造する単結晶製造方法において、
天地方向の天の位置に種結晶を配置し、かつ、天地方向の地の位置に原料を配置し、赤外線の照射により原料を溶融させる、単結晶製造方法である。
【0033】
なお、特許文献1には、「種結晶」を水平方向に包囲した遮蔽物が記載されている。これは、種結晶が溶融しないように、かつ、原料における固液界面の温度勾配を急峻にするように設けられたものである。
【0034】
一方、後述の実施の形態で述べる「赤外線遮蔽部」における「赤外線制御板」は、「原料」の少なくとも一部を水平方向に包囲するものである。また、本発明における赤外線遮蔽部は、原料の溶融部分からの原料の温度勾配を緩和するためのものである。そのため、特許文献1の遮蔽物と、本発明における赤外線遮蔽部とは、全く異なるものである。
【0035】
また、レーザー光に特化した加熱を用いる特許文献3の[0072]には、原料を下方に配置し、種結晶を上方に配置しても構わない旨が記載されている。しかしながら、この配置がもたらす効果については何も記載が無い。そもそも、特許文献3においては、赤外線ランプの代わりにレーザー光を用いることにより発明の効果を奏している。それどころか、赤外線ランプを用いた際、垂れが種結晶にまで生じることが記載されている(特許文献3の[0064]に記載の従来例)。それに加え、技術的な観点から見ると、レーザー光源と赤外線ランプとでは集光領域の大きさが著しく異なる。そのため、特許文献3に記載の技術においては、レーザー光から赤外線に変更して溶融帯域を形成することは困難である。
【0036】
そのため、特許文献3の手法を、本発明のように赤外線を用いる手法へと適用することは、当業者では考えられない。また、「原料を下方に配置し、種結晶を上方に配置すれば、レーザー光を用いずとも、種結晶への垂れの問題をそもそも生じさせなくすることが可能」という示唆も、特許文献3には存在しない。また、特許文献3以外の文献であっても、上記の内容に気づき、それを具現化したことを記載した文献は存在しない。
【0037】
そもそも、特許文献2および3では、レーザー光を用いることにより種結晶への垂れの問題を解決している。解決済みの問題に対して、本発明のように、原料を下方に配置し、種結晶を上方に配置するための動機については、どの特許文献にも開示されていない。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、赤外線を用い、かつ、るつぼを用いないことにより、製造コストを著しく低減するとともに、赤外線を用いて原料を溶融させても、溶融した原料が種結晶に垂れず、比較的良質な単結晶の製造が容易に可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、次の順序で説明を行う。
1.単結晶製造装置
1−A)単結晶製造装置の概要
1−B)原料把持部
1−C)種結晶把持部
1−D)加熱部
1−E)赤外線遮蔽部
2.単結晶製造方法
2−A)準備工程
2−B)加熱工程
2−C)単結晶成長工程
3.実施の形態による効果
4.変形例等
【0041】
なお、以下に記載が無い内容については、溶融帯域法による単結晶製造装置およびその方法に関する技術における公知の構成(例えば特許文献1〜3に記載の構成)を適宜採用しても構わない。
【0042】
<1.単結晶製造装置>
1−A)単結晶製造装置の概要
本実施形態における単結晶製造装置1の基本的構成について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、本実施形態における単結晶製造装置1の概略断面図である。
図2は、本実施形態における単結晶製造装置1の内部の概略平面図である。
【0043】
本実施形態における単結晶製造装置1は、主に、以下の構成を有する。
・天地方向に移動自在かつ天地方向を中心軸として回転自在な原料把持部2
・天地方向に移動自在かつ天地方向を中心軸として回転自在な種結晶把持部3
・原料把持部2に把持された原料Mを加熱して原料Mを溶融させる加熱部4
・原料Mの溶融部分から天地方向の地の方向に向かって原料Mの温度勾配を緩和自在とする赤外線遮蔽部5
【0044】
なお、単結晶を成長させる結晶成長炉は石英炉心管11で密閉されており、下部シャフトフランジ12、上部シャフトフランジ13とともに炉内の成長雰囲気を外界から隔離している。炉内には雰囲気導入口14から適切な組成の雰囲気を導入し、雰囲気排出口15から排出し、炉内の雰囲気成分ならびに圧力を適切に保つことができる。
【0045】
なお、上記の構成以外にも、単結晶製造装置1として用いられる構成が存在する。ただ、当該構成は、上記の特許文献1〜3に示されるような公知の構成を適宜用いても構わない。そのため、本実施形態においては、その説明を省略する。
以下、上記で列挙した各構成について主に説明する。
【0046】
1−B)原料把持部2
本実施形態における原料把持部2は、原料Mを把持自在な構成を有する。なお、本明細書における「原料を把持」は、その名の通り原料Mをしっかりと掴むことを意味し、るつぼに原料Mを単に収納することとは全く異なる。そのため、「原料把持部」という表現により、るつぼを用いないことは一義的に導き出される。
【0047】
本実施形態における大きな特徴の一つは、天地方向の地の位置に原料把持部2が配置されていることである。こうすることにより、溶融帯域Mlからの垂れが種結晶Sに延びるおそれを完全に無くすることができる。
【0048】
また、従来の溶融帯域法における制約を解除することが可能となり、溶融帯域Mlがある程度膨張したり長くなったりしても構わなくなる。その結果、固液界面の温度勾配を急峻にする必要がなくなる。詳しくは後述するが、従来の考えとは全く逆に、原料Mにおいて溶融帯域Mlと固体部分Msとの間の温度勾配を緩和するための構成(赤外線遮蔽部5)を別途採用することにより、原料Mに生じる割れの発生を抑制することも可能となる。その結果、溶融帯域法を用いつつも比較的簡易に良質な単結晶を製造できる余地を残すことが可能となる。これは、天地方向の地の位置に原料把持部2を配置し、天地方向の天の位置に種結晶把持部3を配置するという、従来の溶融帯域法とは全く逆の構成によるものである。
【0049】
また、本実施形態においては、原料Mとして、ペレット状の原料Mを用いることにも特徴がある。これに伴い、原料把持部2が、ペレット状の原料Mと係合自在な形状を有するようにすることにも特徴がある。詳しく言うと、本実施形態の原料把持部2は、原料Mを把持する「原料ホルダー21」と原料ホルダー21の回転軸および上下移動軸となる「下部シャフト22」とで構成されている。
【0050】
以下、上記の構成を採用した例を基に、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態における原料ホルダー21の説明図であり、(a)は原料Mを把持した原料ホルダー21を水平台に載置した際の概略図、(b)は原料Mを把持した原料ホルダー21の概略断面図である。
【0051】
図3に示すように、原料ホルダー21において原料台211の上にペレット状の原料Mを載せ、ホルダー212に設けられたセラミックス製のクランプ213により、ペレット状の原料Mを挟み、原料Mを固定する。また、クランプ213は、ホルダー212と同じくネジ214で締め付けられている。そして、ペレット状の原料Mをクランプ213が挟み、原料Mを固定する。なお、上記のネジ214での締め付け以外に、高融点かつ耐蝕性の金属、例えば白金および白金を含む合金で懸架されても構わない。
なお、このとき、原料Mとホルダー212との間に、耐火材製の座金215を挟み込む事で原料Mとホルダー212を容易に同軸上に固定するようにしても良い。
ちなみに、ホルダー212は固着具216を介して下部シャフト22に固定される。
【0052】
従来だと、原料Mとして、棒状の原料Mを用いている。しかしながら、そもそも棒状の原料Mを製造すること自体、相当の熟練度が必要となる。そうなると、自ずと、棒状の原料M自体は高価なものになる。そうなると、単結晶製造装置1自体が廉価になったとしても、単結晶製造装置1の使用者は高価な棒状の原料Mを購入せざるを得なくなり、単結晶製造装置1が廉価になったことの効果が薄れてしまう。
【0053】
そこで、本実施形態においては、原料把持部2(詳しく言うと原料ホルダー21、更に詳しく言うと原料台211)が、ペレット状の原料Mと係合自在な形状を有するようにしている。ここで言う「ペレット状」とは、棒状のような長尺なものとは異なり、略円柱状の塊のことを指す。具体的な数値を言うと、ペレット状の原料Mは、直径10mm〜50mm、高さ10mm〜100mmの円柱状の原料Mであるのが好ましい。そして、原料把持部2も、上記の形状の原料Mを把持自在な形状を有するのが好ましい。もちろん、本発明は直径や高さに制限されるものではないし、原料の形状はペレット状でなくとも、溶融帯域法のために形成された棒状の原料(例えば直径20mm、長さ200mm)を用いても構わない。
また、本発明における単結晶製造装置1の原料ホルダー21は、ペレット状の原料Mと係合自在な形状に限定されるものではなく、従来のように棒状の原料Mを把持自在な形状を有していてももちろん構わない。ただ、先に述べたように、本発明の原料ホルダー21は、るつぼとは全く異なる。
【0054】
また、ここで言う「係合」とは、原料ホルダー21の形状と原料Mの形状との組み合わせにより原料Mが固定される関係のことを指す。
【0055】
なお、原料ホルダー21の具体的な形状としては、上記の構成に限らず、原料Mを把持できるものであれば任意のものであっても構わない。例えば、従来のように棒状の原料Mを把持するのならば、従来の原料ホルダー21を用いても構わない。その一方、ペレット状の原料Mを把持するのなら、ペレット状の原料Mを嵌め込み可能な構成(例えばキャップ状の把持部)を原料ホルダー21としても構わない。従来技術において、キャップ状の原料ホルダー21によって棒状の原料Mを支えようとすると、原料Mが長尺であるため、棒状の原料Mを安定して配置することが難しくなってしまう。原料Mがペレット状だからこそ、キャップ状の原料ホルダー21を採用することが可能になる。
【0056】
また、原料ホルダー21の具体的な形状として、以下のものも挙げられる。
図4は、原料把持部2と原料Mとの係合の一例を示す図である。
【0057】
図4(a)においては、ペレット状の原料Mの下部に雄ネジを設けている。この雄ネジは、ペレット状の原料Mの下部を雄ネジ形状に加工しても構わないし、別の雄ネジ部材を原料Mの下部に固着させても構わない。この場合、「原料」とは「当該別の雄ネジ部材を固着した原料」のことを指す。そして、原料ホルダー21の上部(原料台211)に雌ネジを設ける。
【0058】
上記の構成を採用することにより、原料ホルダー21にペレット状の原料Mをねじ込む事で、原料台211に原料Mを容易に固定することが可能となる。これもまた、棒状の原料Mでは非常に困難な固定方法であり、原料Mをペレット状としたことにより可能となった固定方法である。
【0059】
図4(b)においては、
図4(a)とは逆に、ペレット状の原料Mの下部に雌ネジを設け、原料台211に雄ネジを設ける。この雄ネジは、原料台211を雄ネジ形状に加工しても構わないし、別の雄ネジ部材を原料台211に固着させても構わない。
【0060】
なお、上記の例は、原料ホルダー21がペレット状の原料Mと係合自在な構成を採用した場合の例である。その一方、原料ホルダー21と原料Mとを係合させずとも、例えば、耐火材セメントで原料台211と原料Mとを固定させることにより、原料Mを固定しても構わない。
【0061】
また、原料ホルダー21の素材としては、公知のものを用いても構わない。例えば、耐火材を用いても構わない。耐火材としては、アルミナ、ジルコニアおよびシリカ、さらにはそれらの混合物から構成されているものを用いても構わない。
【0062】
そして、原料把持部2は、天地方向に移動自在かつ天地方向を中心軸として回転自在な構成を有している。本実施形態においては、下部シャフト22が中心軸となる。なお、原料把持部2を駆動する駆動源の図示は省略する。
【0063】
1−C)種結晶把持部3
本実施形態における種結晶把持部3は、種結晶Sを把持自在な構成を有し、例えば種結晶ホルダー31と上部シャフト32とを有する。なお、種結晶把持部3は、公知の構成を採用しても構わない。ただ、本実施形態における大きな特徴の一つは、天地方向の地の位置に原料把持部2が配置されていることに対応して、天地方向の天の位置に種結晶把持部3が配置されていることにある。こうすることにより、溶融帯域Mlからの垂れが種結晶Sに延びるおそれを完全に無くすることができる。
【0064】
なお、本実施形態における種結晶Sの形状は、最終的に良質な単結晶を製造可能なものならば任意で構わない。本実施形態においては、従来と同様、棒状の種結晶Sを用いる場合について述べる。また、種結晶Sの結晶構造としては単結晶がもちろん好ましいが、単結晶が入手できない場合には、原材料と同質のセラミックスや組成や結晶構造が目的の単結晶に類似している単結晶を用いても構わない。
【0065】
なお、種結晶把持部3も、天地方向に移動自在かつ天地方向を中心軸として回転自在な構成を有している。なお、種結晶把持部3を駆動する駆動源の図示は省略する。
【0066】
なお、本実施形態においては、原料把持部2も種結晶把持部3も共に天地方向に移動自在かつ天地方向を中心軸として回転自在な例を挙げた。その一方、原料把持部2および種結晶把持部3のうちどちらか一方が天地方向に移動自在な構成を採用しても構わない。溶融帯域法において単結晶を製造するには、原料Mと種結晶Sを接触させた後に両者を離間する必要がある。そのため、一方が天地方向に移動自在であれば済む。ただ、良質な単結晶を欠陥なく製造するためには、原料把持部2も種結晶把持部3も共に天地方向に移動自在であるのが非常に好ましい。また、両者とも天地方向を中心軸として回転自在でなくとも構わないが、同じく、両者とも、良質な単結晶を欠陥なく製造するためには回転自在な構成を有するのが好ましい。
その他の構成については、原料把持部2と同様の構成を適宜採用しても構わない。
【0067】
1−D)加熱部4
本実施形態における加熱部4は、赤外線発生手段41a〜dを有し、原料把持部2に把持された原料Mを加熱して原料Mを溶融させる機能を有する。また、本実施形態における加熱部4は、赤外線発生手段41の他に、赤外線を原料Mへと反射して照射効率を向上させるための反射手段42a〜dも有している。
【0068】
図1に示すように、まず、反射手段42としての回転楕円鏡42a,42bは、共通の焦点F0を有している。それに加え、もう一方の焦点として、回転楕円鏡42aは焦点F1を、焦点F0の上方に有している。同様に、回転楕円鏡42bは焦点F2を、焦点F0の上方に有している。なお、ここでは赤外線発生手段41a〜dのうち41a,41b、および、回転楕円鏡42a〜dのうち42a,42bを例にとって説明する。以降、まとめて称するときには赤外線発生手段41、回転楕円鏡42と言う。
【0069】
焦点F1およびF2にはそれぞれ赤外線発生手段41a,41bが配置されている。赤外線加熱発生手段そのものは、公知の構成を採用しても構わない。例えば、ハロゲンランプもしくはキセノンアークランプあるいはその併用で構わない。回転楕円鏡42の共通の焦点F0が被加熱部分となり、この被加熱部分に、溶融した原料Mと種結晶Sとが接触することにより形成される溶融帯域Mlを配置するような構成を採用する。そして、溶融帯域Mlが被加熱部分からずれるように、原料把持部2と種結晶把持部3とを互いに離間させることにより溶融帯域Mlを冷却させ、単結晶を成長させる。
【0070】
また、本実施形態における特徴の一つに、赤外線発生手段41を、溶融帯域Mlよりも天地方向の天の位置(上方)に配置していることがある。別の言い方をすると、各回転楕円鏡42の共通の焦点F0よりも、各赤外線発生手段41が上方に配置されるように赤外線発生手段41および回転楕円鏡42を構成することにより、以下の効果を奏する。
【0071】
まず、原料Mの下端と種結晶Sとを接触させ、赤外線を用いた加熱により溶融帯域Mlを形成する。。この際、種結晶Sも溶融している。その後、原料Mと種結晶Sと間の距離を広げつつ、溶融帯域Mlを赤外線の集光部分(F0)からずらすことにより、これを冷却する。ただ、下方に原料把持部2を配置する関係上、溶融帯域Mlから単結晶へと成長する部分(以降、「成長部分Mc」と言う。また、単結晶のことをMcと言う場合もある。)が上方に移動するように、原料把持部2および種結晶把持部3を相対移動させる。
【0072】
もし、赤外線発生手段41を、溶融帯域Mlの水平位置に配置していた場合、成長部分Mcが上方に移動すると、赤外線が集中する領域から成長部分Mcが容易に外れてしまい、成長部分Mcは一気に冷却されてしまう。そうなると、単結晶の成長において温度勾配が急峻となってしまう。
しかしながら本実施形態のように、赤外線発生手段41を溶融帯域Mlよりも上方に配置すると、成長部分Mcが上方に移動したとしても、赤外線発生手段41が同じく上方にあるため、成長部分Mcはある程度加熱され続ける。そのため、単結晶の成長において温度勾配が緩くなる。
以下、温度勾配を緩めることの有効性について説明する。
【0073】
本来、製造の際の困難性を度外視すれば、良質な単結晶を製造するためには、原料Mにおける溶融帯域Mlを適切に維持する必要がある。また、原料Mの内部における急峻な温度勾配は、結晶格子の歪みを招来するなど不具合が生じるおそれが増大するため、本来は好ましくない。
【0074】
しかしながら、従来だと、特許文献1〜3に記載されているように、温度勾配を急峻にしないと、溶融帯域Mlが膨張したり長くなってしまったりして種結晶Sまで垂れが生じてしまう。そのため、製造の際の困難性を考慮に入れると、原料Mの内部において急峻な温度勾配を設けざるを得なかったという事情がある。特許文献2および3においてレーザー光を採用しているのは、こういった事情もある。
【0075】
その一方、本発明のように、そもそも溶融帯域Mlの垂れによる問題点を無くしてしまえば、温度勾配を急峻にする必然性がなくなる。そうなると、単結晶の質に着目し、原料Mの内部における温度勾配を緩め、原料Mにおける溶融帯域Mlを適切に維持することが可能となる。この温度勾配を緩めるための具体的な構成が、上記のような赤外線発生手段41の配置である。こうすることにより、成長部分Mcをある程度加熱し続ける、別の言い方をするとマイルドに冷却することが可能となる。その結果、原料Mの内部における温度勾配を緩めることが可能となり、原料Mにおける溶融帯域Mlを適切に維持できる。ひいては、良質な単結晶を製造することが可能となる。
【0076】
なお、特許文献3の[0069]において、レーザー光を原料Mに対して斜めに照射することが記載されている。但し、このレーザー光の照射は、原料Mにおける温度勾配を急峻とすることの変形例として記載されており、本実施形態のような「原料Mをマイルドに冷却して温度勾配を緩くする」こととは真逆の内容である。そのため、レーザー光に特化した特許文献3の内容から、「赤外線発生手段41を、溶融帯域Mlよりも天地方向の天の位置に配置する」ことは、容易には想到できない事項である。
【0077】
ちなみに、赤外線発生手段41の具体的な配置としては、原料Mの溶融帯域Mlの水平方向から見て15度〜45度上方の位置に赤外線発生手段41を配置するのが好ましい。
15度以上ならば、溶融帯域Mlが上方に移動しつつ単結晶が成長する際に、溶融帯域Mlをある程度加熱し続けることが可能となり、温度勾配が緩くなる。その結果、結晶界面および小傾角粒界の発生が抑制され、結晶性が向上する。
45度以下ならば、溶融帯域Mlに対して適度に赤外線を集中することが可能となり、溶融帯域Mlを適切に形成および維持することが可能となる。
なお、30度〜45度上方の位置に赤外線発生手段41を配置するのが更に好ましい。30度以上ならば、結晶界面および小傾角粒界の発生をほぼ完全に押さえられるためである。
【0078】
なお、本実施形態における単結晶製造装置1の内部の概略平面図である
図2に示すように、本実施形態においては、反射手段42として4つの回転楕円鏡42a〜dを設けている。そして、各々の回転楕円鏡42に対応する赤外線発生手段41を、溶融帯域Mlよりも天地方向の天の位置、かつ、回転楕円鏡42の一方(上方)の焦点位置に配置している。もう一方(下方)の焦点位置は溶融帯域Mlである。ここでは4つの回転楕円鏡42および赤外線発生手段41を設けているが、もちろんそれ以外の数の回転楕円鏡42および赤外線発生手段41を設けても構わない。なお、赤外線発生手段41に加え、レーザー光発生手段を、回転楕円鏡42の下方に設けても構わない。レーザー光発生手段により、原料Mに対して、赤外線に加え、レーザー光を照射しても構わない。ターゲットスコープ(図に記載せず)を用い、溶融帯域Mlに析出した固相に対してレーザー光を集中的に照射することで、原料Mを部分的に加熱し、溶融帯域Mlに固相を再度溶け込ませることも可能となる。これにより、安定した単結晶の成長が可能となる。このため、レーザー光発生手段は、回転楕円鏡42と同様に、溶融帯域Mlに向けて傾斜角をつけて配置しても構わない。また、レーザー光発生手段として、上下、左右および傾斜角度の任意制御が可能な構造を採用しても構わない。ただ、レーザー光発生手段を備えた装置は高額となるため、基本的には赤外線発生手段41のみが備えられており、オプションとしてレーザー光発生手段を備え付けることが可能な単結晶製造装置1とすることが好ましい。
【0079】
1−E)赤外線遮蔽部5
本実施形態においては、更に好適な構成として、赤外線遮蔽部5を設けている。本実施形態における赤外線遮蔽部5は、原料把持部2にて把持される原料Mの少なくとも一部を水平方向に包囲自在な構成を有しており、赤外線発生手段41から発生して原料Mに照射される赤外線を遮蔽する円筒状の赤外線制御板51の上端に切り欠き53を設けたものである。こうすることにより、原料Mの溶融部分から天地方向の地の方向に向かって、原料Mの露出面積を段階的に減少させている。別の言い方をすると、原料Mに照射される赤外線を、段階的に遮蔽していく。これにより、原料Mの溶融部分から天地方向の地の方向に向かって、原料Mの温度勾配を緩和している。
【0080】
図1を見るとわかるように、溶融帯域Mlの下方にある原料Mの固体部分Msの周囲には、赤外線制御板51が配置される。赤外線制御板51は、フロア52上に固定され、かつ、上下方向への駆動機構(不図示)に連結している。なお、フロア52を上下方向に駆動するシャフトなり部材については記載を省略する。
以下、
図5および
図6を用いて、赤外線遮蔽部5について説明する。
図5は、本実施形態における赤外線遮蔽部5の概略図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図6は、
図5のX−Y線における、赤外線遮蔽部5の概略断面図である。
【0081】
図5に示すように、赤外線制御板51における天地方向の天の側の端部には切り欠き53が複数形成されている。そして、当該切り欠き53は、天地方向の天の方向から赤外線制御板51を見たときに、原料把持部2を中心として対称となる位置に形成されている。更に具体的に言うと、平面視だとドーナツ状となる赤外線制御板51の上端において等間隔に4か所、切り欠き53を設けている。結晶成長環境を極力回転対象形にするためでもある。
【0082】
赤外線制御板51に複数の切り欠き53を設けることにより、原料Mの露出面積を段階的に減少させられる。その結果、原料Mの溶融部分から下方に向かって、原料Mの温度勾配を緩和することが可能となる。
【0083】
繰り返しになるが、従来の溶融帯域法においては、原料Mを上方、種結晶Sを下方に配置していた。そのため、溶融帯域Mlからの垂れが種結晶Sに延びることに警戒しながら、改良を続けざるを得なかった。しかしながら、そのような発想を逆転させ、種結晶Sを上方、原料Mを下方に配置したのが本発明の技術的思想である。本発明の技術的思想がなければ、原料Mの温度勾配を緩和する発想を想到するのは困難である。
【0084】
赤外線遮蔽部5によって、原料Mの溶融部分から下方に向かって、原料Mの温度勾配を緩和することでもたらされる効果は、先に述べた1−D)加熱部4でもたらされる効果とは若干異なる。以下、説明する。
【0085】
先に述べた1−D)加熱部4でもたらされる効果は、ペレット状の原料Mの溶融帯域Mlにおいて、上方の種結晶Sと接触する部分の近傍(成長部分Mc)に関するものである。つまり、当該近傍の温度勾配をマイルドにすることにより、成長部分Mcから成長する単結晶の品質が向上するという効果を奏する。
その一方、1−E)赤外線遮蔽部5でもたらされる効果は、単結晶の品質というよりも、原料Mの溶融部分から下方に向かって原料Mの温度勾配を緩和することにより、単結晶の製造の際の欠陥を無くすことが主な効果である。
【0086】
仮に、原料Mの溶融部分から下方に向かって原料Mの温度勾配が著しく大きい場合、溶融帯域Mlと固体部分Msとの間で温度差が過度に生じ、溶融帯域Mlに固相が析出する場合も考えられる。更にひどい場合だと、固体部分Msの原料Mに割れが生じるおそれもある。そのため、単に赤外線制御板51を設けるよりも、原料Mの露出面積を次第に減少させるように、赤外線制御板51に切り欠き53を設ける方が好ましい。また、切り欠き53が無い赤外線制御板51だと、原料Mに対して赤外線を遮蔽できても、今度は原料Mと赤外線制御板51との間に熱が籠りやすくなり、赤外線制御板51において原料M側の内壁と、それに対向する側の外壁との間に過度な温度差が生じるおそれがある。その結果、原料Mの固体部分Msのみならず、単結晶製造装置1の一部材である赤外線制御板51に破損が生じる可能性も否定できない。
【0087】
そこで、赤外線制御板51に切り欠き53を設けることにより、原料Mと赤外線制御板51との間の熱を逃がすことが可能となる。そうなると、赤外線制御板51の内壁と外壁の温度差を低減することが可能となる。もちろん、溶融帯域Mlと固体部分Msとの間の温度差も低減することが可能となる。
【0088】
更に言うと、赤外線制御板51に切り欠き53を設けることにより、上記の課題1および課題2の前提となった状況に対応することが可能となる。本発明の課題において、近年、単結晶製造装置1は、国内のみならず、研究機関を中心として、アジアを含む海外まで普及しつつあることを述べた。単結晶の製造の研究において、種結晶Sと接触した後の原料Mの溶融および単結晶成長の様子を目視またはカメラで観察することは極めて重要である。本実施形態ならば、赤外線制御板51に設けられた切り欠き53から、原料Mの溶融および単結晶成長の様子を観察することが容易に可能となる。
【0089】
その結果、赤外線制御板51に切り欠き53を設けることにより、固相の出現や原料Mの割れのみならず、単結晶製造装置1の一部材である赤外線遮蔽部5の破損の発生を抑制することが可能となる。しかも、原料Mの溶融および単結晶成長の様子を目視またはカメラで観察することも可能となる。
【0090】
なお、切り欠き53の幅(水平方向の長さ)は、本発明の効果を奏することができるのならば、任意の値でかまわない。ただ、原料Mと溶融帯域Mlとの間の位置関係ならびに形状を観察自在な幅(例えば2mm〜3mm)を開けておくとよい。
【0091】
また、切り欠き53の高さ(天地方向の長さ)も、本発明の効果を奏することができるのならば、任意の値でかまわない。ただ、あまりに切り欠き53の高さが少なすぎると、切り欠き53が存在しない場合と実質的に同様の温度勾配が生じてしまう。そのため、切り欠き53の高さは、1mm〜20mmであるのが好ましく、5mm〜10mmであるのがより好ましい。
【0092】
また、切り欠き53の数は、本発明の効果を奏することができるのならば、任意の数でかまわない。また、切り欠き53ではなく、後述の<4.変形例等>で示すような複数の空孔が形成された赤外線遮蔽部5を採用しても構わない。ただ、原料Mの温度勾配を原料M内で均等にするためには、赤外線制御板51の上端において平面視で等間隔に複数設けておくのが好ましい。
【0093】
また、赤外線制御板51の上端の外側(原料Mと対向する側を内側とすると、それに対向する側)に、テーパー54または丸みを形成しても良い。テーパー54または丸みが無い場合、回転楕円鏡42の下部からの加熱光は赤外線制御板51により遮蔽されてしまうが、テーパー54または丸みを形成することにより、回転楕円鏡42により反射された赤外線のロスを少なくでき、赤外線発生手段41から放射される赤外線を効率よく使用することができる。
【0094】
また、赤外線遮蔽部5は、原料把持部2に対して相対的に、天地方向へと移動可能な構成を有している。この構成を採用する理由としては、以下の通りである。
【0095】
原料把持部2に把持されたペレット状の原料Mは、加熱部4により溶融し、溶融帯域Mlを形成する。そして、原料把持部2と種結晶把持部3との間の距離が大きくなるように両者を移動させることにより、溶融帯域Mlから単結晶Mcが成長する。単結晶Mcが続々と成長していくため、原料Mの固体部分Msは徐々に減っていく。そうなると、原料Mの天地方向の高さは徐々に減少することになる。もし、赤外線遮蔽部5が原料把持部2に対して相対的に移動できないと、単結晶Mcの成長が進むと、原料Mが赤外線制御板51に完全に隠れてしまい、原料Mの溶融を行うことができなくなってしまう。そのため、赤外線遮蔽部5は、原料把持部2に対して相対的に移動可能な構成を有する。
【0096】
別の側面から見ると、この構成を有することにより、原料Mへの赤外線の照射量を調整することも可能になる。原料Mの種類や大きさなど、単結晶Mcの成長条件の違いにより、適切な溶融帯域Mlのサイズが変化する可能性もある。ところが、上記のように相対移動が可能な赤外線遮蔽部5を採用することにより、原料Mに対する赤外線の照射量を適宜調節でき、適切な溶融帯域Mlのサイズを実現することが可能となる。
【0097】
次に、原料把持部2と赤外線遮蔽部5との位置関係について、
図6を用いて説明する。
図6は、
図5のX−Y線における、赤外線遮蔽部5の概略断面図である。
【0098】
図6に示すように、ペレット状の原料Mと赤外線制御板51との間には、間隔[(D2−D1)/2]を設けておく。
この間隔が大きすぎると、遮蔽されるべき赤外線が当該間隔から入り込んでしまい、本来溶融されるはずのない固体部分Msの側面が加熱溶融されてしまう。そうなると、溶融帯域Mlの維持が困難となる。
一方、この間隔が小さすぎると、そもそも原料Mおよび赤外線制御板51の設置作業が困難になる。また、結晶成長時の溶融帯域Mlが赤外線制御板51と干渉することも考えられる。
以上を鑑みると、好ましい間隔[(D2−D1)/2]は、1mm〜20mm、好ましくは2mm〜16mm、より好ましくは2mm〜10mmである。但し、本発明がこれに限定されることはない。
【0099】
なお、本発明において、赤外線遮蔽部5は必ずしも必要というわけではない。赤外線遮蔽部5を設けない場合であっても、上方に種結晶把持部3を配置し、下方に原料把持部2を配置することによりもたらされる効果に遜色は無い。
【0100】
しかしながら、上方に種結晶把持部3を配置し、下方に原料把持部2を配置したことにより、従来の溶融帯域法での制限を解除することができている。折角、制限を解除したのだから、温度勾配を緩やかにする構成を採用するのが、極めて好ましい。つまり、本実施形態における赤外線遮蔽部5を単結晶製造装置1に設けるのが極めて好ましい。
なお、このことは、赤外線発生手段41を、溶融帯域Mlよりも天地方向の天の位置に配置することにも言える。
【0101】
もちろん、上記以外の構成であっても、単結晶製造装置1という用途に応じて適宜採用しても構わない。
【0102】
<2.単結晶製造方法>
次に、本実施形態における単結晶製造装置1の操作手順について、
図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態における単結晶製造方法の手順を示したフローチャートである。なお、以下の工程の内容は、<1.単結晶製造装置1>にて説明した内容と重複する部分もある。そのため、以下に記載が無い内容については、<1.単結晶製造装置1>にて説明した通りである。また、以下に記載が無い内容については、特許文献1〜3に記載の技術や公知の技術を適宜採用しても構わない。
【0103】
また、以下の工程においては、発明を理解しやすくするために、単結晶製造装置1の各部または各手段を具体化したものについて述べる。もちろん、本発明は各部または各手段を具体化したものに限定されることはない。
【0104】
2−A)準備工程
まず、単結晶製造装置1に必要な各構成を、<1.単結晶製造装置1>にて説明したように配置する。また、下方に設けられた原料把持部2にペレット状の原料Mを係合させ、上方に設けられた種結晶把持部3に棒状の種結晶Sを把持させる。つまり、原料Mと種結晶Sは互いに対向した配置となっている。そして、原料把持部2と種結晶把持部3とを近接させることにより、原料把持部2に把持された原料Mと種結晶把持部3に把持された種結晶Sとを近接させる。
【0105】
2−B)加熱工程
次に、本工程においては、赤外線発生手段41から発生させた赤外線を、原料Mに対して直接、および、回転楕円鏡42により反射した上で原料Mに照射する。そうして、直接光および回転楕円鏡42により集光された加熱光により、種結晶Sと対向する部分であってペレット状の原料Mの上端を溶融する。その溶融部分に、多少溶融した種結晶Sを接触させることで溶融帯域Mlが形成される。
【0106】
2−C)単結晶成長工程
本工程では、溶融帯域Mlから単結晶を成長させる。具体的に言うと、種結晶把持部3における上部シャフト32を上昇させる。こうすることにより、溶融帯域Mlが上方へとひっぱりあげられる。しかし、溶融帯域Mlの上方(成長部分Mc)は赤外線照射の焦点から徐々に外れて行き、成長部分Mcの温度は緩やかに下降する。
【0107】
一方、原料Mにおいては、溶融帯域Mlから次々と単結晶Mcが成長していくため、新たな溶融帯域Mlを形成する必要がある。そのため、ペレット状の原料Mにおいて溶融帯域Mlの下方にある固体部分Msを、赤外線の集光部分へと次々に移動させる必要がある。そのため、原料把持部2における下部シャフト22も上昇させる。しかし、この上昇スピードは、溶融帯域Mlから単結晶を次々と成長させていかなければならない関係上、種結晶把持部3の下部シャフト22よりも小さくする。こうして、下方の原料把持部2(すなわち原料Mの固体部分Ms)と種結晶把持部3(すなわち種結晶S)との距離は徐々に開いていく。本明細書ではこのことを「離間」と呼んでいる。
【0108】
なお、ペレット状の原料Mが上方へと移動する関係上、切り欠き53が形成された赤外線制御板51もそれとともに上方へと移動させる。但し、赤外線遮蔽部5の上昇スピードは、原料把持部2の下部シャフト22の上昇スピードと一致させる必要はない。溶融帯域Mlが過度に膨張せず、かつ、長くなり過ぎないように調整しながら、赤外線遮蔽部5の上昇スピードを調整すれば良い。
【0109】
これに伴い、<1.単結晶製造装置1>に関する内容であるが、種結晶把持部3、原料把持部2および赤外線遮蔽部5の上下移動およびそれらのスピードを制御部(不図示)により制御しても良い。なお、その際の制御は、単結晶製造装置1の操作者が、赤外線制御板51の切り欠き53から溶融帯域Mlの様子を観察しながら、操作部(不図示)で制御部に指示を送り、種結晶把持部3、原料把持部2および赤外線遮蔽部5の上下移動およびそれらのスピードを調整することにより行えば良い。
【0110】
以上の工程を行うことにより、溶融帯域Mlにおける成長部分Mcが冷却され、例えば直径1mm以上(好ましくは50mm以上)の大口径の単結晶が形成可能である。そして、所定の量の単結晶が形成されれば、適宜必要な作業を行いつつ、単結晶の製造を終了する。
【0111】
ところで、<1.単結晶製造装置1>において、好ましい例として、赤外線発生手段41は、溶融帯域Mlよりも上方に配置されている場合を述べた。その場合、成長部分Mcの温度勾配が緩やかになるため、良品質の単結晶が得られることについて述べた。この効果以外にも、赤外線遮蔽部5に関係して、以下の効果も奏する。これについて、
図8を用いて説明する。
図8は、本実施形態の単結晶製造方法における単結晶成長工程の様子を示す概略断面図であり、(a)は赤外線発生手段41を溶融帯域Mlの水平位置に配置した場合の概略断面図であり、(b)は赤外線発生手段41を溶融帯域Mlよりも上方に配置した場合の概略断面図である。
【0112】
仮に、
図8(a)のように回転楕円鏡42が水平に配置されていた場合を想定する。その場合、赤外線の多くは、赤外線制御板51により遮られてしまう。例え赤外線制御板51に切り欠き53が設けられていたとしても、赤外線の照射量の著しい減少は避けられない。これは、本発明者により見出された新たな課題である。
【0113】
その一方、
図8(b)に示すように、赤外線発生手段41は、溶融帯域Mlよりも上方に配置されている場合、赤外線は、赤外線制御板51によってはほとんど遮られない。そのため、赤外線の照射効率を著しく向上することが可能となる。
【0114】
上記の課題および効果は、本発明者が、赤外線遮蔽部5を設けた単結晶製造装置1を作製し、実際に運用してこそ発見されたものである。
【0115】
<3.実施の形態による効果>
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0116】
まず、従来だと、赤外線ランプを使用する溶融帯域法では「溶融帯域Mlからの垂れ」が生じるおそれがあることが課題となっていた。そして、この垂れを生じさせないようにするために、レーザー光によるスポット加熱を行っていた。
【0117】
しかしながら、本実施形態の手法を用いれば、天地方向の天の位置に種結晶Sを配置し、かつ、天地方向の地の位置に原料Mを配置し、溶融帯域Mlからの垂れが種結晶Sに延びるおそれを完全に無くすることができる。
【0118】
しかも、本実施形態の手法を用いれば、従来の溶融帯域法における制約を解除することが可能となる。一例を挙げると、溶融帯域Mlからの垂れが種結晶Sに延びるおそれを完全に無くすことができれば、溶融帯域Mlがある程度膨張したり長くなったりしても構わなくなる。その結果、固液界面の温度勾配を急峻にする必要がなくなる。その結果、上記の好ましい形態の採用が可能となる。一例としては、原料Mにおいて溶融帯域Mlと固体部分Msとの間の温度勾配を緩和することにより、溶融帯域法を用いつつも比較的簡易に良質な単結晶を製造できる。
いわば、本実施形態は、上記に挙げた様々な好適例を採用するための橋頭保である。
【0119】
また、本実施形態により、本発明の課題で述べた課題1および課題2に対応する効果を奏する。
(効果1)レーザー光源が不要となるため、単結晶製造装置1が廉価となる。更に、原料Mを製造困難な棒状ではなく、ペレット状とすることにより、単結晶の製造コストがより低廉になる。
(効果2)種結晶Sが上方に配置されるため、溶融帯域Mlを維持しつつ単結晶を成長させる際に、種結晶Sが台無しになることが無くなる。更に、好適例として赤外線遮蔽部5を設けることにより、原料Mの割れや装置の損傷を抑制でき、単結晶の製造の際に熟練度に依存する度合いを減らすことができる。また、赤外線発生手段41を溶融帯域Mlの上方に配置することにより、良品質な単結晶を比較的容易に製造することができる。
【0120】
その結果、近年、単結晶製造装置1が、国内のみならず、研究機関を中心として、アジアを含む海外まで普及しつつあるという状況において、上記の効果を奏することが可能となる。
【0121】
また、単結晶の物性研究や単結晶製品の試作などの少量生産のために単結晶製造装置1が必要とされるケースにも十分ニーズを満たすことが可能となる。その結果、単結晶の物性研究や単結晶新製品の開発の促進に本実施形態は寄与することが可能となる。
【0122】
仮に、海外の国の研究機関が、レーザー光を用いた単結晶製造装置1を購入したとしても、高度な熟練度の必要なく、下方にある種結晶Sを台無しにするというリスクを無くすことが可能となる。
【0123】
さらに、本実施形態により、本発明の課題で述べた課題3および課題4に対応する効果を奏する。
(効果3)赤外線による溶融帯域法だと、単結晶の成長において、結晶成長部分の温度勾配を緩やかにすることができ、良質の結晶育成が可能となる。
(効果4)赤外線による溶融帯域法だと、集光領域が大きくなり、原料ひいては成長後の単結晶の直径を大きくすることが可能となる。
つまり、近年の要望である、単結晶に求められる品質のレベルを向上させるという要望、および、精密機器に求められる単結晶のサイズを大きくするという要望を、本実施形態により満たすことが可能となる。
【0124】
以上の通り、本実施形態によれば、赤外線を用い、かつ、るつぼを用いないことにより、単結晶の製造コストを著しく低減するとともに、赤外線を用いて原料Mを溶融させても、溶融した原料Mが種結晶Sに垂れず、比較的良質な単結晶の製造が容易に可能となる。
【0125】
<4.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0126】
(赤外線制御板51における切り欠き53以外の形態)
上記の実施形態では、赤外線制御板51における上端に切り欠き53を複数形成する場合について述べた。この切り欠き53は、赤外線制御板51によって包囲している原料Mの固体部分Msの露出面積をある程度確保するためのものである。その一方、固体部分Msの露出面積をある程度確保するのならば、切り欠き53以外の加工を赤外線制御板51に行っていても構わない。
原料Mの溶融部分から天地方向の地の方向に向かって段階的に遮蔽していくことにより原料Mの温度勾配を緩和自在な赤外線制御板51の例を、以下に列挙する。
【0127】
まず、上記の実施形態では、赤外線制御板51においては、切り欠き53を設けている部分、切り欠き53を設けていない部分という2つの部分を有している。つまり、原料Mが完全に露出している部分と原料Mが赤外線制御板51により完全に包囲されている部分との間において温度勾配の緩和を行っているのは1段階である。
【0128】
その一方、別の例として、温度勾配の緩和を2段階またはそれ以上の段階で行うことも考えられる。
図9(a)に示すように、赤外線制御板51の上端に比較的大きな切り欠き53を設けつつ、その切り欠き53の下方に比較的小さな切り欠き53を設けても構わない。
また、
図9(b)に示すように、切り欠き53でなくとも空孔を設けても構わない。例を挙げると、赤外線制御板51の上方(1段目)においては水平方向のスリットを設けておき、その下方(2段目)においては当該スリットの数を減らすという加工を行っても構わない。また、
図9(c)に示すように、スリットではなく穴を設けても構わない。
また、空孔の大きさや数や形状については、温度勾配の緩和を行うことができるのならば、適宜変更しても構わない。
【0129】
更に言うと、温度勾配の緩和を段階的に行うのではなく、溶融帯域Mlから下方に向けて連続的に温度勾配の緩和を行っても構わない。例えば
図9(d)に示すように、赤外線制御板51の上端に切り欠き53を設ける場合、上方から下方に向けて切り欠き53の幅を連続的に小さくする加工を行っても構わない。また、
図9(e)に示すように、切り欠き53を設けない場合、上方から下方に向けて穴の数を減少させていっても構わない。もちろん、穴の大きさを徐々に小さくしていっても構わない。この場合であっても、切り欠き53または空孔の大きさや数や形状については、温度勾配の緩和を行うことができるのならば、適宜変更しても構わない。
【0130】
また、赤外線制御板51の上端を、赤外線遮蔽能力が比較的低い部材とする一方、それ以外の部分には赤外線遮蔽能力が比較的高い部材を用いて、赤外線制御板51を構成しても構わない。こうすることにより、原料Mにおいて、上方から下方に向けて、赤外線に対して完全に露出する部分→赤外線制御板51により包囲されているが赤外線遮蔽能力が低いためにある程度温度が高い部分→赤外線遮蔽能力が高い赤外線制御板51により包囲されているため温度が低い部分、というように、緩やかな温度勾配を実現することが可能となる。
【0131】
以上の変形例の各々を上記の実施形態に適用しても構わないし、各々を適宜組み合わせたものを上記の実施形態に適用しても構わない。
【0132】
(赤外線の照射に囚われない場合の赤外線遮蔽部5の扱い)
本発明においては、赤外線発生手段41を用いることを前提としている。その一方、上記の実施形態で述べた赤外線遮蔽部5の機能、すなわち、「原料Mの溶融部分から天地方向の地の方向に向かって原料Mの温度勾配を緩和」という機能自体が、従来とは真逆の技術的思想である。そのため、この機能に着目するのならば、特許文献2および3に記載のようにレーザー光を用いた場合の単結晶成長装置とは全く異なるし、特許文献2および3の記載からでは想到困難な機能である。
そのため、この機能に着目することにより本発明者により想到された構成は、以下の通りである。
「原料把持部2と種結晶把持部3とを互いに天地方向に配置させた上で両者を近接させることにより、前記原料把持部2に把持された原料Mと前記種結晶把持部3に把持された種結晶Sとを近接させ、加熱部4により原料Mを加熱して溶融させた部分と種結晶Sとを接触させて溶融帯域Mlを形成し、当該溶融帯域Mlを冷却することにより単結晶を製造する単結晶製造装置1において、
前記加熱部4は、レーザー光発生手段を有し、
天地方向の天の位置に種結晶把持部3が配置されており、かつ、天地方向の地の位置に原料把持部2が配置されており、
前記原料把持部2にて把持される原料Mにおける少なくとも一部を水平方向に包囲自在であり、かつ、前記レーザー光発生手段から発生して原料Mに照射されるレーザー光を、原料Mの溶融部分から天地方向の地の方向に向かって段階的に遮蔽していくことにより原料Mの温度勾配を緩和自在な温度勾配緩和部を有する、単結晶製造装置1。」
【0133】
なお、本明細書においては「赤外線遮蔽部5」のことを「温度勾配緩和部」と称しても構わない。同様に、「赤外線制御板51」のことを「照射量制御板」と称しても構わない。また、上記の内容に関する課題としては、本発明の課題で述べた課題2は変わらず存在する。効果としては、上記の1−E)赤外線遮蔽部5および2−C)単結晶成長工程で述べた効果を奏する。